「ズサン」:ノブト・ヤマモト、山本信人(Nobuto Yamamoto)(米)

2017年10月6日掲載。

ワンポイント:1925年福岡県生まれの男性。日本で助教授だったが、渡米し、約35年間米国の大学教授などを務めた。1993年(68歳)、米国でソクラテス免疫治療研究所を設立し92歳の現在も所長として研究している。2008年(83歳)頃から、「タンパク質・GcMAF(ジーシーマフ)はすべての癌を直せる」と主張し始めた。しかし、ズサンな研究のため、2014年(89歳)に2008・2009年出版の3報が撤回され、GcMAFの効果は疑問視されている。日本にGcMAFの販売拠点がある。ワラにもすがる思いの癌患者やエイズ患者が妄信的にGcMAFに飛びつかないよう警告したい。損害額の総額(推定)は5600万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ノブト・ヤマモト、山本信人(Nobuto Yamamoto、写真出典)は、1925年福岡県生まれで、日本で大学助教授を務めたのちに渡米し、米国の大学教授になった。医師ではない。現在98 歳と高齢だが、1993年(68歳)に米国にソクラテス免疫治療研究所(Socrates Institute for Therapeutic Immunology)を設立し、所長として研究活動をしている。専門は免疫学である。

問題は、2008年(83歳)頃から、「タンパク質・GcMAF(ジーシーマフ)はすべての癌を直せる」とヤマモトが主張していることだ。あり得ないことで、科学的妥当性に欠けているのだが、ワラをもすがる患者の中には信じる人もいる。また、ヤマモトを利用して一儲けしようとする人もいる。

GcMAF(ジーシーマフ)は「Globulin component macrophage activating factor」の略で、マクロファージを活性するビタミンD3結合タンパク(グロブリン・タンパク質)の糖鎖を除去したタンパク質である。

ヤマモトは、2007-2009年にGcMAF(ジーシーマフ)がすべての乳癌、大腸癌などの治療に有効だという論文を4報出版したが、2014年(89歳)に3報が撤回された。

2015年(90歳)、英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は、癌治療のためにGcMAFを製造する英国・ミルトン(Milton)の工場は、適正製造基準(Good Manufacturing Practice :GMP)を満たしていないと結論した。汚染医薬品として1万バイアルを押収し、工場を閉鎖させた。

なお、日本にもGcMAF(ジーシーマフ)を販売する拠点があり、日本人利用者がそれなりにいると思われる。ウェブサイトの英語も充実していて、海外発送の案内も書いてあり、世界に向けても販売している。

ソクラテス免疫治療研究所(Socrates Institute for Therapeutic Immunology)の住所は「1040 66th Avenue, Philadelphia, PA 19126」でヤマモトの自宅である。写真はその「隣の建物」。ソクラテス免疫治療研究所「1040 66th」の建物は見つからず、たまたま隣の「1039 66th」の建物があったので、感じはつかめるだろうと掲載した。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:日本
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:九州大学、物理学博士。名古屋大学、医学博士
  • 男女:男性
  • 生年月日:1925年4月25日
  • 現在の年齢:98 歳
  • 分野:免疫学
  • 最初の不正論文発表:2008年(83歳)
  • 発覚年:2014年(89歳)
  • 発覚時地位:ソクラテス免疫治療研究所・所長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は、ベルギー抗癌基金のメンバーでボリビアの医師・アナ・ウガルテ(Ana Ugarte)。ベルギー抗癌基金のサイトで警告し、学術誌・編集部に通報(?)
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」など
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②ベルギー抗癌基金(Belgian Anticancer Fund)。③英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:ズサン
  • 不正論文数:3報撤回
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 損害額:総額(推定)は5600万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円に損害はない。②研究者の給与・研究費として支払った分に損害はない。③院生に損害はない。④外部研究費に損害はない。⑤調査経費(学術誌出版局、ベルギー抗癌基金、英国の医薬品・医療製品規制庁)が5千万円。⑥裁判なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。3報撤回=600万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減なし
  • 結末:処罰するすべなし

●2.【経歴と経過】

主な出典:①:Appendix 1: About Dr. Nobuto Yamamoto、②:がん治療|MAF CLINICのnobuto GcMAF による治療(保存版)

  • 1925年4月25日:福岡県で生まれる
  • 1947年(21歳):九州大学工学部卒業
  • 1953年(27歳):九州大学理学部大学院修了、物理学博士
  • 1958年(32歳):名古屋大学医学部大学院特別研究生修了、医学博士
  • 1958年4月 -1959年10月(32-34歳):岐阜県立医科大学・助教授。なお、岐阜県立医科大学は1964年に岐阜大学医学部に移管した
  • 1959年-1961年(34-36歳):米国のフォックスチェイス癌センター(Fox Chase Cancer Center)・ポスドク
  • 1961年-1962年(36-37歳):米国のインディアナ大学細菌学教室・ポスドク
  • 1962-1963年(37-38歳):米国のNIH/Biological Standardsの研究員
  • 1963-1979年(38-54歳):米国のテンプル大学医科大学院(Temple University School of Medicine)・助教授、その後、準教授、教授。また、兼任で、フェルス研究所・主任研究員(Chief of Virology and Genetics of The Fels Institute)
  • 1978-1979年(53-54歳):長崎大学医学部泌尿器科学教室客員教授
  • 1979年(54歳):ハーネマン大学医科大学院(Hahnemann University School of Medicine)・教授。免疫学&細菌学
  • 1990年(65歳):テンプル大学(Temple University)・研究教授(Research Professor of Biochemistry)
  • 1993-1999年(68-74歳):フィラデルフィアのアルベルト・アインシュタイン癌センター(Albert Einstein Cancer Center, Philadelphia)・研究員
  • 1993年(68歳):ソクラテス免疫治療研究所(Socrates Institute for Therapeutic Immunology)を創設し所長として研究継続

●4.【日本語の解説】

★2010年3月10日:海の向こうでOVCA「ドクターヤマモト」

出典 → ココ、(保存版

Dr. YamamotoのフルネームはNobuto Yamamotoさんで、実在する日本人の医師です。ただ50年くらい前からずっとアメリカ在住なので日本ではあまり知られていないと思います。(日本語でググってもでてきません。)専門はウィルス学、微生物学、遺伝子学、免疫学などで、ペンシルバニア州のテンプル大学とハーネマン大学で何十年も働き、退職後は個人で免疫療法研究所を開いて研究を続けていらっしゃるようです。Dr. Yamamotoが特に力を注いで研究してきたのがGcMAF(ジーシーマフ)。ビタミンD3結合タンパク(Gcタンパク)に由来するマクロファージ活性化因子(Macrophage Activating Factor)です。

人間の体内にはもともとGcタンパクというマクロファージ活性化因子の前駆物質があります。ところが癌はNagalaseという酵素を分泌してGcタンパクを駄目にしてしまい、それが癌患者の免疫抑制と一因となっているようなのです。そして、GcMAFを投与すればマクロファージの抗腫瘍力は大幅に増加し癌の治癒につながる、というのがDr. Yamamotoの学説です。研究は試験管、マウスの他、少数の癌患者(大腸がん、乳がん、前立腺がん)に対しても行われました。

結果は:
大腸がん(転移あり)→100ngのGcMAFを32~50週投与→7年後も対象者全員再発なし
乳がん(転移あり)→100ngのGcMAFを16~22週投与→4年後も対象者全員再発なし
前立腺がん(転移有無不明)→100ngのGcMAFを14~25週投与→7年後も対象者全員再発なし
とインプレッシブです。

しかし、メインストリームの癌研究としてはあまり認められておらず、標準治療には程遠く、補完/代替医療の範疇に入るらしいです。確かに免疫療法自体が未だ実験段階で、しかも自己リンパ球や樹状細胞を用いた療法ともGcMAFは異なっています

日本では保険の適応外で様々な(エビデンスに乏しいものも含め)免疫療法が行われているのでしょうか? パブリックヘルスケアのカナダでは標準治療以外は皆無と言っていいのですが、個人の健康保険に依存しているアメリカでさえ、メインストリームから外れる治療というのは少ないように見受けられます。

補完医療(鍼など)はあくまでも補完。標準治療の副作用軽減のために用いられているにすぎません。よほどの変わり者でもない限り厳格な食事療法(マクロバイオティックなど)を試すこともありません。(普通のベジタリアンは結構いますし、肥満防止を含め健康的な食生活の指導はありますが。)

そういう状況下でも、有効な代替療法を内心期待している人はいます。そういう人達の間でDr. YamamotoのGcMAFは「副作用がなく全ての癌に効く夢の薬」という噂が流れたようです。

その噂は海を越えてイギリスでも流れたらしく、それに対してメインストリームのドクターが書いたやんわりと釘をさす記事も読みました。

要するにGcMAFを夢の癌治療薬と見なすには科学的証拠が弱すぎるということです。

例えば、大腸がん、乳がん、前立腺がんの患者を対象に行われたトライアルは小さすぎる(対象者は各16名)。対象者は平行して標準治療も受けているので、再発しないのが標準治療によるのかGcMAFによるのか判断できない。対象者の癌のステージや組織型についての情報が欠けている。GcMAF投与後の効果測定としてはNagalaseの値を計っただけで、腫瘍マーカー値も血液中のサイトカインレベルも記録されていない。GcMAFの投与グループと非投与グループとの比較がない。等、いずれももっともな批判ばかりです。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★ノブト・ヤマモト、山本信人

ノブト・ヤマモト、山本信人(Nobuto Yamamoto)は現在98 歳と高齢の日本出身の米国在住の医学研究者である。

1925年4月25日、福岡県で生まれ、第二次大戦終了直後の1947年(21歳)に九州大学工学部を卒業した。

1953年(27歳)に九州大学理学部大学院修了、物理学博士を取得したが、1958年(32歳)で名古屋大学医学部大学院特別研究生で、医学博士を取得した。

1957年(31歳)に最初の生命科学系の研究論文を単名で発表している。
→ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC314676/pdf/jbacter00597-0093.pdf

1959年11月、34歳の時に1年半ほど勤めた岐阜県立医科大学・助教授を辞めて、米国に渡り、以来、約35年間、主として、テンプル大学医科大学院(Temple University School of Medicine)やハーネマン大学医科大学院(Hahnemann University School of Medicine)の教授を務めた。米国では主としてフィラデルフィア市に居住した。

ハーネマン大学医科大学院(Hahnemann University School of Medicine)・微生物学/免疫学科。前列右がヤマモト。中央は学科長のリチャード・クロウエル教授(Richard Crowell)。出典

1964年、ヤマモトは「Science」誌に論文を発表している。超一流学術誌なので、微生物学の研究者としては優秀だったに違いない。

1993年(68歳)、テンプル大学医科大学院・教授を退職し、米国のフィラデルフィア市にソクラテス免疫治療研究所(Socrates Institute for Therapeutic Immunology)を創設しその所長として研究活動を開始した。そして、現在も研究を継続している。

★GcMAF(ジーシーマフ)は万能薬

2008年(83歳)、GcMAF(ジーシーマフ)が癌、HIV、自閉症、その他の疾患の治療に有効だと主張し始めた。

根拠は、癌患者にGc-MAFを注射すると、がんと戦うマクロファージを活性化するという理屈である。

http://www.connersclinic.com/cancer-and-gc-maf/

なお、GcMAF(ジーシーマフ)は「Globulin component macrophage activating factor」の略で、マクロファージを活性するビタミンD3結合タンパク(Gcタンパク)の糖鎖を除去したタンパク質である。

根拠となる発見は、ヤマモトの「1997年のCancer Research」論文である。癌細胞を移植したマウスにGc-MAFを注射すると、約16日から約35日に生存期間が伸びたのである。

「1997年のCancer Research」論文の書誌情報は以下だが、ヤマモトの所属はフィラデルフィア市のアルベルト・アインシュタイン癌センター(Albert Einstein Cancer Center, Philadelphia)である。

ただ、Gc-MAFを注射しても、マウスの癌は消滅していない。マウスは延命したが、癌細胞は増え、結局、マウスは癌で死んでいる。

上記の論文を土台に研究を広げ、再度書くが、2008年(83歳)、GcMAF(ジーシーマフ)は、すべての乳癌を治療できると主張し始めた。治療効果は、エイズ(HIV)、自閉症、その他の疾患にも及ぶと主張し始めた。

しかし、Gc-MAFが癌を治療できるという主張には大きな疑念が表明されている。少なくとも「すべての乳癌」が治療できるなど、ありえない。それに、癌患者と健常人のGc-MAFのレベルに差異がないことを他の研究者が見つけている。

2008年の「Gc-MAFが乳癌の治療に有効」という論文と「Gc-MAFが大腸癌の治療に有効」という論文は正式な倫理的承認が得られていないという理由と研究方法上の問題で撤回された。

また、データねつ造・改ざんがあるのではないかと疑われている。

【日本語の解説】で引用した「海の向こうでOVCA「ドクターヤマモト」」の文章を再掲すると以下のようだ。
→ ココ、(保存版

要するにGcMAFを夢の癌治療薬と見なすには科学的証拠が弱すぎるということです。例えば、大腸がん、乳がん、前立腺がんの患者を対象に行われたトライアルは小さすぎる(対象者は各16名)。対象者は平行して標準治療も受けているので、再発しないのが標準治療によるのかGcMAFによるのか判断できない。対象者の癌のステージや組織型についての情報が欠けている。GcMAF投与後の効果測定としてはNagalaseの値を計っただけで、腫瘍マーカー値も血液中のサイトカインレベルも記録されていない。GcMAFの投与グループと非投与グループとの比較がない。等、いずれももっともな批判ばかりです。

GcMAFは米国や日本ではヒトを治療する医薬品として承認されていない。

しかし、米国の医師の中には、ウェブサイトでその使用を促進または議論している人もいる。必然的に、ここでの議論は、GcMAFを医薬品として売ることを目的としたウェブサイトである。

英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA :UK Medicines and Healthcare products Regulatory Agency)とキャンサー・リサーチUK (Cancer Research UK)は、GcMAF(ジーシーマフ)の臨床的な有効性は疑問であると社会に警告している。多くの癌でナガラーゼが増加するが、GcMAF(ジーシーマフ)はナガラーゼを減少させるから有効だという言う説に騙されないようにと。
→ 2008年12月3日のキャット・アーニー(Kat Arney)の「キャンサー・リサーチUK (Cancer Research UK)」記事:“Cancer cured for good?” – Gc-MAF and the miracle cure – Cancer Research UK – Science blog、(保存版

2014年、ベルギーのNGO団体であるベルギー抗癌基金(Belgian Anticancer Fund)は、ヤマモトのGcMAFに関する研究発表に深刻な懸念があると発表した。この調査はボリビアの医師で研究者のアナ・ウガルテ(Ana Ugarte、写真出典)が行なった。
→ Gc MAF, GcMAF, Gc-MAF | Anticancer Fund、(保存版

2015年、英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は、癌治療のためにGcMAFを製造する英国・ミルトン(Milton)の工場は適正製造基準(Good Manufacturing Practice :GMP) を満たしていないと結論した。汚染医薬品として1万バイアルを押収し、工場を閉鎖させた。
→ 2015年2月3日の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)の警告:Regulator warns against GcMAF made in unlicensed facility in Cambridgeshire – GOV.UK、(保存版
→ 2015年2月27日の記事:UK’s MHRA Shuts Down GcMAF Plant | 2015-03-01 | FDANews、(保存版

★GcMAFの臨床試験

2009年、GcMAFを癌治療にが使おうと、イスラエルのボアズ・ショハム(Boaz Shoham)とアビ・レビン(Avi Levin)がヤマモトにコタクトし、イスラエルにエフラナット社(Efranat Ltd)を3人で設立した。

エフラナット社(Efranat Ltd.)の由来は、2009年に癌で亡くなったショハムの妻「Efrat」とレビンの妻「Anat」にちなんでいる。

左から、共同設立者のボアズ・ショハム(Boaz Shoham)、共同設立者のヤマモト、共同設立者のアビ・レビン(Avi Levin)。写真出典

イスラエルのエフラナット社(Efranat Ltd.)がGcMAF(EF-022という名称)の臨床試験を2014年5月から2017年5月までの3年間に渡って実施した。2017年10月現在、終了しているはずだが、成果は発表されていない。
→ Safety Study of EF-022 ( Modified Vitamin D Binding Protein Macrophage Activator) in Subjects With Advanced Solid Tumors – Full Text View – ClinicalTrials.gov、(保存版

臨床試験フェーズⅠを2016年9月から2018年9月までの2年間に渡って実施中というデータもある。
→ Phase I Safety and Tolerability Study of EF-022 in Adult Subjects With Recurrent Respiratory Papillomatosis – ICH GCP – Clinical Trials Registry、(保存版

しかし、GcMAF(ジーシーマフ)は怪しいという話ばかりで、有効だという話が聞こえてこない。

★GcMAF(ジーシーマフ)医師の大量不審死

ヤマモトと関係ないと思うが、2015年6月から2017年3月までの2年弱の間に、世界中で60人ものホリスティック医療者(全体観医療者、holistic health practitioners)が死んでいる。死因は自殺なのか他殺なのか、不審な点が多い。ホリスティック医療の多くは、GcMAF(ジーシーマフ)医療である。
→ 以下の写真の出典も。「Snopes」記事:FACT CHECK: Have Sixty Holistic Doctors Died Suspicious Deaths in the Past Year?
→ 死亡者リスト:Health Nut News, List of Dead Holistic Doctors – Google スプレッドシート#gid=0

ヤマモトと関係ないと思うので、記載はここで止めておく。それにしても不可解な大量死亡ですね。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2017年10月5日現在、パブメド(PubMed)で、ノブト・ヤマモト、山本信人(Nobuto Yamamoto)の論文を「Nobuto Yamamoto [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2011年の10年間の9論文がヒットした。

「Yamamoto N[Author]」で検索すると、1958~2017年の60年間の4396論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者の論文ではない論文が多いと思われる。

2017年10月5日現在、「Yamamoto N[Author] AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、12論文が撤回されていた。

1つ1つ内容を調べると、本記事で問題にしている研究者の撤回論文ではない論文が9報も含まれていた。

本記事で問題にしている研究者の最新の撤回論文は以下の3論文で、3報とも2014年に撤回された。

なお、2番目と3番目の論文著者にもう1人の「Yamamoto N」がいる。この人は、ノブユキ・ヤマモト(Nobuyuki Yamamoto)という名前で、たまたま、ノブト・ヤマモトの息子と同じ名前だが、別人の癌研究者である。イヤイヤ、別人ではなく、息子という説が正しいようだ。

  1. Immunotherapy of HIV-infected patients with Gc protein-derived macrophage activating factor (GcMAF).
    Yamamoto N, Ushijima N, Koga Y.
    J Med Virol. 2009 Jan;81(1):16-26. doi: 10.1002/jmv.21376. Retraction in: J Med Virol. 2014 Nov;86(11):1998.
    PMID:19031451
  2. Immunotherapy of metastatic colorectal cancer with vitamin D-binding protein-derived macrophage-activating factor, GcMAF.
    Yamamoto N, Suyama H, Nakazato H, Yamamoto N, Koga Y.
    Cancer Immunol Immunother. 2008 Jul;57(7):1007-16. Retraction in: Cancer Immunol Immunother. 2014 Dec;63(12):1349.
    PMID:18058096
  3. Immunotherapy of metastatic breast cancer patients with vitamin D-binding protein-derived macrophage activating factor (GcMAF).
    Yamamoto N, Suyama H, Yamamoto N, Ushijima N.
    Int J Cancer. 2008 Jan 15;122(2):461-7. Retraction in: Int J Cancer. 2014 Sep 15;135(6):1509.
    PMID:17935130

★パブピア(PubPeer)

2017年10月5日現在、「パブピア(PubPeer)」はノブト・ヤマモト、山本信人(Nobuto Yamamoto)の1論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》GcMAF(ジーシーマフ)の臨床的有効性

GcMAF(ジーシーマフ)の臨床的有効性について欧州や米国ではとても懐疑的で、英国では政府が禁止している。

しかし、日本政府は警告を発していない。

それをいいことに、日本の医療機関は、GcMAFがあたかも有効かのごとくウェブサイトで宣伝している。 例えば、

初乳MAF(写真出典)という製品も市販している。

皆さんはダマされないように!

2012年、ウェブサイトに、「「先端未来クリニック」という病院が、GcMAFという手法を使ってHIVを根治出来る、と説明しています。画期的な事か」という質問があった。

この質問に、臨床と研究に10数年間従事した猫山司・医師が、「この治療法は、科学的妥当性に欠ける」と答えている。「彼らは医学累犯詐欺師集団である可能性が高い」と指摘している。
→ ココ(保存版)

なお、GcMAF(ジーシーマフ)が有効と主張するなら、研究に対する批判に真摯に答え、有効性を示す研究をしっかり進めて欲しい。本当に有効なら、恩恵にあやかれる人は多いはずだ。

《2》当局は取り締まらない

通常、ネカト調査は所属大学・研究機関が行なう。ノブト・ヤマモトのように大学・研究機関に所属していないと、ネカト調査をする大学・研究機関はない。

また、ノブト・ヤマモトのように米国政府から研究費をもらっていないと、研究公正局はネカト調査をする権限がない。

唯一の当局は、論文を掲載した学術誌だが、砕いていえば、学術誌はネカトかどうかはどうでもよく、信頼できるか手順を踏んで研究されたがどうかである。信頼できなければ、撤回する。「誰が不正者者なのか」への関心は低い。処罰といっても論文撤回以上のことはできない。

というわけで、現在の研究公正システムでは、ノブト・ヤマモトのような場合のネカト研究やズサンな研究は取り締まれない。

《3》政府や医師会・医学界

ノブト・ヤマモトは80歳を越えてから撤回される論文を3報も出版した。論文はズサンの一言である。

高齢になってから、ズサンな研究で庶民をダマすような論文を発表した。そのことは学術界の問題であるが、尻馬に乗って儲ける人たちがいて、これは社会的な問題である。被害者と被害額はかなりの人数・額になると思う。ベルギーのNGO団体と英国政府機関が警告を発したが、日本政府や日本の医師会・医学界・薬学界は警告を発していないし、取り締まっていない。

多分、被害者は被害の自覚がないと思われる。GcMAF(ジーシーマフ)に効果がなくても、「鰯の頭も信心から」なので、治ると思って高価な薬を飲めば(注射すれば)、病気は快方に向かうかもしれない。

しかし、効能がない医薬品をプラセボ効果があるからと認めることはできない。

厚生労働省や医師会・医学界・薬学界は警告を発し、取り締まるべきだ。

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●8.【主要情報源】

① 2017年9月6日のアレックス・カスプラック(Alex Kasprak)記者の「Snopes」記事:How a Retired Scientist’s Questionable Institute Convinced the Internet that Cancer was Cured、(保存版
② ウィキペディア英語版:GcMAF – Wikipedia
③ 2009年のビル・サルディ(Bill Sardi)の「National Health Federation」記事:The National Health Federation – GcMAF Cancer Cure Update: A Proven Cure for HIV Infection and Cancer Ignored by Mainstream Medicine and News Media 、(保存版
④ 2014年7月25日以降の「Nobutu Yamamoto」に関する「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:You searched for Nobutu Yamamoto – Retraction Watch at Retraction Watch
⑤ 「GcMAF(ジーシーマフ)のウェブサイト:The GcMAF Book
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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