ワンポイント:インド出身の米国の著名学者が多量のねつ造・改ざん(疑惑)
【追記】
・2024年1月30日:The King of Curcumin: a case study in the consequences of large-scale research fraud – Reese Richardson
●【概略】
バラット・アガワル(Bharat B. Aggarwal、写真出典)は、インドの大学で学士号・修士号取得後、米国に渡米し、米国・テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)・教授になった。医師ではない。専門は生化学(カレー成分であるクルクミンの抗がん作用)だった。
クルクミン (curcumin)は、カレーのスパイスであるウコン(ターメリック)の黄色い色素である。クルクミンに抗がん作用があると報告した。インドやカレー会社は大喜びだ。
アガワルは500報以上の学術論文を出版し、被引用数が多く、研究者から高い評価を得ていた。「世界で最も影響力のあった頭脳 2015年(THE WORLD’S MOST INFLUENTIAL SCIENTIFIC MINDS 2015)」で「薬理学・毒性学(Pharmacology and Toxicology)」部門の1人に選ばれた。
2011年(63歳)、研究ネカト追及の天才・ポール・ブルックス(Paul Brookes)が、アガワルの論文の65報以上にねつ造・改ざんがあると、研究公正局に公益通報した。
2012年2月(64歳)、テキサス州の地元の新聞がテキサス州立大学と研究公正局がアガワルのデータねつ造・改ざんの調査をしていると報じた。
2016年4月5日現在(68歳)、研究ネカト発覚が指摘され、調査が開始されてから5年が経過した。しかし、いまだに、テキサス州立大学と研究公正局は調査結果を発表していない。発表まで待って記事を書くつもりだったが、潮時と思い、記事にした。
この事件の日本語解説が少しあった。「福田一典(銀座東京クリニック院長)」「無知の知」の文章を本文に引用した。
なお、アガワルは日本で人気者である。研究講演やインタビュー記事がウェブ上にたくさんある(20記事以上あった。全部を数えていない)。
米国・テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)写真出典
- 国:米国
- 成長国:インド
- 研究博士号(PhD)取得:米国・カリフォルニア大学バークレー校
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1948年1月1日とする
- 現在の年齢:76 歳?
- 分野:生化学
- 最初の不正論文発表:1999年(51歳)
- 発覚年:2011年(63歳)
- 発覚時地位:テキサス州立大学・教授
- 発覚:ポール・ブルックスの公益通報
- 調査:①テキサス州立大学・調査委員会。②研究公正局
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:65報以上。7論文が撤回
- 時期:研究キャリアの中期から
- 結末:調査途中で退職
●【経歴と経過】
参考:Bharat B. Aggarwal, Ph.D. – Experimental Therapeutics – Faculty – MD Anderson Cancer Center
- 生年月日:不明。仮に1948年1月1日とする
- 1970年(22歳):インドのデリー大学(University of Delhi)を卒業。生化学専攻
- 1972年(24歳):インドのバナラス・ヒンドゥ大学(Banares Hindu University)で修士号。生化学専攻
- 1977年(29歳):米国・カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)で研究博士号(PhD)取得。生化学専攻
- 1977年7月(29歳):カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)・ポスドク。ボスはハロルド・パプコフ教授(Harold Papkoff)。
- 1980年1月 – 1989年1月(32 – 41歳):ジェネンテック社(Genentech)・研究員
- 1989年1月(41歳):米国・テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター・教授
- 2012年2月(64歳):新聞がテキサス州立大学と研究公正局がねつ造・改ざんの調査をしていると報じた
- 2015年12月31日(65歳):米国・テキサス州立大学を退職
- 2016年1月30日(66歳):米国・サンディエゴの抗炎症研究所(Anti-inflammation Research Institute)所長・創設者
●【研究内容動画】
【動画①】
「カレーが癌の予防になる-バラット・アガワル博士インタビュー(Curry to Prevent Cancer – An Interview with Dr Bharat Aggarwal) – YouTube」(英語)2分31秒。
Sahdeo Prasadが2014/08/22 に公開
日本語解説を「修正」引用する。
★福田一典(銀座東京クリニック院長):2012年5月19日
出典 →284) 健康食品と論文捏造 – 「漢方がん治療」を考える(保存版)
クルクミンのがん予防効果や、がん患者における抗腫瘍効果を検討する多数の臨床試験が米国などで実施されています。このクルクミンの研究で最も著明な研究者が、米国テキサス州のMDアンダーソンがんセンターのバラット・アガワル(Bharat Aggarwal)博士です。
バラット・アガワル博士は600以上の学術論文を発表し、クルクミンやレスベラトロールなど植物成分の抗がん作用に関する総説や本の著作も多く、文献の引用頻度も極めて多い研究者です。がん研究では世界のトップレベルにあるMDアンダーソンがん研究センターでも、最も著明な研究者と言われており、医学領域で数々の賞を受賞しています。
そのアガワル博士の研究室から発表された論文の多くに、不正が見つかり、今年(2012年)の3月頃から研究所が調査を開始しています。その結果が出るには時間がかかるかもしれません。
前述のダス教授の場合は、3年間の調査と6万ページにおよぶ報告書にまとめられて、その不正が確定されています。
したがって、アガワル博士の場合は、まだ疑いの段階ですので、何とも言えませんが、指摘された内容を見ると、不正がかなり行われた可能性が高いようです。現時点で65の論文で不正が指摘されています。
アガワル博士は、レスベラトロールに関しても研究をおこなっており、論文を発表していますが、この論文も不正の可能性があるようです。
★匿名:2012年6月3日
出典 →論文に注意! – 無知の知(保存版)
クルクミンに関する論文を多数書いているアメリカの有名な学者が、論文を捏造していたことが発覚しました。この学者は米国テキサス州のMDアンダーソンがんセンターのバラット・アガワル(Bharat Aggarwal)博士で、この方はクルクミンやレスベラトロールなど植物成分の抗がん作用の研究をしていた方です。MDアンダーソンがんセンターといいますと、世界のトップレベルの研究所です。ともかく、詳細はまだ調査中で、彼が主張するクルクミンやレスベラトロールの作用機序など、どこまで本当であるのかは今のところわからない状態です。
●【不正発覚の経緯と内容】
2011年、ロチェスター大学医学部・準教授のポール・ブルックス(Paul Brookes)が、アガワル論文のデータねつ造・改ざんを、研究公正局に公益通報した(2016年2月22日付のブルックスのコメント、Journal retracts 7 papers by MD Anderson cancer researcher long under investigation – Retraction Watch at Retraction Watch)。
なお、ブルックスは、2012年7月に匿名で不正摘発サイト「サイエンス・フラウド(Science Fraud)」を立ち上げ、2012年12月に名前を公表した研究ネカト追及の天才である。
ブルックスは研究公正局だけでなく、テキサス州立大学・新聞社・テレビ局にも公益通報したと思われる。
2012年2月29日(64歳)、テキサス州の地元の新聞「Houston Chronicle」紙のトッド・エイカーマン記者(Todd Ackerman)が、テキサス州立大学と研究公正局がアガワルのデータねつ造・改ざんの調査をしていると報じた(【主要情報源】③)。
研究ネカト指摘で活発な「パブピア」サイトは、2012年10月に創始で、この時、まで開設されていなかった。
●【不正論文と不正部分】
2012年3月2日、不正論文と不正部分のリストが日本の「11 Jigen」のサイトに公表された。
原典 → Alleged image fraud at MD Anderson Cancer Center (Bharat Aggarwal lab)(保存版)
「11 Jigen」氏は匿名だが、このリストは「11 Jigen」氏の作ではなく、ロチェスター大学医学部・準教授のポール・ブルックス(Paul Brookes)が作って、「11 Jigen」のサイトに投稿したものである(2016年2月22日付のブルックスのコメント、Journal retracts 7 papers by MD Anderson cancer researcher long under investigation – Retraction Watch at Retraction Watch)。
指摘量が多いが、以下、上記サイトから貼り付けた。論文ごとに不正部分がリンクされているので、不正の内容は、リンク先を参照されたい。
Bharat Aggarwal (MD anderson cancer center)
Article No.1 → Antioxid Redox Signal. 2012 Mar 1;16(5):413-27.
Article No.2 → Br J Pharmacol. 2012 Feb;165(3):741-53.
Article No.3 → Biochim Biophys Acta. 2012 Jan 10. [Epub ahead of print]
Article No.4 → J Biol Chem. 2012 Jan 2;287(1):245-56.
Article No.5 → Cancer Lett. 2011 Dec 17. [Epub ahead of print] (Withdrawn)
Article No.6 → Biochem Pharmacol. 2011 Dec 15;82(12):1901-9.
Article No.7 → Biochem Pharmacol. 2011 Nov 1;82(9):1134-44.
Article No.8 → Mol Pharmacol. 2011 Nov;80(5):889-99.
Article No.9 → Mol Pharmacol. 2011 Nov;80(5):769-81.
Article No.10 → Carcinogenesis. 2011 Sep;32(9):1372-80.
Article No.11 → Cancer Prev Res (Phila). 2011 Jul;4(7):1084-94.
Article No.12 → Int J Cancer. 2011 Jul 1;129(1):23-33.
Article No.13 → Carcinogenesis. 2011 Jun;32(6):904-12.
Article No.14 → Mol Pharmacol. 2011 Feb;79(2):279-89.
Article No.15 → J Biol Chem. 2011 Feb 18;286(7):5546-57.
Article No.16 → Cancer Res. 2011 Jan 15;71(2):538-49.
Article No.17 → J Biol Chem. 2011 Jan 14;286(2):1134-46.
Article No.18 → J Mol Med (Berl). 2010 Dec;88(12):1243-53.
Article No.19 → J Biol Chem. 2010 Nov 12;285(46):35418-27.
Article No.20 → J Biol Chem. 2010 Oct 22;285(43):33520-8.
Article No.21 → Mol Cancer Res. 2010 Oct;8(10):1425-36.
Article No.22 → Biochem Pharmacol. 2010 Oct 1;80(7):1021-32. Article No.23 → J Biol Chem. 2010 Aug 27;285(35):26987-97.
Article No.24 → Mol Cancer Ther. 2010 Aug;9(8):2196-207.
Article No.25 → Biochem Pharmacol. 2010 Jun 1;79(11):1640-7. Article No.26 → Mol Pharmacol. 2010 May;77(5):818-27.
Article No.27 → Int J Cancer. 2010 Jul 15;127(2):257-68.
Article No.28 → Mol Cancer Res. 2010 May;8(5):751-61.
Article No.29 → Mol Cancer Ther. 2010 Apr;9(4):856-68.
Article No.30 → Cancer Res. 2010 Mar 1;70(5):1951-9
Article No.31 → J Biol Chem. 2010 Apr 9;285(15):11498-507.
Article No.32 → Biochem Pharmacol. 2010 Jan 15;79(2):218-28 Article No.33 → Cancer Res. 2009 Dec 1;69(23):8958-66.
Article No.34 → Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2009 Oct 1;75(2):534-42.
Article No.35 → Cancer Res. 2009 Aug 15;69(16):6581-9.
Article No.36 → Blood. 2009 Feb 26;113(9):2003-13.
Article No.37 → Cancer Res. 2009 Feb 15;69(4):1477-84.
Article No.38 → Mol Pharmacol. 2009 Mar;75(3):525-33.
Article No.39 → Mol Cancer Res. 2009 Jan;7(1):118-28.
Article No.40 → Cancer Res. 2008 Nov 1;68(21):8861-70.
Article No.41 → Mol Cancer Ther. 2008 Oct;7(10):3306-17.
Article No.42 → Cell Microbiol. 2008 Jul;10(7):1442-52.
Article No.43 → Mol Cancer Res. 2008 Jun;6(6):1059-70.
Article No.44 → Cancer Res. 2008 Jun 1;68(11):4406-15.
Article No.45 → Blood. 2008 May 15;111(10):4880-91.
Article No.46 → Mol Pharmacol. 2008 May;73(5):1549-57.
Article No.47 → Blood. 2007 Nov 15;110(10):3517-25.
Article No.48 → Oncogene. 2007 Nov 15;26(52):7324-32.
Article No.49 → Mol Cancer Res. 2007 Sep;5(9):943-55.
Article No.50 → Blood. 2007 Jun 15;109(12):5112-21.
Article No.51 → Clin Cancer Res. 2007 May 15;13(10):3024-32. (Mol Cancer Ther. 2010 Feb;9(2):429-37.)
Article No.52 → Clin Cancer Res. 2007 Apr 1;13(7):2290-7.
Article No.53 → Biochem Pharmacol. 2007 Apr 1;73(7):1024-32.
Article No.54 → Blood. 2007 Apr 1;109(7):2727-35.
Article No.55 → Blood. 2007 Mar 15;109(6):2293-302.
Article No.56 → Oncogene. 2007 Mar 1;26(10):1385-97.
Article No.57 → Toxicology. 2006 Nov 10;228(1):1-15.
Article No.58 → J Immunol. 2006 Oct 15;177(8):5612-22.
Article No.59 → Mol Pharmacol. 2006 Jan;69(1):195-206.
Article No.60 → Clin Cancer Res. 2006 Jan 15;12(2):662-8.
Article No.61, 62, 63, 64, 65 →
J Immunol. 2000 Nov 15;165(10):5962-9. Cancer Res. 2000 Jul 15;60(14):3838-47.
J Immunol. 2000 Jun 15;164(12):6509-19.
J Immunol. 2000 Jun 1;164(11):5815-25.
J Immunol. 1999 Dec 15;163(12):6800-9.
Houston Chronicle paper → M.D. Anderson professor under fraud probe
Retraction Watch
→ MD Anderson investigating researcher Bharat Aggarwal over images
→ Retraction WatchTracking retractions as a window into the scientific processMD Anderson researcher Aggarwal loses paper in Cancer Letters
Abnormal Science Blog
→ Like Father Like Son?
→ From the premier cancer center in the world-part 2
→ From the premier cancer center in the world-part 3
→ From the premier cancer center in the world-part 4
→ From the premier cancer center in the world-part 5
→ From the premier cancer center in the world-part 6
Gautam Sethi (National University of Singapore) Abnormal Science Blog → Never mind the quality, feel the width
See also → Alleged image fraud at the University of Tokyo
See also → Alleged image fraud (Michael Karin lab et al.)
See also → Alleged image manipulation (Yanagisawa lab at Tsukuba university)
See also → Scientific misconduct at Tokyo Medical and Dental University (Akio Kawakami, MD)
ScienceInsider News → Whistleblower Uses YouTube to Assert Claims of Scientific Misconduct
●【論文数と撤回論文】
2016年4月5日現在、パブメド(PubMed)で、バラット・アガワル(Bharat B. Aggarwal)の論文を「Bharat B. Aggarwal [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2016年の358論文がヒットした。
「Aggarwal BB [Author]」で検索すると、1975~2016年の579論文がヒットした。
2016年4月5日現在、以下の7論文が2016年2月に撤回されている。7報とも「Biochem Pharmacol」誌で、2006年論文が1報、2010年論文が4報、2011年論文が2報である。また多いので示さないが13論文が訂正されている(古いのは1995年の論文)。
指摘されている不正論文は65報以上あるので、今後さらに撤回されると思われる。
- Suppression of pro-inflammatory and proliferative pathways by diferuloylmethane (curcumin) and its analogues dibenzoylmethane, dibenzoylpropane, and dibenzylideneacetone: role of Michael acceptors and Michael donors.
Anand P, Sung B, Kunnumakkara AB, Rajasekharan KN, Aggarwal BB.
Biochem Pharmacol. 2011 Dec 15;82(12):1901-9. doi: 10.1016/j.bcp.2011.09.001. Epub 2011 Sep 8.
Retraction in: Biochem Pharmacol. 2016 Feb 15;102:144. - Triptolide, histone acetyltransferase inhibitor, suppresses growth and chemosensitizes leukemic cells through inhibition of gene expression regulated by TNF-TNFR1-TRADD-TRAF2-NIK-TAK1-IKK pathway.
Park B, Sung B, Yadav VR, Chaturvedi MM, Aggarwal BB.
Biochem Pharmacol. 2011 Nov 1;82(9):1134-44. doi: 10.1016/j.bcp.2011.07.062. Epub 2011 Jul 27.
Retraction in: Biochem Pharmacol. 2016 Feb 15;102:141. - Cyclodextrin-complexed curcumin exhibits anti-inflammatory and antiproliferative activities superior to those of curcumin through higher cellular uptake.
Yadav VR, Prasad S, Kannappan R, Ravindran J, Chaturvedi MM, Vaahtera L, Parkkinen J, Aggarwal BB.
Biochem Pharmacol. 2010 Oct 1;80(7):1021-32. doi: 10.1016/j.bcp.2010.06.022. Epub 2010 Jun 23.
Retraction in: Biochem Pharmacol. 2016 Feb 15;102:142. - Thymoquinone poly (lactide-co-glycolide) nanoparticles exhibit enhanced anti-proliferative, anti-inflammatory, and chemosensitization potential.
Ravindran J, Nair HB, Sung B, Prasad S, Tekmal RR, Aggarwal BB.
Biochem Pharmacol. 2010 Jun 1;79(11):1640-7. doi: 10.1016/j.bcp.2010.01.023. Epub 2010 Jan 25.
Retraction in: Biochem Pharmacol. 2016 Feb 15;102:146. - Design of curcumin-loaded PLGA nanoparticles formulation with enhanced cellular uptake, and increased bioactivity in vitro and superior bioavailability in vivo.
Anand P, Nair HB, Sung B, Kunnumakkara AB, Yadav VR, Tekmal RR, Aggarwal BB.
Biochem Pharmacol. 2010 Feb 1;79(3):330-8. doi: 10.1016/j.bcp.2009.09.003. Epub 2009 Sep 6.
Retraction in: Biochem Pharmacol. 2016 Feb 15;102:143. - Curcumin potentiates the antitumor effects of gemcitabine in an orthotopic model of human bladder cancer through suppression of proliferative and angiogenic biomarkers.
Tharakan ST, Inamoto T, Sung B, Aggarwal BB, Kamat AM.
Biochem Pharmacol. 2010 Jan 15;79(2):218-28. doi: 10.1016/j.bcp.2009.08.007. Epub 2009 Aug 12.
Retraction in: Biochem Pharmacol. 2016 Feb 15;102:145. - Curcumin induces the degradation of cyclin E expression through ubiquitin-dependent pathway and up-regulates cyclin-dependent kinase inhibitors p21 and p27 in multiple human tumor cell lines.
Aggarwal BB, Banerjee S, Bharadwaj U, Sung B, Shishodia S, Sethi G.
Biochem Pharmacol. 2007 Apr 1;73(7):1024-32. Epub 2006 Dec 15.
Retraction in: Biochem Pharmacol. 2016 Feb 15;102:147.
●【白楽の感想】
《1》文化・価値観
一般論として、インドと中国にデータねつ造・改ざんが多発している。両国は人口も多いので、研究者あたりにすると、多いのか、平均なのか、少ないのか、調べていない。
偏見かもしれないが、両国には、ねつ造・改ざんを研究者の処世術の1つと見なす文化・価値観があるように思える。
バラット・アガワルは500報以上の学術論文を出版したが、65報以上の論文にデータねつ造・改ざんが指摘された。アガワルは、つまり、データねつ造・改ざんすることで、研究職を得、出世してきたのではないだろうか?
ねつ造・改ざんが研究者の処世術という文化・価値観だと、個人の研究ネカトの状況を調べて有効な改善点を抽出することは難しい。国の文化・価値観を改善する意識を持ち、その手法を考えなければならない。
そういう意味では、日本でも文化・価値観レベルから改善しなければ、研究ネカト問題が解決しない面がいくつかある。
《2》ブログ記事の撤回・訂正
アガワルは日本で人気で研究講演やインタビュー記事がウェブ上にたくさんある(20記事以上、数えていない)。
これらアガワルの日本語記事は、原著論文が撤回・訂正されたら、「撤回・訂正」と示さないと、読む人に間違いを刷り込んでしまう。記事は、本来、正しい情報を提供する意図だっただろうに、結果として、実際は、間違った情報を提供してしまう。このことはよく起こる。
どうすればよいだろうか?
自分の発信した情報に責任をもち、常に点検し訂正していればよいが、現実は、難しい。ましてや、すでに記事の管理を放棄したサイトや、更新していないブログの場合も多いだろう。
書籍だと、出版時点での内容が正しいだけだと読者は理解している(と思う)。出版時点での内容が大きく間違っていれば書籍を回収し、販売しないだろう。しかし、小さな間違いがあっても、訂正紙を挟む、あるいは、対応しない。
販売後は、自動車や家電製品と違い情報(書籍・ブログなど)にはリコール制度はない。食品と違い、不良品でも取り替えてくれない。
出版後に、内容に間違いが生じた場合、再版時に訂正できるが、すでに購入された書籍内容は訂正できない。
読者も、一応、そのことを了解して書籍を購入すると考えてもよいが、そこまで考えて購入するのが一般的かどうか、白楽は、よくわからない。
ただ、ブログは、書籍よりも後からの訂正が簡単だ。
自分のブログでも、気が付けば訂正する。間違いはたくさんあるだろう。読者は、一応、そのことを了解して読んでくださっていると、白楽は考えている。しかし、読者から指摘されれば、その都度、訂正するよう心掛けている。
●【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Bharat Aggarwal – Wikipedia, the free encyclopedia
② 「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:bharat aggarwal Archives – Retraction Watch at Retraction Watch(保存版)
③ 2012年2月29日のトッド・エイカーマン(Todd Ackerman)の「Houston Chronicle」記事:M.D. Anderson professor under fraud probe – Houston Chronicle(保存版)
④ 2012年3月2日の不正指摘記事:Alleged image fraud at MD Anderson Cancer Center (Bharat Aggarwal lab)(保存版)
⑤ 2016年3月2日のトッド・エイカーマン(Todd Ackerman|)の「Houston Chronicle」記事:M.D. Anderson scientist, accused of manipulating data, retires – Houston Chronicle(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。