エリザベス・グッドウィン (Elizabeth Goodwin) (米)

2017年6月5日掲載。

ワンポイント:米国・ウィスコンシン大学マディソン校の女性・準教授で、専門は遺伝学。2005年(46歳?)、指導下の院生たちに、研究費申請書のネカトが見つけられた。2010年(51歳?)、研究公正局からねつ造・改ざんで3年間の締め出し処分を受け、大学を辞職(解雇?)した。連邦捜査局も捜査に入り、2010年(51歳?)、2年間の保護観察、500ドル(約5万円)の罰金と1000万円の賠償金が科された。損害額の総額(推定)は8億1千万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

エリザベス・グッドウィン (Elizabeth B. Goodwin)は、米国のウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin, Madison)・準教授で、専門は遺伝学だった。医師ではない。

2005年(46歳?)、研究室で指導下の院生たちが、グッドウィンの研究費申請書にネカトを見つけ、議論の末、学部長に通報した。

ウィスコンシン大学マディソン校と研究公正局が調査したが、連邦捜査局(FBI)と米国・健康福祉省の監査室(Office of Inspector General)も捜査に参入した。

2010年7月(51歳?)、研究公正局がグッドウィンの研究費申請書にデータねつ造・改ざんがあったと発表した。グッドウィンは、処分期間3年に調停合意した。

2010年9月3日(51歳?)、連邦捜査局の捜査に基づく裁判で、グッドウィンは2年間の保護観察、500ドル(約5万円)の罰金、米国・健康福祉省への賠償金5万ドル(約500万円)、ウィスコンシン大学マディソン校の奨学金組織への賠償金5万ドル(約500万円)の刑罰が科された。

heroウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison)。写真出典

Memorial_Union_and_quadrangleウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison)。写真出典 By 英語版ウィキペディアVonbloompashaさん, CC 表示-継承 3.0

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ブランダイス大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1959年1月1日生まれとする。1977年9月のスミス大学入学時を18歳とした
  • 現在の年齢:58 歳?
  • 分野:遺伝学
  • 最初の不正論文:2005年(46歳?)
  • 発覚年:2005年(46歳?)
  • 発覚時地位:ウィスコンシン大学マディソン校・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は、研究室の指導下の院生たちで、学部長に通報した
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ウィスコンシン大学・調査委員会。②研究公正局。~2010年。③連邦捜査局(FBI:Federal Bureau of Investigation)。④米国・健康福祉省の監査室(Office of Inspector General)。⑤裁判所
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:2つの研究費申請書
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 損害額:総額(推定)は8億1千万円。主な内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が20年間=4億円。③院生の損害が1人1000万円で6人=6千万円。④NIHとUSDAからのグラントが180万ドル(約1億8千万円)。⑤調査経費(大学と研究公正局)が5千万円。調査経費(連邦捜査局と健康福祉省・監査室)が5千万円。⑥裁判経費が2千万円
  • 結末:辞職(解雇?)。3年間の締め出し処分。2年間の保護観察、500ドル(約5万円)の罰金、米国・健康福祉省への賠償金5万ドル(約500万円)、ウィスコンシン大学マディソン校の奨学金組織への賠償金5万ドル(約500万円)

●2.【経歴と経過】

出典:①About Elizabeth Goodwin | Elizabeth Goodwin’s WordPress Blog、②Elizabeth Goodwin – LookupPage、③Elizabeth Goodwin – Contract Medical and Science Writer, MedFocus – VisualCV

  • 生年月日:不明。仮に1959年1月1日生まれとする。1977年9月のスミス大学入学時を18歳とした
  • 1977年9月 – 1982年5月(18 – 23歳?):スミス大学(Smith College)を卒業。学士号:生物学
  • 1982年9月 – 1983年5月(23 – 24歳?):スミス大学(Smith College)。修士号:生物学
  • 1983年9月 – 1990年5月(24 – 31歳?):ブランダイス大学(Brandeis University)で研究博士号(PhD)を取得した
  • 1994年5月 – 2000年4月(35 – 41歳?):ノースウェスタン大学医科大学院(Northwestern University Medical School)・助教授
  • 2000年4月 – 2002年5月(41 – 43歳?):ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin, Madison)・助教授
  • 2002年5月(43歳?):ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin, Madison)・準教授
  • 2005年(46歳?):ネカトが発覚
  • 2006年2月(47歳?):ウィスコンシン大学マディソン校・準教授を辞職
  • 2006年5月 – 2010年7月(47 – 51歳?):セプラコア社(Sepracor Inc)・科学コミュニケーション上級部長
  • 2010年7月(51歳?):研究公正局は、グッドウィンの研究費申請書にデータねつ造・改ざんがあったと発表
  • 2010年7月(51歳?):契約科学ライタ―
  • 2010年9月3日(51歳?):裁判で、グッドウィンは2年間の保護観察、500ドル(約5万円)の罰金、米国・健康福祉省への賠償金5万ドル(約500万円)、ウィスコンシン大学マディソン校の奨学金組織への賠償金5万ドル(約500万円)の刑罰が科された

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★院生の苦悶

グッドウィン準教授は線虫(Caenorhabditis elegans。写真出典)の性決定過程でのスモールRNA(small RNA)の役割を研究していた。「サイエンス」や「ネイチャー」に論文を発表し、優秀な研究者だった。ウィスコンシン大学マディソン校で研究室を拡大中の人気教員で、院生も多く集まった。

研究室に6人の院生と数人のポスドクがいたが、研究費が足りなくて、ポスドクの1人を解雇しなければならなくなった。それで、研究費を確実に得ようと焦ったグッドウィンは申請研究費が採択されるようにNIHへの申請書を「若干」操作した。

グッドウィン準教授は、研究プロジェクトの計画を知らせるために、研究費申請書を1人の院生に見せた。

その院生は、研究費申請書には、自分たちのデータが実際よりも見栄え良く記述してあり、ネカト(改ざん)ではないかとの疑念を持った。

院生は他の院生に相談した。そして、研究室に在籍していた6人の院生は数か月も、議論し、話し合った。

当時の院生の1人メアリー・アレン(Mary Allen、写真出典)は、2017年現在はコロラド大学ボルダー校(University of Colorado, Boulder)の助教授だが、次のように当時を振り返っている。
→ 2017 年4月14日、リチャード・ハリス(Richard Harris)記者の「Delaware First Media」記事:How A Budget Squeeze Can Lead To Sloppy Science And Even Cheating | Delaware First Media

改ざんかどうか確かではありませんでした。間違いだったかもしれません。ただ、実際の結果よりも見栄えが良くなっていました。

私と仲間の院生は難しい決断に迫られました。

研究室の院生はグッドウィン準教授が好きだったし、研究は良く発展していました。

もし、大学が改ざんと判定したら、このまま院生を続けられないかもしれないし、別のラボに移って新しい研究を始めることになるかもしれません。どちらにしても、それはキャリアー上の大打撃です。

結局、私たち院生は、見つけた問題をそのまま学部長に話すことにしました。

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結局、グッドウィン準教授はネカトを認め、ウィスコンシン大学マディソン校を辞職し、弁護士を通して、「研究とは別の世界で、罪を償いながら前向きに生きる」と表明した。

実際は、セプラコア社(Sepracor Inc)・科学コミュニケーション上級部長に就いたが、2010年7月(51歳?)、研究公正局が公式にデータねつ造・改ざんを発表した時、セプラコア社を辞職した。

当時、グッドウィン研究室には6人の院生がいた。

1人は前述のメアリー・アレンで、アレンはコロラド大学ボルダー校の院生に移籍した。2人はウィスコンシン大学マディソン校の別の研究室に移籍した。事件当時、すでに7年もグッドウィン研究室に在籍していたチャントラル・ライ(Chantal Ly)を含め、他の3人は、大学院を辞めた。

つまり、6人の院生のうち、3人しか研究博士号(PhD)を取得できなかった。それも、通常の年月よりも長期間かかった。メアリー・アレンの場合は8年半もかかった。

大学院を辞めたサラ・ラマルティーナ(Sarah LaMartina)は、事件を振り返って、「自分たちはバカだったのだろうか? そう、確かに正しいことをしました。でも、誰のための正しさでしょうか? 学部長に告発し、結果として、誰れが恩恵を受けたのでしょうか? 誰も受けなかったのではないですか」

★なぜネカト?

では、グッドウィン準教授は、なぜ研究費申請書のネカトをしたのだろうか?

メアリー・アレンは、「理由の1つは、院生への奨学金の財源確保に非常にストレスを感じていたためだと思います。 だから、なんとか研究費を得ようと、実際よりも見栄え良くデータを記述したのだと思います」と答えている。

★研究公正局の結論

2010年7月日(51歳?)、研究公正局は、グッドウィンの研究費申請書にデータねつ造・改ざんがあったと発表した(【主要情報源】①)。

2つの研究費申請書「R01 GM051836」と「R01 GM073183」にネカトがあった。

「2 R01 GM051836-13」では、図5A、5B、7B、8Cが再使用され、ページ20の表が改ざんだった。しかし、研究費申請書は公表されていないので、白楽には、どのような図表なのか具体的にはわからない。

「1R01 GM073183-01」でも図表を指摘しているが、部外者にはわからない。

ということで、どのデータをどのようにねつ造・改ざんしたのか、ここにお示しできません。ゴメン。

★犯罪・裁判

一般的に、米国の多くのネカト事件は所属大学と研究公正局が調査し処分する。

グッドウィン事件は、しかし、ウィスコンシン大学マディソン校と研究公正局が調査し処分しただけではなかった。

連邦捜査局(FBI:Federal Bureau of Investigation)と米国・健康福祉省の監査室(Office of Inspector General)も共同で捜査したのである。

その結果、裁判となり、検察側は、虚偽の陳述の罪(making false statements)で、最高1年の懲役刑と罰金10万ドル(約1000万円)を求刑した。

2010年9月3日(51歳?)、裁判で、グッドウィンは2年間の保護観察、500ドル(約5万円)の罰金、米国・健康福祉省への賠償金5万ドル(約500万円)、ウィスコンシン大学マディソン校の奨学金組織への賠償金5万ドル(約500万円)の刑罰が科された。
→ 2010年9月3日、連邦捜査局:FBI — Former UW Genetics Professor Sentenced for Making False Statements in Grant Progress Report

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2017年6月4日現在、パブメド(PubMed)で、エリザベス・グッドウィン (Elizabeth B. Goodwin)の論文を「Elizabeth B. Goodwin [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2005年の4年間の8論文がヒットした。

「Goodwin EB[Author]」で検索すると、1969~2005年の37年間の29論文がヒットした。年代から推察して、当記事のエリザベス・グッドウィン以外の論文が入っている。

2017年6月4日現在、「Goodwin EB AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、撤回論文はなかった

★パブピア(PubPeer)

2017年6月4日現在、「パブピア(PubPeer)」ではエリザベス・グッドウィン (Elizabeth B. Goodwin)の論文にコメントがない:PubPeer – Results for Elizabeth B. Goodwin

●7.【白楽の感想】

《1》連邦捜査局と監査室

本文に書いたが、一般的に、米国の多くのネカト事件は関係大学と研究公正局が調査し処分する。

グッドウィン事件は、しかし、ウィスコンシン大学マディソン校と研究公正局が調査し処分しただけではなかった。

連邦捜査局(FBI:Federal Bureau of Investigation)と米国・健康福祉省の監査室(Office of Inspector General)も共同で捜査したのである。

特別のネカト事件だったのだろうか?

しかし、どういう状況になると、連邦捜査局と監査室が捜査に乗り出すのか? 白楽はハッキリつかめていない。

《2》ネカト研究室の院生

指導教員がネカトでクロと判定された研究室の院生は悲惨である。

研究人生は大きく損なわれる。

何らかの救済システムが必要ではないのか?

そういう救済システムが不十分なために、内部告発ができない、ネカトを見て見ないふりする、つまり、ネカトを助長していることになる。

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●8.【主要情報源】

① 2010年8月30日、研究公正局の報告:NOT-OD-10-130: Findings of Scientific MisconductFederal Register : Findings of Scientific Misconduct
② 2010年9月17日のスザンヌ・ウィンター(Suzanne Winter)記者の「BioTechniques」記事:BioTechniques – Former Wisconsin researcher sentenced for misconduct、(保存版
③ 2010年6月28日のジェニファー・クジン=フランケル(Jennifer Couzin-Frankel)記者の「Science」記事:Scientist Turned In by Grad Students for Misconduct Pleads Guilty | Science | AAAS、(保存版
④ 2010年8月30日の「Drugmonkey」記事:The UWisc misconduct case, revisited. | Drugmonkey、(保存版
⑤ 2007年6月5日、ジャネット・ステムウィーデール(Janet D. Stemwedel)のブログ記事:The price of calling out misconduct. – Adventures in Ethics and Science、(保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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