7-62 臨床研究の参加者(治験者)が嘘をついたら

2020年10月13日掲載 

白楽の意図:臨床研究で参加者(治験者)が嘘をついていたら、研究結果は信頼できないし、治験者の健康も危ない。ところが、臨床研究を食い物にする治験常習者はかなりの割合でいる。この問題を解説したダミアン・マクナマラ(Damian McNamara)の「2020年7月のMedscape」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.日本語の予備解説
4.論文内容
5.関連情報
6.白楽の感想
8.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

白楽注:本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

論文に概要がないので、省略。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

  • 論文名:Lies and Desperation: How, Why ‘Professional Study Subjects’ Skew Clinical Research
    日本語訳:嘘と絶望:「治験常習者」は、どのように、なぜ臨床研究をゆがめるのか
  • 著者:Damian McNamara
  • 掲載誌・巻・ページ:Medscape
  • 発行年月日:2020年7月14日
  • 引用方法:
  • DOI:
  • ウェブ:https://www.medscape.com/viewarticle/933869、(保存版
  • PDF:

★著者

  • 単著者:ダミアン・マクナマラ(Damian McNamara)
  • 紹介:https://muckrack.com/damian-mcnamara
  • 写真:https://www.linkedin.com/in/damian-mcnamara-b713a117/
  • ORCID iD:
  • 履歴:https://www.linkedin.com/in/damian-mcnamara-b713a117/
  • 国:米国
  • 生年月日:現在の年齢:57 歳?
  • 学歴:米国のビンガムトン大学(Binghamton University)で学士号(化学とフランス語)1986年、ニューヨーク大学(New York University)で修士号(科学・健康・環境の報告)1988年
  • 分野:科学ジャーナリズム
  • 論文出版時の所属・地位:2012年10月からメッドスケイプ社(Medscape, LLC)のジャーナリスト(Medscape Journalist, Greater New York City Area (remote) → Miami/Fort Lauderdale Area)

この建物の3階にメッドスケイプ社(Medscape, LLC)がある。Medscape, LLC, 395 Hudson Street, 3rd Floor,New York, NY 10014。グーグルマップで白楽が作成

メッドスケイプ社(Medscape, LLC)。写真出典

●3.【日本語の予備解説】

省略。

●4.【論文内容】

本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

方法論の記述はなく、いきなり、本文から入る。

ーーー論文の本文は以下から開始

《1》治験者の嘘 

2019年後半、パトリシア(仮名)は、喘息の臨床試験の参加者(治験者)として登録した。この時、彼女は自分の適格性について正直に記載しなかった。

適格性の条件の1つに、過去2~3週間にプレドニゾン・ステロイド(prednisone steroids)を服用していない、という項目があった。しかし、パトリシアは数日前にプレドニゾンを服用していた。でも、嘘をつかなければ登録できなかった。

別の臨床試験では、重度のアレルギー(severe allergies)と鼻ポリープ(nasal polyps)について、パトリシアは薬歴を記載しなかった。

臨床試験では、さまざまな点鼻薬をテストし、鼻ポリープがどれだけ収縮するかを観察していた。医師はサノフィ社(Sanofi)のナサコート(Nasacort)を試験したかったのだ。実は、パトリシアはすでにナサコートを使用していたが、使用していないと言った。

パトリシアは、「私は嘘をついて、気分が良くありません。普通、私は正直です。でも、この臨床試験の参加者(治験者)になると、400ドル(約4万円)ももらえるのです」、と言った。

臨床試験研究者は、彼女の運転免許証を確認し、医師からのメモ、処方薬の指示書を要求し、彼女の健康ポータルサイトにアクセスする許可を要求した。「喘息、糖尿病、高血圧がなければ、それを偽って治験者になることはできません」、とパトリシアは述べた。

臨床試験研究者にとって、治験を食い物にする治験常習者ほど厄介な人はいません。治験者の嘘のために希望が打ち砕かれ、効果的なハズだった薬剤が市場に出る可能性が台無しにされ、さまざまな急性および慢性疾患を抱える実際の患者の健康が危険にさらされます。

病状の虚偽申告、服用薬の不開示、開発中の薬剤に対する臨床反応をデタラメに言うことは、臨床試験の結果を歪めることに直結する。場合によっては、効果的なハズだった薬剤の効果を無効にし、さらなる研究を停止させることになる。

《2》タダで治療 

仮名という条件でのみ記事にすることを認めたジャネット(Janette、仮名)は67歳の元教師で、彼女が有償の臨床試験に参加するために嘘をついたことを認めている。

ジャネットは過去5年間で3つの臨床試験に登録した。 「臨床試験では、私がやりたくないものもたくさんあります。臨床試験者が私に何か新しいことをテストしたいと言えば、私はノーと言います」。

最初の臨床試験は、ボツリヌス毒素(botulinum toxin)の適応外使用の治験だった。ジャネットはその治験ではお金をもらえなかったが、無料の治療を受けることができた。

それ以来、彼女はボツリヌス毒素のその後の臨床試験に登録した。今回は注射前に再構成(粉末状の医薬品を液体に溶かした溶液)を必要ではない製剤の治験である。臨床試験者は定期的に血液検査を行ない、心エコー検査(ECG)を実施し、他のテストもしてくれる。

最初の無給の治験を除いて、ジャネットは、臨床試験に参加することでお金を得ている。

ジャネットは治療経験で嘘をついた。 「質問の1つは、ボトックス(療法)をしたことはありますか、でした。私は臨床試験に参加し、無料のボトックス(療法)をして欲しかったのです。私はノーと答えました。そして、私はボトックス(療法)をしてもらえました。無料だったら、誰でも、参加したいに決まってますわよね!」

ジャネットは年齢についても嘘をついた。

「65歳になると、多くの機会が失われます。 これまでのところ、誰も私の身元を確認していません。年齢の証明が必要ないなら、今後も、サバ読んだ年齢を言うつもりです」。

パトリシアとジャネットは、お金や無料治療を得ただけでなく、臨床試験に参加することで、医学研究と社会一般に貢献したと信じている。

《3》神の恵み 

40代半ばの男性のクリス(仮名)は、嘘をついて臨床試験に参加したことは一度もないが、何人もの嘘つき治験者に出会いました、とのべた。

「私は多くの素晴らしい人々に会いました。そして私は多くの狂った人々にも会いました。善意で臨床試験に参加する人もいれば、そうでない人もいます」。

臨床試験は、過去10年間一貫してクリスの生活を支え、借金を返済する歓迎すべき収入源を提供してきた。

しかし、お金を超えて、彼は臨床試験に協力することで有益なことをしているという意識が生まれたと言う。というのは、アルツハイマー病(Alzheimer)の薬の1つの臨床試験で31,000ドル(約310万円)のお金をもらい、治験は社会にとても有益なことをしているという意識が生まれた。

「私の祖母はアルツハイマー病を患っているので、アルツハイマー病の薬の臨床研究に、私は一層身につまされました。それは素晴らしい報酬額ですが、結局のところ、祖母に与えることができる薬の開発に協力し、祖母を助けることができれば、または、祖母の生活の質を向上させることができれば、それは素晴らしいことです」。

クリスは最近、別のアルツハイマー病の臨床試験を終えた。これで10,000ドル(約100万円)の収入が得られる。クリスはこのような儲かる臨床試験を「神の恵み」と呼んでいる。

《4》バレちゃった! 

身元、健康歴、複数の臨床試験への同時登録について、嘘をついて臨床試験に参加する人は、臨床試験の結果を歪めるだけでなく、自分の健康を危険にさらしている。

高血圧のような客観的に測定できる臨床試験なら、参加者が臨床試験の開始時に受ける検査でチェックできるが、自己申告するうつ病、不安、慢性疼痛などの状態を調べる臨床試験では試験の結果が嘘の影響を受けやすい。

「1人の被験者が1年以内に複数の病院(私の知る限りでは7つの病院)で、多くの場合同時に、精神医学の臨床試験に参加し、研究に悪影響を及ぼしました」と、精神科医でカリフォルニア神経科学研究医療グループ社(California Neuroscience Research Medical Group Inc, Sherman Oaks, California)の創設者であるトーマス・シオビッツ医師(Thomas Shiovitz、写真出典)は述べた。シオビッツ医師は治験者データベース会社であるCTSデータベース社(CTS database LLC)の社長でもある。

この治験常習者を見つけた時、この人は「バレちゃった!」と言ったのです。

もっと、あからさまな嘘をついている治験常習者もいます。

ボストン大学医科大学院(Boston University School of Medicine)の精神医学のエリック・ディバイン助教授(Eric Devine、写真出典)は、「私は臨床試験で嘘をついている人に何人も出くわしました。その嘘も、医療記録を見ればすぐわかるような露骨な嘘なんです」と述べた。

「私の臨床試験に参加したかったそうで、別の人の名前と病歴を書いて登録した参加者もいました。それで、私は臨床試験の有効性を脅かし、参加者自身の健康も危うくする嘘つき治験常習者を締め出す方策を練り始めました」。

《5》臨床試験の胴元 

エリック・ディバイン助教授(Eric Devine)らは100人の治験者を調査し、以下の論文に報告した。 

論文によると、前年に2つ以上の臨床試験に参加した75%の治験者は、自分の健康状態について臨床研究者に嘘の報告をしていた。

治験者の 32% は健康上の問題を隠し、28%は処方薬を報告せず、20%は快楽を得るための麻薬(recreational drug)の使用を報告しなかった。さらに、25%は、臨床試験の参加資格を得るために症状を誇張したと報告し、14%は症状があるふりをした。

ディバイン助教授はまた、治験常習者に臨床試験の参加資格を得る方法をこっそり教える「臨床試験の胴元(Research “Kingpin”)」がいることを突きとめた。

「私たちの報酬が相場よりかなり高かったため、臨床試験の胴元は私たちの臨床試験に目を付けて、多くの人に勧めたのです。私たちは60ドル(約6千円)を払っていました。ところが、臨床試験の参加資格を得る方法を教えてもらうのに、治験希望者は、臨床試験の胴元(Research “Kingpin”) に40ドル(約4千円)を払わなければなりませんでした」。

ディバイン助教授が支払額を引き下げたら、すべての参加希望者は一夜で姿を消した。

ディバイン助教授によると、「一部の個人が臨床試験への登録を仕事としており、巧妙で、組織化されています。臨床試験の場所、登録状況、臨床試験基準を示したオンラインサイト「Just Another LabRat 」があるのです」。

「そのサイトのフォーラムでは、ずる賢い方法を使ってでも臨床研究に参加する方法をかなりオープンに話しています。それは秘密ではありません」。

多くの治験常習者は、臨床試験から締め出されることを心配している。フォーラムのモデレーターである「ヴァーク(Vark)」は、ヴェリファイド・クリニカル・トライアル社( Verified Clinical Trials :VCT)など、治験申請の嘘をチェックする企業には注意しろ、とフォーラムのメンバーに警告している。どの臨床試験を避けるべきかについてもメンバーにアドバイスしている。

《6》本当の頭痛

ヴェリファイド・クリニカル・トライアル社(VCT)の創設者のケリー・ウェインガード(Kerri Weingard、写真出典)は、治験者の14~25%が、臨床試験基準に違反する方法で登録申請していると推定している。

過去に特定の患者を対象とした臨床試験に登録した人が、次に健康者を対象とした臨床試験に登録していた。

例えば、1月に糖尿病患者を対象とした臨床試験に登録し、臨床試験が完了した同じ年の5月、今度は健康者を対象とした臨床試験に登録していた。この人にその事を指摘すると、「糖尿病はもう治った」と返事した。

嘘つき登録者は中枢神経系の臨床試験で大きな問題になっている。うつ病、統合失調症、双極性障害、パニック障害、不安についての臨床試験で、1つの病院でこれらの障害の1つがあると言う。そして、お金を稼ぐために、別の病院で、彼らは健康者としても登録する。

ウェインガードは、米国臨床精神薬理学会(American Society of Clinical Psychopharmacology)の2019年の講演で、113件の中枢神経系の臨床試験について調査した結果を発表した。

2016年8月~2019年3月に、ヴェリファイド・クリニカル・トライアル社(VCT)がスクリーニングした治験者の総数は、10,092人だった。

このうち、498人が登録基準に違反していた。498人のうち、91人がウオッシュ・アウト期間に違反し、45人が同じ病院の別の臨床試験の資格を得ようとし、25人が別の病院の別の臨床試験の資格を得ようとし、42人が複数の臨床試験に二重登録しようとした。

ウオッシュ・アウト期間=新薬の効能試験等で、それまで投与されていた薬の効果の影響を避けるために設けるその薬の投与中止期間(washout periodの意味・使い方|英辞郎 on the WEB:アルク

しかし、解決策がある。

シオビッツ医師は「CTSデータベース社(CTS)やヴェリファイド・クリニカル・トライアル社(VCT)などの治験登記簿を使えば、悪いリンゴを簡単に排除できます。5分もあればチェックできるので、時間のかかる侵襲的な検査の前に実行できます」と言う。

シオビッツ医師らは、「本当の頭痛:片頭痛の臨床試験における治験常習者(A Real Headache: Professional Subjects in Migraine Trials)」の研究で、片頭痛の臨床試験における治験常習者の影響を調査した。

片頭痛の臨床試験に応募してきたCTSデータベースの2,192人の治験者を特定した。約19%は18か月間にわたって別の病院に登録しようとした。24%が別の片頭痛の臨床試験に応募しようとした。残りの76%は、うつ病、統合失調症の臨床試験、それに健康なボランティアに応募した。

《7》純真 vs 極悪 

治験常習者の中に、意図的に嘘をついて臨床試験に参加する極悪人と、その真逆な、純真な人たちがいる。そして、両者ともに、多くの人が複数の臨床試験に同時に参加できないというルールを理解していない。

「私たちは治験希望者にインフォームド・コンセントの書類を渡しますが、その書類は20ページもあります。そして、すべての治験希望者に、その書類に記載したすべての規則を理解していることを期待しています」、とウェインガードは述べた。

「お金は、依然として一般的な動機ですが、一部の参加者は受けている治療に絶望して臨床試験に参加しています。アルツハイマー病の治験者はその代表例です」、とディバイン助教授やウェインガードは指摘する。

「人々は、自分や愛する人が抱えるこの致命的な病気を止めること、または、少なくとも遅らせる何かを見つけようと必死です。疾患を抱えた患者は、自分の命を救える治療を求めて、複数の臨床試験に登録しようと数百キロを移動し、臨床試験で非プラセボのグループに入れる可能性を高めようとしています」と、シカゴのアルツハイマー協会の科学プログラムおよびアウトリーチのディレクターであるキース・ファーゴ博士(Keith Fargo、写真出典)は言います。

ウェインガードは米国臨床精神薬理学会(ASCP)の講演で、ある病院で双極性障害の臨床試験に登録した後、別の病院で同じ臨床試験に2回目の登録をしようと27キロ移動した患者の話をした。ヴェリファイド・クリニカル・トライアル社(VCT)はその患者に注意のフラグを立てた。

実は、なんと、その同じ患者が、さらに3番目の病院に車で行き、3回目の登録をしようとした。1日に合計60キロ移動して3つの治験に登録した。[白楽注、27キロや 60キロ ではなく、270キロと600 キロの間違いではないかと思う]

一方、一部の治験者は、昔ながらの姑息な方法を使っている。

「ずる賢い治験常習者にとっては非常に簡単な方法です。姉の身分証明書(ID)を持って病院に行くのです。姉は実在の人物で、姉妹はよく似ています。妹は2つの臨床試験に参加でき、姉の代役をしている妹だということは誰にもバレません」、とウェインガードは明かした。

「偽の身分証明書(ID)で50~100ドル(約5千~1万円)を受け取り、さらに、2000~2500ドル(約20万~25万円)を貰える臨床試験に登録できるので、それは間違いなく、得します」とディバイン助教授は指摘する。

《8》テクノロジーが事態を救う? 

一部の研究者は、人工知能(AI)やバイオメトリクスなどの高度なテクノロジーを使用して、治験常習者が臨床試験に登録するのを最小限に抑えることを提案している企業に目を向けている。

人工知能を組み込んで高度なデータ分析を行うエイアイ・キュアー社(AiCure)のアマンダ・ペイリー戦略的臨床研究部長(Amanda Paley、写真出典)は、「患者データのリモートキャプチャを可能にするAIテクノロジーなどのデジタルテクノロジーは、臨床試験をスピードアップし、データの品質を改善し、患者の行動、病院外での治療に患者がどう反応するかの理解を大幅に強化できる。そのために、多くの製薬会社が弊社をどんどん利用するようになってきています」、と述べた。

ペイリー部長は、業界の固有の問題である治験常習者の虚偽登録に対処できると指摘する。

ディバイン助教授は次のように主張している。

「個々の企業が解決法を提供していますが、しかし、一元化された治験者データベースがありません。臨床試験の分野ではそのデータベースを本当に必要としています。臨床試験を ClinicalTrials.govに登録する必要があるのと同様に、治験者にも全国的な集中型データベースに登録させる必要があります」。

「それは、政府が国民を監視するような(Big Brother-ish)システムのように聞こえるかもしれません。なぜなら、虚偽登録を防ぐために生体認証で人々を追跡するからです。とはいえ、情報の質について考えてみてください。治験者の情報は命を救うかどうかの情報です。多くの嘘つき治験常習者が臨床試験に登録している現状は、臨床試験を危険にさらしています。これからも、本当に危険にさらしたままでいいのでしょうか?」。

「バイオメトリクスは、おそらく治験常習者に関連する問題のいくつかを解決できる賢い方法です。たとえば、治験常習者を識別しフラグを立てるのに役立つ指紋スキャンがあります。1人の患者が同時に複数の臨床試験に登録するのを防ぐのは、臨床試験の質を保護するだけでなく、患者の健康も保護します」。

「たとえば、実際に自分が病気なら、臨床試験に参加して病気が治る利点がある反面、副作用のリスクがあります。しかし、病気にかかっているふりをしている参加者は、副作用のリスクを相殺する臨床的利益はありません」。

ウェインガードは、複数の臨床試験に参加した治験者が、副作用、重篤な有害事象、さらには死亡したこともある点で、ディバイン助教授に同意している。

治験常習者の虚により、患者の変化が、特定の単一の薬剤または薬物相互作用によって引き起こされたのかどうかを判断できなくなる。

治験常習者は、実際にはまったく薬を飲まないのに、服薬規則を順守したと報告することで、臨床試験を歪めることになる。結局、薬の効果とプラセボの効果を対比できなくなってしまう。

《9》パンドラの箱 

国立薬物乱用研究所(National Institute on Drug Abuse)のデイヴィッド・マッキャン博士(David McCann、写真出典)は、「成功確約の治験者(destined to succeed)」と呼ぶ別の種類の治験者がいるという。

「成功確約の治験者」は、病気のふりをして臨床試験に登録し、臨床試験が始まるとすぐに、病気が治ったと報告する。

彼らは、病気が治るのは、病気のふりをするより簡単だという。

多くの論文は、治験常習者の30%が指示に従った服薬をしていないと報告している。臨床試験の医師に忖度して治療効果を過大に報告する人々は、臨床試験で収集しているデータを歪めている。

臨床試験の医師がこのような臨床試験のデータを見たとき、薬の効果を誤解し、将来の患者を危険にさらす。さらに、そのような誤った結果は、臨床試験が失敗する原因となり、場合によっては、本当に有効な薬の承認が得られず、市場に出る邪魔をする。

ペイリーは、「これらの治験者は意図的に薬効を過大に報告しています。これはデータの公正を妨げるだけでなく、試験結果の誤った解釈につながり、将来の患者を危険にさらす可能性があります。また、それは臨床試験が失敗する原因となり、成功する可能性のある薬だったかもしれないものの進歩を妨げています」、と指摘した。

ウェインガードは、「現在、オンラインで臨床試験の登録をすることが検討されていて、今まで述べた問題がすべて解決しても、新たに別の危険が生まれてくる」。

「臨床試験は、今後2〜3年以内にバーチャル臨床試験に大幅に移行することが予定されています。医師はリモートでビデオで参加者と話し、臨床試験に関するすべてが自宅に発送されます。このとき、治験者は病院に来る必要はありません。事実上すべてを自宅で行なえます。複数の臨床試験への登録を防止または最小限に抑える措置が講じられない場合、「パンドラの箱」が開きます」と、指摘する。

《10》コメント欄 

この論文のコメント欄に数十のコメントがあった。

1つだけ紹介する。

ブリアナ・コスタレス(Brianna Costales)| 医学生2020年7月18日

私は中枢神経系(CNS)の臨床試験で2年間働いていましたが、特に統合失調感情障害/情動試験の臨床試験で治験常習者の問題は常に起こりました。彼らはキャリア患者(career patients)と呼ばれ、頭がいいのです。 彼らは重症複合免疫不全症(SCID)やその他の病気の診断ツールを記憶していて、質問に対して正しく答える方法を知っていました。

ただ、困ったことに、スポンサー/研究主幹は、実際は、キャリア患者を好むのです。というのは、キャリア患者は定められた服薬規則を守るので、臨床試験を完璧に遂行できるのです。そして、スポンサー/研究主幹にとって本当に重要なことは、結局のところ、臨床試験のデータの質ではなく、臨床試験を完璧に遂行することなのです。

●5.【関連情報】

●本論文の内容と類似の論文(だと思う。白楽未読):臨床研究の参加者(治験者)の嘘

  1. Participant carelessness and fraud: Consequences for clinical research and potential solutions.
    Chandler J, Sisso I, Shapiro D.
    J Abnorm Psychol. 2020 Jan;129(1):49-55. doi: 10.1037/abn0000479.
  2. A new job: research volunteer?
    Zanini GM, Marone C.
    Swiss Med Wkly. 2005 May 28;135(21-22):315-7.
  3. Threats of Bots and Other Bad Actors to Data Quality Following Research Participant Recruitment Through Social Media: Cross-Sectional Questionnaire
    Pozzar R, Hammer MJ, Underhill-Blazey M, Wright AA, Tulsky JA, Hong F, Gundersen DA, Berry DL
    J Med Internet Res 2020;22(10):e23021
    DOI: 10.2196/23021

●臨床研究で利益相反という論文(だと思う。白楽未読)

  1. Conflict of interest in clinical research.
    Ghooi RB.
    Perspect Clin Res. 2015 Jan-Mar;6(1):10-4. doi: 10.4103/2229-3485.148794.
  2. What to do with a clinical trial with conflicts of interest
    Lundh ABoutron IStewart L, et al

●6.【白楽の感想】

《1》治験システム 

白楽ブログは、論文でのネカト・クログレイを中心に扱っている。つまり研究者のネカト・クログレイ行為である。

しかし、本論文で明かされたように臨床研究で治験者が嘘をついたら、ネカト・クログレイどころではない。多くの論文は、治験常習者の30%が指示に従った服薬をしていないと示唆している。

妻にこの話したら、妻の知人の知人が、治験の話をしていて、「もらった薬を飲まなきゃいいのよ」「報告書は適当に書けばいいのよ」、と言っていたとのことだ。

現在の治験システムって、とても、危うい。

《2》日本の治験 

日本の治験システムは、どうなっているのだろう。

治験募集サイトがいくつもある:治験募集サイト – Google 検索

米国のオンラインサイト「Just Another LabRat 」と比較していないが、望ましくないサイトもありそうだ。

バイト気分で治験に参加しようとする人がいる。
 → 謝礼20万円に惹かれ「治験ボランティア」に出向いた妻たちの困惑 | 医療ジャーナリスト 木原洋美 | ダイヤモンド・オンライン

ただ、「治験参加者のデータは臨床試験受託事業協会で共有されている」ので休薬期間や複数治験などで嘘をついても、スグばれるとある。ただし、実際は、全部の臨床試験が臨床試験受託事業協会に登録されているわけではない。
 → 休薬期間をごまかして治験を受けることはできるのか? | 123ish 日本
 → 臨床試験受託事業協会

日本でも治験者の嘘が問題視されている。

というわけで、臨床試験のデータはあまり信用できません。早急にまともなシステムを構築すべきです。

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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●8.【コメント】

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