ミン=ジーン・イン(Min-Jean Yin)(米)

2017年7月20日掲載。

ワンポイント:名前と顔は中国系だが、生まれ育ちは不明の女性。2003年(33歳?)、米国の製薬企業・ファイザー社のラホヤ研究所の研究員になった。2015年(45歳?)、パブピアが論文中の図の複製使用(データねつ造)を指摘した。ネカトハンターのレオニッド・シュナイダーが追及し、ファイザー社に伝えた。2016年(46歳?)、ファイザー社は、2010年 – 2014年の5年間の6論文をクロと判定し、解雇(?)した。撤回論文数は5報である。製薬企業が自社の研究員のネカトを公表するのは珍しい。損害額の総額(推定)は18億1200万円。エリザベス・ビックの「アリエン!」写真コレクション付き。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ミン=ジーン・イン(Min-Jean Yin、写真出典)は、米国の製薬企業・ファイザー社のラホヤ研究所(Pfizer in La Jolla, California)・上級主任研究員(Senior Principal Scientist)で、専門はがんの基礎研究(生化学)だった。なお、ファイザー社(本社はニューヨーク)は売上高で世界第1位の製薬企業である。

2015年(45歳?)、パブピア(PubPeer)の指摘でねつ造・改ざんが発覚した。

その後、ネカトハンターのレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)が追及し、ファイザー社も調査をはじめた。

2016年(46歳?)、ファイザー社がクロと判定し、解雇した(辞職?)。

米国の製薬企業・ファイザー社のラホヤ研究所(Pfizer in La Jolla, California)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国?
  • 医師免許(MD)取得:なし?
  • 研究博士号(PhD)取得:xx大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。当てずっぽう
  • 現在の年齢:47 歳?
  • 分野:がんの基礎研究
  • 最初の不正論文発表:2010年(40歳?)
  • 発覚年:2015年(45歳?)
  • 発覚時地位:ファイザー社・上級主任研究員
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)はパブピア
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ファイザー社
  • 調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:公式には6論文。5論文は撤回
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 損害額:総額(推定)は18億1200万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・経常業務費など年間2000万円が20年間=4億円。③院生の損害が1人1000万円で6人=6千万円。④製薬企業の研究費を1年間1億円として、ファイザー社に13年間勤務=13億の研究費。⑤調査経費(ファイザー社、パブピア、レオニッド・シュナイダーなど)が5千万円。⑥裁判経費が2千万円。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。6報撤回=1200万円
  • 結末:辞職(解雇?)

●2.【経歴と経過】

不明点多し

  • 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。当てずっぽう
  • 19xx年(xx歳):xx大学を卒業
  • 19xx年(xx歳):xx大学で研究博士号(PhD)を取得した
  • xxxx年(xx歳):米国のスゲン社(SUGEN, Inc.)・研究員(?)
  • 2003年(33歳?):米国の製薬企業・ファイザー社のラホヤ研究所(Pfizer in La Jolla, California)・上級主宰研究員(Senior Principal Scientist)
  • 2015年(45歳?):ネカトが発覚する
  • 2016年9月?(46歳?):米国のファイザー社を辞職(解雇?)
  • 2016年9月(46歳?):米国・サンディエゴのダイアグノロジックス社(Diagnologix LLC)の本部長
  • 2016年10月10日(46歳?):ファイザー社は調査を完了したとレオニッド・シュナイダーに伝えた

●5.【不正発覚の経緯と内容】

以下、主にレオニッド・シュナイダーの記事(【主要情報源】①)を参考に書いた。

2015年(45歳?)、パブピア(PubPeer)がミン=ジーン・イン論文のネカト指摘がことの発端である。

2016年2月(46歳?)、ネカトハンターのレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)は、ミン=ジーン・イン論文の図に異常があると知人に伝えられた。LinkedInに「生命科学の一流学術誌(Cell, Nature, Cancer Research, etc.)に32報も発表した」と書いてあるミン=ジーン・インの論文を調べ始めた。なお、LinkedInのサイトは2017年7月19日現在、削除されている。

2016年2月中旬(46歳?)、レオニッド・シュナイダーは、ミン=ジーン・イン論文の図の異常を、論文を掲載した学術誌に連絡した。また、同時にファイザー社にも連絡した。

ファイザー社・法律順守部門の専務理事(Senior Director at Pfizer Compliance Division)のラリー・プーダーバッハ(Larry Puderbach)からすぐに返事が来た。

あなたのご指摘で、弊社のミン=ジーン・イン研究チームを監視し始め、感謝申し上げます。あなたがご指摘してくださった件を憂慮し、問題を徹底的に見直します。ご指摘いただいて、状況を知りましたので、現時点ではコメントはありません。

2016年4月11日(46歳?)、レオニッド・シュナイダーは、ラリー・プーダーバッハから次の手紙を受け取った。

あなたがご指摘してくださった論文画像の重複使用の可能性を徹底的に調査しております。ただ、実験が行なわれてから数年間も経過しているため、広範な調査はまだ進行中です。 調査が完了したらお伝えします。

2016年10月10日(46歳?)、レオニッド・シュナイダーは、ファイザー社・法律順守部門の総合弁護士補(Assistant General Counsel in Compliance Division of Pfizer)であるイヴォンヌ・クリストヴィッチ(Yvonne M Cristovici、写真出典)から、ファイザー社の調査が完了したことと、以下の調査結果を通知された。

調査の結果、計6論文の図に複製使用(データねつ造)が見つかり、ミン=ジーン・インはネカト者であった。

以下の5論文の図に複製使用(データねつ造)が見つかったので、論文撤回の処理に入っている。

  1. Nassirpour et. al, miR-221 Promotes Tumorigenesis in Human Triple Negative Breast Cancer Cells, 8(4) PLOS ONE, (2013)
  2. Baxi et. al, Targeting 3-Phosphoinoside-Dependent Kinase-1 to Inhibit Insulin-Like Growth Factor-I Induced AKT and p70 S6 Kinase Activation in Breast Cancer Cells, 7(10) PLOS ONE (2012)
  3. Mehta et. al, A novel class of specific Hsp90 small molecule inhibitors demonstrate in vitro and in vivo anti-tumor activity in human melanoma cells, 300 Cancer Letters 30 (2011)
  4. Mehta et. al, Effective Targeting of Triple-Negative Breast Cancer Cells by PF-4942847, a Novel Oral Inhibitor of Hsp 90, 17(6) Clinical Cancer Research 5432, 2011
  5. Nassirpour et. al, Nek6 Mediates Human Cancer Cell Transformation And Is A Potential Cancer Therapeutic Target, 8(5) Molecular Cancer Research 717 (2010).

以下の1論文の図にも複製使用(データねつ造)が見つかったが、第一著者と最終著者はファイザー社の社員ではないし、主要な研究場所はカナダのブリティッシュ・コロンビア大学(University of British Columbia)だった。ブリティッシュ・コロンビア大学に事態を伝へ、論文撤回の対処を依頼した。

  1. Lamoureux et. al, Suppression of Heat Shock Protein 27 Using OGX-427 Induces Endoplasmic Reticulum Stress and Potentiates Heat Shock Protein 90 Inhibitors to Delay Castrate-resistant Prostate Cancer, 66 European Urology 145 (2014)

【ねつ造・改ざんの具体例】

ファイザー社は調査の結果、ミン=ジーン・イン(Min-Jean Yin)の6論文の図に複製使用(データねつ造)がみつかり、クロと判定した。ネカト論文を6論文と特定したが、6論文の図のどこがどう複製されたのかを示していなかった。調査委員名をリストした詳細な調査結果も公表しなかった。

つまり、6論文の図の何がどのように複製されたのか、公式発表がない。

仕方がないので、パブピアで探った。代表として、6論文の1つである「2011年のClin Cancer Res.」論文を以下に詳しく見よう。

★「2011年のClin Cancer Res.」論文

「2011年のClin Cancer Res.」論文の書誌情報を以下に示す。2017年1月、撤回された。

どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。

2015年12月5日に、図1ABと図3Bの電気泳動バンドがおかしいと、指摘された「Peer 1: ( December 5th, 2015 8:38am UTC )」。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/6FA6E69CC4D4A9B252C9ED83F1BA59#fb41336

図1AB:同じ色で示したバンドは、同一バンドの流用。 写真をクリックすると写真は大きくなります。

図3B:同じ色で示したバンドは、同一バンドの流用。 写真をクリックすると写真は大きくなります。

図1ABと図3Bで、同一の電気泳動バンドを多数、別の試料に流用している。明確なデータねつ造である。向きを変え、胡麻化そうという意図もありありとしている。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2017年7月19日現在、パブメド(PubMed)で、ミン=ジーン・イン(Min-Jean Yin)の論文を「Min-Jean Yin [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003~2016年の14年間の24論文がヒットした。

「Yin MJ[Author]」で検索すると、1995~2016年の20年間の55論文がヒットした。この55論文には本記事とは別人の論文が含まれている。

2017年7月19日現在、「Yin MJ AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、5論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2017年7月19日現在、「パブピア(PubPeer)」ではミン=ジーン・イン(Min-Jean Yin)の10論文にコメントがある:PubPeer – Results for Min-Jean Yin

但し、数報は、本記事のミン=ジーン・イン(Min-Jean Yin)の論文ではない。

●7.【白楽の感想】

《1》組織の研究公正

企業でのネカト事件の報告は、大学に比べとびぬけて少ない。どうしてだろうか?

「理論上」、ネカト事件の報告が少ない組織は、次の2つが考えられる。

1. ネカト行為はほとんどないからネカト事件にならず、報告もない。
2. ネカト行為は普通の頻度あるが、事件になる前に各部署または上層部が隠蔽し(握りつぶし)てしまう。ネカト行為者を解雇・転属させて再発を防いでいる。

もし「1」なら、その組織の研究公正管理に優れた点があるので、その点を学べないだろうかと、白楽は、ある時期思っていた。

しかし、今は、「経験上」そう思わない。すべての企業の研究所も研究公正に苦慮している。特に優れた研究環境や倫理システムを持っているわけではない。日本の製薬企業研究所の上層部と研究公正のことを話し合った経験からも「1」はないと確信する。

つまり、現実には「1」はなく、「2」である。しかし、「2」はマズい。

製薬企業で医薬品のデータねつ造・改ざんがあれば、薬効がない医薬品を販売するとか、健康被害をもたらす医薬品を販売することになる。このことは必ず発覚し、製薬企業に大きな損害を与える。

それでも従来は、ネカト行為があったのに、その発覚を製薬企業が握りつぶしていた。ネカト行為者を解雇・転属させて再発を防いでいた。

しかし、現在、パブピアは製薬企業が発表した論文のデータ異常を公然と指摘する。その指摘に対して、何らかの納得できる対応を研究界に示さないと、疑惑が大きくなり、論文の信頼度はもちろん、その企業が発表する研究論文全体の信頼度が低下し、企業のイメージダウンになる。

それで、今回、ファイザー社は対応した。

ファイザー社は、研究員のアントニオ・グアルベルトを「間違い」ということで解雇したこともある。
→ アントニオ・グアルベルト(Antonio Gualberto)(米):Pfizer retracts another experimental cancer drug study – Retraction Watch at Retraction Watch

営利を目的とする企業の研究所でも、大学と同じように多くのネカト行為が生じている。

そのネカトを該当企業が調査しても、その調査結果を信頼するのは難しい。不都合な真実は隠蔽されると容易に予想できるからだ。

かなり強力な第三者機関が調査すべきである。

《2》後日談:エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)

2016年2月、ネカトハンターのレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)は、ミン=ジーン・イン論文の図に異常があると知人に伝えられた。

この時、知人は匿名を希望した。しかし、2017年5月23日、実名で良いとのことで、レオニッド・シュナイダーは知人はエリザベス・ビック(Elisabeth M. Bik、写真出典)だったと伝えた。

エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)は、

ファイザー社には学術機関にあるような研究公正委員会がない。ネカトをどこに通報すべきなのか外部からはわからない。それに、ネカトの申し立てにファイザー社がどのように対応するのかも分からなかった。それで、レオニッド・シュナイダーに伝えた。

と述べている。

エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)は、オランダで育ち、オランダで研究活動していた微生物学者で、2001年に米国のスタンフォード大学に移籍した。2016年11月に退職し、uBiomeの科学ライタ―になった。また、有能なネカトハンターである。
→ 2016 年11月8日記事:Stanford Microbiome Pioneer Elisabeth Bik Becomes New Science Editor at uBiome、(保存版

研究公正にも関心が高く、以下の研究公正論文を発表した。

エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)のサイト(Microbiome Digest – Bik’s Picks | A daily digest of scientific microbiome papers, by your Microbe Manager Elisabeth Bik, Science Editor at uBiome.com. Twitter: @microbiomdigest、(保存版))を覗くと、ビックの独特の才能を感じる。

ネカトとは少しズレるが、エリザベス・ビックは、ストック写真の異常を指摘している。このような指摘をする人は世界的に珍しいので以下に3例示す(写真出典は上記のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)のサイト)。

1.電気ハンダで作業している写真だが、モデルが発熱部分を握っている!!(保存版) アリエン!

2.パスツール・ピペットを逆に持ってる!保存版) キャップもつけていない! モデルはどうやって液体を取るのだ。アリエン!

3.同時に12試料を分注できる12連マイクロ・ピペットだけど、最左の1個、量が足りませんぜ。それに液の色が途中でピンクから無色に変わっている2層構造? こんな12チャンネルピペット買う人いません!! アリエン!

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●8.【主要情報源】

① レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ:Min-Jean Yin – For Better Science、(保存不可)
② 2016年10月11日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事とその後:You searched for Min-Jean Yin – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2016年10月18日の「Healthview」記事(ギリシャ語):Απόλυση top ερευνήτριας από το ογκολογικό της Pfizer για χειραγώγηση δεδομένων – Healthview、(保存版
④ 「パブピア(PubPeer)」ではミン=ジーン・イン(Min-Jean Yin)の10論文にコメントがある:PubPeer – Results for Min-Jean Yin
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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