7-55 ネカトを刑法犯とする

2020年6月3日掲載 

白楽の意図:ネカトを刑法犯とみなし始めた世界の新しい動向を紹介したラファエル・ダルレ(Rafael Dal-Ré)の「2020年1月のResearch Ethics」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.日本語の予備解説
4.論文内容
5.関連情報
6.白楽の感想
8.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

省略

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

  • 論文名:Should research misconduct be criminalized?
    日本語訳:ネカトを犯罪化すべきか?
  • 著者:Rafael Dal-Ré, Lex M Bouter, Pim Cuijpers, Christian Gluud, Søren Holm
  • 掲載誌・巻・ページ:Research Ethics: 2020, Vol. 16(1-2) 1–12
  • 発行年月日:2020年1月1日
  • オンライン発行年月日:2020年1月1日
  • 引用方法:
  • DOI:https://doi.org/10.1177/1747016119898400
  • ウェブ:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1747016119898400
  • PDF:https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/1747016119898400
  • 著作権:CC BY-NC 4.0:作品を複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、著作権者の表示を要求し、非営利目的での利用に限定する(クリエイティブ・コモンズ – Wikipedia

★著者

  • 第1著者:ラファエル・ダルレ(Rafael Dal-Ré、ラファエル・ダル=レ)
  • 写真:https://www.researchgate.net/profile/Rafael_Dal-Re2
  • ORCID iD:
  • 履歴:①:http://www.germanstrias.org/media/upload/pdf/rdr-cv-narrativo-2018_154142285429.pdf。②:Rafael Dal-Re
  • 国:スペイン
  • 生年月日:不明。現在の年齢:56 歳?
  • 学歴:コンプルテンス大学で医師免許(doctor en Medicina per la Universitat Complutense)、マドリード自治大学の公衆衛生学修士(i màster en Salut Pública per la Universitat Autònoma de Madrid)
  • 分野:臨床研究マネージャー
  • 論文出版時の所属・地位:2016年以降、マドリード自治大学・ヒメネスディアス財団病院・疫学ユニット、外部協力者(Epidemiology Unit, Health Research Institute-Fundación Jiménez Díaz University Hospital, Universidad Autónoma de Madrid, (IIS-FJD, UAM), Madrid, Spain)

ヒメネスディアス財団病院(Fundación Jiménez Díaz University Hospital)。写真出典

●3.【日本語の予備解説】

★2013年4月30日:上昌広(東大医科学研究所特任教授):ノバルティス ディオバン(バルサルタン)臨床研究データ捏造疑惑: 上昌広: バルサルタン問題解明のための障壁 「故意犯」に如何に対応するか、(2020年5月26日保存版

ディオバン臨床研究のデータ捏造疑惑をどうすると解明できるのか?

学会には調査をする権限も人手もない。議論は一般論に終始しがちだ。例えば、日本高血圧学会は「臨床試験に関わる第三者委員会」や、日本医学会は「利益相反委員会」(日本医学会)で議論を続けているようだが、具体的な問題に切り込んでいるとは言い難い。

では、真相究明には、どのような仕組みが必要なのだろうか。注目すべきは、臨床研究不正の多くが、故意であることだ。論文を捏造することで、研究者は業績と幾ばくかの研究費、製薬企業は巨額の利益を得ることが出来る。れっきとした「犯罪」である。「犯罪」が発覚しそうになれば、関係者は黙秘し、証拠隠滅を図ってもおかしくない。論文捏造は、過失による医療事故と同列に扱うべきではない。

「故意犯」は、本来、強制調査権を有する司法が取り扱うべきだ。ところが、医学研究は高度に専門的だ。警察には敷居が高い。

★2013年7月13日:世界変動展望:設置すべきは米国ORIのような機関ではなく、どんな分野も客観的、積極的、強制的に調査できる第三者機関 – 世界変動展望

ディオバン臨床研究のデータ捏造疑惑をどうすると解明できるのか?

学術警察を作らずに現状の研究不正問題を改善する方法があるか考えてみたが、今のところいいアイデアは浮かばない。上のような問題(白楽注:ディオバン事件)は学術警察を作らないと改善できないのではないか。引き続き対策は考えるが、よいアイデアがあればコメントを投稿していただきたい。

★2016年12月5日:1‐3‐2.研究ネカトは警察が捜査せよ! | 白楽の研究者倫理

研究ネカトは「不適切だが違法ではない」とされてきた。しかし、ズルして論文を発表し、職・地位・研究費・名声を得る行為で、本来なら採用・昇進・採択・受賞する人の機会を奪う。多額の研究費(1件で数億円など)を無駄にし、多数の人に健康被害(含・死亡)をもたらす。学術界は聖域でも治外法権でもない。研究ネカトを犯罪とみなし、警察が捜査し、クロなら刑罰(懲役、禁錮、罰金、拘留、没収)を科すべきだ。法制度・社会制度の改革を望む。白楽は今まで、日本に研究公正局を設置するよう主張していたが、もういい。警察が捜査すればいい。

●4.【論文内容】

《1》序論 

多くの国はスポーツのドーピング違反者に刑事罰を科している。米国は米国外の国際スポーツでのドーピングを犯罪とする方向である(Ruiz, 2018)。このように、社会はスポーツにおける重大な不正行為を犯罪とみなす方向であるが、学術界は研究における重大な不正行為を犯罪とさせない方向で大きな成功を収めてきた。科学研究には自己修正機能がある(Alberts et al., 2015)という思想が、この状況を作り出した根本的な理屈である。

ほとんどの国は、ネカトを悪とみなしているが、ネカト調査は研究者がしている。この方式は法的に対処するよりも良いのか、それとも、悪いのかを検討しよう。

欠陥論文を撤回することは、科学研究の自己修正の主要な結果である。しかし、ネカトで有罪となったすべての著者が論文を撤回したわけではない(Drimer-Batca et al., 2019)。つまり、科学研究の自己修正はほころびている。

データによると、生命科学の撤回論文は増加しているが、撤回理由の67%はネカトである(Fang et al., 2012)。しかし、1979年から2015年の37年間で刑事罰の対象となったネカト者は、7か国の39人しかいない(Oransky and Abritis, 2017)。ネカト行為を犯罪と見なすべきかどうかについての議論は、かつてはあまり目立たなかったが、最近、顕著になってきた。

《2》研究上の不正行為 

1992年、米国は、研究上の不正行為を、研究の提案・実行・報告における、ねつ造(無いデータまたは結果を作る)、改ざん(あるデータまたは結果を変更する)、盗用(適切なクレジットを与えずに他人のアイデアや言葉を使用)、つまりネカト(FFP)と定義した(National Academy of Sciences, 1992)。この定義は世界に広く受け入れられ、研究不正に関する国家政策を持つ22か国のすべては、ネカト(FFP)を研究不正の定義に含めた(Resnik et al., 2015)。

しかし、著者在順違反、利益相反、その他の種類の11項目の不正行為も、研究上の不正行為とされ(Resnik et al., 2015)、ネカト(FFP)を中心に、他の不正行為を追加した国もある(Netherlands Code of Conduct for Research Integrity 2018; National Health and Medical Research Council, Australia, 2018)。

欧州法は、著者在順違反、研究結果の非公表、研究結果の重要性・実用性の誇張表現など、クログレイ行為(許容できない行為)のいくつかを加えた(ALLEA, 2017)。改正オランダ法は、責任ある研究行動を61項目とし、その23項目に違反した場合、研究不正と見なすとした (Netherlands Code of Conduct for Research Integrity, 2018)。オーストラリア法は、意図的に、無謀で、不注意に、行動規範に重大な違反した時、不正行為だと定義している。ネカト(FFP)に言及していない(National Health and Medical Research Council, Australia, 2018)。カナダは、ネカト(FFP)に加えた多くの研究上の不正行為を研究不正と定義している(National Research Council Canada, 2018)。一方、最近更新されたデンマークの研究不正に関する法律は、ネカト(FFP)だけを研究不正と定義している。

他の関係機関は、研究上の不正行為をさまざまなに定義している。科学編集者評議会(Council of Science Editors)は、アカハラを古典的なネカト(FFP)に追加した(Council of Science Editors, 2018)。国際医学学術誌編集者委員会(ICMJE:International Committee of Medical Journal Editors)は、意図的な利益相反不開示をネカト(FFP)に追加した(ICMJE, 2018)。アンダーソンらは、研究上の不正行為を22行為とし、それらを「データ」、「方法」、「ポリシー」、「外部の影響」、「信用」、「手抜き」の6カテゴリーに分類した(Anderson et al. (2007))。

日本の黒木登志夫は、社会的影響を考慮した研究不正行為の新しい分類を提案した。クラスⅠ(真実の裏切り):ねつ造と改ざん。クラスⅡ(信頼の裏切り):盗用、再現性欠如、ズサン。クラスⅢ:健康製品と工業製品の安全性欠如(Kuroki (2018))。

最後に、研究上の不正行為を60行為リストし、研究公正会議の参加者にアンケートをした結果、ねつ造・改ざんが「真実の損傷」の最高値を得、盗用は「信頼の損傷」の最高値を得た(Bouter et al., 2016)。

2000年~2017年の18間に、研究上の不正行為に関する15,000報の論文が発表された(Kornfeld, 2018)。研究上の不正行為は、科学研究界と国民大衆の両方に対して研究公正、信頼、信用を損なう。

しかし、 ネカト(FFP)以外は、どの不正行為を研究不正とすべきかのコンセンサスは得られていない。科学研究はグローバルな事業である。研究の不正行為を防止し、最小限に抑えるには、研究不正の明確な境界、明確な基準を備えたグローバルな運用が必要である。

《3》ネカトの頻度 

パブメド(PubMed)での撤回論文数は、1975年に比べ2012年5月には10倍も増え、2,047報になった。撤回理由の67%は不正行為によるものだった(ネカト(FFP)が53%、重複が14%)(Fang et al., 2012)。

この種の最大のデータベースである撤回監視データベースには、現在18,500報以上の撤回論文が収集されている(Retraction Watch database, 2019)。2016年までの10,500報の撤回論文の分析では、全発表論文の0.04%が撤回され、年間の撤回数は約1,000報だった。撤回論文数は2012年以降低下し、2014年に撤回された946論文の撤回理由の43%がネカト(FFP)だった(Brainard and You, 2018)。 → 7-53 撤回監視データベースから学ぶ | 白楽の研究者倫理

撤回理由の約50%がネカト(FFP)で、他のタイプの不正行為がさらに10%を占めた(Brainard and You, 2018)。しかし、撤回の数十%は研究不正の結果ではなかった。

撤回監視データベースは2018年12月までに撤回された医学論文は4,898報あった。撤回理由は重複してカウントされているが、データ、画像、結果のねつ造/改ざんが759報(16%)、あらゆるタイプの盗用が780報(16%)、インフォームドコンセントに関する深刻な問題が41報(1%)、研究倫理委員会の未承認が184報(4%)だった(Retraction Watch database, 2019)。

出版バイアスと結果報告バイアスは研究不正で、数十億ドル(数千億円)の無駄遣いにつながっている(Chan et al., 2014)。これらのバイアスが臨床試験報告で起こると、病気の治療に影響が及び、患者の健康被害や死亡に至る場合もある。

臨床試験研究の85%は学術誌に発表されない。理由は、①時間がない、②優先度が低い、だった(Song et al., 2014)。 結果報告バイアスは医学の学術誌では一般的だが、医師による患者の治療に影響を与える可能性がある(Becker et al., 2014; Dwan et al., 2014)。

研究上の不正行為の発生率(発生数)を表2に示す(英語のママでスミません)。

《4》偽造データ  

マルコム・ピアース(Malcolm Pearce)は、1995年に、偽造データに基づいた2論文を発表したため、英国の医療登録簿から医師資格が削除された(Lock, 1995)。  → マルコム・ピアース(Malcolm Pearce) | 白楽の研究者倫理

2000年に、研究上の不正行為は、金融詐欺と変わらない犯罪であると見なされ始めた。実施される研究不正調査は、学術界のそれよりも警察の捜査に沿っている(Smith, 2013) 。研究上の「不正行為」という表現は「詐欺」の婉曲表現であり、警察は研究不正行為の捜査で学術界よりも優れていた(Editorial, 2013)。

警察の捜査を主張するコメント記事が多くあるが(Bhutta and Crane、2014; Smith、2013)、しかし、世界の多くの国は、自己規制が研究不正行為を処理する主要な方法だという考えをほとんど変えていない(Bouter、2018)。

大学・研究機関は通常、研究公正と責任ある研究行動に関する独自のガイドラインを設け、研究不正行為の疑いのある事例を調査する独自の手順を持っている。このシステムの明らかな難点の1つは、調査対象が自分の組織内の研究者ということだ。そのために、自分たちの評判を守る事が優先し、調査・処分が甘くなり、ネカト者名の秘匿、調査過程・結果の透明性が欠けることだ。実際、英国の136大学の4分の1は、不正行為を公表せず、将来的にも公表する意図がないと報告されている(Iacobucci、2018年)。

米国では、政府機関の研究公正局が生命科学系のネカト(FFP)に対処している(Office of Research Integrity、2019)。しかし、研究機関や大学から独立した研究不正対処機関を設置・計画している国は少ししかない(表3。英語のママでスミません)。

《5》研究不正の境界 

研究不正を刑法の対象とするかどうかを決める際の重要な点は、研究不正の定義である。研究不正の境界線を合理的に明確に描ければ、研究不正を刑法の対象とするかどうかの議論はより明確になる。

深刻な研究不正を詐欺と見なし、刑事罰、つまり罰金や投獄などの刑事罰に処すべきである。

勿論、すべての研究不正は深刻で、特に、ネカト(FFP)は、詐欺罪の有力候補だ。しかし、すべてのネカト(FFP)は重大な不正行為で、すべての非ネカト(FFP)はそうではないと、単純には断定できない(Bülow and Helgesson、2019)。

ねつ造・改ざんは広範である。低予算の研究で科学的影響力が少ない論文でねつ造・改ざんをする研究者がいる一方、膨大なお金を使った重要な論文でねつ造・改ざんをする研究者もいる。臨床試験では、データを選んで報告した場合、それが意図的または大きな過失なら研究不正行為であり、患者の健康に有害な可能性がある。

誤用した金額の大きさと、ねつ造・改ざんの結果が及ぼす社会的(または生態学的)影響の大きさを、犯罪・非犯罪の境界の設定基準として考慮することは合理的に思われる。その場合、刑法の詐欺罪とすべきかどうか決めるには、金額と社会的影響の両方の基準を設定する必要がある。

とはいえ、最近の調査では、アメリカ人の66%は、ねつ造・改ざんを犯罪化すべきと答えている。 65%は罰金および/または保護観察を科すべきと、35%は投獄すべきと答えた(Picket and Roche、2018)。

盗用もねつ造・改ざんと同様である。データの盗用(83論文)、画像の盗用(70論文)、文章の盗用(337論文)、または論文全体の盗用(346論文)と4種類の盗用がある(Retraction Watch database, 2019)。この4種類の盗用は盗用という行為は同じだが、異なる面もあり、すべてを同じ基準で管理すべきではない。刑法に該当するほど深刻な盗用は、どの程度なのか、基準を設定することが重要である。

《6》ネカトを犯罪とすべきか? 

研究不正への対処は、現在、世界中でゆっくり前進している。いくつもの国家および超国家機関は、行動規範を更新している。研究者の数が増え、出版への圧力が高まり、問題は大きくなっている。

そして、研究不正疑惑の調査を学術界から裁判所に移行することが進行中である。

デンマークは、ネカト(FFP)に焦点を当てた新しい法律を、1992年に検討し始め、2017年に導入した(Minister of Higher Education and Science, Denmark, 2019)。2019年、スウェーデンもデンマークに続いて導入した(Government offices of Sweden, 2019)。中国は、「主要な」研究不正で有罪となった研究者に対して、学術界以外の仕事への制限、銀行ローン禁止、会社運営禁止、公務員職への応募禁止など、広範な罰則システムを発表した。ただし、「主要な」研究不正の「主要な」をまだ定義していない(Cyranoski、2018)。

[白楽追記:7-40.モンテネグロのネカト禁止法 | 白楽の研究者倫理

研究不正を犯罪とすれば、その強い抑止力で研究公正は改善するだろう。ただし、研究不正が詐欺と見なされると、新たな問題が発生する可能性もある。

クログレイ行為は法的処罰の対象外になるだろう(Bülow and Helgesson, 2019)。

これまで示したように、大学・研究機関が研究上の不正行為とみなす行為は多様なので、クログレイ行為が法的処罰の対象外になると、研究公正の実践に深刻な影響を及ぼす。

これに対処するために、デンマークは、刑法の対象としたネカト(FFP)はデンマークの研究不正行為委員会(Danish Committee on Research Misconduc)が責任を負うが、クログレイ行為は大学・研究機関が責任を負うとした(Minister of Higher Education and Science, Denmark, 2019)。

他の国も、研究者が所属する大学・研究機関は、ネカト(FFP)調査を担当すべきではない。ほとんどの大学・研究機関は、独自の手順でネカト(FFP)疑惑を処理し続けているが、その多くは合理的な基準を満たしておらず、透明性に欠けている(Grey et al., 2019; Gunsalus et al., 2018)。

●5.【関連情報】

【動画1】
本論文の著者のラファエル・ダル=レ(Rafael Dal-Ré)の講演動画:「会議:「ヘルシンキ宣言の起源と展開」(Conferencia: “Origen y desarrollo de la declaración de Helsinki”) – YouTube」(スペイン語)1時間1分00秒。
Fundació Grífolsが2013/11/15に公開

【動画2】
動画:「完全犯罪-アメリカの科学詐欺(The Perfect Crime – Scientific Fraud in America) – YouTube」(英語)19分59秒。
Coffee Breakが2019/12/27に公開

●6.【白楽の感想】

《1》やる気の問題 

「3.【日本語の予備解説】」の上昌広の部分を以下に再掲する。

★2013年4月30日:上昌広(東大医科学研究所特任教授):ノバルティス ディオバン(バルサルタン)臨床研究データ捏造疑惑: 上昌広: バルサルタン問題解明のための障壁 「故意犯」に如何に対応するか、(2020年5月26日保存版

真相究明には、どのような仕組みが必要なのだろうか。注目すべきは、臨床研究不正の多くが、故意であることだ。論文を捏造することで、研究者は業績と幾ばくかの研究費、製薬企業は巨額の利益を得ることが出来る。れっきとした「犯罪」である。「犯罪」が発覚しそうになれば、関係者は黙秘し、証拠隠滅を図ってもおかしくない。論文捏造は、過失による医療事故と同列に扱うべきではない。

「故意犯」は、本来、強制調査権を有する司法が取り扱うべきだ。ところが、医学研究は高度に専門的だ。警察には敷居が高い。

チョッと待って欲しい。

「高度に専門的」でも、警察の捜査の壁になってはならない。事実、経済犯、コンピューター犯も高度に専門的だが、警察が捜査している。そういう専門家を警察が雇用・育成し、捜査できる実力と仕組み(含・法制度や部局設置)を作ればよいだけの話だ。

「高度に専門的」だから捜査できない、つまり、罪に問えない、さらに言うと、治外法権、なんてことは、社会の仕組みとしてあってはならない。

《2》科学研究の自己修正 

研究上の不正行為を犯罪としなかった唯一の根拠は、科学研究の自己修正機能である。

ウルフガング・ストレーベ(Wolfgang Stroebe)は、科学は自律的にネカト行為を修正できるというのは「神話」だとしている。 → 7-9.事件から学ぶネカト対策:ウルフガング・ストレーベ(Wolfgang Stroebe)他、2012年 | 白楽の研究者倫理

実際、ネカト(FFP)やクログレイ行為に対して、科学研究の自己修正機能はほとんど機能していない。学会がネカトを摘発し排除した事件はとても少ない(というか、なかったと思う)。

ネカト(FFP)を憂慮するネカトハンターがボランティアとして善意で摘発・告発、または、たまたま同じ研究室の人のネカトを見たネカト遭遇者が善意で摘発・告発し、研究公正がそこそこ維持されているのが現状である。

新しい論文が古い論文を塗り替える、という点では、科学研究は自己修正しながら発展してきた。しかし、この自己修正は意図的にデータねつ造・改ざんや盗用した論文の修正とは次元が全く異なる。後者は、明かに詐欺であり、白楽は、犯罪だと思う。

今まで犯罪としてこなかったから、ネカト犯は不当に昇進・受賞・研究費獲得し我が世の春をエンジョイしてきた。発覚したところで、研究職を失うだけだ(日本では停職なので研究職も失わない)。それまで得た富の返還は要求されない。これではネカトをした方が得である。だから、ネカト行為は後を絶たない。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条報は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★論文中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●8.【コメント】

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