2019年8月10日掲載
ワンポイント:インドの大学を卒業してから渡米し、パデュー大学(Purdue University)・教授になった。パデュー大学・教授に就任する前、オークリッジ国立研究所(Oak Ridge National Laboratory)・研究員の時に出版した「2002年3月のScience」論文で、画期的なバブル核融合の成功を報告した。しかし、結果を誰も再現できなかった(現在も)。2008年7月(53歳?)、パデュー大学・調査委員会が改ざんと結論したが、辞職せず、現在も教授職をキープしている。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ルーシ・タリヤーカン(Rusi P. Taleyarkhan、ORCID iD:、写真出典)は、インドで生まれインドの大学を卒業してから渡米し、修士号・博士号を米国のレンセラー工科大学で取得した。米国のパデュー大学(Purdue University)・教授。専門は物理学(核融合)である。
パデュー大学(Purdue University)・教授に就任する前、オークリッジ国立研究所(Oak Ridge National Laboratory)・上級研究員の時に出版したバブル核融合の成功を報告した「2002年3月のScience」論文は本当なら、画期的な発見だった。水から無限のエネルギー、しかもクリーンなエネルギーを安く得ることができる。
ノーベル賞か?
しかし、誰も結果を再現できなかった。
2008年7月(53歳?)、パデュー大学(Purdue University)・調査委員会が改ざんと結論した。
2019年8月9日(64歳?)現在、しかし、パデュー大学を辞めず、解雇されず、教授職を維持している:Faculty & Staff Directory – Nuclear Engineering – Purdue University
オークリッジ国立研究所(Oak Ridge National Laboratory)。写真By An ORNL employee – http://www.ornl.gov/ornlhome/image_gallery/NXTProjectsORNLCampusPhoto4Media1.jpg, Public Domain, Link
- 国:米国
- 成長国:インド
- 研究博士号(PhD)取得:米国のレンセラー工科大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1955年1月1日生まれとする。1977年に大学を卒業した時を22歳とした
- 現在の年齢:69歳?
- 分野:物理学
- 最初の不正論文発表:2002年(47歳?)
- 発覚年:2002年(47歳?)
- 発覚時地位:オークリッジ国立研究所・上級研究員
- ステップ1(発覚):第一次追及者は同じ分野の多くの研究者
- ステップ2(メディア):多数
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②パデュー大学・調査委員会。③海軍研究局(Office of Naval Research)
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:1報
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:米国連邦政府からの研究助成金を28か月締め出し処分。パデュー大学は院生指導3年間禁止
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1955年1月1日生まれとする。1977年に大学を卒業した時を22歳とした
- 1977年(22歳?):インドのインド工科大学マドラス校(Indian Institute of Technology, Madras)で学士号取得:化学
- 1978年(23歳?):米国のレンセラー工科大学(Rensselaer Polytechnic Institute)で修士号取得:化学
- 1982年(27歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得
- 1984年(29歳?):ウェスティングハウス電気社(Westinghouse Electric Company LLC.)・技師
- 1988年(33歳?):オークリッジ国立研究所(Oak Ridge National Laboratory)・研究員
- 2002年3月(47歳?):問題の「2002年3月のScience」論文を出版
- 2003年(48歳?):パデュー大学(Purdue University)・教授
- 2008年7月(53歳?):パデュー大学(Purdue University)・調査委員会が改ざんと結論
- 2019年8月9日(64歳?)現在:パデュー大学・教授職を維持:Faculty & Staff Directory – Nuclear Engineering – Purdue University、(保存:190810)
●3.【動画】
【動画1】
解説動画:「バブルゲート:パデュー大学はどのように調査報告書をねつ造したか(2008 – Bubblegate: How Purdue Fabricated the Allegations) – YouTube」(英語)4分12秒。
StevenKrivitが2008/10/16 に公開
【動画2】
解説動画:「2008-ルーシ・タリヤーカン:パデュー大学の名もなきヒーロー(2008 – Rusi Taleyarkhan – Purdue’s Unsung Hero) – YouTube」(英語)4分12秒。
StevenKrivitが2008/12/07 に公開
【動画3】
◎美しい。ドキュメンタリー動画:「ホライゾン (BBC):世界を救うための実験(Horizon: An Experiment To Save The World) – YouTube」(英語)48分53秒。
A World Of Knowledgeが2014/03/17 に公開
●4.【日本語の解説】
★バブル核融合 – Wikipedia
出典 → ココ
バブル核融合(英語: Bubble fusion)は、原子核融合の一種で、超音波キャビテーション(空洞現象)によって高温高圧下の気泡(バブル)内で発生するとされるものである。
2002年3月、アメリカ合衆国オークリッジ国立研究所のルーシ・タリヤーカン(en:Rusi Taleyarkhan、のちパデュー大学教授)らが科学雑誌『サイエンス』に論文を発表した。
この論文によると、重水素を含むアセトンに超音波を当ててキャビテーションを発生させ、生成した細かな泡が壊れるとき飛び出す中性子をとらえたという。そして、高温高圧下で重水素同士の熱核融合が起きたものと報告した。
しかしながら、同僚による実験で再現できなかったため、多くの専門家によって掲載前から批判された。いまなおこのグループ以外では再現できていない。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
ルーシ・タリヤーカン(Rusi Taleyarkhan、写真出典)は、インドで生まれインドの大学を卒業してから渡米し、修士号・博士号を米国のレンセラー工科大学で取得した。
2002年3月(47歳?)、問題の「2002年3月のScience」論文を出版した時は、オークリッジ国立研究所(Oak Ridge National Laboratory)・研究員だった。
翌2003年(48歳?)、米国のパデュー大学(Purdue University)・教授に移籍した。
「2002年3月のScience」論文は画期的なバブル核融合実験の成功を記述した論文である。
- Evidence for Nuclear Emissions During Acoustic Cavitation
R. P. Taleyarkhan, C. D. West, J. S. Cho, R. T. Lahey Jr., R. I. Nigmatulin4, R. C. Block
Science 08 Mar 2002:
Vol. 295, Issue 5561, pp. 1868-1873
「2002年3月のScience」論文は内容が画期的なこと、核融合は巨額の研究費が助成されること、また、1989年に発表された常温核融合が大スキャンダルになっていたこともあり、バブル核融合論文に多くの研究者が注目し、追試実験を行なった(資料:resources related to this article.pdf)。
しかし、ゲッティンゲン大学(University of Göttingen)、UCLA、イリノイ大学(University of Illinois)、カリフォルニア大学海軍研究局(Office of Naval Research in the University of California)などの著名な研究者、さらにはオークリッジ国立研究所の元同僚など、誰も、追試に成功しなかったのである。
一方、2006年11月(51歳?)、ルトゥーノー大学(LeTourneau University)のエドワード・フォリンジャー(Edward Forringer)は、パデュー大学のタリヤーカン研究室で実験を行ない、結果を再現できたと述べた。
2006年(51歳?)当時、パデュー大学は、学内の教授からタリヤーカンのバブル核融合実験論文はネカトではないかと疑義が申し立てられたが、ネカト調査をしないことにした。
2007年4月6日(52歳?)、しかし、エリック・バンス(Erik Vance)記者が「Chronicle of Higher Education」誌で、いくつかの問題を指摘した。
→ 2007年4月6日のエリック・バンス(Erik Vance)記者の「Chronicle of Higher Education」記事(有料なので白楽未読):The Bursting of Bubble Fusion – The Chronicle of Higher Education
そこでは、タリヤーカン博士は「2人の科学者が私(タリヤーカン博士)の研究室で、独立にバブル核融合を検証した」と語った。「2人の科学者は専門家であり、私(タリヤーカン博士)とは無関係に実験をした」と主張した。
前述したように、1人は、テキサス州のルトゥーノー大学(LeTourneau University)のエドワード・フォリンジャー教授(Edward Forringer)である。物理学者のフォリンジャー教授は、バブル融合が実際に起こったことを支持する結果を得たと述べた。
だがしかし、フォリンジャー教授はバブル核融合の専門家ではなかった。しかも、彼は確認したと主張する追試実験をいかなる査読付き学術誌にも発表しなかった。
2007年5月10日(52歳?)、パデュー大学は大学と関係のない1人の科学者を加え、タリヤーカンの疑義に対して新しいネカト調査をすると発表した。内部委員会は、タリヤーカンが独立に検証したという主張は「非常に疑わしい」とした。タリヤーカンはこの主張を「一方的で、大げさに誇張した内容」と批判したが、協力することに同意した。
2007年9月10日(52歳?)、パデュー大学は、内部委員会が「さらなる調査に値する」と判断したの受け、正式な調査委員会を発足した。
2008年7月(53歳?)、調査委員会は、タリヤーカンに「研究記録の改ざん」があったと結論した。
2008年8月27日(53歳?)、パデュー大学はタリヤーカンに対して、大学院の委員会・委員になることを認めたが、3年間、院生の指導を禁止した。
タリヤーカンは、2008年9月から2009年8月まで、米国・科学庁(National Science Foundation)からバブル核融合の研究に185,000ドル(約1,850万円)の助成金を受けた。
しかし、2009年(54歳?)、海軍研究局(Office of Naval Research)は、2011年9月までの28ヶ月間、彼を米国連邦政府からの研究助成金を受給禁止リスト(Excluded Parties List)にリストした。
それから10年後の2019年8月9日(64歳?)現在、タリヤーカンは、パデュー大学・教授職を維持している。:Faculty & Staff Directory – Nuclear Engineering – Purdue University
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2019年8月18日現在、リサーチゲート(Research Gate)で、ルーシ・タリヤーカン(Rusi Taleyarkhan)の論文を検索すると、オークリッジ国立研究所のが3論文がヒットした:Rusi Taleyarkhan’s research works | Oak Ridge National Laboratory, TN (ORNL) and other places。
パデュー大学のが1論文がヒットした:Rusi P. Taleyarkhan’s research works | Purdue University, IN (Purdue) and other places
★撤回論文データベース
2019年8月18日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでルーシ・タリヤーカン(Rusi Taleyarkhan)を検索すると、0論文がヒットし、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2019年8月18日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ルーシ・タリヤーカン(Rusi Taleyarkhan)の論文のコメントはない:PubPeer – Search publications and join the conversation.
●7.【白楽の感想】
《1》マジック
白楽はインド人研究者への偏見が払拭できない。そういう人間の感想だと思って以下を読んでいただきたい。
ルーシ・タリヤーカン(Rusi Taleyarkhan)は根っからのペテン師だという印象をもった。
タリヤーカンは最初からバブル核融合をねつ造したのだ。ネタがバレないように、そして、トリックを巧妙に仕込んだマジックなのだ。
だから、多くの研究者は、トリックを見破れなかった。でも、マジックなので、そのまま追試したら実験結果が再現できなかった。種と仕掛けがあるに違いない。
こうなると、研究公正ってなんだろう?
2008年7月(53歳?)に大学が「改ざん」と結論した11年後の2019年8月9日(64歳?)現在、パデュー大学・教授職を維持している(Faculty & Staff Directory – Nuclear Engineering – Purdue University)。
タリヤーカンは人びとから好かれ、物理学の知識が豊富で、誠実な印象を与える人物でなのだろう。そして、バブル核融合では決してボロを出ささない人なのだろう。
《2》昔の話
動画に映るタリヤーカンは好人物である。タリヤーカンが悪い人かどうか、白楽はわからないが、以下の経験を思い出した。なお、以下の文章でタリヤーカンを悪い人と暗示させる意図はありません。
最初に、一般的に、悪い奴は好人物である。もちろん、悪人顔などしていない。という教訓を書いておく。
昔の話だが、白楽は、欧州を妻と一緒に旅行したことがある。
その時、ソコソコ有名なお城に行った。
街からお城に向かう坂を歩いて上る時、若い好青年が前になったり後ろになったりした。青年と笑顔を交換した。
中腹の遺跡がある場所に出てきたので妻と白楽が眺めていた。すると、その好青年が写真を撮ってくれとカメラを白楽に手渡した。写真を撮って、カメラを青年に返した。
その瞬間、屈強な3人の悪人顔男がバラバラと、白楽の前に出てきた。首領格の男が、「我々は、国際麻薬捜査官だ。今、この男に麻薬を渡しただろう!」と言った。白楽はビックリ仰天である。そして首領格は、「パスポートと荷物の中身、ポケットの中身をここに全部だせ!」と命令した。
この時、白楽は70万円近くの現金(ユーロ)をズボンのポケットにいれていた。
動転した。
しかし、国際麻薬捜査官とは思えない。
白楽は「警察に行こう」と叫んで、元来た道の方に走った。首領格の男が「俺たちが警察官だ!」と叫んだ。それで振り返ると、妻が屈強な3人の悪人のそばにノホホンと立っていた。
白楽はあわてて、「早くこっちにこい」と妻に叫んだ。妻はようやく気が付いて、白楽の方に走ってきた。妻と共に坂道を駆け下りた。
結局、3人の悪人顔男は追ってこなかった。しかし、明らかに、前になったり後ろになったりして一緒に坂道を上ってきた好青年が手引きしたのである。
それ以来、白楽は、好青年(若い女性、中高年でも)が海外で寄ってくると体内警報機が赤く点滅する。
さて、その事件は以下のお城に向かう途中で起こりました。どこでしょうか?
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい。正直者が得する社会に!
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●8.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Rusi Taleyarkhan – Wikipedia
② 2014年1月20日の「New Energy Times LENR News Site」記事(第1部)。第10部まである。最初の掲載は2007年1月10日:Federal Investigations Reveal Academic Backstabbing at Purdue University (Part 1) | New Energy Times – LENR News and Scientific References
③ 2007年5月17日のユージニー・サミュエル・ライヒ(Eugenie Samuel Reich)記者の「Nature」記事:Purdue dogged by misconduct claims、(保存版)
④ 2008年7月19日のトーマス・モー(Thomas H. Maugh II)記者の「SFGate」記事:Purdue rules physicist guilty of research misconduct – SFGate、(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●9.【コメント】
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