「白楽の感想」集:2016年1-6月

2021年8月22日掲載 

「白楽の研究者倫理」の2016年1-6月記事の「白楽の感想」部分を集めた。

=================================================================

《1》非許容研究行為

米国では、“研究に伴う不正行為”を、米国科学アカデミー(National Academy of Sciences、NAS)の分類に従い、「研究ネカト 」(カテゴリー1)、「研究クログレイ」(カテゴリー2)、「研究違法行為」(カテゴリー3)の3つに分類している。

そこに、一部の機関が、「非許容研究行為(URP,Unacceptable Research Practices)」という語句を導入し、特定の行為を指す専門用語に思われた。しかし、具体的な行為は、「研究クログレイ」(カテゴリー2)とほぼ同じで、内容は重複している。

英国では、米国科学アカデミーの3つのカテゴリーを全部合わせた概念で「非許容研究行為(URP,Unacceptable Research Practices)」という語句を使用している。また、英語の最後の単語が「Conduct」と「Practices」の両方を使用している。これらのことから、特定の行為を指す専門用語というより、一般的に「許容できない」レベルの「研究行為」を指していると理解できる。

米国と英国で言葉が同じ英語だから、英文を読む方は混乱しがちになる。

“研究に伴う不正行為”の分類は、米国科学アカデミーの以下の3つのカテゴリーが妥当である。

  1. カテゴリー1:「研究ネカト (research misconduct)」=「ねつ造」「改ざん」「盗用」
  2. カテゴリー2:「研究クログレイ(QRP,Questionable research practice)」。研究記録不備やギフトオーサーシップ
  3. カテゴリー3:「研究違法行為」。研究実施に伴う法律違反行為。例えば、セクハラ、研究費不正、重過失、研究器物破壊、法・条例違反

結論として、「非許容研究行為(URP,Unacceptable Research Practices)」という語句を使う必要はない。欧米では多用されていない。白楽のブログでは、特定の研究行為を示す専門用語として扱わないことにした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》研究クログレイ行為は多い

研究クログレイ行為をリストしたが、多い。というか、多すぎである。レスニック(David Resnik)は29項目もあげている。いちいち覚えられる量ではない。

項目は国、研究機関(大学、公立研究所、民間企業)、研究分野(生物医学と心理学。生物医学内でも多様)によっても、研究者の立場(学生・院生、研究者、学長、政府の規範委員など)によっても異なる。

とはいえ、それらが、その属性では共通するのか、見解を述べているその人個人のウェイトがかかった項目なのか、不明である。

どうすると良いか?

多数決の世界だから、研究クログレイ行為の最大公約数は政策推進上の意味はあるだろう。しかし、それが科学的に正しいかとどうかは別問題だという気もする? ここでは、項目を絞らないでおこう。

ただ、各研究分野内では、どの行為を研究クログレイとみなすかのコンセンサス、つまり、最大公約数は得たほうが良い。

日本の各学会が自分の分野の研究クログレイ行為一覧表を作り、検討し、公表することを提案したい。

なお、研究クログレイとした行為は、「どうしていけないのか?」の根本を理解したほうがいい。これはそのうち「なぜいけないのか? 研究クログレイ」として書こう。

それにしても、「研究クログレイ」という概念と各行為は、日本ではほとんど知られていない。そういう日本人が海外留学あるいは国際共同研究して、危なくないのだろうか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》研究ネカトの自白

メレディス・フォーブス(Meredyth Forbes)のように、自分から研究ネカトを告白するケースは、今まで数百件の事件を調べた中で数回あるが、珍しい。

例えば、ポスドクの「ロバート・ガリス(Robert Gullis)(英)」、そして中高年の「化学:ジョセフ・コート(Joseph Cort)(米)」は自発的に告白した(ガリスは仕方なしに?)。

院生は訓練生で、研究の思想・知識・スキルは未熟である。

研究ネカトをしてしまっても、初期ならば、指導教官とのやり取りや「研究のあり方」の自己学習・セミナー・講演会を通して、自己修正し、研究ネカト部分を発表しないで廃棄し、研究者として成長できるだろう。

フォーブスは、しかし、研究公正局に「3論文、4発表」のねつ造・改ざんを指摘された。既に修正不可能な段階まで来てしまったということだ。

院生にはなるべく早く修正の機会を与えるべきだ。指導教官は、院生に最初の学会発表を計画したときに仕込むべきだろう。

《2》指導教官が研究データを精査する

指導教官が研究データを煮詰めていけば、院生のねつ造・改ざんは、“ほとんど”見つけられると思う。“ほとんど”が99%なのか、30%なのか、研究者によるだろうが、白楽の場合、99%に近いと思う。

院生が出したデータを、学会や論文として発表・出版する場合、白楽は、院生と1対1でデータを詳細に検討した。通常は、生データを持ってこさせ、かなり細かいことまで、突っ込んで質問した。

なかには途中で黙り込む院生、途中で怒り出す院生、生データを持ってこない院生が少数いた。その場合は、その院生のデータを信用できないので、学会や論文発表はしなかった。

上記の拒否反応はしなくても、1対1の詳細検討にパスしない院生のデータは、白楽は、基本的に、学会や論文として発表・出版しなかった。

ただ、予想外の行動をとった院生が2人いた(2人の在籍はオーバーラップがない)。白楽と院生がじっくり検討したデータ「以外」のデータで、学会発表した院生が2人いた。とても驚いた。

後でただすと、1人は、どうしてか知らないが、白楽に報告したデータは「発表済データ」だと思って、学会発表では別のデータを用意したそうだ。この院生は、優秀だった。2度と同じ過ちを繰り返さなかった。

もう1人は、社会人院生で、後で質問しても、こちらの質問に答えず、研究室を去った。この院生は、どうしてか知らないが、勘違いの激しい人だった。

そういえば、白楽も院生時代、どうしてか知らないが、指導教官の名前を入れないで海外の学術誌に論文を発表したことがある。また、筑波大学・講師時代、どうしてか知らないが、研究を手伝ってくれた院生を共著者に入れないで論文発表したことがある。今思うに、どちらも、トンデモない行為だった。反省している。

今回の院生・フォーブスは、学会発表や論文発表ではそこそこの研究ネカトはしてもいいのだと、どうしてか知らないが、思い込んでしまったのだろう。

若い時の、どうしてか知らないが、トンデモない思い込みで、人生を台無しにしない仕組みも高等教育には必要だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》朱に交われば赤くなる

マルホトラはシカゴ大学の論文だけでなく、それ以前に助教授だったミシガン大学の論文で、すでに研究ネカトをしていた。だから、マルホトラとデソーザのどちらが研究ネカトを先導したかは明白で、マルホトラが先導したのだろう。

研究室の先輩(マルホトラ、助教授)が研究ネカトしているのを見て、後輩(デソーザ、研究員)も真似したのだろう。朱に交われば赤くなる。

後輩が先輩の研究ネカトを見た場合、選択肢は2者択一になる。朱に交わるか、断固として非難するかだ。黙認という選択は、朱に交わるのとほぼ同じになる。

断固として非難する場合、先輩との友好関係は保てない。先輩の研究ネカトをヤメさせるか、ヤメさせられなければ、教授そして、研究室外に公益通報することになる。そうすれば、自分に火の粉が飛んでくる。先輩との友好関係を保つには、共犯者になるしかない。

要するに、どちらの選択肢も研究キャリアーに危険が及ぶ。

デソーザはインドで研究博士号(PhD)を取得し、米国でそれなりに成功しているのに、研究室の先輩の悪癖によって、研究ネカトに引きずり込まれてしまった。

今回は先輩-後輩だが、上司-部下、教員-訓練生(院生・ポスドク)という関係でも同じ構図になる。

研究ネカトでなくても、一般的に犯罪の共犯を誘われた時、教科書では断れと指示しているが、現実には、後輩(部下、訓練生)は断るのが難しい。対処法の現実的な方法があるのだろうか?

《2》パーティン所長就任後の小さな変化

研究公正局は2014年3月以来、約2年間空席だった所長職に、2015年12月末、コロラド州立大学・神経科学教授だったキャシー・パーティン(Kathy Partin)を迎え、最初のケネス・ウォーカー事件(Kenneth A. Walker)を2016年5月6日に発表した。

今回のマルホトラ事件が3回目の報告書である。

1回目(ケネス・ウォーカー事件)と2回目(ジョン・パストリノ事件)の事件報告書を見る限り、新体制に伴う変化はないように思えたが、今回の報告書に、小さな変化がみられた。

従来、そうではなかったが、研究ネカトの内容について少し具体的に記述しているのだ。不正と認定した論文や研究費申請書のどの図のどの部分が不正なのかを記述している。これで、研究ネカトの内容が以前より把握できる。報告書として、一歩前進である。

ただ、この改善が研究ネカトの大きな改善にどうつながるのかは見えてこない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》イスラエルは極端に甘い

スピバクが論文盗用したのに、ホロン工科大学はスピバクを解雇しないで、1年間のサバティカルを与えた。この処置は、海外から大きく批判されているが、どうしてこんな処置をしたのか、信じられない。

白楽はイスラエルに滞在したことはない。イスラエルの学術文化を知らないので、これはイスラエルでは普通のことなのか、特殊なことなのか、わかりません。

ただ、スピバクはその後も盗用している。

印象として、スピバクは根っからの盗用者だろう。該当論文以外の全論文を調べれば、初期の論文からも盗用がゴロゴロ見つかるに違いない。

そういえば、イスラエルの研究ネカト事件は少ない。研究ネカトは許容され、研究ネカトがあっても問題視されないのがイスラエルの学術文化なのだろうか?

《2》捕食出版誌

スピバクが盗用論文を発表した学術誌「International Journal of Pure and Applied Mathematics (IJPAM)」は、捕食出版誌だと指摘されている。

こうなると、盗用も問題だが、そもそも捕食出版誌に投稿する行為自体、いかがわしい。

そして、スピバクは同じ学術誌「IJPAM」にさらに3報も論文を発表している(【主要情報源】①のコメント:Chris October 10, 2014 at 3:16 pm)。

http://ijpam.eu/contents/2009-53-2/12/
http://ijpam.eu/contents/2009-56-1/5/
http://ijpam.eu/contents/2010-62-1/3/

スピバクは研究者として「違法ではないが不適切」に思える。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》パーティン新体制の2人目研究ネカト者

研究公正局はこの事件を 2016年5月10日に発表した。

研究公正局は2014年3月以来、約2年間空席だった所長職に、2015年12月末、コロラド州立大学・神経科学教授だったキャシー・パーティン(Kathy Partin)を迎えた。

それから、4か月間、研究公正局は研究ネカト者を発表しなかった。その間、何があったのかわからないが、機構改革が行なわれていたに違いない。

新体制発足後の2人目の研究ネカト者として、パストリノを5年間の締め出し処分と発表した。報告書を見る限り、新体制に伴う変化はないように思える。

《2》詳細は不明

この事件の詳細は不明です。

パストリノは、どうしてねつ造・改ざんをしたのか? 第一次追及者はどのような人で、どうやってねつ造・改ざんを見つけたのか? 事件後、大学・研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説しているが、実は、この事件のように、詳細が不明なことが多い。

なお、新聞記者等の記者が取材し、事件を報道してくれると、詳細が把握できるのだが、研究公正局、撤回監視(Retraction Watch)、パブピアはどれも、不正点を指摘するが、その裏に潜む研究ネカト問題の分析・解説はしない。人間臭い面には全く触れないので、事情がわからない。

そして、最近の新聞は研究ネカトを報道しなくなった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》パーティン新体制の最初の研究ネカト者

研究公正局はこの事件を 2016年5月6日に発表した。

Partin_August-2010-150x150研究公正局は2014年3月以来、約2年間空席だった所長職に、2015年12月末、コロラド州立大学・神経科学教授だったキャシー・パーティン(Kathy Partin、写真出典)を迎えた。

それから4か月間、パーティン所長は、研究ネカト者を発表しなかった。その間、何があったのかわからないが、機構改革をしていたに違いない。

新体制発足後の最初の研究ネカト者として、ケネス・ウォーカーのねつ造・改ざん事件を発表した。事件報告書を見る限り、新体制に伴う変化はないように思える。

それにしても、新体制の最初の事件発表なのに、インパクトがなさすぎる。パーティン所長、大丈夫でしょうか?

《2》詳細は不明

この事件の詳細は不明です。

どうしてねつ造・改ざんをしたのか? どう発覚したのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説しているが、実は、この事件のように、詳細が不明なことが多い。

この事件は地方紙「Pittsburgh Post-Gazette」が新聞記事を掲載した(【主要情報源】③)。しかし、事件を何も掘り下げていない。研究公正局の発表を繰り返しているだけである。研究ネカト問題の改善に役立つ知見はほとんど得られない。

また、ケネス・ウォーカー(Kenneth A. Walker)自身(多分)が、ウェブ上の自分の痕跡を積極的に削除した(ように思える)。それで、ますます、情報が得にくい。

《3》事件が見えにくいもう1つの原因

オーストラリア出身のウォーカーが米国・ピッツバーグ大学のポスドクの時にねつ造・改ざんをした。一見、単純な事件として記載されている。

「どうしてねつ造・改ざんをしたのか?」を考えると、事件はそれだけではないだろう。

パブメド検索で、ウォーカーは全部で8論文出版しているが、8論文中の3論文がピッツバーグ大学での研究結果である。他の5論文はオーストラリア時代の論文である。

ピッツバーグ大学も研究公正局も、米国での3論文しか研究ネカト調査をしない。オーストラリア時代の論文は管轄外だからだ。

そして、オーストラリア時代の5論文はオーストラリアの大学が調査しないから、調査する当局(オーソリティ)がない。

つまり、オーストラリア時代の5論文はねつ造・改ざんかどうか、公式には調査されない。

白楽が推察するに、5論文もねつ造・改ざんだっただろう。研究ネカトはある意味、その人の「研究のやり方」だからだ。ウォーカーはオーストラリアの院生時代の最初から研究ネカトする「研究のやり方」を身につけたのだろう。

もし白楽説が正しいなら、研究ネカトシステムの改善は、オーストラリアの大学院教育を改善することがポイントとなる。

しかし、もし、オーストラリアの院生時代はシロで米国・ポスドクで初めて研究ネカトしたなら、オーストラリアから米国・ポスドクになった時に問題点・改善点があるはずだ。

いつも感じるのだが、米国の大学(研究機関)在籍中の論文しか調査しない米国・研究公正局のやり方では、根本的な改善を望めない。

どの国、どの大学(研究機関)に在籍していようと、研究者の研究キャリア形成の初期から研究ネカト行為実行までを調べないと、改善ポイントをつかめないだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》研究ネカトした方が得

30億ドル(約3千億円)の罰金で米国史上最高の罰金額だとある。大変な額で、製薬会社はこれでダメージが大きく、懲りただろう、と、事件を調べ始める前は感じていた。

どころがどっこい、少し調べただけで、グラクソ・スミスクライン社は、1997 年-2006年にパクシル(Paxil)で116億ドル(約1兆1600億円)を売り上げていた。同社の全収益の約10分の1を生み出した。

そして、罰金額は、売り上げ額の26%でしかない。2009年までの訴訟費用の約10億ドル(約1,000億円)を足しても、損害額は売り上げの額の34%でしかない。

売り上げのすべてが収益ではないが、コストを勘案してプラス・マイナスしても、大幅なプラスだろう。製薬会社にとって、研究ネカトした方が得なことが明白だ。見つからなければさらに得だが、見つかっても、十分得になっているのである。

データ改ざん論文の第一著者であるマーティン・ケラー教授、ゴーストライターのサリー・ラデンは処分を受けていない。

こういう事件があるたびに、処分が大甘すぎる、と思う。だから事件は無くならないんですね。社会の支配層は自分たちの利益を守る暗黙の価値観が強い。支配者層の結託論理が働いている。

《2》ヒドイ、暗澹

白楽のブログは研究ネカトの問題に焦点を当てながら、周辺事象を扱っている。しかし、医療が絡むねつ造・改ざん事件は、唖然とすることが多い。

2009年までに、450人がパクシルで自殺し、600件の出産障害事例が報告されていた。ヒドイ。非人道的。暗澹たる気持ちになった。

医者と製薬企業が、うつ病患者を作り、パクシル漬けにし(麻薬と同じ)、カネを絞り続ける、という印象をもった。

パクシルは危険。うつ病を信じるな! という経験者の悲惨な経過報告や医療従事者の“本音”がウェブで語られている。

一方、現在、パクシルが有効だという医療記事(医療側の偏向宣伝?)が依然としてウェブにはたくさんある。何を信じてよいのだ?

何とかしないと・・・。

《3》社会の改革に立ち上がる人々

パクシル事件では、巨大な製薬企業と大学教授・医師が綿密に結託した大規模な不正である。

そして、それに、立ち向かう人々が欧米にいた。

スコットランドの女性記者・シェリー・ジョフレは、世間が事件視としていない時から取材し、英国のBBC放送のテレビ番組・「パノラマ(Panorama)」作成までこぎつけた。この番組放映が、英国を救い、多くのうつ病患者を救い、世界を動かした。スゴイと思う。

ニューヨーク州弁護士・エリオット・スピッツァーも素晴らしい。

ボストン・グローブ社のジャーナリスト・アリソン・バスも著書にまとめて素晴らしい。

「オール・トライアルス(AllTrials)」運動も素晴らしい。ブログでは具体的な貢献者に触れなかったが、システムとして改善していると思う。

Jo-253x300-150x150そして、研究329事件のまとめサイト「Restoring Study 329」を作った人たちもスゴイと思う。研究329事件の資料を収集し誰でもアクセスできるように無料で公開している。ジョアンナ・ノウリ(Joanna Le Noury、写真出典)をはじめ、数人の研究者や医師が運営している。こういう人たちの活動もスゴイと思う。

日本で、どうしてこういう人や活動がないのだろう?

欧米では、政治家、ジャーナリスト、大学教授、知識人が立ち上がるが、日本では、立ち上がらない。日本でのこういう人たちは、体制側についている、というか、体制そのものの構成員である。

日本社会のなかでうまく機能させるにはどうしたらよいのだろう?

白楽は大学教授(名誉)なので、「隗より始めよ」で「お前がヤレ」と思う人もいるだろう。

実は、欧米との違いは、立ち上がる人がいるかどうかではなく、それを支援する環境・仕組み・文化が日本に大きく欠けていることだ。

日本でわかりにくければ、中国を参照しよう。中国にも改革しようと立ち上がる人がいるけど、中国国内で大きな力にならない。政府官憲に弾圧される。そして、それに対抗する力は中国国内では弱く、むしろ、欧米の政治家、ジャーナリスト、大学教授、知識人が中国国内の改革人を支援する力が強い。

支援する環境・仕組み・文化が重要だということだ。日本で、どう構築できるのだろう?

《4》対処の4ステップ説

社会はこの事件にどう対処すべきだったのか?

白楽は、研究ネカトの対処は4ステップだと考えている。

  1. ステップ1「第一次追及者」・・・最初の追及者が必要だ。 → 今回:不明確
  2. ステップ2「マスメディア」・・・第一次追及者の声を社会全体に知らせるのは新聞、テレビ、雑誌、ウェブなどのマスメディア → 今回:①女性記者・シェリー・ジョフレ、②英国のBBC放送
  3. ステップ3「当局(オーソリティ)」・・・大学・研究所、編集局(論文撤回)、研究公正局、検察、裁判所 → 今回:①MHRA(医薬品・医療製品規制庁)、②米国・食品医薬品局(FDA)、③米国・司法省、④JAACAP編集局
  4. ステップ4「後始末」・・・事件の分析・解説、研究ネカトの教育・研修、法律の制定・改正、制度の見直し → 今回:①論文、アリソン・バスの著書、②「オール・トライアルス(AllTrials)」

研究ネカトは、一次追及者がいないとまるで動かない。

日本は上記の4つのステップのどれをとっても弱体だが、特に、第一次追及者の重要性がまるで理解されていない。

《5》ゴーストライター

研究329の臨床結果を報告した「2001年のJAACAP」論文は、米国・ブラウン大学(Brown University)・精神病学・教授のマーティン・ケラー(Martin Keller)を第一著者に他に21人の著者からなる論文である。

しかし、実際は、ゴーストライターのサリー・ラデン(Sally K. Laden)が、17,250ドル(約172万円)をもらって仕事として書いたのである。

白楽は、一般的に、ゴーストライター行為は研究ネカトと同レベルの不正だと思う。

学術界を冒涜している。レベルは異なるが、同類行為として、学生のレポート代行も高等教育を破壊している。

ゴーストライター行為は、しかし、依頼する研究者、執筆者の両方が得で、自分で言わなければ、他人はわからない。

他人にわかっても、マーティン・ケラーはこのゴーストライター論文で、大学を解雇されていないし、NIHからの研究費助成を拒否されていない。つまり、無処分である。

サリー・ラデンも罰が下されていない。罰を下す当局(オーソリティ)がない。罰を科す法律もない。

白楽は、ちゃんと調べていないが、実は、学術界・研究界にはゴーストライター行為がかなり浸透していると思える。

学術界・研究界はゴーストライター行為を研究ネカトと同等と扱い、取り締まるべきだろう。

そういえば、2010年12月のNIH所長への要望書があるが、その後、どうなったのだろう(POGO Letter to NIH on Ghostwriting Academics)。

2014 年4月3日の「Guardian」記事も興味深い(Academic ghostwriting: to what extent is it haunting higher education? | Higher Education Network | The Guardian)(保存版)。

《6》白楽の研究室のうつ病女子学生

白楽の研究室にも、うつ病の女子学生がいた。

卒業研究のための研究室配属後しばらくは、快活で、明るく、頭脳もそこそこ明晰で、礼儀正しかった。マサカ、精神的な病気を抱えているとは気が付かなかった。

しかし、数か月経ったある日、一緒に食べていたランチの席で、拒食症でリストカットの過去があり、母親との関係が悪いと告白された。本性を見せ始めたという印象だった。自宅外通学者だったが、母親が時々、住まいにくると騒動が起きたようだ。

そして、ある時、母親との諍いで、街で暴れ、警察のお世話になった。また、処方された薬を多量に飲み、研究室で意識朦朧となっていた。もう、卒業研究をする状況ではない。

そして、ある日、白楽の自宅に電話がかかってきた。「自殺未遂し、病院にいる」と。

この女子学生は退院後、大学で自殺するかもしれない。数日後、学科長に事情を説明し、学科長と一緒に大学保健センターの医師に対応を相談した。女子学生はこの医師にも相談していた。研究室では「役立たず」と、この医者をののしっていたが、医薬品を希望通りに処方してくれなかったためだった。

医師に相談した翌日、学内の自殺ポイントを点検した。

白楽の研究室は2階だが、建物は6階建てである。6階のベランダから飛び降りるのは簡単である。防護壁はない。

夕方、女子学生を残して帰るのは怖い。女子学生には早めに帰宅してもらった。1階の女子トイレで倒れていても気が付かないので、その女子学生がしばらく研究室にいないと、1階のトイレをチェックしに行った。もともと、研究室の薬品は自由に持ち出せなくしてあるが、その気になれば、鋭利なカッターなどはある。

この女子学生の飲んでいた薬の名前を忘れていたが、確か、パクシルだった気がする。

女子学生が卒業するまで、白楽の精神は緊張が強いられた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》盗用ではない?

Marilia de Brito Gomesサンパウロ新聞記事では、第一著者のカルロス・ネグラットは、「2本の論文は文献レビューであり盗用には当たらない」と述べている。そして、ブラジル糖尿病学会のワルテル・ミニクッチ会長は、「学会上層部での会議の結果、ネグラット氏の説明を支持することを決定した」とある。

それなら、どうして、論文を撤回するの? 撤回したのは盗用だったからでしょう。ブラジルはおかしくないか? クロをシロと強弁していないか?

と思った一方、ネグラットの主張が正しいかも、とも思う。

第一著者のカルロス・ネグラットが主張するように、2報の論文はハッキリ「Review」と明記されている。総説(レビュー)の場合、過去の自他の論文をまとめるので、内容は少なくとも過去の自他の論文の内容をたくさん集めて記述する。集めるときに文章も一緒に集める。

そして、総説にまとめて発表するときは、文献引用が必須であるが、集めた文章をもとに記述することになる。

この時、文章を言い換えるのが難しい場合がある。というか、科学的文章をうまく言い換えるのは、実際は至難である(少なくとも白楽には)。それに言い換える時間と努力は無駄だ。それで、ある程度、文章を再使用することになるだろう。ここで、ポイントは、文献引用をしなければならない。

しかし、短い文章なら文献引用は不要だろう。大幅な言い換えをした場合(咀嚼して自分の文章として書いた場合)、文献引用の必要性は微妙である。

総説で、過去の自他の論文中の文章を、文献引用しないで、再使用する場合、どの程度の量と質なら許容範囲なのだろうか?

実は、学術界では明確な基準が示されていない。コンセンサスも、もちろんない。一般的な盗用事件の場合、明らかに盗用と思える量の文章を再使用している。ギリギリのケースで、盗用かどうか、量と質が議論されることはマレである。

ゴメス事件の該当論文の重複部分を読み比べていないが、ゴメスが、他人の文章・アイデアを自分の文章・アイデアのように記述しているのか、それとも、淡々と事実を記載しているのか、にも依存するだろう。

白楽には、時間をかけて調べないと、盗用かどうか、判断がつかない。

2014年6月9日の新聞報道では、ブラジル糖尿病学会が調査委員会を設けて調査すると書いてあった。それから約2年経つが、どうなったのだろう?

《2》その後?

無題本事件は、2014年6月9日に新聞報道されてから約2年になるが、その後、ゴメスの所属大学であるリオデジャネイロ州立大学が調査したという話はでてこない。

ブラジル糖尿病学会は、この2論文は総説なので、盗用に該当しないとした。

ゴメスは、盗用の責任は論文共著者のカルロス・ネグラットにあると述べた。リオデジャネイロ州立大学は調査に入った様子はなく、ゴメスは編集長を辞任したが大学教授は辞任しなかった。

ただ、2014年10月10日、サンパウロ新聞は、「論文盗作や改ざんなど 研究者5人の実名を公表 »」という記事を発表した。記事には研究者5人の実名が掲載されていないが、リオデジャネイロ州立大学は該当していない。従って、ゴメスは入っていない。

ブラジル研究ネカトへの対処があまいと思っていたが、実名を公表し、まともに対処するようになってきた印象だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》自己盗用の基準

自己盗用を盗用とする考え方に白楽は大きな疑問を感じている。

研究論文は文学作品と違うのだから、文章に芸術的価値を必要とすべきではない。新しい知識・概念、価値ある新知識・新概念の記述が必要なだけだ。

だから、論文の「序論」と「方法」の文章はほとんど自己盗用でも(さらに言えば、他人の文章からの流用でも)構わない。これを研究ネカトとすべきではない。

「結果」に記載しているデータが自分の過去の論文(や他人の論文)と同じではマズいが、データが新しければ、他の部分(「序論」と「方法」)は同じでも、問題ない。

学術誌の編集委員会は、論文方針の研究ネカトにそう記述し対処すべきだ。

米国の「撤回監視(Retraction Watch)」では賛否両論あるが、不正でないとする意見が多い( 2016年5月31日記事:Poll: Is duplication misconduct? – Retraction Watch at Retraction Watch)。

《2》処分

Teacher_hcpan_s国立陽明大学は、パンを処分しなかった。

自己盗用に対してはそれでよい。

しかし、「2010年のJournal of Neurosurgery」論文は他人の論文からの盗用もある。これは、処分対象である。

研究ネカトに対する台湾の大学の処分の実態、台湾政府・科学技術省の研究費申請不可処分の実態を把握していないが、無処分はマズい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》解雇は厳しすぎる?

サンタアナ研究員が主犯なので、ブラジルの標準や他の盗用事件と比べ、ソアレス教授の解雇は、厳しすぎるという意見もある(【主要情報源】①、The academic plagiarism and its punishments – a review)。

サンタアナ研究員の11論文の全部で、ソアレス教授が共著者になっている。サンタアナの「研究のあり方」「論文の書き方」のすべてを、ソアレス教授から学んだハズだ。それに、共著の責任(論文内容をチェックする責任)、研究室主宰者の責任もある。白楽は、ソアレス教授の解雇は厳しすぎるとは思わない。

《2》ソアレス教授は研究者として生き残った

ソアレス教授は、2009年(36歳?)に不正研究が発覚し、2011年2月(38歳?)に大学を解雇された。

それ以降の論文発表数を年次毎に調べ、以下に示した。

2009年     10報
2010年   7報
2011年   9報
2012年   2報
2013年     10報
2014年-2016年5月26日現在 22報

2012年に論文発表数が激減しているが、コンスタントに論文発表し、現在も活発に発表している。

盗用の実行者は、ソアレス教授ではなく、指導していたサンタアナ研究員が行なった。つまり、ソアレス教授は、本質的に盗用体質ではないのだろう。周囲もそれを理解し、研究員として雇用し、研究費も提供しているのだと思われる。
DSC_0004%20-%20Copia%20(2)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》主宰研究者の責任

アガワルは、ウィスコンシン医科大学のウィリアム・キャンベル教授(William B. Campbell)の院生で、院生時代に出版した2007年の2報、2008年の6報、2009年の1報はすべて、指導教授のキャンベル教授と共著である。2008年の2報と博士論文がデータ改ざんだった。

改ざん2論文も、もちろん、キャンベル教授と共著である。博士論文はキャンベル教授がチェックしているハズだ。

この状況で、改ざんの責任はすべてアガワルに押し付けられ、キャンベル教授の責任は問われない。なんかおかしくないか?

アガワルは、インドでも「研究のあり方」を学んだろうが、インドでは、1論文しか発表していない。米国での師・キャンベル教授からすべてを学んだと思われる。院生は研究者として未完成で、教育される立場の訓練生である。

キャンベル教授は都合のいい利益だけを得ている。なんかおかしくないか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》ロシアの盗用博士論文に唖然

ロストフツェフ4日本人にとって普通の学術システムが外国から「全くマズイ」と見なされた時、日本ではその泥沼をどのように改革できるか? ロシアの現状から学べないか? と思って読み始めたが、日本とロシアの落差が大きすぎて、唖然とした。

ロシアの盗用博士論文では、“著者”は、研究を一度もしたことがなく、盗用博士論文の文章を全く見ていない、とある。唖然とした。

学術界が腐敗しきっていることにも、唖然とした。しかし、腐敗がなければ盗用博士論文システムは成立しない。

ロシアでは、改革する機運がどれほど強いのかわからないが、政治家と学術界の上層部が腐敗しきっている現状では、改革者は弾圧され、強い攻撃が加えられるだろう。

プーチン大統領の博士論文も盗用だとなると、プーチン大統領が権力を握っている限り、問題は解決しないだろう。

それでも、何とか欧米レベルの博士論文システムにしようとしている人たちがいる。日本とは別の国ではあるが、改革しようとするロシアの人々に敬意を表したい。

《2》ロシアから学べないか?

ロシアの博士論文システムが腐敗しきっているが、どうするとよいのか? 日本もロシアから学べないか? と思って論文を読み始めた。

しかし、著者のアンドレイ・ロストフツェフは、論文中に文章では答えを示していない。

でも、行動で示している。

ロシアの盗用博士論文の事実を証拠付きで示し、ロシア人の誰もが無料で知ることができる活動を精力的に進めてきた。つまり、「ディザーネット(Dissernet)」活動である。

別途、同じような活動・ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)がドイツにあり、ドイツ語で活動している。

米国では、パブピア(PubPeer)が場を提供し、クラウドソーシングで、全出版論文を対象に英語で活動している。

そして、日本では、11jigenが活動していた。そう、活動は過去形になってしまった。

2016年5月20日現在、日本人研究者の研究ネカトの事実を証拠付きで示すことに特化したサイト(個人・グループ)は存在していない。世界変動展望と片瀬久美子が部分的に活動している程度だ。

どなたか、始めませんかね。

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
rost-pic668-668x444-2143

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

●【事件の深堀】

《1》ロシアの学長

フィディキナが28歳で研究博士号(PhD)を取得したのは国際的に普通である。しかし、31歳で学長に任命された。これは、日本では考えられないし、欧米先進国でも珍しい。

ただ、日本の学長職も定年退官した教授が就任するのは、国際的に公然と「学長は傀儡です」と公言しているようなものだ。このシステムは、学長職を侮辱している。

定年教授では、学長の職務をまともに果たせるとは思えない。しかし、日本は長年、問題意識も、反省もなく、続けている。批判する知識人もほぼいない。どうしてか? 官僚にとって、都合がいいからである。

同じように、ノーベル賞受賞者が学長に就任するのも、一般的には異常である。有名人を学長にする風潮は、大学運営、ひいては日本の高等教育を冒涜していると思う。

学術を理解し、かつ、高等教育の哲学があり、組織運営能力の優れた人が、30代・40代から学長になればよいと、一般論としては以前から思っている。

フィディキナが31歳で学長に任命されたことは、ロシアでは、学長職は専門職というとらえ方の一例で、ロシアでは普通のことなのか? 白楽は勉強不足でチャンと把握できていません。1sb%20(2)

《2》盗用は3年間の猶予期間(grace period)

フィディキナが学長職を解任されたのは、博士論文の盗用のためなのは明白である。ただ、ロシアのルールでは、博士論文に3年間の猶予期間(grace period)があるということだ。

3年間の猶予期間(grace period)という意味は、博士論文に異議申し立てができるのは、博士号授与後3年以内という意味らしい。正確なルールを把握できていない。

出典を忘れたが、ドイツの博士論文にも同様なルールがあって、「3年グレース、5年で時効」だったハズだ。

韓国では「博士号は教育科学技術部(教科部)の指針に従って5年以内の不正行為に対してのみ取り消すことができる」(2013年2月21日記事:許泰烈氏、論文盗用を謝罪 : 東亜日報保存版))。

米国・研究公正局では、博士論文に限定しないで、研究ネカト全部について、「発覚後、調査を開始しないで5年間が過ぎたら処分できない」ルールだったと思うが、出典を忘れた。正確ではない。

日本には、このようなルールがない。1sb

●【白楽の感想】

《1》ロシアの博士論文盗用

ここで多くを書かないが、ロシアの博士論文盗用には、唖然とする。

プーチン大統領の博士論文も盗用か代筆と言われているのである(Electronic Journal: ●ロシアのエネルギー戦略と博士論文(EJ第2327号)の保存版)。

ロシアの大学学長の博士論文の21%が盗用だとも報道されている(2015年11月23日 :21% of Theses Defended by Russian University Rectors’ Contain Plagiarism | News | The Moscow Timesの保存版)。

大学教授も研究ネカトまみれだと容易に想像がつく。若い院生・研究者が、この学術環境で研究ネカトしないで研究キャリアを積んでいくのは、大変だろう。「朱に交われば赤くなる」どころか、「朱の中で生きていくには、赤くなるしかない」。2_b

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》アイデアの盗用

Glyn Elwyn研究アイデアの盗用が事件になることは珍しい。実際にかなり起こっているだろうが、証明することが難しいので事件になりにくい。

今回の場合、裁判の決着がついていないが、どうするのだろう? どうなるのだろう?

本文に書いたが、ツルキーゼの弁護士・カーク・シモノー(Kirk Simoneau)は、「これは、実際は、盗用という知的所有権の事件ではない。これは本当は、公益通報者への報復事件である。不当に扱われた従業員、不正に泣き、不正に泣いて解雇された従業員の問題である」と、述べている。

結局、アイデアの盗用として争わないのだろう。本当は、議論してほしいのだが・・・。

《2》師弟と研究アイデア

今回の場合、ツルキーゼの主張によれば、ツルキーゼが考案した方法を論文にする時、エルウィンが自分も著者にしなさいと強制したらしい。この場合、ツルキーゼが独立した研究者なら、エルウィンとは対等だから、ツルキーゼは単純に拒否しただろう。

一般的に言えば、まともな研究者は「自分を著者に加えなさい」とは要求しない。対等なら、エルウィンも要求しなかっただろう。論文はたくさんあるし、すでに著名な学者である。

しかし、実際は、ツルキーゼが独立した研究者ではなく、エルウィンのポスドクだったのだ。

この場合、ポスドクがほとんど研究成果を出し、ボスの貢献度がほとんどなくても、生命科学分野では、エルウィンを最後著者にすることが欧米日では普通である。

研究室のボスは、研究室で定期的に行なう研究セミナー・論文クラブ、また、データ検討会で、Elwyn_Davis_fsポスドク・院生への研究指導をしているハズである。そもそも研究テーマ自体、ボスがポスドク・院生に提示していることが多い。ポスドク・院生の経費(人件費と研究費)もボスの研究費で賄っている。

ただ、ポスドク・院生はボスのそのような枠組み・指導を知らないことが多い。自分で研究室を主宰して初めて、師弟の関係が見えてくる。

なお、ツルキーゼはポスドクといえども、普通のポスドクではなく、研究経験がかなりある独立性の高いポスドクである。しかも、ジョージアという英米とは異なる文化圏の国で研究者として育った。

ツルキーゼの研究アイデアは、彼女自身のアイデアだっただろう。ただ、それを証明できない。研究界では、特許として確保することが第一である。他は、学術界での存在力(シンポジウムで講演など)、書籍、そして、研究成果を出し続けることで、勝つしかない。ただ、現状では、エルウィンの方がそれらのどれをとっても圧倒的に勝っていた。

とはいえ、裁判で争うのは、土俵が違うでしょう。

《3》学生のデータを上司が使用する問題

一般論として、院生のデータを教員が無断使用するという盗用問題がある(2015年10月22日のデイヴィド・マシューズ(David Matthews)の「Times Higher Education」記事:Papers retracted after authors used unauthorised data from junior researchers | Times Higher Education (THE)保存版))。

マシューズが上の記事で、例えば、ストラスブール大学(University of Strasbourg)のPatrice Dunoyerが以前在籍した院生の修士論文を論文に使用した、と書いている。

オーストラリア・ウーロンゴン大学(University of Wollongong)の科学社会学者・ブライアン・マーチン(Brian Martin)は、「教員が学生のデータや文章を無断で使用することはたくさんあると思う。ただ、どれほどたくさんなのかは誰も知らない。ほとんど研究されていない学術不正です」と述べている。

そう、この盗用の実態は把握できていない。師弟関係のあり方も国際的なコンセンサスができていない。

《4》公益通報者保護法

この事件では、報復人事を行なったことで、公益通報者保護法に違反するとも訴えられた。米国での詳細は調べていないが、日本では、公益通報者に対する報復人事が公然と行われている印象がある。

日本にも、公益通報者保護法が、2004年6月18日に公布され、2006年4月1日から施行されている。しかし、実際は機能していない。研究ネカトを公益通報した研究者が、報復人事をされている。なんとか、しないと・・・。

第一条  この法律は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》詳細は不明

以下、別の記事にも書いたのと同じ文言です。

この事件の詳細は不明です。

どうして盗用をしたのか? どう発覚したのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説しているが、実は、この事件のように、詳細が不明なことが多い。事件が報道された時点では、もっと情報があったと思われるが、適切に分析し記録を残さないと霧散してしまう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》事件は悲しい? 現実を直視

Rao M. Adibhatlaアディバトラ(写真出典)はインドで生まれ育った。インドでは、優秀な若者だったのだろう。米国で研究者になり、30年も経った57歳頃、研究ネカトで糾弾された。

折角、立派な経歴を積み重ねてきた研究者が、研究キャリアの後半に、研究ネカトというつまらない行為をしてしまった。

なんか、悲しいですね。

と最初、感じたが、現実を直視しなければならない。

研究キャリアの後半に、初めて研究ネカトをすることは、まずあり得ない。若い時から不正をしていて、研究キャリアの後半に発覚した、と理解する方が正しいだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》詳細は不明

以下、別の記事にも書いたのと同じ文言です。

この事件の詳細は不明です。

どうして盗用をしたのか? どう発覚したのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説しているが、実は、この事件のように、詳細が不明なことが多い。事件が報道された時点では、もっと情報があったと思われるが、適切に分析し記録を残さないと霧散してしまう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》誰も調査しない

撤回論文が1報あり、訂正論文が8報もある。フェルナンデスが研究ネカトした可能性はかなり高い。

しかし、2011年以降、大学や研究所に所属しておらず、NIHからの助成金で研究していないと、現在のシステムでは、フェルナンデスの研究ネカトを調査する責任組織がない。出版社は、論文を撤回するのがセイゼイである。出版社は、調査にヒト・カネ・ジカンをさきたくない。調査権限にも限界がある。

2016年3月14日、プロナスが、ライス大学時代の論文を撤回したので、ライス大学に、ようやく、調査責任(権限?)が生じた。これは、本記事の約2か月弱前である。2016年5月2日現在、ライス大学が調査しているかどうかは不明だ。しかし、5年前に退職した教授の10年前の論文の研究ネカト調査はしないだろう。

パブピアや撤回監視(Retraction Watch)は、ある意味、私的活動である。パブピアは第一追求者の集団である。撤回監視は第一追求者を支援するメディアである。疑惑の端緒を示すだけで、調査と処罰の権限はない。
→ 1‐5‐3.研究ネカト事件対処の4ステップ説 | 研究倫理(ネカト)

研究ネカトには、大学や研究公正局などの公的組織が調査に乗り出すことが必須である。フェルナンデス事件は公的組織の調査がないと、シロクロをつけられないということを、明確に示している。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》研究ネカトの公益通報

706748研究ネカトとの指摘は、行き過ぎることもあるだろう。指摘された研究者は、大きなショックを受ける。身に覚えがなければ、指摘が不当だと反論しても、報道刑は科され、悪い評判が学術界と世間を走る。身に覚えがあれば、認めるにしろ、弁解するにしろ、窮地に立たされる。自業自得とはいえ、やはり、悪い評判が学術界と世間を走る。

研究ネカトの指摘・公益通報をどうするか、難しい。適性の基準はない。従って、過不足の基準もない。現在、社会実験を通して、学術界の国際的コンセンサスを作っているところだろう。日本の政府・学術界は、このことにあまりコミットしない態度をとっているように思える。

自分のためにも、自戒を込めて、注意点を書いてみよう。

まず、研究ネカトをした人は人間である。生活があり、家族がある。幸せに生きる権利があることを忘れない。

  1. 事件の事実だけを記載する。そのために出典を引用する。記載に間違いがあれば(または、指摘され正しいと確認できれば)、訂正する。
  2. 研究ネカト防止・システムの改善のために、事件を分析し、自分の解釈・考えを述べる。言論は自由でも、発言の責任はある。感情的な表現は避ける。
  3. 事実の記載(客観)と自分の解釈・考え(主観)が、読む人にわかるように、区別して書く。

ただ、研究者は、研究ネカトを悪いと知っていて行なう。追及された時の言動、調査報告、処分は、表裏、秘匿、利害得失、メンツ、政治的配慮があり、公表された“事実”を鵜呑みにするのは危険である。実態を理解するには多角的な推論が必要である。また、一般的に得にくい情報が役に立つことも多い。

結局、ギリギリである。研究ネカトの指摘・公益通報する人、分析・解説する人は、ギリギリの状況になる。白楽自身、事件実態の理解に何度も過不足を感じている。また、数度、脅迫(のような行為)を受けている。匿名も致し方ない。

《2》社会システム

ブラジルの科学活動公正委員会は、クーリには「間違い」はあったが、ねつ造・改ざんはなかった、と結論した。

調査内容と報告書は透明性に欠き、調査に問題があると指摘する人もいる。

クーリの論文の2報が撤回で、8報が訂正だから、一般的に考えれば、「間違い」と結論するには無理がありすぎる。こんなに多ければ、タマタマ「間違えた」では通らない。意図的に「間違えた」、つまり、ねつ造・改ざんと結論するのがまっとうだ。

しかし、ブラジルでの研究ネカトの調査・結論に、科学活動公正委員会を超える組織がないので、結果を受け入れる形となった。

政府系組織は、研究ネカトの調査がオーソライズされ、調査・結論に権威付され、強大になる。しかし、政府系組織であれどこであれ、調査は人間がするので、大学人でも民間人でも、能力・技術・注意力は大差ない。白楽のほうがましである(なんちゃって)。

言いたいのは、政府系組織が調査する場合、透明性は普通以上に必須だということだ。調査結果は委員名を含めプロセスの詳細を公表すべきである。

同時に、社会システムとして、信頼に足る能力・技術・注意力を持つ人、つまり、研究倫理を専門とする相当数の大学教員(批判能力のある専門家)の存在が必須である。

その大学教員の何人かは、政府系組織の言動・報告書を調査・研究するだろうし、必要なら、批判するだろう。批判しないまでも、批判を意識して、政府系の調査委員はいい加減な調査・判断をしにくくなる。システムが向上する。

この点、米国は政府系の研究公正局と研究倫理を専門とする大学教員のバランスがいい。

日本は、米国の研究公正局に相当する政府系組織がないことで研究ネカトの対処に不備を生じている。もっと重要なことは、研究倫理を専門とする専門家・大学教員がほとんどいないことで、これは、10年程度の将来を考えると、かなり問題である。Hhonorarios-36

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》研究妨害

研究妨害では、「ヴィプル・ブリグ(Vipul Bhrigu)(米)」も事件を起こしている。

アロラ事件は、研究公正局が調査に関与していないが、上記のブリグ事件では、研究公正局が「改ざん」と認定した。

研究妨害が事件化されることは珍しい。しかし、実際には、多数の研究妨害事件が研究室で起こっていると思われる。ただ、証拠をつかむのが難しい。

研究公正を考えるとき、研究妨害も視野に入れるべきだろう。研究妨害は、研究遂行に必要なヒト・モノ・カネ・ジカンを大きく損う。研究ネカトとほぼ同等に研究を破壊する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》事件の対処記録

ダロフとプライスの事件資料は貴重である。事件への対処例は、今後の、研究ネカト処理の参考になるだろう。

日本も事件の対処記録を作って公表したらどうだろう。

《2》第一追及科学者と追及記者

この事件も優れた第一追及科学者・スティーブン・バーロウ(Stephen Barlow)の功績が大きい。そして、本来その追及に感謝し徹底的に調査すべき大学当局(ヘンリー・シュッタ神経学科長)がアホだった。大学当局が研究ネカトの解決の邪魔をした。このパターンは研究ネカトでよくある1つの典型だ。

第一追及科学者を顕彰し、当局を処罰するシステムを作るべきだ。研究ネカト対処システムの改善ポイントだ。

ArM_09_Gardner_Selbyもう1つ、マスメディアの追及記者も重要な働きを果たしている。アッブス事件では、バーロウの話を聞いて記事にした「The Capital Times」紙のガードナー・セルビー記者(Gardner Selby、写真出典)である。この記事で、事件に蓋をしたウィスコンシン大学がひっくり返った。この記者にジャーナリズム賞だ!

原理として、第一追及科学者と追及記者のコンビがうまく機能したときだけ、闇に葬られそうになった研究ネカトが白日にさらされる。この2者は研究ネカト解明に、ほぼ必須である。

米国の研究公正局は強力ではあるが、研究公正局が事件を見つけるわけではない。単に、誰かが発掘した事件を調査するだけだ。だから、発見する人と発掘する人、つまり、第一追及科学者と追及記者が重要なのだ。

日本は、この点、まるで意識がない。逆行はしていないと思うが、改善ポイントだと理解できていないようだ。

《3》大学当局が邪魔をした

本事件は1987年発覚の研究ネカト事件だが、大学当局が研究ネカトの解決の邪魔をした。

その後、約30年経過しているが、2016年4月20日現在も、大学当局が問題視される場合が多い(気がする)。2016年4月5日の記事でイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)とアダム・マーカス(Adam Marcus)が指摘している(Universities stonewall investigations of research misconduct)。

研究ネカトが発覚すると、研究者の所属する大学当局が、問題対処の主導権を握る。しかし、実際の担当者は、通常、研究ネカト問題の素人である。そして、大学の体面や評判を守ろうと、隠蔽する傾向が強い。

米国では研究公正局がアドバイスするし、各大学に研究公正官がいるので、それなりのレベルが保たれる。それでも、学長や副学長がトンデモない判断ミスをする場合がある。

ましてや、日本を含め、研究公正局や研究公正官がおらず、研究ネカトへの対処システム・意識・文化が低い国・大学は多い。研究ネカト問題の改善では、大学当局もなんとか変わる必要があるだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》詳細は不明

以下、別の記事にも書いたのと同じ文言です。

この事件の詳細は不明です。

どうしてねつ造をしたのか? どう発覚したのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説しているが、実は、この事件のように、詳細が不明なことが多い。事件が報道された時点では、もっと情報があったと思われるが、適切に分析し記録を残さないと霧散してしまう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》詳細は不明

以下、「カーク・スパーバー(Kirk Sperber)(米)」と同じです(自己盗用)。

この事件の詳細は不明です。

どうしてねつ造をしたのか? どう発覚したのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説しているが、実は、この事件のように、詳細が不明なことが多い。事件が報道された時点では、もっと情報があったと思われるが、適切に分析し記録を残さないと霧散してしまう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》研究規範を未習得者

photoジェミーナ・ドゥーラブ事件は、「研究のあり方」を学ばない臨床医が、自己流で研究を行なった典型例に思える。

パイロットの免許を取得してもいい、趣味でダンスをしてもいい。しかし、研究をするなら「研究のあり方」を学ぶべきだ。研究博士号(PhD)を取得すべきだ。

ドゥーラブは、多分、かなり優秀なのだろう。だから、最初の論文は2010年発表で単名である。師匠なしで、自力で研究論文を書けてしまった。しかし、本記事の該当論文はドゥーラブの3報目の論文である。論文は“テキトー”に書けばよいと思い込んだのだろうか。研究ネカトを甘くみたのだろう。

白楽には、不正をするまでのドゥーラブの人生は順風満帆に思えた。なんで不正をしたのだろうか?

Gemina_Doolub2-1マンチェスター医事裁判委員会は、動機を、「評判、キャリアー、昇進を高めようとした(enhance your reputation, your career, and potential job opportunities)」と述べている。向上心はいいことだが、手段を間違えたんですね。

研究倫理の専門家かとして本当に知りたいのは、不正をしてまで「評判、キャリアー、昇進を高めようとした」状況ですが・・・。

少なくとも、ドゥーラブは、不正が見つからないと思ったんでしょうね。

しかし、同僚のダルアルメリーナを著者にして論文を発表すれば、ダルアルメリーナが気が付かないわけがない。これは、ほぼ100%断言できる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》詳細は不明

ブラジルの事件の情報は基本的にポルトガル語で記述されている。そのためもあるだろうが、白楽には、事件の詳細がつかみにくかった。特に、デニス・ゲラ(Denis L. Guerra)の人物情報はほとんど得られなかった。

以下、「カーク・スパーバー(Kirk Sperber)(米)」の記事に書いたことと同じです。

どうしてねつ造をしたのか? どう発覚したのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説しているが、実は、この事件のように、詳細が不明なことが多い。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》文化・価値観

images_bbaggarwal一般論として、インドと中国にデータねつ造・改ざんが多発している。両国は人口も多いので、研究者あたりにすると、多いのか、平均なのか、少ないのか、調べていない。

偏見かもしれないが、両国には、ねつ造・改ざんを研究者の処世術の1つと見なす文化・価値観があるように思える。

バラット・アガワルは500報以上の学術論文を出版したが、65報以上の論文にデータねつ造・改ざんが指摘された。アガワルは、つまり、データねつ造・改ざんすることで、研究職を得、出世してきたのではないだろうか?

ねつ造・改ざんが研究者の処世術という文化・価値観だと、個人の研究ネカトの状況を調べて有効な改善点を抽出することは難しい。国の文化・価値観を改善する意識を持ち、その手法を考えなければならない。

そういう意味では、日本でも文化・価値観レベルから改善しなければ、研究ネカト問題が解決しない面がいくつかある。

《2》ブログ記事の撤回・訂正

1642212アガワルは日本で人気で研究講演やインタビュー記事がウェブ上にたくさんある(20記事以上、数えていない)。

これらアガワルの日本語記事は、原著論文が撤回・訂正されたら、「撤回・訂正」と示さないと、読む人に間違いを刷り込んでしまう。記事は、本来、正しい情報を提供する意図だっただろうに、結果として、実際は、間違った情報を提供してしまう。このことはよく起こる。

どうすればよいだろうか?

自分の発信した情報に責任をもち、常に点検し訂正していればよいが、現実は、難しい。ましてや、すでに記事の管理を放棄したサイトや、更新していないブログの場合も多いだろう。

書籍だと、出版時点での内容が正しいだけだと読者は理解している(と思う)。出版時点での内容が大きく間違っていれば書籍を回収し、販売しないだろう。しかし、小さな間違いがあっても、訂正紙を挟む、あるいは、対応しない。

販売後は、自動車や家電製品と違い情報(書籍・ブログなど)にはリコール制度はない。食品と違い、不良品でも取り替えてくれない。

出版後に、内容に間違いが生じた場合、再版時に訂正できるが、すでに購入された書籍内容は訂正できない。

読者も、一応、そのことを了解して書籍を購入すると考えてもよいが、そこまで考えて購入するのが一般的かどうか、白楽は、よくわからない。

ただ、ブログは、書籍よりも後からの訂正が簡単だ。

自分のブログでも、気が付けば訂正する。間違いはたくさんあるだろう。読者は、一応、そのことを了解して読んでくださっていると、白楽は考えている。しかし、読者から指摘されれば、その都度、訂正するよう心掛けている

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》長い調査は違法にすべきだ!

Andrew_Aprikyan2003年(42歳?)に発覚の研究ネカト問題を、ワシントン大学は7年間もグズグズ調査し、2010年にクロと判定した。90日で調査を終えるべきところ、16回も期限を延ばした。ありえません!!

研究公正局は、3年もグズグズ調査し、2013年4月26日に改ざんと判定し、2年間の締め出し処分を科した。ありえません!!

この結論に至るまで、事件発覚から10年もたっている。ワシントン大学はグズだったが、研究公正局もグズだった。結論を出すのに10年もかかった。ありえません!!

そもそも、事件発覚後10年もたった時点で2年間の締め出し処分を科す意味ってあるんでしょうか?

こんなに長期間調査をすると、別の被害・副作用・問題が生じる。

この間、アプリキャンは助教授だから大学から給料をもらっていたハズだ。研究助教授(Research Assistant Professor)だから、授業はしていなかっただろう。しかし、論文はほぼ毎年発表していたので、研究はしていた。生殺し状態で10年も放置状態(完全放置ではないけど)にするのは、人権問題ではないだろうか? 学長の処分も考えるべきではないだろうか?

調査の長期化は、特許も絡んでいるらしい。確かに、アプリキャンは、2008年に2件、2012年に1件、特許発明・申請をしている(【主要情報源】⑤)。2008年の1件はメルク社とワシントン大学が申請者になっている。この特許がどう絡むのか、詳細はわからない。巨額な特許料が得られているのだろうか?

《2》人種的偏見がある? 奥がある?

アプリキャンは中東のアルメニアのエレバン州立大学を卒業している。さらに、大学院は、ソ連のモスクワ大学である。

これらの国は、アメリカ人が敵視する国のように思える。そういう国の高等教育を受け、米国の大学の研究者になり、血液や遺伝子を扱う。

一般的に、米国は、アプリキャンのような高度な知識とスキルを持つ生命科学者が、中東やロシアに戻って、生物兵器の開発をすることを警戒するだろうか? 無頓着だろうか?

白楽は、警戒すると思う。政府筋からの指令がなくても、学内の一部の教員が自主的に何らかの差別をするだろう。今回の研究ネカト事件は、そういう人種的偏見が奥にあるのだろう。

それとも、もっと奥があり、大学と研究公正局の調査が長期間の及んだのは、アプリキャンのスパイ疑惑などとも絡んでいるのだろうか?

2013-04-10-aprikyan_190612aアプリキャンは、1988年(27歳?)にロシア科学アカデミー・分子生物学研究所で研究博士号(PhD)を取得し、1993年6月(32歳?) に米国・ワシントン大学・ポスドクになっている。その間の5年間、履歴が空白である。

一方、1991年12月にソビエト連邦が崩壊した。丁度、履歴の空白な時期である。この時、アプリキャンは30歳前後と人間活動として活発な時期でもある。

アプリキャンは、国際的に動きやすい卓球コーチでもあった。

アプリキャンの政治的背景は知らないが、これらが研究ネカトの告発・調査・裁判に関係があるのだろうか?

考えすぎですかね?

《3》主宰研究者の責任

アプリキャンは、1993年6月にワシントン大学のデイヴィット・デール教授(David C. Dale)のポスドクになり、その後、研究助教授になったが、アプリキャンは2016年4月2日現在まで全27論文を発表している。そのうち、1999~2011年の13年間の23論文がデール教授と共著である。

この事実から、アプリキャンは研究人生のほとんどをデール教授に捧げていたと読める。

改ざんとされた2論文も、もちろん、デール教授と共著である。

デール教授の分身のようなアプリキャンなのに、しかし、改ざんの責任はすべてアプリキャンに押し付けられ、デール教授の責任は問われない。なんかおかしくないか?

アプリキャンは、ロシアでも「研究のあり方」を学んだろうが、米国での師はデール教授である。ポスドクは訓練生(trainee)である。

デール教授は都合のいい利益だけを得ている。なんかおかしくないか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》珍しい

「2011年のJ Insect Sci.」論文で、メチャクチャな塩基配列を論文発表した。これほどメチャクチャな塩基配列を発表するのは珍しい。単なる研究ネカトではなく、デタラメ科学(Bad Science)である。

Logo_CU_blue大学は、この時点で、アブデ=エル=サミーの研究能力を疑うとよかったのだが、論文撤回は2015年だった。デタラメ科学にすぐには気が付かなかったのだろう。

「2013年のJournal of Mosquito Research」論文は他人の電気泳動像をそのまま盗用した。一般的に言うと、盗用事件は文章の盗用が99%なので、画像の盗用は珍しい(「99%」はいい加減です)。もちろん、元の画像と並べれば、盗用は明らかだが、そもそも論文結果がメチャメチャになってしまうのも明らかだ。

アブデ=エル=サミーは研究博士号(PhD)を持っているが、メチャメチャな塩基配列を見ると、生物学の知識は中学生レベルなのか、精神的に異常なのか、と思ってしまう。

そして、他人の電気泳動像をそのまま盗用するとは、何たる稚拙!

盗用するなら、あちこちの論文から幾つかの電気泳動像を集めて、切り貼りする知恵もないのだろうか?

image1
カイロ大学・昆虫学科の学生実習

アブデ=エル=サミーの履歴書には、出版論文が9報、投稿中が4報ある。これらの論文に研究ネカトやデタラメ科学はないのだろうか? 大丈夫?

それに、10人以上の修士・博士院生を指導したとある。これら指導を受けた院生は大丈夫? エジプトの科学の将来に希望が見えない?

イヤ、好意的に考え、研究ネカトが摘発されるのは、むしろ、改善の兆しなので、将来に希望が持てる。好意的に考えすぎ?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》透明性

1988年4月11日の議会の研究ネカト小委員会のビデオが公開されている。衝撃を受けた。2時間近いので一部しか見ていない、分析していない。(既に示した【動画2】:http://www.c-span.org/video/?2177-1/scientific-fraud-misconduct-federal-response)。2016年3月27日現在も無料で視聴できる。

ジェローム・ジェイコブスタインの声が聴ける。緊迫したやり取りを傍聴席で見聞きしているように感じた。スゴイ。米国の透明性はスゴイ。

今まで、研究ネカトに関する議会の様子は静止画(つまり写真)でしか見ていない。ビデオを見たことはなかった。今回初めて見つけたが、もっと、ネット上に公開されているのかもしれない。

なお、研究ネカト関連の裁判の動画は何度も見たが、米国の透明性はスゴイ。

日本も、透明性を高めるというなら、研究ネカト関連も含め、ほとんどの一般的な裁判をビデオ録画し、公開すべきでしょう。

そして、大学・研究機関の研究ネカト調査委員会もビデオ録画し、場合によると、公開すべきでしょう(要望がない?)。
キャプチャ2

《2》第一追及者

この事件も優れた第一追及者(ジェローム・ジェイコブスタイン)の功績が大きい。そして、本来その追及に感謝し徹底的に調査すべき大学当局(トーマス・ミクル医科大学院長)がアホだった。大学当局が研究ネカトの解決の邪魔をした。このオン・オフのパターンは研究ネカトでよくある1つの典型だ。

まず、追及者を顕彰するシステムを作るべきだ。そして、大学当局の担当者が秘匿するなら、担当者を処罰するシステムを作るべきだ。研究ネカト改善の重要なポイントだ。

日本は、この点、まるでわかっていない。逆行はしていないと思うが、改善ポイントだと思っていないようだ。

例えば、匿名で追及者として活発に活動している「世界変動展望」さんを支援したらどうだろう。

なお、ジェイコブスタインは収入の大半をボーラー事件への法的費用に使ってしまったそうだ。正しい人が報われない社会システムはおかしい。

《3》懲戒手続き

NIHは、コーネル大学に対して、ボーラーの「懲戒手続き」をとるよう勧告したとアレクサンダー・コーン『科学の罠』に記述されている。

しかし、NIHは、ボーラーに意図的な不正はないとし、非ネカトとした。何か矛盾している。

JeffreyBorerコーネル大学はどのような「懲戒手続き」をしたのか不明だが、実際には、ボーラーはコーネル大学医科大学院を解雇されも、辞職もしていない。NIHが勧告した「懲戒手続き」はいったい何だったのだろう?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【事件の深堀】

★米国の薬物死者は交通事故死者より多い:2015年11月5日記事

入手可能な最新のデータによると、2013年、薬物過剰摂取による死者数が4万6471人に上った一方、交通事故の死者数は3万5369人、銃による死者数は3万3636人だったという。

DEAの報告書によると、処方薬の方が依然として、はるかに致命的な問題となっているという。処方薬を乱用する人の数は、コカイン、覚せい剤のメタンフェタミン、ヘロイン、合成麻薬のMDMA(通称エクスタシー)やPCP(通称エンジェルダスト)の使用人数を全て合計した数より多く、処方薬による死者数は2002年以降続けて、コカインとヘロインによる死者数の合計を上回ってきた。(2015年11月5日記事:米国の薬物過剰摂取が「大流行レベル」に、傷害死因のトップ 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News)(保存版

過剰摂取による死者は米国が一番多い(以下の図の青色の濃さが死者数を示す:①Drug Treatment Trends by Country – Which countries have the highest demand for drug treatments, and for which drugs?保存版)、②2015年12月18日記事:「世界の薬物汚染マップ」死亡者数・中毒者数・麻薬の種類を比較 果たして日本は?保存版))キャプチャ1

日本の薬物死者数は、日本中毒学会が「薬物、薬剤及び生物製剤による中毒」の全死者を2010年で1,044人としている。処方薬による死者数は不明である。

精神医療の医療過誤を訴える中川聡(精神医療被害連絡会ホームページ)は、3次救急に運ばれる自殺企画者の中の薬物中毒者は毎年3~6万人と推定していて、上記と大きな差がある。

★オキシコンチン(OxyContin)とトヨタ役員

2015年6月18日、センが処方した麻薬性鎮痛剤・オキシコンチン(OxyContin)(オキシコドンと同じ薬物)の密輸入で、トヨタ自動車の役員のジュリー・ハンプが麻薬取締法違反の疑いで逮捕された。

ジュリー・ハンプは不起訴になった。

2015年4月、同じ薬物の所持で、別の米国人は懲役1年6か月、執行猶予3年の有罪判決を受けている。東京地検は法の下の公平性に欠けている(①トヨタ、ハンプ常務役員が辞任 薬物事件で引責:日本経済新聞(保存版)、②トヨタ元常務の起訴猶予・即帰国にケネディ大使の圧力?一般米国人は同じ罪で懲役1年半 : J-CASTテレビウォッチ(保存版)

【白楽の感想】

《1》麻薬ディーラー医師

米国の「医療」事件には愕然とする事件が多々ある。本件では、医師が麻薬ディーラーなのだ。しかし、米国は医師が糾弾され白日の下にさらされるから、日本よりましなのかもしれない。

日本は国民より医師が大事にされ、ヒドイ医療をしても、医師が保護され守られるケースが多い。

考えてみると、研究ネカトでも同じだ。日本は国民より研究者が大事にされ、ヒドイ研究をしても、研究者が保護され守られるケースが多い(多いかどうか、正確には不明。基準もないし)。

《2》麻薬の死者

疾病予防管理センター(CDC、Centers for Disease Control and Prevention)のサイトには、米国では、2014年に47,055人が薬物の過剰摂取で死亡し、内、28,647人が麻薬・オピオイド(モルヒネ、ヘロイン、コデイン、オキシコドンなど)の過剰摂取で死亡している。Increases in Drug and Opioid Overdose Deaths — United States, 2000–2014

なんだか可哀想な数字だ。

気持ちいいからと手を出し、最後は過剰摂取で死ぬ。

麻薬の違法製造者やディーラーなど、違法な人たちがいる。

しかし、違法ではなく、合法的に金儲けをしている人たちもいる。

製薬会社が麻薬を大量に作る。医師が麻薬を大量に処方する。米国では、合法の処方薬で死ぬ人のほうが、違法の麻薬入手で死ぬ人より多い。

なんとかしないと。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》研究者としては珍しい人生

38歳で、NIH・国立癌研究所からねつ造・改ざんと判定された。当時、研究公正局はまだ発足していない。

ところが、実際にねつ造・改ざんしたのは実験助手だったが、シュトラウスが主宰研究者(PI:Principal Investigator)だったので責任を取らされた。

31a43PaUpHL__UX250_それで、1980年に制定された連邦政府研究費の締め出し処分規則の適用者第一号となった。

随分、不条理だとシュトラウスは思ったに違いない。

しかし、シュトラウスは、その後、医療関係の会社で大成功を収め、詩作でも活躍し、現代美術館を開設した。研究者としては珍しい。

能力の高い人はどの分野でも能力を発揮する典型のようだ。

33歳で、「大ボストンの著名な若手リーダー10人」に選ばれるほど医学研究に才能を発揮し、38歳で研究を絶たれてからは、起業で才能を発揮し、その後、詩作、美術館運営でも才能を発揮した。天は4物を与えたようだ。

《2》主宰研究者

Dr_Marc_Straus研究ネカトをした時、主宰研究者(PI:Principal Investigator)の責任をどうするとよいのだろうか。欧米のその後の事件では、実行者だけが処分され、原則的に主宰研究者は処分されていない。

教授(主宰研究者)と院生・ポスドク(訓練生)の関係でもそうである。

教授(主宰研究者)に監督責任があると思える事件でも、院生・ポスドクに責任を取らせて、自分は逃げ切っている気がする。大学・調査委員会も、それに加担し、教授(主宰研究者)を処分しない傾向が強い。

日本でもそうだが、議論と明確な規定が必要な気がする。7d9334_02722da3570c43dfa5f549e4e826e36f

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》1転び1起

b012932論文数と撤回論文の結果から、1報の論文撤回で、グルックはしっかり更生し、慎重に研究を発展させたことがうかがえる。

出世にはどれだけマイナスだったか計りかねるが、研究遂行上は、ある意味、プラスに働いたのではないだろうか。

アレクサンダー・コーン『科学の罠』の記述にあるように、当時の若いグルックは研究ネカトだったのにもかかわらず、態度が尊大で自尊心が高く、相当なイヤナヤツだったようだ。研究ネカトの調査に怒り、感情的に教授を辞職したのだろう。

しかし、このことを契機に深く反省し、研究態度を改め、ジューイッシュ病院に転籍した1988年から2016年の29年間に143報の論文を発表した。研究者として大成功の人生を送った1人だ。イヤイヤ、「人生を送っ」のではない。まだ現役で、76歳の2016年現在も研究を続け、「人生を送っ」いる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》学問の不自由

米国は中国の人権問題を非難するが、白楽の知識と経験から、米国にも人権問題は溢れていると思う。1950年代のマッカーシズムは明白だが、米国に実際に滞在し、仕事し、生活した経験から、人種差別、男女差別など法律上は廃止されていても、人々の感情・価値観には根付いていると感じた。建前では非難されるから、本音は、むしろ、深く潜行する。表面的にはわかりにくくなる。

そして、ニューヨークの911テロの後、米国の狂気が表面化した。

もちろん、日本でも「言論の自由」は同じである。正義・正論を無防備に主張できる人間社会はどの国にも現存しないし、今後も存在しないだろう。だから、実際は、注意深く語るべきなのだ。

日本国憲法に「第23条 学問の自由は、これを保障する。」がある。白楽は、これも、単純には信じていない。「バイオ政治学」を提唱して以来、「学問の自由は保障されていない」と何度も感じさせられた。

《2》研究ネカト

日本語の解説はワード・チャーチルの言論弾圧ともいうべき部分に焦点を合わせている。

この事件では、チャーチル夫人が日系人ということもあり、心情的にチャーチル教授を応援したくなる。

しかし、研究ネカトは研究ネカトである。研究ネカトなら、文句なしに、研究者失格である。

チャーチル事件から学ぶことは、高潔な学者にも研究ネカトの過去があった、ということだ。つまり、研究ネカトは学術研究の基本的スキルであって、学問的業績や人格や高潔さとは別ものである。

学術界で重要な研究をすればする人ほど、社会で重要な発言すればする人ほど、研究ネカトのスキルをしっかり身につけないと、一瞬にして地獄に落ちる。

残酷である。

《3》研究ネカトで解雇

ワード・チャーチルを排斥するとき、研究ネカトが研究者解雇の道具に使われた。

大学・研究機関にとって都合が悪い教員・研究員を解雇したいとき、過去の論文・記録から研究ネカトを見つけ出し、それを理由に解雇できるということだ。

多分、日本の多くの教員・研究員は、集中的にあら捜しをされれば、そこそこの研究ネカトが見つかるだろう。

解雇理由のために研究ネカト探しが行われるのは、良いことなのか、悪いことなのか?

《4》テニュア

ワード・チャーチルはテニュアを持っていた。テニュアは教員の終身在職権である。テニュを持っていることで、教員の身分保障、学問的な主義主張の自由が強化される、と白楽は思っていた。

テニュアは米国大学教員協会 (AAUP) によると、基本的には「審査期間を成功裡に満了後は、教員は正当なる理由又は特別の環境が存在し、かつ教員委員会での聴聞後でないと解雇できないという取決め」のことである。(テニュア – Wikipedia

しかし、研究ネカトはテニュアを打破してしまう。

研究ネカトがあれば、テニュア教員でも解雇できるということは、研究ネカトは「正当なる理由又は特別の環境」になるということだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》詳細は不明

この事件の詳細は不明です。

どうしてねつ造をしたのか? どう発覚したのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析で、研究ネカト対策システムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

今まで、ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説しているが、実は、この事件のように、詳細が不明な事件は多い。事件が報道された時点では、もっと情報があったと思われるが、時とともに失われる。適時に収集・分析し記録を残さないと霧散してしまう。

《2》研究者として生き残る

スパーバーは、4年間の締め出し処分を受けた。通常の締め出し処分は3年間だから、研究公正局は研究ネカトが悪質と判断したことになる。

研究公正局から締め出し処分を受けたのに、それも悪質と判断されたのに、スパーバーは、締め出し処分中に研究論文を発表していた。それで、研究者として生き残れたのではないか、と白楽は思い、記事にした。

どうして、生き残れたか知りたかったが、結局、研究者として生き残れなかったようだ。

米国では、研究ネカトをした研究者を排除するシステムが強固なようだ。 一方、日本は・・・、まーいいか、今回は、日本のことは。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》アンブローズのねつ造

アンブローズがアイゼンハワー大統領に伝記執筆をお願いしたのに、依頼されたかのように記述したことは、ねつ造というより脚色した自慢話や法螺話だ。読者に執筆内容の誤解を与えるとか、実害を生じさせるようには思えない。

事実の発見に関するねつ造ではないので、アンブローズの記述に基づいて、後の人を間違った方向に導くこともない。著書の売れ行きにはよいだろうが、その程度だ。

ベストセラー作品は、ノンフィクション作品といえども、そもそも話を面白くするためにある程度の脚色があると考えるのが通常ではないのか。

学術論文の研究ネカトと同一に扱わないほうがいいだろう。

歴史学の教授のねつ造事件だとの記載と以下のランキングの第1位だから、このブログで記事にした。しかし、本来、このブログで扱う研究ネカトではなかった。

この事件は、 「学術史上の10大研究スキャンダル」ランキングの第1位である(2012年ランキング | 研究倫理)。

ランクした人は、「Online College Courses」のスタッフ・ライターたちで、氏名は明記されていない。英語で「The 10 Biggest Research Scandals in Academic History」とあるが、「Research Scandal」(つまり、研究スキャンダル)とは思えないし、「in Academic History」(つまり、学術界の歴史上)とも思えない。ランクした人の「ねつ造・改ざん」と思える。

50440423アンブローズ(左)、娘・グレース(Grace)(中央)、妻・モイラ(Moira Buckley) (右)、写真出典

《2》ここでの盗用

歴史的事実を土台にした物語での盗用は、深く調べていないが、たくさんあるのではないだろうか。過去の事実は資料からしか学べない。そして、その資料は少ないし後から加えることはできない。出典は同じになるだろう。

となると、同じ事実を伝える文章は、書き方を少し変えたところで、ほとんど同じになるはずだ。伝記やノンフィクションは、事実を伝える部分は先人の文章を流用しても、物語全体の切り口・面白さや・インパクト・作風が独自であれば、白楽は、問題ないと思う。ただ、著作権法はそれを認めていませんが。

《3》博士論文の盗用

2002年5月10日、博士論文にも盗用があると指摘された。盗用の程度は不適切な文章の帰属表現が11か所あったとのことだが、詳細は示されていない。

他人の文章を数十行、数ページにわたって流用したのではないようだ。もしそうなら、新聞記事が、そう記述し、騒ぐだろう。記事にそのような記述はない。だから、印象として、軽微な不適切さで、問題視するほどではなかったのだろう。

なお、ウィスコンシン大学マディソン校が1963年に研究博士号(PhD)を授与したが、博士号をはく奪していない。大学として調査し始めていないようだ。もし、はく奪すると、約40年前に授与した研究博士号である。当時の審査員も存命なのかどうかというところだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》操作の間違い

研究ネカト関連の「間違い」は、「ねつ造・改ざん」の指弾を受けたとき、指弾を受けた研究者が弁明として、意図的に「ねつ造・改ざん」したのではなく、論文記載・計算、データ読み取りなどで「間違え」たと発言することが多い。意図的な「ねつ造・改ざん」の証明は難しいので「間違い」で逃げる。

また、調査委員会が「ねつ造・改ざん」の確証が得られず、初犯で、不正が軽微な時、「処分なし」にする場合、「ねつ造・改ざん」ではなく「間違い」だったと判定する。

また、調査委員会が研究ネカト者に好意的な時も、「ねつ造・改ざん」ではなく、研究者の「間違い」だったと発表する。

今回の事件での「間違い」は操作の「間違い」で研究ネカトの「間違い」とは異質である。

ただ、今回のような危険物を取扱う操作での「間違い」は大きな健康被害につながる。この場合、何をどうすべきかは、研究ネカトとは別のルールや対策が必要だ。

《2》権威・信用と不祥事

疾病予防管理センター(CDC)は米国の政府機関で、疾病予防・衛生管理・健康増進の情報提供と活動では、米国の中枢であり、世界の中心的存在である。

今回、2014年炭疽菌被爆の事件を記事にしたが、それ以前も、その後も、いくつかの事件を起こしている。所員が15,000人もいれば、事件が起こっても不思議はないが、権威・信用は失墜しないものだろうか?

権威・信用の定量法を思いつかないが、権威・信用はそれなりに失墜しているだろう。

しかし、人間の行ないに完全はない。人間は間違える生き物である。現代では、時々、事件報道されるほうがむしろ、組織の透明性が高いという証明でもあり、改革のエネルギーにもなる。逆説的だが、全く事件が報道されない組織より、健全なのかもしれない。

《3》集団の事件

今回、2014年炭疽菌被爆の事件を記事にしたが、疾病予防管理センター(CDC)で実際に不始末をした人はBRRAT研究室の1人の研究者(A研究者)である。マイケル・ファレル(Michael Farrell)ではないと思う。

ファレルではないと想定すると、その当事者は匿名のままで、実名も顔写真もメディアに報道されていない。記者も疾病予防管理センター(CDC)もその当事者を公表する姿勢がない。

疾病予防管理センター(CDC)の構造的欠陥が招いた事件ということになっているが、事件発生のプロセスをみれば、構造的欠陥というよりA研究者の無能・不注意が招いた事件と思える。疾病予防管理センター(CDC)で初めて炭疽菌を使用したわけではなく、何十年も安全に扱ってきたのだから、取り扱い方法の不備とは思いにくい。

それなのに、当事者は匿名のままである。どのような経歴・研究実力だったのか、どのような精神・肉体条件下での実験作業だったのか、どんな処分が科されたのか、全く情報が洩れてこない。これでは、講じる改善策の検討もできない。事件から学べない。マズい。

米国は個人主義の国で日本は集団主義の国と対比される。ところが、個人名が出てこない。なんかヘンだ。中東出身のイスラム系の研究者なのだろうか? それとも、マイケル・ファレルがA研究者なの?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》お上の判断ミス?

建前は行政側に判断ミスがあったと言わないが、実際は判断ミスがあったのだと感じる。

聖ジュード小児研究病院がボアが研究ネカトしたと結論した。しかし、ボスのクリーブランドは自分の教授栄転時にボアを助教授に招聘している。クリーブランドは聖ジュード小児研究病院の結論を認めていないと受け取れる。ボアは不正をしておらず、ボアを信用していたと思われる。となると、聖ジュード小児研究病院の院内政治抗争でクリーブランドはいじめられたということだ。

研究公正局はその聖ジュード小児研究病院の調査結果を信用してしまった。多分、聖ジュードはいい加減な調査をしたのだろう。それで、研究公正局は結論を出すのに5年もかかった。

結局、研究公正局も改ざんと判定した。しかし、ボアは研究ネカトをしていないと一貫して主張した。研究公正局の改ざんと指摘した2論文のそれぞれの図を見ると、その結論は、少し行き過ぎがあった印象だ。1報は撤回したが、2報目の論文は撤回ではなく、訂正で済んでいる。

ボアが研究ネカトをしていないと一貫して主張し、資料を提出しないなど、調査に非協力的だった。そのことで、研究公正局は感情的なペナルティを加味した印象もある。

また、ボアが聴聞会開催を要求したのに開催しないのも変な印象が残る。このルールはその後変わったとのことだが・・・。

建前ではそう言わないが、実質上、お上がクロと判定したのを、ボアは、ひっくり返した。研究公正局も自分たちの調査がズサンだったと感じていたに違いない。

ボアは、しつこく・賢く攻めて立派です。

大学・研究機関の研究ネカト調査・結論に問題があるケースもそこそこあるだろうが、あまり攻撃されていない。ましてや、研究公正局の調査・結論に問題があるケースもそこそこあるだろうが、とても、珍しい。これらの場合、裁判所で争うことになる。

《2》研究者として生き残る

ボアは、2011年6月(38-42歳?)に、フロリダのスクリプス研究所(Scripps Research Institute in Florida)の助教授を辞め、2012年10月 – 2013年10月はアルガスター社(AlgaStar Inc.)の主任科学官(Chief Science Officer, Director)だった。

2012年3月2日、ボアは、3年間の締め出し処分を実質9か月強で終わらせ、研究者として生き残ったかのように思われた。

しかし、スクリプス研究所の研究を2012年5-6月号に論文発表して以降、論文を発表しておらず、結局、研究者として生き残れなかったようだ。

アルガスター社を2013年10月に退社後、2016年3月3日現在、研究者としては行方不明である。

現在、研究活動していないと思われる。研究ネカト嫌疑に7年間も戦い、ある意味、研究公正局を打ち負かしたのに、研究者として生き残れなかったのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》経済学の論文の「間違い・改ざん(?)」は影響が大きい

「2010年のラインハート&ロゴフ」論文の「間違い」がなければ、現在の世界は違っていただろう、と言われている(7 Scientific Scandals Of 2013: From A Retracted GMO Study To A Science Publishing Sting Operation)。

経済学論文の「間違い」で、経済が損なわれる国家が生じる。医学論文の「間違い」で健康が損なわれる人が生じる。どちらも、深刻だ。

経済学論文の「間違い」が「誠実な」間違いでなく「意図的」な「改ざん」だとすると、この場合、国家の趨勢を意図的に左右できる。高度に政治的な学者にとって魅力的だろう。

《2》ねつ造・改ざん

カーメン・ラインハート(Carmen Reinhardt)、ケネス・ロゴフ(Kenneth Rogoff)は、学者としてというより、現実世界の政治や経済で重要な人らしい。配偶者・知人友人には米国と世界を牛耳る政治家・経済学者・財界人がたくさんいる。

このように重要な人物を失脚させると、米国経済や世界の経済に不都合が起こる。そうなると、論文にデータねつ造・改ざんがあっても、多くの人は穏便に(つまり、「間違い」で)済ませたいと思うだろう。論文発表後の対処を見ていると、白楽には、その意図が感じられる。

そもそも、メリーランド大学もハーバード大学も、「2010年のラインハート&ロゴフ」論文に研究ネカトがあるかもしれないとの前提で調査をしていない。調査すべきだろう。

研究倫理の研究者からすると、とてもヘンである。

この論文以外の論文も研究ネカトだらけということはないのだろうか? ラインハート&ロゴフは研究ネカトで出世した学者ということはないのだろうか?

《3》生命科学や自然科学は日本語記事貧困

「2010年のラインハート&ロゴフ」論文事件に関する日本語のニュース・解説記事がウェブ上にたくさんある。もちろん、英語でもたくさんある。

国際経済に関する論文で政治がらみで、米国のマスメディアがとても多く報道したから、日本語のニュース・解説記事が多かったのだろう。

分野が異なるとどうなるか?

米国の生命科学や自然科学の論文の「間違い」や研究ネカトを米国のマスメディアがとても多く報道する場合がある。しかし、それでも、日本語のニュース・解説記事が全くない(ほとんどない)ことが多い。

(1)どうしてなんだろう? (2)そして、日本の生命科学や自然科学の研究観・研究システム観は歪むのではないだろうか?

白楽の答えは以下のようだ。

生命科学や自然科学だけでなく。研究者の事件一般を報道するマスメディアが日本には圧倒的に少ない。研究する人も圧倒的に少ない。これが、(1)の答えの一部だ。

また、人文・社会科学系の研究者は自分の分野で外国の研究ネカト事件があれば、分析しブログや記事にする。しかし、日本の生命科学や自然科学の研究者は、自分の分野で外国の研究ネカト事件があっても、事件が起こったことさえ知らない(無視する)ほど、関心がない。視野がすごく狭くなっている。

「日本の」と書いたが、ある意味、欧米も同じである。違うのは、日本には、生命科学や自然科学と社会科学を総合した問題意識と知識・スキルを持つ研究者がいない(少ない)。そういう研究文化観とシステムがない。欧米には、ある。

(2)の答えは、歪む。というか、すでに、歪んでしまっている。

JP_-ECON-popup

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》「正しい行動(doing the right thing)」

撤回監視(Retraction Watch)ブログは、研究ネカトや「間違い」で、「正しい行動(doing the right thing)」を取ったケース・人を称えている。

この事件も、その栄誉に浴している。

批判に誠実に対応し、論文出版の2か月後に論文撤回しているからだ。

「褒める事」で研究不正を減らすこのやり方は優れている(doing the right thing Archives – Retraction Watch at Retraction Watch)(保存版)。

《2》「間違い」論文

指導教授で共著者のアンドリュー・エリオッット教授は論文の「間違い」に気が付かなかった。Psychological Science誌の査読者も論文の「間違い」に気が付かなかった。これでは、指導教授や査読者失格である。本来のシステムが機能していない。これでいいのだろうか? ペナルティなしでいいのだろうか?

当該論文は、多くのメディアが取り上げたので、論文出版後に論文内容を精査する人が現れ、かつ、間違いだとブログで指弾した。

ということは、「キジも鳴かずば撃たれまい」である。

メディアが取り上げない論文の間違いは指弾されないということだろうか? 多分、出版された論文の99.9%以上はメディアが取り上げない。

従来の方式だと、「間違い」論文は、引用されず、著者の評価は低くなる。それで淘汰されてきた。この従来の「間違い」論文への対処方式で、今後も、いいのだろうか?

「間違い」論文の割合や実害が定量的に分析されていないが、再現できない論文のかなりの割合は「間違い」論文だろう。「間違い」論文の実態を研究し、別の対処システムを構築する必要な気がする。

《3》第一指摘者の重要性

今回の事件では、論文発表後すぐに、カナダ・ビクトリア大学(University of Victoria)・心理学専攻の院生・コルソン・アレシェンコフ(Corson Areshenkoff)が、自分のブログで論文内容に問題があると指摘した。

研究ネカトや「間違い」を減らす対策として、コルソン・アレシェンコフのような第一指摘者の存在はとても重要である。どのような機関・分野であれ、研究現場に、このような第一指摘者がたくさんいる状態にしないと、研究ネカトは減らないだろう。

AndysLab米国・ロチェスター大学のアンドリュー・エリオッット教授・研究室の院生・室員。右端がクリストファー・トールステンソン(Christopher Thorstenson)。出典

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》不正が1報とは思えない

photo1877調査委員会は「2011年のJAMA誌」論文以外、研究結果が未出版の2件も調査した。それらの研究結果に不正は見つからなかった。

撤回論文は「2011年のJAMA誌」論文の1報だけだ。

しかし、2011年ころの同じ趣旨の出版論文は他にもいくつもある。それらにねつ造・改ざんはなかったのだろうか? 普通に考えれば、ねつ造・改ざんが「ある」と考えて調査すべきでしょう。イヤイヤ、ジャマルの全78論文を調査すべきでしょう。

なお、研究ネカト疑惑に関して、カナダは比較的よく調査し、その結果を公表している。調査は現在進行中かもしれない。

《2》動機?

sophie_jamalジャマルの研究人生は、不正発覚まで順風満保に見える。どうして、ねつ造・改ざんをしたのだろう。

ニトログリセリン軟膏を塗るだけで骨粗しょう症が治ると提唱すれば、すぐに、他の研究者・医師が追試することは容易に想像がつく。

そして、治験期間の2年後、効果なしとわかれば、問題視されるのは目に見えている。

冷静に考えれば「バレる」とわかるだろう。それでも不正をしてしまうのが研究ネカトではあるが、ジャマルは、もともと、不正体質のシリアル研究ネカト者ではないだろうか?

報道はこういう視点からも報道してほしい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》所属組織の調査の限界

ネバダ大学ラスベガス校は、2008- 2013年にマロウチ教授が発表した 26著作物のうち約23著作物に盗用があることを見つけた。

これはいい。しかし、2008年は、ネバダ大学ラスベガス校がマロウチ教授を採用した年だ。ということは、マロウチ教授がそれ以前に盗用していたかどうかを調べていない。というか、所属前の行為を調査する権限はないし、義務もない。調査方法もない。

他の記事には、トロント大学・博士院生の時とルイジアナ州立大学・教員の時の盗用も少し触れているが、トロント大学とルイジアナ州立大学はしっかり調査した気配がない。

たまたま、検査の厳しいところで発覚し、研究界から排除されるが、甘いところでは研究ネカトがまかり通る。おかしい。

研究者の著作物は連続なので、所属がどこであれ、所属の切れ目なく、その研究者の研究ネカトの全貌を調査・解明する仕組みを作るべきだろう。そうでなければ、十分な予防法を組み立てにくい。

《2》学問分野としての文学での盗用

文学(文芸作品)は芸術作品であって、十数単語の文章にも芸術的な独創性がある(ない場合もあるが・・・)。しかし、英文学は研究分野としての文学(学問)だから、研究成果の文章は十数単語の文章に芸術的な独創性を認める必要がないと、白楽は考える。

十数単語より多い文章が類似していてもかまわない。研究では新しい発見が重要であって、文章の類似性は重要ではないと、白楽は考える。

しかし、上記の白楽の考え方は盗用の世界ではマイナーである。だから、研究分野としての文学(学問)でも、十数単語の文章を流用し、それを引用しなければ、盗用とみなされる。

そうなると、英文学でも国文学でも文学系の研究論文は、盗用が多いだろうなあと、思っていた。だから、今まで、あえて、文学系の論文の研究ネカトを取り上げなかった。

学問分野としての文学を研究する研究者は現在の盗用ルールで困らないのだろうか?

《3》根っからの盗用学者

最初の盗用は、トロント大学・博士院生(25-30歳?)の時である。この盗用がいつ発覚したのか明確ではないが、博士院生(25-30歳?)の時に矯正されるべきだった。マロウチは才能があるのだから、それ以降は盗用せずに素晴らしい論文を発表しただろうに。

あるいは、発覚時点で博士号を授与せず、もし、既に授与していたなら、はく奪し、研究界から排除すべきだった。

さらに、ルイジアナ州立大学・教員の時にも盗用していた。この時の盗用でも、ここで排除すべきだった。

今回、ネバダ大学ラスベガス校が2014年11月になって排除したが、54歳(?)である。博士院生(25-30歳?)の時から24-28年間も、盗用を続けたことになる。弊害が大きすぎる。研究界の癌なのだから早期発見・早期治療をすべきだった。

photo_53853_landscape_650x433出典

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》米国の報道は優れている

2016年2月17日現在、インターネットで「Industrial Bio-Test Laboratories」を検索すると、英語ではかなりの数の記事がヒットした。

この事件では、米国のニューヨーク・タイムズ紙が優れた報道を続けている。そして、約40年前の事件の記事なのに、インターネット上で無料で閲覧できる。素晴らしい。

フリー記者(?)のキース・シュナイダー(Keith Schneider)の優れた記事もインターネット上で無料で閲覧できる。ウィキペディア英語版の記事も内容が優れている。

研究者の事件を詳細に報道することは、研究倫理の改善に大きくつながる。素晴らしい。

《2》日本は報道なし

一方、2016年2月17日現在、インターネットで「Industrial Bio-Test Laboratories」を日本語指定で検索、または「バイオテスト工業試験」で検索してもこの事件の日本語解説はヒットしなかった。このような大きな事件でも、日本では報道されていない。科学系の雑誌でも記事になっていない(推定)。

ということは、日本のほとんどの科学技術者は、バイオテスト工業試験会社(Industrial Bio-Test Laboratories)の事件を知らない。白楽もIBT社の事件を知らなかった。

このような鎖国的状況はとてもまずい。科学研究のあり方を考えるときに、必要な栄養が与えられていない栄養失調状態である。

研究者として、研究倫理問題に関して、偏った見方をしない姿勢を保ちたい。しかし、日本語の情報だけでは、インプット自体がすでに偏っているのだ。

《3》日本の毒性試験・製薬企業のデータ不正

他国の毒性試験でのデータ不正操作事件を調べると、日本の毒性試験でもデータ不正操作が行われているハズだ。そう思って少し調べると、以下が見つかった(網羅的ではありません)。新聞記事になるのは氷山の一角だろう。実際はかなり頻発に不正操作が行われているのかもしれない。

2010年4月、田辺三菱製薬の子会社・バイファ(北海道千歳市)の試験データ不正が報じられている( 田辺三菱製薬子会社、社長が試験データ不正の指摘を放置 ( その他環境問題 ) – 混沌の時代のなかで、真実の光を求めて – Yahoo!ブログ保存版)。

大鵬薬品の北野静雄が、製薬企業のデータ不正を追及した。(2015年1月21日中日新聞、出典キャプチャ3

下は、北野静雄のスライドだが、1981年~1994年の日本の製薬企業のデータ不正である。IBT社データねつ造事件は1976年に発覚しているので、その後に起こった事件である。日本は学んでいないのですね。
キャプチャ2北野静雄のスライド。出典の14枚目

そして、性懲りもなく繰り返し起こしている。監督官庁は何もしなかったのか? 何かしたのなら、有効ではなかったということだ。なんということだ。

1994年以降も同種の事件が頻発している。例えば、ディオバン事件が2007年に起こっている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》トンデモ科学をどうして信じる?

こういう事件があるたびに、人々はどうしてトンデモない科学を信じるのだろうか? と疑問に思う。

トンデモない科学=疑似科学(ぎじかがく、英: pseudo science)、ニセ科学

cha_2《2》韓国大丈夫?

こんな事件を起こしたグァンヨル・チャ(Cha, Kwang-Yul、写真出典)は韓国では大学の学長であり病院長である。こういう人をその立場に認めてしまう韓国って、研究公正は大丈夫なのだろうか?

大丈夫なわけないですね。「2001年のJRM」論文が問題視された3年後の2005年末、ウソク・ファン事件が勃発している。

日本も同類ですけど、どうして、抜本的に改善しようとしないのか? 一般的には、利権構造と怠慢構造ですね。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》事件は不明点が多い

1429791596イタリアの事件だからイタリア語が中心で、白楽には解読が困難だった。とはいえ、2012年7月の裁判結果がどうなっているのか、お伝えしたかったが、わかりません。ご存知の方、教えてください。

フィオルッチはその後も研究活動しているので、裁判では多分、無罪だったのでしょう。パブメドでは2016年に論文出版があり、フィオルッチのサイトでは2015年に論文を出版し、国際学会で発表もしていることがわかる(Stefano Fiorucci Laboratorio di Gastroenterologia Università di Perugia – Stefano Fiorucci – Professore e Ricercatore dell’Università di Perugia)。

《2》ねつ造・改ざん論文で研究費を得るのは横領罪?

イタリアの法律はわからないが、国際社会では日本を含め、研究ネカトは犯罪ではないとするのが一般的である(従来)。

以下は、米国・日本の例である。

米国では、研究ネカトは犯罪ではないとしているが、法律上、ねつ造・改ざん論文で研究費を得た時の罪名は5つある(Grant Fraud Responsibilities | GRANTS.GOV)。

英語に日本語併記すると次の5つだ。

• Embezzlement…横領罪
• Theft or bribery concerning programs receiving federal funds…政府助成金の盗金や贈収賄(18 U.S.C. § 666)
• False statements…不実記載(18 U.S.C. § 1001)
• False claims…不正請求(31 U.S.C. §§ 3729-3733)
• Mail fraud and wire fraud…郵便・通信詐欺(18 U.S.C. § 1341など)

横領罪が最初に記載されているが、2番目の罪名(政府助成金の盗金や贈収賄)が適切な気がする。

米国では、データねつ造・改ざん論文で研究費を得ても、現実的には、多くの場合、刑事事件になっていなかった。まれ(少数)だった。ただし、最近は、刑事事件化する動向に思える。実際に法律上、上記の罪名がリストされている。

日本は、研究ネカトで刑事事件になったケースはまだない(と思う)。

どうすべきかと問われれば、白楽は研究ネカトを減らす3本柱は「関心」「必見」「必罰」だと考えているので、研究ネカトで論文で研究費を得た時、刑事事件にすべきだと考える。

政府は早急に研究ネカト罪を制定すべきである。罰金刑は2倍返しを原則とし、受給した研究費の2倍を返還させるべきだ。研究ネカト罪を制定する前の現状は、詐欺罪で処理できるだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》なぜランキング入り?

この事件は、この事件は、2012年2月27日の「大学の10大研究不正」ランキングの第3位になった(2012年ランキング | 研究倫理)。

なぜ、ランキングの第3位に挙げられたのだろう?

ランキングの説明では、2人は、他の研究ネカト者と異なり、数年間も研究職に就いていたとある。しかし、大学が調査結果を公表したのが2011年で、翌2012年1月に研究公正局が不正を公表し、2人は辞職した。

「数年間も研究者職に就いていた」ためと説明しているが、これがランキング入りした理由とは思いにくい。不正発覚後にも研究職に数年間を就いているケースはたくさんある。調査終了後に処分が科されるから、その前後に辞職することが多い。もちろん、調査開始とともに辞職する研究者もかなりいる。

この事件は、研究公正局の締め出し処分が2年間と標準以下である。そして、著名大学でもない、著名研究者でもない、研究ネカト論文数も多くない、巨額の研究費でもない、健康被害もない。「ない」ばかりなのに、なぜ?

無題1ポイントは、ジェラルド・ラシントン(Gerald Lushington)にあるようだ。

特記すべきことが1つある。

ラシントンは、同僚ヴィスヴァナタンの盗用に気が付いていたのに大学当局に報告しなかった。そして、盗用を知りつつ論文投稿を許容し、盗用論文の共著者になった。

このレベルで研究ネカトとして処分されたのは珍しい。

知りながら注意しなかったという研究ネカトである。今までこういうケースで大学や研究公正局が処分した例はない(多分)。研究ネカト処分の新動向に思える。飲酒運転と知りながら注意しなかった罪と同等の扱いである。

《2》盗用容認(当局に通報しない)の証明は?

「同僚ヴィスヴァナタンの盗用にラシントンが気が付いていた」のをどうやって証明したのだろうか?

「盗用を知りつつ論文投稿を許容した」のもどうやって証明したのだろうか?

また、盗用論文の共著者はラシントン以外にも数人いる。その人たちはシロだとどうやって証明したのだろうか?

盗用と知りつつ当局に通報しなかったとどうやって証明したのだろうか?

大学と研究公正局はこれらの証拠をやって得たのだろう?

【主要情報源】③にハンス・ブライター(Hans Brighter)の「ラシントンが自白したとしか考えられない」というコメントがある(Hans Brighter January 18, 2012 at 7:46 am)。

しかし、自白というのは、何かヘンな気がする。自白があったとしても、自白だけで証明されたことになるのだろうか? ラシントンは、学内政治の被害者ということはないのだろうか?

《3》研究者を続けられた珍しいケース

研究公正局がクロと判定し、締め出し処分を下した人で、研究者を続けられた研究者は少数である。米国は研究ネカト者を研究界から排除する方針だから、基本的に研究者を続けることが困難になる。

米国ではパケットだけかもしれないとレオ・パケット(Leo A. Paquette)の記事に書いたばかりだ。しかも、パケットのクロ判定は1993年で、研究ネカト制度の初期だったから、排除方針がブレたのかもしれない、とも書いた。

今回は研究公正局が2012年に公表した事件である。ただ、締め出し期間が2年間と短いこと、実質的な盗用者ではないこと、分野が工学系で政府研究費に依存度が低いことなどから、ラシントンは研究界から排除されなかったのかもしれない。もちろん、本人の能力が高いこと、共同研究者から好かれていることもあるだろう。glushington

ラシントンは、事件後、カンザス大学を辞職した。自分でコンサルタント会社(リス・コンサルタント社:LiS Consulting:Lushington in Silico Consulting)を設立し、カンザス州立大学・教授も兼任し、恒常的に論文を出版している。論文での所属は、カンザス州立大学ではなくリス・コンサルタント社(LiS Consulting)になっている。最近では、2014年に5報、2015年に4報、2016年2月3日現在まで2報も出版している。

《4》「盗まれたら警察を呼べ」。論文が盗まれたら・・・

【主要情報源】③に覆面告発家・クレア・フランシス(Clare Francis)のコメントがある(Clare Francis January 19, 2012 at 7:37 pm)。

一般社会では「盗まれたら警察を呼べ」。しかし、論文が盗まれ時、呼ぶべき警察はない。それで、盗まれたらウェブに公開し社会一般に知らせる。裁判所も弁護士もいらない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》学術界ボスの暴走

学術界のボスの暴走を止めるシステムはとても弱い。「錯誤」のケースが最もむつかしい。

研究者は独自のアイデアを提唱する。最初は、誰も信じてくれない、トンデモナイ、馬鹿げたアイデアだったとしよう。それが、数十年後、多くの研究者が賛同し、ノーベル賞に至ったケースがある。

もちろん、馬鹿げたアイデアのままの見捨てられた研究は死屍累々である。

ピエゾ核融合は、少し前まで、イヤ、現在も、錯誤かどうかわからない。

学術界のボスであっても、錯誤と判断するなら(誰が? という問題があるが)、論文を掲載しなければいい。しかし、学術界のボス自身が学術誌の編集長になっているので、とめるのは難しい。

研究費を配分しなければいいのだが、学術界のボス自身が研究費の配分を決める立場で、政府役人や政治家は“偉い研究者”に弱い。とめる仕組みは弱い。

国のトップの大統領や首相は、国民の選挙で止められるが、学術界のボスは、選挙で選ばれるわけではない。カリスマ学者なのである。

今回のように、ピエゾ核融合へのイタリア政府の巨額の研究費配分を、「ばかげている」と、1,000人以上の研究者が反対してようやくとめることができた。

振り返って、日本の大規模研究も、失敗を修正できないで巨額な浪費が続いている。これらは研究ネカトではない。しかし、社会としては、これらを修正するメカニズムも構築すべきでしょう。

本質的には、「学術的な正否は多数決で決まらない」という面もある。イヤイヤ、グリンネルが解説したように「真実は多数決で決まる」のも事実である。となると、「研究費配分は多数決で決める」のが現実だ。しかし、それでは、学術界のボスの暴走を止められない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》院生は論文を書く修行中

元・院生が自分の修士論文の文章が、かつて所属していた教授の論文に使われた。それを盗用と訴えた。

Shahid Azam2これは、両者の主張と論文状況を調べる限り、アザム教授の「自分がその修士論文のかなりの部分を書いた」主張が正しいと思う。

白楽の経験でも、ほとんどの学生・院生は独力で卒業論文・修士論文を書くことは難しい。修士論文を書いた経験のある院生なのに、独力で博士論文を書き上げるのは大変な苦労である。修士論文や博士論文は教員による審査があるが、院生が書いた論文を修正しないでそのまま審査すれば、多くの場合、「不合格」になる。

院生は、論文を書く過程で、教員の指導を受けながら、徐々にライティングスキルを上げていく。その最後の仕上げが博士論文である。だから、卒業論文や修士論文は、まともな論文になっていないことも多いし、それは、それでよいと白楽は思う。誰だって、最初がある。最初から高いレベルのことはできない。

以上が現実だ。

しかし、通常、院生を鼓舞して育てるのが目的だから、教授は院生に現実を突きつけない。白楽を含め多くの指導教員は、「よくここまで書いたね」とほめる。出来の悪い院生に対しても、成功の味を覚えさせ、達成感を持たせ、次の高いレベルを目指す意欲を与えたいからだ。

ただ、院生が「自分はできる」と勘違いすると、マズイことが起こる。「先生は、何も教えてくれなかった」ので、自分1人で、独力で、修士論文を書上げたと勘違いする院生である。

そして、被害者意識が強いと、教授を、“盗用”で訴える。

白楽が大学院生だった昔は違う。初めて自分で書いた英語論文の原稿を指導教授に持っていったら、1ぺージを軽く見て、「日本語で書いてこい!」と指導教授に突き返されたした。ショックで愕然とした。

2年後、後輩の院生が初めて書いた英語論文の原稿を「ちょっと見てくれないか」と、後輩の院生に渡された。白楽は、1ぺージを軽く見て、ショックで愕然とした。

英語の文章どころか、論文原稿の体裁がまったくデタラメだった。

先輩と言えども、他人に見せられる代物ではない。しかし、後輩は不安そうでもあるが、自慢げでもある。白楽は、2年前の自分の経験を考え、ショックを与えないように、ヒキツッタ顔を横に向けて、後輩の原稿を受け取った。

数日かけて直し、後輩に優しく諭した。その後輩は、博士号取得後、米国に渡り、現在は、米国の大学教授である。

要するに、院生は、1人で論文を書上げることは容易ではない。院生は他人(含・指導教員)の論文を“盗用”して論文の書き方を習得していく。自分の修士論文を指導教員が盗用したと訴える前に、自分はその文章を、どの論文から学んだ(真似た、“盗用”した)か、再考した方がいい。

《2》引用し共著

shahid-azam-with-students-at-the-u-of-r実態は上記のようだ。

白楽は、エドワード・エッケル教授の意見と同じである。

アザム教授はポールの修士論文を引用し、かつ、ポールを共著者とすべきだったろう。

修士論文を引用し、かつ、ポールを共著者としても、アザム教授には、何のマイナスもない。

《3》院生は教授とトラブル?

元・院生のポールは、異常に自尊心が高いか、そうでなければ、教授と別のトラブルがあったと思われる。

例えば、ポールは、博士課程まで進学して大学教授になりたいと思っていたが、教授にやんわり否定されたとか。

研究ネカト事件の裏事情として、金銭、恋愛、人間関係などでのトラブルが、実は重要だと思われるが、大学の調査でも、メディア記事でも、裏事情は書かれない。

元・院生がどんな些細なことを根に持っているのかわからない。日本では、2009年、中央大学理工学部・教授が元教え子に大学で刺殺されている。その理由は「忘年会で教授に話しかけてもらえなかった」である。些細というか、不可解というか、理不尽である(中央大学教授刺殺事件 – Wikipedia)。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》行為に対して判断

パケットの盗用行為に対して、米国・科学庁(1998年)はとても甘く、米国・研究公正局(1992年)はとても厳しく対処した。

1992年頃は、研究ネカトに対する調査や判断の実績がなく、何をどう判断し、どの程度の処分が妥当か、基準が定まっていなかったのだろう。

ノーベル賞受賞者など著名な研究者には、研究ネカトだけでなく反社会的な行為や法律違反に対して「お目こぼし」や「手加減」がされる風潮がある。これは不適切だが、人間社会の一面でもある。

行為に対する判断には、名声・身分・権威・貧富などを排除し、単に、行為に対して処分をすべきだ。著名な研究者だからといって研究ネカトは許されない。あってはならない。

逆の風潮も散見する。著名な研究者に「研究者の模範的な態度を求め」より厳しく批判する風潮もある。これも不適切だ。Doc

《2》研究者を続けられた珍しいケース

研究公正局がクロと判定し、締め出し処分を下した人で、研究者を続けられた研究者は少数である。

米国ではパケットだけかもしれない(確かもう1人いた気がする。研究公正局の結論が間違っていたケースだったような・・・。)

米国は研究ネカト者を研究界から排除する方針だから、基本的に研究者を続けることが困難になる。ただ、パケットのクロ判定は1993年で、研究ネカト制度の初期だったから、排除方針がブレたのかもしれない。

paquette-in-truck なお、パケットは、「悪いことはしていない」と、意図的な盗用を一貫して否定した。単に「不注意・うっかり(inadvertent)」で、ポスドクが一枚かんでいると主張した。一方、責任は自分にあり、盗用による制裁を受け入れた(弁護士を雇い、研究公正局・科学庁・大学と交渉の後)。一部認めるこの方法は、裁定者が許しを与え、かつ、同情を買う、うまい方法だと指摘する人もいる。

なお、米国で研究ネカト事件を起こし日本に帰国し、研究を続けている日本人は4人もいる。そもそも、日本は、研究ネカトした研究者を研究界から排除する思想がない。停職などの処分の後、復職させてしまう。

この「いい加減」な制裁は、世界的にきわめて「珍しい」。思うに、日本は、それが世界的に異常だという認識や自覚もない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【事件の深堀】

★情報が公開されている 

この事件は「ノーベル賞候補の米国教授の女子院生への常習セクハラ」だが、マーシー自身が事件に関する情報を公開している。

事実を公開し、社会の判断を仰ぐという方針だそうだ。

DSC_9961-300x200まず、1994 年、マーシーはに農薬研究者のスーザン・ケグリー(Susan Kegley、写真出典:Susan Kegley, PhD | Pesticide Research Institute)と結婚している。つまり、家族的生活がある。

妻に愛されている「健全な夫」であることを社会に発信している。

また、2011年11月27日の親族パーティの写真を公開している(出典)。その写真(マーシーは右側手前)を見ると、親族に慕われている人物に思われる。

★謝罪と反省

2015年12月22日、マーシーは「心からお詫びします」的な謝罪と反省文を自分のサイトにアップしている。謝罪文 → ココ

★マーシーが要約した事件の経過

geoff_marcyマーシーが要約した問題となった事件の概要(Overview and context of incidents in question)を記述している。

  1. 2001年:マーシーは、よく知っている女子学部生とキャンパスで出会った。しばらく話しをしていると、彼女は自分が病気だと言った。とたんに、彼は彼女をハグし、彼女の額にキスをした。別の時、彼女の両親が離婚するとマーシーに言った時、マーシーは彼女の頬にキスをした。女子学部生が、ハグやキスは不快だからやめるようにとマーシーに訴えたので、それ以降、マーシーはしていない。
  2. 2005年:バークレーの女子学部生は、マーシーにキャリアー上のアドバイスを依頼した。それで数回、学外のカフェで話した。会話は個人的な問題に及び、マーシーは、彼女が心配している事で彼女を助け、経験を共有しようとした。カフェの後、女子学部生を彼女の家まで車で送り、さようならと告げるとき、彼女の首に触れた。
  3. 2006年:ハワイ大学の女子院生はマーシーとディナーをとった時、マーシーは彼女の足に手を滑らせ彼女の股間(crotch)をつかんだ。マーシーは、この主張は間違いだと主張している。
  4. 白楽が省略

マーシーは、訴えられたケースだけについて事件の経過を要約している。実際のセクハラは上記3点だけではないだろう。氷山の一角だろう。しかし、訴えられていないセクハラまで書くことはないので、それは、マー、当然かもしれない。もっと軽微なセクハラは常態化していただろう。訴えられなかったケースはたくさんあっただろう。

★マーシーが要約した事件の「事実」

マーシーのサイトには次の記述もある。「事実(Facts)」と書いてあるから読んだが、いかにも嘘くさい。以下に示す。「 → 」後は、白楽の感想である。

  1. 原告のキャリアを傷つけるような性交はしていないし、性交の意図はなかったし、権力の濫用はなかった。
    原文:There was no sex, no intention for sex, and no abuse of power that resulted in damaging any of the complainants’ careers.
    → 「原告のキャリアを傷つけるような性交はしていない・・・」という文章は、白楽には見苦しい言い訳に思える。「原告のキャリアを傷つけるような性交はしていない」なら、「原告のキャリアを傷つけない(とマーシーが勝手に思った)」「性交や権力の濫用はあった」と理解してよいということなのか? それが事実でないなら、単純に「女子学生・院生・職員と性交していないし、権力の濫用はしていない(There was no sex, no intention for sex, and no abuse of power.)」と書けばよいだろう。実際は、そう書けない事実があったということなのだろう。
  2. マーシーは、人々を不快にし、苦しめ、混乱させた行為について謝罪した。彼は、科学界の女性をいつも支持し、女子学生と同僚女性の強いサポーターだった。→ よくもまあ、ヌケヌケとウソをつきましたね、と白楽は思った。
  3. マーシーは、実際に起こった事件では、それらの学生をよく知っていて、友人だと思っている。
  4. 白楽が省略
  5. 白楽が省略
  6. カリフォルニア大学バークレー校の学部担当副学長(Vice Chancellor for Faculty、Vice Provost for the Faculty)のジャネット・ブロートン(Janet Broughton)が、本件の処置の責任者である。調査の後、マーシーと直接面談し制裁を決定した。彼女は、マーシーが従うべき具体的な行動を設定し、もし次の5年間にこの協定に違反すれば、「無給の停職」という最大の制裁を科すとした。この協定はカリフォルニア大学バークレー校の正式な処分である。
  7. マーシーはバークレー校・教授を辞任していない。2015年12月31日付けで退職(リタイア)する。 → 白楽は、これも、見苦しい言い訳だと思った。
  8. マーシーの退職は、今回の事件によるものではない。それは、すでにカリフォルニア大学バークレー校が了承した予定の行動だ。退職の動機は、バークレーの天文学科の同僚のプレッシャーを回避するためであり、天文学科の同僚が社交メディアで攻撃している状況を過去のものとするためである。→ 白楽は、見苦しい言い訳を上塗りしていると思った。

GMarcy_05July15LickObs

★セクハラは学術界特有の犯罪

拙著(『科学研究者の事件と倫理』、講談社、2011年)でデータを示したように、日本の学術界で最も多い研究者の事件はセクハラである。それも科学的に示しても、日本の大学・学術界・文部科学省はまともな対策を建てないし、マスメディアも追及しない。セクハラ加害者を匿名にし、実質的にかばっている。

米国は日本と違う。

とはいえ、米国のノーベル賞候補教授が女子学生に常習的にセクハラをしていたと聞いても、白楽は驚かない。

セクハラ教授は、ジェフリー・マーシー(Geoffrey W. Marcy)以外にも米国には、日本よりも、もっと多数いるだろう。

2016年1月20日、「ネイチャー」は被害者の訴えを記事にしている(Sexual harassment must not be kept under wraps : Nature News & Comment)。

米国の学術界のセクハラはかなり悲惨である。あまりに悲惨で、さすがに米国・政府も大学も動き出した。本ブログでも2回記事にした。2回の記事を以下に示す。

  1. フィールド研究界に蔓延するセクハラと性的暴力:キャスリン・クランシ―(Kathryn Clancy)他、2014年6月16日 | 研究倫理
  2. 「セクハラ」:クラウディオ・ソアレス(Claudio Soares)(カナダ) | 研究倫理

以下、「2」からの文章を再掲する。

日本ではあまり報道されないが、米国の大学でのセクハラはかなり悲惨だ。これら防ぐために2014年1月、オバマ大統領は「レイプ・性的暴力の新アクションプラン(Rape and sexual assault: A renewed call to action)」にサインした。(Obama Seeks to Raise Awareness of Rape on Campus – NYTimes.com)。

上の記事には驚く数値が並んでいる。

レイプはキャンパスで頻繁に起こっていて、全米で女子学生の5人に1人が性的暴行を受けている。しかし、被害届をだす女子学生は12パーセントしかいない。

性的暴行は主にパーティーで起こる。犠牲者は、薬物や酒で心身が正常ではなく、自由がきかない状況下で性的に暴行される。加害者は、しばしば連続した犯罪者で、男性学生の7パーセントが、レイプした、または、しようとしたと認めている。その約2/3は、何度もレイプをして、平均レイプ数は6回である。( ← 白楽、モタモタしないで初回で逮捕しろ!!)

ほとんどは逮捕されないし告訴されない。被害者は被害届をださないし、出しても、警察官は偏見で事件化しない。

(↑ 白楽、ナント言う数字だ! アメリカの大学に孫娘を留学させるな!)

★米国政府はセクハラの大学・研究機関に研究助成しない

2016年1月25日、米国・科学庁(National Science Foundation :NSF)はセクハラの大学・研究機関に研究助成しないと発表した(The National Science Foundation (NSF) will not tolerate harassment at grantee institutions | NSF – National Science Foundation)。

つまり、タイトルIX(タイトルナイン)である。

科学庁は全米の2,000大学に研究助成金や奨学金を支給している。

1972年の「タイトルIX」(教育改革法第九条項、男女教育機会均等法案)は、政府から助成金や奨学金を受け取っている大学での性差別を禁じている。

それで、2016年1月25日、米国・科学庁(National Science Foundation :NSF)は、セクハラする大学に研究助成しないと発表した。

あっぱれ!

●【白楽の感想】

《1》初期に制裁すべし

米国・カリフォルニア大学バークレー校のノーベル賞級・教授が、61歳、セクハラという研究とは無関係の行為で、大学を辞職し(ごめん、退職し)、研究者としての地位と尊厳を失った。データねつ造・改ざんではないので、研究業績が取り消されることはないが、学術界から追放されたと同様だろう。

マーシーのセクハラは長年常態化していた。初期に、しっかりと制裁を加え、常態化させなければ、天文学を目指した多数の有能な女子学生・院生の才能を無駄にすることはなかっただろう。マーシー自身も救われただろう。そういう意味では、セクハラも研究ネカトも、初期に発見し制裁すべきだ。もっと望ましいのは、兆候の時点で発見し、矯正することだろう。

セクハラも研究ネカトも、周囲の関心を高める努力と、公益通報をもっと奨励するシステムの整備が必要だ。
11Marcy-master675

《2》情報が公開されている

この事件を「ノーベル賞候補の米国教授の女子院生への常習セクハラ」と書いたが、マーシーは個人的なことも含め、事件に関する情報を公開している。

事実を公開し、社会の判断を仰ぐという方針だそうだ。

この透明性・公開性は素晴らしいが、記述内容を読み進めるうちに、マーシーに都合の良い情報と言い訳を中心に公開しているという印象を受けた。

《3》大学の処置が大甘

本文で渡辺由佳里の記事を引用したように、カリフォルニア大学バークレー校は、マーシー教授のセクハラの事実をつかんだが、「今後行いを改めないと、停職や解雇を含めた制裁措置を取る可能性もありますよ」という警告だけで処理する方針だった。

セクハラに対する処分がとても甘い。

カリフォルニア大学バークレー校の処置はきわめて問題である。処分がとても甘いから、米国の学術界・大学キャンパスからセクハラを追放できないのだ。

Janet_Broughtonカリフォルニア大学バークレー校の責任者である学部担当副学長(Vice Chancellor for Faculty、Vice Provost for the Faculty)のジャネット・ブロートン(Janet Broughton、写真出典)を解雇すべきでしょう。

なお、セクハラは犯罪である。今後、逮捕や裁判が起こるのだろうか?

《4》家族は崩壊?

susan-kegley-301x4501994年、マーシーは、農薬研究者のスーザン・ケグリー(Susan Kegley、写真出典) と結婚した。子供がいるかどうか不明だが、こういう事件で、家族は崩壊し、離婚してしまうのだろうか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》日本は関心がなさすぎる

シゼン事件は米国とトルコでは多くの注目を集めた。たくさんの調査資料が公表されている。

しかし、日本では、ほとんど知られていない。日本の化学界(科学界)にまともに伝えられたのだろうか? ウェブで検索しても、それなりに解説しているのは、本記事で引用した「村井君のブログ(岐阜大学工学部応用化学科に勤務)」だけである(2000年8月: 村井君のブログ)。

情報が伝えられなくて、日本は大丈夫なのだろうか?

《2》若い美女

シゼンには「根っからの嘘つき」、「偽装の達人(Master of fraud)」など、最大級の侮蔑語がかぶせられている。

トルコでは高校の時から化学に秀で、天才と扱われ、米国にきてからも超優秀とみなされた。しかも、若い美女とあれば、研究者養成のまともな訓練を受けず、どこでもチヤホヤとお嬢様に扱われたのだろう。

それでも、期待に応えようとしたが、いかんせん研究の実力がない。それで、データねつ造・改ざんに走ったのだろう。調査報告書に、彼女の実験技術は低いとある。美しさで周囲をダマせても、研究はダマせない。

《3》研究指導者の責任

院生のデータねつ造・改ざん事件である。それに盗用もあった。

この場合、研究指導者であったダリボア・セームズ(Dalibor Sames)に大きな責任がある、と白楽は考える。

院生と研究指導者は対等の関係ではない。院生は、研究の進め方・スキル・考え方が未熟だから指導を受けるのだ。だから、院生のネカトは指導者の責任が大きい。シゼンの全論文にダリボア・セームズ(Dalibor Sames)が最後著者になっている。セームズに論文内容を精査する義務があったのは明白だろう。

しかし、研究指導者だったセームズは責任を問われていない。この点、米国でも問題視されているが、白楽も問題だと思う。セームズは現在、コロビンア大学・化学科の教授になっている。

《4》研究ネカトでクロの研究者が研究職を続けられた少ないケース

シゼンは研究ネカトでクロと判定されたのち、母国・トルコで研究職を続けている。このような例は日本以外では少数である。日本では多数いる。

研究界は研究ネカト者を追放すべきだと白楽は考える。研究ネカト者の研究に信頼おけるだろうか? 研究ネカトをした大学教授の講義に学生が信頼を寄せられるだろうか? もちろん、研究ネカト者も幸せに生きて欲しいとは思うが別の世界でのことだ。

交通事故では罪を償えば復職できても、研究ネカト者は研究者に復職が認められない。各職業には認められない過去がある。性犯罪で有罪になったら裁判官は罷免され、復職できない。

しかし、研究ネカトでクロと判定後にも研究職を続けている例が少しある。まとめた → 研究ネカト者が研究職を続けた

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》知識と品行は次元が別

盗用ガイドラインを書いた論文の内容が盗用だった。盗用事件は珍しくないが、皮肉なので、ランキングに取り上げられたのだろう。

しかし、研究倫理の専門家といえども、その知識と経験において専門家なのであって、自分の品行で専門家になったわけではない。多くの人が知識と品行を同一視するが、別次元である。経済学者が株で失敗し、医者が自分の健康に不注意だったりする。

研究倫理の専門家にも品行に問題を感じる人は普通にいる。頻度として少ないことも多いこともない。研究者に平均の品行と同じである。

そして、当然ながら、日本にもシャミン事件と同じような事件は起こっている。拙著『科学研究者の事件と倫理』(講談社、2011年9月)にも引用したが下記の事件がある。

無断複製:医師のマナー本を販売 「買わないと減点」と教授 (2002.04.13):毎日新聞

高知医科大(高知県南国市、池田久男学長)の基礎医学系教授(62)が、医師としてのマナーを教える本を出版社などに無断で複製し、自分の講座で学生に販売していたことが13日わかった。

教授は配布後、「代金を支払わない学生は(単位認定試験の)受験資格を失う」との内容の文書を学内に掲示したため学生たちが反発。同大は著作権法に違反する疑いもあるとみて、学内に調査委員会(委員長・小越章平副学長)を設置し、教授らから事情を聴いている。

関係者によると、教授は東京の出版社から刊行された「期待される医師のマナー 実践を目指して」(日本医学教育学会編集、2500円)を、出版社や学会の了承なしに高知市内の印刷所へ持ち込み、ほぼ同じ内容で約990冊複製した。教授は複製した本に「医師のマナーとその実践」という別のタイトルを付け、自分の講義を受講する学生に1冊1000円で販売。購入を拒否する学生には「買わないと(試験で)10点減点する」とも話したという。

さらにいうと、セクハラ委員がセクハラし、飲酒運転取り締まり警官が飲酒運転をする。委員選考や人事をいい加減に行なう結果である。こんな例はたくさんある。

有名どころでは、文部科学省研究不正防止を検討する委員会主査代理の早稲田大学の松本和子・教授が研究費不正をした例もある。

文部科学省の現在の研究不正防止委員である大学教授は研究ネカトしていないですよね? 日本は、委員就任時のチェックが甘いので、十分あり得ますよ。

《2》事件の状況がわかりにくい

今回の盗用がバレる確率がかなり高いことは、シャミンは容易に予想できたはずだ。そして、30代前半で約30報も論文を出版しているのだから、盗用してまで出版論文を増やす必要は低いと思われる。

どうして、シャミンは盗用したのだろう?

シャミンが置かれた状況はわかりにくい。

ディーパク・ペンタル(Deepak Pental)(インド)」の記事でも述べたが、インドは研究ネカト天国である:①Scientific plagiarism in India – Wikipedia, the free encyclopedia。②Special Report: Why India’s medical schools are plagued with fraud | Reuters。③Plagiarised scientific papers plague India – SciDev.Net

白楽が推定するに、今まで出版した大半の論文は盗用だろう。つまり、日常茶飯事的に盗用をしたのだろう。

インドでは一般に研究倫理教育をどのように行なっていて、シャミンはどのような研究倫理教育を受けてきたのか? シャミンの他の論文の盗用疑惑を公式調査したのか? 状況がわかりにくい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》企業・研究員のネカト

企業がらみのネカトの公式発表は表面的事象だろう。そのまま素直に信用すると事実誤認が起こる気がする。つまり、企業は、真実よりも損得が優先するからだ。こう書くと、学術界でも同じだが、学術界は損得を優先する論理は強くないし、また、その手段・体制が稚拙なので、少し考え、詮索すると、事件の裏に潜む真実が見えてくる。

今回のケヴィン・コービットの場合、どんな損得が裏に潜んでいるのだろうか?

ウ~ン、ウ~ン、・・・・、わかりません。

それにしても、ある日突然、企業がネカトを発表するが、その調査過程や調査報告書の詳細は公表されない(義務ではないし・・・)。他企業での研究ネカト防止策・調査・処分に役立つ情報はオープンにならない。人間社会にノウハウが蓄積されない。残念です。

《2》クマと糖尿病

糖尿病の研究と称して、クマを実験材料に使うなんて、パブリシティとしては、とてもクマイ、いや、ウマイ。

コアラを使って睡眠の実験でもします?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

特殊事件「思想」:ガンゴルフ・ジョブ(Gangolf Jobb)(ドイツ) 2016年1月16日

 

★論文撤回は妥当か?

学術誌「BMC Evolutionary Biology」は、「ソフト利用に関する当学術誌の編集方針に違反した」という理由で、ツリーファインダー(Treefinder)を報告した「2004年のBMC Evol Biol.」論文を撤回した。

「論文撤回監視(Retraction Watch)」記事のコメント「genetics November 13, 2015 at 7:30 am」に以下の指摘ある

ガンゴルフ・ジョブは、「2004年のBMC Evol Biol.」論文の初版ソフトの使用を制限していない。利用者にとって、この制限がないことは、実際はほとんど意味はないけれど、新しいバージョンの使用だけを制限したのだ。その意味では、学術誌「BMC Evolutionary Biology」が「2004年のBMC Evol Biol.」論文を撤回するのは、おかしい。

それに、論文撤回されても、移民に寛容な国(計9か国)の科学者にツリーファインダー(Treefinder)の使用を認めない現状は何も改善されない。ガンゴルフ・ジョブの行為に対して、論文撤回という処置はズレている。

《1》学術社会不適合者

gj073

ガンゴルフ・ジョブ(Gangolf Jobb、写真出典)は大学院中退で、現在も無職で、学術社会不適合者である。

その人が、27歳(?)で、ツリーファインダー(Treefinder)という優れたソフトを開発した。

「ウィンドウズ」のような商業ソフトを開発していたら、莫大な金持ちになっていたかもしれない。

《2》科学と政治

「科学には国境はないが科学者には国境がある」など、昔から科学は政治と切り離す価値観が強い。

白楽は、生命科学者の教育を受けてきた過程では、科学は政治と絡んではならない、と教育されてきた。研究者の世界では、現在も、実際、表向き、科学は政治と絡んではならないとする思想・風潮・価値観が主流である。

しかし、上記の裏を返せば、世界を動かしている人たちには、科学と政治が絡まないでほしい欲求があるのだろう。

①科学研究に強大な力があるのだから、科学が政治と絡むとさらに強大になるということだろう。それなら、当然ながら、政治が絡んでくるのだが、その絡み方が難しい。この場合、世界を動かしている権力者は自分に都合の良いように管理したい。

②世界的に強い国は、弱い国の科学的頭脳を搾取したい。経済小国の科学者が愛国心に燃えて、自分の科学的才能と研究成果を自国に限定されると、世界的に強い国は困る。だから、強い国が得する思想・風潮・価値観「科学は政治と絡んではならない」で世界を洗脳したい。と思えて仕方ない。

似たような構図に、特許発明しても、発明で得られた利益の大半は、発明者個人ではなく、企業が儲ける。似ていない?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》学長・総長の不正

インドは研究ネカト天国である:①Scientific plagiarism in India – Wikipedia, the free encyclopedia。②Special Report: Why India’s medical schools are plagued with fraud | Reuters。③Plagiarised scientific papers plague India – SciDev.Net

研究ネカト文化を一掃するのは、大きな変化が必要だろう。

《2》学長・総長の不正

無題学長・総長の研究ネカトは、厄介である。学長・総長は学内の主要な人物や権益と深く絡んでいる。調査委員会は学長・総長の下に設置される。さらに、大学だけでなく国の官僚・政治家・財界とも利害関係が強い。

そして、このタイプの人間は、研究ネカトをしてきたから学者としての出世があったので、本来の学術的な能力には疑問符が付くケースが多い。

このタイプの人間の言行・思想は研究ネカトと深く絡んでおり、インドでは、そういう人物が出世できる学術界文化なのである。「インドでは」と書いたが、日本でも、その傾向はかなり強い。

実際、日本でも東北大学総長、琉球大学学長の研究ネカト事件が公表され、権力闘争・利害闘争でみにくい争いを演じている。しかも、文部科学省は正面から解決に取り組んでいるようには思えない。状況は不透明で、調査・判定が公正とは思えない面が多々ある。

学長・総長は、本来、その大学や関連行政機関を超えた別の機関が調査すべきだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《1》研究ネカト者を早期に排除すべし

140925 マーク・ハウザーハウザーは、多数の論文を出版し、著書も書き、38歳でハーバード大学の正教授に就任し、多額の研究費を獲得した。これらはカンニングで良い成績を得たのと同じで、論文多作・昇進・多額の研究費は、ズルして得たのである。研究もうまかったかもしれないが、ズルもかなり上手かったのである。

こういう根っからの研究ネカト者は、早い時期に見つけ、学術界から放逐しないと、本人にとっても学術界にとっても不幸だ。

研究室の室員は気が付いていたという記述もある。内部からの公益通報をもっとしっかり育成する仕組みを作るべきだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓

ーーーーーー
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。