ホイビン・サン(孙惠斌、Hui Bin Sun)、ダニエル・レオン(Daniel Leong)(米)

2022年4月6日掲載 

ワンポイント:2022年3月21日、研究公正局は、アルベルト・アインシュタイン医科大学(Albert Einstein College of Medicine)・教授だったサンと同・テクニシャンのレオンの2013~2019年の16件の研究費申請書に、50画像のねつ造・改ざんがあったと発表した。両者に2022年2月28日から4年間の締め出し処分を科した。なお、サンは中国に育ち、研究博士号(PhD)を取得後、渡米、レオンは米国生まれ育ち(推定)である。撤回論文は1報。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ホイビン・サン(孙惠斌、Hui Bin Sun、Herb Sun、ORCID iD:、写真出典)は、中国で生まれ育ち、中国の白求恩医科大学(ベチューン医科大学)で研究博士号(PhD)を取得し、米国のアルベルト・アインシュタイン医科大学(Albert Einstein College of Medicine)・教授になった。専門は整形外科および放射線腫瘍学である。

ダニエル・レオン(Daniel Leong、写真出典)は、米国生まれ育ち(推定)。ニューヨーク市立大学(City University of New York)で研究博士号(PhD)を取得し、アルベルト・アインシュタイン医科大学(Albert Einstein College of Medicine)・サン教授研究室のテクニシャンになった。テクニシャンといっても、研究博士号(PhD)を取得しているので研究員レベルの職務と思われる。専門は整形外科。

ネカト発覚の経緯は不明だが、2013~2019年の16件の研究費申請書のネカトが指摘されているので、研究費審査員が見つけたと思われる。特定できなかった。

発覚時期は、2019年1月の研究費申請書が提出されているので、2019年前半と推定される。

2019年、アルベルト・アインシュタイン医科大学は調査を終え、調査報告書を研究公正局に提出した。

2022年3月21日、研究公正局は2013~2019年の16件の研究費申請書の50個の画像にねつ造・改ざんがあったと発表した。

両者に、2022年2月28日から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。また、12年間の監督期間(Supervision Period)処分も科した。

アルベルト・アインシュタイン医科大学(Albert Einstein College of Medicine)。写真CC BY-SA 3.0, 出典

  • 国:米国
  • 成長国:中国(サン)、米国(レオン)
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:中国の白求恩医科大学(ベチューン医科大学)(サン)、米国のニューヨーク市立大学(レオン)
  • 男女:男性
  • 分野:整形外科
  • 不正文書:2013~2019年の7年間
  • 発覚年:2019年
  • 発覚時地位:アルベルト・アインシュタイン医科大学・教授(サン)、同・テクニシャン(レオン)
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は研究費審査員(推定)
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」、「柳叶刀学术」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①アルベルト・アインシュタイン医科大学・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:研究公正局は2013~2019年の16件の研究費申請書とした。撤回論文は1報
  • 時期:
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分: NIHから 4年間の締め出し処分、12年間の監督期間(Supervision Period)処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

★ホイビン・サン(孙惠斌、Hui Bin Sun)

主な出典:开除!因涉嫌学术不端,杰出学者被通报|爱因斯坦|医学|医学院|阿尔伯特_网易订阅

  • 生年月日:不明。仮に1960年1月1日生まれとする。1982年に学士号を取得した時を22歳とした
  • 1982年(22歳?):中国の東北師範大学で学士号を取得
  • 1985年(25歳?):中国の白求恩医科大学(ベチューン医科大学)で修士号を取得(注:白求恩医科大学は2000年に吉林大学に統合)
  • 1989年(29歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得
  • xxxx年(xx歳):米国のアルベルト・アインシュタイン医科大学(Albert Einstein College of Medicine)・教授
  • xxxx年(xx歳):Ny.TmT社(New York R&D Center for Translational Medicine and Therapeutics, Inc. (Ny.TmT))・設立
  • 2019年(59歳?):不正が発覚(推定)
  • 2019年(59歳?):アルベルト・アインシュタイン医科大学・辞職
  • 2022年3月21日(62歳?):研究公正局がネカトと発表

★ダニエル・レオン(Daniel Leong)

主な出典:(12) Daniel Leong | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1981年1月1日生まれとする。米国生まれと思われる。2003年に学士号を取得した時を22歳とした
  • 2003年(22歳?):米国のコロンビア大学で学士号を取得:生物医工学
  • 2013年8月~2019年12月年(32~38歳?):Ny.TmT社(New York R&D Center for Translational Medicine and Therapeutics, Inc. (Ny.TmT))・研究開発主任
  • 2014年(33歳?):ニューヨーク市立大学(City University of New York)で研究博士号(PhD)を取得
  • 2014年(33歳?):アルベルト・アインシュタイン医科大学・ポスドク
  • 2016年(35歳?):アルベルト・アインシュタイン医科大学・辞職
  • 2019年(38歳?):不正が発覚(推定)
  • 2020年1月(39歳?):Ny.TmT社(New York R&D Center for Translational Medicine and Therapeutics, Inc. (Ny.TmT))・研究戦略主任
  • 2022年3月21日(41歳?):研究公正局がネカトと発表

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★ネカト

ホイビン・サン(孙惠斌、Hui Bin Sun)は、中国で生まれ育ち、中国の白求恩医科大学(ベチューン医科大学)で研究博士号(PhD)を取得し、米国のアルベルト・アインシュタイン医科大学(Albert Einstein College of Medicine)・教授になった。

ダニエル・レオン(Daniel Leong)は、米国生まれ育ちの米国人(推定)で、研究公正局の文書ではサン教授研究室のテクニシャンとある。しかし、2014年(33歳?)にニューヨーク市立大学(City University of New York)で研究博士号(PhD)を取得しているので、研究者だと思える。

レオン は、ネカト調査が始まる前の2016年、アルベルト・アインシュタイン医科大学を辞職した。兼業していた医薬ベンチャーのNy.TmT社(New York R&D Center for Translational Medicine and Therapeutics, Inc. (Ny.TmT))に軸足を移したと思われる。

2019年、ネカト発覚の経緯は不明であるが、アルベルト・アインシュタイン医科大学(Albert Einstein College of Medicine)は両者にネカト疑念があるとの通報を受け、調査を始めた。

研究費申請書の内容のネカト疑念なので、通報した人は、研究費審査員と思われる。

2019年、アルベルト・アインシュタイン医科大学は調査を終え、調査報告書を研究公正局に提出した。

2022年3月21日、研究公正局は2013~2019年の16件の研究費申請書の50個の画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。

両者に、2022年2月28日から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分はかなり重い処分である。また、12年間の監督期間(Supervision Period)処分も科した。

16件の研究費申請書は以下の通り。研究公正局の発表のママ(コピペ)です。

  1. R01 AR065563-01, “CITED2 and Chondroprotection,” submitted to NIAMS, NIH, on 02/05/2013.
  2. R01 AR066009-01, “Remote Loading for Osteoarthritis,” submitted to NIAMS, NIH, on 06/04/2013.
  3. R01 AR065563-01A1, “CITED2 and Chondroprotection,” submitted to NIAMS, NIH, on 11/05/2014.
  4. R41 AR070695-01, “A novel product for tendinopathy treatment,” submitted to NIAMS, NIH, on 01/05/2015.
  5. R01 AG069693-01, “Chondrocyte fate regulation and cartilage protection,” submitted to National Institute on Aging (NIA), NIH, on 06/05/2015.
  6. R01 AG039561-06, “Human tendon stem progenitor cell aging and regeneration,” submitted to NIA, NIH, on 03/15/2016 (original grant funding from 08/15/2012-04/30/2018).
  7. R43 AT009414-01, “A novel nutraceutical drug for tendinopathy treatment,” submitted to National Center for Complementary and Alternative Medicine (NCCAM), NIH, on 04/05/2016.
  8. R01 AR070431-01A1, “The role of Panx1 in the pathogenesis and pain of osteoarthritis,” submitted to NIAMS, NIH, on 07/19/2016
  9. R41 AG056246-01A1, “A novel product for tendinopathy treatment,” submitted to NIA, NIH, on 09/06/2016, funded from 09/15/2017-08/31/2019.
  10. R01 AG056623-01, “Chondrocyte fate regulation and osteoarthritis,” submitted to NIA, NIH, on 10/05/2016.
  11. R01 AR072038-01, “MSC-derived exosomes and tendon disorders,” submitted to NIAMS, NIH, on 10/05/2016.
  12. R43 AT009414-01A1, “A novel nutraceutical drug for tendinopathy treatment,” submitted to NCCAM, NIH, on 04/05/2017, funded from 08/01/2018-07/31/2020.
  13. R01 AR073194-01, “Chondrocyte fate regulation and cartilage protection,” submitted to NIAMS, NIH, on 06/05/2017.
  14. R01 AR074802-01, “The role of Panx1 in the pathogenesis and pain of osteoarthritis,” submitted to NIAMS, NIH, on 04/02/2018.
  15. R01 AR074802-01A1, “The role of Panx1 in the pathogenesis and pain of osteoarthritis,” submitted to NIAMS, NIH, on 08/01/2018.
  16. R44 AG065089-01, “Botanical drug for spontaneous osteoarthritis,” submitted to NIA, NIH, on 01/07/2019.

【ねつ造・改ざんの具体例】

2022年3月21日の研究公正局の発表で、各研究費申請書のネカト部分を指摘している。

ネカト行為は、ウエスタンブロット画像のタンパク質名を別の実験結果を表すためにラベルを変えて再利用(重複使用)したとある。

一例をあげると、ある研究費申請書で「軟骨」の「β-アクチン」としたウエスタンブロットの同じ画像を別の研究費申請書では「肝臓」の「β-アクチン」とラベルした。

ウエスタンブロット画像だけでなく、顕微鏡写真も同じように重複使用していた。

このようなラベルを変えた重複使用が50画像あった。

しかし、研究費申請書なので、実際の画像を知ることができない。

研究公正局は指摘していないが、2人の共著論文に撤回論文が1報ある。以下、その内容を見ていこう。

★「2015年8月のSci Rep」論文

「2015年8月のSci Rep」論文の書誌情報を以下に示す。2018年11月に撤回された。

サンはアルベルト・アインシュタイン医科大学とマウントサイナイ医科大学に所属していた。「撤回公告」では、アルベルト・アインシュタイン医科大学ではなく、マウントサイナイ医科大学がネカト調査をした、とある。

調査の結果、以下に示す図6Bの最右の“BMP-12 + Stretch”が改ざんされていた。そのデータに基づくグラフも不正確になり、論文の結論も変わるので撤回となった(図の出典は原著)。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

ホイ(ハーブ)ビンサン(Hui (Herb) Bin Sun)を中心に記載した。

★パブメド(PubMed)

2022年4月5日現在、パブメド(PubMed)で、ホイ(ハーブ)ビンサン(Hui (Herb) Bin Sun)の論文を「Hui Bin Sun [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2020年の19年間の27論文がヒットした。

27論文の内、ダニエル・レオン(Daniel Leong)との共著は1論文だけだった。

「Sun HB」で検索すると、1995~2022年の18年間の488論文がヒットした。

488論文の内、ダニエル・レオン(Daniel Leong)との共著は32論文だった。

2022年4月5日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、6論文が撤回されていた。

6撤回論文の内、ダニエル・レオン(Daniel Leong)との共著は「2015年8月のSci Rep」・1論文だけだった。

★撤回監視データベース

2022年4月5日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでホイ(ハーブ)ビンサン(Hui (Herb) Bin Sun)を「Hui Bin Sun」で検索すると、0論文が撤回されていた。

「Hui B. Sun」で検索すると、1論文が撤回されていた。ダニエル・レオン(Daniel Leong)と共著の「2015年8月のSci Rep」論文が2018年11月に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2022年4月5日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ホイ(ハーブ)ビンサン(Hui (Herb) Bin Sun)の論文のコメントを「”Hui Bin Sun”」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》日本では研究不正にならない 

研究公正局は、今回、2022年の3人目と4人目のネカト者を同時に発表した。同じグループなので同時発表は当然である。

2022年の 4人のネカト行為はすべて研究費申請書でのネカトである。研究公正局は、論文ネカトの摘発をまさか止めたとは思えないが、いささか特殊な印象を受ける。

日本では、文部科学省の規則(10頁目)がネカト行為の摘発を「投稿論文など発表された研究成果」だけに限定しているので、研究費申請書でネカトしても、行為としては研究不正だが、問題視される研究不正には該当しない。

なんか、ヘンである。

日本の規則を制定する時、「投稿論文など発表された研究成果」だけに限定したのは、制定した官僚や委員の意図だったのか、無知だったのか、白楽はワカリマセン。

《2》複数人 

複数人でネカトをする場合、どういう共犯関係なのだろう?

日本だと上下関係が強いので、ボスがネカトをした時、部下は見て見ぬふりをするケースが多いだろう。部下がネカトを指摘すると、職・立場・居場所・キャリアが危険にさらされるからだ。

しかし、ボスからネカトをするように(「暗に」も含めて)指示されると、部下はどうするか? 院生なら拒否して、卒後、他の進路を選ぶこともできるが、常勤研究員だと転職は簡単ではない。共犯化する可能性が出てくる。そうなると、組織的になり、ネカトが長期化・大規模化する。

一方、部下がネカトすると、ボスはどうするだろう。見て見ぬふりをすると、自分が危なくなる。

それで、ボスはまず、部下にネカトを指摘し、「二度とするな!」という、教育的処置をする。院生・ポスドクなら、機会を見つけて、研究室からそっと追い出す。

しかし、ボスが部下のネカトに気がついたとき、既に数報出版し、その数報の論文で、ボスは名声と多額の研究費を得ていたら、どうするか? 教育的処置では収まらないので、大学に部下を告発するだろう。ボスも無傷では済まない。

今回のボス(サン)と部下(レオン)の事件は米国である。2013~2019年の16件の研究費申請書というから、7年間も共犯でネカトをしていた。

最初のネカト者がボス(サン)なのか部下(レオン)なのか不明だが、最初に見つけた時、片方が相手を注意すべきだった。とはいえ、注意するのは、多分、簡単ではない。

生粋の米国人なら、最初に見つけた時、師弟関係とは無関係に、ドライに、相手を大学に告発したと思う。中国人のボス(サン)と中国文化の部下(レオン)は中国的なウェットな関係だったので、相手を大学に告発しなかったと推定される。

写真出典:https://retractionwatch.com/2022/03/28/einstein-fired-researcher-in-2019-more-than-two-years-before-ori-finding/#more-124573

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●9.【主要情報源】

① ホイビン・サン(Hui Bin Sun):研究公正局の報告:(1)2022年3月21日: Case Summary: Sun, Hui Bin | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2022年3月23日の連邦官報:FRN – Hui (Herb) Bin Sun.pdf。(3)2022年3月24日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2022年3月28日:NOT-OD-22-102: Findings of Research Misconduct
② ダニエル・レオン(Daniel Leong):研究公正局の報告:(1)2022年3月21日:Case Summary: Leong, Daniel | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2022年3月24日の連邦官報:2022-06246.pdf 。(3)2022年3月24日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2022年3月28日:NOT-OD-22-103: Findings of Research Misconduct
③ 2022年3月21日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Einstein duo faked data in 16 federal grant applications: ORI – Retraction Watch
④ 2022年3月22日の「科研星球」記事:著名学者孙惠斌涉嫌16个基金伪造50个数据,被通报学术不端,由于伪造数据被撤掉一篇文章_论文撤稿_最新资讯_科研星球
⑤ 2022年3月28日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事: Einstein fired researcher in 2019, more than two years before ORI finding – Retraction Watch
⑥ 2022年3月31日の「柳叶刀学术」記事:开除!因涉嫌学术不端,杰出学者被通报|爱因斯坦|医学|医学院|阿尔伯特_网易订阅
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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