「錯誤」:チャンドラ・ウィクラマシンゲ(Chandra Wickramasinghe)(スリランカ)、エドワード・スティール(Edward Steele)(豪)、ゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro)(日本)

2021年1月4日掲載  

ワンポイント:コロナウイルス(COVID-19)は宇宙から運ばれてきたというトンデモない論文を5か国6人の国際的な共著で「2020年7月のAdv Genet」論文として出版した。責任著者のウィクラマシンゲが率いるこの宇宙ウイルス飛来説・グループは、コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行が始まって以来、同じような内容の論文を10報以上発表している。研究者からはデタラメ科学と批判または無視されているが、論文は1報も撤回されていない。訂正・懸念表明もされていない。この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「1A」の「6」に挙げられた。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

チャンドラ・ウィクラマシンゲ(Chandra Wickramasinghe、写真出典)は、スリランカのルフナ大学(University of Ruhuna)の天体生物学者である。現役時代の大半は、英国のカーディフ大学(Cardiff University)・応用数学/天文学科(Dept.of Applied Maths and Astronomy)・教授だった。

エドワード・スティール(Edward Steele、Edward J. Steele、Ted Steele、ORCID iD:?、写真CC0 By Edward J. Steele 出典)は、オーストラリアのサイ・オコナー・ERADE・ビレッジ基金(CYO’Connor ERADE Foundation 24 Genomics Rise, Piara Waters, WA, Australia)・フェローで、専門は分子ウイルス学である。現役時代は主に、オーストラリアのウーロンゴン大学(University of Wollongong)・生物学科の準教授だった。

ゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro、写真出典)、日本の岐阜県にある宇宙生命・宇宙経済研究所(Institute for the Study of Panspermia and Astroeconomics)・所長で、京都バイオファーマ製薬株式会社代表取締役社長である。

ウィクラマシンゲは著書・『宇宙からの病気-私たちの宇宙の運命(第2版)(Diseases From Outer Space – Our Cosmic Destiny (Second Edition))』(2020年)など数冊ある(本の表紙出典はアマゾン)。

2020年7月、エドワード・スティール(Edward Steele)が第一著者、チャンドラ・ウィクラマシンゲ(Chandra Wickramasinghe)が最後著者(責任著者)の「2020年7月のAdv Genet」論文(正確には総説)が出版された。日本人のゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro)は第四著者だった。

この論文は、コロナウイルス(COVID-19)は宇宙から運ばれてきたというトンデモない論文で、ウィクラマシンゲの率いるこの宇宙ウイルス飛来説・グループは、コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行が始まって以来、この手の論文を10報以上発表している。

ウィクラマシンゲは宇宙ウイルス飛来説を科学的に証明するデータを提示しないで、自説を述べている。この学説を肯定するデータを示していないが、しかし、逆に、この学説を否定するデータを得られない。原理的に、「ない」ことを証明できないからだ。

研究者からはデタラメ科学と批判または無視されているが、宇宙ウイルス飛来説は100年以上前から提唱されている。

チャンドラ・ウィクラマシンゲ(Chandra Wickramasinghe)の所属するスリランカのルフナ大学(University of Ruhuna)。写真出典

エドワード・スティール(Edward Steele)の所属するサイ・オコナー・ERADE・ビレッジ基金(CYO’Connor ERADE Foundation 24 Genomics Rise, Piara Waters, WA, Australia)。グーグルマップで白楽が作成。写真出典

国際共同研究なので共通点のみ抽出

  • 国:国際
  • 分野:宇宙生物学
  • 問題論文発表:2020年
  • 発覚年:2020年
  • ステップ1(発覚):いろいろな人が各メディアで批判
  • ステップ2(メディア):各種メディア、「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部は問題なしとしている
  • 大学や研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし。大学や研究所は調査していない
  • 大学や研究所の事件への透明性:調査していない、発表なし(✖)
  • 問題:錯誤
  • 錯誤論文数:10報以上。1報も撤回・訂正・懸念表明なし
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:ゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro)

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

★チャンドラ・ウィクラマシンゲ(Chandra Wickramasinghe)
出典:①cv-wickramasimghe.pdf、②:Chandra Wickramasinghe – Wikipedia

  • 1939年1月20日:スリランカで生まれる
  • 1950-1957年(11-18歳):スリランカのロイヤル・カレッジ・コロンボ(Royal College, Colombo)卒業
  • 1957-1960年(18-21歳):スリランカのセイロン大学(University of Ceylon)で学士号取得:数学
  • 1960-1963年(21-24歳):英国のケンブリッジ大学(University of Cambridge)で研究博士号(PhD)を取得:天体物理学
  • 1973-2006年(34-67歳):英国のカーディフ大学(Cardiff University)・応用数学/天文学科(Dept.of Applied Maths and Astronomy)・教授
  • 2020年7月(81歳):問題の「2020年7月のAdv Genet」論文を出版

★エドワード・スティール(Edward Steele)
出典:Edward J Steele – Academia.edu

  • 1948年10月27日:オーストラリアのダーウィンで生まれる
  • 1970年(21歳):アデレード大学(University of Adelaide)で学士号取得
  • 1976年(27歳):同大学で研究博士号(PhD)を取得:免疫学
  • 1976-1977年(27-28歳):オーストラリア・ナショナル大学・ポスドク
  • 1977-1980年(28-31歳):カナダのトロント大学・ポスドク
  • 1980-1981年(31-32歳):英国のノースウィックパーク病院(Northwick Park Hospital)・ポスドク
  • 1981-1985年(32-36歳):オーストラリア・ナショナル大学・研究員
  • 1985-2003年(36-54歳):オーストラリアのウーロンゴン大学(University of Wollongong)・講師、その後、準教授
  • 2009-2010年(60-61歳):オーストラリアのサイ・オコナー・ERADE・ビレッジ基金・研究部長(CYO’Connor ERADE Foundation 24 Genomics Rise, Piara Waters, WA, Australia)
  • 2014年(65歳):同基金・フェロー
  • 2020年7月(71歳):問題の「2020年7月のAdv Genet」論文を出版

★ゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro)
出典:所源亮 – Wikipedia

  • 1949年2月:東京で生まれる
  • 1972年(23歳):一橋大学・経済学部・卒業
  • 1980年(31歳):米国のパイオニア・ハイブレッド・インターナショナル社(現デュポン・パイオニア社)国際部営業本部長兼パイオニア・オーバーシーズ・コーポレーション取締役
  • 1982年(33歳):日本に帰国し、いくつかの会社を設立
  • 2009-2015年(60-66歳):一橋大学・イノベーション研究センター・特任教授
  • 2014年(65歳):松井孝典、チャンドラ・ウィックラマシンゲとともに一般社団法人「宇宙生命・宇宙経済研究所(Institute for the Study of Panspermia and Astroeconomics、ISPA(イスパ))設立
  • 2020年7月(71歳):問題の「2020年7月のAdv Genet」論文を出版

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
説明動画:「¿Vino del espacio? nueva hipótesis sobre el origen del covid-19 | Videso Semana – YouTube」(音楽とスペイン語の字幕)1分27秒。
Revista Semanaが2020/08/20に公開

【動画2】
個人の説明動画:「Did the Coronavirus come form a Meteor, SpaceX SN9 on launchpad, Meteor explode over China-SpaceNews – YouTube」(英語)7分9秒。
KC GRANDPA TECHが2020/12/28に公開

【動画3】
ウィクラマシンゲ教授とのインタビュー動画:「Life is a cosmic phenomenon – Exclusive interview with Prof. Chandra Wickramasinghe – YouTube」(英語)15分55秒。
Newsfirst Sri Lankaが2017/06/09に公開

●4.【日本語の解説】

★2003年05月26日:WIRED.jp:Kristen Philipkoski(日本語版:森さやか/高橋朋子):「SARSは宇宙からやってきた?」

出典 → ココ、(保存版) 

ウェールズにあるカーディフ大学宇宙生物学センターのチャンドラ・ウィクラマシンゲ教授ら研究チームは、医学専門雑誌『ランセット』に宛てた書簡の中で、SARSウイルスは、宇宙から毎日約1トン降りそそぐバクテリア類の一部として地球にもたらされた可能性があると述べた。地球に降りそそぐバクテリアの数は、地表1平方メートル当たり約2万個におよぶ。

そのうちのいくつかは「高度に進化しており、地球上の生物と密接に関連した進化の過程を経ている」と、ウィクラマシンゲ教授は書簡で述べている。

そしてそれは「病原となるバクテリアやウイルスもまた、宇宙から来ている可能性があることを示している」という。

他の研究者たちはこの説に懐疑的だ。

「現時点では、SARSや他の感染症が隕石によってもたらされたことを示す科学的根拠は何もない。もちろん、どんな可能性も否定はしないが」と語るのは、米疾病管理センター(CDC)のジュリー・ガーバーディング所長。

★2018年4月18日:Oggi.jp:いけのり:「インフルエンザは宇宙からやって来たって本当!?」

出典 → ココ、(保存版) 

イギリスの天文学者の故フレッド・ホイル(←宇宙の始まり「ビックバン」の名付け親)と共同研究者のチャンドラ・ウィクラマシンゲ(凄い名前だ…)は、この不思議な現象に注目をし研究を進めました。そして、インフルエンザウイルスを始めとした複数の病原体が、宇宙から地球に侵入した後、対流に乗って地上に降り注ぐことで地球上の複数の場所で一斉に流行が起こるのではないかという説を唱えたのです。

★2020年3月28日:エキサイトニュース:山口敏太郎:「新型コロナウイルスは宇宙からやってきた!?今流れている驚きの噂とパンスペルミア説」

出典 → ココ、(保存版) 

現在世界を席巻している新型コロナウイルス感染症。世界中が感染拡大阻止のために動いているが、あまりに発生が突発的だったこと、その後の急激な流行拡大から「新型コロナウイルスは人工ウイルスだった」という噂が出てきた。そしてさらには「新型コロナウイルスは宇宙からやってきた」という説まで登場したのである。

この説はバッキンガム天体生物学センターのチャンドラ・ウィクラマシンゲ教授によって提唱された説をもとにしている。インフルエンザウイルス等の複数の病原体は宇宙から地球に飛来し、大気の対流によって世界中を回る、そして地上に降り注ぐことで、局地的な流行が発生するという説だ。

・・・中略・・・

ちなみに「新型ウイルス宇宙飛来説」は今回のCovid-19より前のSARSの際にも唱えられ、さらには医学専門誌の「The Lancet(ランセット)」にも掲載されたことがあった。しかし、現在ではSARSの原因となったウイルスはハクビシンやタヌキなどの野生動物が発生源であることが確認されていることもあって、現在では否定されている。

★2020年1月2日:五本木クリニック:桑満おさむ:「トンデモが超一流医学専門誌に掲載、「インフルエンザなどのウイルスは宇宙から飛来して来た」説の顛末」

出典 → ココ、(保存版) 

ウイルスは地球外から飛来してきた、というトンデモ説が超一流医学誌に掲載されています。常識にとらわれない懐の深い医学専門誌に脱帽状態です。しかし、ランセットに掲載された地球外から飛来したウイルスとされるSARSは地球の生物の間から見つかっており由来は明確となっています。中国で原因不明の肺炎患者が続出していることがお正月早々報じられています。原因不明の肺炎の原因も宇宙から飛来したウイルスなのでしょうか?

★2020年3月24日:中国メディア|レコードチャイナ:著者不記載(翻訳・編集/柳川):「新型コロナウイルスは宇宙からやってきた、英露の科学者主張」

出典 → ココ、(保存版) 

中国メディアの澎湃新聞は23日、英国やロシアの科学者から「新型コロナウイルスは宇宙からやってきた」との主張が出ていると報じた。

それによると、英カーディフ大学の宇宙生物学者であるチャンドラ・ウィクラマシンゲ氏は、「昨年10月11日にアジアの上空で爆発した隕石がウイルスを地球にもたらした可能性がある」との仮説を発表した。

ウィクラマシンゲ氏はこれまでにも、1918年に大流行したインフルエンザと2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因は宇宙からやってきたウイルスだと主張している。

ウィクラマシンゲ氏の仮説について、米国の宇宙生物学者のグラハム・ラウ氏は「それが真実であるなら、信じられないほどユニークで画期的な発見になるだろう。だがウィクラマシンゲ氏は自身の主張を支持する証拠を持っていない」と批判的だ。

●5.【問題発覚の経緯と内容】

★問題の論文

2020年7月、エドワード・スティール(Edward Steele)が第一著者、チャンドラ・ウィクラマシンゲ(Chandra Wickramasinghe)が最後著者(責任著者)の「2020年7月のAdv Genet」論文(正確には総説)が出版された。日本人のゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro)は第四著者だった。5か国6人の国際的な共著で論文である。

この論文は、コロナウイルス(COVID-19)は宇宙から運ばれてきたというトンデモない論文で、ウィクラマシンゲの率いるこの宇宙ウイルス飛来説・グループは、コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行が始まって以来、同じような内容の論文を10報以上発表している。

10報以上の論文の中で、上記の「2020年のAdv Genet」論文が最も詳細に内容が記述されている。

論文では、2019年10月11日、隕石が中国東北部の松原市に火の玉として降り落ちた。その隕石にコロナウイルス(COVID-19)が付着していた。そのコロナウイルス(COVID-19)が今回の世界的大流行を引き起こした。つまり、コロナウイルス(COVID-19)は宇宙から運ばれてきたという宇宙ウイルス飛来説を展開している。

誤解なきようにハッキリ述べておくが、そもそも、ウイルスもバクテリアも、そして、いかなる生命体も、宇宙に存在しているという証拠が科学的に示されたことは、今までに一度もない。

そして読者が想像するように、「2020年7月のAdv Genet」論文でも、この宇宙ウイルス飛来説を裏付ける科学的証拠、つまり、コロナウイルス(COVID-19)が宇宙から運ばれてきた直接的な証拠を示していない。

厄介なことに、1903年に電解質の解離でノーベル化学賞を受賞したスウェーデンのスヴァンテ・アレニウス(Svante Arrhenius)が、宇宙ウイルス説を最初に提唱したのだ。その宇宙ウイルス飛来説はパンスペルミア説(panspermia)の1つである。

パンスペルミア説(panspermia)は、生命の起源に関する仮説のひとつである。生命は宇宙に広く多く存在し、地球の生命の起源は地球ではなく他の天体で発生した微生物の芽胞が地球に到達したものとする説である。「胚種広布説」とも邦訳される。またギリシャ語で「種をまく」という意味がある。(パンスペルミア説 – Wikipedia

現代の科学者たちは、当然、コロナウイルス(COVID-19)が宇宙から運ばれてきたという「2020年7月のAdv Genet」論文の主張を批判・非難している。宇宙ウイルス飛来説はニセ科学・デタラメ科学である。

NASAの「宇宙生物学者に尋ねる(Ask an Astrobiologist)」シリーズを主催している宇宙生物学者のグラハム・ラウ(Graham Lau、写真出典)は、「ウイルスが宇宙の放射線に耐えて地球にたどり着き、人間に感染するという話は荒唐無稽な学説であり、実際、今までそのような例は見つかっていない。ただ、もし、これが事実であるならば、それは信じられないほど画期的な発見となる。とはいえ、ウィクラマシンゲは彼の主張を裏付ける証拠を全く持っていません」、と述べた。

宇宙ウイルス飛来説はスティールやウィクラマシンゲが独自に提唱した学説ではないが、彼らを含む少数の研究者は何十年もの間、提唱している学説である。

グラハム・ラウは、「これは、荒唐無稽な学説を主張する場合、シッカリした証拠を提示する必要があるという格好の例の1つです。宇宙ウイルス飛来説は興味深いアイデアではありますが、今のところそのアイデアが受け入れられる理由は全くありません。そして、このようなニセ科学・デタラメ科学を、多くの科学者がニセ科学・デタラメ科学だと指摘することは重要だと思います」と付け加えた。

★チャンドラ・ウィクラマシンゲ(Chandra Wickramasinghe)

チャンドラ・ウィクラマシンゲ(Chandra Wickramasinghe、写真出典)は「2020年7月のAdv Genet」論文の最後著者で責任著者(corresponding author)である。論文の中心的人物と思われる。

「2020年7月のAdv Genet」論文で、ウィクラマシンゲの所属は「Centre for Astrobiology, University of Ruhuna, Matara, Sri Lanka; Institute for the Study of Panspermia and Astroeconomics, Gifu, Japan; University of Buckingham, Buckingham, United Kingdom; National Institute of Fundamental Studies, Kandy, Sri Lanka.」となっている。

つまり、所属は4か所で、①スリランカのルフナ大学(University of Ruhuna)、②日本の「宇宙生命・宇宙経済研究所(Institute for the Study of Panspermia and Astroeconomics)」、③英国のバッキンガム大学(University of Buckingham)、④スリランカの国立基礎研究機関(National Institute of Fundamental Studies)となっている。

ウィクラマシンゲは、20年前の2000年、既にインフルエンザは宇宙から来たと宇宙ウイルス説を唱えていた。
 → 2000年1月19日の「Guardian」記事:Flu comes from outer space, claim scientists | Space | The Guardian

宇宙ウイルス説は多くの科学者から「たわごとを言うな!」と強く批判されてきたが、ウィクラマシンゲは SARS(初期のコロナウイルス)が流行した時も同じように、SARSの宇宙起源を主張した。

ウィクラマシンゲは宇宙ウイルス飛来説を主張する筋金入りの学者で、今回の「2020年7月のAdv Genet」論文を含め宇宙ウイルス飛来説が多くの研究者からさんざん批判されても、自分の主張を続けている。 → 例えば、2020年11月13日出版の「BMJ」論文(編集長への手紙):Following the science for COVID-19: societal constraints and limitations | The BMJ

★エドワード・スティール(Edward Steele)

エドワード・スティール(Edward Steele、写真出典)は、オーストラリアのサイ・オコナー・ERADE・ビレッジ基金(CYO’Connor ERADE Foundation 24 Genomics Rise, Piara Waters, WA, Australia)・フェローで、専門は分子ウイルス学である。

本事件とは無関係だが、不当な理由で大学教員を解雇できないとするオーストラリアの大学教員の身分保障を確立したヒーロである。

スティールは以下のように真っ当なことをして大学を解雇された過去がある。

2001年1月、スティールはオーストラリアのウーロンゴン大学(University of Wollongong)・生物学科の準教授だった。この時、高額な奨学金を受領している生物学科の2人の国費留学生の成績を加点(’soft’ marking)するように大学上層部から依頼された。そのことを公表し、大学から予告なしに解雇された。

スティールは裁判を起こし、勝訴した。 → 2001年8月8日記事:The World Today Archive – Federal Court rules in Ted Steele’s favour

2002年4月5日、スティールはウーロンゴン大学・生物学科に復職した。

しかし、その後、宇宙ウイルス説に傾倒していった。

なお、免疫学の専門家がどうして宇宙ウイルス説に傾倒していったのか、系譜を追跡していないので、白楽は把握できていない。

★ゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro)

「2020年7月のAdv Genet」論文の中心的な執筆者ではないが、第四著者に日本人の「Gensuke Tokoro」がいた。ゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro)について解説する。

ゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro)(ところ げんすけ、写真出典)は、ウィキペディアによると以下のようだ。

所 源亮(ところ げんすけ、1949年2月 – )は日本の実業家。GCAT株式会社、京都バイオファーマ製薬株式会社代表取締役社長。ゲン・コーポレーションや日本バイオロジカルズ、アリジェン製薬などを設立し、一橋大学イノベーション研究センター特任教授等も歴任した。(所源亮 – Wikipedia

1972年(23歳)、一橋大学・経済学部を卒業している。その後、大学・大学院で生命科学の教育を受けたことも、生命科学の研究をした経験もないと思われる。

2014年(65歳)、ところが、チャンドラ・ウィックラマシンゲとともに一般社団法人「宇宙生命・宇宙経済研究所(Institute for the Study of Panspermia and Astroeconomics、ISPA(イスパ))を設立した。

「2020年7月のAdv Genet」論文で、所源亮の所属は「Institute for the Study of Panspermia and Astroeconomics, Gifu, Japan」となっている。日本語では「宇宙生命・宇宙経済研究所」で、一般社団法人ISPA(イスパ)である。

「宇宙生命・宇宙経済研究所」の所在地の「岐阜県 不破郡 垂井町 1783-5」をグーグルで検索すると、同じ住所に音楽ホールの「半兵衛ガーデン」がでてきた。

そして、グーグルの地図(以下)には「半兵衛ガーデン」とあるが、「宇宙生命・宇宙経済研究所」という表示はない。つまり、研究所とは名前だけで物理的な実体はないと思われる。

ウィキペディアでは、所源亮は京都バイオファーマ製薬株式会社代表取締役社長とある。

会社は医薬品の研究開発で、ウェブサイト(京都バイオファーマ製薬株式会社)には、事業所は「岐阜県不破郡垂井町1783番地の5」となっていて、音楽ホールの「半兵衛ガーデン」と同じ場所である。

本社は「京都府京都市左京区北白川東久保田町73番地4」とあるが、「全国法人情報データベース」では、「岐阜県不破郡垂井町1783番地の5」の「銀閣寺パークマンション105号」とある。つまり、マンションの1室が本社で、会社の実態はないと思われる。

★編集者

「2020年7月のAdv Genet」論文のような科学的証拠のない学説を論文として発表できるには、もちろん、それを支援する編集者と出版社がいるからだ。

デベンドラ・クマール(Dhavendra Kumar、写真出典)が「Advances in Genomics(Adv Genet)」誌の編集長で、「撤回監視(Retraction Watch)」の疑念に次のように答えている。

まず、スティールとウィクラマシンゲが編集した著書・『宇宙の遺伝的進化(Cosmic Genetic Evolution)』が2020年10月18日に出版されたことを述べている(本の表紙出典はアマゾン)。

この本は、いくつかの論文と総説を掲載していますが、編集者と寄稿者は、宇宙生物学のこの分野の第一人者たちです。彼らはほぼ40年間、地球に衝突した小惑星/隕石が生物の突然変異をもたらし、生物種の進化に関与してきた役割を研究してきました。そして、著者および編集者は、カンジダとコロナウイルスの起源に関する科学的仮説を提唱しています。 このユニークな学説は、パンスペルミアとして知られています。

著者の学説は、外部の査読やその他の検証を必要とする実験作業やデータに基づいておりません。つまり、他の研究者による外部査読をしたところで、この革新的なアイデアを記載した論文を出版するかどうかの決定を変えることはありません。論文の内容は、編集長としての私を含め、私たち編集員・全員の間で内部的に審査しております。他の研究者の見解や意見を求める必要はありませんでした。 なお、論文はオンラインで閲読できます。コメント・考察を表明したいすべての人に論文は開かれております。

【錯誤の具体例】

既に述べた。省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

【チャンドラ・ウィクラマシンゲ(Chandra Wickramasinghe)】

2021年1月3日現在、パブメド( PubMed )で、チャンドラ・ウィクラマシンゲ(Chandra Wickramasinghe)の論文を「Chandra Wickramasinghe」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003~2020年の18年間の21論文がヒットした。

「Wickramasinghe NC」で検索すると、36論文がヒットした。「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

【エドワード・スティール(Edward Steele)】

2021年1月3日現在、パブメド( PubMed )で、エドワード・スティール(Edward Steele)の論文を「Edward Steele」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003~2020年の18年間の35論文がヒットした。

「Steele EJ」で検索すると、96論文がヒットした。「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

【ゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro)】

2021年1月3日現在、パブメド( PubMed )で、ゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro)の論文を「Gensuke Tokoro」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2009~2020年の12年間の9論文がヒットした。

「Tokoro G」で検索すると、上記と同じ9論文がヒットした。「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

9論文の内、8論文はエドワード・スティール(Edward Steele)、チャンドラ・ウィクラマシンゲ(Chandra Wickramasinghe)と共著だった。

残る1論文は「2010年のInt J Antimicrob Agents」論文で、山形県鶴岡市の慶應義塾大学・先端生命科学研究所から出版した論文で、著者12人中の第7著者だった。

★撤回監視データベース

2021年1月3日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでチャンドラ・ウィクラマシンゲ(Chandra Wickramasinghe)は、 0論文がヒット、エドワード・スティール(Edward Steele)も0論文がヒット、ゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro)も0論文がヒットした。

★パブピア(PubPeer)

2021年1月3日現在、「パブピア(PubPeer)」では、チャンドラ・ウィクラマシンゲ(Chandra Wickramasinghe)は、 2論文にコメントがあり、エドワード・スティール(Edward J. Steele)も2論文にコメントがあり、、ゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro)も2論文にコメントがあった。

コメントがあった2論文は全部同じで、3人の共著論文だった。

●7.【白楽の感想】

《1》錯誤研究者・デタラメ研究者 

マッシモ・フィオラネッリ(Massimo Fioranelli)(イタリア)」でも書いたけど(以下は文章の一部を流用した)、今回のような錯誤研究者・デタラメ研究者を学術界は排除すべき、あるいは、論文と同じように、研究者に「懸念表明」マークを付けるべきだ。

チャンドラ・ウィクラマシンゲ(Chandra Wickramasinghe)は、著書や学術論文を出版し、元・大学教授という社会的信用度の高い地位にいる。エドワード・スティール(Edward Steele)(豪)、ゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro)(日本)もそれなりに社会的信用度の高い地位にいる。

世間一般も研究者も、錯誤論文・デタラメ論文を信用してしまう可能性がある。

このような錯誤研究者・デタラメ研究者に「懸念表明」マークを付けないと、人々に害をもたらす。この害がじわじわと社会に浸透していく。当然、学術界の信用は落ちる。

ところが、このような錯誤研究者・デタラメ研究者を標識付けたり排除する確固たるシステムが世界にはない。研究者仲間のうわさ話や悪い評判を共有する弱いシステムしかない。このレベルだから十分な機能を望めない。

何とかした方がいい。少なくとも「懸念表明」マークを付けるシステムを導入した方がいい。

《2》ゲンスケ・トコロ、所源亮(Gensuke Tokoro)

記事で述べたが、所源亮は一橋大学・経済学部卒業している。その後、大学・大学院レベルの生命科学の教育を受けたことも、生命科学の研究をした経験もないと思われる。

それなのに、2014年(65歳)、チャンドラ・ウィックラマシンゲとともに一般社団法人「宇宙生命・宇宙経済研究所(Institute for the Study of Panspermia and Astroeconomics、ISPA(イスパ))を設立した。

白楽はその経緯を把握できていないが、そのような活動の上に、今回問題視されたの「2020年7月のAdv Genet」論文の出版がある。

《3》サソリ

宗教も科学もそうだけど、人間は、何を根拠に信じるのか? そして、人間は、一度思い込んだ観念に縛られる。ウィックラマシンゲ、そして所源亮はなんでパンスペルミア説を信じたのか? 

観念に縛られるのは、白楽も例外ではない。なんで、ネカト撲滅に熱中しているのか? 「サソリとカエル」のサソリなんですかね。

では、その性(サガ)はどう決まるんでしょうか? サソリの性(サガ)は遺伝だが、人間を縛る性(サガ)は環境である。どんな環境の何がどのように特定の観念を人間を信じ込ませてしまうのか?

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】

① 2020年3月17日のチェルシー・ゴード(Chelsea Gohd)記者の「Space」記事:No, the coronavirus didn’t come from outer space | Space
② 2020年8月18日のニューロスケプティック(Neuroskeptic)記者の「Discover」記事:The Strange Theory of Coronavirus from Space | Discover Magazine
③ 2020年9月4日のカーティス・ロエル(Curtis Roelle)記者の「Carroll County Times」記事:Star Points: Did COVID-19 come from space? – Carroll County Times
④ 2020年9月8日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:COVID-19 arrived on a meteorite, claims Elsevier book chapter – Retraction Watch
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