マシュー・エンド(Matthew M. Endo)(米)

2018年1月1日掲載。謹賀新年。

ワンポイント:姓と顔付きから日系米国人と思われる。出版前の投稿論文のデータねつ造・改ざんが指摘された珍しいケース。2017年12月8日(30歳?)、研究公正局がネカトと発表した。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois at Urbana-Champaign)・化学科の院生。2016年7月(29歳?)頃、指導教員のマーティン・バーク助教授(Martin D. Burke)が「2016年のProc. Natl. Acad. Sci. USA」投稿原稿のデータねつ造・改ざんを見つけた。締め出し期間は標準の3年間。損害額の総額(推定)は1億3千万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

マシュー・エンド(Matthew M. Endo、写真出典)は、米国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois at Urbana-Champaign)・化学科の院生で、専門は生化学だった。姓と顔付きから日系米国人と思われる。つまり、「エンド」は「遠藤」だと思う。

2016年7月(29歳?)頃、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の指導教員のマーティン・バーク助教授(Martin D. Burke)が「2016年のProc. Natl. Acad. Sci. USA」投稿原稿のデータねつ造・改ざんを見つけ、大学に通報した。

2017年12月8日(30歳?)、研究公正局はマシュー・エンドの「2016年のProc. Natl. Acad. Sci. USA」投稿原稿にデータねつ造・改ざんがあったと発表した。処分期間は3年である。

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校・化学図書館(William Albert Noyes Laboratory of Chemistry University of Illinois at Urbana-Champaign)。写真By Beyond My Ken (Own work) [GFDL or CC BY-SA 4.0-3.0-2.5-2.0-1.0], via Wikimedia Commons

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1987年1月1日生まれとする。2005年の大学入学時を18歳とした
  • 現在の年齢:37 歳?
  • 分野:生化学
  • 最初の不正論文発表:2016年(29歳?)
  • 発覚年:2016年(29歳?)
  • 発覚時地位:イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校・院生
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は指導教員のマーティン・バーク助教授(Martin D. Burke)で、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校に公益通報した
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:投稿論文原稿1つ
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 損害額:総額(推定)は1億3千万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円だが、研究者になる直前なので4千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円だが、研究者になっていないので損害額はゼロ円。③院生の損害はゼロ円。④外部研究費として奨学金を得ていたと思われるが、額は①に含めた。⑤調査経費(大学と研究公正局と学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。投稿原稿で査読前なので、損害は少額なのでゼロ円とした。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 結末:辞職。3年間の締め出し処分

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1987年1月1日生まれとする。2005年の大学入学時を18歳とした
  • 2005 – 2008年(18 – 21歳?):シアトル大学(Seattle University)で学士号取得:化学
  • 2009 – 2016年7月(22 – 29歳?):米国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois at Urbana-Champaign)・化学科の院生。指導教員はマーティン・バーク助教授(Martin D. Burke)。修士号取得:化学。
  • 2016年7月(29歳?)?:不正研究が発覚する
  • 2016年12月(29歳?)– 現:米国のカリフォルニア工科大学(California Institute of Technology)・アリソン・オンドラス研究室(Alison Ondrus)の実験室マネージャー(laboratory manager/operations specialist)
  • 2017 – 2021年(30 – 34歳?):法科大学院のロヨラ・ロー・スクール(Loyola Law School)・院生。法務博士(Juris Doctor)
  • 2017年12月8日(30歳?):研究公正局がネカトと発表した。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

2009年(22歳?)、マシュー・エンド(Matthew M. Endo)は、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois at Urbana-Champaign)・化学科の院生になった。

専攻は生化学で、指導教員は、マーティン・バーク助教授(Martin D. Burke)である。

研究は、アムホテリシンB誘導体の合成と作用である。

アムホテリシンB(アンフォテリシンB、アンポテリシンB、amphotericin B)とはポリエン系抗生物質の1つ。真菌の細胞膜のエルゴステロールと結合し、膜に小孔を作ることにより殺菌的に作用する。単体では黄色の結晶。アムホテリシンB – Wikipedia

バーク研究室の院生になって、2012年、2013年、2015年に各1論文出版している。第一著者の論文はないので平均的な院生だったと思われる。

2012年1月17日、バーク助教授の研究成果が大学広報誌に掲載され、マシュー・エンド(25歳?)も一緒に写っている(以下の写真)。

マシュー・エンド(Matthew M. Endo)(左から2人目)。マーティン・バーク助教授(Martin D. Burke)(最右)。写真出典https://archive.is/lcIeg。

2016年7月(29歳?)頃、どういう経緯か不明だが、マシュー・エンドの「2016年のProc. Natl. Acad. Sci. USA」投稿原稿でデータねつ造・改ざんが発覚した。

出版前の投稿原稿で査読される前なので、ねつ造・改ざんを見つけた人は同じ研究室の研究者以外にあり得ない。ボスのバーク助教授がネカトを発見し、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校に通報したのだろう。本記事ではその線で進める。

投稿原稿は査読される前に引き下げられた。

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校は調査し、クロとの結果を研究公正局に伝えた。

2017年12月8日(30歳?)、研究公正局は、マシュー・エンドが「(2016年の)Proc. Natl. Acad. Sci. USA」投稿原稿でデータねつ造・改ざんを行なったと発表した。

【ねつ造・改ざんの具体例】

★研究公正局の結論

2017年12月8日(30歳?)、研究公正局は、マシュー・エンドが「(2016年の)Proc. Natl. Acad. Sci. USA」投稿原稿でデータねつ造・改ざんを行なったと発表した(【主要情報源】①)。

論文タイトル:Amphotericin primarily kills human cells by binding and extracting cholesterol

共著者は記載されていないが、少なくともマシュー・エンドと指導教員のマーティン・バーク助教授(Martin D. Burke)は入っているハズだ。

ネカトの具体的な内容はどんな点だろうか?

白楽を含め第三者は投稿原稿を閲覧できない。パブピアで指摘されるハズもない。研究公正局の報告では以下の点がねつ造・改ざんだと記載されている。

  • 混合物の生物学的試験なのに、単一化合物の生物学的試験だと改ざんした。
  • サポート情報のS26ページで、調製C35deOAmBの純度が高く見えるように、実際のHPLC結果のピークを消すという改ざんをした。
  • サポート情報のS7ページで、表面プラズモン共鳴データの結果を改ざんして、実際の実験結果より誤差バーを小さくした。
  • サポート情報のS32ページで、WST08細胞増殖アッセイを2回したのに、3回したと改ざんした。
  • C2deoAmBの調製結果をねつ造・改ざんした。つまり、指導教員とのやり取りで、HPLCの図とNMRスペクトルのラベルの付け替えを行い、生物学的試験に送付したサンプルの特徴付け、純度、同定を誤らせた。

しかし、以上の記述ではねつ造・改ざんの大きさ(深刻度)の具体的イメージはつかみにくい。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2017年12月31日現在、パブメド(PubMed)で、マシュー・エンド(Matthew M. Endo)の論文を「Matthew Endo [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2008~2015年の8年間の5論文がヒットした。

2017年12月31日現在、論文撤回はない。

2008年(21歳?)にシアトル大学(Seattle University)の学部卒だが、その年の1月、第一著者ではないが、最初の論文「2008年のBioorg Med Chem Lett.」を出版している。2011年にも学部時代の論文が出版された。学部時代はかなり優秀だったと思われる。

バーク研究室の院生になって、2012年、2013年、2015年に各1論文出版している。第一著者の論文がないので平均的な院生だったと思われる。

★パブピア(PubPeer)

2017年12月31日現在、「パブピア(PubPeer)」はマシュー・エンド(Matthew M. Endo)の論文にコメントしていない:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》詳細は不明

この事件の詳細は不明です。

マシュー・エンド(Matthew M. Endo)がどうしてネカトをする状況になったのか不明である。

不明だが、推察してみよう。

マシュー・エンドは、学部時代に2論文、院生になって3論文を出版していた。ただ、第一著者ではないので、研究の進め方や論文の書き方は十分習得できていなかった。

しかし、大学院に入学してから7年も経ち、29歳(?)なのに、博士号が取得できていない。論文にまとめる研究の仕方がわかっていなかったが、何とか第一著者で論文を出版し、博士号を取得したい。研究室の院生の中での焦り、家族や先生から早くしろというプレッシャーを感じていた。

それで、研究遂行に苦悶する中、魔がさして、ネカトに手を染めた。

推察です。

《2》投稿論文のネカト

出版前の投稿論文のネカトが事件報道されるケースは珍しい。2014年5月29日(34歳?)、研究公正局が発表したヘレン・フリーマン事件(Helen C. Freeman)の時に「珍しい」と書いた。マシュー・エンド事件も「出版前の投稿論文のデータ改ざんが指摘された珍しいケース」である。
→ ヘレン・フリーマン(Helen C. Freeman)(米) | 研究倫理(ネカト)

しかし、マシュー・エンド事件の少し前の2017年11月27日に研究公正局が発表したマハンドゥーナウト・チェットラム事件も「出版前の投稿論文のネカト事件」である。
→ マハンドゥーナウト・チェットラム(Mahandranauth Chetram)(米) | 研究倫理(ネカト)

研究公正局が2回連続して「投稿論文のネカト事件」をクロとしたのは、研究公正局の方針に変更があったからだろうか?

多分、偶然だろう。

2017年12月31日現在、研究公正局は2人の部長が辞職し、所長が解雇され、ゴタゴタしている。方針変更できる状況ではない。

なお、白楽は、院生の「投稿論文のネカト」を研究公正局レベルの事件にしてしまうのは、指導教員がおかしいと思う。ヘレン・フリーマン(Helen C. Freeman)(米)の記事の【白楽の感想】にその思いを具体的に書いた。そちらを読んでほしい。

《3》ネカト者のその後の人生

標語:「ネカト者は解雇!」
標語:「ネカト者は学術界から追放!」
標語:「ネカト者に刑事罰と罰金を!」

白楽は、上記の標語のように主張している。

マシュー・エンド(Matthew M. Endo)の場合、損害の総額(推定)は1億3千万円である。

ネカト行為に対する刑事罰や罰金がなく、単に、院生を退学して済ませては、社会システムとしてマズい。これでは、見つからなければネカトした方が得だし、見つかっても処分が軽いのでネカトした方が得だ。社会システムでは、ネカト行為が後を絶たない。

米国・研究公正局は、ネカト者の処罰に大きな欠陥を抱えていると指摘されている。権限上、大学も研究公正局も刑事罰や罰金を科すことができない。一部の識者は、刑事罰を科せるシステムが必要だと主張している。白楽も同感だ。

とはいえ、人間は誰でも十分幸福に生きる権利があるし、十分幸福であるべきだ。学術界から追放されたネカト者のその後の人生は、できるだけ豊かであってほしいと願う。白楽が示した標語は、ネカト者を学術界に残さないこととネカト抑止効果を高める意図だ。

マシュー・エンド(Matthew M. Endo)の場合、どうしてネカトをしたのか、《1》で推察したが、事実は不明だ。ただ、そのゴタゴタを乗り越えているように思える。

アリソン・オンドラス(Alison Ondrus) http://www.ondruslab.caltech.edu/members/

2016年12月(29歳?)から、コレステロール研究のつながりで、カリフォルニア工科大学(California Institute of Technology)・化学/化学工学科のアリソン・オンドラス研究室(Alison Ondrus)の実験室マネージャー(laboratory manager/operations specialist)に採用され、生計を立てている。

そして、2017年(30歳?)から、マシュー・エンドは、法科大学院のロヨラ・ロー・スクール(Loyola Law School)に入学している。法務博士(Juris Doctor)の取得を目指している(取得済?)。

生化学者から弁護士への転身である。

素晴らしいと思う。

法曹界で今度はネカトをしないよう心掛け、豊かな人生を過ごしてほしい。

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●8.【主要情報源】

① 研究公正局の報告。公的発表のすべてを書いてみた。(1)2017年12月8日(3年後にリンクは切れる):Case Summary: Endo, Matthew | ORI – The Office of Research Integrity、(2)2017年12月15日:Federal Register :: Findings of Research Misconduct、(3)2017年12月15日:82 FR 59626 – Findings of Research Misconduct、(4)2017年12月15日テキスト:Federal Register, Volume 82 Issue 240 (Friday, December 15, 2017)、(5)2017年12月15日:PDF、(6)2017年12月21日:NOT-OD-18-121: FINDINGS OF RESEARCH MISCONDUCT
② 2017年12月11日のアンドリュー・ハン(Andrew P. Han)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事: ORI: Ex-grad student “falsified and/or fabricated” data in PNAS submission – Retraction Watch at Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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