4‐3.著者在順(オーサーシップ、authorship)・代筆(ゴーストライター、ghost writing)・論文代行(contract cheating)

2016年10月6日掲載。2021年12月4日加筆。

ワンポイント:【長文注意】。著者在順(オーサーシップ)・代筆(ゴーストライター)・論文代行の基準が不明瞭なのが諸悪の根源である。改善策が提案されているが、いまだに世界標準が確立していない。悪いことなら、どうして禁止し罰しないのか?

【追記】
・2021年12月1日記事。イギリスで論文代行業を法律上禁止へ:大学等が不正を防ぐための7つの原則 | 高等教育質保証の海外動向発信サイトQA UPDATES – International
・2021年05月31日記事。著者在順違反は違法アカデミックハラスメント-論文の共著者からの除外 – 弁護士 師子角允彬のブログ
・2021年03月23日記事:学生の代わりに授業を受け論文を書く「教授のゴーストライター」が数千万円規模で横行している – GIGAZINE
・2020年02月10日記事:「欧米の学生の代わりに論文を書く」ことがケニアでは一大ビジネスになっている – GIGAZINE
・2019年10月23日記事:米国人大学生の論文をケニアで書く 論文代筆ビジネス、いまやグローバル産業に:朝日新聞GLOBE+

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.著者在順のあり方
3.著者在順の問題点
4.事件例・検出法・処罰
5.白楽の改善案
6.代筆(ghost writing)
7.論文代行(contract cheating)
8.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

著者在順(オーサーシップauthorship)の基準に違反しても、代筆(ゴーストライター ghost writing)・論文代行(contract cheating)であっても、米国・研究公正局は研究ネカトにしていない。日本の文部科学省も研究ネカトではないとしている。しかし、多くの研究倫理学者、学術界、そして、日本の文部科学省も「よくないこと」と強く戒めている。日本を含め海外でも、メディアが非難している。

authorship-header1写真出典

★日本大百科全書(ニッポニカ)の解説「オーサー‐シップ(authorship)」

まず、全体像をつかんでもらう。

出典 → オーサーシップ(オーサーシップ)とは – コトバンク

英語で原作者や原著者、出所を意味することば。学術研究倫理においては、論文の著者や共著者、実験やデータ分析などにかかわった人を記載することをさす。

オーサーシップには著者としての資格をもつ者はすべて記載されるべきとされている。その記載方法に関しては、研究者などが研究成果を適切に世間へ発表するため、大学や研究機関などの規定として厳格な基準が設けられており、これをオーサーシップの基準、オーサーシップのガイドラインなどとよんでいる。

規定では、記載される人やその順番に一定のルールが定められており、なかでも重要な記述は、(1)筆頭著者(ファーストオーサーfirst author、第1筆者)、(2)責任著者(コレスポンディングオーサーcorresponding author、連絡著者)、(3)最終著者(ラストオーサーlast author、シニアオーサーsenior author)の3か所である。記載されるのはそれぞれ一人とは限らず、研究ユニット名などが掲載される場合もある。

(1)は発表された研究成果にもっとも貢献した人物で、研究アイデアの提供から実験や研究全般にかかわりのあった人が記載される。

(2)は論文にかならず掲載しなくてはならない電子メールなどの問い合わせ先窓口となる人が記載される。論文公表の交渉から論文掲載後の研究者などからの問い合わせまで応対し、筆頭著者とともに研究成果に対して全面的に責任を負う。

(3)は当該研究の統括的立場で指揮にあたった人物が記載され、(2)と同一の人物や教授をはじめとする研究チームの代表者が記載されることが多い。

これらのほかに、実験やデータ分析に関係した人や共著者に含まれる人が記載され、(2)の責任著者は、仮に論文の取下げや改訂などが行われる場合には、オーサーシップに記載された研究者全員に了承を得なければならない。また、研究論文を事前に読んだだけという人、実験などに参加していない人などを著者表示することがあり、ギフトオーサーシップgift authorshipとよばれている。[編集部]

★用語:「authorship」

ここで、用語の設定をする。

英語の「authorship」の適切な日本語訳は? という、とても原始的な問題である。英語の「authorship」の意味は、「著作者たること、著述業、原作者がだれであるかということ、著者、(うわさなどの)出所、根源」だ(出典:authorshipの意味 – 英和辞典 Weblio辞書)。

英語の「authorship」の適切な日本語訳は?

(1)「authorship」

研究者や学術出版編集者では、「authorship」をアルファベットのまま日本語として扱っている人がいる。

白楽の方針として、アルファベットを日本語として使わない。アルファベットは既に意味を知っている専門家しか理解できない。「authorship」は却下。

(2)「オーサーシップ」

政府系はこの用語を使用している。この用語を使用している研究者も比較的多い。

白楽の方針として、英単語の読みのカタカナ表記は、日本語としての定着具合にもよるが、できれば使いたくない。今回のように概念が曖昧になる場合はとても使いたくない。それで、「オーサーシップ」は却下。

ただ、白楽も以前は「オーサーシップ」を使っていた。また、仕方なしに、苦し紛れに、間違えて「オーサーシップ」としている文章があるかもしれない。

(3)「著者」「著者性」

「著者」または「著者性」として使う人は一般大衆の多数を占める。インターネットで調べると、「著者」とする例が約4割、「著者性」が約6割である(当社調べ)。

しかし、「著者」は「author」の著者と混同するし、「著者性」は「著者であること」とは少し違う。できれば、却下したい。

(4)「著者資格」

「著者資格」の用語をみると、英語「authorship」の日本語訳に困惑した人がいたと想像できる。それで、新しい用語を導入たのだろう。

しかし、医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors)の統一投稿規定(2010年改訂版)では、「著者とされた人物はすべて著者資格を満たし」とあるように、一般的には、「著者資格」を著者の資格という意味で使用する。これでは、整理ができない。「著者資格」を却下。

(5)「著者在順」(ちょしゃザイジュン)

今までの用語はどれも不満が残る。根源に戻って考えよう。

英語「authorship」の「author」は「著者」と訳すことが日本語として定着している。だから、ポイントは、接尾語の「-ship」をどう訳すかだ。

接尾語の「-ship」の語源は昔の英語のscipe(shape)に由来していて、「形」、つまり「あり方」という意味だ。派生して「~の状態、性質、資格、能力」となる。

日本語の他の例を参照しよう。

フレンドシップは友人のあり方なので、友「情」。リーダシップは指導者のあり方なので、指導「力」、統率「力」。スポーツマンシップはスポーツのあり方なので、スポーツ「精神」。

「あり方」とは少しずれるけど、シティズンシップは市民「権」、フラッグシップは旗「艦」、メンバーシップは会員「資格」、スカラーシップは「奨学金」、ハードシップは「困難」。

接尾語「-ship」の日本語はバラバラである。

英語「authorship」は「著者であること」だ。「ある」を漢字で表すと「在る」「有る」だ。それで、白楽は、ここで、まず、「著者在(ちょしゃザイ)」という新しい用語を作ることにした。

と同時に、「authorship」問題は「著者である」「著者でない」問題以外に、第1著者なのか最後著者など、著者の順番も問題視されている。

それで、折角新しい用語を導入するのだから、「authorship」問題を全部扱う意気込みで、「著者在」に順番の「順」を加えて、「著者在順」(ちょしゃザイジュン)という用語を導入しよう。「著者不当表示」という用語も妥当だと思うが、「不当」だと、何が不当なのか用語からは推察できないのが欠点になる。

「著者在順」という用語は、本来は、代筆(ghost writing)・論文代行(contract cheating)も含む「authorship」がらみの問題のすべてを包含する。

ただ、「著者在順」は、今回新たに導入したばかりの用語だ。従来、「authorship」と独立に、代筆(ghost writing)・論文代行(contract cheating)の問題が論じられている。代筆(ghost writing)・論文代行(contract cheating)は、別の章を立てて推敲するほうが、論点が明瞭になるので、今回は、そうした。

★用語:「corresponding author」「last author」

「corresponding author」(コレスポンディングオーサー)を「責任著者」と訳す人がいるが、白楽は「連絡著者」とする。

「corresponding」は辞書に、「対応する、類似の、一致する、相当する、調和する」の意味とあるが、「責任ある」という意味はない。それに、「責任著者」と訳すと、では、他の著者は「無責任著者」となり、おかしい。他の著者も責任はある。それで、白楽は「連絡著者」を使う。「責任著者」としている文章があれば、「連絡著者」と脳内変換してください。

「last author」(ラストオーサー)を「最終著者」と訳す人がいるが、白楽は「最後著者」とする。

順番に並んでいる名前の最初を「第一(番目)」と言うが、並んでいる名前の最後を「最終」とは言わない。だから「最終著者」とは言わず「最後著者」と呼ぶ。

2.著者在順のあり方】

ようやく、著者在順(オーサーシップ、authorship)の中身に入る。

著者在順は学術誌出版局や学術誌編集委員の団体が基準決めて、各学術研究者が、その基準に沿った運用をしている。生命科学分野では、「医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)」が基準を定めている。

学問分野が異なると、著者在順のあり方が異なる。しかし、生命科学以外の分野の著者在順のあり方の指針が見つからない。以下は、生命科学系を中心に扱う。

実は、基本となっている「医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)」の基準が諸悪の根源である。まず、基準が不明瞭である。さらに、基準が研究現場の実態とずれている。さらに、オーソリティ(学術誌出版局、大学・研究機関など)は、ICMJE基準違反の調査をせず、違反者に処罰を下していない。

だから、研究者はICMJE基準を正確に守るのが難しいし、バカバカしい。自分の著者在順の基準を設け、得する行為を繰り返す。

研究倫理の研究者は著者在順の違反行為を研究クログレイと認定し、「してはイケマセン」と禁止しているが、根本的な解決に至っていない。改善策が提案されているが、いまだに世界標準が確立していない。

以下に基準のポイントを挙げよう。問題点は次の3章で示す。

★医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)

出典 → 日本医学会の日本医学雑誌編集者会議(JAMJE):2015年の医学雑誌編集ガイドライン

16~17頁目を引用する。

投稿原稿では著者資格を満たす人物はすべて著者として列挙されていなければない.

ICMJE の Recommendations (August 2013)では,著者資格の基準として以下 4 項目のすべてを満たすことを挙げている.(白楽注:2005年12月版のICMJEガイドライン(2頁目)も以下は同じ)

① 研究の構想もしくはデザインについて,または研究データの入手,分析,もしくは解釈について実質的な貢献をする.
② 原稿の起草または重要な知的内容に関わる批判的な推敲に関与する.
③ 出版原稿の最終承認をする.
④ 研究のいかなる部分についても,正確性あるいは公正性に関する疑問が適切に調査され,解決されるようにし,研究のすべての側面について説明責任があることに同意する.

上記の 4 つの基準のすべてを満たさない貢献者 (contributor) は,著者として挙げるのではなく,謝辞にて個人個人で列挙するか,あるいは「参加研究者」のような見出しのもとにグループとして示し,それぞれの貢献者の寄与内容を具体的に示す.

2015年9月16日のムリガンカ・アワティの「エディテージ・インサイト」記事は、上記を引用した上で、ICMJEによると、以下の任務を行なっても著者とはみなされない、とある。

1. 研究資金の獲得
2. 研究の監督
3. 実験の副次的支援
4. 事務的支援
出典→ オーサーシップについて | Editage Insights

生命科学系の著者在順の基準はここに示したICMJE基準が基本である。以下にICMJE基準(と同等)を採用している組織を示す。白楽は、ICMJE基準以外の基準を採用している組織を見つけられなかった。

①日本学術振興会 2015年「科学の健全な発展のために -誠実な科学者の心得-
②「エディテージ・インサイト」記事(後述)
③出版規範委員会「COPE」(2003年のエリザベス・ウェイジャー(Elizabeth Wager)の記述
④米国・環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA):Authorship Best Practices | Programs of the Office of the Science Advisor (OSA) | US EPA

しかし、ICMJE基準は曖昧で非現実的である。つまり、ICMJE基準が諸悪の根源である。

★2006年03月01日:大隅典子「論文のauthorshipについて」

「医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)」の基準は紋切り型でわかりにくい。研究現場でなどのように著者在順をとらえているが、生命科学系・教授の具体的記述を引用する。

出典 → 論文のauthorshipについて : 大隅典子の仙台通信

複数の著者がいる論文の場合に、それぞれの著者はさまざまな形でcontributeすることになります。

したがって、個々の論文の中のauthorshipは多様なバリエーションがあり、一律に論じることは不可能です。

共著の論文の場合に、極端な例を挙げるとすれば、筆頭著者がcorresponding authorも兼ねて、図の作成から本文執筆、カバーレターまですべてを自分の裁量で仕上げる場合もありえるでしょう。

逆に、last authorがすべて仕上げる場合があるかというと、それはまずないでしょう。

筆頭著者がもっともその研究内容に貢献するデータを出す実験をしたはずです。

場合によっては、second ahthorの貢献は非常に大きいが、first authorの学位申請のために譲った、ということもあるでしょう(かつて私はそういう立場で論文を書いていました)。

著者の中には、共同研究先の研究室主催者が入る場合もありますし、論文を仕上げるために行ったディスカッションで大きな貢献をしていただいた方に入ってもらうこともあります。
あるいは、研究のヒントとなったアイディアを出した方が加わるなんてこともあるかもしれません。

どのような方々が著者になるかは、主に筆頭著者とlast authorが協議して決めることになるのが普通だと思います。

●3.【著者在順の問題点】

【2.著者在順のあり方】を読むと、「医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)」の基準があり、専門家が問題を議論し、チャンと制定しているように思える。

しかし、次のような問題が、あちこちで指摘されている。

《1》著者在順の在

著者在順の「在」に関する問題は、大別すると、「研究に貢献していないのに著者欄に記載される」場合と「研究に貢献したのに著者欄に記載されない」場合の2つがある。

以下、文献の文章をそのまま流用した面もある。また。ここでは「オーサーシップ」を用いた。

★研究に貢献していないのに著者欄に記載

オノラリー・オーサーシップ(honorary authorship、名誉著者)、ギフト・オーサーシップ(gift authorship、贈呈著者)、ゲスト・オーサーシップ(gest authorship、客員著者)、儀礼上のオーサーシップ、などと呼ばれる。

論文に貢献していない研究者を共著者にする。なんでそんなことになるのか? おかしいでしょ?

  1.  研究に意義ある貢献を何らしていないにもかかわらず、教授・年長者・学部長を共著者にする。見返りを期待した贈賄である。
  2. 論文への「貢献」を、当該研究の研究費を獲得した、あるいは、研究をスーパーバイズしたという理由で、教授・年長者・学部長を共著者にする。見返りを期待した贈賄である。
  3. 同僚の研究者や共同研究者を、礼儀として、あるいは彼らの論文に名前を入れてくれたことの恩返しとして著者に含める。さらなる、見返りを期待した贈賄である。
  4. 学術界の権威者や著名人が著者だと論文が採択されやすくなるという思惑から、その研究分野の権威者や著名人に、論文に薄くでも関与してもらい、共著者になってもらう。

★「研究に貢献したのに著者欄に記載されない」場合

ゴースト・オーサーシップ(ghost authorship、幽霊著者)などと呼ばれる。

研究に貢献したにも関わらず、著者欄に名前が掲載されない場合である。これも、おかしいですね。

幽霊のように扱われているという風刺からこう呼ばれる。なお、通常、次章で述べる「代筆(ゴースト・ライティング)」は含めない。

  1. 研究室の院生の1人は、研究に「少し」貢献した。しかし、研究主宰者と人間関係が悪く、貢献度が大きくないという理由で、著者欄に名前が掲載されない。研究者間の人間関係を著者在順に持ち込んだことが原因、また、貢献度の評価にギャップがある。
    研究に「少し」貢献した、と書いたが、当の院生は、「十分に」貢献したと主張している。
  2. 利益相反を隠蔽するための場合である。例えば、企業研究者が研究に貢献したにも関わらず、大学関係者だけが著者になる場合である。企業研究者が著者に入ると、企業に都合のよいように論文内容・結論が誘導されたと読者に思われる。それを避けるため、利益相反があるとみなされている企業研究者を意図的に除外する。
    日本の「ディオバン事件」では、企業研究者が著者に入っているが、大学名を名乗り、企業名を隠蔽していた。

【「著者在順の在」の文献】

  1. 日本学術会議、2015年「回答 科学研究における健全性の向上について
  2. 大阪大学の文化人類学者・池田光穂・教授(いけだ みつほ)の解説:だれが論文著者(クレジット)として掲載されるか(原著:36)
  3. 2015年9月16日のムリガンカ・アワティの「エディテージ・インサイト」記事:オーサーシップについて | Editage Insights
  4. 2014年4月21日のシャジア・カーナムの「エディテージ・インサイト」記事:オーサーシップが失敗する時

《2》著者在順の順

著者在順の「順」に関して、慣例上のルールはあるが、公的な取り決めがない。例えば、日本医学会の日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)の2015年の医学雑誌編集ガイドライン  には、「順」に関して一言も言及していない。その元の2005年12月版のICMJEガイドラインにも「順」に関する記述は一切ない。

慣例上のルールは生命科学では以下のようだ。

→ 2014年1月16日のシャジア・カーナムの「エディテージ・インサイト」記事:著者名の順番を決める:第一著者, コレスポンディング・オーサー, 責任者, 著者

第一著者になるのは通常、もっとも重要な知的貢献―研究デザインの構築、実験データの解釈と分析、論文原稿の執筆―を行なった人です。第一著者の重要度は、‘Jones et al. report that…’のように、第一著者の名前で論文の引用を行うという慣例に反映されています。

Ph.D. の学生のキャリアにとっては、論文の第一著者になって発表することは非常に重要なことです。世界中どこでも、Ph.D. の課程では、学生は少なくとも一本は第一著者論文を発表しなければ、学位をとる資格は得られません。

第一著者の後に続く著者名は、研究への貢献により決まるのが普通で、一番寄与が大きい人から、一番寄与が小さい人へと並びます。

そして、最後著者は研究室主宰者(教授など)がなることが通例である。

この序列で、論文の栄誉は誰に行くかというと、最一著者と連絡著者・最後著者になる。大発見をして、3名上の共著者からなる論文を出版した時、新聞記事に発見者として名前がでるのは、最一著者と(または)連絡著者・最後著者である。

連絡著者(コレスポンディング・オーサー)は、著者の一人で論文の代表責任者である。共著者の代表として、論文の審査・出版で学術誌編集局に対応し、論文出版後も論文に関する問い合わせ対応窓口になる。通常は、研究室主宰者(教授など)がなる。

連絡著者は、論文で連絡著者と明記されるので、著者欄での「順」に関してどの位置というルールはないが、最後著者になることが多い。しかし、最一著者になることも最後から2番目になることもある。

出版後査読(post-publication peer-review)のパブピアでは、登録できる人は、最一著者と連絡著者だけである。つまり、この2人を論文の実質的責任者と見なしているのである。

なお、数学では全く違う。

数学では実際の貢献度によらず原則アルファベット順と決まっていますから、問題はシンプルです。アルファベット順ではない論文をみると、逆にいろいろと勘ぐってしまいます。実際にアルファベット順ではない数学の論文はほとんどありません。(共著論文の著者順: klingen lassen

政治学などの人文科学分野でも、著者をアルファベット順に並べることが主流だそうだ(オーサーシップについて | Editage Insights)。

分野によって違うと異分野間の共同研究成果を発表する時、どうするのだ?

そもそも、当局(オ-ソリティ)がルールを制定しないのヘンだ。

制定しないで、倫理違反だとする状況もヘンだ。

おかしくないか?

《3》著者在順の著者数

論文の「著者数」に関しては、困惑することに、公的な取り決めがないだけでなく、慣例上のルールもない。例えば、日本医学会の日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)の2015年の医学雑誌編集ガイドライン  には、「著者数」に関して一言も言及していない。その元の2005年12月版のICMJEガイドラインにも「著者数」に関する記述が一切ない。

2015年5月14日に物理学の分野で、5,154人の著者数からなる論文が出版された。
→ Physical Review Letters誌に5,154人の著者による論文掲載 論文著者数の新記録樹立 | カレントアウェアネス・ポータルPhysics paper sets record with more than 5,000 authors : Nature News & Comment

2012年のクリストファー・キング(Christopher King)の論文によると、以下の図に示すように、大著者数の論文は物理学に多いが、生命科学にもそこそこある。201207_graph2 出典 → Multiauthor Papers: Onward and Upward – ScienceWatch Newsletter

そして、2015年の生命科学論文・「Leung, W. et al. Genes Genomes Genet. 5, 719–740 (2015)」では、著者数が1,000人以上もいた。

このような大著者数の論文は、その全員が「医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)」の基準に合致しているとはとても思えない。それなのに、論文が受理され、堂々と出版され、規定違反の調査を受けたのかどうか知らないが、少なくとも、処罰はされていない。

そして、1,000人以上の著者は、それぞれ、論文1報を出版したという自分の業績になるのだ。

おかしくないか?

●4.【事件例・検出法・処罰】

《1》事件例

★佐藤能啓事件(日本)

佐藤能啓(Yoshihiro Sato、医療法人 昌和会 見立病院 副院長、元弘前大学教授)。

撤回論文は
Yoshihiro Sato, Jun Iwamoto, Tomohiro Kanoko, Kei Satoh
“Amelioration of osteoporosis and hypovitaminosis D by sunlight exposure in hospitalized, elderly women with Alzheimer’s disease: a randomized controlled trial”
J. Bone Miner. Res., 20 (2005)

佐藤能啓はJun Iwamoto, Tomohiro Kanoko, Kei Satohが名誉オーサーと自白。オーサーシップ違反の不正を認めた。名誉オーサーやギフトオーサーは業績水増しのために使われる事が多いが不正逃れにも使われる手段だから、本当かは不明。同様の例は藤井善隆事件の斎藤祐司。(2015年11月3日記事: 佐藤能啓が筆頭著者のアルツハイマー病の論文が撤回!他の著者は名誉オーサー! – 世界変動展望

★ディオバン事件(日本)

日本の「ディオバン事件」では、企業研究者が著者になっているが、所属の企業名を隠蔽し大学名を名乗った。

ノバルティスファーマの社員である「Shirahashi Nobuo」の名は、慈恵会医科大学、滋賀医科大学、千葉大学、名古屋大学による別のディオバンの臨床研究の論文にも、ノバルティスファーマ社員であることを明示せず、大阪市立大学大学院の統計解析者などとして名が記載されており、その他の大学も利益相反問題を公表していなかったことが明らかとなった。(ディオバン事件 – Wikipedia

★アザム事件(カナダ)

院生に修士論文の盗用と訴えられたが、その修士論文は指導教授のシャヒド・アザム教授が書いた。カナダのレジャイナ大学(University of Regina)のアザム教授の事件である。レジャイナ大学はアザム教授を処罰しなかった。
→ 工学:シャヒド・アザム(Shahid Azam)(カナダ)

★エルウィン事件(米国)

米国・ダートマス大学・教授のグリン・エルウィン(Glyn Elwyn)が著者在順事件を起こしている。

エルウィン教授は、ポスドクであるツルキーゼの論文の著者にエルウィンを加えるように要求した。もし、エルウィンを著者に加えなければ、ツルキーゼが転職の際に決定的に必要な推薦書(reference)を書かないと脅した。大学はエルウィン教授を処罰しなかったが、ツルキーゼが裁判に訴え、現在、係争中である。
→ グリン・エルウィン(Glyn Elwyn)(米)

★キム事件(韓国)

韓国の韓国教員大学・教授で教育大臣候補になったキム・ミョンスは、院生の論文を盗用していたとして、2014年に大騒動になった。論文は、自身を第1著者とし、院生を第2著者にしたのであり、盗用ではなく、著者在順の「順」または「在」「順」の問題である。
→ ミョンス・キム(Myung Soo Kim)(韓国)

《2》検出法

著者在順の異常をどのように検出するか? 著者在順の「大著者数」は、論文の著者数をみれば一目瞭然なので、検出は簡単だ。

一方、著者在順の「在順」違反をどのように検出するか?

ねつ造・改ざんのように、研究記録を提出させて、照合すればわかるか? 極端なケース以外、まず、わからないだろう。

問題がありそうだと察知しても、証拠品ではわからない。最終的には、リストに記載されている著者たちに直接聞くしか方法がない。

★出版規範委員会(COPE)の指針

学術誌編集長が不適格な著者を見逃さず、危険信号を見抜くポイントを、出版規範委員会(COPE)が列挙している。以下に示す。

出典 → 著者資格(オーサーシップ)に関する問題の発見方法 | 【Ronbun.jp】医学論文を書く方のための究極サイト | 大鵬薬品工業株式会社

  • 連絡著者が査読者のコメントに回答できない場合
  • 著者リストに掲載されていない人物によって修正が行われている(Word文書のプロパティで修正者を確認。ただし、共有PCを使用した、秘書が文書の変更を行ったなど、単純に説明がつく場合があることに注意)。
  • 文書のプロパティに、著者リストや謝辞に含まれていない人物が論文の草稿を作成したことが示されている(ただし前項を参照すること)。
  • 例えば総説(レビュー)や意見記事を極端に多数の著者が執筆している(二重出版かどうかも確認)(これは、著者名をMedlineやGoogleで検索することにより発見できる場合がある)。
  • 類似した総説(レビュー)/論説/意見記事が異なる著者名で何編か掲載されている(これは、論文のタイトルやキーワードをMedlineやGoogleで検索することにより発見できる場合がある)。
  • 著者リストに記載されていない役割がある(例:記載されている著者の誰もデータ解析や論文の草稿作成を担当していないような場合)。
  • 著者リストが極端に長い、または短い(例:簡単な症例報告を多数の著者が執筆、無作為化試験を1名の著者が執筆)。
  • 企業が資金提供する研究にその企業に所属する著者が含まれていない(正当な場合もあるが、適格な著者が除外されている可能性もある。プロトコルを確認することにより、資金提供元の社員の役割を判断できる場合がある。Gotzsche他の論文およびWagerの論評を参照)。

しかし、上記のリストは現実的な印象を受けない。そもそも、学術誌が上記のルールを守っているのだろうか?

★出版規範委員会(COPE)のフローチャート

出版規範委員会(COPE)はフローチャートも作っている。

出典 → 著者の変更 | 【Ronbun.jp】医学論文を書く方のための究極サイト | 大鵬薬品工業株式会社

ゴーストオーサーシップ、ゲストオーサーシップ、ギフトオーサーシップの疑いがある場合の対応

04eしかし、このフローチャートも、あまり現実的な印象を受けない。

学術誌編集長が著者に問い合わせた時、著者が虚偽の返事をしたら、どう見破ることができるのだ? それに、ルールを守らない著者への処罰をどうするのだ?

《3》処罰

事件例で示したように、著者在順の「在順」は「よくないこと」として、メディアが記事にするが、大学は処罰しない。それは当然で、ほとんどの大学は著者在順違反を処罰の対象にしていない。「順」に関してはルールも制定していない。

学術誌編集局はどうだろうか? 著者側の要請で著者在順に違反したという理由で論文を撤回することは珍しくないが、学術誌編集局が著者の反対を押し切って論文を撤回した例はない(推定)。なお、「authorship」で検索すると撤回監視サイトの160記事がヒットした。 → authorship issues Archives – Retraction Watch at Retraction Watch

著者在順の「大著者数」については、どの学術誌、大学・研究機関、政府助成機関も「よくないこと」と明記していない。

従って、疑わしい共著者がいたとしても、本当に著者の資格があるかどうかという調査は誰もしない。当然、どのオーソリティ(学術誌、大学・研究機関、政府助成機関)も処罰しない。メディアは面白がって記事にするが、非難・批判の論調は少ない。

●5.【白楽の改善案】

《1》先人の改善案

著者欄にリストされる人名は、著者と呼ばずに貢献者 (contributorship)と呼ぶ提案がなされている。これは、1つの改革である。

★2015年9月16日:ムリガンカ・アワティの「エディテージ・インサイト」記事

出典 → オーサーシップについて | Editage Insights

貢献者 (contributorship)と保証者 (guarantorship)

研究プロジェクトの様々な側面に複数の人間が関わっていると、著者と、その他の部分で貢献者として掲載される人との境界がはっきりしなくなってきます。後述のような、非倫理的な出版行為によって問題が大きくなることもあります。この難題を解決するため、学術誌は著者モデルから貢献者(contributorship)モデルに移行しつつあります。

現在、多くの学術誌では、著者に各人の研究に対する貢献を説明するよう求めています。この解説は、出版論文の脚注として入れられます。Journal of the American Medical Associationのように、著者欄に貢献の詳細を書くことを要求している学術誌もあります。Nature各誌では、各著者に、特定の貢献をしたという責任表明を含めることを求めています。

保証者(guarantorship)という概念は、複数の著者が執筆した論文において、責任所在の不透明さが増してきたことに対応して発展してきました。これは、著者の中の一人(たいていは年長の著者)が、論文の保証者となることを求めるものです。保証者は研究論文全体の責任をとることになります。例えば、British Medical Journalでは、少なくとも著者のうち一人が保証者となるよう定めています。

★貢献者 (contributorship)の記載

1997年、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)のドラムンド・レニー教授(Drummond Rennie)らが、「論文では著者ではなく貢献者 (contributorship)にしよう」と提案した(以下の論文)。レニー教授は、腎臓が専門の生命科学者だが、学術誌「JAMA」の副編集長を務め、学術論文の出版システムの改善に多大な貢献をした人である。

実際の論文では、貢献者 (contributorship)は、論文の末尾に「author contributions」や「contributors」として記載されている。Nature誌、JAMA誌、Lancet誌、BMJ誌など超一流学術誌が採用している。

JAMA誌の無料閲覧できる最近(2016年7月出版)の論文を例に示そう。著者が15人いる論文である。

論文の末尾といっても文献リストの直前の脚注(Footnotes)に以下のように記載されている。日本語に訳さないで英語のまま書いてスミマセン。下線は著者で白楽が引いた。

Author Contributions: Dr Günthard had full access to all of the data in the study and takes responsibility for the integrity of the data and the accuracy of the data analysis.
Study concept and design: All authors.
Acquisition, analysis, or interpretation of data: Günthard, Saag, Benson, Del Rio, Eron, Gallant, Hoy, Mugavero, Sax, Thompson, Gandhi, Landovitz, Smith, Volberding.
Drafting of the manuscript: All authors.
Critical revision of the manuscript for important intellectual content: Günthard, Saag, Benson, Del Rio, Eron, Gallant, Hoy, Mugavero, Sax, Thompson, Gandhi, Landovitz, Smith, Volberding.
Obtained funding: Volberding.
Administrative, technical, or material support: Del Rio, Hoy, Sax, Jacobsen, Volberding.
Study supervision: Günthard, Saag, Volberding.

上記のように、15人の論文著者全員が各人どのように研究と論文作成に貢献したかを記載している。

別の学術誌「BMJ誌」ではどうだろうか? 2016年9月出版の論文を適当に選んだ。 → Manitoba mothers and fetal alcohol spectrum disorders study (MBMomsFASD): protocol for a population-based cohort study using linked administrative data

この論文の貢献者 (contributorship)欄を以下に示す。この論文は、著者が6人で、DS. MB, LLR, SL, AH-D, DCは著者のイニシャルである。下線は著者で白楽が引いた。

Contributors This study was conceived by DS. All authors contributed to the design of the study. DS will perform data analysis, and with MB, LLR, SL, AH-D and DC, will interpret the data. All authors participated in the preparation of this manuscript, revised it critically for important intellectual content and approved the version submitted for publication.

6人の論文著者全員が各人どのように研究と論文作成に貢献したかを記載している。

但し、JAMA誌もBMJ誌の、著者が申告した貢献内容をそのまま書いただけである。この記載はないよりましだが、著者在順の問題を解決するようには思えない。

《2》白楽の改善案:貢献度数の導入

お待たせしました、白楽の改善案です。

著者在順の問題は、論文の「著者」とするから誤解が生じていた。上記の貢献者 (contributorship)の導入概念をさらに一歩進め、以下の改善案を提案する。

【第1:提案。貢献度数の導入】。

白楽は、各著者の論文への貢献度を数字で示し、論文タイトルの直下の著者欄に貢献度数として記載することを提案する。

投稿時に、論文への貢献度を1~10の整数にし、著者欄の各著者名の後に示す。貢献度数の合計を10とする。1未満の貢献をした人は著者欄にリストしない。「謝辞」に記す。

例えば、1997年に貢献者 (contributorship)の導入を提案したレニー教授の論文(上記)で示そう。

タイトル → When authorship fails. A proposal to make contributors accountable.
著者欄 → Rennie D, Yank V, Emanuel L
学術誌 → JAMA. 1997 Aug 20;278(7):579-85. Erratum in: JAMA 1998 Jan 7;279(1):22.

著者欄の著者名に「貢献度数(整数)」を表示する。強調のため「貢献度数」を赤色にした。数値はあてずっぽうで白楽が記入した。

著者欄 → Rennie D(6), Yank V(3), Emanuel L(1)

著者欄に貢献度数を記入すると、システムが乱れるなら、著者欄の直下に貢献度欄を設けてもよい。具体的に示そう。

著者欄 → Rennie D, Yank V, Emanuel L
貢献度欄 → RD-6,YK-3,EL-1 別の表示でもよい
学術誌 → JAMA. 1997 Aug 20;278(7):579-85. Erratum in: JAMA 1998 Jan 7;279(1):22.

【第2:副次的ルール】

副次的ルールとして

  1. 著者の数は10人以下になる。もし、著者を100人まで認める基準にするなら、貢献度数を1~100の整数にする。それに合わせ、本提案の他の数値を10倍する。
  2. 著者欄の氏名は、貢献度の大きい人から小さい人の順番にする。但し、最後著者は例外。
  3. 貢献度数1未満の貢献者は著者欄にリストしない。「謝辞」に記す。

【第3:効果】

貢献度数を導入すれば、どの論文も論文1報の総貢献度数は10になる。著者数が多ければ、著者に割り振られる貢献度数の平均的は低くなる。だから、研究に貢献していないのに著者になる名誉著者・贈呈著などが激減するだろう。

この貢献度数の導入で、著者在順の3問題の内の2問題である「順」と「著者数」がほぼ解決する。

争点として、論文を投稿する際に、各共著者に適切に貢献度を割り振ることが問題になるかもしれない。しかし、このことは、現状でも同じだが、現状は曖昧なので、貢献度数を導入することで、状況が改善される。

【第4:評価に採用】

研究者の研究業績を正確に把握できるメリットもある。

従来、研究者の研究業績を論文数で判断していた。

だから、大きな研究室は、著者数の多い論文を発表し、研究室員をなるべく多く著者に加えていた。そのことで、各室員の業績数を増やした。つまり、論文数の水増しをしていた。

貢献度数を導入すると、論文数は多くても貢献度数が少ない人なのか、対比して、論文数は少ないけど貢献度数が多い人なのかが一目瞭然である。

多くの研究者は、科学の進歩に貢献した度合いを測るには、論文数よりも貢献度数の方がより近いと判断するだろう。

だから、研究者の研究業績を論文「数」で数えるのではなく、貢献度「数」で数える。

研究助成機関は研究助成で、大学・研究所は人事で、研究者の研究業績を貢献度数で評価するようになるだろう。

●6.【代筆(ghost writing)】

ghostwriter
出典:https://thewritersadvice.com/tag/ghost-writing/

ゴーストライター(ghost writing、代筆)は、ゴースト・オーサーシップ(ghost authorship、幽霊著者)と似ているが、ゴーストライターは執筆の対価(金銭)を得ている点が全く異なる。

最初に結論を言えば、学術界・研究界はゴーストライター行為を研究ネカトと同等と扱い、取り締まるべきだが、そうしていない。

《1》代筆(ゴーストライター):日本

ゴーストライターとは、書籍や記事、脚本などの代作を生業とする著作家のことである。文筆を主業としないタレント・俳優・政治家・スポーツ選手・企業経営者・学者・その他、著名人の名前で出版されている本のうちのかなりの割合が、多かれ少なかれゴーストを使っていると言われる。

学者、研究者の場合は論文は自分で書くものの、一般向けの書籍などではゴーストライターが関与することがある。ノンフィクションライターの窪田順生は、「国会議員に社長にタレント、プロ野球選手、登山家、大学教授、医師、投資コンサル……変わり種では、女カリスマ社長なんかの代筆をさせていただいたことがある」と書いている。(ゴーストライター – Wikipedia

ところが、著作権法で、著作者の実名やペンネーム以外、他人の名前を著作者名としたら刑事罰の対象になると規定されている。

著作権法第一九条:著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。

著作権法第百二十一条:著作者でない者の実名又は周知の変名を著作者名として表示した著作物の複製物(原著作物の著作者でない者の実名又は周知の変名を原著作物の著作者名として表示した二次的著作物の複製物を含む。)を頒布した者は、1年の懲役および100万円の罰金を併科する。

しかし、日本の研究者がゴースト・ライティングしたために著作権法違反で逮捕されたという事件はない。そもそも、問題視もされていない。実態も把握されていない。

《2》代筆(ゴーストライター):外国

まず、論文の指摘をみよう。

★2007年のGøtzscheらの調査研究(デンマーク)

デンマークのGøtzscheらの調査研究は、「ゴーストライター」の実態を明らかにした数少ない論文と考えられる。「謝辞」にのみ名前が記されている場合を含めると、44試験中実に約9割に当る40試験に「ゴーストライター」が存在したというのである(Gøtzsche PC, Hrobjartsson A, Johansen HK, Haahr MT, Altman DG, et al. (2007)Ghost Authorship in Industry-Initiated Randomised Trials. PloS Med 4(1): e19 doi:10.1371/journal.pmed.0040019)。(企業主導のランダム化臨床試験論文におけるゴーストライターの存在 | 薬害オンブズパースン会議 Medwatcher Japan

★「2010年のPLoS Med.」論文

カナダ・トロント大学法学部のサイモン・スターン(Stern S、助教授)とトルド・レメンス(Trudo Lemmens、準教授)が論文の代筆(ゴーストライター)は規範に違反している。学術誌編集局、大学・研究機関、学術組織はもっと強く取り締まるべきだと主張している。

★リコ(RICO)法

上記のスターンとレメンスの両教授は、学術誌編集局、大学・研究機関、学術組織が規制に動かないので、学術界の外から、規制しようと提案している。

代筆を詐欺罪で有罪にするのは難しい。しかし、論文内容の正確さがなく、論文で推奨された医薬品を使った消費者に健康被害が出ている。論文を読む読者に時間と経費と間違った知識を得るという損害が生じる。

それで、法律としてはリコ(RICO)法(Racketeer Influenced and Corrupt Organizations Act)を使うことを提案している。

→ 2011年11月2日:Opinion: Ghost Writing is Fraudulent | The Scientist Magazine®

リコ(RICO)法とは以下のようだ。

特定の違法行為によって不正な利益を得る「ラケッティア活動 (racketeering activity) 」を通じて、組織的な犯罪を行う「エンタープライズ (enterprise) 」の活動を規制し、犯罪行為に対する民事責任と刑事罰を規定したアメリカ合衆国の法律である。合衆国法典第18編第1部第96章。

同系列の法に「ラケッティアリング法」がある。(RICO法 – Wikipedia

―――
代筆(ゴーストライター)の事件例をみよう。

★2002年のグラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)のパクシル事件(英国)

→ 企業:研究329(Study 329)、パクシル(Paxil)、グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)(英) | 研究倫理(研究ネカト)

うつ病治療薬・パクシルの臨床結果を報告した「2001年のJAACAP」論文は、米国・ブラウン大学(Brown University)・精神病学・教授のマーティン・ケラー(Martin Keller)が第一著者で、他に21人の著者がいる論文である。

しかし、実際は、ゴーストライターのサリー・ラデン(Sally K. Laden)が17,250ドル(約172万円)で書いた。ラデンは論文の著者に入っていない。

ケラー教授はこのゴーストライター論文で、大学を解雇されていない。NIHからの研究費助成を拒否もされていない。つまり、無処分である。

★2009年のワイス社事件(米国)

2009年1月にファイザー株式会社に買収されたばかりのワイス株式会社(以下、ワイス社と略)がゴーストライターを雇い、自社製品(ホルモン補充療法剤)に関連した医学論文を作成していたというブルームバーグ(米国にある経済・金融情報の総合情報サービス会社)のニュース記事内容である。

 ワイス社のホルモン補充療法剤であるPrempro(日本製品なし)とプレマリン(エストロゲン製剤)に対しては、服用により乳癌などを発症したとして米国では5,000件を超える訴訟が起されている。

ブルームバーグの記事では、これら訴訟に関連して裁判所に提出された文書から、少なくとも40報のホルモン補充療法に関する論文が、ワイス社に雇用されたゴーストライターにより書かれていたことが明らかになったとしている。

実際には、ワイス社の依頼によりDesignWrite社、PharmaWrite LLC社などの医学コミュニケーション会社のライターが論文を作成し、著者に名を連ねる医師のリクルートも行っていたというものである。ワイス社からDesignWrite社に対しては、1論文あたり25,000ドル(約230万円)が支払われたとされているが、著者に名を連ねた医師に対する報酬額は明らかになっていない。 ゴーストライターによる医学論文作成が裁判資料から明らかに | 薬害オンブズパースン会議 Medwatcher Japan 保存済)
→ Court documents reveal Wyeth’s role in ghostwritten journal articles about HRT – FirstWord Pharma 保存済

―――
代筆(ゴーストライター)を問題視する取り組み。

★2012年1月2日、中国では退学処分

他人のため学位論文を代筆、販売、またはその手配を行った在学生については、退学処分にできる。不正行為に加わった学校または学位授与機関の教員その他職員については、解雇または招聘契約を解除できる。しかるべき職責を尽くさなかった指導教員、関係学院・学部および関係する責任者も責任を追及されうる。
→ 学位論文、不正行為があれば申請資格取り消し–人民網日本語版–人民日報

★2015年 12月3日、中国科学技術協会が代筆を禁止

上記の2012年1月2日の記事で厳しい処分が述べられているが、守られなかったのだ(2015年11月14日記事:中国の論文、世界の学術誌が相次ぎ撤回=代筆や評価で不正が… – Record China)。

4年後に再度、通達した。

(1)第3者による論文代筆を禁じる
(2)第3者による論文代理提出を禁じる
(3)第3者による論文内容の修正を禁じる
→ 科学論文、「5つの禁止事項」が発表 | SciencePortal China

★ポゴ(POGO)の「Medical Ghostwriting」

ポゴ(POGO:Project On Government Oversight)は1981年米国に設立された米国政府組織を監視する民間の組織である。例えば、軍隊の会計を調べ、1個7,600ドル(約76万円)のコーヒーメーカーや1本435ドル(約4万3,500円)のハンマーの購入はおかしいと指摘した。

ポゴ(POGO)の研究プロジェクトに「国民健康と科学(Public Health and Science)」があり、その1項目に「医学界の代筆(Medical Ghostwriting)」がある(Frequently Asked Questions about Medical Ghostwriting)。

2010年12月、ポゴ(POGO)がNIH所長に要望書をだしている(POGO Letter to NIH on Ghostwriting Academics)。

白楽は、要望書の返事やポゴ(POGO)のその後の活動も把握していない。しかし、すべきことをしている人たちがいると感じる。

●7.【論文代行(contract cheating)】

論文代行(contract cheating)は、代筆(ゴーストライター)とよく似た同じ行為だが、主に教育界で見られる。カンニング(cheating)と同当の学業不正である。

修士論文や博士論文の論文代行もあるので、ここで取り上げ、研究クログレイとして扱う。白楽としては、研究ネカトだと思う。

→ 2014年12月17日のチャールズ・セイフェ(Charles Seife)の「Scientific American」記事 :「論文売ります」For Sale: “Your Name Here” in a Prestigious Science Journal – Scientific American

cheating-story1カネで論文を買う。写真出典:Image Source: Katie Hall, 2016

《1》論文代行:日本

論文代行はカンニング相当の不正である。日本政府や教育界が、どうして本気で禁止し取り締まらないのか、白楽は、非常に不思議に思う。依頼者・請負者の両方を処罰すべきだ。

取り締まらないから、小中高大での宿題やレポート、大学入試でのエッセイ、卒業論文、修士論文、そして博士論文に至るまで、商売としての論文代行が、まん延し、外国でも日本でも1つの産業になっている。

2007年の時点で、既に新聞紙上(以下)でハッキリ問題が指摘されているのに、2016年9月30日現在、インターネットで「論文代行」を検索すると、たくさんの業者が宣伝している。

★2007年8月18日:読売新聞「卒論代行業者現る 大学「見つけたら除籍」」

出典→ 卒論代行業者について考える | 大学を考える

大学の卒業論文やリポートの執筆を有料で請け負う代行業者が登場し、波紋を広げている。学生がインターネット上で見つけた資料をリポートなどに引き写す「コピー&ペースト」が教育現場で問題となっているが、これを上回る究極の「丸投げ」で、文部科学省は「事実とすれば、到底認められない行為」としている。ネット検索大手のグーグルも、「こうした代行は不正行為にあたる」と判断、代行業者のネット上の広告掲載を禁止する措置に踏み切った。

「国立大の学生・院生を中心としたチームなので安心の品質」「6年で740件の代行実績」。ある代行業者のホームページ(HP)には、そんなうたい文句が並ぶ。別の業者のHPは「社員は学生時代に必要最低限の勉強量で優やAを取ってきた精鋭ぞろい」とアピールしている。

料金は1文字5円程度。納期は卒論で1週間以上、リポートでは2、3日以上が多い。テーマや内容、分量、納期などを指定のメールアドレスに送り、その後のやりとりで合意すると正式契約となる仕組みだ。こうした業者のHPはネット上で少なくとも三つ確認されたが、個人レベルで請け負っているケースもあると見られる。

このうち、昨年4月から事業を始めた業者が読売新聞の取材に応じた。これまでに300件近い問い合わせを受け、実際に100件以上を請け負ったという。2万字程度のリポートで10万円、発表会のための個別指導を含む卒論執筆だと35万円からという料金設定にしている。

事業を取り仕切る20歳代の男性は「もともと大学院の入試対策を有料で行うつもりだったが、依頼の大半は卒論やリポートの代行だった」と明かす。法律関係が依頼の半分近くを占め、文学、経済関係も多い。理系では物理や化学は皆無で、情報科学の依頼が数件ある程度。これまでに、「単位が取得できなかった」「発覚してしまった」という苦情は寄せられていない。

「卒論を3日で仕上げてくれ」など、安易に代行を頼む学生もいるが、この男性は「依頼者の多くは、教員に放任扱いされ、課題にどう対処すべきか悩んでいる。我々がやっているのは、最後の駆け込み寺のようなもの」と主張している。

これに対し、この業者のHPをネット上で見つけた京都府立大の川瀬貴也准教授は、今年1月、「あなたたちのしていることは犯罪。即刻やめるべきだ」というメールを送った。「『卒論を代わりに書く』という商売があるとは、とんでもない話。発覚すれば、学生の単位を取り消すどころか除籍処分ものだ」と憤る。

★2014年3月24日:森本弁護士の「卒論代行は私文書偽造罪」

出典 → 卒論代行 バレずにいけるのか!?価格料金は!?そもそも法律違反になる? | フェレット速報

森本明宏(もりもと・あきひろ)弁護士が述べている。

「ある有名私立大学で起きた『替え玉受験』をめぐる判例です。そこでは、志願者本人になりすまして受験し、答案を作成・提出した行為について、私文書偽造罪(刑法159条)が成立すると判断されました(東京高裁平成5年4月5日判決・最高裁平成6年11月29日決定)」

卒論代行サービスは、代行業者が学生から依頼を受け、学生名義で卒業論文を作成するもので、替え玉受験と同じようなものだと考えられます。したがって、この判例の理論を前提とすれば、卒論代行サービス業者と依頼した学生について、『私文書偽造罪』の共犯が成立すると、法的に解釈することが可能でしょう。

《2》論文代行(Contract cheating):外国

日本で論文代行が問題にされているが、もちろん外国でも問題にされている。2006年、英国人が「Contract cheating」と命名したが、英語の「cheating」の日本語訳は「カンニング」である。つまり、カンニング行為なのだ。

★学術論文代筆、中国では2009年に130億円市場

中国では論文のデータねつ造、盗作が問題となっているが、「闇の論文売買」の存在も指摘されている。調査を行っている武漢大学の副教授・沈陽氏によると、2009年の時点で論文売買の市場規模は10億人民元(約130億円)に達している。長江日報が伝えた(2010年1月10日記事:学術論文代筆、昨年130億円市場=中国 – (大紀元))。

★カダフィ大佐の次男の博士論文

日本ではカダフィ大佐と呼ばれるリビアの最高指導者・ムアンマル・アル=カッザーフィー の次男のサイフ・アル=イスラーム・カッザーフィー(Saif al-Islam Gaddafi、1972年生まれ)は、2008年 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(London School of Economics and Political Science)で哲学の研究博士号(PhD)を取得した。

博士論文のタイトルは「The role of civil society in the democratisation of global governance institutions: from ‘soft power’ to collective decision-making?」である。

この博士論文が代筆(コンサルタント会社のモニター(Monitor)社)でしかも盗博(盗用博士論文)だった。

モニター(Monitor)社は、次男の論文代筆を含めた家庭教師代として父親のカダフィ大佐から毎年300万ドル(約3億円)も貰っていた。
→2011年3月2日記事:Gaddafi son ‘plagiarised his degree thesis’ at LSE | The Independent

★代行論文の検出法

売りに出ている論文をカネで買い、自分の名前を著者欄に記入した科学論文には特徴がある。その特徴を「撤回監視」の記事が7つにまとめている。

  1. カバー・レターの文法、スペル、質が投稿原稿より大幅に悪い
  2. 共著者間で共有している論文数が少い
  3. 共著者数が少ない
  4. 原稿の参考文献リストに共著者の論文がほとんど引用されていない
  5. 原稿に共著者の先行論文がほとんど引用されていない
  6. 複数の共著者に同じ電子メールアドレスを使用している
  7. 文章が他の論文とオーバーラップしている(文章の盗用)

→ 出典:2016年10月24日のアリソン・マクック(Alison McCook)の「撤回監視」記事 :「著者在順をカネで買った科学論文の7つの特徴」 7 signs a scientific paper’s authorship was bought – Retraction Watch at Retraction Watch

★その他の例

説明を省くが、論文代行は世界中で起こっている。

→ 2014 年4月3日の「Guardian」記事:Academic ghostwriting: to what extent is it haunting higher education? | Higher Education Network | The Guardian)(保存版)。
→ 2015年3月21日記事:オーストラリア、論文代筆問題で大学生70人以上処分か 中華系業者が中国で書かせる – ライブドアニュース
→ 2016年1月8日記事: Essays for sale: Indian contract cheaters help thousands of UK university students to con the system
→ 2016年6月6日記事:米国の中国人留学生、不正横行で大量退学処分!替え玉テスト受験や論文代筆は当たり前 | ビジネスジャーナル

●8.【白楽の感想】

《1》困惑

著者在順・代筆・論文代行の問題は、かなり困惑する問題である。

医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors)が現実に合わない基準を決めているのに、生命科学分野の著者在順・代筆・論文代行に関するバイブルとなっている。正面切って批判・反論する人はとても少ない。

少ない批判の例として、薬害オンブズパースン会議のT氏が、2012年2月2日、「ゴーストライター」問題の対処に不十分だと指摘している。 → 26年間使われているICMJEガイドラインは「ゴーストライター」問題の対処に不十分 | 薬害オンブズパースン会議 Medwatcher Japan

著者在順・代筆・論文代行が長いこと問題視されているのに、十分議論されないものだから、未だに解決しない。もちろん、いくつかの改善策が示されている。つまり、改善策が示されても、オーソリティ、つまり、政府、学術誌編集局、大学・研究機関、学会は改善しようとしない。

白楽が、貢献度数導入という素晴らしい改善策を示したので(手前みそです)、今度こそ、導入してください。日本発ですが、日本も世界も前進しましょう。

《2》製薬企業ベッタリ

生物医学論文の基準となる医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors)の統一投稿規定「ICMJE Recommendations(旧 Uniform Requirements)」が、堂々と「大鵬薬品工業株式会社」と文字があるサイトで公開されている(投稿 | 【Ronbun.jp】医学論文を書く方のための究極サイト | 大鵬薬品工業株式会社)。

「大鵬薬品工業株式会社」が助成しているのを堂々と示すのはフェアーだと言えば、隠すよりはフェアーだが、企業に助成されていること自体、研究倫理が歪んでしまう。

無神経である。そのセンスが不快である。

●9.【主要情報源】

① エルゼビア社の解説「オーサーシップ」:
https://www.elsevier.com/__data/promis_misc/RESINV_Quick_guide_AUTH02_JPN_2015.pdf
② ウィキペディア英語版:Medical ghostwriter
Medical ghostwriter – Wikipedia, the free encyclopedia
③ 2016年8月30日論文:Ghostwriting: the importance of definition and its place in contemporary drug marketing | The BMJ

他は、本文中に示した。
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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そら
そら
2019年2月16日 2:59 PM

はじめまして、生命科学系の大学院生、博士号課程に在籍しています。論文代行について質問があります。このようなケースはいかがでしょうか。

ある研究に関して、教授がおよび助教授が研究を発案・企画し、PhDコースにいる大学院生をメインに、ラボスタッフも手伝い実験を実際に行います。院生の実験への貢献度は50%程度です。実験結果は週1回のミーティングで共有しています。しかし、教授は院生に論文を書く実力が無いと判断し、論文を自ら書きました。その際、First authorは実際に執筆はしていない院生とし、学位審査に出すようにと言いました。

これは自分の実際のケースですが、論文を執筆するという機会も無くPhDを終えることへの違和感が強く、他の問題も重なり現在は実験を中止しauthorshipは放棄しています。自分の所属する大学では多いケース?と聞きましたが、どのように思われますか。