民族学:ワード・チャーチル(Ward Churchill)(米)

ワンポイント:日系人を妻に持つ著名学者の911テロ評論が非難され、研究ネカトを理由に解雇された

【概略】
0_22_churchill_wardワード・チャーチル(Ward Churchill、写真出典)は、米国・コロラド大学(University of Colorado)・教授で、専門は民族学(先住民から見た米国史)だった。

妻はジョージア州立大学・法学部教授(国際法・人権)で日系三世のナツ・サイトウ(Natsu Taylor Saito)である。

2001年9月12日(53歳)、ニューヨークの911テロの翌日、後に問題視される911テロに関するエッセイをブログに書いた。

2005年1月、それまで問題にされなかった上記のエッセイが、突如、やり玉に挙げられ、ニューヨーク州知事やコロラド州知事がチャーチルを排斥する発言をした。

2006年5月16日(58歳)、コロラド大学・調査委員会がチャーチルにねつ造・改ざん・盗用があったと発表した。これは、チャーチルの911テロ発言に対する世間と政治的圧力(州知事など)に負けて、チャーチルの弱点を探した結果だと思われる。発端や悪意とは別に、しかし、研究ネカトは明白だった。

2007年7月24日(59歳)、コロラド大学はチャーチルを解雇した。911テロ発言に対する解雇と受け取れるが、研究ネカトでの解雇である。

この事件の日本語解説はたくさん(3つ以上)あった。「賀茂川耕助」「Luna’s “Tomorrow is another day”」「CNN:2009年4月3日」の文章を本文に引用した。

この事件は、 「学術史上の10大研究スキャンダル」ランキングの第5位である(2012年ランキング | 研究倫理)。

campusコロラド大学ボルダー校(University of Colorado Boulder)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1947年10月2日
  • 現在の年齢:70 歳
  • 分野:民族学
  • 最初の不正論文発表:1998年(40歳)
  • 発覚年:2006年(58歳)
  • 発覚時地位:コロラド大学・教授
  • 発覚:コロラド大学・調査委員会
  • 調査:①コロラド大学・調査委員会。②裁判所
  • 不正:ねつ造・改ざん・盗用
  • 不正論文数:7著作物
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 結末:解雇

【経歴と経過】

  • 1947年10月2日:米国・イリノイ州で生まれる
  • 1966年(18歳):米国・陸軍に入隊。後に、ベトナム戦線に参戦
  • 1974年(26歳):サンガモン州立大学(Sangamon State University、現・イリノイ大学スプリングフィールド校 University of Illinois at Springfield)を卒業。学士号。コミュニケーション学
  • 1975年(27歳):同大学で修士号取得。コミュニケーション学
  • 1978年(30歳):米国・コロラド大学の事務局員。アファーマティブ・アクション(affirmative action)での雇用。アメリカ原住民の講義も受け持つ
  • 1990年(42歳):コロラド大学・準教授(準教授になるには、通常は博士号が必要だがもっていなかった)
  • 1991年(43歳):コロラド大学のテニュア取得(テニュア取得には、通常は在職して6年必要のところ1年で取得)
  • 1997年(49歳):同・正教授
  • 2001年(53歳):ニューヨークの911テロの翌日、後に問題視される911テロに関するエッセイをブログに書いた
  • 2002年6月(54歳):同・学科長
  • 2005年1月(57歳):それまで問題にされなかった2001年のエッセイが、突如、やり玉に挙げられた
  • 2005年1月(57歳):学科長を辞職
  • 2006年5月16日(58歳):コロラド大学・調査委員会がチャーチルの著作物にねつ造・改ざん・盗用があったと発表した
  • 2007年7月24日(59歳):コロラド大学は研究ネカトでチャーチルを解雇
  • 2013年4月1日(65歳):米国・最高裁はチャーチルの上訴棄却した

【動画】

動画がいくつもある。

【動画:ドキュメンタリー】
「When They Came After Ward Churchill part 1 – YouTube」(英語)9分30秒。
ワード・チャーチルの911テロ発言論争のドキュメンタリー。シリーズ4本のうちのシリーズ1.
postciv が2009/03/02 にアップロード

【動画:ドキュメンタリー】
「Megyn Kelly Takes On Ward Churchill: How Can You Compare 9/11 Victims to Nazis? – YouTube」(英語)18分19秒。
FOXニュースの人気ニュースキャスター・メジン・ケリー(Megyn Kelly)がワード・チャーチルの911テロ発言を悪者的にあおった。シリーズ2本のうちのシリーズ1.
One Postが2014/09/09 に公開

【日本語の既解説】

日本語解説が少しあった。日本語解説を「修正」引用する。

★ワード・チャーチルの夫人は日系三世のナツ・サイトウ(Natsu Taylor Saito)

以下、Luna’s “Tomorrow is another day”から引用。

日系三世で弁護士、アトランタ市にあるジョージア州立大学の法学部教授(国際法・人権)でもある。

以下、山倉明弘の「No37.yamakura.html」から引用

ちなみに、サイトウ準教授のお父上は、英文毎日の記者として、またFM大阪の英語ディスクジョッキーとして活躍した日系二世のモース・サイトウ氏である。若い頃一所懸命英語を勉強した日本人の中で、サイトウ氏のことを記憶している人は多いのではあるまいか。

ワード・チャーチル1ワード・チャーチルの夫人は日系三世のナツ・サイトウ(Natsu Taylor Saito)。2009年3月25日。マーク・レフィングウェル(Mark Leffingwell)撮影。写真出典

★賀茂川耕助(ペンネーム。企業経営者、夫、父、祖父):2005年3月28日

出典 →No.674 発言の自由奪う米の詭弁 | 耕助のブログ保存版

アメリカ先住民の血をひくコロラド大学教授のワード・チャーチル氏は、先住民問題で著名な活動家で著書も数多くある。

問題となったのは、氏が9月11日の攻撃は米国の外交政策によって引き起こされたというテーマで書いた論文で、ある大学は講演会をキャンセルし、講義するコロラド大学は教授の懲戒免職の可能性について審議しているという。

チャーチル氏は主張を撤回するつもりはないとし、私も論文を読んだがなぜそれほど批判されるのか理解できなかった。

自分と同じ意見の人の文章ばかりを読むことがよいとはいえないし、一般に言われていることがほんとうに正しいかどうか自分で疑問を投げかけてみることは大切だ。全てを知る人などいないのだから、特に大学はさまざまな意見が交換される場所であるべきだ。

チャーチル氏の論文は、世界貿易センターで犠牲になった人々をナチの戦争犯罪人に例えたことが批判の的となっている。米国が誇る国際金融帝国の象徴でもある場所で働いていた人々は、米国が行った湾岸戦争や経済制裁の報いを受けたのだ、というのが彼の考えだ。

そして9月11日の事件は「人は自分が相手にしたことを、相手から受け取ることになるのであり、それが現実のものとなった」にすぎないのだという。

私を含めて、アフガニスタンやイラクへの攻撃を反対する人はチャーチル氏が学生に危険思想を教えているとは感じないだろう。基本的に彼が言っているのは、剣に生きる者は剣に死ぬ、ということだ。

チャーチルはこうも言った。「長いことそこにいたからと言って、おけの中の犬がおけの権利を持つということに同意できないし、その権利を認めない。だから、たとえばアメリカ先住民やオーストラリアのアボリジニに悪行がなされたとは思っていない。彼らは、より強い、より上位の人種、より賢い人種(白人)に住む場所をとって代わられたというのが事実なのだ」。

これは同じチャーチルでもウインストン・チャーチルの言葉だ。チャーチルはまた「私は未開人種に毒ガスを使うことに賛成だ」と言い、1920年代、イギリスは毒ガス兵器を中東で使用したのである。同名であったために思い出したのだが、このような思想の持ち主であったウインストン・チャーチルは、今でももっとも偉大なイギリス人の一人として見なされている。

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★Luna’s “Tomorrow is another day”:2006年12月17日

出典 →ヒロシマ記者 超大国を歩く 5 – Luna’s “Tomorrow is another day”保存版

終身教授 テロ評論で解雇の危機

コロラド州ボールダー市中心部から東へ十キロ。ワード・チャーチルさん(59)と妻のナツ・サイトウさん(51)は、自宅書斎で講演や講義の準備に追われていた。窓からかなたに望む雄大なロッキー山脈。二人は仕事の手を休め、大学教授のチャーチルさんが受けている政治的圧力について説明を始めた。

「二〇〇一年の9・11テロ事件翌日に電子メディア誌に掲載された私のエッセーが、三年以上もたった〇五年一月に、突然攻撃の対象になってね。今は憲法でうたわれた表現の自由も、大学独自で定めた学問の自由もかなぐり捨てて、私を解雇しようとやっきになっている」。チャーチルさんは肩まで伸びた髪をかき上げながら言った。

コロラド州立大学ボールダー校エスニック研究学部の終身教授。チェロキー先住民で、専門も「先住民から見た米国史」。二十冊以上に及ぶ著作がある。市民団体「戦争に反対するベトナム退役軍人の会」「アメリカ先住民運動」などを通じて、政治活動にも積極的にかかわる。

■「アイヒマンたち」
エッセーで特に批判の的となったのは「little Eichmanns(小さなアイヒマンたち)」という二語である。ナチス・ドイツの親衛隊員だったアドルフ・アイヒマン。彼は第二次世界大戦中、ユダヤ人たちを東欧各地の収容所に送るため列車の手配などにかかわった。

後に「ユダヤ人虐殺」の罪に問われ、一九六二年にイスラエルで処刑されたが、彼は裁判で「命令に従っただけ」と主張した。「アイヒマンは直接人をあやめはしなかった。しかし誤った政治・軍事行動の歯車の一部として、大量虐殺に加担した」

こう話すチャーチルさんは、テロ攻撃を受けた世界貿易センタービル群にあった中央情報局(CIA)の出先や、国防総省で働く職員を「小さなアイヒマン」になぞらえ、罪無き人々とは言えないと指摘したのだ。

「私は決して9・11テロを肯定しているのでも、暴力を奨励しているのでもない」とチャーチルさんは力説する。

湾岸戦争後の経済制裁で命を失った五十万人を超すイラクの子どもたち、ベトナム戦争で殺された二百万人以上の犠牲者、グレナダなど中央アメリカへの米軍侵攻による死者、広島・長崎の原爆犠牲者、奴隷貿易の犠牲となった黒人たち、そして虐殺され土地を奪われたアメリカ先住民…。

「私は9・11テロの犠牲者を悼むのと同じように、こうした人々への哀悼の思いも禁じ得ない」

チャーチルさんがエッセーで強調しているのは、米国政府が国際法や基本的人権を侵害して外国で多くの人々を殺したり、不当に富を収奪すれば「その報いは自分たちにも向けられる」ということである。

「実は私も同じような主張をしているけれど、問題にもならない」とサイトウさんが口を挟んだ。日系三世で弁護士、アトランタ市にあるジョージア州立大学の法学部教授(国際法・人権)でもある。「私と違って夫は大学の内外で人気が高い。影響力もある。そのうえ先住民だから余計に標的にされているのよ」

チャーチルさんは決してテロ攻撃で犠牲になった多くの消防士や警察官、清掃作業員、日本人を含む外国人らまでを「小さなアイヒマン」としているのではない。しかし、意図的にその言葉だけを取り上げれば、誤解を招きやすい表現であることも事実だろう。

■発端は講師招待
批判が起きたきっかけは、〇五年一月末にチャーチルさんがニューヨーク州の私立大学に講師として招かれたことによる。彼の講演に反対するグループと一部メディアが一体となって「9・11テロの犠牲者を、小さなアイヒマンと呼ぶとは何事か。アメリカ人の風上にも置けない」と猛烈に批判。電子メールや手紙、電話などでの抗議が、大学当局やチャーチルさんの元に殺到した。

暴力行為を示唆したり「殺す」といった脅迫文も随分あったという。当の大学は圧力に屈して講演を中止した。コロラド大学でも副学長が、チャーチルさんの言葉は「嫌悪を起こさせる」と非難。数日後にはコロラド州のビル・オーウェン知事(共和党)が「チャーチル教授を解雇すべきだ」と発言した。

地元の有力下院議員(共和党)の一人は、ラジオ番組で「大統領専用機で、ブッシュ大統領とチャーチル教授について意見を交わした」とし、辞職を強く求めた。

学外からの政治的な強い圧力を受けて、コロラド大学では二月初めに緊急理事会を開催。解雇に反対する教授陣や学生、地元の市民らが抗議して会は紛糾した。一カ月後には同大のエリザベス・ホフマン学長が、教授陣に向かって「新しいマッカーシズムが起きている」と警告。数日後には「一身上の都合」で学長辞任を発表した。

ボールダーに拠点を置く市民組織「ロッキーマウンテン平和と正義センター」も、大学理事会あてに「チャーチル教授と、憲法で守られた言論の自由を擁護する」との声明書を提出した。

同市内で会ったセンター創設者の一人、リロイ・ムーアさん(75)は「チャーチル教授の言葉は確かに適切ではなかっただろう」と認める。「でも私たち市民は彼の著書や発言からたくさんのことを学んできた。多くの先住民を犠牲にし、かつてメキシコに属していた領土を割譲させてコロラド州の大半も生まれたことを忘れてはならない」

神学者でもあるムーアさんは「アメリカ人の多くは認めたがらないが…」と言って、さらに言葉を継いだ。「自国の政治や経済、軍事政策が敵をつくり出し、それがもとでわれわれを攻撃したいと思う人たちがいる、というチャーチル教授の指摘は間違っていない」と。

チャーチルさんは九一年にコロラド大学の教授陣に加わって以来、同僚や学生による審査で、常にトップクラスの評価を得てきた。だが、地元紙などによる彼に対する攻撃はとどまることはなかった。「言論の自由を守る」という憲法を前に、エッセーの内容だけで辞職させるのが難しいとなると、今度は「先住民ではない」「本の脚注に間違いがある」など人格攻撃や学問上の疑義を持ち出した。

ward-churchill2チャーチルさんは一つ一つの指摘に反論してきた。しかし、地元メディアで公平に取り上げられることはなかった。

大学理事会は、外部からの批判を受けてチャーチルさんに関する「特別審査委員会」を設けて審査中だ。彼は今年八月から、給料は支給されているものの、大学での講義からはずされている。

★CNN2009年4月3日

出典 → CNN.co.jp:9・11犠牲者をナチ呼ばわりした元教授に賠償金1ドル(保存版)

9・11犠牲者をナチ呼ばわりした元教授に賠償金1ドル

コロラド州デンバー(CNN) 2001年9月11日の米同時多発テロで亡くなった犠牲者を、ナチス・ドイツのホロコーストを実行したアドルフ・アイヒマンと呼んだ米国の元教授が、不当解雇させられたと訴えていた裁判で、コロラド州地方裁判所の陪審は2日、不当解雇を認めて賠償金1ドルの支払いを求める判断を下した。

コロラド大学ボールダー校の民族学教授だったワード・チャーチル氏は2002年、米国の外交政策を批判する論文中で、9・11の被害者を「小さなアイヒマンたち」と例え、米国による世界金融帝国の中枢にいる高級技術官僚軍団だと表現していた。

この論文自体には大きな関心が集まらなかったが、2005年にニューヨーク市内にある大学が、先住米国民に関係する講演会にチャーチル氏を招待した際に注目を浴び、当時のパタキNY州知事らが強く批判した。

その後、2007年にチャーチル氏はコロラド大学を解雇された。

この解雇についてチャーチル氏は、少数派だが憲法では守られている政治的な意見を述べたことが理由だと主張。一方、大学側は、政治的な観点ではなく、チャーチル氏の業績内容がずさんだったためと反論していた。

陪審が下した判断について、コロラド大学ボールダー校は、落胆しているとの声明を発表した。

【研究ネカト指摘の経緯と内容】

上記に引用した日本語解説で事件の重要部分は示されているが、研究ネカトに関しては説明がない。

以下、事件の補足と研究ネカトを述べる(つもりだが…)。

2001年9月12日、ニューヨークの911テロの翌日、チャーチルは、後に問題視される『Some People Push Back essay』というタイトルのエッセイを書いた。

2005年1月、それまで問題にされなかった上記のエッセイが、突如、やり玉に挙げられた。ニューヨーク州知事やコロラド州知事がチャーチルを排斥する発言をした。

wardchurchill2006年5月16日(58歳)、コロラド大学・調査委員会がチャーチルにねつ造・改ざん・盗用があったと発表した。

このねつ造・改ざん・盗用の発見は、どう見ても、チャーチルの911テロ発言に対する世間と政治家(州知事など)の圧力に負けて、コロラド大学が、チャーチルの弱点を探した結果である。しかし、明白な研究ネカトである。

2007年7月24日(59歳)、コロラド大学は研究ネカトを理由にチャーチルを解雇した。

2009年4月2日(61歳)、コロラド州地方裁判所は、コロラド大学の解雇は不当と判定した。チャーチルに1ドルの賠償金を払うようコロラド大学に命じた。

2013年4月1日(65歳)、米国・最高裁はチャーチルの不当解雇との上訴を棄却した。最高裁が上訴を受け付ける割合は過去約1%で、何らかの新たな理由が必要だ。チャーチルの場合、理由が弱い。結局、通常8年間に及ぶ復職法廷闘争はこれで終了した(2013年4月1日記事。Supreme Court refuses to hear Ward Churchill’s appeal, CU declares ‘matter is now over’ – Boulder Daily Camera保存版))。

こういう状況だから、どのような点が研究ネカトだったのか、まともに分析し、問題点を指摘しても、研究ネカトの対策や改善の役に立たないだろう。多分、コロラド大学の行為を持ち上げる、あるいは、糾弾するかの、どちらかになってしまう。

だから、今回は、分析をヤメます。
事件に関心のある方は、資料を当たってください。

と書いたが、一応、研究ネカトを少しは書いておこう

★研究ネカト

【主要情報源】⑤の94頁によると、研究ネカトは7著作物に見つかった(A~G)。

  • 改ざん:A, B, C, D.
  • ねつ造:C, D
  • 盗用:E, G
  • オーサーシップ:F, A, B, D
  • 逸脱:D

★盗用例1:1989年論文

出典:【主要情報源】⑤の84~85頁。「E」に記載されている。

赤色部分が同じ単語である。左が原典(1959年)で右がアンブローズ教授の文章(2001年)。
盗用1
こうやって、並べられると、確かに盗用である。原典(左)はパンフレットで、論文ではない。

改ざん・ねつ造・オーサーシップ・逸脱は調べていない。ウェブへのアップ直前に読み返すと、調べるべきだったと反省している。

【論文数と撤回論文】

政権批判などの硬派の文筆活動家を追い落とす目的の研究ネカト探しと思ったので、学術論文の研究ネカトというレベルではなく、撤回論文は調べなかった。

ワード・チャーチルはたくさんの著作を出版している。

ウェブへのアップ直前に読み返すと、どんな理由で研究ネカト探しが行われたにしろ、論文数と撤回論文は調べるべきだったと反省している。

【白楽の感想】

《1》学問の不自由

米国は中国の人権問題を非難するが、白楽の知識と経験から、米国にも人権問題は溢れていると思う。1950年代のマッカーシズムは明白だが、米国に実際に滞在し、仕事し、生活した経験から、人種差別、男女差別など法律上は廃止されていても、人々の感情・価値観には根付いていると感じた。建前では非難されるから、本音は、むしろ、深く潜行する。表面的にはわかりにくくなる。

そして、ニューヨークの911テロの後、米国の狂気が表面化した。

もちろん、日本でも「言論の自由」は同じである。正義・正論を無防備に主張できる人間社会はどの国にも現存しないし、今後も存在しないだろう。だから、実際は、注意深く語るべきなのだ。

日本国憲法に「第23条 学問の自由は、これを保障する。」がある。白楽は、これも、単純には信じていない。「バイオ政治学」を提唱して以来、「学問の自由は保障されていない」と何度も感じさせられた。

《2》研究ネカト

日本語の解説はワード・チャーチルの言論弾圧ともいうべき部分に焦点を合わせている。

この事件では、チャーチル夫人が日系人ということもあり、心情的にチャーチル教授を応援したくなる。

しかし、研究ネカトは研究ネカトである。研究ネカトなら、文句なしに、研究者失格である。

チャーチル事件から学ぶことは、高潔な学者にも研究ネカトの過去があった、ということだ。つまり、研究ネカトは学術研究の基本的スキルであって、学問的業績や人格や高潔さとは別ものである。

学術界で重要な研究をすればする人ほど、社会で重要な発言すればする人ほど、研究ネカトのスキルをしっかり身につけないと、一瞬にして地獄に落ちる。

残酷である。

《3》研究ネカトで解雇

ワード・チャーチルを排斥するとき、研究ネカトが研究者解雇の道具に使われた。

大学・研究機関にとって都合が悪い教員・研究員を解雇したいとき、過去の論文・記録から研究ネカトを見つけ出し、それを理由に解雇できるということだ。

多分、日本の多くの教員・研究員は、集中的にあら捜しをされれば、そこそこの研究ネカトが見つかるだろう。

解雇理由のために研究ネカト探しが行われるのは、良いことなのか、悪いことなのか?

《4》テニュア

ワード・チャーチルはテニュアを持っていた。テニュアは教員の終身在職権である。テニュを持っていることで、教員の身分保障、学問的な主義主張の自由が強化される、と白楽は思っていた。

テニュアは米国大学教員協会 (AAUP) によると、基本的には「審査期間を成功裡に満了後は、教員は正当なる理由又は特別の環境が存在し、かつ教員委員会での聴聞後でないと解雇できないという取決め」のことである。(テニュア – Wikipedia

しかし、研究ネカトはテニュアを打破してしまう。

研究ネカトがあれば、テニュア教員でも解雇できるということは、研究ネカトは「正当なる理由又は特別の環境」になるということだ。

【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Ward Churchill – Wikipedia, the free encyclopedia
② 2005年3月24日、DiStephano, Philip; Gleeson, Todd; Getches, David :Report on Conclusion of Preliminary Review in the Matter of Professor Ward Churchill. University of Colorado Boulder. http://archived.wardchurchill.net/12-PreliminaryReview_3_24_05.pdf
③ ワード・チャーチル(Ward Churchill)に関する「New York Times」記事群:Ward L. Churchill – The New York Times保存版
④ 2007年7月25日のバーニー・モーソン(Berny Morson)の「Rocky Mountain News」記事:CU regents fire Ward Churchill : Local News : The Rocky Mountain News(保存版)
⑤ 2006年5月9日のコロラド大学・調査委員会のチャーチルの研究ネカト調査報告書:Report of the Investigative Committee of the Standing Committee on Research Misconduct at the University of Colorado at Boulder concerning Allegations of Academic Misconduct against Professor Ward Churchill
http://www.colorado.edu/philosophy/vstenger/Briefs/Churchill%20Report.pdf
⑥ 2013年4月2日の「Daily Caller」記事:Ward Churchill is finally all out of aces | The Daily Caller保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

Ward Churchill testifies during his reinstatement hearing at the Denver City and County Building in Denve, Wednesday, July 1, 2009. Ward Churchill is in a Denver court arguing for his job. He was fired after writing an essay in which he likened Sept. 11 victims to a Nazi. (AP Photo/MarkLeffingwell, Pool)
Ward Churchill testifies during his reinstatement hearing at the Denver City and County Building in Denve, Wednesday, July 1, 2009. Ward Churchill is in a Denver court arguing for his job. He was fired after writing an essay in which he likened Sept. 11 victims to a Nazi. (AP Photo/MarkLeffingwell, Pool)

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