企業:科学捜査(forensic investigation):ランドックス試験社(Randox Testing Services)(英)

2018年1月7日掲載。

ワンポイント:2017年1月、科学捜査での証拠品(血液、毛髪、尿など)の分析値をねつ造・改ざんしたことが発覚した。弁護士ニック・フリーマン(Nick Freeman)が分析値の異常を指摘した。2013年以降の10,000件以上の事件(殺人や性犯罪を含む)に影響する可能性がある。31歳と47歳の2人の分析者がネカトで逮捕された。損害額の総額(推定)は数億~数百億円(あてずっぽう)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】

https://insidetime.org/forensics-scandal-escalates/

英国の科学捜査で、証拠品(血液、毛髪、尿など)の分析を受託していたランドックス試験社(Randox Testing Services)が起こした分析値のねつ造・改ざん事件である。

2017年1月、ランドックス試験社は、弁護士ニック・フリーマン(Nick Freeman)の指摘を受け、証拠品分析値の異常を調査し、測定値のねつ造・改ざんを見つけ、直ちに、警察、認定機関、法医学監督機関に報告した。

ねつ造・改ざんは、2013年までさかのぼり、殺人や性犯罪を含む10,000件以上の事件に影響する可能性がある。

ランドックス試験社の31歳と47歳の2人の分析者が逮捕されたが、名前は公表されていない。

裁判はこれからである。

ランドックス試験社(Randox Testing Services)。建物の一部? 写真出典Source: Keith Williamson http://laboratorytalk.com/article/406683/randox-expands-testi

ランドックス試験社(Randox Testing Services)。写真出典http://www.ukspa.org.uk/blog/14/07/hexagon-tower-welcomes-randox-testing-services

  • 国:英国
  • 集団名:ランドックス試験社
  • 集団名(英語):Randox Testing Services
  • ウェブサイト(英語):https://www.randox.com/randox-testing-services/
  • 集団の概要:英国のマンチェスターにある科学捜査での証拠品分析企業。従業員11~50人。
  • 事件の首謀者:31歳と47歳の2人の分析者(男性)。名前は未公表。
  • 分野:科学捜査
  • 不正年:2013年以降
  • 発覚年:2017年
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は弁護士ニック・フリーマン(Nick Freeman)で、フリーマンの指摘を受け、ランドックス試験社が調査を始めた
  • ステップ2(メディア):英国の多数のメディア
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①ランドックス試験社。②英国の警察。③英国の裁判所(記事執筆時点では裁判になっていない)。
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正分析数:可能性として10,000件以上
  • 被害(者):少なくとも50件の訴訟が停止した
  • 損害額:総額(推定)は数億~数百億円(あてずっぽう)
  • 結末:2人逮捕。さらに5人の容疑者

●2.【日本語の解説】

日本語の解説は見つからなかった。

http://www.dailymail.co.uk/news/article-4980962/Forensics-scandal-hits-10-000-cases.html

●3.【事件の経過と内容】

ランドックス試験社(Randox Testing Services)はランドックス社(Randox Laboratories)の1部門である。

親会社のランドックス社は、1982年に英国に設立された医療診断企業で、病院・臨床・研究のために革新的な診断法を開発し、分子レベルの実験、食品検査、法医学試験、獣医実験、生命科学研究のための革新的な試験法を開発している。世界145か国に1400人の従業員がいる世界的企業である。

2012年、英国政府は、今まで全部、犯罪証拠品の分析を自前で行なっていたのを廃止した。一部を警察の内部で行ないつつも、主に民間企業に委託するシステムに制度を変えた。

イングランドとウェールズでは証拠品分析企業として6社が認可された。その1社が英国のマンチェスターにあるランドックス試験社(Randox Testing Services)である。

ランドックス試験社は、科学捜査での証拠品(血液、毛髪、尿など)の分析を請け負う従業員11~50人の企業である((1) Randox Testing Services: 概要 | LinkedIn)。

2016年12月、著名な弁護士ニック・フリーマン(Nick Freeman)がランドックス試験社の証拠品の分析値がおかしいと指摘した。

左上は弁護士ニック・フリーマン(Nick Freeman)。http://londonbulletin.co.uk/randox-testing-forensic-scandal-now-reaches-cases-under-investigation-p4968-185.htm

2017年1月、フリーマン弁護士の指摘を受けて、ランドックス試験社は証拠品分析値の異常を調査し、測定値のねつ造・改ざんを見つけた。直ちに、警察、認定機関、法医学監督機関に報告した。

2017年2月、ランドックス試験社のマンチェスター研究所の内部調査で、484件の測定値のねつ造・改ざんが判明し、31歳と47歳の2人の分析者(男性)が逮捕された。

液体クロマトグラフィー(liquid chromatography)と質量分析(mass-spectrometry)の測定を停止したとあるので、その測定データにネカトが見つかったようだ。

2017年11月、全国警察署長委員会(NPCC:National Police Chiefs Council)のジェームズ・ボーン(James Vaughan、写真出典https://news.npcc.police.uk/releases/national-operation-to-retest-manipulated-forensic-samples-is-progressing-at-pace)は、「最も深刻な事件について、残っている証拠品で再試験を行なったところ、データ改ざんの証拠は見つかっていません。再検査の70%は既に完了し、残りは来年(2018年)の夏までに終了します」と述べている。

しかし、法医学的な証拠品分析値のねつ造・改ざんは、2013年までさかのぼり、10,000件以上の事件に影響する可能性がある。

事件の4分の3は薬物(麻薬や飲酒)がらみの交通犯罪だが、他の事件として、274件の殺人事件と900件の強姦事件も含まれている。

薬物を摂取していないのに薬物運転で運転免許証が取り消されたり、逆に、犯罪者が無罪になって街を闊歩していることになる。

例えば、2015年12月に薬物運転で逮捕した26歳のチェシャー出身者は証拠となる分析値が信用できないので、検察は起訴を断念した。ランドックス試験社が彼の血液サンプルを分析し、大麻、コカインおよび第三の麻薬を検出したと報告したが、彼は不法物質を一切服用していないと強く主張していた。

すでに50件の訴訟が停止した。また、既に裁判が終わった2件は控訴裁判所で再審理されることになった。

そして、当然ながら、再検査に利用できる証拠品の試料がすでにないもの、または試料の質または量が少なすぎるものも多数含まれている。

2017年2月からねつ造・改ざんをした犯人の捜査が始まった。2017年11月時点で、ランドックス試験社の2人の研究員(分析者)が逮捕され、5人が容疑者になっている。

逮捕された2人は、ランドックス試験社で働く以前にトリメガ・ラボラトリーズ社(Trimega Laboratories)で働いていた。

トリメガ・ラボラトリーズ社は児童保護と家庭裁判事件での証拠品分析を扱っていた。そこでのデータねつ造・改ざんの調査も開始された。

トリメガ・ラボラトリーズ社(Trimega Laboratories、写真出典http://labnewsnetwork.blogspot.jp/2011/02/new-substance-abuse-testing-laboratory.html

【動画1】
英国のITV Newsの動画が以下のサイトの中にある
http://www.itv.com/news/2017-11-21/data-manipulation-randox-testing-services-forensics/
(英語)2分5秒。

★ネカト者の裁判

ランドックス試験社の2人の研究員(分析者)が逮捕され、5人が容疑者になっている。

2018年1月6日現在、この人たちの裁判はこれからである。

【冤罪被害者】

【ビラル・ハートフォード(Billal Hartford)】

ノースヨークシャー州のハットン・ルードビー近郊の小さな村に住む21歳のビラル・ハートフォード青年(Billal Hartford)は、冤罪被害者だと訴えている。
→ 2017年12月11日記事(写真出典):Man launches legal action against Randox Testing Services after having conviction overturned for forensic test result being wrong :Hudgell Solicitors™‎(保存版)
→ 2017年12月12日記事:Manchester chef sues lab that found cannabis in sample | Daily Mail Online

2016年8月、ハートフォード青年の運転する車を止めた警官が、大麻の臭いがすると言った。ハートフォード青年は、時々大麻を吸い、この時、車内に大麻が置いてあった。それで、道路側で、綿棒で唾液サンプル(スワッブ)を採取された。その結果、プラス反応が出たので、逮捕され、警察署に連れていかれた。

ヨークから看護師(女性)が来るまで2時間ほど警察署に留置された。逮捕した警官と一緒に看護師が部屋に入ってきて、検査のために血液を採取してよいかと聞かれた。了承すると、看護師が血液を採取した。

看護師は、採取した血液サンプルを私に渡し、私が独立に検査することもできると言った。しかし、その必要があるとは思わなかったので、文書に署名し、彼女らに分析を任せた。

保釈された数日後、驚いたことに、血液に麻薬が検出されたと伝えられた。

ハートフォード青年は全く身に覚えがなかった。無実を強く主張した。「私はアルコールを飲んで運転しないのと同じように、薬物を飲んだら決して運転はしません」と述べている。

2016年12月、しかし、彼がいくら無実だと強く主張しても、法医学的証拠は圧倒的かつ疑いの余地がないものとされた。裁判所は結局、薬物運転で有罪と宣告した。ハートフォード青年は運転免許を失った。

これらの過程の「すべてがとても不公平に思えた」とハートフォード青年は後に述べている。

有罪判決で、ハートフォード青年は、シェフの仕事を失った。 また、運転が禁止されたが、郊外に住んでいたので、移動・行動の「自由」が奪われた。新しい仕事もなかなか見つからなかった。友人や家族に頼らなければならなかった。

しかし、ある時、ランドックス試験社(Randox Testing Services)が証拠品(血液、毛髪、尿など)の分析値をねつ造していたことを知った。

ハートフォード青年は、これで得心した。

身に覚えのない麻薬が血液サンプルに検出されたのは、分析値がねつ造されたからだ。

それで、ハートフォード青年は、彼の無罪を証明するための戦いを始めた。

「その日、私が裁判所に到着したとき、私の弁護士は、私のサンプルが再検査され、その結果が明らかであると私に言った。再検査の結果、私の血液には麻薬の痕跡がなかったのだ。裁判官は私を見て謝った。裁判官は以前の判決を破棄し、運転免許を返還すると宣告し、この責任を誰かが取らなければならない、と言った。私は運転免許を元に戻してもらい喜んでいた」。

そして、ハートフォード青年は、ランドックス試験社に対する法的措置を開始した。

サイモン・ウィルソン弁護士(Simon Wilson)は「分析値の間違いがただされても、ハートフォード青年が著しく苦しめられたことは間違いありません」と述べている。

【冤罪被害者募集】

2018年1月4日、ランドックス試験社の分析値ねつ造で被害を受けている冤罪被害者を、ケヴィン・ドノヒュー弁護士が募集し始めた。
→ 2018年1月4日のケヴィン・ドノヒュー弁護士(Solicitor Kevin Donoghue)の記事:Can I Claim Compensation Against Randox Testing Services?、(保存版

●4.【白楽の感想】

《1》証拠品分析値の信頼性

証拠品分析値がねつ造・改ざんされたら、科学捜査は成り立たない。

今回の事件は英国だけど、米国では、証拠品分析値のねつ造・改ざんは珍しくない。
例えば → フレッド・ザイン(Fred Zain)(米)

証拠品分析値でのねつ造・改ざん事件「科学捜査:アニー・ドゥーカン(Annie Dookhan)(米)」での文章を以下に自己引用しよう。

研究ネカトの研究をしていると、今回の事件のように犯罪捜査での科学分析値のねつ造・改ざんをどうチェックすることができるのか、とても気になる。

一般的には、監視・批判されない安全圏にいる研究者が研究ネカトをする頻度は高い。つまり、「人間は善悪両方を内在し、監視・批判されなければ悪がでて、監視・称賛されれば善がでる」。

科学捜査研究所の研究員の分析対象は、試料が少なく、分析は1回しかできないこともあるだろう。その場合、他人ばかりか本人でも追試はできない。分析に失敗し数値をねつ造、あるいは、分析に自信がなく、得られた数値を改ざんしたら、どうチェックするのだろう?

日本の鑑定書は大丈夫だろうか? どのようなメカニズムで信頼性が保証されているか?

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●5.【主要情報源】

① ランドックス試験社(Randox Testing Services)スキャンダルのグーグル検索:randox testing services scandal – Google 検索
② 2017年5月9日のジョー・シャイン(Joe Shine)記者とニック・ハドソン(Nick Hudson)記者の「Police Professional」記事:Police Professional :: News :: Forensic test firm suspends lab services as 6,000 ‘manipulated’ toxicology reports retested、(保存版
③ 2017年10月14日のマーティン・ベックフォード(Martin Beckford)記者の「Mail Online」記事:Randox Testing forensic scandal now reaches 6,000 cases under investigation、(保存版
④ 2017年11月15日のランドックス試験社(Randox Testing Services)の報告:Randox Testing Services (RTS) are the whistleblower and initiated the police forensic investigation. RTS support to police ongoing. – Randox Laboratories、(保存版
⑤ 2017年11月21日のマーティン・ブラント(Martin Brunt)記者の「Sky News」記事:10,000 forensic tests ‘may have been manipulated’、(保存版
⑥ 2017年11月30日のマリア・バーク(Maria Burke)記者の「Chemistry World」記事:Misconduct scandal hits UK forensics lab | News | Chemistry World、(保存版
⑦ 2018年1月4日のケヴィン・ドノヒュー弁護士(Solicitor Kevin Donoghue)の記事:Can I Claim Compensation Against Randox Testing Services?、(保存版

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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