2021年12月12日掲載
ワンポイント:2017年3月、ネカトハンターのクレア・フランシス(Clare Francis)が、オハイオ州立大学・教授のジェイコブの論文にデータ異常があるとパブピア(PubPeer)で指摘した。2002~2011年(52~61歳?)の9論文が2018年2~7月に撤回された。2021年2月(71歳?)、オハイオ州立大学はネカト調査の結果、ジェイコブをクロと判定し、同年5月(71歳?)、ジェイコブに授与した名誉教授の称号を剥奪した。ジェイコブは多額のNIHグラントを得ているが、研究公正局は沈黙を保っている。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。
【追記】
・2022年7月25日記事:Exclusive: OSU investigation finds dishonesty and “permissive culture of data manipulation” in cancer research lab – Retraction Watch
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
サムソン・ジェイコブ(Samson Jacob、Samson T. Jacob、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のオハイオ州立大学(Ohio State University)・教授で医師免許は所持していない。専門はがん学である。
2017年3月(67歳?)、ネカトハンターのクレア・フランシス(Clare Francis)がジェイコブの論文にデータ異常があるとパブピア(PubPeer)で指摘した。
結局、2002~2011年(52~61歳?)に出版したジェイコブの9論文が、2018年2~7月に撤回された。
2021年2月(71歳?)、オハイオ州立大学はネカト調査の結果、ジェイコブをクロと判定し、同年5月(71歳?)、ジェイコブに授与した名誉教授の称号を剥奪した。
ジェイコブは、1985~2018年の34年間に71件のNIHグラントを獲得している。
2021年12月11日(71歳?)現在、ネカト調査に関して、研究公正局は沈黙を保っている。
オハイオ州立大学(Ohio State University)・医科大学院と病院。写真出典
- 国:米国
- 成長国:?
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:あり
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1950年1月1日生まれとする。2021年5月に名誉教授の称号を剥奪された時を71歳とした
- 現在の年齢:74 歳?
- 分野:がん学
- 不正論文発表:2002~2011年(52~61歳?)の10年間
- 発覚年:2017年(67歳?)
- 発覚時地位:オハイオ州立大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのクレア・フランシス(Clare Francis)で、「パブピア(PubPeer)」で公表
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②オハイオ州立大学・調査委員会。③研究公正局は沈黙
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:発表なし(△)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:2002~2011年(52~61歳?)に出版した9論文が2018年2~7月に撤回された
- 時期:研究キャリアの後期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:名誉教授の称号を剥奪
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
ほとんど不明。
- 生年月日:不明。仮に1950年1月1日生まれとする。2021年5月に名誉教授の称号を剥奪された時を71歳とした
- xxxx年(xx歳):xx大学(xx University)で学士号取得
- xxxx年(xx歳):xx大学(xx University)で研究博士号(PhD)を取得
- 1985年(35歳?):ペンシルベニア州立大学・医科大学院(Pennsylvania State University College of Medicine)・所属で研究室主宰者として論文出版:PubMed
- 1989年(39歳?):米国のロザリンド・フランクリン医科学大学(Rosalind Franklin University of Medicine and Science)・教授(?)
- 1997年(47歳?):米国のオハイオ州立大学(Ohio State University)・教授
- 2017年(67歳?):不正研究が発覚
- 2020年8月17日(70歳?)以前:オハイオ州立大学(Ohio State University)を退職し、名誉教授:Samson T Jacob, PhD
- 2021年2月(71歳?):オハイオ州立大学はジェイコブがクロと結論
- 2021年5月(71歳?):オハイオ州立大学はジェイコブに授与した名誉教授の称号を剥奪
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★優秀な研究者
サムソン・ジェイコブ(Samson Jacob、Samson T. Jacob)は、米国生まれ育ちなのか、米国外で生まれ育ったのか不明である。ジェイコブの出身大学も把握できなかった。
1997年(47歳?)、米国のオハイオ州立大学(Ohio State University)・教授に就任した。ネカト論文と指摘されたのは、オハイオ州立大学時代の論文である。
1985~2018年の34年間に71件のNIHグラントを獲得している。優秀な研究者ということだ。サイトではNSFグラントが1件ヒットするが別人である。Grantome: Search
★経緯
2017年3月11日(67歳?)、ネカトハンターのクレア・フランシス(Clare Francis)がサムソン・ジェイコブ(Samson Jacob)の論文のデータ異常をパブピア(PubPeer)で指摘した。
2018年3月9日(68歳?)、学術誌「J Biol Chem.」はジェイコブの5論文を撤回した。
撤回公告によると、著者のジェイコブから撤回要請があったと述べている。撤回理由は、図が学術誌の出版基準を満たしていなかったからである。パブピア(PubPeer)の指摘にジェイコブが対応した結果と思われる。 → Notice: 5 papers withdrawn
結局、2002~2011年(52~61歳?)に出版したジェイコブの9論文が2018年2~7月に撤回された
2018年8月17日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事では、ジェイコブのネカト調査をオハイオ州立大学(Ohio State University)に問い合わせた、と書いてある。
しかし、オハイオ州立大学はネカト調査について、連邦政府及びオハイオ州立大学の規則上、調査中かどうか公表できない、と回答してきた。
★名誉教授称号の剥奪
2021年5月21日(71歳?)、上記から2年半後、オハイオ州立大学はネカト論文を理由に、ジェイコブに授与した名誉教授称号を剥奪した。 → 2021年5月21日記事:Two Ohio State professors lose emeritus titles for research misconduct, sexual harassment、保存版
2021年2月xx日(71歳?)、オハイオ州立大学はネカト調査を終了し、ジェイコブをネカトでクロと判定したのだった。
調査報告書は公開していないが、クリスティーナ・ジョンソン学長(Kristina Johnson、写真出典同)は、「ネカト調査委員会は、ジェイコブが画像、図の作成、原稿の訂正で、故意に、研究規範から逸脱、またはねつ造・改ざんデータを報告していることを見つけた」と大学・理事会に報告した 。
2018年8月17日の「撤回監視(Retraction Watch)」の問い合わせには回答しなかったが、その2年半後、クロと判定したのだ。
ジョンソン学長は、「医学部長と教務担当副学長(provost)が、調査結果を検討した後、ジェイコブ博士の名誉教授称号を取り消すことを推奨してきました。私は同意し、ジェイコブ博士の名誉教授称号剥奪の承認を評議会に直ちに求めました」と述べている。
ジェイコブは、1985~2018年の34年間に71件のNIHグラントを獲得している。当然ながら、研究公正局の掌握すべきネカト案件と思われる。
研究公正局は、オハイオ州立大学のネカト調査報告書を受取っていると思われるが、2021年12月11日現在、沈黙を保っている。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
ジェイコブには、9報の撤回論文があるが、1報の撤回論文のねつ造・改ざんの具体例を以下に示す。
★「2007年9月のJ Biol Chem.」論文
「2007年9月のJ Biol Chem.」論文の書誌情報を以下に示す。2018年3月9日、撤回された。
- Treatment of PC12 cells with nerve growth factor induces proteasomal degradation of T-cadherin that requires tyrosine phosphorylation of its cadherin domain.
Bai S, Datta J, Jacob ST, Ghoshal K.
J Biol Chem. 2007 Sep 14;282(37):27171-27180. doi: 10.1074/jbc.M700691200. Epub 2007 Jul 13.
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/76B9A8EFAA9E5F866117E68FE904B6
――――――――――以下は図2C
――――――――――以下は図3
――――――――――以下は図5C
――――――――――以下は図7A
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2021年12月11日現在、パブメド(PubMed)で、サムソン・ジェイコブ(Samson Jacob、Samson T. Jacob)の論文を「Samson Jacob[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の94論文がヒットした。
「Retracted Publication」のフィルターで上記パブメドの論文を検索すると、9論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2021年12月11日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでサムソン・ジェイコブ(Samson Jacob、Samson T. Jacob)を「Jacob, Samson T」で検索すると、 9論文が撤回、1論文が訂正されていた。
2002~2011年(52~61歳?)に出版した9論文が2018年2~7月に撤回された。
★パブピア(PubPeer)
2021年12月11日現在、「パブピア(PubPeer)」では、サムソン・ジェイコブ(Samson Jacob、Samson T. Jacob)の論文のコメントを「samson jacob」で検索すると、34論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》ネカトの伝統の大学
オハイオ州立大学(Ohio State University)にはそうそうたるネカト者がそろっている。
そして、今回、2018年のサムソン・ジェイコブ(Samson Jacob)事件である。
大きな事件が3年連続で発覚した。
オハイオ州立大学はネカトし易い大学、というか、ネカト温床大学、つまり、ネカトに甘い大学なのか?
イヤ、待てよ。「ネカトし易い大学」という分類は有りうるのだろうか?
その後の2019~2021年、オハイオ州立大学に大きなネカト事件は起こっていない。
《2》不明
サムソン・ジェイコブ(Samson Jacob、写真出典)事件では、ジェイコブの経歴が不明である。米国生まれ育ちなのか、米国外で生まれ育ったのか不明である。出身大学も不明である。
さらに、ジェイコブが「どのような状況で、どうして」ネカトしたのか、などの情報はない。
多額の研究費を獲得した優秀な研究者なのに、これほど情報が得られない研究者も珍しい。
当然、これでは、ネカト対策に役立つ点は少ない。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 2018年3月14日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Cancer biologist retracts five papers – Retraction Watch
② 2018年8月17日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Cancer researcher at OSU up to nine retractions – Retraction Watch
③ 2021年5月28日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Schneider Shorts 28.05.2021: We are on it! – For Better Science
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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