2023年6月25日掲載
ワンポイント:イダニはアフヴァーズ・ジャンディシャプール医科学大学(Ahvaz Jundishapur University of Medical Science、 دانشگاه علوم پزشکی جندی شاپور اهواز)・準教授・医師でイラン最高医療評議会(Supreme Medical Council of Iran)・議長を務めたイラン医学界の偉い人だ。ところが、2018~2020年(54~56歳)に自己盗用論文を数報出版し、2021年8月~2022年1月(57歳)に訂正または撤回をした。所属大学がネカト調査・解雇したのかどうか、白楽は把握できなかったが、イダニは大学を辞め、開業医としてテヘランで働いている。国民の損害額(推定)は5千万円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
エスマイル・イダニ(Esmaeil Idani、Esmaeil Eidani、اسماعیل ایدنی、ORCID iD:https://orcid.org/0000-0002-0327-7107、写真出典)は、イランのアフヴァーズ・ジャンディシャプール医科学大学(Ahvaz Jundishapur University of Medical Science、 دانشگاه علوم پزشکی جندی شاپور اهواز)・準教授・医師で、専門は呼吸器学である。
イダニはイラン最高医療評議会(Supreme Medical Council of Iran)・議長を務めたイラン医学界の偉い人だった。
2018~2020年(54~56歳)、後で問題視される論文を数報出版した。
2021年8月~2022年1月(57歳)、自己盗用で2論文が訂正、2論文が撤回された。
このネカト事件で所属大学がネカト調査・解雇したのかどうか、白楽は把握できなかったが、イダニは大学を辞め、2023年6月24日現在、開業医としてテヘランで働いている。
アフヴァーズ・ジャンディシャプール医科学大学(Ahvaz Jundishapur University of Medical Science、 دانشگاه علوم پزشکی جندی شاپور اهواز)。写真出典
赤印がアフヴァーズ・ジャンディシャプール医科学大学。グーグルマップで白楽が作成、出典
- 国:イラン
- 成長国:イラン
- 医師免許(MD)取得:マシュハド医科大学
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:男性
- 生年月日:1964年3月30日
- 現在の年齢:60歳
- 分野:呼吸器学
- 不正論文発表:2018~2020年(54~56歳)の3年間
- ネカト行為時の地位:アフヴァーズ・ジャンディシャプール医科学大学・準教授
- 発覚年:2021年(57歳)
- 発覚時地位:アフヴァーズ・ジャンディシャプール医科学大学・準教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)の学術誌への公益通報
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②アフヴァーズ・ジャンディシャプール医科学大学・調査委員会?
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。ネカト調査したかどうか不明
- 大学の透明性:ネカト調査したかどうか不明(ー)
- 不正:自己盗用
- 不正論文数:2報撤回、2報訂正
- 時期:研究キャリアの後期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を解雇・免職・研究職をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:なし(あるいは、解雇?)
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5千万円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典: Esmaeil Idani
- 生年月日:1964年3月30日イランのフーゼスターン州(Khozestan)に生れた
- 1984~1990年(20~26歳):イランのマシュハド医科大学(Mashhad University of Medical Sciences)で学士号取得、医師免許取得:呼吸器学
- 1990~1998年(26~34歳):同大学で研修医
- 1998~2013年(34~49歳):イランのアフヴァーズ・ジャンディシャプール医科学大学(Ahvaz Jundishapur University of Medical Science)・助教授
- 2000~xx年(36~xx歳):アフヴァーズ医療評議会(Ahvaz Medical Council)・委員
- 2004~xx年(40~xx歳):アフヴァーズ医療評議会(Ahvaz Medical Council)・副会長
- 2013年(49歳):アフヴァーズ・ジャンディシャプール医科学大学・準教授
- 2013~2017年(49~53歳):イラン最高医療評議会(Supreme Medical Council of Iran)・議長
- 2018~2020年(54~56歳):後で問題視される論文を数報出版した
- 2021年8月19日(57歳):「2020年8月のNursing and Midwifery Journal」論文が盗用で撤回された。1報目の論文撤回
- 2022年1月7日(57歳):2報目の論文撤回
- 202x年(xx歳):アフヴァーズ・ジャンディシャプール医科学大学・準教授の辞職(解雇?)
- 2023年6月24日(59歳)現在:アフヴァーズ・ジャンディシャプール医科学大学のサイトでヒットしないので在職していない:Search for: ‘Esmaeil Idani’。
テヘランの街の開業医のようだ:نوبتدهی اینترنتی دکتر اسماعیل ایدنی – تخصص داخلی و فوق تخصص ریه در شهر تهران – دکترتو
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★経緯
2019年10月15日(51歳)、エスマイル・イダニ(Esmaeil Idani)は以下の「2019年10月のJundishapur J Chronic Dis Care」論文を第二著者として発表した。
- The Effects of Family-Centered Education Based on the Health Belief Model on Knowledge and Attitude Among the Parents of Children with Asthma: A Randomized Controlled Clinical Trial
Akram Mohammadi Pelarti, Esmail Eidani , Effat Hatefnia , Maryam Bagheri and Houshang Alijani Renani
Jundishapur J Chronic Dis Care. 2019 October; 8(4):e95909
上記の5人の著者の1人を除いて、翌年、全く同じタイトル、同じ内容の「2020年8月のNursing and Midwifery Journal」論文を出版した。但し、英語ではなくて、ペルシャ語である。論文は10ページあるが、10ページ目に英語で概要が書いていある。その概要を見ると、全く同じタイトル、同じ内容であることが明白である。
- 同じタイトル
著者:Akram Mohamadi, Esmail Eidani, Effat Hatefnia, Houshang Alijani Renani
学術誌:Nursing and Midwifery Jouranl, Vol 18(5), August, 2020
https://unmf.umsu.ac.ir/article-1-3851-en.pdf
2番目の「2020年8月のNursing and Midwifery Journal」論文は2021年8月19日に説明なしで、撤回・削除された。
2022年1月7日、最初の「2019年10月のJundishapur J Chronic Dis Care」論文も、撤回された. → 2022年1月7日:撤回公告
撤回公告は以下のように説明している。
2020年12月6日、論文は「2020年8月のNursing and Midwifery Journal」論文と全く同じであると、匿名の通報があった。規則として、同じ内容の論文を別の言語で出版するには、編集部の承認が必要である。編集部で調査し、全く同じであることを確認した。編集部の承認はなく、元論文の記載(引用)がなかった。著者にその理由を尋ねたが返事がないので、編集長の判断で、論文を撤回した。
★その後
ペルシャ語の記事は探していないけど、アフヴァーズ・ジャンディシャプール医科学大学(Ahvaz Jundishapur University of Medical Science、 دانشگاه علوم پزشکی جندی شاپور اهواز)が、エスマイル・イダニ(Esmaeil Idani)のネカト調査をしたという英語の記事はない。
しかし、イダニは、アフヴァーズ・ジャンディシャプール医科学大学から解雇されたか、辞職したか、大学のサイトでイダニの在籍を確認できなかった:Search for: ‘Esmaeil Idani’。
2023年6月24日(59歳)現在、テヘランの街の開業医としてのイダニのサイトがヒットする(以下、そのサイトのグーグル翻訳):نوبتدهی اینترنتی دکتر اسماعیل ایدنی – تخصص داخلی و فوق تخصص ریه در شهر تهران – دکترتو
それで推定だが、イダニは今回のネカト事件で、大学を解雇された気がする。
●【ネカトの具体例】
★「2020年8月のNursing and Midwifery Journal」論文
上記した。
つまり、「2020年8月のNursing and Midwifery Journal」論文は英語版の「2019年10月のJundishapur J Chronic Dis Care」論文を、タイトルから内容までペルシャ語にした自己盗用論文だった。
★「2017年のToxin Reviews」論文
「2017年のToxin Reviews」論文の書誌情報を以下に示す。2021年10月12日、訂正した。2023年6月24日現在、撤回されていない。
- Association of polycyclic aromatic hydrocarbons of the outdoor air in Ahvaz, southwest Iran during warm-cold season
Toxin Reviews Volume 36, 2017 – Issue 4 Pages 282-289
Gholamreza Goudarzi , Esmaeil Idani , Nadali Alavi , Shokrolah Salmanzadeh , Ali Akbar Babaei , Sahar Geravandi , Mohammad Javad Mohammadi , Mohammad Mahboubi , Mahsa Moradi
論文中の数か所の文章は盗用だった。被盗用論文は示されていないが、イダニたちの論文だと思われる。
2021年10月12日、論文の盗用部分を訂正した。 → 2021年10月12日:訂正公告
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2023年6月24日現在、パブメド(PubMed)で、エスマイル・イダニ(Esmaeil Idani、Esmaeil Eidani)の論文を「Esmaeil Idani[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2007~2022年の16年間の38論文がヒットした。
2023年6月24日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2023年6月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでエスマイル・イダニ(Esmaeil Idani、Esmaeil Eidani)を「Eidani, Esmail」で検索すると、2018~2020年(52~54歳?)に出版した 2論文が訂正、2論文が2021年8月~2022年1月(52~54歳?)に撤回された。
★パブピア(PubPeer)
2023年6月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、エスマイル・イダニ(Esmaeil Idani、Esmaeil Eidani)の論文のコメントを「Esmaeil Eidani」で検索すると、0論文に、「Esmaeil Idani」で検索すると、3論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》マイナー論文
「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでエスマイル・イダニ(Esmaeil Idani、Esmaeil Eidani)の 2論文が訂正、2論文が撤回されていた。
しかし、パブメドでは、0撤回論文だった。
つまり、撤回された論文はパブメドに索引付け(indexed)されていない学術誌の論文だった。
《2》自己盗用
エスマイル・イダニ(Esmaeil Idani、Esmaeil Eidani)のネカトは、同じ内容の論文を英語論文とペルシャ語論文にした大規模な自己盗用だった。
研究者は、自分の研究成果を2つ以上の言語で論文にしても不正ではない、と思いがちである。
昔の日本では、英語論文を出版した後、同じ内容を日本語の論文や総説にする研究者が少なからずいた。
重複は少ない、両方の出版社が承諾している、論文に同じ論文だと記載する、などの手順があればOKを出す出版社は多い。
状況によるが、著作権法違反になる可能性はある。
自己盗用の扱いに学術界の統一基準はない。不正とみなす場合、規則で定めていなければ、判断は難しい。
他人の文章なら、もちろん、翻訳盗用(translation plagiarism)になる。
《3》イラン文化
イランは中国やインドと並んで、ネカト者が多い国である。イラン出身の研究者が外国でネカトをした事件も多い。
例えば、2016年、イランを拠点とする282人の研究者の58論文が撤回された「Nature」記事もある:Publisher pulls 58 articles by Iranian scientists over authorship manipulation | Nature
エスマイル・イダニ(Esmaeil Idani、Esmaeil Eidani)は自己盗用で2論文が撤回されている。ネカトとしては小さな事件である。
気になるのは、所属するアフヴァーズ・ジャンディシャプール医科学大学(Ahvaz Jundishapur University of Medical Science、 دانشگاه علوم پزشکی جندی شاپور اهواز)はイダニのネカト調査をしたのか、していないのか?
また、イダニは処罰を受けたのか、受けなかったのか? これも、気になる。
さらに、イダニの他の論文にもネカトがあっても不思議ではないのだが、どうなっているのだろう。
イダニ自身がネカトをしたのか共著者がしたのかも、白楽は気になる。
今回の自己盗用でイダニは大学を解雇されたとすれば、国際基準と比較して、処罰は厳しい。
白楽はイランを訪問したことはないし、イランの大学の学術環境を知らない。研究公正文化を調査したこともないが、イスラム教の掟は厳格な印象を持っている。
一方、今までの白楽の調査で、イランはネカトに甘く、イランの研究公正はいい加減だ、という印象がある。
いらんお世話だけど(寒いギャグでゴメン)、イランはネカトを厳格にした方が良いと思うよ。国際的にみるとネカト者多産国なんでね。
イダニは有名人なのだろうか? エスマイル・イダニ(Esmaeil Idani、Esmaeil Eidani、اسماعیل ایدنی)の写真は沢山ある。出典:اسماعیل ایدنی – Google Search
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日本の人口は、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。
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●9.【主要情報源】
① 2022年9月20日のエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former Iranian government official up to two retractions, five corrections – Retraction Watch
② エスマイル・イダニ(Esmaeil Idani)の画像検索:اسماعیل ایدنی – Google Search
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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