2019年6月17日掲載
ワンポイント:2019年5月21日、研究公正局は、ボストン大学医科大学院(Boston University School of Medicine)・教授のクルックシャンク(64歳?)の出版論文1報、投稿原稿1報、セミナー発表1回、研究費申請書2件、の計16個の図の64本のバンド画像にデータねつ造・改ざんがあったと発表した。5年間の締め出し処分を科した。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ウィリアム・クルックシャンク(William W. Cruikshank、写真出典、ORCID iD:?)は、米国のボストン大学医科大学院・肺センター(Boston University School of Medicine Pulmonary Center)・教授で医師ではない。専門は生化学で1982年にインターロイキン 16(Interleukin 16)を発見した。
2014年(59歳?)、匿名のネカトハンターであるクレア・フランシス(Claire Francis)が、クルックシャンクの「2011年のJ Clin Invest.」論文にネカトを見つけ、学術誌「J Clin Invest.」に通報した。
ボストン大学は学術誌「J Clin Invest.」から連絡を受け調査を開始した。
ボストン大学は調査を終え、報告書を研究公正局に送付した。研究公正局も調査をした。
2019年5月21日(64歳?)、クレア・フランシスの通報から5年後、研究公正局は、クルックシャンクの出版論文1報、投稿原稿1報、セミナー発表1回、研究費申請書2件、の計16個の図の64本のバンド画像にデータねつ造・改ざんがあったと発表した。2019年5月13日から5年間の締め出し処分を科した。標準の締め出し期間は3年間なので、5年間はかなり重罰である。
ボストン大学医科大学院(Boston University School of Medicine)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:ボストン大学医科大学院
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1955年1月1日生まれとする。1977年に学士号(BSc)を取得した時を22歳とした
- 現在の年齢:69 歳?
- 分野:生化学
- 最初の不正:2001年(46歳?)?
- 発覚年:2014年(59歳?)
- ネカト行為時地位:ボストン大学医科大学院・教授
- ステップ1(発覚):クレア・フランシス(Claire Francis)が、「2011年のJ Clin Invest.」論文のネカトを見つけ、学術誌「J Clin Invest.」に連絡した。
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌の調査。②ボストン大学・調査委員会。③研究公正局
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:研究公正局がクロ判定(〇)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正数:出版論文1報、投稿原稿1報、セミナー発表1回、研究費申請書2件、の計16個の図の64本のバンド画像。撤回論文1報
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:研究職をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:NIHから5年間の締め出し処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1955年1月1日生まれとする。1977年に学士号(BSc)を取得した時を22歳とした
- 1977年(22歳?):ワシントン & ジェファーソン大学(Washington and Jefferson College)で学士号(BSc)を取得
- 1989年(34歳?):ボストン大学医科大学院(Boston University School of Medicine)で研究博士号(PhD)を取得:生化学
- xxxx年(xx歳?):ボストン大学医科大学院(Boston University School of Medicine)・教授
- 2013年(58歳?):ボストン大学医科大学院の優良発明者(Fellows of the National Academy of Inventors )に選出された:National Academy of Inventors Announces Fellows » Boston University Medical Campus | Blog Archive | Boston University
- 2014年(59歳?):ネカト疑惑の通報を受け、ボストン大学が調査開始
- 201x年(xx歳?):ボストン大学は調査を終了し、調査報告書を研究公正局へ
- 201x年(xx歳?):ボストン大学を辞職
- 2019年5月21日(64歳?):研究公正局がネカトと発表。締め出し期間は2019年5月13日から5年間
●5.【不正発覚の経緯と内容】
2014年(59歳?)、匿名のネカトハンターであるクレア・フランシス(Claire Francis)が、クルックシャンクの「2011年のJ Clin Invest.」論文にネカトを見つけ、学術誌「J Clin Invest.」に通報した。
ボストン大学は学術誌「J Clin Invest.」から連絡を受け調査を開始した。
ボストン大学は調査を終了し、調査報告書を研究公正局の送付した。そして、研究公正局も調査をした。
2019年5月21日(64歳?)、研究公正局がネカトと発表。2019年5月13日から5年間の締め出しを科した。
★研究費受給
ウィリアム・クルックシャンク(William W. Cruikshank)はNIHから1995~2014年の20年間に13件(17件?)、$3,756,927(約4億円)の研究費を受給していた。ところが、2014年受給が最後で、2015年以降受給できていない。
→ Search Results – NIH RePORTER – NIH Research Portfolio Online Reporting Tools Expenditures and Results
以下は、2011~2014年の4年間に7件のNIHからの研究費受給を示した。
2009年のNIH研究費では、1件で$357,577(約3,600万円)も得ていた。
→ Project Information – NIH RePORTER – NIH Research Portfolio Online Reporting Tools Expenditures and Results
2015年以降研究費が獲得できてない。理由は、2014年にクルックシャンク「2011年のJ Clin Invest.」論文のネカトが発覚したからと思える。
★研究公正局
2019年5月21日(64歳?)、研究公正局は、クルックシャンクの「2011年のJ Clin Invest.」論文、「J Clin Invest.」誌への投稿原稿、セミナー発表「Clinical Research Training (CREST) Seminar Series on 09/08/09」、2件の研究費申請書.「R01 CA122737-01A1」・「R01 CA122737-01A2」にデータねつ造・改ざんがあったと発表した。2019年5月13日から5年間の締め出し処分を科した。
データねつ造・改ざんは、電気泳動画像の加工である。無関係な論文からバンド画像をコピーし、複数の画像を組み合わせて新しい図を作るなど、その由来がわからないように操作し、16個の図の64本のバンド画像をねつ造・改ざんした。
研究公正局は、ねつ造・改ざん画像を具体的に示してはない。次項に、パブピア(PubPeer)の指摘で示そう。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
パブピア(PubPeer)が指摘した画像のねつ造・改ざんを見てみよう。「2011年のJ Clin Invest.」論文では指摘していないので、「2006年のJ Immunol.」論文で示す。
★「2006年のJ Immunol.」論文
「2006年のJ Immunol.」論文の書誌情報を以下に示す。2019年6月16日現在、論文は撤回されていない。
- Chemokine receptor CXCR3 desensitization by IL-16/CD4 signaling is dependent on CCR5 and intact membrane cholesterol.
Rahangdale S, Morgan R, Heijens C, Ryan TC, Yamasaki H, Bentley E, Sullivan E, Center DM, Cruikshank WW.
J Immunol. 2006 Feb 15;176(4):2337-45.
どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。
2016年8月8日、図8Dの電気泳動バンドの図は同じ画像の重複使用、途中で切って貼り合わせたと、指摘された「#4 Peer 1 (commented August 8th, 2016 4:22 PM and accepted August 8th, 2016 4:22 PM)」。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/788D313F55096E6C41E61D407B9D83#4
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2019年6月16日現在、パブメド(PubMed)で、ウィリアム・クルックシャンク(William W. Cruikshank)の論文を「William W. Cruikshank[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2017年の16年間の49論文がヒットした。
「Cruikshank WW[Author]」で検索すると、1983~2017年の35年間の134論文がヒットした。
2019年6月16日現在、「Cruikshank WW[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、以下の1論文が撤回されていた。「2011年のJ Clin Invest.」論文が2014年11月に撤回された。
- Loss of nuclear pro-IL-16 facilitates cell cycle progression in human cutaneous T cell lymphoma.
Curiel-Lewandrowski C, Yamasaki H, Si CP, Jin X, Zhang Y, Richmond J, Tuzova M, Wilson K, Sullivan B, Jones D, Ryzhenko N, Little F, Kupper TS, Center DM, Cruikshank WW.
J Clin Invest. 2011 Dec;121(12):4838-49. doi: 10.1172/JCI41769. Epub 2011 Nov 14. Retraction in: J Clin Invest. 2014 Nov;124(11):5085.
共著者の「Yamasaki H」は熊本大学第1内科・助手の時、研究留学した山崎寿人(YAMASAKI Hisato)と思われる。グーグルで検索しても、ヒットしないので、2019年6月16日現在、研究者ではないと思われる。
★撤回論文データベース
2019年6月16日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでウィリアム・クルックシャンク(William W. Cruikshank)を検索すると、1論文がヒットし、1論文が撤回されていた。その1論文は、上記の「2011年のJ Clin Invest.」論文である。Retraction Watch Databaseの上右「Nature of Notice」の右にチェックを入れ、「Retraction」にすると、撤回論文(数)が表示される。
★パブピア(PubPeer)
2019年6月16日現在、「パブピア(PubPeer)」はウィリアム・クルックシャンク(William W. Cruikshank)の8論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.
●7.【白楽の感想】
《1》詳細は不明
この事件の詳細は不明です。
非常に最近の事件なのに、状況をつかめる情報がない。ネカト防止策は、この事件からは学べない。
ただ、締め出し期間が5年間で、処分された時、クルックシャンクは64歳(?)なので、研究職に復帰する可能性はないだろう。
それにしても、2014年にネカトが発覚したのに、研究公正局がクロと発表したのはその5年後の2019年5月21日である。研究公正局の調査は遅すぎだ。
ただ、クルックシャンクはいつボストン大学医科大学院を辞職(解雇?)したのかわからないが、2014年の時点で実質的な処分が科されていたのかもしれない。また、2015年以降、NIH研究費を受給できていない。問題の「2011年のJ Clin Invest.」論文も2014年に撤回されている。それで、研究公正局がグズグズと調査しても、実害はほとんどない。これが、グズグズ調査の原因と理由?
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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●8.【主要情報源】
① 研究公正局の発表:(1)2019年5月21日:Case Summary: Cruikshank, William W. | ORI – The Office of Research Integrity、(2)官報:2019年5月24日:https://ori.hhs.gov/sites/default/files/2019-05/2019-10874.pdf、または、Federal Register :: Findings of Research Misconduct
② 2019年5月21日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事: Former BU prof falsified images, agrees to 5-year funding ban – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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