2017年6月8日掲載。
ワンポイント:盗博サイトのヴロニプラーク・ウィキの20番目。ギリシャ生まれの男性である。1998年(30歳)にドイツのハノーファー大学で法学の博士号を 取得し、英国のロンドン大学・教員(準教授?)になった。3年後の2001年9月(33歳)に盗博がバレ、翌2002年(34歳)に博士号ははく奪されたが、大学を解雇されなかった。博士号 取得14年後の2012年(44歳)にヴロニプラーク・ウィキが盗博データを発表した。現在、ロンドン大学・教授として活躍している。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.盗用解析
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ルーカス・ミステリス(Loukas A. Mistelis、写真出典)は、ギリシャ生まれの男性で、1998年(30歳?)にハノーファー大学(Gottfried Wilhelm Leibniz Universität Hannover、英語:University of Hannover)で法学の博士号を取得した。1998年(30歳)、英国のロンドン大学クイーン・メアリー・カレッジ(Queen Mary University of London)・教員(準教授?)に、2005 年(37歳)に教授になった。専門は法学で、仲裁法の国際的な権威である。
2001年9月(33歳)、被盗用者である英国研究センター(Centre for British Studies)の ヘルムート・ウェーバー教授(Helmut Weber)が、盗博をハノーファー大学法科大学院長に申し立てた。
2002年5月?(34歳)、ハノーファー大学は盗博だったと結論し、ミステリスの博士号をはく奪した
2012年3月12日(44歳)、ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)がミステリスの盗博を発表した。20番目の盗博事件である。
→ 1‐4‐10.ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)
博士号ははく奪されたが、2017年6月7日現在(49歳)、ミステリスはロンドン大学・教授として活躍している。
ハノーファー大学(Gottfried Wilhelm Leibniz Universität Hannover、英語:University of Hannover)。写真出典
- 不正:盗博(盗用博士論文)
- 国:ドイツ
- 成長国:ギリシャ
- 研究博士号(PhD)取得年月日:1998年(30歳)
- 研究博士号(PhD)取得大学:ハノーファー大学
- 分野:法学
- 博士論文タイトル:Charakterisierungen und Qualifikation im internationalen Privatrecht. Zur Lehre einer parteispezifischen Qualifikation im Kollisionsrecht der privaten Wirtschaft
(日本語訳):国際的な私権の特性および適格性。民間経済の対立の集団的適格性から学ぶ - 博士論文審査教授: Gutachter: Prof. Dr. Oskar Hartwieg und Prof. Dr. Manfred Wandt
- 公開: Tübingen 1999. → Nachweis Deutsche Nationalbibliothek → ISBN 3-16-147122-9 → Inhaltsverzeichnis.
1. Oktober 2013: Uni erkennt Juristen Doktortitel ab → Presseartikel der Hannoverschen Allgemeinen
3. November 2016: Verwaltungsgericht Hannover bestätigt den Entzug (Az. 6 A 6114/13) - ヴロニプラーク・ウィキでの盗博発表年月日:2012年3月12日(44歳)
- 盗用ページ率:45.4%
- 盗用文字率:約13%
- 研究博士号(PhD)はく奪状況:はく奪
- 男女:男性
- 生年月日:1967年。仮に1967年12月31日とする
- 現在の年齢:56 歳?
- 発覚:2001年9月(33歳?)
- 発覚時地位:英国のロンドン大学クイーン・メアリー・カレッジ(Queen Mary University of London)・教員(準教授?)
- ステップ1(発覚):第一次追及者は、被盗用者である英国研究センター(Centre for British Studies)の ヘルムート・ウェーバー教授(Helmut Weber)で、盗博をハノーファー大学法科大学院長に申し立てた
- ステップ2(メディア):ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ドイツのハノーファー大学・調査委員会。②英国のロンドン大学クイーン・メアリー・カレッジ(Queen Mary University of London)が調査したかどうか不明
- 結末:博士号がはく奪された。解雇なし
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:1967年。仮に1967年12月31日とする。ギリシャに生まれた
- 1990年(22歳): フランスの国際比較人権大学(International & Comparative Human Rights, IIHR, Strasbourg)・卒業
- 1991年(23歳):ギリシャのアテネ大学。学士号:法学(LLB Hons)
- 1992年(24歳):ドイツのハノーファー大学。学士号:法学(MLE magna cum laude)
- 1998年(30歳):ドイツのハノーファー大学法科大学院で、博士号取得(Dr iuris summa cum laude)
- 1998年(30歳):日本の慶應大学・法学部。短期留学生? 国際法修了
- 1998年(30歳):英国のロンドン大学クイーン・メアリー・カレッジ(Queen Mary University of London)・教員(準教授?)
- 2001年9月(33歳):英国研究センター(Centre for British Studies)の ヘルムート・ウェーバー教授(Helmut Weber)がミステリスの盗博を通報
- 2002年5月?(34歳):ハノーファー大学はミステリスが盗博だったと結論し、博士号をはく奪した
2005 年(37歳): 英国のロンドン大学クイーン・メアリー・カレッジ(Queen Mary University of London)・教授 2012年3月12日(44歳):ヴロニプラーク・ウィキが14年前の盗博をサイトに発表
●3.【動画】
【動画1】
事件ニュースではない。
発表と討論:「QUEDOS Launch Panel – Management, Finance and Law: The Credit Crisis [Part 1 of 3]- YouTube」(英語)9分12秒。
3人の中央の座長はLord Collins、左側がルーカス・ミステリス(Loukas Mistelis)、右側がTakis Tridimas教授
qmulquedos が 2010/03/22 にアップロード
【動画2】
事件ニュースではない。
研究に関するインタビューに答えるルーカス・ミステリス(英語)5分20秒。
2016/02/08Loukas Mistelis on Vimeo
https://vimeo.com/154580499
●5.【不正発覚の経緯と内容】
ルーカス・ミステリス(Loukas Mistelis)はギリシャで生まれ、1998年(30歳)、ドイツのハノーファー大学法科大学院で博士号を取得した(Dr iuris summa cum laude)。
2001年9月(33歳)、英国研究センター(Centre for British Studies)の ヘルムート・ウェーバー教授(Helmut Weber、写真出典)は自分の論文がミステリスの博士論文に盗用されていると、ハノーファー大学法科大学院長に申し立てた。
2001年10月(33歳)、 ハノーファー大学法科大学院長はウェーバーの申し立てをミステリスに伝え、自分(法科大学院長)及びウェーバーに返事するように、ミステリスに伝えた。
2001年11月(33歳)、ミステリスは法科大学院長に以下の返事したが、ウェーバーには返事を送付しなかった。
「私の博士論文の文章がヘルムート・ウェーバーの文章に類似しているのは奇妙だが、類似は意図的ではありません。文献引用が本文や脚注に見つからないのは奇妙だが、単純なミスです」
2001年12月(33歳)、ハノーファー大学法科大学院の非公式委員会(Professorium)がこの問題を討議した。結論は、公式な調査委員会を設置せず、被盗用者のウェーバーと盗用者のミステリスの2人で話し合い、2人が満足する解決案を探ってもらうことにした。
2002年1月(34歳)、法科大学院長は上記の提案を2人に伝えた。
2002年2月(34歳)、ウェーバーはミステリスがまだ連絡してこないと法科大学院長に伝えた。同時に、ミステリスの博士論文の盗用事例を詳細に例示した。
例えば、以下の盗用比較図である。左がミステリスの博士論文の27ページで、右がウェーバーの1986年の文章である。着色部分は同じ文字である。
もう1つの盗用比較図である。左がミステリスの博士論文の85ページで、右がウェーバーの1986年の文章である。着色部分は同じ文字である。
これら2つの盗用比較図は、盗用の少数例だが、盗用文章はミステリスの論文の文章の再使用ではなく、他人の文章であると、ウェーバーは指摘している。
博士論文規則の第4条(2) 3(Promotionsordnung)に「文章の再使用は著者名のある文献だけを使用し、逐語的流用や言い替えられた部分ははっきりとマークしなければならない」 とあることも、ウェーバーは指摘した。
ウェーバーは、DFG-ドイツ研究振興協会(German Research Foundation (Deutsche Forschungsgemeinschaft) の1988年のガイドライン「 研究善行基準」第8条に提示されているように、法科大学院長が公式な調査を開始することを要求した。
2002年3月(34歳)、法科大学院長はハノーファー大学・倫理委員会(Ethics Committee of the University in Hanover)に事態を報告した。
2002年4月(34歳)、ハノーファー大学・倫理委員会は会議を行ない、ウェーバーの申し立てたように、ミステリスは引用せずにウェーバーの文章を逐語盗用あるいは加工盗用していると認め、ミステリスはウェーバーに謝罪するようにと伝えた。ただし、これで調査を終了とし、ウェーバー以外の人からの盗用については調査をしなかった。
2002年5月(34歳)、法科大学院の新院長は、ミステリスの博士号をはく奪した(推定)。また、法科大学院の結論をウェーバーに伝え、謝罪した。
新院長は、「法科大学院の有能な教授がミステリス論文のレビューを書き、ネカトの例としてミステリスの論文を取り上げ研究ネカトを議論する」改善案もウェーバーに示した。
ウェーバーは改善案と謝罪を受け入れた。
しかし、ミステリスは現在もハノーファー大学・倫理委員会の結論を不服としている。
それから9年が経った。
2012年3月12日(44歳)、ヴロニプラーク・ウィキが14年前の盗博をサイトに発表した。盗用ページ率は45.4%である。
2017年6月7日現在(49歳)、ミステリスはロンドン大学・教授として活躍している。
●6.【盗用解析:博士論文】
ルーカス・ミステリス(Loukas Mistelis)の博士論文のタイトルは 「Charakterisierungen und Qualifikation im internationalen Privatrecht. Zur Lehre einer parteispezifischen Qualifikation im Kollisionsrecht der privaten Wirtschaft
(日本語訳):国際的な私権の特性および適格性。民間経済の対立の集団的適格性から学ぶ」である。
博士論文は書籍として出版されている(写真出典はAmazon)。
博士論文の盗用分析図は以下の5色のバーコードである。博士論文の本文は260ページ、盗用ページ率は45.4%で、盗用文字率は約13%と算定されている。
なお、元の盗用分析図では、バーコードがページ毎の盗用分析にリンクしている。→ http://de.vroniplag.wikia.com/wiki/Lm
★イラスト表示
以下はページ毎に色分けしたイラスト表示である。
盗用の色分けは、灰色= 逐語盗用(コピペ、文献提示なし)、赤色 = 加工盗用(ロゲッティング、文献提示なし)、黄色 =流用部分が曖昧な盗用(文献提示あり)、 青色 = 翻訳盗用、である。
イラスト表示では、灰色= 逐語盗用はほとんどなく、加工盗用(ロゲッティング、文献提示なし)と、黄色 =流用部分が曖昧な盗用(文献提示あり)が多い。
★各ページの盗用分析
ルーカス・ミステリス(Loukas Mistelis)の博士論文の各ページ毎に盗用分析がされている。盗用があるページは青色で、盗用がないページは赤色である。青色をクリックすると、各ページが開く。
【27ページ目】
27ページの盗用比較図は本文中に示した。
【85ページ目】
85ページの盗用比較図は本文中に示した。
【1ページ目】
他の例として、1ページ目(つまり、001)を示す。青地(001)をクリックすると、盗用比較図が出てくる。以下はその1部分を示した。1ページ目はイラストで赤色( 加工盗用)である。
左側がルーカス・ミステリス(Loukas Mistelis)の博士論文で右が被盗用論文である。着色部分の文章が同一である。
イラストで赤色( 加工盗用)の部分を上にあげたが、文献の記載はなく逐語盗用に近いので、完全な盗用です。
●7.【白楽の感想】
《1》わからないこと多し
ルーカス・ミステリス(Loukas Mistelis)はギリシャで生まれ、ドイツの大学で博士号を取得した。
どうして盗博したのか、どこに原因があるのか、どうすれば今後の盗博を防げるのか、この事件からは見えてこない。
盗博で博士号がはく奪されたにもかかわらず、英国のロンドン大学クイーン・メアリー・カレッジ(Queen Mary University of London)は、ミステリスを解雇しないばかりか、発覚の3年後に、教授に昇進させた。どうして?
正義と損得の天秤にかけたと推察する。ミステリスは仲裁法の国際的な権威である。盗博でも、有能な人物なのでロンドン大学(もっと大きく、世界?)にとって得だという損得勘定が働いたのだろう。
とはいえ、盗博という汚点を背負ったまま、学術界や国際政治の舞台で活躍させるのも、何か異常な気がする。
ハノーファー大学として博士号はく奪は当然だが、他のペナルティ(しょく罪?)として、学術界から排除しないなら、罰金2000万-1億円などが妥当かもしれない(罰金はネカト対策に使用)。ペナルティが曖昧なのは(例:社会的信用を失う)、社会ルールとしておかしいと思う。
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●8.【主要情報源】
① ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)のルーカス・ミステリス(Loukas Mistelis)サイト:Lm | VroniPlag Wiki | Fandom powered by Wikia
② ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)のルーカス・ミステリス(Loukas Mistelis)の英語版サイト:Lm/Uni Hannover-en | VroniPlag Wiki | Fandom powered by Wikia
③ 2012年3月19日の「Guttengate – Plagiat & Plagiatsvorwürfe 」記事:Plagiatsvorwürfe gegen Prof. Dr. Loukas Mistelis | Guttengate – Plagiat & Plagiatsvorwürfe
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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