大学:盗用処理(plagiarism mishandling):イアン・フィーンズ(Ian Firns) 対 ニューカッスル大学(University of Newcastle)(豪)

2017年10月3日掲載。

ワンポイント:2003年、盗用した15人の院生の成績をフィーンズ講師は0点にしたが、ライダー学部長は、すべての院生に合格点を付けさせた。フィーンズ講師はこの不正をニューサウスウェールズ州・腐敗摘発委員会に訴えたが、2005年、ニューサウスウェールズ州・腐敗摘発委員会は大甘な判定を下した。数百人の教職員と学生が抗議し、メディアが大騒ぎした。結局、ニューカッスル大学の学長・副学長・ライダー学部長は辞職した。この事件は、「全期間ランキング」に記載した「「高等教育界を震撼させた著名人の10大盗用スキャンダル」:2013年1月10日」の第8位である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】

2003年1月、オーストラリアのニューカッスル大学(University of Newcastle、写真出典)はオーストラリアの大学だが、マレーシアにあるクアランプール分校・経営学コースの院生15人が盗用した。イアン・フィーンズ講師(Ian Firns)は15人の成績を0点にし、大学に報告した。

ところが、当時の経営学部・教授で学部長のポール・ライダー(Paul Ryder)は、すべての院生に84点などを点を付け、合格させるように命じたことで、問題が勃発した。

フィーンズ講師は大学ではラチが明かないと考え、ニューカッスル大学の盗用処理不正をオーストラリアのニューサウスウェールズ州・腐敗摘発委員会に訴えた。

2005年6月30日、ニューサウスウェールズ州・腐敗摘発委員会は調査結果を発表した。「学部長・副学部長の2人を刑事犯罪で訴追せず、ニューカッスル大学・学長は学内で懲戒処分にすべきだ。ただし、解雇は推奨しない」と述べた。

この「甘すぎる」結論を受けて、ニューカッスル大学の数百人の学生と教職員が大学に抗議した。

フィーンズ講師は、「法的処置も辞さない」と新聞記者のインタビューに答えていたが、結局、訴訟に持ち込まなかったようだ。

しかし、結局、ポール・ライダー学部長は解雇された(推定)。副学部長のロバート・ルギンバナ(Robert Rugimbana)は他大学に移籍した。また、ロジャー・ホームズ学長とブライアン・イングリッシュ副学長は辞職した。

ニューカッスル大学事件は、「全期間ランキング」に記載した「「高等教育界を震撼させた著名人の10大盗用スキャンダル」:2013年1月10日」の第8位である。

また、ニューカッスル大学は、「Times Higher Education」の2018年大学ランキングでオーストラリア第15位の大学である。World University Rankings 2018 | Times Higher Education (THE)。ただし、創立50年以内ではオーストラリア第1位、世界第28位の大学である。
→ 2014 年5月1日記事:University of Newcastle ranked first in Australia | Newcastle Herald

オーストラリアのニューカッスル大学(University of Newcastle)。写真出典

  • 国:オーストラリア
  • 集団名:ニューカッスル大学
  • 集団名(英語):University of Newcastle
  • 事件人数:2人
  • 分野:経営学
  • 不正年:2003年
  • 発覚年:2003年
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はニューカッスル大学のイアン・フィーンズ講師(Ian Firns)で、ニューカッスル大学に通報したが。無視され、ニューサウスウェールズ州・腐敗摘発委員会に訴えた
  • ステップ2(メディア):多数の新聞
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①ニューサウスウェールズ州・腐敗摘発委員会
  • 不正:盗用処理
  • 不正者数:学部長と副学部長の2人
  • 被害(者):
  • 結末:学部長は解雇(推定)。副学部長は処分なしだが他大学に移籍した

●3.【事件の経過と内容】

本記事のニューカッスル大学事件で敗摘発委員会は重要な役割を果たしたので、最初に腐敗摘発委員会を説明する。

★腐敗摘発委員会(Independent Commission Against Corruption)

腐敗摘発委員会(ICAC:Independent Commission Against Corruption、写真出典https://www.sydneycriminallawyers.com.au/blog/nsw-government-forces-icac-resignation/)はオーストラリアや香港にあって、日本にはない行政機関である。
→ Home – Independent Commission Against Corruption Website

「独立腐敗委員会」とも訳され、「Independent Commission」とあるので「独立した委員会」なのだが、以下の日本語文章で示すように、組織が力をもてば、政治(や経済)権力とは「独立」になれない。

オーストラリアでは州政府の行政機関で、ニューカッスル大学はニューサウスウェールズ州にあるのでニューサウスウェールズ州・腐敗摘発委員会が担当した。

なお、2017年でも、もちろん機能している。例えば、2017年6月22日の日本語記事に以下のような文章がある。

ニューサウスウェールズ州政府、腐敗摘発委員会の新委員任命

 ニューサウスウェールズ州の保守連合政府は、公務員の腐敗汚職を摘発する機関、腐敗摘発独立調査委員会(ICAC)の委員2人と調査官1人を新しく任命した。ICACは前委員長の下での政界の腐敗汚職を摘発する過程で労働党前大臣の他に現職の保守連合政権の州首相や州議会議員、地方自治体政治家など10人ほどを失脚させ、保守連合州政権と激しく対立していた。さらに、保守連合に近い保守派のカニーン検事の私行を追及したが、これは結局、ICACの管轄外との判断を受け、ICACの敗北となった。

 カニーン検事は、息子のガールフレンドが交通事故に巻き込まれた際に、「警察官が来たら、胸が痛いと訴えること。そうすれば医師の診察が先になり、それが終わる頃にはアルコール検査もゼロ結果になる」と入れ知恵したことがICACで追及されたが、高裁は、「カニーン検事の行為は私行であり、ICACには捜査権はない」と判決を下した。(政治 | ニューサウスウェールズ州政府、腐敗摘発委員会の新委員任命 | オーストラリア生活情報サイト NICHIGO PRESS

★盗用処理

では事件の発端から入ろう。

2003年1月、ニューカッスル大学(University of Newcastle)はオーストラリアの大学だが、 マレーシアにあるそのクアランプール分校で事件が起こった。

経営学修士コース・講師のイアン・フィーンズ(Ian Firns)は、院生15人が出典を示さないで他人の文章をゴッソリ盗用したので、成績を0点にした。

ところが、驚いたことに、経営学部・教授で学部長のポール・ライダー(Paul Ryder)と副学部長のロバート・ルギンバナ(Robert Rugimbana) は、調査もせずに、すべての院生に84点などの合格点を付けるように事務員に命じ、実行させた。

左はロバート・ルギンバナ(Robert Rugimbana)。1992年2月13日撮影。右の2人は不明だが、どちらかがポール・ライダー(Paul Ryder)だろうか? 出典

学部長と副学部長の2人は、オフショア・プログラム(オーストラリア国外の教育コース)内で騒動を起こすと、評価が下がることを懸念したのだ。

フィーンズ講師は2人の蛮行をニューカッスル大学に訴えたが、大学は無視した。それで、ニューサウスウェールズ州・腐敗摘発委員会に訴えた。

★ニューサウスウェールズ州・腐敗摘発委員会の判定

→ 資料:Past investigations – Independent Commission Against Corruption Website

2005年6月30日、ニューサウスウェールズ州・腐敗摘発委員会は、ニューカッスル大学・経営学修士のオフショアキャンパスの院生の盗用に対する当時の学部長と副学部長の腐敗行為に関する調査結果を発表した。

ニューサウスウェールズ州・腐敗摘発委員会は、「学部長・副学部長の2人を刑事犯罪で訴追せず、ニューカッスル大学・学長は学内で懲戒処分にすべきだ。ただし、解雇は推奨しない」と結論した。

また、「ニューカッスル大学のロジャー・ホームズ学長(Roger Holmes、上の写真出典)とブライアン・イングリッシュ副学長(Brian English)が本事件を大学評議会(University council またはAcademic Senate)に報告しなかったことは重大な失策だ」と指摘した。

さらに、「ニューカッスル大学に、評価規則、規則順守、行政能力、内部調査、リスク管理の5点について、腐敗防止を改善すべき」との勧告を行なった。

★腐敗摘発委員会への反応

2004年10月、腐敗摘発委員会の報告書が発表される前だが、ロジャー・ホームズ(Roger Holmes)はニューカッスル大学・学長を辞職した。後任の学長に、ニック・サンダース(Nick Saunders)が就任した。

2005年6月30日、腐敗摘発委員会の「甘すぎる」発表を受けて、ニューカッスル大学の数百人の学生と教職員が大学に抗議した。

フィーンズ講師は、名誉棄損で法的措置を取る予定であると述べた。

ニューカッスル大学の新しい学長・ニック・サンダース(Nick Saunders)は、「取るべき行動を決める前に、ニューサウスウェールズ州・腐敗摘発委員会の報告書を詳細に検討しています。大学は、同じ過ちを繰り返すことはなありません。盗用防止の改革はすでに十分に進行中で、ニューカッスル大学は「盗用を検出し対処するため最大の努力をしています」と述べた。

★その後

講師のイアン・フィーンズ(Ian Firns)は、結局、訴訟に持ち込まなかったようだ。ニューカッスル大学を辞職した後のキャリアを追跡できない。学術界に残らなかったと思われる。

ポール・ライダー学部長(Paul Ryder)は解雇された(推定)。その後の消息は不明である。

副学部長のロバート・ルギンバナ(Robert Rugimbana)は、事件後、オーストラリアのグリフィス大学のマーケティング担当準教授に移籍した。その後、オーストラリアを去り、南アフリカ共和国のツワネ工科大学(Tshwane University of Technology)・教授・学部長になった。
→ http://tanzaniteuni.com/wp-content/uploads/2012/05/TU-Bios-Robert.pdf

●4.【白楽の感想】

《1》腐敗摘発委員会

ニューカッスル大学の盗用処理を学部長が不正に行なった。大学上層部のネカト問題及び不正なネカト処理を、腐敗摘発委員会が調査し判定した。

日本でも大学上層部のネカト問題が起こっているが、残念ながら、現状では、それを適正に調査し正す仕組みがない。

数件報道されている学長自身のデータねつ造・改ざん行為はまともに調査されていない。東京大学・医学系教授のデータねつ造・改ざん行為もまともに調査されなかった。

大学のネカト事件を調査する第三者機関が日本に無いからだ。調査といってもお笑い草の調査なのだ。

白楽は、かつては日本に研究公正局を設けよと主張してきたが、現在は、刑事訴追できる警察がネカトを調査すべきだと考える。しかし、ネカト防止に関心の高い人たちでも、警察が調査することに躊躇する人が数割いる。

警察がネカトを調査すべきだと思うが、腐敗摘発委員会という組織も「あり」かもしれない。刑事訴追できること、大学・学術界・産業界・政府などから独立した機関で、強い調査権限をもつ機関であればよいだろう。

《2》大事件

ニューカッスル大学事件は、「全期間ランキング」に記載した「「高等教育界を震撼させた著名人の10大盗用スキャンダル」:2013年1月10日」の第8位である。

盗用事件は2003年に起こり、2005年に腐敗摘発委員会がニューカッスル大学の盗用処理不正の調査結果を公表した。

それが、8年もたった2013年に、「10大盗用スキャンダル」の1つに取りあげられた。

そんな大事件とは思えないが、どうしてだろう? 大事件だったということか。

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●5.【主要情報源】

① 2004年9月17日の「ABC News」記事:Newcastle Uni ignored plagiarism, lecturer says – ABC News (Australian Broadcasting Corporation)(保存版)
② 2005年7月1日のケリー・バーク(Kelly Burke)の「Sydney Morning Herald.」記事:Guilty of a plagiarism cover-up – National – smh.com.au(保存版)
③ 2008年のウェンディ・サザーランド=スミス(Wendy Sutherland-Smith)の著書『Plagiarism, the Internet, and Student Learning: Improving Academic Integrity』のp60-。ISBN 1134081804, 9781134081806:Plagiarism, the Internet, and Student Learning: Improving Academic Integrity – Wendy Sutherland-Smith – Google ブックス
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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