盗博:社会学:サナア・エルアジ(Sanaa El Aji、سناء العاجي)(モロッコ)

2021年8月2日掲載 

ワンポイント:エルアジはモロッコの有名なジャーナリストで社会活動家である。2016年(39歳)、性科学の論文でフランスのエクス=マルセイユ大学(Università di Aix-Marseille)の研究博士号(PhD)を取得した。2018年(41歳)、モロッコを代表する性科学者のアブデッサマド・ダイアルミー(Abdessamad Dialmy)がエルアジの博士論文はダイアルミーのアイデアを盗用していると、Facebookで訴えた。大学はネカト調査していない。エルアジは盗用を否定したまま現在に至る。無処分。アイデアの盗用は証明が難しい。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

サナア・エルアジ(Sanaa El Aji、سناء العاجي、写真出典)は、モロッコのジャーナリストであり、小説家であり、社会活動家である。専門は社会学(性科学)である。

2016年7月10日(39歳)、サナア・エルアジ(Sanaa El Aji)は、フランスのエクス=マルセイユ大学(Università di Aix-Marseille)で研究博士号(PhD)を取得した。

博士論文は「モロッコのセクシュアリティと独身:実践と言語化(Sexualité et Célibat au Maroc : Pratiques et Verbalisation)」で、性科学である。

2018年(41歳)、モロッコを代表する性科学者のアブデッサマド・ダイアルミー(Abdessamad Dialmy)がエルアジの博士論文はダイアルミーのアイデアを盗用していると、Facebookで訴えた。

エクス=マルセイユ大学はネカト調査していない。従って、無処分。

エルアジは盗用を否定したまま現在に至る。

アイデアの盗用は証明が難しい。

フランスのエクス=マルセイユ大学(Università di Aix-Marseille)。写真出典

  • 国:モロッコ
  • 成長国:モロッコ
  • 研究博士号(PhD)取得:フランスのエクス=マルセイユ大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:1977年4月2日
  • 現在の年齢:44 歳
  • 分野:社会学(性科学)
  • 不正論文発表:2016年(39歳)
  • 発覚年:2018年(41歳)
  • 発覚時地位:「Nichane」誌・記者
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は被盗用者のアブデッサマド・ダイアルミー(Abdessamad Dialmy)で、Facebookで訴えた
  • ステップ2(メディア):「Morocco World News」、他
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①調査していない
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
  • 大学の透明性:調査していない(✖)
  • 不正:アイデアの盗用
  • 不正論文数:博士論文と他に少し
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:事件後に発覚時の地位を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Cécile Sabatier

  • 1977年4月2日:カサブランカ(モロッコ)生まれ
  • 2002年(25歳):フランスのリール大学 (Université de Lille)で学士号取得:商学
  • 2009年(32歳):フランスのパリ第8大学 (Université Paris 8)で修士号取得:社会科学
  • 2016年7月10日(39歳):フランスのエクス=マルセイユ大学(Università di Aix-Marseille)で研究博士号(PhD)を取得
  • 2018年6月(41歳):盗博と指摘された

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
「サナア・エル・アジ」と紹介。
監視カメラ動画:「サナア・エル・アジによる本『セクシュアリティと独身』の2Mでの発表(Présentation du livre “Sexualité et Célibat” de Sanaa El Aji sur 2M) – YouTube」(フランス語)2分40秒。
Sanaa Elajiが2017/10/31 に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★優秀なジャーナリスト・社会活動家

以下の記述の主な出典はココ。 → Sanaa El Aji – Wikipedia

1977年、サナア・エルアジ(Sanaa El Aji、写真出典)にカサブランカで生まれた。ささやかな労働者階級の10人兄弟の最初の子供だった。

エルアジは、20代、フランス語の雑誌「TelQuel」のモロッコ・アラビア語版である「Nichane」誌でジャーナリストとしてのキャリアを開始した。

2006年9月~2010年10月(29 ~33歳)、週刊コラム「Batoul」で、社会的慣習に反対して離婚した若い女性の経験を記事にした。

2006年(29歳)、モロッコのユーモアに焦点を当てた記事の1つで、エルアジが引用したジョークのいくつかが宗教的感性を傷つけたと非難され、スキャンダルになった。

エルアジと編集長は、イスラム教を軽蔑したとしてカサブランカの裁判所から3年の刑を言い渡された。その後、刑の執行は停止されたが、これらのことは、全国向けテレビで放送されたので、2人は殺害の脅迫を受けた。エルアジは、公式に謝罪し、宗教的感受性を傷つけ意図はなかったと述べた。

その後、数年間、エルアジはさまざまなモロッコの出版物に執筆を続け、アラビア語の新聞「Al Ahdath AlMaghribia」のコラムを編集した。

2016年7月10日(39歳)、エルアジは、フランスのエクス=マルセイユ大学(Università di Aix-Marseille)博士号を取得した。博士論文は「モロッコのセクシュアリティと独身:実践と言語化(Sexualité et Célibat au Maroc : Pratiques et Verbalisation)」である。

なお、エクス=アン=プロヴァンス政治学院(Institut d’Études Politiques (IEP) d’Aix-en-Provence)のラファエール・リオジエ教授(Raphaël Liogier)のもとで、博士号を取得した、という記述もある。 → theses.fr – Sanaa El Aji

この場合、博士論文は「モロッコの婚前交渉:表現、言語化、慣行、性別による社会化(Sexualité préconjugale au Maroc : représentations, verbalisation, pratiques et socialisation genrée)」である。

盗博の本旨に影響ないので、本記事では、エクス=マルセイユ大学(Università di Aix-Marseille)で取得の説を主に採用した。

イスラム教徒が99%でイスラム教が国教、15歳以上の女性の識字率は64.6% (2018年)というモロッコで(Morocco – The World Factbook)、「モロッコのセクシュアリティと独身」や「モロッコの婚前交渉」という博士論文は、タイトルからして過激である。

博士論文に基づいて、エルアジは本を出版した。

処女と既婚女性に関するエルアジの本はモロッコで有名になった。また関連する論説は、エルアジの熱狂的なファンと激しく批判する批評家の対立もあり、モロッコ社会の注目を集めている。

エルアジは、性的自由を支持するジャーナリストであり、小説家であり、社会活動家である。

https://www.maroc-hebdo.press.ma/sexualite-celibat-maroc-de-sanaa-el-aji

★発覚の経緯

1985年、モロッコを代表する性科学者のアブデッサマド・ダイアルミー(Abdessamad Dialmy — Wikipédia、1945年頃生まれ)は、性科学の学術的調査をモロッコで最初に本格的に行ない、著書「Women and Sexuality in Morocco」に記載した。

ダイアルミーは、モロッコの著名な社会学者で、州の医師、モハメッド5世ラバト大学教授、性的健康の国際コンサルタントである。

そして、2018年6月10日(41歳)、73歳のダイアルミーは、エルアジの論文・著書は研究公正と学問的厳密さが欠けていると、Facebookで非難した。 → Abdessamad Dialmy | Facebook

特にエルアジの博士論文(2016年)は彼のアイデアや理論が引用されずに多数使われていて、盗用(盗博)だと非難した。

以下の写真(出典)の左がアブデッサマド・ダイアルミー(Abdessamad Dialmy)。右がサナア・エルアジ(Sanaa El Aji)

جائزة تشعل صراعا بين العاجي والديالمي حول “الجنس” 

盗博は未発表の本を彼女に渡したことが端緒だったろうとダイアルミーは推察している。

エルアジが有名なジャーナリストだったので、彼女に宣伝してもらうために、ダイアルミーは、未発表の本を彼女に渡したことがあった。

ところが、エルアジはダイアルミーの本を宣伝する代わりに、ダイアルミーのアイデアを自分のアイデアのように論文・著書で使用したと彼は説明した。

彼のアイデアを意図的に使用しているのに、エルアジは、彼女の博士論文でダイアルミーの名前・論文を言及しなかったので、盗博になったと非難した。

ダイアルミーがアイデアの盗用だと指摘した性科学の用語・概念は、エルアジは、ミシェル・フーコーのセクシュアリティと暴力に関する論文に触発されたとFacebookで反論した。

エルアジは、例えば、「ブリコラージュ・セクシュエル(bricolage sexuel)」という用語・概念はダイアルミーの所有するアイデアだと言えない、と主張した。

そして、ダイアルミーの盗用という主張を「根拠のないもの」として却下した。

なお、モロッコ社会は、「性生活の社会学」という新たな分野で2人の主要人物が論争しているのを歓迎していない。

モロッコにおける性科学の社会学研究の新世代としてエルアジの台頭を認めながら、ダイアルミーの投稿へのコメントのほとんどは、エルアジに否定的で、尊敬される学者にふさわしくないと、モロッコの多くの社会学者はコメントしていた。

学者として確立し、経験もあるのに「エルアジの成功による自分の不安と嫉妬」でダイアルミーが盗博だとの騒いでいると、コメントする人もいた。

【盗用の具体例】

アブデッサマド・ダイアルミー(Abdessamad Dialmy)が、Facebookで詳細に記述している。 →  Abdessamad Dialmy | Facebook

以下に一部を貼り付けた。出典 → https://www.facebook.com/profile/100027966147240/search?q=El%20Aji

内容が複雑で読むのが面倒だ。しかし、読んだところで、アイデアの盗用を証明するのは難しい。それで、白楽は、ほとんど読んでいません。

エルアジは論文・著書で使用している性科学の用語・概念はミシェル・フーコーの論文から刺激を受けたと反論している。

となると、ミシェル・フーコーの論文も含め、性科学のどの学者がどのアイデア(用語・概念)をいつ発信したのかを把握しないと、アイデア(用語・概念)の盗用かどうか判定できない。

つまり、白楽は盗用かどうか判定できない。

それで、省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

省略

★撤回監視データベース

2021年8月1日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでサナア・エルアジ(Sanaa El Aji)を「Sanaa El Aji」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2021年8月1日現在、「パブピア(PubPeer)」では、サナア・エルアジ(Sanaa El Aji)の論文のコメントを「Sanaa El Aji」「El Aji」「ElAji」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》アイデアの盗用 

アイデアの盗用を証明するのは難しい。

とはいえ、博士号を授与したフランスのエクス=マルセイユ大学は調査すべきだろう。調査に乗りださないのは、どういうことだろう?

モロッコで大騒ぎでもフランスの大学は知りません、ということなのだろうか?

急に日本の話になるが、研究公正活動に熱心で、「撤回監視(Retraction Watch)」に日本のネカト事件を伝え、ブログ「社会 – 世界変動展望」を運営する世界変動展望さんは、日本の大学にネカトを告発しても無視されるケースがソコソコあると嘆いている。日本の大学もコマッタもんです。

《2》改革の闘士

モロッコはイスラム教徒が99%でイスラム教が国教、15歳以上の女性の識字率が64.6% (2018年)という国である(Morocco – The World Factbook)。

このような国が大きく前進するには、サナア・エルアジ(Sanaa El Aji)のような過激なジャーナリストで、国民の人気が高い社会活動家が必要なんだろう。

いずれ、大統領になるのかな?

サナア・エルアジ(Sanaa El Aji)。写真出典

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア・イタリア語版:Sanaa El Aji – Wikipedia
② 2018年6月12日のタンバ・カンドゥノウ(Tamba François Koundouno)記者の「Morocco World News」記事:Clash between 2 Leading Moroccan Sexologists Over Plagiarism Accusations
Clash entre sexologues au Maroc: rixe entre Dialmy et Sanaa El Aji sur fond de plagiat | www.le360.ma
④ 2018年6月17日記事:جائزة تشعل صراعا بين العاجي والديالمي حول “الجنس” – الأخبار جريدة إلكترونية مغربية مستقلة
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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