2020年5月18日掲載
ワンポイント:単純なアカハラではなく、トランスジェンダー、宗教、人権、憲法が絡む裁判ありの事件。メリウェザー教授はシォウニー州立大学(Shawnee State University)で教鞭とって22年後の2018年1月(58歳?)、アカハラ行為(トランスジェンダーで女性になった学生を、男性的な肩書き「Mr.」で呼び続けた)を繰り返した。2018年11月(58歳?)、シォウニー州立大学はメリウェザー教授にアカハラ行為があったと結論し、警告という懲戒処分にした。メリウェザー教授は反発し、大学を裁判所に訴えた。2019年9月(59歳?)、裁判所は訴えを却下したが、メリウェザー教授は控訴し、現在も裁判中。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
【追記】
・2022年4月27日時事:教授の勝訴で約4千万:生徒が望む「ジェンダー代名詞」の使用を拒んだら懲戒処分に… 教授の訴えに注目が集まる | 焦点は「言論と信仰の自由」? | クーリエ・ジャポン
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ニコラス・メリウェザー(Nicholas Meriwether、写真出典)は、米国のシォウニー州立大学(Shawnee State University)・教授で専門は哲学である。
メリウェザー教授は教鞭とって22年後の2018年1月(58歳?)、アカハラ行為(トランスジェンダーで女性になった学生を、男性的な肩書き「Mr.」で呼び続けた)を繰り返した。
メリウェザー教授はトランスジェンダーで女性になった学生から脅され、大学に通報した。
2018年4月(58歳?)、シォウニー州立大学は、正式な調査を開始した。
2018年6月(58歳?)、シォウニー州立大学はメリウェザー教授にアカハラ行為があったと結論し、警告の懲戒処分を科した。
2018年11月(58歳?)、メリウェザー教授は反発し、大学を裁判所に訴えた。
2019年9月(59歳?)、裁判所は訴えを却下したが、メリウェザー教授は控訴した。
2020年2月14日(60歳?)、連邦裁判所は、メリウェザー教授の訴えを却下した。
2020年3月12日(60歳?)、メリウェザー教授は、再々度、控訴した。
2020年5月17日(60歳?)現在、控訴裁判中。
シォウニー州立大学(Shawnee State University)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:
- 研究博士号(PhD)取得:
- 男女:男性
- 生年月日:仮に1960年1月1日生まれとする。写真の見た目
- 現在の年齢:64 歳?
- 分野:哲学
- アカハラ行為:2018年(58歳?)の?年間
- 最初に訴えられた:2018年(58歳?)
- 社会に公表年:2019年(59歳?)
- 社会に公表時地位:シォウニー州立大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は被害者のトランスジェンダーで女性になった学生で大学に公益通報
- ステップ2(メディア):「Tribune」など多数のメディア
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①シォウニー州立大学・調査委員会。②裁判所
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学・処分のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
- 不正:アカハラ
- 被害者数:被害者数は1人
- 時期:研究キャリアの後期
- 職:事件後に発覚時の地位を続けた(〇)
- 処分:警告の懲戒処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
ほとんど不明
- 生年月日:仮に1960年1月1日生まれとする。写真の見た目
- xxxx年(xx歳):xx大学で学士号取得
- xxxx年(xx歳):xx大学で研究博士号(PhD)を取得
- 1996年(36歳?):米国のシォウニー州立大学・助教授、後に準教授、正教授
- 2018年1月(58歳?):シォウニー州立大学がアカハラ調査開始
- 2018年6月(58歳?):シォウニー州立大学が警告の懲戒処分
- 2018年11月(58歳?):シォウニー州立大学が不当だと裁判
●3.【動画】
【動画1】
ニュース動画:「教授がトランスジェンダーの非難を訴える(Professor sues over transgender rebuke)- YouTube」(英語)1分38秒。
KOAA 5が2018/11/14に公開
【動画2】
ニュース動画:「トランスジェンダーの代名詞方針をめぐり教授が大学を訴えた| Fox Newsインタビュー(Professor Sues College Over Transgender Pronoun Policy | Fox News Interview)- YouTube」(英語)4分18秒。
Alliance Defending Freedomが2019/09/10に公開
●5.【アカハラ発覚の経緯と内容】
★アカハラ
1996年(36歳?)、ニコラス・メリウェザー(Nicholas Meriwether、写真出典)はシォウニー州立大学(Shawnee State University)の哲学の助教授に就任した。事件を起こした時は、正教授になっていた。
メリウェザー教授は福音主義派のキリスト教徒である。福音主義派では、出生時の性器の外観に基づいて性別は固定され、取消不能であるとされている。
2018年1月(58歳?)、メリウェザー教授は、政治哲学の授業中に、当該学生からの質問のやり取りで、その学生に「Yes, sir.」と答えた。
授業の後、学生はメリウェザー教授に近づき、自分はトランスジェンダーで女性になったと述べ、男性的な肩書き「Mr.」や「sir」ではなく、女性的な「Ms.」や「ma’am」、そして、「she」を使うよう、教授に要求した。
メリウェザー教授は即座に同意しなかった。それで、当該学生は好戦的となり、学生が、メリウェザー教授を大学に訴えてクビにしてやると脅した。
こうやって、2人の間に戦争が勃発したのだ。
メリウェザー教授は学生の所属する学部長に事件を報告した。
妥協案として、学生が要求した任意の名前の使用をメリウェザー教授は大学に提案したが、大学は、通常そのような呼び方をしないので、教育環境を損なうとことになると、その妥協案を拒否した。代わりにキリスト教の信念と哲学的信念に反するかもしれないが、トランスジェンダーで女性になった学生を「女性」扱いで呼び、行動するようメリウェザー教授に強制した。
実は、2016年、シォウニー州立大学は学生の性別を記述しないという規則を制定していた。
メリウェザー教授は、その規則に疑問を抱いていた。ところが、さらに、シォウニー州立大学から、規則化していないが、「性同一性」を含めた差別禁止の方針があると伝えられた。
つまり、本事件でのアカハラ行為は、トランスジェンダーの学生の正しい肩書きと代名詞の使用を拒否したことだ。
2018年4月(58歳?)、学生が大学に正式に苦情を申し立てたので、シォウニー州立大学は、正式な調査を開始した。
そして、メリウェザー教授がトランスジェンダーで女性になった学生を男性として扱い続けていたため、学習環境は悪く、メリウェザー教授が敵対的な環境を作っていたと結論した。
2018年6月(58歳?)、シォウニー州立大学は、メリウェザー教授が大学の差別禁止規則に違反しているという警告を非公式に発し、また、書面による警告という懲戒処分もした。シォウニー州立大学は、メリウェザー教授にトランスジェンダーの人への態度を変え、問題を回避するように求めた。
★信仰の自由侵害
2018年11月(58歳?)、シォウニー州立大学がメリウェザー教授のアカハラ行為を懲戒処分したのを受け、メリウェザー教授は保守派の反LGBTQグループである自由防衛同盟(Alliance Defending Freedom – Wikipedia)の助力を得て、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所にシォウニー州立大学を被告とした訴訟を起こした。
訴訟のポイントは以下のようだ。
大学は、メリウェザー教授自身の正統的信念と異なる考えを強要し、メリウェザー教授を沈黙させようと処罰した。大学はメリウェザー教授が自分の見解を表明し続ける場合、再び処罰すると脅迫した。
福音主義のクリスチャンであるメリウェザー教授は、彼の宗教的信念により、男性的な肩書きと代名詞を使用する必要がある。「生物学的な男性の学生」を男性として扱うのは、宗教的信念であって、公正であり、差別ではない。言論の自由、信仰の自由が侵害されたと主張し、表現の自由、報道の自由、宗教の自由を保障するアメリカ合衆国憲法修正第1条に違反すると訴えた。
一方、2人の弁護士(アダム・ウニコフスキー(Adam Unikowsky)とジェニファー・ブランチ(Jennifer Branch)は、National Center for Lesbian Rightsと協力して、トランスジェンダーで女性になった学生とシォウニー州立大学・LGBTQ学生グループ・性とジェンダー受容(Sexuality and Gender Acceptance:SAGA)に代わって訴訟の却下を求めた。
2019年9月5日(59歳?)、オハイオ州治安判事のカレン・リトコヴィッツ裁判官(Karen Litkovitz、写真出典)は、メリウェザー教授のような専門職では、職務中の言論の自由は制限されること、アメリカ合衆国憲法修正第1条は懲戒処分を排除していない、という理由で訴訟を却下した。
→ 2020年2月13日の「ジョン・ライリー(John Riley)」記者の「Metro Weekly」記事:Federal court dismisses lawsuit from evanglical professor disciplined for misgendering trans student – Metro Weekly
以下の法廷文書(63頁の冒頭部分) → 全文:http://www.nclrights.org/wp-content/uploads/2020/02/2019.09.05.-Dkt-49.-RR-on-Defs-MTD.pdf
メリウェザー教授は、訴訟の却下に不満で、直ぐに控訴した。
2020年2月14日(60歳?)、しかし、連邦裁判所のスーザン・ドロット(Susan J. Dlott – Wikipedia、写真出典同)は昨年のカレン・リトコヴィッツ裁判官の判決に同意し、メリウェザー教授の訴えを却下した。
シォウニー州立大学は、差別をなくして教育にアクセスする学生の権利を擁護するという意欲を明確に示している。たとえその差別が宗教的な敬虔さを装って隠されていたとしてもです、と述べている。
★控訴
2020年3月12日(60歳?)、メリウェザー教授が自分の信念に反する発言をシォウニー州立大学に強制された。裁判官は法律を誤って解釈し、誤って適用したのだと、再々度、控訴した。
→ Professor appeals decision that lets Shawnee State force him to speak contrary to his beliefs
2020年5月17日(60歳?)現在、この控訴裁判は結審していない。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
省略。
●7.【白楽の感想】
《1》留意点
このアカハラ事件は、被害者がトランスジェンダーの学生という点と、加害者の教授が宗教的信念に基づいた発言という点で、日本では、まず起こらないと思われるアカハラ事件である。
逆に言うと、だからこそ、日本の研究者は国内で留学生や海外からの研究者・教員に接する時、また、海外で教育研究活動をする時、このような点にも十分に配慮して発言する必要がある。その点で、重要である。
《2》信念
ニコラス・メリウェザー教授(Nicholas Meriwether)のアカハラは、愉快だからイジメたというレベルとは次元が異なる。
2018年12月、しかし、高校教師が似たようなケースで解雇された。
バージニア州のウェストポイント高校(West Point High School)のフランス語の教員であるピーター・バミング(Peter Vlaming)は、トランスジェンダーの男性生徒を男性代名詞で呼ぶことを拒否し、学校に不服従という理由で解雇された。 → 2018年12月記事:Virginia teacher fired for refusing to call transgender student by male pronouns – Metro Weekly
《3》現場の混乱
トランスジェンダーの学生をどう扱うか?
現場は混乱するだろう。
米国と日本の文化風習が異なる。
例えば、日本で、学生を連れて数日間合宿した時、夜になって、学生どうしが入浴する時、トランスジェンダーの学生をどう扱うのだろう?
「私は精神的には女性なので女風呂に入ります」、と言われても、外見(二次性徴)が男性なら、他の女性学生は一緒に風呂に入るのを躊躇、イヤ、躊躇レベルではなく、拒否するだろう。
教員が、それは性差別になると非難し、無理やり、「一緒に入れ!」と言えるか?
白楽は無理です。
基本的人権や憲法とは別に、女性と称する学生の外見が、どう見ても男性だったのか、ほとんど女性だったのか、人間の感覚としては重要だと思う。しかし、メリウェザー事件では、トランスジェンダーの女性の写真が示されていない。
いや、実は、顔写真はある。名前もわかっている。個々のケースとして扱わないで一般論として扱って欲しいので、顔写真と名前は伏せた。それに、顔写真では二次性徴はわからない。声質も仕草もわからない。名前を書いても、女性らしい名前なのかいかにも男性という名前なのか、英語の姓名ではわからない。
米国のニュースメディアも、最初のころを除いて、多くは、顔写真と名前を載せていない。それで、本記事も本質的議論がズレる恐れがあるので、顔写真と名前を掲載するのを止めた。
《4》米日トイレ騒動
2016年、米国の小売店大手のターゲット(Target)は、自分の性と思うトイレを使えるように方針を変えた。 → 2016年4月21日記事:Target gender bathroom policy – Business Insider
2018年、すると、馬鹿な男が女性トイレで女の子に露出行為をした。そして、一部の消費者たちはターゲットの商品をボイコットするそうだ。
2018年4月7日記事:Target faces boycott after man exposes himself in women’s bathroom – Business Insider
一方、日本はどうか?
2019年12月12日の日本経済新聞:性同一性障害職員、利用トイレ制限は違法 東京地裁
戸籍上は男性だが女性として勤務する性同一性障害の経済産業省の50代の職員が、女性用トイレの使用を制限されたのは違法だとして、処遇改善や損害賠償を国に求めた訴訟の判決が12日、東京地裁であった。江原健志裁判長は女性用トイレの自由な使用を認めなかった人事院の判定を取り消し、国に132万円の賠償を命じた。(出典:性同一性障害職員、利用トイレ制限は違法 東京地裁 :日本経済新聞)
トイレで大事件になったけど、白楽は、トイレで騒ぐことはないと思う。両性が使えるトイレも増えている。しかし、公衆浴場や宿泊施設の大浴場はなあ。混浴の風習は特殊だし。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●8.【主要情報源】
① 2018年11月5日のアレックス・スワイヤー(Alex Swoyer)記者の「Washington Times」記事:Professor sues Shawnee State University university over transgender pronoun policy – Washington Times
② 2019年1月10日のマーク・シェファー(Mark Shaffer)記者の「Tribune」記事:SSU wants professor’s lawsuit dismissed – The Tribune | The Tribune
③ 2019年2月13日のサラ・クレイマー(Sarah Kramer)記者の「Alliance Defending Freedom」記事:Read What Two Former Students Wrote to a Professor Punished for Refusing to Call a Man a Woman
④ 2020年2月13日の「ジョン・ライリー(John Riley)」記者の「Metro Weekly」記事:Federal court dismisses lawsuit from evanglical professor disciplined for misgendering trans student – Metro Weekly
⑤ 2020年2月14日のヴァル・ワイルド(Val Wilde)記者の「Patheos」記事:Federal Court: Religion Doesn’t Give Professor the Right to Misgender Students | Val Wilde | Friendly Atheist | Patheos
⑥ 2020年2月18日のアレックス・ボリンジャー(Alex Bollinger)記者の「LGBTQ Nation」記事:Professor who said he had a “free speech” right to misgender trans students loses court case / LGBTQ Nation
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