化学:テオ・クロプロージ(Theo Kloprogge)(フィリピン)

2022年4月24日掲載 

ワンポイント:2020年(55歳?)、フィリピン大学ビサヤ校(University of the Philippines Visayas)のクロプロージ非常勤教授は、3人の共著で『周期表:自然の構成単位(The Periodic Table: Nature’s Building Blocks)』をエルゼビア社から出版した(日本語書名は白楽の訳)。915頁もある大著だった。トーマス・ラウクファス教授(Thomas Rauchfuss)から盗用と指摘され、2021年、エルゼビア社は著書全部を撤回した。フィリピン大学ビサヤ校は調査していない。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

【追記】
・2022年6月16日記事:An Elsevier book plagiarizes an abstract published by…Elsevier – Retraction Watch

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

テオ・クロプロージ(Theo Kloprogge、写真出典)は、オランダで博士号を取得し、2017年1月(52歳?)にフィリピン大学ビサヤ校(University of the Philippines Visayas)・非常勤教授になった。その前、オーストラリアのクイーンズランド工科大学(Queensland University of Technology)で13年間、講師を勤め、現在、同大学・名誉上級研究員でもある。専門は無機化学である。

2020年(55歳?)、クロプロージら3人はエルゼビア社から『周期表:自然の構成単位(The Periodic Table: Nature’s Building Blocks)』(表紙出典)を出版した(日本語書名は白楽の訳)。915頁もある大著だった。

クロプロージが第一著なので、クロプロージをネカト者として話しを進める。

可能性としては、第二著者で、フィリピン大学ビサヤ校・化学科・助教授のコンセプシオン・ポンス(Concepcion P. Ponce)が単独ネカト犯かもしれないが、915頁のほぼ大半が盗用なので、クロプロージとポンス2人の共犯の可能性が高い。

2020年12月26日(55歳?)、米国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois at Urbana-Champaign)・教授で、ウィキペディアの編集もしているトーマス・ラウクファス(Thomas Rauchfuss)は、最初は知人からの情報だったが、自分でも調べ、クロプロージの盗用を追求した。

2021年5月1日、エルゼビア社はラウクファス教授の通報を受け、『周期表:自然の構成単位(The Periodic Table: Nature’s Building Blocks)』の全部を撤回した。

フィリピン大学ビサヤ校はネカト調査をしていない。クロプロージ非常勤教授とポンス助教授に処分を科していない。

フィリピン大学ビサヤ校(University of the Philippines Visayas)。写真出典

  • 国:フィリピン
  • 成長国:オランダ
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:オランダのユトレヒト大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。1983年にユトレヒト大学に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:57 歳?
  • 分野:無機化学
  • 不正論文発表:2020年(55歳?)
  • 発覚年:2021年(56歳?)
  • 発覚時地位:フィリピン大学ビサヤ校・非常勤教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は米国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois at Urbana-Champaign)・教授で、ウィキペディアの編集もしているトーマス・ラウクファス(Thomas Rauchfuss)
  • ステップ2(メディア):「Chemistry World」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①エルゼビア社・編集部。②フィリピン大学ビサヤ校は調査していない(推定)
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない(推定)
  • 大学の透明性:調査していない、発表なし(✖)
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:書籍1冊
  • 盗用ページ率:かなり多い
  • 盗用文字率:かなり多い
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

(14) Theo Kloprogge | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。1983年にユトレヒト大学に入学した時を18歳とした
  • 1983~1992年(18~27歳?):オランダのユトレヒト大学(Universiteit Utrecht)で研究博士号(PhD)を取得:地質学/化学
  • 1997年11月~2010年8月(32~45歳?):オーストラリアのクイーンズランド工科大学(Queensland University of Technology)・講師
  • 2014年2月(49歳?)~現:同・名誉上級研究員
  • 2017年1月(52歳?)~現:フィリピン大学ビサヤ校(University of the Philippines Visayas)・非常勤教授
  • 2020年(55歳?):後で問題視される本『周期表:自然の構成単位(The Periodic Table: Nature’s Building Blocks)』を出版
  • 2021年(56歳?):上記の本のネカトが発覚。撤回

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★テオ・クロプロージ(Theo Kloprogge)

テオ・クロプロージ(Theo Kloprogge、写真出典)は、オランダのユトレヒト大学(Universiteit Utrecht)で研究博士号(PhD)を取得した。

その後の経過はわからないが、クイーンズランド工科大学(Queensland University of Technology)で13年間、講師を勤め、フィリピン大学ビサヤ校(University of the Philippines Visayas)・非常勤教授になった。現在、クイーンズランド工科大学・名誉上級研究員でもある。

★書籍出版

2020年、エルゼビア社が以下の書籍を出版した。 → The Periodic Table: Nature’s Building Blocks | ScienceDirect。915頁もある大著だった。

『The Periodic Table: Nature’s Building Blocks』(表紙出典上記)を日本語に訳すと、『周期表:自然の構成単位』となる。以後、本記事ではこのタイトルも使う。

著者は第一著者のテオ・クロプロージ(Theo Kloprogge)の他にコンセプシオン・ポンス(Concepcion P. Ponce)とトム・ルーミス(Tom A. Loomis)である。

著者の所属を英語のママを含めて書くと以下のようだ。

  1. テオ・クロプロージ(Theo Kloprogge)は、前述したようにオーストラリアとフィリピンの2か国・2大学に所属している:「School of Earth and Environmental Sciences, University of Queensland, St Lucia, QLD, Australia
    Department of Chemistry, College of Arts and Sciences, University of the Philippines Visayas, Miagao, Philippines」
  2. コンセプシオン・ポンス(Concepcion P. Ponce、写真出典)は、フィリピン大学ビサヤ校・化学科の助教授:「Department of Chemistry, College of Arts and Sciences, University of the Philippines Visayas, Miagao, Philippines」
  3. トム・ルーミス(Tom A. Loomis)は、米国:「Dakota Matrix, Rapid City, SD, United States」

★発覚の経緯

トーマス・ラウクファス(Thomas Rauchfuss、写真出典)は、米国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois at Urbana-Champaign)・教授で、専門は無機化学である。ウィキペディアの編集もしている。

2020年12月26日、ラウクファス教授は、ウィキペディアの編集者間メッセージで、フィンランド語版ウィキペディアの編集者から以下のようなメッセージを受け取った。

「ウィキペディアのモリブデン塩化物に関する記事を読んでから、この本『周期表:自然の構成単位』を読みました。文章になんとなく馴染みがあるように感じ、調べると、少なくとも塩化モリブデン(ii)と塩化モリブデン(iii)の文章は、ウィキペディアからの逐語盗用、あるいはわずかに変えた盗用のいずれかです」。

フィンランド語版ウィキペディアの編集者は、ラウクファス教授に盗用文章と被盗用文章のページを添付した。そして、書籍『周期表:自然の構成単位』を出版したエルゼビア社に連絡する必要があるかどうかラウクファス教授に尋ねた。

ラウクファス教授は、本をすばやくチェックし、ウィキペディアからの文章が引用なしに多量に使われていたことを確認した。かなり深刻な盗用である、ことに同意した。

ラウクファス教授は、直ぐに、第一著者のテオ・クロプロージ(Theo Kloprogge)に盗用箇所を指摘した。ところが、驚いたことに、クロプロージは盗用検出ソフト「Ithenticate」でチェックしたが、盗用はないと返事してきた。

返事に納得できないラウクファス教授は、第二著者であるフィリピン大学ビサヤ校・化学科のコンセプシオン・ポンス助教授(Concepcion P. Ponce)に連絡した。ところが、ポンス助教授からもまともな返事が得られなかった。

第三著者の米国のトム・ルーミス(Tom A. Loomis)にも問い合わせた。ルーミスは、盗用の状況については何も知らず、本の写真を提供しただけだと述べた。

ラウクファス教授は、「著者たちに盗用部分を指摘する文書を送信したが、彼らはそれをすべて無視した」と憤慨した。

2021年、ラウクファス教授は、エルゼビア社に書籍『周期表:自然の構成単位』はウィキペディアからかなりの部分を盗用していると通報した。すると、エルゼビア社はすぐに「問題がありました」と応答し、すぐに本を撤回した。

ラウクファス教授は、エルゼビア社の素早い対応に感銘を受けた一方、出版する前に実質的な盗用チェックをしなかったエルゼビア社に驚いた。

盗用検出ソフトがあるのに、「驚くべきことは、エルゼビア社は明らかに盗用をチェックしなかったのです」と批判している。マー、批判は当然でしょう。なんのための盗用検出ソフトなんですかね。

【盗用の具体例】

★全7章が撤回

『周期表:自然の構成単位(The Periodic Table: Nature’s Building Blocks)』は7章構成で検索を含めると915頁の大著である。

検索を含めその全7章が撤回されている(右図、出典)(黄色は白楽)。本ブログの図表をクリックすると図表は2段階で大きくなる(多分)。

★具体例を1つ

盗用比較図は作成されていない。

『周期表:自然の構成単位(The Periodic Table: Nature’s Building Blocks)』の内容は「Google Books」で一部、閲覧できる。 → The Periodic Table: Nature’s Building Blocks – Google Books

そこから盗用文を以下に示す。

ウィキペディアの被盗用文を以下に示す。白楽が同じ単語を黄色に着色した。ほとんどが逐語盗用だが、言い換え盗用を含めると、上記部分の盗用率はほぼ100%である:History of the periodic table – Wikipedia

The history of the periodic table is also a history of the discovery of the chemical elements. The first person in history to discover a new element was Hennig Brand, a bankrupt German merchant. Brand tried to discover the philosopher’s stone—a mythical object that was supposed to turn inexpensive base metals into gold. In 1669 (or later), his experiments with distilled human urine resulted in the production of a glowing white substance, which he called “cold fire” (kaltes Feuer).[4] He kept his discovery secret until 1680, when Irish chemist Robert Boyle rediscovered phosphorus and published his findings. The discovery of phosphorus helped to raise the question of what it meant for a substance to be an element.

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年4月23日現在、パブメド(PubMed)で、テオ・クロプロージ(Theo Kloprogge)の論文を「Theo Kloprogge[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2001~2021年の21年間の32論文がヒットした。

2022年4月23日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2022年4月23日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでテオ・クロプロージ(Theo Kloprogge)を「Theo Kloprogge」で検索すると、本記事で問題にした『周期表:自然の構成単位(The Periodic Table: Nature’s Building Blocks)』の全7章と索引など15の部分が2021年5月1日に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2022年4月23日現在、「パブピア(PubPeer)」では、テオ・クロプロージ(Theo Kloprogge)の論文のコメントを「Karin Dahlman-Wright」で検索すると、本記事で問題にした『周期表:自然の構成単位(The Periodic Table: Nature’s Building Blocks)』の7つにコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》本の盗用 

エルゼビア社が2020年に出版した『周期表:自然の構成単位(The Periodic Table: Nature’s Building Blocks)』は915頁の大著である。

この本がほぼまるまる盗用という前代未聞の盗用、イヤイヤ、この手の盗用はソコソコあるけど、名門・エルゼビア社として大失態でしょう。

著者は原稿料を既にもらっていたのか? エルゼビア社は著者に損害賠償を請求? エルゼビア社の担当編集者は解雇? など、その後の顛末はワカリマセン。

《2》盗用

『周期表:自然の構成単位(The Periodic Table: Nature’s Building Blocks)』の915頁のほとんど大半が盗用ということなので、盗用者はテオ・クロプロージ(Theo Kloprogge)とコンセプシオン・ポンス(Concepcion P. Ponce)の共犯だと思うが、フィリピン大学ビサヤ校は調査した様子がない。

ネカトの法則:「強い衝撃がなければ、研究者はネカトを止めない」

2人の他の著書や論文に盗用があると思うが、だれか調査しないのだろうか?

《3》この盗用は悪い?

「盗用は悪い」説で、ここまで、書いてきたけど、実は、この事件に、白楽は本質的な問題を感じている。

『周期表:自然の構成単位(The Periodic Table: Nature’s Building Blocks)』のような化学物質の性質や発見の歴史は、単なる事実の集積である。

どんな解説もウェキペディアの内容と同じになる。内容が同じなら表現も同じになる。

科学研究の文章は文学ではないので、表現の創造性や個性を重視すべきではなく、重視すべきは内容である。今回のような辞書的な解説文なら、そもそもオリジナルな研究成果はないので、内容はすべて過去の科学的文章をベースにしている。

科学的な解説・論文に小説などの芸術作品の盗用基準を適用すべきではない、と白楽は思う。学術界・出版界・法曹界は現在のルールを見直すべきだ。

現行では、誰も得しない。科学知識の普及の妨げになるばかりだ。

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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア・ドイツ語版:Thomas B. Rauchfuss – Wikipedia
② 2021年5月28日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Elsevier retracts entire book that plagiarized heavily from Wikipedia – Retraction Watch
③ 2021年6月8日のレベッカ・トレーガー(Rebecca Trager)記者の「Chemistry World」記事:Apparent plagiarism leads Elsevier to retract periodic table book | News | Chemistry World
④ 2021年6月29日のT.D・アドラー(T.D. Adler)記者の「Breitbart」記事:Publisher Retracts Chemistry Textbook over Allegations of Extensive Wikipedia Plagiarism
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