2019年12月23日掲載
白楽の意図:ファネーリ論文の第2弾。以下、第1弾のほぼ再掲。研究者はどうしてネカトをするのか? としばしば質問される。白楽は、規則・処罰が甘く「ヤリ得だからする」と答えているが、科学的に分析した結果の結論ではない。一方、論文出版のプレッシャーに負けてネカトをすると主張する人が多い。白楽は、この説に否定的だ。プレッシャーに負けて不正するなら、職業を問わず、人間、生きていけないし、言い訳としてもナサケナイ。正統的ネカト研究者のダニエル・ファネーリ(Daniele Fanelli)が、ネカトする要因を科学的に分析した「2019年6月のSci Eng Ethics」論文を読んだので(読めてないけど)、紹介しよう。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.日本語の予備解説
4.論文内容
5.関連情報
6.白楽の感想
8.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。
●1.【論文概要】
①論文出版のプレッシャーがあるとき、②研究者間の干渉が弱いとき、③ネカト防止政策の貧弱な国で研究しているとき、④男性の、研究者がネカトを犯す、というのが一般的なネカト要因仮説である。ただし、バイアスのないデータを集めるのが難しいため、これらの仮説は証明されていない。本論文は、学術誌「PLoS ONE」の画像再使用論文(ネカト論文)をシステマティックに解析し、これらの4つの仮説の妥当性を検証した。まず、画像再使用論文を、3つのカテゴリーに分類した。カテゴリー1は「意図しない間違い」、カテゴリー3は「意図的なねつ造・改ざん」、カテゴリー2は1と3の中間で3寄り、のグループである。これらを、マッチド・コントロール解析(Matched-Control Analysis)と条件付きロジスティック回帰分析(conditional logistic regression analysis)で解析した。解析の結果、①学術文化、②論文出版報奨金、③研究者間の干渉、④国家のネカト防止施策、が研究公正に影響を与える結果となった。一方、「論文出版プレッシャー仮説」と「男性ネカト仮説」は否定された。結局、効果的なネカト予防策は、①ネカト行為の告発・処理の規則と仕組みの国家による開発と強化、②研究者間の透明性と相互批判の促進を育む学術文化、であると提言する。
●2.【書誌情報と著者】
★書誌情報
- 論文名:Testing Hypotheses on Risk Factors for Scientific Misconduct via Matched-Control Analysis of Papers Containing Problematic Image Duplications
日本語訳:画像を再使用した論文のマッチド・コントロール解析で、ネカト行為のリスク要因仮説を検証 - 著者:Daniele Fanelli, Rodrigo Costas, Ferric C. Fang, Arturo Casadevall, Elisabeth M. Bik
- 掲載誌・巻・ページ:Science and Engineering Ethics June 2019, Volume 25, Issue 3, pp 771–789
- 発行年月日:オンラインは2018年2月19日。正式は2019年6月
- 引用方法:Fanelli, D., Costas, R., Fang, F.C. et al.. Sci Eng Ethics (2019) 25: 771. https://doi.org/10.1007/s11948-018-0023-7
- DOI: https://doi.org/10.1007/s11948-018-0023-7
- ウェブ:https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11948-018-0023-7
- PDF:https://link.springer.com/content/pdf/10.1007%2Fs11948-018-0023-7.pdf
- プレプリント:2017.年4月12日 Why do scientists fabricate and falsify data? A matched-control analysis of papers containing problematic image duplications | bioRxiv
- 著作権:著作権は著者にあるが、CC-BY 4.0 International licenseである。つまり、この論文は、 Creative Commons Attribution Licenseの条項に基づいて配布されているオープンアクセス論文で、元の著者と出典にクレジットすれば、いかなる媒体でも無制限に使用、配布、複製できる。
★著者
- 第1著者:ダニエル・ファネーリ(Daniele Fanelli)
- 本人のサイト: Daniele Fanelli’s webpages
- 紹介: Daniele Fanelli’s webpages
- 写真: http://danielefanelli.com/aboutMe.html
- ORCID iD:https://orcid.org/0000-0003-1780-1958
- 履歴:Daniele Fanelli’s webpages
- 国:英国
- 生年月日:イタリア。現在の年齢:45 歳?
- 学歴:イタリアのフィレンツェ大学(University of Florence)で2001年に学士号(自然科学)、同大学とコペンハーゲン大学(University of Copenhagen)の共同プログラムで2005年に研究博士号(PhD)(動物行動学・生態学)、ミラノ大学(University of Milan)で2006年に科学コミュニケーションの修士号取得
- 分野: 研究倫理
- 論文出版時の所属・地位:英国のロンドン経済・政治大学のフェローに2017年09月01日就任:Fellow in Quantitative Methodology, Department of Methodology, London School of Economics and Political Science.
ロンドン経済・政治大学(London School of Economics and Political Science.)。写真出典:https://www.linkedin.com/school/london-school-of-economics/
●3.【日本語の予備解説】
★ファネーリ論文の第1弾:「2015年6月のPLoS ONE」論文
出典 → 2019年11月26日記事:「7-44 出版プレッシャーでネカトするわけじゃない | 研究者倫理」
●1.【論文概要】
ネカト行為をする要因は、出版プレッシャー、研究環境、その他の構造的・社会的・心理的要因だと信じられている。研究倫理の政策を決定する際、各要因の重要性をどうとらえるかが重要である。しかし、実際の政策は、科学的な分析結果に基づいていない。政策者の「思い込み」と「思い付き」で政策が決定されている。しかも、その「思い込み」と「思い付き」は問題の多い情報源に依存していることが多い。本論文では、ネカト発生要因を科学的に分析した次の結果を報告する。①研究公正規則の甘い国や論文報奨金を出す国にネカトが起こりやすい。②研究者相互の批判がしにくい研究環境でネカトが起こりやすい。③早期キャリア研究者(院生やポスドクなど)にネカトが起こりやすい。一方、④男性がネカトしがちだという説は支持されない。また、⑤出版プレッシャーがネカト行為の主な原因だという説は全く支持されなかった。従って、ネカト行為を減らすには、①ネカト行為の告発・処理の規則と仕組みの強化、②研究者間の透明性と相互批判の促進、③早期キャリア研究者(院生やポスドクなど)の指導とトレーニングの強化、をすることが重要である。
★2018年02月20日:粥川準二(県立広島大学准教授(社会学)):「研究不正の原因は「プレッシャー」か?」
以下加工引用。
英語圏でも日本でも、研究不正が起こる原因や背景としてしばしば挙げられるのは、「論文発表せよというプレッシャー」である。
今回の事件(白楽加筆:2018年1月の京都大学iPS細胞研究所・助教のネカト事件)でも、当事者の助教に任期が迫り、一流ジャーナルで論文発表しなければならないと焦っていたのではないか、と。英語圏ではそうしたプレッシャーを「論文発表せよ、さもなければ滅びよ(publish or perish)」と表現することもある。だが2015年、そうしたプレッシャーは研究不正の原因にはなっていない、と指摘した研究が発表され、論争になった。
論文が撤回される国、されない国
スタンフォード大学のデニエレ・フェナーリらは、それまでのプレッシャー仮説を支持してきた研究はすべてアンケートかグループインタビューでの調査であり、限界があるものだと退ける。彼らは、撤回された論文611件と訂正がなされた論文2226件の著者の国などの情報を、撤回や訂正がない論文と比較した。
その結果、不正行為があるという申し立て(要するに公益通報)に対応するポリシー(政策方針)がある英国などの国や、特にそれが法制化されている米国などでは、撤回の可能性が低く、逆に論文発表したという業績が現金で報酬を受けるような中国などでは撤回の可能性が高いことがわかった。これらはそれまでの仮説に一致するという。ところが、論文発表したという業績が個々人のキャリアにつながるドイツなどや、その研究機関への予算支出を決定するオーストラリアなどでは、撤回の可能性は変わらないか低かった。
この結果は「プレッシャー仮説に反する」とフェナーリらは書く。
反論があった。
ワシントン大学のフェリック・ファンが方法論的な問題があると述べた上で、研究不正をした科学者たち自身がその原因として論文発表や雇用などのプレッシャーを挙げていることが無視されている、と指摘する。さらに「論文発表せよというプレッシャーと科学的不正行為との間には強い相関がある」ことを明らかにした最近の研究が引用されていない、という。
この「最近の研究」とは、アムステルダム自由大学のジューリー・K・タイディングらが2014年に発表した研究である。
「プレッシャー説」からの反論
タイディングらは、ベルギーやオランダの医学研究者を対象に、論文発表せよというプレッシャーと研究不正の経験についてアンケートした。その結果、回答者314人の15%は過去3年間で捏造や改ざん、盗用をしたことがあると答え、25%が仮説を強化するためにデータや結果を抹消したことがあると答えた。72%はこうしたプレッシャーが「強すぎる」と答え、61%はこのプレッシャーが医学の信頼性や有効性に悪影響を及ぼしていると答えた。プレッシャーの強さと研究不正の深刻さとの間には相関があった。
以下閲覧有料。省略
●4.【論文内容】
●《1》序論
ねつ造・改ざんデータを発表した論文は少数である。しかし、少数とはいえ、無視できない程度には多い。その実際の割合は不明であるが、生物医学論文の1〜4%に問題のある画像操作があり、その一部は意図的なねつ造・改ざんと思われる(Steneck 2006; Bik et al.2016)。また、研究者の1〜2%が少なくとも1回はデータを意図的にねつ造・改ざんしたことを認めている(Fanelli 2009; John et al. 2012)。
論文にねつ造・改ざんデータが含まれる割合は、研究分野、方法論、国およびその他のさまざまな要因で異なる。 研究公正についての研究論文は、ネカトをする社会的、文化的、心理的要因に関する複数の仮説を示している。
本論文では、次の4つの主要な仮説に注目し、これらの仮説を検証しようと考えた。
1. 論文出版プレッシャー仮説
論文を出版しなければというプレッシャー、および/または影響力の高い論文を出版しなければというプレッシャーへの要望・期待に応えるために、研究者はネカトをすると一般的に思われている。 論文出版に基づいて研究者を評価する国(英国など)、論文出版に基づいて昇進・昇給を決定する国(例:米国)、論文出版すると現金で報奨が受けられる国(中国など)では、論文出版プレッシャーは高いかもしれない。論文出版プレッシャー仮説は、研究者の経験と匿名アンケートで支持されているが(van Dalen and Henkens 2012 ; Anderson et al. 2007)、科学的に分析した論文撤回と論文訂正の発生率(Fanelli et al. 2015)、バイアス(Fanelli et al..2017)、出版率の歴史的傾向(Fanelli and Larivière 2016)では否定されている。
2.研究者間干渉仮説
社会学と心理学の理論によれば、研究者仲間・指導者・学術界が自分の論文を精査することが確実な場合、研究者がネカトをする可能性は低くなる(Wright et al..。2008)。研究者間の相互チェックと不正行為を取り締まるドイツのモデルに従って学術機関を設けた発展途上国ではネカトは最も起こりにくく、平等主義的な英米のモデルに従って学術機関を設けた国ではネカトは最も起こりやすいと予測されている(Lee and Schrank 2010)。研究者間干渉仮説では、相互批判は共同研究者の数に直接比例し、地理的距離に反比例する。研究者間干渉仮説の正しさは論文撤回とバイアスに関する以前の研究で裏付けられいる(Fanelli et al..2015; Fanelli 2012 )。
3.規則・仕組み仮説
明確な規則・制裁を示すこととその仕組みの確立がネカト抑止効果をもたらすという理論的根拠に基づいて、多くの国・大学は、ネカト行為に対する調査・処罰の方針を確立している(Resnik et al.。2015) 。ネカトの定義と対処法は、国によって大きく異なるが、法的に強制力のある調査・処罰とその仕組みの確立が最大のネカト抑止効果があると一般的に思われている(Redman and Merz 2008)。
4.男性ネカト仮説
男性は女性よりもリスクを冒す傾向が高く、ステータス志向が強いため、ネカトをする可能性が高いと報告されている(Fang et al.2013)。米国・研究公正局のネカト者の分析がこの男性ネカト仮説を支持している(Fang et al.2013)。 ただし、データは別の解釈をすべきとされ(Kaatz et al.。2013)、また、さまざまな要因を考慮した結果、性別は論文撤回と論文訂正の発生率に有意に相関していなかった(Fanelli et al. 2015)。
ネカト行為の発生率を説明するこれら4つの仮説の妥当性を評価しようとしても、一般的に、信頼できるデータの取得は難しい。
アンケート調査の結果は方法論の選択に非常に敏感であり、回答者は調査者側の意向を忖度した回答をする傾向がある。つまり、研究者が実際に考え、行動したことを回答してこない(Pupovac and Fanelli 2014 ; Fanelli 2009 ; FiedlerおよびSchwarz 2016)。
論文の撤回は、そのほとんどがネカト行為によるものであり(Fang et al.。2012)、分析することで重要な洞察が得られる(Grieneisen and Zhang 2012 ; Lu et al.。2013; Fang et al.。2012 ; Fanelli et al.。2015)。
しかし、論文撤回で得られた結果を一般化することは難しい。論文撤回が依然として論文のごく一部で、かつ、論文の精査レベル、学術誌の撤回方針、科学コミュニティのネカト対処意欲などが大きく異なり、それら複数の偶発的要因によって影響を受ける複雑なプロセスの結果だからだ(Fanelli 2013)。
ところが最近、ネカト行為の性質をさらに詳しく調べるチャンスが、新たに登場した。つまり、疑わしいまたは明らかに不正な画像を含む論文のデータセットが提供されたのだ(Bik et al.。2016)。1995年から2015年の間に40誌に掲載された20,621報の論文に、直接的な目視検査で、ウエスタンブロット、核酸ゲル、フローサイトメトリープロット、組織病理学などの画像データに異常があった。
論文の体系的なスクリーニングによって得られたこのサンプルは、撤回データに影響を与える制限とバイアスがないため、少なくとも生物医学研究での画像の再使用に関して、誤りおよび/またはねつ造・改ざん行為の代表的な画像を提供している。これらのデータの分析により、ネカトの割合とさまざまな国での相対的な発生率に関する新しい洞察が得られた(Bik et al.。2016)。
本論文では、このデータセットのなかで最大でかつ最も均質なサブサンプル、つまり2013年から2014年の間に学術誌「PLoS ONE」で発表された8,138論文に焦点を絞って、4つのネカト要因仮説を、マッチド・コントロール解析(Matched-Control Analysis)した。
[白楽注:マッチド・コントロール解析(Matched-Control Analysis)を白楽は理解できていません。ロジスティック回帰分析と関連しているようだが、わかりません。 → https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdi/17/2/17_N4/_pdf]
サンプルに含まれる画像の再使用は、「意図しない間違い」または「意図的なねつ造・改ざん」のどちらかの結果である。再使用の複雑さに基づいて以下の3つのカテゴリー分類に従った(Bik et al.。2016)。
1. カテゴリー1:単純な再使用。異なる条件なのに同じ画像が2回使用された。これは、偶発的に図の説明を間違えたと思われる(N = 83)。
2. カテゴリー2:再配置して再使用。画像が移動、回転、反転されていて、研究者の積極的な介入があると思われる(N = 186)。
3. カテゴリー3:加工して再使用。意図的な加工で、画像の切断、パッチング(継ぎ合わせ)、その他の装飾・操作の証拠がある(N = 77)。
カテゴリー1は「意図しない間違い」の可能性が高い。カテゴリー2と3は「意図的なねつ造・改ざん」である。
したがって、ネカト行為はカテゴリー2および3と関連が高く、カテゴリー1は関連がない。
再使用画像を含む各論文について、残りのN = 7792論文から、同じ学術誌および期間に発表され、画像の再使用がない2つのコントロールを特定した。次に、各仮説に関連する一連の変数を測定し、条件付きロジスティック回帰分析(conditional logistic regression analysis)を実行し、これらの変数がネカト行為を犯すリスクと関連付けられているかどうか解析した。
[白楽注:条件付きロジスティック回帰分析(conditional logistic regression analysis)を白楽は理解できていない]
●《2》方法
ファネーリ論文の第1弾の記事で、白楽は方法論をしっかり把握できなかった。今回の方法論も類似の手法なことはわかるが、正直、理解できなかった。
つまり、この論文の方法論が妥当かどうか、白楽は検証できない。
方法論の記載を省略した。
●《3》結果1.図1と図3
白楽は上述したように、この論文の方法論の妥当性を判断できない。ダニエル・ファネーリ(Daniele Fanelli)の第1弾の記事と同じように、結論のつまみ食いで、結論だけ読み取ろうとしたが、2度も同じことをするのは、誠実さに欠けると思い始めた。
それで、どうしよう?
以下に図1と図3を示すが、白楽は、データの解釈を少ししか加えないことにした。
図1や図3に馴染みがある読者、マッチド・コントロール解析(Matched-Control Analysis)や条件付きロジスティック回帰分析(conditional logistic regression analysis)に馴染みのある読者は、自分で原著を読んで、データの検証をしつつ読んでください。
図や解析法に馴染みのない読者は白楽と同等レベルなので、データの検証はできない。ファネーリの「2019年6月のSci Eng Ethics」論文の結論は、「多分、正しいだろう」と思って読んでください。結論の概略は「1.【論文概要】」に記載してある。
まず、図1を示す。4つの仮説と各カテゴリーとの関連を示した図である:カテゴリー1(緑色のエラーバー)、カテゴリー2(オレンジ)、カテゴリー3(赤色)。
上述したように、白楽は、この図1の方法論の妥当性を判断できない。データの解釈を加えない。
図3は、国別分析である。
画像の再使用には各国間で大きな差があった(図3)。
米国と比較して、中国、インド、アルゼンチンなどの国の著者による論文で、画像の再使用が多かった。他の複数の国(ベルギー、オーストリア、ブラジル、イスラエルなど)も米国よりもリスクが高いように見えたが、論文数が少く、結論を出すことはできなかった。ドイツとオーストラリアは米国よりもリスクが低い傾向を示したが、論文数が少く、結論を出すことはできなかった。米国よりもリスクが低い国で、統計的に有意な国は日本だけだった(図3)。
上述したように、白楽は、この図3の方法論の妥当性を判断できない。データの解釈を少ししか加えない。
●《4》考察
論文では、「考察」が5ページもあり、饒舌に記述している。しかし、白楽はこの論文の方法論の妥当性を判断できない。白楽自身の「考察」がズサンになる可能性がある。それで、いっそのこと、「最後の締め」だけを、以下に書くことにした。
結論として、今回の論文で示した画像再使用の分析は、論文撤回、論文訂正、バイアスに関する以前の分析(Fanelli et al. 2015、2017)の結論と同じで、ネカト行為の原因を特定・実証できなかったことを再度強調しておく。
ただし、これらの3論文での分析結果は、一貫して、①ネカト行為の告発・処理の規則と仕組みの国家による開発と強化、②研究者間の透明性と相互批判の促進を育む学術文化が、すべての国の研究公正を確保するための効果的な予防策である可能性を示唆している。
●5.【関連情報】
【動画1】
講演動画:「Daniele Fanelli – Science Fraud: How is it done? Why is it done? And what can we do about it? – YouTube」(英語)21分51秒。
Eos Wetenschapが2013/05/22に公開
【動画2】
【動画3】
【動画4】
① 2017年4月12日の「bioRxiv」論文:今回の「2019年6月のSci Eng Ethics」論文のプレプリント:Why do scientists fabricate and falsify data? A matched-control analysis of papers containing problematic image duplications | bioRxiv
② 「撤回監視(Retraction Watch)」記事のコメントも面白い → 2017年4月14日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Why do researchers commit misconduct? A new preprint offers some clues – Retraction Watch
1件、つまみ食いしよう。
コロンビア大学名誉教授(精神医学)のドナルド・コーンフェルド(Donald S.Kornfeld、写真出典)がコメントしている。
ファネーリは、研修生(院生・ポスドク)のネカト行為を減らす上でメンター(指導教員)の役割が重要だとしている。それなら、研修生(院生・ポスドク)への助成金は、優れたメンター(指導教員)プログラムがあるところに支給すべし。
なお、大学教員・研究者のネカト行為にはさまざまな施策が必要である。私は、①恐くて告発できないのが現実なので、告発者の効果的な保護と、②ネカト者に対して真に厳しい罰則を設ける制度が、効果的な抑止力になると思う。
③ 2017年4月25日、ジョン・エルメス(John Elmes)の「THE News」記事:Developing nations ‘at higher risk’ of research misconduct | THE News
●6.【白楽の感想】
《1》挫折
ファネーリの「2015年6月のPLoS ONE」論文で、白楽は方法論をしっかり把握できなかった。今回の方法論も類似の手法で、やはり、理解できなかった。 → 7-44 出版プレッシャーでネカトするわけじゃない | 研究者倫理
方法論をしっかり把握できないと、この論文の妥当性を判断できない。白楽としては、結論は多分、正しいでしょうと、「多分」付きで受け止めた。
《2》日本の政府と学術界
今回の「2019年6月のSci Eng Ethics」論文も、「2015年6月のPLoS ONE」論文の結論を支持していて、①ネカト行為の告発・処理の規則と仕組みの国家による開発と強化、②研究者間の透明性と相互批判の促進を育む学術文化が、研究公正を確保するための効果的な予防策である、としている。
日本の政府と学術界は、現在、この方向とは無縁の施策をしている。迷走している印象がある。日本の政府と学術界は、上記①②を重要にとらえ、政策・対策を立て、実行することを、白楽は強く望む。
ドナルド・コーンフェルドの意見も重要だと思う。
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●8.【コメント】
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