2016年11月5日掲載。
ワンポイント:14年間の19論文をデータねつ造で撤回し、世界「撤回論文数」ランキングで第20位(The Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch at Retraction Watch)。2016年にモフィットがんセンター研究所・教授を辞職した。中国の大学出身、フランスの大学院出身の米国の生化学者。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】
ジン・チェン(Jin Q. Cheng、写真出典)は、中国で医師免許(MD)、フランスで研究博士号(PhD)を取得し、米国・サウス・フロリダ大学(University of South Florida)・教授、フロリダ州のモフィットがんセンター研究所(Moffitt Cancer Center and Research Institute)・教授になった。専門は生化学(卵巣がん)だった。
2016年(56歳?)、ジン・チェンは、生化学の著名な学術誌「J. Biol. Chem.」に出版した自分の1論文の訂正を申し出た。すると、学術誌「J. Biol. Chem.」から元データの提出を求められ、他の論文も精査され、結局、19論文が撤回された。理由は、画像の重複使用だった。2016年11月5日現在、世界「撤回論文数」ランキング(The Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch at Retraction Watch)で第20位。モフィットがんセンター研究所も辞職した。
米国・フロリダ州のモフィットがんセンター研究所(Moffitt Cancer Center and Research Institute)。写真出典:CC BY-SA 3.0,
- 国:米国
- 成長国:中国
- 医師免許(MD)取得:中国・北京の首都医科大学
- 研究博士号(PhD)取得:フランスのパリ大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1960年1月1日生まれとする。1986年の病院勤務時を26歳と仮定した
- 現在の年齢:64 歳?
- 分野:生化学(卵巣がん)
- 最初の不正論文発表:2002年(42歳?)?
- 発覚年:2016年(56歳?)
- 発覚時地位:サウス・フロリダ大学・教授、モフィットがんセンター研究所・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)。「パブピア(PubPeer)」で問題視された
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌「J. Biol. Chem.」・編集局。②モフィットがんセンター研究所・調査委員会? ③研究公正局?
- 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし。というか調査したかどうか不明
- 不正:ねつ造
- 不正論文数:撤回論文だけで19報。他の論文にもネカトの指摘有り
- 時期:研究キャリアの中期から
- 研究費:米国での総額は数百万ドル(数億円)
- 結末:辞職
●2.【経歴と経過】
主な出典
- 生年月日:不明。仮に1960年1月1日生まれとする。1986年の病院勤務時を26歳と仮定した
- 19xx年(xx歳):中国・北京の首都医科大学(Beijing Capital Medical University)を卒業。医師免許取得
- 1986-1988年(26-28歳?):中国・北京の胸部腫瘍病院研究所(Beijing Thoracic Tumor Hospital and Research Institute , Beijing, China)・胸部外科主治医
- 19xx年(xx歳):フランスのパリ大学(University of Paris)で研究博士号(PhD)取得
- 19xx年(xx歳):米国・フィラデルフィアのフォックス・チェイスがんセンター(Fox Chase Cancer Center)・ポスドク
- 1996-1997年(36-37歳?):米国・フィラデルフィアのフォックス・チェイスがんセンター・スタッフ研究員
- 1997-2001年(37-41歳?):米国のサウス・フロリダ大学(University of Maryland)・助教授
- 2001-2005年(41-45歳?):同・準教授
- 2005-2016年(45-56歳?):同・正教授
- 2014年(54歳?):2014年橋渡し研究(translational researchers)の特許部門で世界の20位以内に入る
- 2007-2016年(47-56歳?):モフィットがんセンター研究所(Moffitt Cancer Center and Research Institute)・教授
●5.【不正発覚の経緯と内容】
ジン・チェン(Jin Q. Cheng)は、中国で医師免許(MD)を取得し、フランスで研究博士号(PhD)を取得、米国・サウス・フロリダ大学(University of South Florida)・教授、モフィットがんセンター研究所(Moffitt Cancer Center and Research Institute)・教授になった。米国では、総額で数百万ドル(数億円)の研究費を得ていた。素晴らし活躍と出世である。
2016年10月(56歳?)、ジン・チェンは、生化学の著名な学術誌「J. Biol. Chem.」に出版した自分の1論文の訂正を申し出た。すると、学術誌「J. Biol. Chem.」から元データの提出を求められ、他の論文も精査され、結局、19論文が撤回された。理由は、画像の重複使用だった。撤回論文の中で出版年が一番古い論文は15年前の出版論文だった。つまり15年間も研究ネカトをしていた。
2016年10月(56歳?)、ジン・チェンが所属していたモフィットがんセンター研究所の研究室に、撤回監視の記者が電話すると、電話に出た人が、ジン・チェンは退職したと伝えられた。ジン・チェンに電子メールを送ってもあて先不明で戻ってきた。
撤回監視がリストした19報の撤回論文を以下にリストしよう(【主要情報源】②)。多くの論文は数十回引用されている。302回引用された論文もあった。
- Activation of phosphatidylinositol 3-kinase/Akt pathway by androgen through interaction of p85α, androgen receptor, and Src, cited 125 times, according to Clarivate Analytics’ Web of Science, formerly part of Thomson Reuters.
- Identification of Aurora-A as a direct target of E2F3 during G2/M cell cycle progression, cited 23 times
- Akt attenuation of the serine protease activity of HtrA2/Omi through phosphorylation of serine 212, cited 30 times
- Molecular cloning and characterization of the human AKT1 promoter uncovers its up-regulation by the Src/Stat3 pathway, cited 36 times
- ArgBP2γ interacts with Akt and p21-activated kinase-1 and promotes cell survival, cited 24 times
- Akt phosphorylation and stabilization of X-linked inhibitor of apoptosis protein (XIAP), cited 298 times
- AKT2 inhibition of cisplatin-induced JNK/p38 and Bax activation by phosphorylation of ASK1. IMPLICATION OF AKT2 IN CHEMORESISTANCE, cited 158 times
- Phosphatidylinositol 3-kinase/Akt pathway regulates tuberous sclerosis tumor suppressor complex by phosphorylation of tuberin, cited 289 times
- Inhibition of JNK by cellular stress- and tumor necrosis factor α-induced AKT2 through activation of the NFκB pathway in human epithelial cells, cited 37 times
- Positive feedback regulation between Akt2 and MyoD during muscle differentiation. CLONING OF Akt2 PROMOTER, cited 42 times
- MicroRNA MiR-214 regulates ovarian cancer cell stemness by targeting p53/Nanog, cited 57 times
- Identification of Akt interaction protein PHF20/TZP that transcriptionally regulates p53, cited 11 times
- IKBKE protein activates Akt independent of phosphatidylinositol 3-kinase/PDK1/mTORC2 and the pleckstrin homology domain to sustain malignant transformation, cited 52 times
- Phosphorylation and activation of androgen receptor by Aurora-A, cited 18 times
- MicroRNA-155 regulates cell survival, growth, and chemosensitivity by targeting FOXO3a in breast cancer, cited 181 times
- A small molecule inhibits Akt through direct binding to Akt and preventing Akt membrane translocation, cited 33 times
- IKKϵ phosphorylation of estrogen receptor α Ser-167 and contribution to tamoxifen resistance in breast cancer, cited 35 times
- Phosphoinositide 3-kinase/Akt inhibits MST1-mediated pro-apoptotic signaling through phosphorylation of threonine 120, cited 49 times
- MicroRNA-221/222 negatively regulates estrogen receptor α and is associated with tamoxifen resistance in breast cancer, cited 302 times
★ねつ造の具体例
ジン・チェンの画像の重複使用を具体的に見てみよう。黄色枠内のバンドが重複使用されている。
《1》「2005年のJ. Biol. Chem.」
出典:fernando pessoa October 23, 2016 at 4:41 am
《1》「2004年のJ. Biol. Chem.」
出典:fernando pessoa October 23, 2016 at 4:52 am
fernando pessoaは、「J. Biol. Chem.」以外の学術誌のジン・チェンの論文でも画像ねつ造を指摘している。
パブピアでも、2002年~2015年の14年間のジン・チェンの26論文にコメントがついている(全部調べていないが、ねつ造の指摘?)(【主要情報源】②)
●6.【論文数と撤回論文】
2016年11月4日現在、パブメド(PubMed)で、ジン・チェン(Jin Q. Cheng)の論文を「Jin Q. Cheng [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2016年の15年間の94論文がヒットした。2002年以前にも出版論文はあるだろう。
2016年11月4日現在、パブメドの論文リストでは1論文も撤回表示がない。しかし、本記事で問題にした19論文はいずれ撤回表示されるだろう。
●7.【白楽の感想】
《1》中国に戻った?
事件の詳細は不明である。モフィットがんセンター研究所が調査しているのか? 研究公正局は調査しているのか? 不明である。
当局(オーソリティ)である学術誌「J. Biol. Chem.」が論文撤回したことで、「撤回監視(Retraction Watch)」が事態をキャッチし、記事にした。
事件発覚後、ジン・チェンはモフィットがんセンター研究所を退職した。不正画像を見ると、明らかにクロである。どのみち解雇になると踏んで、辞職し、中国に戻ったのだろうか? まだ56歳(?)とリタイアするには若い。
●8.【主要情報源】
① 2016年10月21日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Cancer researcher retracts 19 studies at once – Retraction Watch at Retraction Watch
② 「パブピア(PubPeer)」のジン・チェン(Jin Q. Cheng)の論文コメント群:PubPeer – Results for Jin Q. Cheng
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。