「ネカト」と犯罪「殺人未遂」:ヘンジュン・チャオ、晁恒軍(Hengjung Chao)(米)

2020年5月12日掲載  

ワンポイント:ネカトと判定された報復に、殺人(未遂)事件を起こした珍しいケース。チャオは中国で医師免許と研究博士号(PhD)を取得後、渡米し、マウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)・助教授になった。2009年4月(42歳)、ネカトと結論され、その後、解雇された。中国に帰国したが、再渡米し、2016年8月29日(49歳)、ネカト調査と解雇を主導したデニス・チャーニー医学部長(Dennis S. Charney、65歳)に散弾銃で15発発砲した。チャーニー医学部長は一命をとりとめたので、殺人未遂だが、2017年8月9日(50歳)、チャオは、裁判所から懲役28年の刑を宣告された。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

Hengjun Chao Credit: Westchester County DA

ヘンジュン・チャオ(晁恒軍、Hengjung Chao、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のマウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)・助教授で医師である。専門は血液学。

チャオは中国で医師免許と研究博士号(PhD)を取得後、1997年(30歳)に渡米し、ノースカロライナ大学チャペルヒル(University of North Carolina)・ポスドクになった。

2002年(35歳)、渡米5年後、マウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)・助教授になった。

2007年(40歳)、ポスドクのエレン・コーン(女性、Ellen Cohn)との間にデータねつ造騒動を起こした。

2009年4月(42歳)、マウントサイナイ医科大学・ネカト調査委員会はチャオにネカトがあったと結論した。

その後、マウントサイナイ医科大学はチャオを解雇した。

チャオは不当解雇だと裁判所に訴えたが、敗訴した。控訴審でも敗訴した。

2012年(45歳)頃、中国に帰国し、それなりの成功を収めた。

2016年8月29日(49歳)、しかし、再渡米し、ネカト調査と解雇を主導したデニス・チャーニー医学部長(Dennis S. Charney、65歳)を射殺しようと散弾銃で15発発砲した。

チャーニー医学部長は一命をとりとめたので、殺人未遂だが、2017年8月9日(50歳)、裁判所から懲役28年の刑が宣告された。

2020年5月11日(53歳)現在、米国の刑務所で服役中。

1280px-SinaiMedマウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)。”SinaiMed” by Homieg340 – Own work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Commons – 写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:中国
  • 医師免許(MD)取得:中国の湖南医科大学
  • 研究博士号(PhD)取得:中国の中国協和医科大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1966年12月。仮に1966年12月31日生まれとする。中国河南省紀元市出身
  • 現在の年齢:54 歳?
  • 分野:血液学
  • 最初の不正論文投稿:2007年(40歳)
  • 不正論文投稿:2007年(40歳)
  • 発覚年:2007年(40歳)
  • 発覚時地位:マウントサイナイ医科大学・助教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)の研究公正局への公益通報
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①マウントサイナイ医科大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あり。https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2016/08/sinai-investigation.pdf
  • 大学の透明性:実名報道で調査報告書(委員名付き)がウェブ閲覧可(◎)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:ネカト事件後に移籍し研究職を続けた(◒)
  • 処分:ネカト事件では解雇
  • 日本人の弟子・友人:不明

【殺人未遂事件】

  • 国:米国
  • 実行年月日:2016年8月29日(49歳)
  • 実行場所:ニューヨーク州のチャッパクア(Chappaqua)にあるランゲス・デリ(Lange’s Deli)の店の前
  • 実行:散弾銃(ショットガン)で15発発砲
  • 実行時地位:中国の研究所・研究員? 無職?
  • 被害者:デニス・チャーニー医学部長(Dennis S. Charney、65歳)と通行人1人
  • 被害者数:2人
  • 被害状況:チャーニー医学部長は一命を取りとめた、通行人1人も生存
  • ステップ1(発覚):現行犯逮捕
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」、多数のメディア
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①裁判所
  • 不正:殺人未遂
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:
  • 処分:28年刑務所

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:華裔醫學專家槍殺前雇主 種族歧視惹墑禍? – 萬維讀者網

  • 生年月日:1966年12月。仮に1966年12月31日生まれとする。中国河南省紀元市出身
  • 19xx年(xx歳):中国の湖南医科大学(現・中南大学Central South University)で学士号取得、医師免許取得
  • 19xx年(xx歳):中国医科大学血液研究所の血液学病院に配属
  • 19xx年(xx歳):中国の中国協和医科大学(現・北京協和医学院Peking Union Medical College)で研究博士号(PhD)を取得:血液学
  • 1997年(30歳):米国のノースカロライナ大学チャペルヒル(University of North Carolina)・ポスドク
  • 2002年(35歳)時点:同・助教授:New gene therapy treatment works in mice with hemophilia A
  • 2002年(35歳):マウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)・助教授
  • 2007年(40歳):ネカト疑惑が発生
  • 2009年4月(42歳):調査委員会はネカトでクロと判定
  • 2009年5月(42歳)または2009年11月19日(42歳)または2010年(43歳):マウントサイナイ医科大学・解雇
  • 2009年11月19日(42歳)または2010年(43歳):不当に解雇されたとマウントサイナイ医科大学とチャーニーなどを裁判所に訴えた
  • 2010年(43歳):連邦裁判所はチャオの主張を却下した。チャオは控訴した
  • 2012年(45歳):控訴裁判所は連邦裁判所の決定を支持した
  • 2012年(45歳)頃:中国に戻り、江蘇省徐州医科大学の付属病院で働く
  • 2013年(46歳):江蘇省高水準イノベーションおよび起業家人材紹介プロジェクトに選ばれ、100万ウォン(約890万円)の財政的支援を受けた
  • 2016年8月29日(49歳):米国・ニューヨーク州で殺人未遂。逮捕
  • 2017年6月5日(50歳):米国の裁判所で懲役28年と判決
  • 2020年5月11日(53歳)現在:米国の刑務所で服役中

●3.【動画】

【動画1】
「Hengjung Chao」を「ヘンジュン・チャオ」と発音している。
ニュース動画(英語)2分3秒。
サイト → Tuckahoe man found guilty in Chappaqua shooting

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★殺人未遂

2016年8月29日の朝7:56、デニス・チャーニー医学部長(Dennis S. Charney、65歳、写真出典)は故郷のニューヨーク州のチャッパクア(Chappaqua)にあるランゲス・デリ(Lange’s Deli)でいつものように朝食をとった。

朝食後、ランゲス・デリを出たところ、銃撃された。

撃ったのはヘンジュン・チャオ(Hengjung Chao)(49歳)だった。

チャオは、ネカトで2010年にチャーニーに解雇されたマウントサイナイ医科大学(Icahn School of Medicine at Mount Sinai)の医学研究者だった。

右側赤矢印が狙撃犯のチャオ。左の黄色×印が狙撃されたチャーニー医学部長。出典:Tuckahoe man found guilty in Chappaqua shooting

監視ビデオによると、朝7時ごろ、チャオは赤のトヨタ・カローラでランゲス・デリまで走り、店のそばに車を停めて、チャーニーが来るのを待っていた。

すると、いつものように、ランゲス・デリ(Lange’s Deli)で朝食をとろうとやってきたチャーニーは店の入口ドアを開けて入っていった。

店に入ったのを確認してから、チャオはトヨタ・カローラから、20ゲージの散弾銃(ショットガン、20-gauge shotgun)を取り出した。そして、朝食を終えて出てくるチャーニーを待っていた。すべてが計画どおりだった。

何も知らないチャーニーは、いつものように、食事を終えてデリから出たところ、散弾銃の銃弾の嵐を浴びた。チャーニーの後ろを偶然通った通行人も、銃撃に巻き込まれ、負傷し、転倒した。

目撃者のリチャード・マイヤーによると、少なくとも15発の発砲があった。

事件後確認すると、店のドアに8発から9発の銃弾の穴が残っていた(写真出典:Tuckahoe man found guilty in Chappaqua shooting)。

チャオは全体を通して非常に穏やかに行動したようだ。射撃後、車に戻り、銃を下に置き、警察が到着するのを静かに待っていた。

警察が到着し、チャオを逮捕し、彼の車の中に散弾銃(ショットガン)を見つけた。以下の写真は、チャオが使用した散弾銃(ショットガン)を検察が裁判で示しているところ(写真出典:Tuckahoe man found guilty in Chappaqua shooting)。

撃たれたデニス・チャーニーは何とか一命はとりとめた。病院に運ばれ、5日間の治療で退院できた。

2017年6月5日(50歳)、チャオの裁判が始まり、その8日後に、ホワイトプレーンズのウェストチェスター・カウンティ裁判所(Westchester County Court)は殺人未遂等で有罪とした。

2017年8月9日(50歳)、裁判所はチャオに懲役28年の刑を宣告した。 → 2017年8月9日記事:Sentence In Chappaqua Revenge Shooting | Chappaqua, NY PatchAug 9, 2017

写真出典https://www.dailymail.co.uk/news/article-3763658/Gunman-shoots-two-people-outside-one-Clintons-favorite-delis-mile-family-home.html

なお、殺人未遂現場のランゲス・デリ(Lange’s Deli)はクリントン夫妻(Bill and Hillary Clinton)の自宅に近く、夫妻のお気に入りレストランだった。そのこともあって、この事件にクリントン夫妻が登場する。

【ネカト発覚の経緯と内容】

★ネカトでクロ

上記殺人未遂事件の10年前にネカト事件が起こった。

ヘンジュン・チャオ(Hengjung Chao、写真出典)は中国で医師免許を取得し、1997年(30歳)に米国のノースカロライナ大学チャペルヒル(University of North Carolina)・ポスドクに就任した。

2002年(35歳)、チャオはマウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)の助教授に採用された。

2007年9月(40歳)、チャオは研究室のポスドクのエレン・コーン(女性、Ellen Cohn)との間にデータねつ造騒動を起こした。

問題の論文は「2006年11月のBlood」論文(American Society of Hematology Meetingのポスター発表要旨)、または「2007年のJ Thromb Haemost.」論文と思われる。2020年5月11日現在、両方とも撤回されていない。

最初、ポスドクのエレン・コーン(女性)がチャオがデータねつ造しているとマウントサイナイ医科大学に告発した

しかし、話は単純ではなく、その告発は、ポスドクのエレン・コーン(女性)はチャオのイジメで研究室を辞めたが、その腹いせに、告発した。かどうかはっきりしないが、少なくとも、マウントサイナイ医科大学の上層部は腹いせと受け止めた。

しかし、告発されれば、調査するのが真っ当な対処である。

デニス・チャーニー医学部長(Dennis S. Charney)は、事件を調査するために調査委員会を設置した。

調査委員会は、マレク・ムロジク教授(Marek Mlodzik、写真出典)を委員長とし、計5人の委員で構成された。一部の報道はチャーニー学部長も委員の1人と報道しているが、チャーニー学部長は委員ではなかった。

調査委員会は、実験室のノートブックとハードドライブを調べ、生データを調べ、関係した研究者にインタビューした。

2009年4月(42歳)、1年の調査の後、調査委員会は、一部の申し立ては、古典的な「言った-言わない」論争としたが、チャオのネカトの証拠も見つけた。

その証拠とは、データを別の実験室のマウスのデータと交換するようにポスドクに伝えた電子メールが見つかった。調査委員会は、これを明白なネカトの証拠とした。

調査委員会はまた、チャオの投稿原稿にデータを意図的に削除した深刻な改ざんも見つけた。チャオは、委員会が指摘するまで問題に気付いていなかったと弁明した。

調査委員会は、「全体として、チャオが防御的で、プロトコルと生データを著しく無視し、記憶がいい加減だった」とした。また、「論文発表のために、ずさんなデータ、選択したデータ、ねつ造・改ざんしたデータを使用する意思があった」と結論した。

元・ポスドクのエレン・コーン(女性)もまた、データねつ造・改ざんしたと結論した。

なお、その後、マウントサイナイ医科大学の調査報告書を受け取った研究公正局(ORI)は、チャオのネカト行為を調査しないと決定している。研究公正局(ORI)の元・調査官・アラン・プライス(Alan Price)の説明では、マウントサイナイ医科大学の調査報告書が不正確で、深刻な欠陥があり、著しくチャオを不当に扱っていると判断したからだ。

以下は2009年4月xx日のマウントサイナイ医科大学の調査報告書(ファイルは2010年5月27日)の冒頭部分(出典:同)。全文は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2016/08/sinai-investigation.pdf

2009年5月(42歳)、チャーニー学部長はチャオを解雇した(解雇は2009年11月19日という情報、2010年という情報もある)。この決定は、後に法廷で、またチャオの控訴後にも、マウントサイナイ医科大学・評議員会は解雇の承認を確認している。つまり、大学が公式に認めた解雇だった。

チャオは無実を主張し続けた。彼は内部調査で不当に扱われたと主張し、マウントサイナイ医科大学とチャーニーなどを裁判所に訴えた。また、チャオの解雇は中国人という人種差別に基づいている面があると繰り返し主張した。

2010年3月29日(43歳)、連邦裁判所はチャオの主張を却下した

以下は2010年3月29日の連邦裁判所書類(ファイルは2010年4月20日)の冒頭部分(出典:同)。全文は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2016/08/complaint.pdf

チャオは邦裁判所の決定に不満で、控訴裁判所に控訴した。

2012年6月22日(45歳)、しかし、控訴裁判所は連邦裁判所の決定を支持した。チャオは敗訴したのである。

以下は2012年6月22日の控訴裁判所書類(ファイルは2012年6月22日)の冒頭部分(出典:同)。全文は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2016/08/appeal-denied.pdf

★口惜しさ

チャオはネカト犯とされ、マウントサイナイ医科大学を解雇され、裁判にも敗れ、2012年(45歳)頃、米国から中国に帰国した。中国では江蘇省徐州医科大学の付属病院で働き始めた。

2013年(46歳)、そして、江蘇省高水準イノベーションおよび起業家人材紹介プロジェクトに選ばれ、100万ウォン(約890万円)の財政的支援を受けた。

しかし、チャオは米国で受けた屈辱を処理できなかった。時々、怒りを爆発させた。 中国での元同僚によると、研究所での研究では、彼の専門知識に依存する他の科学者のために働くことに大きな不満を抱いているようだった、と述べている。

2014年12月4日(47歳)の以下のツイートの中で、米国の学術界と法制度における人種差別を、ナチスのジョセフ・ゲッベルス(Joseph Goebbels)を引き合いに嘲笑している。

2016年7月15日(49歳)、以下のツイートは殺人未遂事件の約1か月前である。「偽善と詐欺を除いて、1930年代のナチスドイツまたは1950年代以前のアラバマと今日の米国の公民権の実際の違いは?」と米国の法制度に対する怒りを書いている。

前述したように、

そして、再渡米し、2016年8月29日(49歳)、ネカト調査と解雇を主導したデニス・チャーニー医学部長(Dennis S. Charney、65歳)を射殺しようと散弾銃で15発も発砲した。

チャーニー医学部長は一命をとりとめたので、殺人未遂だが、2017年8月9日(50歳)、裁判所から懲役28年の刑が宣告された。

2020年5月11日(53歳)現在、米国の刑務所で服役中。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2020年5月11日現在、パブメド( PubMed ))で、ヘンジュン・チャオ(Hengjung Chao)の論文を「Hengjung Chao [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、1928~2020年の89年間の 17,634論文がヒットした。

ファーストネームが異なる人の論文が多数あった。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。

それで、マウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)・助教授として過ごした時、後に殺人未遂する相手のデニス・チャーニー(Dennis S. Charney)との共著論文を「Dennis S. Charney AND Chao」で検索した。 0論文がヒットした。共著論文がない。つまり、研究上の関係はなかった。

ヘンジュン・チャオ(Hengjung Chao)の論文をマウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)の所属として、つまり、「(Hengjung Chao [Author]) AND Mount Sinai School of Medicine[Affiliation]」で検索した。 10論文がヒットした。

このうち、2004-2010年の5論文が、本記事で問題にしている研究者の論文である。

★撤回監視データベース

2020年5月11日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでヘンジュン・チャオ(Hengjung Chao)を「Hengjung Chao」で検索すると、0論文がヒットし、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2020年5月11日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ヘンジュン・チャオ(Hengjung Chao)の論文のコメントを「Hengjung Chao」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》過去の清算 

ネカトがらみで自殺した事件はいくつもある。しかし、ネカト犯が、自分をネカト調査や解雇した責任者を射殺しようとした事件は、白楽は初めてだ。

ヘンジュン・チャオ、晁恒軍(Hengjung Chao)は、中国に帰国した後、江蘇省高水準イノベーションおよび起業家人材紹介プロジェクトに選ばれ、100万ウォン(約890万円)の財政的支援を受けたので、それなりに成功している。

それでも、ネカトでクロとされた屈辱を、清算できなかった。

人の心の中はわからない。

ネカト事件から10年後、解雇されてから7年後、調査や解雇した責任者を射殺しようと散弾銃(ショットガン)で15発も発砲した。

逮捕され、28年の懲役刑が科された。

一般論だが、人間は、チョッと注意されただけで、相手を刺し殺す(人がいる)。

怒りのコントロールは難しい。怒りは、生物の生存本能に直結した機能だから、ヤッカイだが、激しい。狂気である。簡単にコントロールできては、種が繁栄しない。

気持ちの満足以外、全く損になることを知りつつ、チャオは実行した。

どうすると、防げるのだろうか?

《2》怨む相手 

ヘンジュン・チャオ、晁恒軍(Hengjung Chao)は、デニス・チャーニー医学部長(Dennis S. Charney、65歳)を射殺しようとしたが、なぜ、チャーニー医学部長をそれほど憎んだのか、白楽にはよくわからない。

チャーニー医学部長は調査を依頼したが調査員会の委員ではなかった。解雇したのは学部長という役職としての判断と行為である。

チャオの専門は血友病で、チャーニー医学部長は不安症などの精神医学が専門である。分野も違うし、チャオと共著論文がないので、研究上のつながりはない。

それなのに、なぜ、チャーニー医学部長を射殺しようとしたのか?

わかりません。

普通なら、自分の告発したチャオのポスドク、エレン・コーン(女性、Ellen Cohn)を最も怨む気がするのだが?

わかりません。

https://www.dailymail.co.uk/news/article-3763658/Gunman-shoots-two-people-outside-one-Clintons-favorite-delis-mile-family-home.html

《3》研究公正局(ORI)

ヘンジュン・チャオ、晁恒軍(Hengjung Chao)の事件で、研究公正局(ORI)の内幕の一端がみえた。

研究公正局(ORI)の元・調査官・アラン・プライス(Alan Price)が、マウントサイナイ医科大学の調査報告書が不正確で、深刻な欠陥があり、著しくチャオを不当に扱っていると判断した。それで、研究公正局(ORI)はチャオのネカト調査をしないことにした、とある。

大学がネカトでクロと結論し、調査報告書を提出しても、研究公正局(ORI)が調査しない事件があることが明白になった。

研究公正局(ORI)が調査する・しない基準はどこにあるのだろうか? そして、大学がネカトでクロと判定しても研究公正局(ORI)が調査しない件数はどれほどあるのだろう?

なお、「調査報告書が不正確で、深刻な欠陥があり、著しくチャオを不当に扱っていると判断した」場合、問題を指摘して、マウントサイナイ医科大学に再調査を要求するのが本来の姿ではないのか?

《4》ネカト

調査委員会は、チャオの投稿原稿にデータねつ造・改ざんを見つけクロと判定した。研究公正局(ORI)はその調査がズサンだったと判断した。

それで、少しヘンだと感じている面を述べてみる。

調査委員会が正しければ、チャオは40歳でネカトをしたことになる。それまでの論文でのネカトが指摘されていないので、40歳で初めてデータねつ造・改ざんをしたことになる。

普通に考えて、40歳になって、初めてデータねつ造・改ざんをするだろうか?

チャオの血友病研究の論文リストを見ると、マウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)の助教授に採用された2002年以降、事件を起こした2007年まで、おおむね毎年1報の論文を発表している。この状況で、初めてデータねつ造・改ざんするとはとても思えない。

マウントサイナイ医科大学の同僚や周囲にハメられた。と思えてならない。

最初に告発したポスドクのエレン・コーン(女性、Ellen F Cohn)は、コーネル大学で研究博士号を取得し(The Journal of Immunology)、マウントサイナイ医科大学のポスドクになった。

しかし、その後、論文を発表しておらず、学術界から姿を消した。この点も、なんか引っかかる。エレン・コーンがチャオをおとしめる片棒を担いだのではないだろうか? 何らかの事情を知っているように思える。

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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Dennis S. Charney – Wikipedia
② 2010年12月17日の裁判資料(閲覧部分的に無料):FindACase™ | Hengjun Chao, M.D v. the Mount Sinai Hospital
③ 2012年4月17日の裁判資料:HENGJUN CHAO v. MOUNT SIN | No. 11-1328-cv. | 20120417101 | Leagle.com
④ 2016年8月29日のマーティン・グールド(Martin Gould)記者とフレイヤ・ベリー(Freya Berry)記者の「Daily Mail Online」記事:Obsessed medical researcher guns down former boss outside Hillary Clinton’s local deli | Daily Mail Online
⑤ 2016年8月30日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former professor shoots dean who fired him for misconduct – Retraction Watch
⑥ 2017年6月14日のアンドリュー・ハン(Andrew P. Han)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Ex-researcher who shot dean found guilty of attempted murder – Retraction Watch
⑦ 2017年8月10日のアンドリュー・ハン(Andrew P. Han)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Researcher who shot dean after being fired for misconduct sentenced to 28 years in prison – Retraction Watch
⑧ ◎2017年9月21日のアンドリュージョセフ(Andrew Joseph)記者の「Stat News」記事:As a scientist, he studied trauma victims. Then he became one
⑨ 2016年08月31日記事:華裔血液學權威遭控假研究 埋伏希拉蕊家附近暗殺前主管 | 葉家興專欄 | 葉家興專欄
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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