2019年9月3日掲載
ワンポイント:【長文注意】。「3‐1 性不正」は「3‐1‐1 性不正の分類・規則」「3‐1‐2 セクハラ(Sexual Harassment)の規則・言動例」と本記事「3‐1‐3 性不正事件のデータ・被害実態」の3部作である。本記事では、高等教育界(含・学術界)の性不正事件のデータと被害実態を示す。データと被害実態を見れば、性不正事件の深刻さが正確に把握できる。性不正への対処を設計する基本として、正確なデータが必要である。なお、調べてみると日本のデータと被害実態調査ははなはだ貧弱なことがわかった。【白楽の手紙】:①文部科学省・国立大学法人支援課・淵上 孝課長。②立憲民主党・西村智奈美議員
【追加】
・2020年1月11日記事:ニューヨーク州だけで、2018年に4,000人の学生が性不正被害を訴えていた:Almost 4K sexual violence complaints made at New York colleges
・2019年10月22日記事:アメリカの女子大生4人に1人が性的暴行被害に─調査結果により判明 | 司法制度を使うのはトラウマに…ではどうする? | クーリエ・ジャポン
・2019年10月15日記事、米国女性学部生の4人に1人が性的暴行を受けていた:Survey Says 1 in 4 Female Undergrads Have Been Sexually Assaulted; USC Reported Even Higher Numbers | KTLA
・2019年9月16日記事、米国女性の最初の性不正被害がレイプだったのは16人に1人で平均年齢15.6歳:One in 16 U.S. women’s first sexual experience was forced, new study finds(論文は2019年9月16日JAMA: Association Between Forced Sexual Initiation and Health Outcomes Among US Women )
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.はじめに
2.性不正事件データベース
《1》米国
《2》他国
3.性不正被害数:米国
《1》米国の大学生の被害実態
《2》米国の研究者の被害実態
4.性不正被害数:ドイツ、英国、オーストラリア、デンマーク、中国
5.性不正被害数:日本
《1》犯罪関連機関
《2》文部科学省
《3》研究者による被害実態調査
6.日本の非常識:性不正を容認する政策
7.白楽の感想
8.白楽の手紙
9.コメント
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●1.【はじめに】
「3‐1 性不正」では、「3‐1‐1 性不正の分類・規則」を解説した。次いで、性不正の1種で、最近特に注目を集めている「セクハラ」について、「3‐1‐2 セクハラ(Sexual Harassment)の規則・言動例」で詳細に解説した。本記事「3‐1‐3 性不正事件のデータ・被害実態」と合わせ、「3‐1 性不正」 3部作である。
以前から察知していたが、高等教育界(含・学術界)の性不正の被害は世界的に深刻な状況である。また、被害にあっても大学や警察に届け出ない割合がとても高い(写真出典)。
本記事では、まず、性不正事件データベースを示す。データベースを分析すれば、性不正事件の正確な全体像がつかみやすい。
さらに、各機関が行なった性不正の被害実態調査を調べ、性不正の被害実態をしっかり認識できるようにした。
●2.【性不正事件データベース】
●《1》米国
★ヴォックス「Vox」:研究者の性不正事件データベース
ヴォックス「Vox」が映画界、メディア界、ビジネス界、政界、その他で263人の性不正加害者のリストを公表している。米国限定である。2018年9月までのデータである。
→ A list of people accused of sexual harassment, misconduct, or assault
「その他」の中に米国人研究者が10~20人リストされている。リストに加える基準は不明である。
本ブログで取り上げた以下の性不正者(米国)がリストされている。
- 「セクハラ」:フランシスコ・アヤラ(Francisco Ayala)(米) 2019年7月17日掲載
- 「セクハラ」:公共政策学:ホルヘ・ドミンゲス(Jorge I. Domínguez)(米) 2019年6月14日掲載
- 「セクハラ」:天文学:ニール・ドグラース・タイソン(Neil deGrasse Tyson)(米) 2019年5月27日掲載
- 「セクハラ」:言語学:フロリアン・ジェイガー(Florian Jaeger)(米) 2019年4月6日掲載。
- 「セクハラ」:哲学:アヴィタル・ロネル(Avital Ronell)(米) 2019年2月2日掲載
- 「セクハラ」:天文学:ローレンス・クラウス(Lawrence Krauss)(米) 2018年11月7日掲載
本ブログで取り上げた以下の性不正研究者(米国)はリストに入っていない。
- 「児童性的虐待」:フレンチ・アンダーソン(French Anderson)(米) 2019年8月28日掲載
- 「セクハラ」:教育学:テレサ・ブキャナン(Teresa Buchanan)(米) 2019年8月22日掲載
- 「セクハラ」:トーマス・ジェッセル(Thomas Jessell)(米) 2019年7月8日掲載
- 「セクハラ」:社会学:スティーヴン・コーエン(Steven M. Cohen)(米) 2018年9月25日掲載
- 「セクハラ」:インダー・ヴェルマ(Inder Verma)(米) 2018年8月16日掲載
- 「セクハラ」:天文学:ジェフリー・マーシー(Geoffrey W. Marcy)(米) 2016年1月28日
★リバルキン教授:学術界の性不正事件データベース(Academic Sexual Misconduct Database)
ヴォックス「Vox」はソコソコ有益だが、以下のリバルキン教授の「学術界の性不正事件データベース(Academic Sexual Misconduct Database)」はスゴイ。
2019年6月7日、ミシガン州立大学(Michigan State University)のジュリー・リバルキン教授(Julie Libarkin、写真出典、専門は地球認識学)が米国の研究者の性不正事件をデータベース化し、この日、新しいサイトで「学術界の性不正事件データベース(Academic Sexual Misconduct Database)」を公開した。現在もデータを加えている。
→ 一覧表:Incidents | Academic Sexual Misconduct Database
2019年6月25日時点で934件が掲載されている。以下に冒頭の5件を示す。白楽のネカト・ブログの表と似た形式である。2019年9月2日現在、1,000件を超えただろうか?
サイトを見ると972件でした。もうすぐ1.000件になるでしょう。なんかスゴイですね。白楽のデータベースでは139件なので完全に負けてます。白楽が本ブログで取り上げた性不正研究者(米国)は全部リストされていると思ったが、以下の2人はリストされていなかった(当社調べ)。
- 「児童性的虐待」:フレンチ・アンダーソン(French Anderson)(米) 2019年8月28日掲載
- 「セクハラ」:教育学:テレサ・ブキャナン(Teresa Buchanan)(米) 2019年8月22日掲載
★連邦政府・各州政府:性犯罪者の情報公開(ミーガン法)
1994年、米国のニュージャージー州で、7歳の少女・ミーガン・カンカ(Megan Kanka、写真出典)が、性犯罪で2回の前科があり隣に住む若い男性・ジェシー・ティメンデクアス(Jesse Timmendequas)にレイプされ殺害された。
カンカの両親は性犯罪の前科がある人が隣に住んでいることを知っていれば、それなりの対応をした、娘がレイプされ殺害されることはなかった、と訴えた。つまり、「性犯罪者の情報を公開せよ!」と訴えた。
殺害後89日目に、ニュージャージー州でミーガン法(Megan’s Law)、正式には、性犯罪者情報公開法(Jacob Wetterling Crimes Against Children and Sexually Violent Offender Registration Act of 1994)が制定された(1994年)。(出典:ミーガン法 – Wikipedia)
ミーガン法は、性犯罪全般(性的暴行、破廉恥罪、同意ありの未成年者との性交行為)で有罪になった者の所在地の公開を義務付けている。多くの場合、インターネットでその情報にアクセスできる。
- FBIのサイト:Sex Offender Registry Websites — FBI
- 司法省のサイト:United States Department of Justice National Sex Offender Public Website
★カリフォルニア大学ロサンゼルス校周辺の性不正者
ミーガン法の1例として、試しに、カリフォルニア大学ロサンゼルス校周辺の性不正者をチェックしてみた。
日本人研究者が米国に滞在する時、子供連れでの留学することが多い。また、女性にとって、このような情報は必須でしょう。
カリフォルニア州のサイト(California Megans Law)で、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の通称名「UCLA」を記入し、半径「10 Miles」で検索すると17人の住所と顔写真が地図上に示された。以下に地図だけ示す。ここに示さないが、サイトには住所と顔写真の情報もある。
→ California Megans Law
★教育省のタイトル・ナイン(Title IX)事件データベース
高等教育界(含・学術界)の性不正を禁止する米国連邦の教育改正法第9編(タイトル・ナイン(Title IX))に違反した事例のデータベースが、数百件の事件PDFファイルとして公表されている。白楽は少ししか見ていない。
→ OCR Database | The NCHERM Group
★司法省の性的暴行データベース
司法省が2018年8月10日に「女性学生の性的被害(Sexual Victimization of College Women)」(47頁)を公表した。白楽は少ししか見ていない。
→ 2018年8月10日に「女性学生の性的被害(Sexual Victimization of College Women)」: https://www.ncjrs.gov/pdffiles1/nij/182369.pdf
性的暴行の政府データベースが112個もある。量が多くて、とても全部を見ていられない。 → Datasets – Data.gov
★司祭の性的暴行データベース
高等教育界(含・学術界)ではないが、宗教界の司祭の性的暴行データベースもある。
→ Database of Priests Accused of Sexual Abuse
● 《2》他国
★白楽のデータベース:研究者の性不正事件データベース
2019年9月2日現在、白楽の「研究者の性不正・アカハラ事件一覧(除・日本)」は、世界の229件、米国に限れば、148件をリストしている。アカハラを含めているが、アカハラの件数は内数で世界で27件、米国に限れば17件、である。
→ 研究者のセクハラ・アカハラ事件一覧 | 研究者倫理
白楽は記事執筆に手一杯で、リストを完成する余裕がない。リストは事件のデータベースではなく記事のデータベースという役割が強い。リストに未記載の情報が現在2桁数ある。つまり、適宜更新するが、白楽の性不正事件データベースは不完全である。
●3.【性不正被害数:米国】
●《1》米国の大学生の被害実態
米国司法省の調査では、レイプ・性的暴行の被害者(12歳以上)は、毎年平均して237,868人もいる。被害者数がすごく多い。
軍隊内でのレイプ・性的暴行が多いそうだ。
次項で述べるように、女性学生のレイプ・性的暴行は毎年平均31,302人である。この数値は被害者総数(237,868人)の13%に当たる。
米国では毎年31,302人の女性学生がレイプ・性的暴行を受けている。この数は異常である。白楽は衝撃を受けた。こんなに多くの被害者がいるのに十分な対策が取られていない。社会がなんか、おかしい。白楽は、この絶対数はとても多いと思うが、皆さん、どう思います?
★シノジッチとラングトン:2014年
ソフィ・シノジッチ(Sofi Sinozich、写真出典)とリン・ラングトン(Lynn Langton)が2014年12月に司法省から「1995-2013年の女性学生のレイプ・性的暴行の被害(Rape and Sexual Assault Victimization Among College-Age Females, 1995–2013)」報告書(シノジッチ・レポート)を発表した。
シノジッチ・レポートは、1995–2013年の18-24歳の女性を対象に、レイプと性的暴行について、学生と非学生にわけてデータを提示している。
以下の図を見ると、18-24歳の女性学生に対するレイプと性的暴行事件(真ん中の濃い色の線)は1997–2013年の17年間で徐々に減ってきている。
以下は、1995–2013年の18-24歳の女性学生対象で、レイプと性的暴行についての数値である。
被害者は1,000人あたり6.1人だった。なお、同年齢層の男性学生では1.4人だった。女性に比べれば少ないが、男性も被害にあっている
加害者の78%は被害者の知っている人。内訳は、24%は元・現の配偶者・ボーイ(ガール)フレンド、50%はよく知っている人、2%は親族
51%は自宅から離れた旅行、余暇活動、買い物中に起こった
65%は夜(夜6時-朝6時)、33%は昼(朝6時-夜6時)、3%は不明、に起こった
加害者の11%は被害者を武器で脅した、82%は武器なし、7%は不明
加害者の95%は単独犯。2人以上で行なった割合は5%
加害者の17%は18-20歳、51%は21-29歳、30歳以上は23%、混合は2%、7%は不明
加害者の63%は白人、19%は黒人、他・混合は10%、8%は不明
加害者の47%は薬物・飲酒あり、25%はなし、28%は不明
被害者の80%は警察に通報しなかった
警察に通報しなかった理由の26%は個人的な出来事だと思った。20%は報復を恐れたため。12%は通報するほど重要ではないと思った
被害者の16%しか被害者支援組織から支援を受けなかった
1995–2013年の18-24歳の女性学生へのレイプと性的暴行は毎年31,302件起こっていた(以下の表)。レイプ完遂が10,237件、未遂が7,864件、レイプ以外の性的暴行は9,714件、レイプ・性的暴行の脅迫は3,488件である。すごく多い!!
★クリストファーら:2007年10月
→ 2007年10月報告書:Christopher P. Krebs, Ph.D. ; Christine H. Lindquist, Ph.D. ; Tara D. Warner, M.A. ; Bonnie S. Fisher, Ph.D. ; Sandra L. Martin, Ph.D. The Campus Sexual Assault (CSA) Study
性的暴行の数値。
13.7%の大学生が在学中に少なくとも1回の性的暴行の被害
4.7%は肉体的な性的暴行の被害者
7.8%の女性が自発的に薬物やアルコールを飲んだ後に無能力になり性的暴行を受けた
★アメリカ大学女性協会:2006年
→ American Association of University Women. 2006:(PDF) Drawing the Line: Sexual Harassment on Campus
→ Sexual harassment in education in the United States – Wikipedia
大学でのセクハラ調査「キャンパスのセクハラに線を引く。
女性学生の62%および男性学生の61%が、自分の大学でセクハラを受けた。
学生の66%は、セクハラを受けた個人を知っている。
セクハラ被害学生の10%以下しか大学に被害を報告していない。
セクハラ被害学生の35%以上は、自分の被害を誰にも話していない。
セクハラ被害学生の80%は加害社が他の学生または元学生と報告している。
セクハラ被害学生の39%は、事件が寮で起こったと言っている。
男性学生の51%は大学でセクハラをしたと認め、22%は頻繁にしたと認めている。
女性学生の31%は大学でセクハラをしたと認めている。
LGBTの学生の70%以上がセクハラを経験している。
セクハラ被害にあった結果、女性学生は次のように感じた。
68%はひどくまたは多少動揺(upset)した。6%は全く動揺(upset)しなかった。
57%は人目が気になったり、困惑した。
55%は怒りを感じた。
32%は怖いと感じた。
セクハラ被害にあった結果、多くの学生は就学上のさまざまな影響を受ける。睡眠障害、食欲不振、授業出席の減少、研究グループの回避がみられる。また、学校の転校、図書館の変更、専攻の変更、教授/教育助手のオフィスアワーに教授/教育助手のオフィスに行かないなどを考える。
そして、
16%は、授業出席が困難に感じ、また、授業に集中できないと感じた。
9%は、受講を止めた、または、退学した。
27%はキャンパス内の特定の建物や場所に近寄らない。
男性学生の20%はセクハラの被害に再びあうのではないかと心配している。また、女性学生と同じようにセクハラ被害を受けた男性学生は次のように感じた。
35%はひどくまたは多少動揺(upset)した。61%は全くまたはあまり動揺(upset)しなかった。
セクハラ被害を受けたLGBT学生は次のように感じた。
男子学生の20%が、ある程度、セクハラを心配していると報告しています。
60%はセクハラを避けようとしました。
24%は、授業出席が困難に感じ、また、授業に集中できないと感じた。
17%は別の学校への転校を検討し、9%が転校した。
参考:Sexual harassment in education in the United States – Wikipedia
★女性学生の5人に1人が性的暴行被害:2015年記事
フィールド研究界での性不正事件で本ブログの別記事から引用する。
7-2.フィールド研究界に蔓延するセクハラと性的暴力:キャスリン・クランシ―(Kathryn Clancy)他、2014年6月16日| 研究者倫理
2015年4月13日の産経WESTに、韓国と米国の学術界の性的事件の記事がある(ソウル大で「権力型性犯罪」が深刻 ハーバード大は教授と学生の「性的関係」禁止 性乱れる世界の最高学府(1/5ページ) → 左のリンク切れたら、1頁のみ →ココ)。
上の記事には驚く数値が並んでいる。なお、通常使われる「女子」学生を意図的に「女性」学生と書いた。
レイプはキャンパスで頻繁に起こっていて、全米で女性学生の5人に1人が性的暴行を受けている。しかし、被害届をだす女性学生は12パーセントしかいない。
性的暴行は主にパーティーで起こる。犠牲者は、薬物や酒で心身が正常ではなく、自由がきかない状況下で性的に暴行される。加害者は、しばしば連続した犯罪者で、男性学生の7パーセントが、レイプした、または、しようとしたと認めている。その約2/3は、何度もレイプをして、平均レイプ数は6回である。( ← 白楽、モタモタしないで初回で逮捕しろ!!)
ほとんどは逮捕されないし告訴されない。被害者は被害届をださないし、出しても、警察官は偏見で事件化しない。
(↑ 白楽、ナント言う数字だ! アメリカの大学に女性を留学させるな!)
●《2》米国の研究者の被害実態
★学全米アカデミーズ
2018年6月12日、全米アカデミーズ(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine)は米国におけるセクハラの広がり・性質・影響についてのレポート「女性へのセクハラ(Sexual Harassment of Women)」を発表した。
無料閲覧可能 → Sexual Harassment of Women: Climate, Culture, and Consequences in Academic Sciences, Engineering, and Medicine | The National Academies Press
しかし、このレポートは312頁もあって、スイスイ読める量ではない。ということで、白楽は未完読です。紹介記事から以下の数値をあげておきます(2018年6月14日記事:National Academies Study on Sexual Harassment Calls for Culture Shift at Academic Institutions | American Institute of Physics)
- テキサス大学の理工医学の女性学生の20〜50%が教員からセクハラを受けた
- ペンシルベニア州立大学では、女性学部生の33%、女性院生の43%がセクハラを受けた。
これらが、代表的数値だと思う。異常な多さです。
★NIH:セクハラ事件数
2019年2月、NIHは2018年に起こったセクハラ事件を発表した。
→ 2019年2月28日のジョセリン・カイザー(Jocelyn Kaiser)記者の「Science」記事:National Institutes of Health apologizes for lack of action on sexual harassers | Science | AAAS
NIHは2018年に研究助成している研究者の28件のセクハラ事件に対応した。14人の研究代表者を交代させた。大学・研究機関は21人の研究代表者を懲戒処分した。2人を研究費審査員から除外した。
2019年は、6月13日までのところ、研究助成している研究者の27名の研究者を含む31件のセクハラ問い合わせを受け、14人の研究代表者を交代させ、19人を研究費審査員から除外した。
NIH自身の研究者もセクハラ事件を犯した。2018年に、35人のセクハラ申し立てを審査し、公式に10人のスタッフを懲戒処分し、非公式に10人のスタッフを懲戒処分した。
2019年1月以降6月13日まで、NIHは171人のセクハラ申し立てを審査し、公式に7人のスタッフを懲戒処分し、非公式に27人のスタッフを懲戒処分した。
また、NIH は2019年1-3月、NIH自身の研究者が過去1年間に受けたハラスメント(Harassment Survey)の調査を行なった。
→ 2019年6月12日のNIHアンケート結果公表:Interim Executive Report on the NIH Workplace Climate and Harassment Survey | SWD at NIH
→ 2019年6月12日のメレディス・ワドマン(Meredith Wadman)記者の「Science」記事:Nearly one in five NIH employees say they experienced gender harassment in the past year | Science | AAAS
15,794人の回答があった。過去1年間に、
21.6%が何らかの形のセクハラを経験した。
10.3%が望ましくない性的注意(unwanted sexual attention)を経験した。
0.3%が強制性交(sexual coercion)を経験した。
★フィールド研究界
フィールド研究界での性不正事件で本ブログの別記事から引用する。
7-2.フィールド研究界に蔓延するセクハラと性的暴力:キャスリン・クランシ―(Kathryn Clancy)他、2014年6月16日| 研究者倫理
2014年の論文で、フィールド研究界というのは人類学、考古学、地質学などのフィールド調査の分野である。回答者は、主に、女性(77.5%)、異性愛者(85.9%)、白人(87.2%)、米国人(74.8%) で、訓練生(学生・院生・ポスドク)は58%を占めた。
72.4%の人が、直近あるいは最近の重要なフィールド調査で、不適切な性的言動を直接体験した・見た・他人から聞いた。
64%の人が、自分自身、セクハラ(harassment)を受けた経験があった。
20%以上の人が、性的暴力(assault)の犠牲者だった。
セクハラ(harassment)を受けた人の男女の割合は、女性71%、男性41%で、女性は男性の2倍セクハラを受けている。
性的暴力(assault)を受けた人の男女の割合は、女性26%、男性6%で、女性は男性の4倍、性的暴力を受けている。
身分は、男女ともセクハラ・性的暴力ともに、被害者は圧倒的に訓練生(ポスドク、院生、学生)が多かった。
特徴的なのは、セクハラと性的暴力の両方とも、男性は同僚から受けるが、女性は上位者から受けることが多い
★学術集会
大学・研究機関には性不正規則があるのに、学術集会に性不正規則がない。実は、学術集会で性不正事件がソコソコ起こることが知られている。
米国の生物系の学術集会(全部で195)の76%(149学術集会)は性不正に関する「行動規範(code of conduct)」がなかった。この状態だと、学術集会で性不正の被害を受けた時、対処するルールがない。
→ 2019 年7月8日記事:Academic conferences lack tools to prevent sexual misconduct, discrimination | EurekAlert! Science News
→ 2019 年7月30日記事:Lack of academic conference codes leads to sexual misconduct problems
●4.【性不正被害数:ドイツ、英国、オーストラリア、デンマーク、中国】
★ドイツのマックス・プランク研究所(Max-Planck-Gesellschaft)
ドイツの巨大な研究所であるマックス・プランク研究所(Max-Planck-Gesellschaft)での性不正はかなり多い。
→ 2019年6月27日の「Mirage News」記事:Max-Planck-Gesellschaft publishes survey on work culture and work atmosphere | Mirage News
マックス・プランク研究所の全従業員の38%に当たる9,000人以上にアンケート調査を行なった。
アンケート調査は、院生・ポスドクだけでなく、すべての研究スタッフおよび非研究スタッフを対象とした。アカハラ被害も記載されているので、性不正被害と合わせて記載しておく。
その結果、
3.9%が、調査前12か月間に職場で、同僚や上司かセクハラまたは性差別を受けた
女性は男性より3倍被害を受けた
グループリーダーや部長などのスタッフの26.3パーセントが性差別を受けた
アカハラ被害は以下のようだ。
約10%が、調査前12か月間に職場で、同僚や上司かアカハラを受けた
調査前12か月間に、非研究スタッフ(11.8%)は、研究スタッフ(7.5%)よりも多くアカハラを受けた
ドイツ人研究者の28.1%、他のEU諸国研究者はほぼ半数、非EU諸国研究者はほぼ3分の1、無視または排除されてるアカハラを受けた。
★英国の大学
英国の大学での性不正はかなり多い。そして、増えている。
2018年の「Revolt Sexual Assault」記事によると以下ようだ。
→ 2018年:Research – Revolt Sexual Assault
英国の大学では、学生・院生の約3分の2(62%)が、セクハラの被害経験がある。
被害者の10人に1人しか警察に通報しなかった。
6%だけが大学に通報した。
性暴力を経験した人の2%しか、通報した時の大学の対応に満足していない。
2019年2月26日の「Guardian」記事には次の数字がある。
→ 2019年2月26日の「Guardian」記事:More than half of UK students say they have faced unwanted sexual behaviour | Education | The Guardian
56%の学生が、触られたり、露骨なメールを送られたり、ヤジられたり、ストーキングされたり、セックスを強要されたりするなど、好ましくない性的行動に遭遇した。
8%の学生が、事件を警察または大学に報告した。
女性学生のほぼ半数(49%)が不適切に身体を触れられたが、報告したのは5%のみだった。
男性学生の3%が不適切に身体を触れられた。
被害者の半数以上(53%)は、加害者が別の大学だった。
報告された事件のほぼ3分の1(30%)はキャンパスで発生した。
そして、2019年7月24日の「TAB」記事では、英国の大学でのレイプと性的暴力が10倍も増えていると報告している。つまり、2014年に年間65件だったのが、4年後の2018年には約10倍の626件になっていた。
→ 2019年7月24日の「TAB」記事:Reports of rape and sexual assault have increased tenfold at UK universities
なお、次項でオーストラリアの団体「キャンパス・レイプを終らせる(End Rape on Campus:EROC)」に触れるが、英国にも似た団体「1752グループ(1752 Group)」がある。1752グループ(1752 Group)は「高等教育でのレイプを終らせる(Ending sexual misconduct in higher education)」団体である。
ココでは省略するが、1752グループ(1752 Group)も上記と似た調査結果を発表している。
→ 2018年4月6日の「Felix」記事:Study finds higher education rife with sexual misconduct
★オーストラリアの大学
オーストラリアの大学の性不正もかなり多い。
2017年8月1日の「Guardian」記事には次の数字がある。
→ 2017年8月1日の「Guardian」記事:Sexual assault report: universities called on to act on ‘damning’ figures | Australia news | The Guardian
学生の6.9%は2015年または2016年のいずれかに性的暴行を受けた
女性学生の10人に1人が過去2年間に性的暴行を受けた
男性学生の2.9%が過去2年間に性的暴行を受けた
性的暴行被害者の9%しか大学に被害届を出していない
性的暴行加害者の51%は被害者の知人だった
上記の57%は同じ大学の学生だった
学生の51%が2016年にセクハラされた
学生の4%しか大学は性不正に十分な支援をしていないと感じている
「キャンパス・レイプを終らせる(End Rape on Campus:EROC)」http://www.endrapeoncampusau.org/というオーストラリアの団体が2018年に211ページのレポート「The Red Zone Report」を公表した。長編なので白楽は全部読んでいない。キャンパスでのレイプ事件をかなり詳細に伝えている。
→ University sexual assault and sexual harassment project | Australian Human Rights Commission
★デンマークの大学
デンマークはヨーロッパで最も性的暴力の率が高い国と言われている。
→ 2019年3月11日の「BBC News」記事:Does Denmark have a ‘pervasive’ rape problem? – BBC News
デンマーク法務省は、年間約5,100人の女性がレイプまたはレイプ未遂の被害者と推定していたが、南デンマーク大学は、この数字は2017年には24,000人だったとしている。
ところが、同じ2017年、890人のレイプしか警察に通報されなかった。つまりレイプ被害者の3.7%しか通報されていなかった。通報された890人のうち535人が起訴され、94人が有罪判決を受けた。
上記はデンマーク全体での数値で、高等教育界(含・学術界)での数値は見つからなかった。しかし、デンマークが最も性的暴力の率が高いとは、驚きました。
なお、デンマークに隣接するスウェーデン第三の都市・マルメ(Malmo)は「レイプ首都」なのだろうか? という記事がある。どちらかというと、デンマークよりスウェーデンの方がレイプが多いという印象だ。
→ 2017年2月24日の「BBC News」記事:Reality Check: Is Malmo the ‘rape capital’ of Europe? – BBC News
★中国の大学
中国の南京大学(Nanjing University)の性不正のアンケート調査結果がある。
→ 2019年8月8日の「South China Morning Post」記事(大学の写真同):Sexual harassment at China’s elite Nanjing University in survey spotlight
学生の3分の2は、学内でセクハラをみた
学生の12.5%はセクハラされた経験がある
女性学生の16%はセクハラされた経験がある
上記の23%は同じ大学の教職員だった
セクハラ通報した被害者の30%を大学が満足に対応したと感じた。他の70%は無視、黙っていること、自己警備しろと言われた
●5.【性不正被害数:日本】
●《1》犯罪関連機関
セクハラは、男女雇用機会均等法に「性的な言動」として位置づけられている。ただ、セクハラの明確な定義はなく、規定は事業主向けで、相談窓口の設置などに限られている。行政が、個別のセクハラ被害を認定することはできない。(杉原里美、仲村和代 2018年4月26日:セクハラに法の穴 明確な定義なく、被害者泣き寝入りも:朝日新聞デジタル)
★犯罪白書:2018年版
→ 平成30年版 犯罪白書
下記の表は日本全体の「強制性交等・強制わいせつの認知件数及び被害発生率の推移(最近10年間)」の数値である。高等教育界(含・学術界)での数値ではない。
再犯率は、強制性交等が4.8%、強制わいせつが8.1%である。刑法犯全体では15.1%なので、性不正犯罪者の再犯率は刑法犯全体と比較すると高いわけではない。
→ h5-2-1-03.jpg (796×982)
但し、今までのいろいろなデータが示すように、性不正の被害者は被害を通報しない。だから、強制性交等、強制わいせつの認知件数だけを見て、性不正の再犯率がさほど高くないと判断するのは間違いだと思う。
2018年、河野正一郎は、性不正の再犯率は高いと述べている。
→ 2018年7月6日の河野正一郎記者の「現代ビジネス」記事:「新潟女児殺害事件」、それでも性犯罪者の監視はタブーですか(河野 正一郎)
再犯率を調べたところ、結果はこうなった。
▽単独強姦(集団ではなく1人で強姦したケース)=63.0%
▽強制わいせつ=44.0%
▽13歳未満の小児に対するわいせつ=84.6%
▽痴漢=100%
● 《2》文部科学省
文部科学省(および大臣)は事件が起こるたびに「セクハラは言語道断であり、決して許されない」と国民に向かって発言する。しかし、現実の施策は、「許している」ように思える。「日本は科学技術立国」というのと同じで、建前と実態がかけ離れている。まやかしが横行しているのである。
★わいせつ行為等の再犯率は9%
わいせつ行為等で処分した小中高生の教育職員の9.0%は過去にわいせつ行為をしていた。つまり、再犯率が極めて高い(2006年:「教育職員のわいせつ行為等に係る懲戒処分等事案の具体的状況について」)。
ただ、数値は、高等教育界(含・学術界)の教員の数値ではない。
繰り返すが、再犯率9%は、再犯が発覚し事件として認知された場合である。事件化していないわいせつ行為等は調べようがないが、性被害者のほとんどは通報しないという事実を考えると、わいせつ行為等の再犯率はもっとずっと多いハズだ。3割以上はあるのではないか? セクハラなどの比較的軽微な性不正の再犯率は5割を超えると思う。
なお、再記するが、わいせつな行為とは、体への接触、キス、衣服を脱がせること等の行為で性交はなかったという意味である。日本で、暴行又は脅迫して行なえば、強制わいせつ罪(刑法第176条)になる。
★わいせつ行為は懲戒免職
小中高生の教員がわいせつ行為を行なえば懲戒免職にするよう、文部科学省は要請している。
懲戒免職は都道府県の権限であり、国が指導できる立場にはないが、国家公務員の規定を参考にしている県もある。ただ、少なくともわいせつ行為による場合は懲戒免職にするよう要請している。(出典:2002年の教員養成部会(第17回) 議事要旨:文部科学省)
ところが、大学教員がわいせつ行為をしても、ほとんどの場合、停職処分である。懲戒免職されることは滅多にない。白楽のデータベース(【日本の研究者の性不正・アカハラ事件一覧】)ではここ10年の間、懲戒免職は2件しかない。おかしくないだろうか?
★大学生の性不正被害実態の調査をしていない
文部科学省は高等教育界(含・学術界)での性不正被害の実態調査をしていない。
2019年(平成 31 年)4月の男女共同参画会議の以下の報告書に、高等教育界(含・学術界)での性不正被害の実態調査をした記述がない。していれば、マズ間違いなく記載されるハズだ。
→ 2019年4月:本文セクシュアル・ハラスメント対策の現状と課題、男女共同参画会議
●《3》研究者による被害実態調査
高等教育界(含・学術界)での性不正被害の実態は、法務省の犯罪白書に枠がなく、文部科学省が調査していない。つまり、公的機関の数値がない。
以下は、大学研究者の論文が示した数値である。
★小西吉呂ら:2000年
→ 大学生の性被害に関する調査報告 – J-Stage
沖縄県内の5大学および2短期大学に在籍する18歳から24歳までの学生1,106人を対象に調査を行い。、このうち有効回答の得られた1,072人を分析対象とした。
- 女性71%(801人中569人)、男性24%(271人中65人)が性被害を経験した
- 性被害のほとんどは警察へ通報されていなかった
- 「レイプ」はまったく通報されていなかった
★河野美江・教授ら:2018年10月「大学のメンタルヘルス」 2巻、82 – 89頁
→ 2019年5月14日公開:日本の大学生における性暴力被害経験と精神健康度 – 島根大学学術情報リポジトリ
機縁法にて協力の得られた10大学20歳以上の大学生3,357人に無記名・自記式のアンケート調査を実施、有効回答の得られた643部を分析対象とした(回収率19.6%)。
- レイプ未遂は7.8%(男性3.1%、女性9.7%)
- レイプ既遂は2.6%(男性1.6%、女性3.1%)
- 何らかの性暴力被害経験は42.5%
●6.【日本の非常識:性不正を容認する政策】
日本は意図的ではないと思うが、結果として、性不正を容認する政策を取っているように思える。
★日本の加害教員は人知れず大学に復職している
数値を集計していないが、リバルキン教授の学術界の性不正事件データベース(Academic Sexual Misconduct Database)を日本の「日本の研究者の性不正・アカハラ事件一覧」の性不正部分を見れば一目瞭然の違いがある。
→ 研究者のセクハラ・アカハラ事件一覧 | 研究者倫理
第1点は、米国は実名報道:日本は匿名報道
第2点は、米国は解雇・辞職:日本は停職。
米国では多くの性不正の加害者は実名報道されている。そして、米国のほとんどの大学では、加害教員は解雇・辞職なので、性加害者だった教員がキャンパスの教壇や研究指導者になることはとても少ない。マレにそういう教員がいても、多くの場合、実名報道されているので、学部生・院生・ポスドクは状況を把握し、避けることができる。
一方、日本では、加害教員の解雇もあるが、ほとんどが停職処分なので、停職期間が過ぎれば大学に復職し、普通に授業や研究指導をする。しかも、匿名報道なので、どの教員が性加害者だったのか、学部生・院生・ポスドク(と両親)は知る由もない。知る方法がないので、避けることができない。
前述したように小中高生の性加害教員の再犯率は9%である。これは発覚し罪に問われた事件だけだから、実際には、30%以上はあるだろう。
ただ、小中高生の性加害教員のデータはあるが、大学の教員の再犯率データがない。小中高生の性加害教員より高いのか低いのかわからない。米国より高いのか低いのかもわからない。
しかし、以下のように3回もセクハラをした大学教員がいる。それも依願退職で520万円の退職金を受け取っている。
2006年12月19日 時事通信
大阪市立大学(金児曉嗣学長)は19日記者会見し、女子学生にセクハラ行為を行ったとして6月に停職3カ月の懲戒処分とした男性元助教授が、1997年と2001年にも当時の女子学生にセクハラ行為を行っていたと発表した。
元助教授は、11月30日付で依願退職した。今月には520万円の退職金を受け取っている。(時事通信)
つまり、日本の大学・大学院では、性加害教員が停職期間が過ぎれば復職し再度、性不正をする。若い女性学生はそうとも知らず、性加害教員の餌食になってしまう。性加害教員は、2回も停職処分され、3回目に退職になっても、依願退職で退職金をもらえる。こんな甘い処分では性不正事件の抑止力にならない。
上記のように見ると、日本は大学教員の性不正行為を容認する政策をとってると思える。このことを白楽は何度も指摘しているが、一向に改まる気配はない。大学・大学院で性的被害にあった女性学部生・院生も、その両親も大学に抗議しない。メディアも追及しない。
どうしてなんだろう? 白楽は、とても不思議に思う。
★「セクハラ」加害者の匿名・顕名:日米差
著名な生命科学者のセクハラ事件でも同じ趣旨のことを書いた。再掲する。
→ 犯罪「セクハラ」:インダー・ヴェルマ(Inder Verma)(米) | 研究倫理(ネカト)
日本と比べると、米国のセクハラ事件は、事件を本気で解決しようとする気合が感じられる。
日本では、セクハラをした大学教員は匿名だから、それと知らずに、他大学が採用してしまう。採用し、解雇し、裁判で負け・・・。最初から採用すべきではないでしょう。教授1人の年間給与が1000万円として、裁判費用、大学のダメージなどが計1000万円、合計2000万円ほどの損害でしょうか?
前任校で「セクハラ行為があった」などと認定されたために、新たな勤務先の都留文科大(山梨県都留市)から解雇されたのは不当だとして、同大元教授の40歳代男性が同大に解雇無効などを求めた訴訟で、東京地裁立川支部(太田武聖裁判官)は21日、男性の主張を認め、同大に解雇期間中の賃金の支払いを命じる判決を言い渡した。
判決などによると、男性は宮崎大(宮崎市)を2012年3月に退職、同年4月から都留文科大に勤務していた。男性が宮崎大を退職後、同大は「在職中にセクハラ行為などがあり、懲戒解雇に相当する」と公表。男性は事実関係を争っていたが、都留文科大は宮崎大の公表内容を理由に、男性を解雇した。
(「「前任校でセクハラ」教授解雇、大学に無効判決」、2014年04月22日 Yomiuri Shimbun)
日本の大学では、被害者を守るためという口実でセクハラ加害者を匿名にする。
そのことで、実際は、加害者を守り、セクハラ者を支援し、再犯を促進している。セクハラ事件を本気で解決し、再発を防ごうとしているようには思えない。
米国でも中国でも実名報道をしているのに、日本は匿名である。日本は実質上、被害者を守らないことが多いのに、セクハラ事件では被害者を守るという口実でセクハラ加害者を匿名にし、加害者を守っている。世界でまれにみる隠蔽国のように思える。
→ 日本のネカト・クログレイ事件一覧 | 研究倫理(ネカト)の【日本の研究者のセクハラ・アカハラ・パワハラ事件一覧】
★大学の責任
以下は、ドミンゲス事件の「白楽の感想・《2》大学の責任」の再掲である。
ホルヘ・ドミンゲス(Jorge I. Domínguez) | 研究者倫理
ドミンゲスのセクハラ事件が公になったのは、2018年2月27日、トム・バートレット(Tom Bartlett)記者とネル・グルックマン(Nell Gluckman)記者が「Chronicle of Higher Education」記事として報道したからだ。ドミンゲスが73歳の時である。
しかし、1979年、ドミンゲスが34歳の時、学部生のシャルナ・シャーマン(Charna Sherman)へのセクハラがハーバード大学・文理学部(FAS: Faculty of Arts and Sciences)に訴えられた。この時、大学は調査も処分もしていないようだ。
さらに、 1983年、ドミンゲスが38歳の時、同僚の女性・テリー・カール助教授(Terry Karl)への2年に渡るセクハラ行為を、ハーバード大学・文理学部に訴えられた。この時は、大学は調査し、ドミンゲスをセクハラで有罪とした。しかし、処分はドミンゲスの解雇でなく、管理職から3年間、外すという軽微なものだった。
つまり、1 979年、さらに 1983年に、ドミンゲスを解雇しておけば、その後の10数人のセクハラ被害者はいなかったことになる。解雇でなくても2度とセクハラ行為をしないレベルの厳罰でも10数人の女性を救えただろう。
しかし、大学の対処が悪かった。
結果として、ハーバード大学はオオカミを飼い、餌食となる女性を提供していたことになる。ドミンゲスは味をしめ、一層巧妙に、何度も何度も女性学生・教員を性的に襲ったのである。万一、発覚しても、受ける処分よりも快楽の方がメリットがあると、自分の経験で学んだのである。
性的犯罪は麻薬と同じで常習性がある(推定)。また性癖、つまり癖(クセ)なので、悪いと知りつつも再犯を重ねる。
この事件では、ハーバード大学の責任は大きいと思う。
そして、ハーバード大学に限らず、一般論として、大学の責任は大きい。
日本のセクハラ事件に対する大学の処分は、米国よりもズッと軽い。大学教員を解雇せず停職処分で復職させる。そしてセクハラ教員は匿名のままである。結果として、セクハラ性癖を持つ教員が平然と学内に闊歩し、女性学生を指導する。宿泊を伴う学外調査もする。
日本の大学はセクハラ性癖を持つ教員を抱え、それを女性学生に隠している。当然、セクハラ事件が再発する。大学に責任があると思うが、日本では、この事を誰も指摘しない。おかしくないか?
●7.【白楽の感想】
《1》暗澹たる気持ち
性不正被害数や被害割合を知ると、その数値が高く、半分以上の学生が性不正の被害にあっている。
暗澹たる気持ちになった。数値を記載するのが途中でイヤになった。
とにかく「メチャ多い」「ほぼ全学生が被害経験者」というのが現実だ。
多くの国の高等教育界(含・学術界)で性不正行為が蔓延している。こんな劣悪な環境の中では、若い女性学部生・院生・ポスドクは健全にキャリアを積めない。精神的に破綻をきたし、大学・大学院からドロップアウトする。一生のトラウマになっている。そして、女性だけでなく、男性学部生・院生・ポスドクも驚くほど被害にあっている。
しかも、国は有効な手を打たない。
●8.【白楽の手紙】
本記事は「3‐1‐1 性不正」の3部作、つまり、「3‐1‐1 性不正の分類・規則」「3‐1‐2 セクハラ(Sexual Harassment)の規則・言動例」「3‐1‐3 性不正事件のデータ・被害実態」の最期の記事である。
「高等教育界(含・学術界)の性不正」を改善するために、誰がどうすればいいのか?
以下は、2019年5月29日の毎日新聞記事・「群馬大教授がアカハラ 大学側公表せず 「回答予定無し」と詳細説明拒否」の抜粋です(下線:白楽)。
群馬大学が今年春、医学部に在籍の男性に対する医学系研究科の男性教授によるアカデミックハラスメント(アカハラ)を認定していたことが毎日新聞が入手した文書で分かった。大学側は認定自体を公表しておらず、取材に対し、詳細の説明を拒否。当該教授に対する処分の有無や男性への賠償などについても回答しなかった。
大学側は、毎日新聞の取材に対し、このアカハラ認定も含めて「被害者と加害者のプライバシー保護のため回答を控える。回答する予定も無い」とコメント。
文部科学省国立大学法人支援課はアカハラに対処する基準などについて「特に指針は示していない。各大学で独自に対応している」と答えた。
この状況は大学の不祥事隠しを文部科学省が保護していると受け取られかねない。かなりマズイ状況です。
アカハラを含め以下のメールをした。返事があれば追記する。
《1》文部科学省・高等教育局・国立大学法人支援課・淵上 孝(ふちがみ たかし)課長へ
文部科学省・高等教育局・国立大学法人支援課・淵上 孝(ふちがみ たかし)課長へ
日本と米国でセクハラ・アカハラを犯した大学教員の扱いが大きく異なる。日本は、結果的にセクハラ・アカハラを犯した大学教員をかばい、停職期間が過ぎれば、教壇に立ち研究指導をしている。再度、学生・院生・教職員が被害者になる可能性が高い。
1.米国で通常されているように、日本の大学でも、セクハラ・アカハラを犯した大学教員を実名報道するよう国立大学にご指導ください。人権を盾に匿名にするケースがあるが、米国の方が人権に敏感である。その米国で実名報道している現実、及び、事件を防止する観点をご高察下さい。
2.日本の大学のセクハラ・アカハラ事件データを収集し、毎年、公表してください。また、大学に申立てがあった時点で報告させ、調査終了時点で、再度、結果を報告させる。結果報告を受けた都度、記者会見で新聞記者に伝える。
3.文部科学省は「小中高生の教員がわいせつ行為を行なえば懲戒免職だと要請しています」。わいせつ行為を働いた大学教員も懲戒免職を要請してください。またセクハラ・アカハラ教員も米国のように解雇がのぞましいが、解雇が無理なら次善策として研究指導をさせない。つまり、4年生の卒論・ゼミ指導、大学院生、ポスドクなどを受け入れられないタイプの教員とするよう要請してください。
4.海外のいくつもの大学が採用しているように、大学教員は講義受講生、研究指導下の学部生・院生・ポスドク、関係教員・職員と恋愛行為をすることを禁じてください。
なお、このメールはブログ記事「3‐1‐3 性不正事件のデータ・被害実態」の「8.【白楽の手紙】」に公開しております。
https://haklak.com/page_Sexual_Misconduct_Victim.html
また、ツイッター(https://twitter.com/haklak)にも短縮して公開しています。
白楽ロックビル(お茶の水女子大学名誉教授)
haklak@haklak.com
《2》立憲民主党・西村智奈美議員
立憲民主党・西村智奈美議員へ
2019年4月、立憲、国民、社保、社民の野党4会派が「セクハラ禁止法案」「パワハラ規制法案」などを提出されたことは素晴らしいことです。
提出された法案の対象範囲に、大学や研究所がどの程度入っているのかどうかわかりませんが、現在および将来、大学や研究所でのセクハラ・アカハラは深刻になる状況です。法案を再提案されます時は、大学や研究所のセクハラ・アカハラも防止できるようにご配慮下さいますようお願い申し上げます。
ご存知のように、米国は1972年、教育改正法第9編(以下、Title IX)を制定しています。このタイトル・ナイン(Title IX)は、性差別のみならず、性暴力、セクハラト、ストーキングなど大学でのすべての性的違法行為を禁止しました。また、1990年、連邦政府はキャンパス安全法(通称:クラリー法)を制定し、各大学は大学で起こった事件を毎年報告し、現在および将来の学生および教職員に通知する義務があります。この2つの法律で、大学のセクハラ・アカハラの処分・防止・実情把握・公表が義務化されています。
提案:教育改正法第9編(以下、Title IX)とキャンパス安全法(通称:クラリー法)の日本版を日本に導入することをお願い申し上げます。
参考:3‐1‐2 セクハラ(Sexual Harassment)の規則・言動例 | 研究者倫理 https://haklak.com/page_Sexual_Harassment.html
なお、このメールはブログ記事「3‐1‐3 性不正事件のデータ・被害実態」の「8.【白楽の手紙】」に公開しております。
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