ジェームズ・ボールディング(James Bolding)(米)

2021年8月23日掲載 

ワンポイント:ボールディングはテキサス州のヒューストン警察署・犯罪研究所(Houston Police Department, Crime Laboratory)・血清部門(serology unit)の部門長だった。1984年~2000年の17年間、鑑識結果をねつ造・改ざんし、数百人の罪のない人々を有罪にした。2000年9月、監査で、ヒューストン警察署・犯罪研究所が組織的にデータをねつ造・改ざんしていたことが発覚した。冤罪として、例えば、ジョージ・ロドリゲス(George Rodriguez)は、14歳の少女を誘拐・レイプした罪で投獄され、2002年、ボールディングのねつ造・改ざんが証明されるまで、17年間も投獄されていた。ボールディングは解雇される前に退職し、その後、罪に問われていない。国民の損害額(推定)は500億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ジェームズ・ボールディング(James Bolding、顔写真は見つからなかった)は、米国メテキサス州のヒューストン警察署・犯罪研究所(Houston Police Department (“HPD”) Crime Laboratory)・血清部門(serology unit)(後にDNA部門:DNA unit)の部門長(head)で、専門は科学捜査(血液鑑定)だった。

2000年9月(60歳?)、テレビ番組で疑問視されたことから監査が入り、ヒューストン警察署・犯罪研究所が組織的に膨大な量の科学鑑定データをねつ造・改ざんしていたことが見つかった。

ねつ造・改ざんは、1984年~2000年の17年間に及んだ。その結果、罪のない数百人が冤罪で有罪になったと思われる。

例えば、1987年10月、27歳のジョージ・ロドリゲス(George Rodriguez)は、14歳の少女を誘拐・レイプした罪で投獄されたが、ズサンな捜査と科学鑑定データのねつ造・改ざんによるものだった。

2002年(62歳?)、イノセンス・プロジェクトがボールディングの鑑識データのねつ造・改ざんをDNA検査で証明するまで、ロドリゲスは17年間も投獄されていた。

2002年12月(62歳?)、ボールディングは解雇される前に退職した。

その後、ボールディングが逮捕されたとか、有罪になったという報道がない。つまり、ボールディングは罪に問われていない。

ヒューストン警察署・犯罪研究所(Houston Police Department (“HPD”) Crime Laboratory)は現在、ヒューストン法医学センター(Houston Forensic Science Center’s crime lab)になった(と思う)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1940年1月1日生まれとする。2003年6月11日に退職した時を63歳とした
  • 現在の年齢:生きていれば、81 歳?
  • 分野:科学捜査
  • 不正期間:1984年~2000年(44~60歳?)の17年間
  • 発覚年:2000年(60歳?)
  • 発覚時地位:ヒューストン警察署・犯罪研究所・血清部門の部門長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は監査
  • ステップ2(メディア):「Chron」紙など多数、「New York Times」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①イノセンス・プロジェクト(Innocence Project)。②裁判所
  • 調査報告書のウェブ上での公表:あり。http://www.hpdlabinvestigation.org/reports/070613report.pdf
  • 透明性:実名報道で調査報告書(委員名付き)がウェブ閲覧可(◎)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正数:数百件~数千件
  • 時期:キャリアの中期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:退職
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は500億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

ほとんど不明。

  • 生年月日:不明。仮に1940年1月1日生まれとする。2003年6月11日に退職した時を63歳とした
  • 19xx年(xx歳):xx大学(xx)で学士号取得
  • 1980年(40歳?):ヒューストン警察署・犯罪研究所(Houston Police Department (“HPD”) Crime Laboratory)・職員
  • 1984年~2003年(44~-63歳?):同・血清部門(serology unit)(後にDNA部門:DNA unit)の部門長
  • 2000年9月(60歳?):監査で鑑識データのねつ造が発覚
  • 2003年6月11日(63歳?):ヒューストン警察署・犯罪研究所を退職(retire)

●4.【日本語の解説】

★2015年2月18日:グリムス(A.C. Grimes)(konohazukuが翻訳):「情報改ざん・隠ぺい・ねつ造、冤罪はこうして起きる。杜撰で悪質な10の犯罪調査。2. ずさんな仕事ぶりと偏見にまみれた長い歴史をもつヒューストン犯罪ラボ」

2015年2月6日のグリムス(A.C. Grimes)の英文記事http://listverse.com/2015/02/06/10-heinous-cases-of-misconduct-by-crime-investigators/をkonohazukuが翻訳しアップした文章。

出典 → ココ、(保存版) 

テキサス州には死刑制度があるため、被告にとって法医学分析は終身刑か死かどちらかの行方を決める重要な要素だ。その責任は重いはずなのに、ヒューストン警察の犯罪ラボが、誤ったDNA分析を頼りに虚偽の証言をしたことで損なわれた事件は少なくとも5000件から1万件にのぼるという。

法医学分析官のジェイムズ・ボールディングは、血液サンプルの分析基礎さえ理解していなかったため、法廷で虚偽の証言をして、無実の人たちを有罪にした。ジョージ・ロドリゲスはやってもいないレイプの罪で17年も服役し、ジョシュア・サットンは4年も投獄された。

数百もの事件を示談にしたボールディングは、不適格者ばかりのヒューストン犯罪ラボの象徴のような存在だった。このラボには信頼のおけない分析を故意に行う文化がはびこっていた。無秩序が蔓延し、改ざんなど日常茶飯事。サンプルはたいてい汚染されてしまっていた。

腐敗の歴史は1980年代にさかのぼる。強制的に2度、活動休止に追い込まれたラボは、2002年にもずさんな仕事ぶりに閉鎖され、2008年には内紛で検定試験をごまかしたことが発覚、2度目の閉鎖に追い込まれた。2014年には、別の法医学分析官がラボのやり方や公的記録改ざんにはもう耐えられないと告白して辞職した。このおかげで、180件もの事件が疑わしくなった。ラボの不正行為の割合はあまりにも多すぎて、正確に確認することはできないかもしれない。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★少女の誘拐とレイプ事件

1987年2月24日、米国テキサス州のヒューストンで道を歩いていた14歳の少女(日本だと中学2年生)が、2人の男性に車の中に押し込まれ誘拐された。 少女は、その後、3人目の男がテレビをみていた家に連れ込まれ、2人の誘拐犯にレイプされた。
 → 記事:George Rodriguez – National Registry of Exonerations

少女は解放された後、警察に駆け込み、レイプされた家に警察官を連れて行った。

その家はマヌエル・ベルトラン(Manuel Beltran)の家で、警察官はマヌエルを逮捕した。テレビをみていた3人目の男は、兄のウヴァルド・ベルトラン(Uvaldo Beltran)だった。

警察の報告によると、マヌエルはすぐに犯罪を自白した。さらに別の男、イシドロ・ヤネス(Isidro Yanez)も共犯だと述べた。

兄のウヴァルド・ベルトランは、彼の弟マヌエルとヤネスが少女を家に連れてきて、少女を寝室に押し込んだと、警察に伝えた。

しかし、ベルトラン兄弟を良く知っている警察官のワヴロ(Wawro)は、マヌエルがジョージ・ロドリゲス(George Rodriguez)の仲間だと知っていた。さらに、被害者の少女は誘拐犯の1人が別の誘拐犯を「ジョージ」と呼んでいたと、と述べた。

それで、警察はジョージ・ロドリゲスが共犯だと信じ込み、ロドリゲスの雇用主に確認した。

雇用主は、少女がレイプされていた時間に、ロドリゲスは職場で働いていたと警察に伝えた。つまり、レイプ犯行時にロドリゲスは職場にいたというアリバイがあった。

ところが、そのアリバイ証言の前に、犠牲者の少女は、ヒューストン警察署で何枚も並べられた写真の中から、犯人としてロドリゲスを選んでいた。

2人の誘拐・レイプ犯はマヌエルとヤネスの犯行と断定される状況だったのに、ヒューストン警察署はジョージ・ロドリゲスに固執した。

そして、ヒューストン警察署・犯罪研究所(Houston Police Department (“HPD”) Crime Laboratory)の科学鑑定官のジェームズ・ボールディング(James Bolding)は、犠牲者の少女のパンティーから回収された陰毛を顕微鏡で観察し、ロドリゲスの髪の毛の特徴と一致していると結論したのである。

鑑定を担当したボールディングは、被害者の衣服やレイプキットのサンプルで見つかった精液には、マヌエルのがあったと証言した。さらに、ボールディングは、ヤネスは犯人ではないと証言した。そして、ロドリゲスの犯行の可能性を除外できないと証言した。

当時、DNA検査法は確立していなかった。

ボールディングが鑑定した陰毛の顕微鏡観察と精液の血液型の結果はロドリゲスの犯人説を裏付けた。

裁判では、ボールディングの証言がロドリゲスの犯行を示す唯一の科学的な証拠となった。

それで、ロドリゲスは起訴された。

1987年10月、事件から8か月後、結局、27歳のジョージ・ロドリゲス(George Rodriguez、写真は27歳の時かどうか不明。出典)は、14歳の少女の誘拐とレイプの罪で懲役60年の刑を言い渡された。

少女は写真判定でジョージ・ロドリゲスを犯人としたが、後に、少女は襲われた時、犯人の顔を3~4秒しか見ていなかったと証言した。

なお、少女にヤネスの顔写真が示されたのは、レイプ事件の2か月後だった。

その写真判定では、少女はロドリゲスとヤネスの両方の写真を選んだ。両方はよく似ていた。そして、最終的に少女は、ロドリゲスを加害者として再び特定した。

★ジェームズ・ボールディング(James Bolding)

1984年~2003年の20年間、ヒューストン警察署・犯罪研究所(Houston Police Department (“HPD”) Crime Laboratory)・血清部門(serology unit)(後にDNA部門:DNA unit)の部門長(head)の責任者だったジェームズ・ボールディング(James Bolding)は、上記のように血液型判定でジョージ・ロドリゲス(George Rodriguez)を誘拐とレイプの罪で有罪となるような科学鑑定をした。

2000年9月(60歳?)、テレビ番組で疑問視されたことから監査が入った。鑑査の結果、ヒューストン警察署・犯罪研究所は組織的に膨大な量の科学鑑定データをねつ造・改ざんしていたことが発覚した。

このスキャンダルの恐ろしい側面は、数千人までいかないまでも、数百人もの罪のない人が、犯してもいない犯罪のために刑務所に送られたことだ。また逆に、犯罪者を無罪にし、犯罪者が自由に街をうろつきまわったことだ。

2003年以降、罪人とされた事件の証拠が再検証され、約6か月ごとに約1人の男性が科学鑑定データのねつ造・改ざんだと証明され、釈放されている。

ヒューストン警察署・犯罪研究所(Houston Police Department (“HPD”) Crime Laboratory)の血清部門(serology unit)(後にDNA部門:DNA unit)は、1984年以降の17年間、責任者だったジェームズ・ボールディング(James Bolding)を始め、クリスティ・キム(Christy Kim)、ジョセフ・チュー(Joseph Chu)、レイダン・ヒルマン(Reidun Hillman)が組織的に科学鑑定データのねつ造・改ざんを行なっていた。

科学鑑定データのねつ造・改ざん の背景として、ズサンでいいかげんな職場の空気が常態化していたと指摘されている。また、予算が乏しく、ボールディングとその鑑定技師たちは、鑑定技術の教育・訓練が受けられず、鑑定知識・技術の基本が修得できていない無能集団だったともいわれている。

2002年12月(62歳?)、ヒューストン警察署・犯罪研究所は閉鎖され、ボールディングと技師たちは解雇される前に退職した。

その後、ボールディングが逮捕されたとか、有罪になったという報道がない。つまり、ボールディングは罪に問われていない。

★イノセンス・プロジェクト(Innocence Project)

ジェームズ・ボールディング(James Bolding)の事件は、同じ血液型鑑定を仕事とした科学鑑定官のフレッド・ザイン(Fred Zain)の事件とよく似ている。ボールディング事件の10年前の1993年にDNA鑑定で、フレッド・ザインのねつ造・改ざんが証明されていた。 → 2015年11月16日記事:フレッド・ザイン(Fred Zain)(米) | 白楽の研究者倫理

以下は「フレッド・ザイン(Fred Zain)」の記事から引用

――――ここから

米国では、無実の人を330人も有罪にしてきた歴史がある。DNA鑑定で、投獄されていた人を無実だと証明し、その無実の人を救済する組織「イノセンス・プロジェクト」がある(イノセンス・プロジェクト – Wikipedia)。「イノセンス・プロジェクト」のサイト → The Cases — The Innocence Project

1992年ニューヨークで弁護士のバリー・シックとピーター・ニューフェルドがイノセンス・プロジェクトを発足させた。このプロジェクトはアメリカとオーストラリアの40以上の法科大学と市民団体から構成する巨大プロジェクトに成長している。(DNA型鑑定 – Wikipedia

――――ここまで

ボールディングの科学鑑定がねつ造・改ざんだと発覚するまで、レイプ犯として有罪の宣告を受けたジョージ・ロドリゲス(George Rodriguez)は何度も無罪を訴え、控訴していた。しかし、控訴審ではすべて敗訴していた。

ロドリゲスの味方になって、科学鑑定の不正を暴いたのは、上記した「イノセンス・プロジェクト」である。

2002年、1987年10月に有罪と判決されてから15年後、イノセンス・プロジェクト(Innocence Project)の弁護士たちはロドリゲスの訴訟に取り組み始めた。

しかし、 ロドリゲス事件での生物学的証拠品のほとんどは1995年に廃棄されていた。

ただ、犠牲者の少女のパンティーから回収された陰毛、ロドリゲスの毛髪と同じとされた証拠品、が見つかった。

この陰毛は、間違った血清学的鑑定とともに、ロドリゲスを犯人に仕立てた2大物的証拠品の1つだった。

2003年、ロドリゲスは陰毛のDNA検査を請願し、裁判所がそれを認めた。

2004年、1987年には実施できなかった証拠品のDNA鑑定の結果、犠牲者の少女のパンティーから回収された陰毛はロドリゲスの陰毛ではなかった。そして、それは、ヤネスの陰毛の可能性が浮上した。

さらに、検察のさらなる捜査で、裁判の時点でタイプミスがあり、レイプキットのサンプルと被害者の衣服に付着した精液はヤネスの精液の可能性が大きくなった。

2005年8月末、テキサス刑事控訴裁判所(Texas Court of Criminal Appeals)は、これらの科学的結果に基づいて、ロドリゲスの有罪を正式に破棄した。

2005年9月末、地方検事はすべての告訴を却下した。

DNA検査の結果が有罪判決をひっくり返し、刑務所で17年間過ごしたロドリゲスの有罪判決は破棄された。

弁護士はまた、ボールディングによって行われた事件の血液分析に疑問を呈している。「ボールディングの裁判の証言には、血清学についてひどい間違いがあります。彼が血液型分析の最も基本的な原理を理解できていないか、または意図的に誤った証言をしたことは明らかです」。

イノセンス・プロジェクトの弁護士を務めるヒューストンのマーク・ワウロ弁護士(Mark Wawro)は「ボールディングが嘘をついているのか、本当に無能なのかわからない」と、述べた。

以下は2007年6月13日付けの調査報告書の冒頭部分(出典:同)。全文(403ページ)は → http://www.hpdlabinvestigation.org/reports/070613report.pdf

★ロドリゲスの釈放と補償金3億円

2004年、ジョージ・ロドリゲス(George Rodriguez)は、彼が犯していないレイプと誘拐の罪で17年間の刑務所に入れられた後、イノセンス・プロジェクトの助力のお蔭で無罪が証明され、釈放された。

2011年、釈放から7年後、連邦裁判所は2009年にロドリゲスに500万ドル(約5億円)の補償金を払うよう裁定した。しかし、ヒューストン市はすぐに上訴した。

それで、イノセンス・プロジェクトの法務チームは、さらに高額の3500万ドル(約35億円)を要求する裁判を起こした。

2012年11月3日、しかし、52歳のジョージ・ロドリゲス(George Rodriguez、写真出典)は、300万ドル(約3億円)でヒューストン市と和解した。 → 2012年11月3日記事:$3 million for a life shattered by a wrongful conviction: Houston f… – CultureMap Houston

アニース・パーカー市長(Annise Parker)は「ヒューストンの市民を代表して、あなたに謝罪する」とロドリゲスに謝罪した。

【ねつ造・改ざんの具体例】

上記したので省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

ジェームズ・ボールディング(James Bolding)は、学術研究者ではないし、科学鑑定データねつ造・改ざんしていた時代が1984~2003年(44~63歳?)と古い。

省略

●7.【白楽の感想】

以下の一部は科学捜査でネカト事件を起こした「リチャード・カレリー(Richard Callery)」の記事から修正引用した。
 → 2016年9月27日記事:リチャード・カレリー(Richard Callery)(米) | 白楽の研究者倫理

《1》監察・法科学分析(科学捜査)の鑑定結果のねつ造・改ざん

監察医・法科学分析官の杜撰でいい加減な行為と鑑定結果のねつ造・改ざんは、相当深刻な事件である。

犯罪がらみの死体の検視で多数のねつ造・改ざんが起こった。証拠品の鑑定・法科学分析では数千件のねつ造・改ざんがあった。

監察医が解剖し検視した後、死体は焼却処分される。監察医が組織ぐるみでいい加減な検視をした場合、検視報告書のねつ造・改ざんをチェックする人がいない、方法がない、システムがない。

また、対象となる死体は一体しかないし、既に焼却処分されていて、一緒に検視した仲間がグルだと、すべてが闇の中で、打つ手がない。

証拠品の科学鑑定・法科学分析も同様だ。

そもそも、証拠品保管室の中の薬物はどの犯罪の証拠品なのかわからなくなっている。その状況で、証拠品の化学分析をチャンとしても、どの犯罪と関連しているかチェックする方法がない。しかも、証拠品の化学分析もいい加減だった。

証拠品が証拠にならない。すべてが闇の中で、打つ手がない。

《2》古畑種基の時代から進歩してない?

日本には、科学鑑定の父とも言うべき古畑種基(1891~1975年)がいて、その名声は白楽も知っている。1947年に学士院会員、1956年には文化勲章を受章した著名な法医学者である。

しかし、その古畑種基が御用学者でデタラメな科学鑑定をしていたことはほとんど知られていない。 → 池田正行(長崎大学・教授)の2015年2月4日記事:医学部では教えない、ある法医学者の「業績」:日経メディカル

ウィキペディア「古畑種基」は、次のように述べる。

―古畑が検察の思惑に乗って証拠を捏造した、あるいは検察の捏造を黙認したという疑惑は早くからささやかれていた。しかし再審になれば古畑の権威は地に落ち、捏造がばれると罪に問われるため、裁判官も、検察官も、新聞記者も黙っていた。古畑が昭和五〇年に亡くなると、古畑鑑定に絡む冤罪事件の再審が一斉に始まった。―(2012年5月28日の礫川全次の記事:古畑種基と冤罪事件 – 礫川全次のコラムと名言

古畑種基の鑑定から半世紀が経過するが、日本の科学鑑定は健全になったのだろうか?

池田正行(長崎大学・教授)は否定的である。

いくら最高裁が科学的証拠認定を求めても、「検察の理念」には「科学」という言葉は登場しません。検察官・裁判官を対象にした科学教育プログラムはいまだどこにも存在しません。科学教育同様、彼らに対する職業倫理教育も存在しません。科学も倫理も知らなければ、科学研究倫理は理解できません。研究倫理が理解できなければ研究不正を認定できるわけがありません。(池田正行(長崎大学・教授)の2017年6月7日記事:科学捜査と研究不正:日経メディカル

わが国では、検察官および裁判官について、それぞれに固有の倫理規範が存在していません」(出典:検察官および裁判官の倫理教育プロジェクト)と指摘される現状に、白楽は唖然とする。早急に改善しないのだろうか?

そのつもりで見ると、例えば、以下の日本の2019年の判決はどうなんだろう? と感じてしまう。

自身が執刀した女性患者に対してわいせつな行為をしたとして、準強制わいせつ罪で逮捕・起訴された男性外科医に対する裁判で、東京地裁(大川隆男裁判長)は2月20日、男性外科医に無罪(求刑懲役3年)を言い渡した。(2019年3月5日記事:検査者としての科捜研研究員の誠実性-乳腺外科医裁判判決文の詳報◆Vol.6 | m3.com

この男性外科医の事件に関する2019年2月20日の江川紹子の記事は、「刀がなまってる なんだかなあ」という印象だ。 → 乳腺外科医への無罪判決が意味するもの(江川紹子) – 個人 – Yahoo!ニュース

《3》犯罪関連の科学鑑定書のねつ造・改ざん

犯罪関連の科学鑑定書のねつ造・改ざんは米国では何件も事件になっている。

一方、日本ではほとんど報道されていない。半世紀前の古畑種基の時と状況は同じなのだろうか?

明白な事件は、2012年12月17日の1件のみしか報道されていない。

2012年12月17日「科捜研職員を書類送検 和歌山県警、鑑定データ捏造容疑保存版):日本経済新聞」を修正引用する。

和歌山県警科学捜査研究所(和歌山市)の男性主任研究員(50)による鑑定データ捏造(ねつぞう)問題で、和歌山県警は[2012年12月]17日、証拠隠滅、有印公文書偽造・同行使の疑いで、研究員を書類送検した。

県警は17日、停職3カ月の懲戒処分にし、研究員は同日、依願退職した。

研究員は2010年5月~12年1月、交通事故や無理心中など6つの事件の捜査で、繊維や塗膜片の鑑定結果を上司に報告する際、一部に過去の鑑定データを流用し所長決裁を受けた疑いが持たれている。

県警は過去の事件についても、さかのぼって捜査。研究員が関わった約8千の事件を調べ、うち19事件にデータ流用の疑いがあったが、いずれも時効が成立していた。

しかし、実際はもっと多発しているのではないだろうか?

なお、この事件は後日談がある。

実はこの研究員、1998年7月に起きた「和歌山カレー事件」 で、殺人に使用されたヒ素の鑑定にかかわっていたのだ。

この事件で殺人罪などに問われ、判決が確定した林真須美死刑囚(51)は逮捕時から無罪を主張し、現在、再審請求中だ。

研究員は、県警監察課の取り調べに対し、カレー事件での捏造は否定しているというが、ほかの事件でのヒ素鑑定について、「写真のピントがあっておらず、チャートの波形が悪いと見栄えが悪いので、過去のものを流用した」「上司と折り合いが悪く、見栄えが悪いと叱られると思った」などと答えたという。(2012年12月26日 記事:和歌山カレー事件に新展開? 鑑定担当者「証拠捏造」で退職 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)保存版

さらに最近では、2021年、近畿大学・法医学の巽信二・元教授の解剖検査料不正が報道されている(下線は白楽)。 

府警から委託された司法解剖の際、薬物や細菌などの検査をやっていないのにやったように装い、虚偽の結果を記載した報告書を府警に提出するなどして、計約5166万円の検査料をだまし取ったとされる。(2021年8月6日記事:近大元教授と元部下を詐欺罪で起訴 解剖検査料不正容疑:朝日新聞デジタル

しかし、

府警によると、巽容疑者らは報告書とは別に、刑事裁判で証拠として扱われる司法解剖の正式な鑑定書も作成していた。

ただ、府警が確認したところ、鑑定書にいずれも虚偽の結果は記載されていなかったという。このため府警刑事総務課は「すでに実施された捜査や裁判への影響はなかった」としている。(出典:同上)

虚偽の結果を記載して提出したのに、虚偽の結果は記載されていないって、府警はどうやってわかったの? 嘘としか思えないけど。そして、それを新聞記者は追及しない。

どうやら、半世紀前の古畑種基の時と同じで「裁判官も、検察官も、新聞記者も黙っている」状況なのだ。

これは、相当、コマッタ問題だ。

《4》犯罪関連のデタラメな検視行為

糾弾 日本の政治改革 変死体の監察医 殺人天国日本」(保存版)に以下のデタラメな監察医の記述がある。信用できる内容かどうか、白楽は確かではない。

不思議なのは神奈川県のわずか3人しかいない監察医だ。 

下の表はその一人伊藤順通(まさみち-東邦大名誉教授)と言う日本の解剖医学会の権威者のでたらめな検死の数だが神奈川県内での変死者の半数以上が伊藤の検死で、まさに異常というほかない。

年度  変死者数  伊藤の検死数  解剖数  得ていた収入(推定)
1996年  5076  3010  69  6,227万円
1997年  5534  3286  71  6,785万円
1998年  6590  3529  72  7,274万円
1999年  7182  3419  62  7,024万円

通常は解剖の多い監察医でも検死数は年間 500体前後で、時間的にそれ以上検死、解剖する事は不可能だと言う。 

ベテランでも死因を特定するための解剖には少なくとも30分から1時間はかかり、平均的な解剖率は変死体の25%~30%と言うが、伊藤はわずか 2%程度しか解剖してない。

東邦大医学部教授だった95年、オウム事件で殺害された弁護士の坂本堤さんの遺体の司法解剖をした事でも知られているが、裁判の中で「解剖は95年9月8日午後2時から9時半ごろまでかかった。」と述べている。 実に7時間半もかけたと言う。

しかし明らかに「頭がい底粉砕骨折」を「窒息死」と判定し、裁判の中で弁護士に「あなたの証言が一貫しないのは、どういうわけですか。」などと言われている。 つまりこの時も解剖などしてないのだ。

神奈川県はまさに殺人天国と言える。 伊藤監察医は外見だけ見て「心筋梗塞」「脳梗塞」「自殺」などの死因をつけ、ほとんど死体に触れることなく検死を終えていた。

日本は、科学捜査の鑑定結果の真偽の担保にどんな対策がとられているのであろうか?

白楽は、絶対的信頼や強い威信・権威のある個人・組織が研究ネカトをすると考えている。その場合の社会の被害と影響は甚大である。社会システムの根幹を揺るがす事態にも発展する。

「絶対的信頼」「強い威信・権威」の個人・組織をチェックするシステムが絶対に必要である。日本にどんなシステムがあるのだろうか? それとも、まったくないのだろうか?

《5》米国の類似事件

米国では、罪関連の科学鑑定書のねつ造・改ざん事件がたくさん起こった。しかし、米国社会は事件からしっかり学んだようには思えない。その後も事件が多発している。

以下の事件は既に解説した。
フレッド・ザイン(Fred Zain)(米)」は、約30年前の大事件。
アニー・ドゥーカン(Annie Dookhan)(米)」は、2012年の大事件。
リチャード・カレリー(Richard Callery)(米)」 は、 2014年の大事件

以下の事件は、いずれ、記事として解説する予定だ。
・デヴィッド・コフォード(David Kofoed)(米)

以下のたくさんの事件も起こっている(こちらは、記事にしない予定)。

Joyce Gilchrist
Dee Wallace
Garry Veeder
Elizabeth Mansour
Anne Marie Gordon
Charles Smith
James E. Price,
Deborah Madden

上記を含めたリスト →  http://www.corpus-delicti.com/forensic_fraud.html、14127保存版

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】

① 2004年8月5日のアダム・リプタク(Adam Liptak)記者とラルフ・ブルーメンソール(Ralph Blumenthal)記者の「New York Times」記事:New Doubt Cast on Testing in Houston Police Crime Lab – The New York Times
② 2004年8月5日のスティーブ・マクビッカー(Steve Mcvicker)記者の「Chron」記事:Crime lab evidence again questioned
③ 2007年10月18日のロザンナ・ルイス(Rosanna Ruiz)記者の「Chron」記事:Man freed in rape fights to clear name
④ 2011年7月22日更新のロザンナ・ルイス(Rosanna Ruiz)記者とロバート・クロウ(Robert Crowe)記者の「Chron」記事:HPD closes crime lab’s DNA unit in wake of cheating probe保存版
⑤ 2012年の著者不記載の記事: THE HOUSTON POLICE DEPARTMENT CRIME LAB SCANDAL AND HOW IT PERTAINS TO DROR’S CASE.
⑥ ジェームズ・ボールディング(James Bolding)関連の42報の「Chron」記事:Search – Chron
⑦ イノセンス・プロジェクト(Innocence Project):George Rodriguez – Innocence Project
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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