2019年5月30日掲載
白楽の意図:多くの研究者は要約盗用を知らない。要約盗用は長い学術テキストを短いものに要約し、原著論文を引用せずに出版する盗用である。デボラ・ヴィーバー=ヴルフ(Debora Weber-Wulff)が「2019年3月のNature」論文で盗用検出ソフトは不完全だと指摘したが、要約盗用(compression plagiarism)も、盗用検出ソフトでは検出されない。マイケル・ドハティ(Michael Dougherty)の「2019年4月のArgumentation」論文が要約盗用を記載しているが、閲覧有料なので未読である。アイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者がマイケル・ドハティにインタビューした「2019年5月の撤回監視(Retraction Watch)」記事を読んだので、紹介しよう。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.日本語の予備解説
4.論文内容
5.関連情報
6.白楽の感想
7.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。
●1.【論文概要】
盗用には多くの形態があると認識されているにもかかわらず、現在、盗用の類型論は不完全である。よく知られていない盗用の1類型として、要約盗用(compression plagiarism)がある。要約盗用は長い学術テキストを短いものに要約し、原著論文を引用せずに出版する盗用である。多くの場合、読者は要約盗用を盗用と見抜けず、盗用検出ソフトウェアも素通りする。そこで、要約盗用の事例を、特に哲学の分野で分析した。
●2.【書誌情報と著者】
マイケル・ドハティ(Michael Dougherty)の「2019年のArgumentation」論文は閲覧有料なので未読である。アイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者がマイケル・ドハティにインタビューした「撤回監視(Retraction Watch)」記事を紹介する。
★書誌情報
- 論文名:Compression plagiarism: An “under-recognized variety” that software will miss
日本語訳:要約盗用:ソフトウェアが見逃す「過少認識された種類」 - 著者:Ivan Oransky
- 掲載誌・巻・ページ:Retraction Watch
- 発行年月日:2019年5月1日
- 引用方法:
- DOI:
- ウェブ:https://retractionwatch.com/2019/05/01/compression-plagiarism-an-under-recognized-variety-that-software-will-miss/#more-91385
- PDF:
★被インタビュー者
マイケル・ドハティ(Michael Dougherty)。
彼の「2019年4月のArgumentation」論文は閲覧有料(以下)
- 論文名:The Pernicious Effects of Compression Plagiarism on Scholarly Argumentation
日本語訳:学術的議論への要約盗用の有害な影響 - 著者:Michael Dougherty
- 掲載誌・巻・ページ:Argumentation (2019)
- 発行年月日:2019年4月12日
- 引用方法:Dougherty, M.V. Argumentation (2019). https://doi.org/10.1007/s10503-019-09481-3
- DOI:10.1007/s10503-019-09481-3
- ウェブ:https://link.springer.com/article/10.1007/s10503-019-09481-3
- PDF:
- 単著者:マイケル・ドハティ(Michael Dougherty)
- 紹介:http://www.mvdougherty.com/
- 写真: http://www.ohiodominican.edu/faculty-staff/faculty-profiles/michael-dougherty
- ORCID iD: http://orcid.org/0000-0002-8731-6045
- 履歴:
- 国:米国
- 生年月日:米国。現在の年齢:70 歳?
- 学歴:米国・ウィスコンシン州・ミルウォーキーのマーケット大学(Marquette University)、研究博士号(PhD)取得(2003年)
- 分野:哲学
- 論文出版時の地位・所属:オハイオ・ドミニカン大学の哲学教授:Professor of Philosophy、Ohio Dominican University.
オハイオ・ドミニカン大学(Ohio Dominican University)。https://www.ryugaku.or.jp/ohio_dominican_u/
●3.【日本語の予備解説】
★盗用の種類
文章(テキスト)の盗用は、ドイツのヴロニプラーク・ウィキが類型化した以下の4種類を、白楽は今まで盗用と考えていた。
- 逐語盗用(コピペ:copy and paste、一字一句同じテキストを流用。引用符なし、文献提示なし)
- 加工盗用(ロゲッティング:rogeting、言い換え盗用(パラフレーズ)、文献提示なし)
- 流用部分が曖昧な盗用(文献提示あり)
- 翻訳盗用(文献提示なし)
一般的に、盗用事件で告発されるのは1番目の逐語盗用がほとんどである。
「逐語盗用」では、数行、1文節、数ページから数十ページ、極端な場合は論文全部、を流用元の文献を示さず流用したケースである。盗用検出ソフトである程度検出可能である。定義上は「数行」でも盗用だとされているが、「数行」の盗用が告発され、その後に盗用と認定されたケースはなかったと思う。
「加工盗用」「流用部分が曖昧な盗用」「翻訳盗用」も、盗用と断罪されたケースは「あったかなあ?」と思うほど少ない。
「加工盗用」「流用部分が曖昧な盗用」「翻訳盗用」は盗用検出ソフトで検出されない。
★2018年9月10日:オリビア・バルデス(Olivia Valdes)の「盗用の種類」
- 「直接盗用(direct plagiarism)」は、他人の文章を一字一句コピーする行為です。帰属や引用符を含めずに、別の本や記事の文章をあなたのエッセイに挿入する盗用です。代筆や代行業者にエッセイを書いてもらい、あなた自身のエッセイとして提出することも「直接盗用」です。「直接盗用」はターンイットイン(Turnitin)のようなソフトウェアとツールで検出される可能性があります。
- 「言い換え盗用(paraphrase plagiarism)」は、別の文章を変更し(用語や単語の並べ方の表面的な変更)、自分が書いたかのように、エッセイに入れ込む。元の文章の主張・記述が一般的な知識でない限り、引用しないで論文に使うと盗用になる。
- 「モザイク盗用(”mosaic” plagiarism)」は、「直接盗用」と「言い換え盗用」の組み合わせです。このタイプの盗用は、引用符や帰属を示さず、別の文章から、単語、フレーズ、文章(ある部分は一字一句コピーで、ある部分は言い換え)を自分が書いたかのように、エッセイに入れ込む。
- 「偶然盗用(accidental plagiarism)」は、引用が欠落しているか、出典が誤って引用されている場合である。偶然盗用は、しばしばズサンで乱雑な執筆計画が時間切れの土壇場になった結果です。しかし、情報源を適切に引用しなければ、たとえ原著を引用する意図があったとしても、結局、盗用を犯したことになります。
●4.【論文内容】
質問1.要約盗用とは何ですか? なぜそれが特に問題なのですか?
マイケル・ドハティ
長い文章を短い文章に変えて、別の著者として出版した論文を、私は見てきました。この行為を「要約盗用」と命名しました。
典型的なケースは、本の始め、真ん中、そして終わりから抽出した文章をつなぎ合せて1つの論文として発表したケースです。本の1段落を数行に要約し、長い文章を短い文に要約しています。
要約盗用は、標準的なテキストマッチング・ソフトウェアの影響を受けにくいので盗用検出ソフトに引っかかりません。また、疑いを持たない読者には盗用が見えず、元の原文に精通している人でも盗用と認識しないため、読者や編集者にとって大きな問題となります。研究者が原論文と盗用論文の両方を引用しているケースもありました。その研究者は明らかに、盗用論文が原論文の要約であることを見逃しています。
質問2.要約盗用がどんなものか例示してくれますか?
マイケル・ドハティ
私の「2019年4月のArgumentation」論文の最初の部分に、要約盗用を説明しています。そして、2番目の部分はその疑わしいケースを調べています。
私は、「2006年のArgumentation」に掲載された著者「N」の短い4.5ページの論文は、哲学者ステファン・ゴースパス(Stefan Gosepath)のドイツ語の本(1992年刊、490ページ)を引用せずに要約盗用したものと主張しています。この場合、要約盗用と翻訳盗用の両方の疑いがあります。
以下の盗用比較図は左が著者「N」の盗用論文、右がステファン・ゴースパスの被盗用本です。灰色の単語が要約盗用と翻訳盗用されたものです。
私の論文で示したように、この事例が実際に要約盗用なら、以下の不快な主張が当てはまります。
第1:1992年の原著者であるステファン・ゴースパスのクレジットが否定される。
第2:ステファン・ゴースパスの研究は結局、二重の表現になっている。1つは、1992年のステファン・ゴースパスの原著本で、もう1つは「2006年のArgumentation」に掲載された「N」の論文である。読者は無意識に2006年の「N」の論文を通してゴースパスの学説を読み、学説を主張した本人を間違えてしまう。
第3:研究者たちは2006年の「N」の論文を引用し、ゴースパスの著書を引用しなくなる。文献体系の深刻な破損が起こる。
質問3.要約盗用と申し立てたとき、学術誌はどう対応しましたか?
マイケル・ドハティ
私の「2019年4月のArgumentation」論文を掲載してくれた「Argumentation」の編集者そして査読者に感謝しています。
すべての学術誌がその学術誌の過去の論文に盗用の疑いがあると指摘されるのを歓迎するわけではありません。 2018年11月に私が「Argumentation」に原稿を投稿した時、原稿で示した盗用の証拠に基づいて、問題の論文を撤回するよう要求しました。先週、私は再び編集者に手紙を書きましたが、私は不在通知を受け取りました。
以下略
質問4.あなたは、「盗用を最も明白な種類だけで扱うのは誤りです」と書いています。説明してください。
マイケル・ドハティ
私の経験では、ほとんどの人は逐語盗用(コピー&ペースト)だけを盗用としています。しかし、盗用は、多種多様な著作権侵害という概念です。
デボラ・ヴィーバー=ヴルフ(Debora Weber-Wulff)は、彼女の著書『False Feathers: A Perspective on Academic Plagiarism』(2014年刊)で、多様な盗用の類型を分析する素晴らしい研究をしています。
質問5.盗用論文を撤回することの重要性を強調していますが、すべての盗用論文が撤回されているわけでもありません。なぜだと思いますか?
マイケル・ドハティ
良い答えはありません。おそらく、何人かの編集者は、論文撤回を恥ずべきことだと思っています。それで、過去の編集上の失敗に対処せず、論文を撤回しないのだと思います。
学術誌が論文撤回した時、私はその学術誌への評価を上げます。撤回は、学術誌が学術記録を修正していることの証拠です。発表された研究論文の信頼性を院生や研究者に保証していることになります。
私はまた、何人かの学術誌・編集者が盗用事件を制限しているかもしれないと心配しています。微妙な形の盗用は発見されるまで何年もかかることがありますので、盗用事件を制限すると、訂正が妨げられます。
私は状況が改善することを願っています。
●5.【関連情報】
① 2018年のマイケル・ドハティ(Michael Dougherty)の著書
ハードカバー: 248ページ
出版社: Springer; 1st ed. 2018版 (2018/11/20)
言語: 英語
ISBN-10: 3319994344
ISBN-13: 978-3319994345
発売日: 2018/11/20
表紙出典:Correcting the Scholarly Record for Research Integrity – In the Aftermath of Plagiarism | M. V. Dougherty | Springer
●6.【白楽の感想】
《1》盗用
盗用は数種類ある。
しかし、確かに、盗用を逐語盗用(コピペ:copy and paste、一字一句同じテキストを流用。引用符なし、文献提示なし)に限定しがちだ。
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●7.【コメント】
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