2021年4月13日掲載
ワンポイント:ロバートソンはペンシルベニア大学医科大学院(Perelman School of Medicine University of Pennsylvania)・教授である。2020年(55歳?)、パスパラム・リーバ(Paspalum Laeve)やネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)がロバートソンの論文のデータねつ造・改ざんを指摘した。「パブピア(PubPeer)」では46論文が問題だと指摘されているが、撤回論文はゼロである。ペンシルベニア大学医科大学院がネカト調査をしているかどうか不明で、ロバートソン及び室員は無処分である。この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「4D」の「10」に挙げられたので記事にした。国民の損害額(推定)は今のところ1億円(大雑把)。
[追記]
・2022年6月16日記事:Extensive correction adds to five flagged papers for UPenn professor – Retraction Watch
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
アール・ロバートソン(Erle Robertson、Erle S. Robertson、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のペンシルベニア大学医科大学院(Perelman School of Medicine University of Pennsylvania)・教授で医師免許なし、専門はウイルス学(エプスタイン・バール・ウイルス)である。
ロバートソン研究室には10人以上のポスドクがいてNIHから1996~2020年の25年間に117件、約33億円のグラントを受領しているスーパースター科学者である。7冊の本を出版している。
2020年1月(55歳?)、パスパラム・リーバ(Paspalum Laeve)がウェウスターンブロット画像の重複を指摘した。白楽はリーバの素性を把握していない。パスパラム・リーバ(Paspalum Laeve)はイネ科の多年生植物・スズメノヒエの学名なので、仮名だと思われる。
2020年11月(55歳?)、リーバに加え、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)もウェウスターンブロット画像の重複を指摘した。
2021年4月12日(56歳?)現在、「パブピア(PubPeer)」では46論文が問題だと指摘されているが、撤回論文はゼロである。
データねつ造・改ざんだと思われるが、ロバートソンがネカト犯ではなく室員がネカト犯なのかもしれない。
ペンシルベニア大学医科大学院がネカト調査をしているかどうか不明で、ロバートソン及び室員は無処分である。
ペンシルベニア大学医科大学院(Perelman School of Medicine University of Pennsylvania)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:ウェイン大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。1987年に学士号を取得した時を22歳とした
- 現在の年齢:59 歳?
- 分野:ウイルス学
- 不正論文発表:1998~2020年(33~55歳?)の23年に及ぶ46論文が疑念
- 発覚年:2020年(55歳?)
- 発覚時地位:ペンシルベニア大学医科大学院・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者のパスパラム・リーバ(Paspalum Laeve)(素性不明)が「パブピア(PubPeer)」で公表
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部 。②ペンシルベニア大学医科大学院・調査委員会は調査していない? ③研究公正局も調査していない?
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない?
- 大学の透明性:調査していない? 発表なし(✖)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:46論文が疑念。撤回論文なし
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人: 村上雅尚(Masanao Murakami 2003 – 2009年ポスドク、現在は高知学園大学・健康科学部・教授)
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は今のところ1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。1987年に学士号を取得した時を22歳とした
- 1987年(22歳?):ハワード大学(Kanpur)で学士号取得:微生物学
- 1992年(27歳?):ウェイン大学(Wayne University)で研究博士号(PhD)を取得:微生物学と分子遺伝学
- 1992年(27歳?):ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)でポスドク
- xxxx年(xx歳):ミシガン大学医科大学院(University of Michigan Medical School)・準教授
- xxxx年(xx歳):ペンシルベニア大学医科大学院(Perelman School of Medicine University of Pennsylvania)・教授
- 2020年(55歳?):画像ねつ造・改ざんが発覚
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★黒人のスーパースター科学者
アール・ロバートソン(Erle Robertson、Erle S. Robertson、写真出典)は黒人である。米国では黒人の科学者はとても少ない。
ロバートソンはNIHから1996~2020年の25年間に117件、32,943,010ドル(約33億円)のグラントを受領しているスーパースター科学者である。 → Grantome: Search、RePORT ⟩ RePORTER
★経緯
アール・ロバートソン(Erle Robertson、Erle S. Robertson)のネカトの経緯や状況はほぼ不明である。
2020年1月(55歳?)、パスパラム・リーバ(Paspalum Laeve)がロバートソンの論文中のウェウスターンブロット画像の重複を指摘した。白楽はリーバの素性を把握していないが、パスパラム・リーバ(Paspalum Laeve)はイネ科の多年生植物・スズメノヒエの学名なので、仮名だと思われる。
2020年11月(55歳?)、リーバに加え、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)もウェウスターンブロット画像の重複を指摘した。
2021年4月12日(56歳?)現在、「パブピア(PubPeer)」では46論文が問題だと指摘されているが、撤回論文はゼロである。
仮に不正なデータねつ造・改ざんだとしても、ロバートソンがネカト犯ではなく室員がネカト犯なのかもしれない。
ペンシルベニア大学医科大学院がネカト調査をしているかどうか不明で、ロバートソン及び室員は無処分である。
研究公正局が調査中かどうかも不明である。
研究室の現在の室員は本人を含め15人いる(以下写真出典)。男性が多く、中国系が幾分多い。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
アール・ロバートソン(Erle Robertson、Erle S. Robertson)の疑念論文をパブピアで点を探ったが、46論文もあるので全部は示せない。
適当に2論文を選んだ。1論文は日本人の村上雅尚(Masanao Murakami)が共著者になっている「2006年2月のJ Virol」論文を選んだ。
★「2018年4月のJ Virol」論文
「2018年4月のJ Virol」論文の書誌情報を以下に示す。2021年4月12日現在、撤回されていない。
- Lactic Acid Downregulates Viral MicroRNA To Promote Epstein-Barr Virus-Immortalized B Lymphoblastic Cell Adhesion and Growth.
Mo X, Wei F, Tong Y, Ding L, Zhu Q, Du S, Tan F, Zhu C, Wang Y, Yu Q, Liu Y, Robertson ES, Yuan Z, Cai Q.
J Virol. 2018 Apr 13;92(9):e00033-18. doi: 10.1128/JVI.00033-18. Print 2018 May 1.
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/998E86FD7DE22AE3759B84505D937B
2020年11月2日、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が図1Bと図2Cの赤枠で示した図が別の細胞なのに重複使用されていると指摘した。
エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が図4と図8の緑赤枠で示した図が重複使用されているとも指摘した。
2021年2月24日、著者たちは重複使用を指摘され図を訂正した。
→ Correction for Mo et al., “Lactic Acid Downregulates Viral MicroRNA To Promote Epstein-Barr Virus-Immortalized B Lymphoblastic Cell Adhesion and Growth” | Journal of Virology
★「2006年2月のJ Virol」論文
日本人の村上雅尚(Masanao Murakami)が共著者になっている「2006年2月のJ Virol」論文の書誌情報を以下に示す。2021年4月12日現在、撤回されていない。
- Epstein-Barr virus protein can upregulate cyclo-oxygenase-2 expression through association with the suppressor of metastasis Nm23-H1.
Kaul R, Verma SC, Murakami M, Lan K, Choudhuri T, Robertson ES.
J Virol. 2006 Feb;80(3):1321-31. doi: 10.1128/JVI.80.3.1321-1331.2006.
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/04E3A15183E9DC05A39F6585BCB868
エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)とは別人のパスパラム・リーバ(Paspalum Laeve)が最初に画像の疑念を指摘した。
図2の同じ色枠で示したバンドが重複使用されていた。
エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)は図2の下段のバンドも同じバンド(オレンジ色枠)が使用されていると指摘した(以下)。
パスパラム・リーバ(Paspalum Laeve)は、図6Bの青色枠のレーンが同じだと指摘した。同じ画像に同じレーンを使うなんて、ネカトした人は、う~ん、かなり大胆というか、乱暴というか、世の中を甘くみています。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2021年4月12日現在、パブメド( PubMed )で、アール・ロバートソン(Erle Robertson、Erle S. Robertson)の論文を「Erle S. Robertson [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の166論文がヒットした。
「Robertson ES」で検索すると、1951~2021年の71年間の196論文がヒットした。
2021年4月12日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2021年4月12日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでアール・ロバートソン(Erle Robertson、Erle S. Robertson)を「Erle S. Robertson」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。
「Robertson」で検索すると、6論文がヒットしたが、アール・ロバートソン(Erle Robertson、Erle S. Robertson)とは別人だった。
★パブピア(PubPeer)
2021年4月12日現在、「パブピア(PubPeer)」では、アール・ロバートソン(Erle Robertson、Erle S. Robertson)の論文のコメントを「”Erle S. Robertson”」で検索すると、1998~2020年の23年に及ぶ46論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》ステップ初期
現在、データねつ造・改ざんへの主要な対処は次のステップで進む。
- データねつ造・改ざんがパブピア(PubPeer)で指摘され、指摘者が学術誌とネカト疑惑者の所属大学に通報する
- 学術誌が対応し、論文を撤回する
- 「撤回監視(Retraction Watch)」が論文撤回を記事にする
- 所属大学が調査する。クロなら解雇(辞職)などの処分を科す。調査結果を発表する場合としない場合がある
- 米国の場合、研究公正局が調査し、クロなら実名報道し、処分を科す
- 産業メディア(新聞など)が報道する
- 極端な場合、裁判となる
今回のアール・ロバートソン(Erle Robertson)の場合、まだ「1」の段階で、これからロバートソン事件となっていくと予想される。
現在、ネカト発生状況が調査されていないし(または調査中?)、報道されていない。それで、状況は良くわからない。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】
① 2020年12月31日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)記者の「Science Integrity Digest」記事:2020: A year in review – Science Integrity Digest
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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