ウェルナー・ベズウォーダ (Werner Bezwoda)(南アフリカ共和国) 改訂

2020年3月7日掲載   

ワンポイント:ウィットウォーターズラント大学(University of Witwatersrand)・教授で医師のベズウォーダは、乳癌患者への治療法の臨床試験でデータねつ造し、「1995年のJ Clin Oncol」論文に発表した。2000年3月(58歳?)、米国・ジョージタウン大学のレイモンド・ワイス教授の現場監査チームがデータねつ造を見つけ、「ランセット」誌にネカトだと発表した。ベズウォーダは解雇。被害患者数は数千人だが、身体的被害の程度は不明。経済的被害の程度も不明。国民の損害額(推定)は20億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

141106 34f1_C4TT[1].j-1pgウェルナー・ベズウォーダ (Werner Bezwoda)は、南アフリカ共和国・ヨハネスブルグのウィットウォーターズラント大学(University of Witwatersrand)・教授のがん学者・医師で、乳癌の化学療法で著名だった。写真(ピンボケでスミマセン)出典 。

1995年(53歳?)、ベズウォーダは、乳癌患者への高用量化学療法+骨髄移植法(抗癌剤の量を増やすことで癌細胞をより強力に殺す。一方、抗癌剤の副作用で白血球が減るのを患者の骨髄を移植することで補う)の臨床試験が良い結果をもたらしているという「1995年のJ Clin Oncol」論文を発表した。結果があまりにも良すぎたので、疑念が持たれた。

2000年3月(58歳?)、米国・ジョージタウン大学のレイモンド・ワイス教授(Raymond B Weiss)の現場監査チームが南アフリカ共和国に飛び調査した。その結果、ベズウォーダの論文に重大なデータねつ造が見つかり、「ランセット」誌にネカトだと発表した。

2000年3月(58歳?)、ウィットウォーターズラント大学はベズウォーダを解雇した。解雇は、2000年ではなく、1999年という報道もある。

2001年6月(59歳?)、ベズウォーダの「1995年のJ Clin Oncol」論文は撤回された。

なお、ウィットウォーターズラント大学(University of Witwatersrand、通称はウィッツ大学:Wits University)は、ノーベル賞受賞者を4人も輩出している南アフリカ共和国(以下、南アと略す)の名門大学である。

141106ウィットウォーターズラント大学(University of Witwatersrand、通称はウィッツ大学:Wits University)。写真出典

  • 国:南アフリカ共和国
  • 成長国:南アフリカ共和国
  • 医師免許(MD)取得:ウィットウォーターズラント大学
  • 研究博士号(PhD)取得:ウィットウォーターズラント大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1942年1月1日生まれとする。1960年に大学に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:79 歳?
  • 分野:がん学
  • 最初の不正論文発表:1995年(53歳?)
  • 発覚年:1999年(57歳?)
  • 発覚時地位:ウィットウォーターズラント大学・教授
  • ステップ1(発覚):学会で疑念が持たれ、米国・ジョージタウン大学のレイモンド・ワイス教授(Raymond B Weiss)の現場監査チームが南アフリカ共和国飛び調査した。その結果、ベズウォーダの論文に重大なデータねつ造を見つけ、2000年の「ランセット」誌に発表した
  • ステップ2(メディア): 「ランセット」誌
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①米国・ジョージタウン大学のレイモンド・ワイス教授(Raymond B Weiss)の現場監査チームの調査。②ウィットウォーターズラント大学
  • 不正:ねつ造
  • 不正論文数:1報撤回。他に8報の不審論文あり
  • 職:事件後に発覚時の地位を続けられなかった(Ⅹ)、
  • 大学の透明性:大学以外が詳細をウェブ公表(⦿)
  • 被害患者数:数千人。経済的・身体的被害の程度は不明
  • 時期:研究キャリアの初期から?
  • 結末:解雇
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】 国民の損害額:総額(推定)は20億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

 出典:werner bezwoda | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1942年1月1日生まれとする。1960年に大学に入学した時を18歳とした
  • 1960 – 1966年(18  – 24歳?):南アのウィットウォーターズラント大学(University of Witwatersrand)医学部・卒業。医師免許、研究博士号(PhD)取得
  • 1972年(30歳?):最初の論文発表
  • 1992年(50歳?):ウィットウォーターズラント大学・教授
  • 1995年(53歳?):問題の「1995年のJ Clin Oncol」論文出版
  • 1999年(57歳?):ネカトが発覚
  • 2000年(58歳?):ウィットウォーターズラント大学から解雇。1999年に解雇という報道もある

●3.【動画】

 【動画1】 
「ウェルナー・ベズウォーダ」と呼ばれた。
エボラがらみでアフリカ医学の暗部の歴史を語る動画「The History of Medical Exploitation in Africa – Harriet Washington on the Ebola Outbreak (2/2)」、(英語)10分47秒、5分8秒頃にウェルナー・ベズウォーダ (Werner Bezwoda)への言及がある。TheRealNewsが2014/08/10 に公開

●4.【日本語の解説】

★2006年02月23日:三余亭:阪大の論文捏造事件に思う その2

出典 → ココ、(保存版)( 別の保存版

以下は「三余亭」の解説を少し改訂した。

1995年、ベズウォーダは、乳癌患者への高用量化学療法+骨髄移植法(抗癌剤の量を増やし、患者の骨髄を使い白血球の減少を押さえる)の臨床試験が良い結果をもたらしているという研究論文を、一流研究論文誌の「J Clin Oncol」誌に発表した(J Clin Oncol 13:2483-2489, 1995)。

乳癌が他臓器に転移した患者さんに対する最初の治療として抗癌剤の量を増やし(高用量化学療法)、自分の骨髄などを使いながら白血球が減るなどの副作用に対処したら、よい結果が得られました、ということです。

これは、一つの施設だけで行なわれたランダム化比較試験でした。ランダム化比較試験とは、患者さんを試験治療群と標準治療群にランダムに割り付けて治療効果を見るというものです。一つの施設でやることもあれば、多施設共同で行なう場合もあります。論文によれば、90人の患者さんに参加していただき、45人が高用量群(抗癌剤の量が多い群)、45人が標準治療群(抗癌剤の量が普通の群)でした。

結果は、有効率(完全に病気が消えた、あるいは、半分以上縮小した率)は高用量群で95%(45人中43人)、標準治療群では51%(45人中23人)で、有意差あり。生存率も高用量群で良く、生存期間中央値は高用量群で90週に対して標準治療群で45週というものでした。毒性は高用量群で血液毒性、吐き気、嘔吐が多いのですが、死亡は高用量群で1名、標準治療群で2名でした。死亡については差がなさそうです。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究内容:乳癌治療

乳癌について、以下、ウィキペディアから引用する。

世界中でよく見られる癌で、西側諸国では女性のおよそ10%が一生涯の間に乳癌罹患する機会を有する。それゆえ、早期発見と効果的な治療法を達成すべく膨大な労力が費やされている。また乳癌女性患者のおよそ20%がこの疾患で死亡する。

乳癌に罹患するリスクは年齢と共に増加する。生涯で乳癌に罹患する確率は、日本人女性で16人に1人、欧米では8 – 10人に1人である。(出典:乳癌 – Wikipedia

1990年代、治療法として、高用量化学療法がブームだった。米国では、その時すでに、少なくとも3万人の女性が高用量化学療法+骨髄移植法(抗癌剤の量を増やすことで癌細胞をより強力に殺す。一方、抗癌剤の副作用で白血球が減るのを患者の骨髄を移植することで補う)の治療を受けていた。この治療費は約10万ドル(約1千万円)と高額だった。しかも、治療法の初期には、少なくとも、10~20%の患者が治療の直接の結果として死亡していた。

南アのウィットウォーターズラント大学のウェルナー・ベズウォーダ 教授(Werner Bezwoda)は、高用量化学療法+骨髄移植法の推進派だった。この高用量化学療法+骨髄移植法は、抗癌剤の量を増やすことで癌細胞をより強力に殺す一方、抗癌剤の副作用で白血球が減るのを患者の骨髄を移植することで補う、という方法である。

1995年(53歳?)、ベズウォーダ 教授はこの治療法での臨床試験が良い結果をもたらしているという「1995年のJ Clin Oncol」論文を発表した。

1999年5月15日~18日(57歳?)、上記論文が出版された4年後、米国・ジョージア州アトランタで第35回・米国臨床腫瘍学会が開催された。この学会のハイライトは、乳癌患者への高用量化学療法+骨髄移植法の有用性の検討だった。もちろん、ベズウォーダ 教授も参加した。

米国、スカンジナビア、南アフリカでの臨床試験が報告された。南アフリカでの臨床試験でベズウォーダは、高用量化学療法+骨髄移植法の8年半の臨床試験で、患者の60%が生存した。一方、この治療法を行なわなかった対照患者での生存率は20%だったと発表した。ベズウォーダの治療成績は素晴らしかった。しかし、治療成績が良かったのベズウォーダの臨床試験だけだった。

それで、臨床腫瘍学の専門家の間で、ベズウォーダの研究結果への疑念が噴出した(Boven E: 「American Society of Clinical Oncology–35th annual meeting. 15-18 May 1999, Atlanta, GA, USA」、IDrugs. 1999 Jul;2(7):617-9.)。

Dr-Raymond-B-Weiss1-199x300[1]多数の疑念が寄せられたのを受け、ベズウォーダの所属大学である南アフリカのウィットウォーターズラント大学は、米国・ジョージタウン大学のレイモンド・ワイス(Raymond B Weiss、写真出典)教授を委員長とするベズウォーダ調査委員会を招集した。(American Society of Clinical Oncology–35th annual meeting. 15-18 M… – PubMed – NCBI)。

1999年12月(57歳?)、調査チームは南アフリカに飛んだ。ベズウォーダが治療した158人の患者の記録をベズウォーダに要求したが、ベズウォーダは58件の記録しか示さず、残りは紛失したと述べた。 多くの記録に署名のない手書きの記入があった。また、ベズウォーダが患者をランダムに割り当てたという証拠は見つからなかった。つまり、ベズウォーダの記録全体がデタラメで、プロトコルも完全にねつ造されたものだった。

2000年3月(58歳?)、レイモンド・ワイスらは、調査結果を「2000年のランセット」論文として公表した(以下)。その論文で、ベズウォーダの研究結果はデータねつ造だったと結論した。

以下は再度、「三余亭」の解説(少し改訂)である:阪大の論文捏造事件に思う その2 三余亭/ウェブリブログ

どうしてねつ造と断定されたかというと、「ランセット」の論文の著者らが国際的な研究を進める前に、ベズウォーダらの研究結果を確認するために患者の記録を南アフリカまで見に行ったからです。そうしたら、そもそもプロトコールの表題が発表と違うし、施設にある記録は発表データと違うし、サインされた同意書はないし、治験審査委員会が承認した記録が無い等々、いろいろおかしな点が見つかりました。結局ベズウォーダ博士は不正を認めました。

「ランセット」の論文では、現地で記録を見るときにバイアスがかからないようにどんな風にメンバーを選んだとか、細かく書いてあります。しっかりしてますね。このメンバーが、1999年の米国臨床腫瘍学会では154名の患者と発表したのに現地では151名の患者しか臨床試験に参加した記録が無く、標準治療群の記録は見せてもらえず、試験治療群の記録も58名分しかチェックできず、しかも臨床試験に参加する適格条件が発表と異なったとか、再発率のデータは信頼できないといったこと、試験治療群の死亡率が低く見積もられていたこと、などを見つけ出します。

発覚の経緯について、「ロサンゼルス・タイムス」紙の記事(主要情報源①)では、以下のようだ(Key Breast Cancer Study Was a Fraud – Los Angeles Times)。本質的ではありませんが、「三余亭」の説明とは若干異なります。

1999年、ベズウォーダの報告書が臨床腫瘍学の専門家の間でスキャンダルになったので、南アフリカのウィットウォーターズラント大学が、米国・ジョージタウン大学のレイモンド・ワイス教授を委員長とするベズウォーダ調査委員会を招集した。

その委員会が、以下のネカト行為の「実質的証拠」を見つけた。

  • 研究開始9年後に、研究プロトコル(あるいは計画)を書いていた。
  • 1995年の論文では高用量化学療法での死亡者はゼロと記載してあったが、実際は、3人死亡していた。
  • 90人の患者のうち、29人の治療記録がなかった。
  • 他の多くの患者の治療記録も不十分だった。また、何人かの女性は論文に記載された薬と治療法とは異なる薬と治療法の処置がなされた。
  • ベズウォーダの他の8論文にも虚偽の記述があった。

2000年(58歳?)、ウィットウォーターズラント大学はネカト行為をしたベズウォーダを解雇した。

なお、ベズウォーダの治療で経済的・身体的被害を受けた患者は数千人いる(【主要情報源】①)。しかし、その被害状況や訴訟を詳細に記述した記事は見つからなかった。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2020年3月6日現在、パブメドでウェルナー・ベズウォーダ (Werner Bezwoda)の論文を「Bezwoda WR[Author] 」で検索すると、ウェルナー・ベズウォーダ (Werner Bezwoda)は、1974年~2001年の28年間に193論文を発表している。

2020年3月6日現在、本記事で問題視した「1995年のJ Clin Oncol」論文・1論文が2001年6月に撤回されている。

  1. High-dose chemotherapy with hematopoietic rescue as primary treatment for metastatic breast cancer: a randomized trial. Bezwoda WR, Seymour L, Dansey RD. J Clin Oncol. 1995 Oct;13(10):2483-9. Retraction in: J Clin Oncol. 2001 Jun 1;19(11):2973.

★撤回論文データベース

2020年3月6日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでウェルナー・ベズウォーダ (Werner Bezwoda)の論文を検索すると、本記事で問題視した「1995年のJ Clin Oncol」論文・1論文がヒットし、1論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2020年3月6日現在、「パブピア(PubPeer)」で、ウェルナー・ベズウォーダ (Werner Bezwoda)を「Werner Bezwoda」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》不明だらけ

ウェルナー・ベズウォーダ (Werner Bezwoda)事件は、詳細不明である。

事件の詳細が不明だと、「どの状況で、どうして?」がわからない。

なお、リンクトイン(LinkedIn)によると、事件後、大学を解雇されたベズウォーダは、医師免許は剥奪されなかった。個人病院で医師として働いた(ている)。 → werner bezwoda | LinkedIn(写真出典も)

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●8.【主要情報源】

 ① 2001年4月27日のトーマス・マウー(Thomas H. Maugh II)記者とロージー・メステル(Rosie Mestel)記者の「ロサンゼルス・タイムス」紙の記事:Key Breast Cancer Study Was a Fraud – Los Angeles Times 、(保存版
②  2000年3月、Raymond B Weiss 他、The Lancet,  Volume 355, Issue 9208, Pages 999 – 1003, 18 March 2000 、「High-dose chemotherapy for high-risk primary breast cancer: an on-site review of the Bezwoda study
③  2000年4月、Scott Gottlieb、West J Med. Apr 2000; 172(4): 229、「News and Features: Breast cancer researcher accused of serious scientific misconduct
④ 日本語の解説:阪大の論文捏造事件に思う その2 三余亭/ウェブリブログ
⑤ 2010年論文:Lelgemann M, Sauerland S.Z;  Evid Fortbild Qual Gesundhwes. 2010;104(4):284-91.[Fraudulent studies, unpublished data and their effect on the development of guidelines and evidence-based recommendations]. – PubMed – NCBI
⑥ 2017 年9月5日の記事:High-Dose Chemotherapies (HDC) and STAMP as Cancer Treatment
⑦ ウィキペディア英語版:High-dose chemotherapy and bone marrow transplant – Wikipedia
⑧   旧版:2014年12月3日
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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