ソーレン・ダス(Sauren Das)(インド)

2017年9月18日掲載。

ワンポイント: インド統計大学・教授(男性)で専門は植物学。2015 年(56歳?)、「2013 年のPhysiol Mol Biol Plants」論文の電気泳動像が異常とパブピアで指摘され、学術誌編集部が調査し、データねつ造・改ざんと判定し、論文を撤回した。ダスはねつ造・改ざんを否定している。インド統計大学が調査したかどうか不明。従って、解雇されていない。損害額の総額(推定)は7億4200万円。余談に電気泳動談義。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説

5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ソーレン・ダス(Sauren Das、写真出典)は、インド・コルカタのインド統計大学(Indian Statistical Institute)・教授で、専門は植物学だった。

2015 年(56歳?)、「2013 年のPhysiol Mol Biol Plants」論文の電気泳動像が異常とパブピアで指摘された。学術誌編集部が調査し、データねつ造・改ざんと判定し、論文を撤回した。ダスはねつ造・改ざんを否定している。

2017年9月17日現在、インド統計大学が調査したかどうか不明である。従って、解雇されていない。

インド統計大学は「4icu.org」の大学ランキング(信頼度は?)でインド第35位の大学である(Top Universities in India | 2017 Indian University Ranking)。大学の学術レベルは高い。

インド・コルカタのインド統計大学(Indian Statistical Institute)。写真出典

  • 国:インド
  • 成長国:インド
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:インドのコルカタ大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1959年1月1日生まれとする。1981年の大学卒業時を22歳とした
  • 現在の年齢:65 歳?
  • 分野:植物学
  • 最初の不正論文発表:2009年(50歳?)
  • 発覚年:2015 年(56歳?)
  • 発覚時地位:インド統計大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はパブピア。ドイツ在住のネカト・ハンターであるレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)はネカト通報を受け、自分で調べ、大学とDFG-ドイツ研究振興協会に通報
  • ステップ2(メディア):レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ、「撤回監視(Retraction Watch)」、「パブピア(PubPeer)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌「Physiol Mol Biol Plants」・編集部
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:4報が指摘されている。撤回論文は1報である
  • 時期:研究キャリアの後期から
  • 損害額:総額(推定)は7億4200万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が30年間=6億円。③院生の損害は不明。④外部研究費の受領額は不明。⑤調査経費(学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。1報撤回=200万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 結末:辞職していない(Welcome to Indian Statistical Institute, Kolkata

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1959年1月1日生まれとする。1981年の大学卒業時を22歳とした
  • 1981年(22歳?):インドのカリヤニ大学(University of Kalyani)を卒業
  • 1983年(24歳?):インドのカリヤニ大学(University of Kalyani)で修士号を取得
  • 1996年(27歳?):インドのコルカタ大学(University of Calcutta)で研究博士号(PhD)を取得した
  • xxxx年(xx歳):インド統計大学(Indian Statistical Institute)・教授
  • 2015 年(56歳?):不正研究が発覚する
  • 2017年9月17日現在(58歳?):インド統計大学の「Associate Scientist B」となっている。教授から降格? (Welcome to Indian Statistical Institute, Kolkata

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★「2009年のPhysiol Mol Biol Plants.」論文

2015年7月、ドイツのネカト・ハンターであるレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)はハイメ・ダシルヴァ(Jaime A. Teixeira da Silva)からメールを受け取った。

ソーレン・ダス(Sauren Das)の「2009年のPhysiol Mol Biol Plants」論文の図がおかしいのでパブピアで指摘してほしいと。

2015年7月11日、レオニッド・シュナイダーがパブピアに「電気泳動のレーンを切り貼りしている」とコメントし、以下の図を投稿し同日に受理された。
→ 出典:https://pubpeer.com/publications/0E97983B3A753C780F3BA820F5C995#fb33106

★「2013 年のPhysiol Mol Biol Plants」論文

2015年1月29日、上記「2009年のPhysiol Mol Biol Plants」論文とは別のソーレン・ダス(Sauren Das)の「2013 年のPhysiol Mol Biol Plants」論文について、パブピアが論文の図3がおかしいと指摘した。

パブピアの指摘を見てみよう。
→ 出典:https://pubpeer.com/publications/9543DEAD0C5A57B5EFA7A7D1B26B88

電気泳動のレーンを切り貼りは明確である。

2016年5月3日、学術誌「Physiol Mol Biol Plants」が以下の理由で、「2013 年のPhysiol Mol Biol Plants」論文を撤回した(Retraction Note to: Antioxidants and ROS scavenging ability in ten Darjeeling tea clones may serve as markers for selection of potentially adapted clones against abiotic stress | SpringerLink)。

編集者が図3のデータがねつ造・改ざんと判断し、この論文を撤回した。論文の著者は、パブピアで指摘されたデータ異常、そしてその後、当学術誌・編集部から問い合わせに対し、適切な説明をしませんでした。また、当学術誌・編集部が再現実験を求めましたが再現できませんでした。

ソーレン・ダス(Sauren Das、写真出典)は、学術誌編集部にデータねつ造・改ざんを否定した電子メールを送付している。

「撤回監視(Retraction Watch)」の質問に以下のように答えている。

私は繰り返し彼らの主張に反対しましたが、彼らは彼らの主張に固執していました。 今でも私は彼らと違う意見です。私は、間違ったことを何もしていません。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2017年9月17日現在、パブメド(PubMed)で、ソーレン・ダス(Sauren Das)の論文を「Sauren Das[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2009~2017年の8年間の6論文がヒットした。

「Das S[Author]」で検索すると、1945~2017年の73年間の8091論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者の論文ではない論文が多いと思われる。

本人のウェブサイトには1989~2011年の23年間の29選別論文がリストされている。

2017年9月17日現在、「Das S[Author] AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、11論文が撤回されていた。

しかし、1つ1つ論文を見ると、本記事で問題にしている研究者の撤回論文は以下の1報だけだった。

 ★パブピア(PubPeer)

2017年9月17日現在、「パブピア(PubPeer)」ではソーレン・ダス(Sauren Das)の4論文にコメントがある:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》電気泳動写真のレーンの切り貼り

昔、白楽が電気泳動していたころは、電気泳動レーンの切り貼りはデータねつ造・改ざんではなかった。「切り貼り」は必須だったからだ。

ディスク式電気泳動槽、出典

現在普及しているスラブ式電気泳動は、当時、まだ登場しておらず、ディスク式電気泳動だった。1つの試料に付き1つのガラス管を用いて、泳動した。

従って、複数のサンプルを同時に泳動しても、1つの試料当たり1本のゲルになる。

論文の図にするには、電気泳動ゲルのバンドを染色し、フィルム写真で撮影し、印画紙にプリントし、プリントをカッターで切って、紙の上に切り貼りしたレーンを並べた。そして、それをもう一度写真に撮るという面倒な工程だった。字は、ロットリング(懐かしいね)だった。

つまり、ディスク電気泳動では同時に実験操作しても、レーンは最初から隣に並んでいない。だから写真プリントのレーンを切り貼りして並べるしかなかった。

当然ながら、電気泳動レーンの切り貼りはデータねつ造・改ざんではなかった。

By User Magnus Manske on en.wikipedia – Originally from en.wikipedia; description page is (was) here, CC 表示-継承 3.0, Link

その後、スラブ式の泳動が普及した。スラブ式の泳動では試料を一列に並べることができ、泳動像は、右のようなレーンとレーンの間に切れ目がない像になった。

だから、レーンを写真上で切り貼りすると、レーンとレーンの間に切れ目ができて、データねつ造・改ざんだと疑われるようになった。

なお、日本で最初にウェスタンブロットをした人物は、多分、白楽だろう。

ウェスタンブロットは1981年に命名されたが、丁度その頃、白楽は米国NIHのポスドクで、毎日のようにウェスタンブロットをしていた。

1982年3月、米国から帰国したとき、手荷物にウェスタンブロット槽と電源を詰め込み、日本に運んできた。電源は部品を買って米国で妻に作ってもらった自作電源だった。100V交流を150V直流に変える電源である。

ウェスタンブロット槽(米国の既製品だが、当時、日本国内では売っていなかったと思う)はもう手元に残っていないが、自作電源は残っていた。

ベセスダの街の電気店・ラジオシャック(Radio Shack)で電源箱を2ドル99セントで購入し、パーツも買って組み立てた。忘れないように箱の底にパーツの配線方法を書いた。日本でも同じ電源を作るためだ。

その後、電気泳動といえばスラブ式の泳動が当たり前となり、さらに、コンピュータで画像処理ができるようになった。

ということで、電子的に画像の切り貼りをすることで容易にデータねつ造・改ざんができるようになり、事実、そのようなデータねつ造・改ざんが多数見つかってきた。

それで、今では、画像の切り貼りだけでデータねつ造・改ざんと見なされるようになったのである。

2008年の中山敬一の「Photoshopによるゲル画像の調整」では「異なった時間・場所で行なった実験結果を,あたかもひとつのデータのようにみせること(たとえば,同じ電気泳動ゲル上の離れたレーンを近づけた場合でも,あいだには境界線を描かなければならない)」とある。
→ 2008年の中山敬一の「蛋白質核酸酵素Vol.53 No.15(2008)」記事:「Photoshopによるゲル画像の調整」http://www.mbsj.jp/admins/ethics_and_edu/PNE/1_article.pdf

昔は当然だった電気泳動ゲル像の切り貼りが、現在では、程度によっては、データねつ造・改ざんとなるのだ。時代は変わった。
→ 2014年5月14日の「日本の科学と技術」記事:DNA電気泳動写真のレーンの切り貼りはどこまで許されるのか?

昔のディスク電気泳動を知る白楽としては、ソーレン・ダス(Sauren Das)の電気泳動の写真はバンド自身が汚く、レーンの切り貼り以前の問題だという気がした。だから、レーンの切り貼りだけでねつ造・改ざんと決めつけたことに疑問が残る。

それにしても、インド統計大学は調査員会を設け、ソーレン・ダスのネカト調査をし、シロクロを判断すべきだったろう。

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●8.【主要情報源】

① 2016年3月6日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ:Publisher Springer to retract Sauren Das paper seven months after editorial decision – For Better Science
② 2016年5月2日のダルミート・チャウラ(Dalmeet Singh Chawla)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Plant biologist’s paper pulled for falsification, three more questioned on PubPeer – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 「パブピア(PubPeer)」はソーレン・ダス(Sauren Das)の4論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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