2022年7月30日掲載
ワンポイント:ベルテック大学(Vel Tech Dr.RR & Dr.SR University)・準教授であるデバラジャンは、2018年(38歳?)、イランのフェルダウシ大学マシュハド校(Ferdowsi University of Mashhad)のミナ・メーレガン(Mina Mehregan)の投稿論文を査読し、その論文を全盗用し、別の学術誌に発表した。直ぐに発覚し、論文は約5か月に撤回された。ミナ・メーレガンは、デバラジャンと同じ学科の研究者に別の論文も盗用された。その盗用を学術誌に通報したが、出版社であるテイラー・アンド・フランシス社(Taylor&Francis)とニール・ヒューイット編集長(Neil Hewitt)はまともな対応をしていない。出版社も編集長もいい加減。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ユバラジャン・デバラジャン(Yuvarajan Devarajan、ORCID iD:?、写真出典)は、インドのベルテック大学(Vel Tech Dr.RR & Dr.SR University)・準教授で、専門は機械工学である。
2018年(38歳?)に、イランのフェルダウシ大学マシュハド校(Ferdowsi University of Mashhad)のミナ・メーレガン(Mina Mehregan)の投稿論文を査読した時、その原稿をそっくり盗用し、別の学術誌に発表した。
直ぐに発覚し、論文は約5か月に撤回された。
インドのベルテック大学はデバラジャンの盗用を調査したとの報道はないが、その後、デバラジャンはセイブエサ工業大学(Saveetha School of Engineering)・教授に就任している。解雇されたためか、栄転なのか、白楽にはワカリマセン。
なお、デバラジャンと同じベルテック大学・機械工学科の別の研究者が、ミナ・メーレガンの別の論文を盗用した。
ミナ・メーレガンは、その盗用を学術誌に通報したが、出版社であるテイラー・アンド・フランシス社(Taylor&Francis)と学術誌のニール・ヒューイット編集長(Neil Hewitt)はまともな対応をしていない。
出版社も編集長もいい加減という例。
ベルテック大学(Vel Tech Dr.RR & Dr.SR University)。写真出典
- 国:インド
- 成長国:インド
- 研究博士号(PhD)取得:インドのアンナ大学ギンディー校
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1980年1月1日生まれとする。根拠は見た目と14年間の教育研究経験ありという記述
- 現在の年齢:44 歳?
- 分野:機械工学
- 不正論文発表:2018年(38歳?)
- 発覚年:2018年(38歳?)
- 発覚時地位:ベルテック大学・準教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は被盗用者であるイランのフェルダウシ大学マシュハド校(Ferdowsi University of Mashhad)のミナ・メーレガン(Mina Mehregan)で、学術誌に公益通報
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②ベルテック大学は調査していない
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
- 大学の透明性:調査していない(✖)
- 不正:盗用
- 不正論文数:1報
- 盗用ページ率:不明だがほぼ100%?
- 盗用文字率:不明だがほぼ100%?
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Dr. D. Yuvarajan – Thermal Engineering – Department of Automobile Engineering
- 生年月日:不明。仮に1980年1月1日生まれとする。根拠は見た目と14年間の教育研究経験ありという記述
- xxxx年(xx歳):インドのアンナ大学ギンディー校(Guindy, Anna University)で修士号と研究博士号(PhD)を取得
- xxxx年(xx歳):インドのベルテック大学(Vel Tech Dr.RR & Dr.SR University)・準教授
- 2018年(38歳?):盗用論文を出版、直ぐに盗用が発覚
- 2018年7月24日(38歳?):盗用論文が撤回
- xxxx年(xx歳):インドのセイブエサ工業大学(Saveetha School of Engineering、SIMATS School Of Engineeringと同じ?)・教授
- 2022年7月29日現在(42歳?):セイブエサ工業大学・教授職を維持:Dr. D. Yuvarajan – Thermal Engineering – Department of Automobile Engineering
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★優秀な研究者
ユバラジャン・デバラジャン(Yuvarajan Devarajan)はウェブサイトで、自分は優秀な研究者だと自慢 記載している。 → 以下の表の出典:Yuvarajan Devarajan – AD Scientific Index 2022、保存版
記載内容が本当かどうか知らないが、優秀さのランキングでは、過去5年間(表の2行目)ではインドのセイブエサ工業大学(Saveetha School of Engineering)で第2位、インドで第131 位、アジアで第1898位である。
★発覚の経緯
2017年初頭(推測)、イランのフェルダウシ大学マシュハド校(Ferdowsi University of Mashhad)のミナ・メーレガン(Mina Mehregan)は、論文原稿を学術誌「Environmental Science and Pollution Research」に投稿した。
しかし、査読結果がなかなか送られてこなかった。
送られてくるまで、約9か月かかった。
2017年11月27日、論文が出版された。
- Experimental investigation of urea injection parameters influence on NOx emissions from blended biodiesel-fueled diesel engines.
Mehregan, M., Moghiman, M.
Environ Sci Pollut Res 25, 4303–4308 (2018). https://doi.org/10.1007/s11356-017-0817-1
論文出版からしばらくして、ミナ・メーレガンは同じ論文が他の著者によって別の国際学術誌「Energy Sources, Part A: Recovery, Utilization, and Environmental Effects」に掲載されていることに偶然気が付いた(以下)。
- Effect of injection parameters on the reduction of NOx emission in neat bio-diesel fuelled diesel engine
Anderson, A.; Devarajan, Yuvarajan; Nagappan, Beemkumar;
Energy Sources, Part A: Recovery, Utilization, and Environmental Effects, 40(2) 2018, 186–192, 10.1080/15567036.2017.1407844
ミナ・メーレガンは自分の論文が出版された学術誌「Environmental Science and Pollution Research」に問い合わせると、上記論文の連絡著者であるユバラジャン・デバラジャン(Yuvarajan Devarajan)が査読者だったと知らされた。
それで、デバラジャンが査読時に論文を盗用したと訴えた。
★盗用論文は撤回
全文盗用なので、盗用は露骨だった。明確な証拠を示して盗用と告発したが、論文撤回までに約5か月かかった。
2018年7月24日、デバラジャンの盗用論文は撤回された。 → 撤回公告:Full article: Statement of Retraction
この約5か月間に盗用論文は17回引用された(8回は自己引用 、同じ所属の別の著者による3回の引用、同じ国の別の著者による6回の引用)。
ところが、上記の撤回公告では、撤回理由を「盗用(plagiarize)」と書かずに「テキストの重複(text overlap)」があったためとされた。
被盗用者のミナ・メーレガンは、この撤回公告の内容では、デバラジャンが意図的に盗用したという撤回の本当の理由を知ることができないと、憤慨している。
★謝罪
2022年6月6日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事には、ユバラジャン・デバラジャン(Yuvarajan Devarajan)の謝罪文が引用されている。要約すると以下のようだ。
まず、私があなたの論文を盗用したという人生で最大の過ちを犯したことをお詫びいたします。そのため、私は肉体的、精神的、そして経済的につらい状況に置かれました。私は今、人生で最悪の状況に直面しています。家族、友人、上司、同僚からひどい扱いを受けています。私は、ショックを受け、簡単には立ち直れない状況です。
私は、あなたの論文を盗用するつもりはありませんでした。その時の私の意図は、あなたの論文をひな型に、自分の論文を執筆するつもりでした。ただ、出版プレッシャーがある中で時間が足りず、原稿の大部分を自分の言葉に置き換えることができないまま投稿せざるを得ませんでした。投稿後、私は内容を変更するよう努めましたが、原稿は1週間未満に受理され、10日以内に掲載されてしまいました。
デバラジャンは「盗用を繰り返すことは決してありません」と付けくわえた。
★もう1報の盗用
2019年、被盗用者のミナ・メーレガンはもう1報、「2020年のInternational Journal of Ambient Energy」が盗用されていることに気がついた。
盗用者はユバラジャン・デバラジャン(Yuvarajan Devarajan)ではないし、デバラジャンの盗用論文の共著者は、誰も共著者になっていなかった。ただ、不思議なことに、デバラジャンと同じインドのベルテック大学(Vel Tech Dr.RR & Dr.SR University)・機械工学科からの論文だった(以下)。
- Influence of injection parameters on NOx emission from biodiesel powered diesel engine by Taguchi technique
S. Manigandan, P. Gunasekar, S. Nithya, J. Devipriya, S. Raja & S. Venkatesh
International Journal of Ambient Energy, (2020) 41:8, 906-910, DOI: 10.1080/01430750.2018.1492447
2020年1月、ミナ・メーレガンは、学術誌「International Journal of Ambient Energy」を発行しているテイラー・アンド・フランシス社(Taylor&Francis)のマネージャーであるベイリー・ヤング(Bailey Young、写真出典)に盗用の件を伝え、専門家に調査を依頼してくださいと依頼した。
2021年1月、上記の丁度1年後、ミナ・メーレガンは、ベイリー・ヤングから次のような手紙を受け取った。
明けましておめでとう! 素敵なホリデーシーズンをお過ごしされたでしょうか。
次のステップをお知らせしたいと思います。 あなたの告発に関して私が依頼した専門家からの返答はまだありません。 それで、私たちは直接、著者にクレームを伝えて、回答を求める予定です。
2021年12月、さらに上記の11か月後、ベイリー・ヤングからその後、何も返事をもらっていないので、ミナ・メーレガンは、状況を問い合わせた。
前回のご連絡から約1年が経過しましたが、その後の状況について何も連絡をいただいておりません。 論文が学術誌のウェブサイトに掲載されている現状を考えると、著者は盗用を否定し、調査チームは著者の主張を単に信じているのでしょうか。この問題に関する最新の状況をお知らせいただければ幸いです。
2022年1月、ところが、上記の1か月以内に、ベイリー・ヤングはテイラー・アンド・フランシス社(Taylor&Francis)を辞めて別の会社に移籍していた。 → Bailey Young | LinkedIn
「撤回監視(Retraction Watch)」は、学術誌のニール・ヒューイット編集長(Neil Hewitt、写真出典、英国のアルスター大学・教授)に状況を問い合わせた。
ヒューイット編集長は、学術誌の担当者に照会すると回答してきた。
2022年6月、しかし、それから数か月経過したが、ヒューイット編集長は、何も言ってこない。
●【盗用の具体例】
省略
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
機械工学の分野の論文を生命科学論文のデータベースで検索する意味があるのか、と思ったが、一応試してみた。
2022年7月29日現在、パブメド(PubMed)で、ユバラジャン・デバラジャン(Yuvarajan Devarajan)の論文を「Yuvarajan Devarajan [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2017~2022年の6年間の12論文がヒットした。
2022年7月29日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2022年7月29日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでユバラジャン・デバラジャン(Yuvarajan Devarajan)を「Yuvarajan Devarajan」で検索すると、本記事で問題にした「Energy Sources, Part A: Recovery, Utilization, and Environmental Effects」論文・ 1論文が2018年7月24日に撤回されていた。撤回理由は盗用である。
★パブピア(PubPeer)
2022年7月29日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ユバラジャン・デバラジャン(Yuvarajan Devarajan)の論文のコメントを「authors:” Yuvarajan Devarajan “」で検索すると、本記事で問題にした論文を含め2論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》直ぐバレる
イラン人の論文をインド人が盗用。研究不正大国どうしの戦いです。
インド人のユバラジャン・デバラジャン(Yuvarajan Devarajan)はまるまる論文を盗用し、直ぐにバレた。
研究者は自分の専門分野の論文を把握するのが仕事だから、直ぐバレて当然である。
そして、デバラジャンは査読時に盗用するという古典的な手を使った。
インドのベルテック大学(Vel Tech Dr.RR & Dr.SR University)がデバラジャンのネカト調査をしたという報道はない。
盗用発覚後、「上司、同僚からひどい扱いを受けています」と書いている。
デバラジャンはセイブエサ工業大学(Saveetha School of Engineering)に移籍しているので、盗用がバレて、それなりの処分を受けたのかもしれない。
ただ、準教授から教授になっているので、栄転だと思う。
《2》不思議
イラン人のミナ・メーレガンはデバラジャンの「2018年のEnergy Sources, Part A: Recovery, Utilization, and Environmental Effects」論文で盗用された。
そして、もう1報、「2020年のInternational Journal of Ambient Energy」論文でも盗用された。
2回目の盗用者はデバラジャンではないし、デバラジャンの盗用論文の共著者でもない。ところが、デバラジャンが所属するインドのベルテック大学(Vel Tech Dr.RR & Dr.SR University)・機械工学科からの論文だった。
これは偶然ではないハズ。
なんでしょう?
ベルテック大学(Vel Tech Dr.RR & Dr.SR University)・機械工学科には研究者間の盗用サークルがあって、情報を共有しているということか?
ベルテック大学は組織的な盗用大学なのか?
論文工場が裏で動いているのか?
なんか、ヘンです。
《3》学術誌と編集長のズサン
研究者のネカト・クログレイを調べていると、いい加減な研究者にたくさん遭遇する。
そして、いい加減な学術誌と編集長にもソコソコ遭遇する。
学術誌はビジネスの1つの業態なので、カネ儲けが主眼である。学術界の規範を尊重するのは円滑な学術誌ビジネスには必要だが、清廉さは必要ない(というか、邪魔。多分)というのは、それなりに理解できる。
編集長はどこかの大学教授が兼業しているので、学者である。つまり、ネカト・クログレイをする研究者側の人間である。
編集長の選出基準に著名度と管理運営能力が問われるが、多分、出版社への従順さや名誉欲・金銭欲の強さ、清濁併せ呑む体質の度合いが重要視されていると思う。つまり、研究倫理観のチェックなしに選出している(誇張すると、研究倫理観はどうでもよいから、チェックなしなのだ)。それで、いい加減な編集長がソコソコいるわけだ。
《4》教訓
- 査読が期限内に返送されない場合、査読者が投稿原稿の内容を盗用している可能性がある。今回は、内容ではなくテキストを含め論文全体を盗用していた。
- いい加減な学術誌がソコソコあるので、妄信しないこと
- いい加減な編集長はソコソコいるので、妄信しないこと
テイラー・アンド・フランシス社(Taylor&Francis)は477万論文も出版している。出典:https://www.tandfonline.com/
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】
① 2019年2月14日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:A reviewer stole a manuscript and published it himself. But you wouldn’t know it from this retraction notice. – Retraction Watch
② 2022年6月6日のエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:A stolen manuscript, part two: The plagiarist begs for forgiveness as another group plagiarizes the same work – Retraction Watch
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