2016年11月2日掲載。
ワンポイント:2015年、研究公正局がねつ造・改ざんで3年間の締め出し処分をした米国・ウェイク・フォレスト医科大学院の女性院生。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】
ブランディ・ブレイロック(Brandi L. Blaylock、写真出典)は、米国・ウェイク・フォレスト医科大学院(Wake Forest School of Medicine)の生理学・薬理学科(Physiology and Pharmacology)の大学院生で、専門は神経科学(薬物中毒)だった。
2013年(26歳?)、ブレイロックの不正研究が発覚する。指導教官のマイケル・ネイダー教授が見つけて、大学に公益通報したと思われる。
2015年8月21日(28歳?)、研究公正局がブレイロックの研究発表などにデータねつ造・改ざんがあったと発表した。ブレイロックは、処分期間3年に調停合意した。
この事件の日本語解説が1つあった。「世界変動展望」の文章を本文に引用した。
ウェイク・フォレスト医科大学院(Wake Forest School of Medicine)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 研究博士号(PhD)取得:未取得
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1987年1月1日生まれとする。2011年4月の最初の論文出版時を24歳と仮定した
- 現在の年齢:37 歳?
- 分野:神経科学(薬物中毒)
- 最初の不正研究発表:2013年(26歳?)?
- 発覚年:2013年(26歳?)?
- 発覚時地位:ウェイク・フォレスト医科大学院・院生
- ステップ1(発覚):第一次追及者は指導教授のネイダー教授と思われる。ウェイク・フォレスト医科大学院に公益通報した
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ウェイク・フォレスト医科大学院・調査委員会。②研究公正局
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:論文を5報出版しているが、それらはシロ。不正は、ポスター発表で2回、研究室ミーティングで複数回、研究グラントの進捗報告書で複数回あったと認定された
- 時期:研究キャリアの初期から
- 結末:退学。3年間の締め出し処分
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1987年1月1日生まれとする。2011年4月の最初の論文出版時を24歳と仮定した
- 2009年(22歳?)?:米国・テキサス州のアビリーン・クリスチャン大学(Abilene Christian University)を卒業
- 2009年(22歳?)?:米国・ウェイク・フォレスト医科大学院(Wake Forest School of Medicine)の生理学・薬理学科(Physiology and Pharmacology)の大学院生。指導教官はマイケル・ネイダー教授(Michael A. Nader)
- 2013年(26歳?)?:不正研究が発覚する
- 2013年(26歳?):サミット学校(Summit School (Winston-Salem, North Carolina))の教師。サミット学校は幼小中の子供(4-15歳)対象の学校。2016年11月1日現在、在職していない
- 2015年8月21日(28歳?):米国・研究公正局がブレイロックの研究ネカトを発表した
●4.【日本語の解説】
★2015年8月30日:世界変動展望の記事
出典 → ある女性研究者の研究不正について – 2015年8月30日 – 世界変動展望 (保存版)
以下、ブレイロックに関する部分を抽出した修正引用をした。
ORIがウェイクフォレスト大学医学系の元大学院生Brandi Blaylock氏(写し、関連1–写し)の研究不正を公表した(写し)。リトラクションウォッチも関連記事を公表(写し)。
ORIの公表によると
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ORI found that respondent engaged in research misconduct by falsifying and/or fabricating data reported in two poster presentations, several laboratory meetings, and progress reports associated with NIDA, NIH, grant R01 DA012460.
—
査読付き論文ではなく、2件のポスター発表やいくつかのラボミーティング、NIDA関連のプログレスレポートで捏造又は改ざんデータを報告した。National Institute of Drug Abuse(NIDA)のグラントが付いたので容赦なく公表された。ORIはMs. Brandi Blaylockと書いたし、Summit Schoolの紹介だと学士号しか持っていない。Biographyに「Brandi has completed coursework towards her PhD at Wake Forest University School of Medicine in the Department of Physiology and Pharmacology. 」と記載されているので、日本でいう博士課程単位取得退学のようなものか。博士を取得できなかった事と研究不正の関係は?Blaylock氏は2011年にORIから賞を受けた。最終的にBrandi Blaylock氏は研究不正で調停合意した。
Brandi Blaylock氏は現在アカポスについておらずSummit Schoolのトリアッドアカデミーで理科を教えている。肩書は「Upper School Science Teacher, Triad Academy」。研究不正をやってしまうとアカポスにつくのは難しいのかもしれない。
YoutubeにBrandi Blaylockと名乗る女性が自分の研究や経歴について説明する動画があるが、リトラクションウォッチによるとBrandi Blaylock氏は彼女のビデオなのか確認しようとしなかったという。(白楽注:2016年11月1日現在、「この動画は存在しません。」と出て、視聴できなかった)
リトラクションウォッチのメールに対してBrandi Blaylock氏は「I have no comment and please do not contact me again.」と回答。
Brandi Blaylock氏はポスター発表、ラボミーティング、プログレスレポートで研究不正を行った。日本でも口頭発表や査読なし論文等は研究不正の取り締まりや処罰の対象となる。博士号を取得できずアカポスにつけなかった点からBrandi Blaylock氏はポスター発表等の不正で研究者生命を絶たれたといえるかもしれない。
Brandi Blaylock氏はアカポスには就けなかったが、中等教育の教師になれてよかったですね。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
2009年(22歳?)(推定)、ブレイロックは、米国・テキサス州のアビリーン・クリスチャン大学(Abilene Christian University)を卒業し、米国・ノースカロライナ州にあるウェイク・フォレスト医学大学院(Wake Forest School of Medicine)の生理学・薬理学科(Physiology and Pharmacology)の大学院に入学した。
指導教官はマイケル・ネイダー教授(Michael A. Nader、写真出典)だった。
2011年4月(24歳?)、最初の論文を第一著者として発表した。
結局、2011年に2報、2012年に3報、論文を出版した。最後の5報目の論文は2012年10月に出版した。
2011年8月、研究ネカト者と断定された現時点では皮肉なことだと思えるが、ブレイロックは研究公正局から助成を受けていたことがある。旅費をもらって、院生大使(Student Ambassador)として、ワシントンDCの「優秀研究伝説(Quest for Excellence in Research)」会議に出席した(Quest for Excellence in Research, Student Ambassador! | Wake Forest Graduate School of Arts & Sciences、(保存版)、写真出典同)。
2013年(26歳?)、ブレイロックの不正研究が発覚する。指導教官のマイケル・ネイダー教授が見つけて、大学に公益通報したと思われる。
ウェイク・フォレスト医科大学院が調査し、調査結果を研究公正局に伝え、研究公正局も独自に調査した。ブレイロックはウェイク・フォレスト医学大学院の院生を辞め、幼小中(4-15歳)対象の学校・サミット学校の理科教師に就職した(2016年11月1日現在、在職していない)。
2015年8月21日、研究公正局は、ブレイロックがポスター発表で2回、研究室ミーティングで複数回、研究グラントの進捗報告書で複数回、データねつ造・改ざんがあったと発表した(【主要情報源】①)。
研究公正局は以下の点を不正とした。
ブレイロックは、薬品を与えていないのに、選択性分析で、12匹の霊長類(リーサスまたはカニクイザル猿)が、コカイン、メトアンフェタミン、ニコチンに対して、抗乱用ニコチン酸アセチルコリンまたはドーパミン受容器選択的化合物に反応したと、故意にデータをねつ造・改ざんした。
白楽は、実験内容を十分に理解していないので、このデータねつ造・改ざんが学術的にどれほど重要なのか、正確には、わかりません。
●6.【論文数と撤回論文】
2016年11月1日現在、パブメド(PubMed)で、ブランディ・ブレイロック(Brandi Blaylock)の論文を「Brandi Blaylock [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2011~2012年の2年間の4論文がヒットした。
「Blaylock BL[Author]」で検索すると、31論文がヒットした。最初の5論文が本記事のブレイロックの論文である。
全5論文とも指導教授のマイケル・ネイダー教授(Michael A. Nader)と共著である。
ブレイロックは2011年に2報、2012年に3報、論文出版していて、第一著者の論文は2論文ある。最初の論文は2011年4月の第一著者の論文である。
2016年11月1日現在、撤回論文はなかった。
2016年11月1日現在、パブピアにもコメントはなかった。
●7.【白楽の感想】
《1》急転直下の理由
ブレイロックは院生として、2011年に2報、2012年に3報、と2年間に計5報も論文を出版している。内、2報は第一著者である。研究公正局はそれら5報の論文のネカトを指摘していない。従って、5報の論文にネカトはなかったのだろう。2016年11月1日現在、パブピアにもコメントはない。
5報も論文を出版し、そこに研究ネカトがないなら、研究のあり方・研究規範を習得していたと思われる。
論文出版数から判断すると、院生としては、超優秀である。
それが、2013年にネカトをした。華やかな表舞台から、ジェットコースターで急降下である。ブレイロックの人生に、何があったのだろう。5報の論文にネカトがないなら、そのまま、研究を続けていけば、研究者として将来有望である。院生として、陽の当たる道を歩いてきたように思える。
研究公正局の報告書には、もちろん、人生上の激変の記載はない。しかし、出版論文での不正ではなく、ポスター発表や研究室ミーティングの発表での研究ネカトである。
指導教授のネイダーが公益通報したに違いないが、若い美人女性が急変した裏に何があったんだろう? 2年間で5報も論文を出版していたので、研究環境は申し分なかったはずだ。となると、個人的事情が事件の背景にあるのだろう。
例えば、ネイダー教授との不倫が発覚した? イエイエ、ないも記載はありません。
実験で麻薬を使用しているが、実験用麻薬を自分に使用して麻薬中毒になった? イエイエ、ないも証拠はありません。
米国の大学でありがちなレイプ事件の被害者となり、学術界に嫌気がさした? イエイエ、ないも記載はありません。
両親の経済的破綻?(これは、米国の院生はほぼ経済的に独立しているので影響しないだろう)。
研究ネカト事件発生の本当の理由は、実は研究そのものとは別のところにある、ということが数割程度はあるだろうと、白楽は想定している。
《2》不正の初期
「研究上の不正行為」は、初めて不審に思った時、徹底的に調査することだ。
「研究上の不正行為」は、知識・スキル・経験が積まれると、なかなか発覚しにくくなるし、不正行為の影響も大きくなる。
ブレイロックの場合、院生の時、すでに5報の出版論文があったが、ポスター発表で2回、研究室ミーティングで複数回、研究グラントの進捗報告書での不正を見つけられて処分された。出版論文でのネカトがなくて、学術界の被害は少ない。
ごく初期に問題視したネイダー教授はエライ。
というべき面もあるが、自分の指導下の院生なら、表沙汰にする前に、チャンと指導すべきだという見方もある。
ブレイロックのように超優秀なら、特にそうだ。とはいえ、どこまで指導するか、どこから表沙汰にするか、線引きは難しい。
白楽は、一般的には、院生のネカトは指導教授に大きな責任があると考える。院生は未熟だから教育を受けている。その未熟さをつついて表沙汰にすれば、院生は育たない。
もちろん、ケース・バイ・ケースで、指導教授の指導に従わない院生の多いこと多いこと。強く指示すればアカハラと訴え、弱く指示すれば教育してないと訴える。
ブレイロックは、すでに5報の出版論文がある。研究規範を知っている(と思える)。知っていてズルした(のだろう)。この場合、早く表沙汰にするのは正解だ。
●8.【主要情報源】
① 2015年8月21日、研究公正局の報告:NOT-OD-15-149: Findings of Research Misconduct
② 2015年8月21日のロス・キース(Ross Keith)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former Wake Forest grad student fudged data for drug study – Retraction Watch at Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。