「ズサン」:ルーベン・ヘルツォーク(Rubén Herzog)(チリ)

2023年1月10日掲載 

ワンポイント:ヘルツォークはバルパライソ大学・院生である。「2020年10月のSci Rep」論文出版後にオランダのアムステルダム大学・院生のポール・ロッダー(Paul Lodder)に論文原稿のタイプミスを指摘され、2022年9月15日(28歳?)、論文は撤回された。この事件は、「撤回監視(Retraction Watch)」が「善行」と認定した。国民の損害額(推定)は1千万円(大雑把)。2022年ネカト世界ランキングの「2」の「5」である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ルーベン・ヘルツォーク(Rubén Herzog、ORCID iD:?、写真出典)は、チリのバルパライソ大学(University of Valparaíso)・院生で医師免許は持っていない。専門は生物物理学と計算生物学である。

ヘルツォークが出版した「2020年10月のSci Rep」論文を、オランダのアムステルダム大学・院生のポール・ロッダー(Paul Lodder)は再現できなかった。

理由を調べると、論文原稿のタイプミスが見つかった。

タイプミスを訂正すると、論文が記載した結果と異なる結果になった。

それで、2022年9月15日(28歳?)、「2020年10月のSci Rep」論文は撤回された。

この事件は、「撤回監視(Retraction Watch)」が「善行」と認定した。

2022年ネカト世界ランキングの「2」の「5」である。

バルパライソ大学(University of Valparaíso)。写真出典

  • 国:チリ
  • 成長国:チリ
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1994年1月1日生まれとする。「2020年10月のSci Rep」論文を院生の26歳の時に出版したと仮定した
  • 現在の年齢:30歳?
  • 分野:生物物理学と計算生物学
  • ズサン論文発表:2020年(26歳?)
  • ズサン行為時の地位:バルパライソ大学・博士院生
  • 発覚年:2022年(28歳?)
  • 発覚時地位:バルパライソ大学・博士院生
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はオランダのアムステルダム大学・院生のポール・ロッダー(Paul Lodder)
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。大学は調査していない
  • 大学の透明性:調査していない(✖)
  • ズサン:タイプミス
  • ズサン論文数:1報。撤回
  • 時期:研究キャリアの初期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1千万円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1994年1月1日生まれとする。「2020年10月のSci Rep」論文を院生の26歳の時に出版したと仮定した
  • xxxx年(xx歳):チリのチリ大学(University of Chile)で学士号取得:生物学
  • xxxx年(xx歳):同大学で修士号取得:生物学
  • xxxx年(xx歳):バルパライソ大学(University of Valparaíso)・博士院生
  • 2020年10月(26歳?):「2020年10月のSci Rep」論文を出版
  • 2022年(28歳?):上記論文原稿のタイプミスが見つかった
  • 2022年9月15日(28歳?):「2020年10月のSci Rep」論文の撤回

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

ルーベン・ヘルツォーク(Rubén Herzog)は、チリのバルパライソ大学(University of Valparaíso)・院生である。

ボスは、ロドリゴ・コフレ教授(Rodrigo Cofré、写真出典)で、本記事で問題にした論文を含め、ヘルツォークが出版した7論文中の4論文で共著者になっている。

★発覚と論文撤回

2020年10月(26歳?)、博士院生のルーベン・ヘルツォーク(Rubén Herzog)は、以下の「2020年10月のSci Rep」論文を出版した。

オランダのアムステルダム大学(Universiteit van Amsterdam)・院生のポール・ロッダー(Paul Lodder、写真出典)は、サイケデリック薬を服用したときに脳内で何が起こるかについて、ヘルツォークの論文が記載しているモデルをさらに発展させたいと考えた。

ところが、ロッダーは、ヘルツォークの「2020年10月のSci Rep」論文の結果を再現できなかった。

ロッダーは、チリのヘルツォークに状況を伝え、論文の元のコードを教えてもらった。再現できない理由を色々調べ、結局、論文原稿のタイプミスが見つかった。

このタイプミスを修正すると、論文の結果が変わってしまった。

そのことをヘルツォークに伝えると、ヘルツォークは論文撤回を要請し、2022年9月15日(28歳?)、「2020年10月のSci Rep」論文は撤回された。

ヘルツォークはコードを修正して新しい論文として出版する予定だそうだ。その時は、ロッダーを共著者にすると述べている。

なお、2023年1月9日現在、ロッダーが共著者になったヘルツォークの論文は出版されていない。

【ズサンの具体例】

撤回された論文は「2020年10月のSci Rep」論文の1報だけで、「ズサン」な点は、コードのタイプミスだった。

どのようなタイプミスだったのか、具体的な記述はないので、本記事では省略する。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2023年1月9日現在、パブメド(PubMed)で、ルーベン・ヘルツォーク(Rubén Herzog)の論文を「Rubén Herzog[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2018~2022年の5年間の7論文がヒットした。

2023年1月9日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2020年10月のSci Rep」論文・1論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年1月9日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでルーベン・ヘルツォーク(Rubén Herzog)を「Rubén Herzog」で検索すると、本記事で問題にした「2020年10月のSci Rep」論文・1論文が2022年9月15日に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2023年1月9日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ルーベン・ヘルツォーク(Rubén Herzog)の論文のコメントを「”Rubén Herzog”」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》違和感 

「撤回監視(Retraction Watch)」がヘルツォーク事件を「2022年の論文撤回上位」の第5位に選んだ理由は、「善行」だからだと思うが、白楽は違和感がある。

ルーベン・ヘルツォーク(Rubén Herzog、写真出典)の「2020年10月のSci Rep」論文はさほど重要な論文ではない。ヘルツォークは院生で、学術界での影響力は小さい。

論文原稿のタイプミスで論文結果が再現できなかった。それで論文は撤回されたが、このことに特別な意味はない。

タイプミスを指摘したオランダのアムステルダム大学・院生のポール・ロッダー(Paul Lodder)も、特別に活躍したわけではない。ミスを指摘したのは普通の行為である。

「撤回監視(Retraction Watch)」がこの事件を「善行」と認定したが、それに異論はない。

「2022年の論文撤回上位」の第5位に選んだ理由は明記されていないが、「善行」だからだと思う。ただ、第5位に選ぶほどの「善行」事件かと言われると、違和感がある。

学術界でこの程度のミスの指摘受け入れを「善行」とはやし立て、その年のランキングの第5位にするほど、米国(世界)の研究者はミスの指摘を受け入れないのだろうか?

学術界は累々たるミス(間違い)を正しい事実で上書きし、それを積み重ねて、「知の体系」を構築してきた。ミスの指摘を受け入れるのは、研究者としては当たり前の慣行だと、白楽は思うのだが・・・。

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●9.【主要情報源】

① 2022年10月6日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:A grad student finds a ‘typo’ in a psychedelic study’s script that leads to a retraction – Retraction Watch
② 2022年10月11日のポール・ロッダー(Paul Lodder)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:‘A display of extreme academic integrity’: A grad student who found a key error praises the original author – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●コメント

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