「セクハラ」:天文学:ティモシー・スレーター(Timothy Slater)(米)

2023年5月25日掲載 

ワンポイント:スレーターはアリゾナ大学(University of Arizona)・準教授だった2004年(36歳)、複数の女性院生にセクハラ行為(女性院生にキュウリ形のバイブレーターを贈る、昼食にストリップクラブに連れて行く、女性の体について公然とコメント)を繰り返していたと訴えられた。アリゾナ大学が調査し、2005年、クロと判定したが、「行為」と報告書は隠蔽された。それをいいことに、2008年(40歳)、スレーターはワイオミング大学(University of Wyoming)・教授に移籍した。10年後の2016年、天文学者のパメラ・ゲイ(Pamela L. Gay)がアリゾナ大学のセクハラ調査報告書をジャーナリストとジャッキー・シュパイアー下院議員(Jackie Speier)にリークした。シュパイアー議員は議会で大学の性不正問題を取り上げた。2016年11月(48歳)、スレーターはセクハラ調査報告書のリークでパメラ・ゲイとアリゾナ大学に約30億円を要求する裁判を起こした。白楽はこの裁判の結論を把握していないが、スレーター事件は「大学の不正隠蔽」事件でもある。国民の損害額(推定)は賠償要求額の30億円(大雑把)、とした。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ティモシー・スレーター(Timothy Slater、https://orcid.org/0000-0002-2086-213X、写真出典)は、アリゾナ大学(University of Arizona)・準教授だった時にセクハラ事件を起こした。専門は天文学で、この分野では著名な学者だった。

スレーターのセクハラ事件は、「#MeToo」運動の13年前の事件で、2005年にアリゾナ大学は調査を終了し、クロと判定した。

セクハラ行為は、複数の女性院生に対するセクハラ行為だった。

行為を具体的に書くと、女性院生にキュウリ形のバイブレーターを贈った、昼食にストリップクラブに連れて行った、女性の体について公然とコメントした、などを繰り返した。

糾弾された際、スレーターは、自分の研究室が性的な冗談を含む「敵対的な職場環境」の毒研究室だったと認めた。それで、アリゾナ大学のイヤガラセ禁止規則に違反したことも認めた。しかし、上記の言動を否定した。

別の次元で驚いたことには、アリゾナ大学はスレーターのセクハラ調査報告書及びセクハラ事件そのものを隠蔽したのだ。

それをいいことに、2008年(40歳)、スレーターはアリゾナ大学・準教授からワイオミング大学(University of Wyoming)・教授へと移籍・栄転した。

それから7年が経過した。

2015年末(47歳)、スレーターのセクハラ調査報告書を、天文学者のパメラ・ゲイ(Pamela L. Gay – Wikipedia)が、ジャーナリストやジャッキー・シュパイアー下院議員(Jackie Speier)にリークした。

2016年1月(48歳)、セクハラ調査報告書が新聞「Mashable」に公表され、シュパイアー議員が連邦議会で問題視した。これは、「#MeToo」運動の1年前だった。

2016年11月(48歳)、スレーターは、セクハラ調査報告書がリークされたことに対して激怒し、パメラ・ゲイとアリゾナ大学に約30億円を要求する裁判を起こした。

それから3年余りが経過し2020年1月23日の記事によると、裁判所はスレーターの要求を棄却した。

2023年5月24日(55歳)現在、アリゾナ大学もワイオミング大学もスレーターにまともなペナルティを科していない。ワイオミング大学(University of Wyoming)・教授職を維持している:Timothy Slater | University of Wyoming2023年5月24日保存版)。そして、刑事事件にもなっていない。

アリゾナ大学(University of Arizona)とスミソニアン天体物理観測所 (SAO)が共同運営するフレッド・ローレンス・ホイップル天文台(Fred Lawrence Whipple Observatory)。写真出典

アリゾナ大学(University of Arizona)・天文学専攻の学部生(Undergraduate Major in Astronomy)、2020年。女性の方が多い印象。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 研究博士号(PhD)取得:サウスカロライナ大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1968年1月1日生まれとする。2017年5月24日のタイラー・キングケード(Tyler Kingkade)記者の「BuzzFeed News」記事に49歳とあった
  • 現在の年齢:56歳
  • 分野:天文学
  • セクハラ行為:xx~2004 年(xx~36歳)のxx年間
  • 最初に訴えられた:2004年(36歳)
  • 社会に公表年:2016年(48歳)
  • 社会に公表時地位:ワイオミング大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は被害者の女性院生で大学に公益通報。天文学者のパメラ・ゲイ(Pamela L. Gay)が隠蔽されていたセクハラ調査報告書をリークした
  • ステップ2(メディア):新聞「Mashable」、と多数のその追従メディア
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①アリゾナ大学・調査委員会。②下院議会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。ジャッキー・シュパイアー(Jackie Speier)下院議員が公表:セクハラ調査報告書(2005年3月31日)
  • 大学・処分のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:事件とセクハラ調査報告書(2005年3月31日)を極端に隠蔽(🔳)
  • 不正:セクハラ
  • 被害者数:女性院生が複数人
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に移籍し研究職を続けた(◒)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は30億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典: Timothy F. Slater

  • 生年月日:不明。仮に1968年1月1日生まれとする。2017年5月24日のタイラー・キングケード(Tyler Kingkade)記者の「BuzzFeed News」記事に49歳とあった
  • 1989年(21歳):米国のカンザス州立大学(Kansas State University)で学士号取得:物理学
  • 1991年(23歳):クレムソン大学(Clemson University)で修士号(MS)を取得:物理学と天文学
  • 1993年(25歳):サウスカロライナ大学(University of Arizona)で研究博士号(PhD)を取得:地質科学
  • 1994~1996年(26~289歳):ピッツバーグ州立大学(Pittsburg State University)・助教授
  • 1996~2001年(28~33歳):モンタナ州立大学(Montana State University)・準教授
  • 2001年8月6日~2008年7月(33~40歳):アリゾナ大学(University of Arizona)・準教授
  • 2004年(36歳):セクハラを訴えられた。アリゾナ大学は調査した
  • 2005年(37歳):アリゾナ大学はセクハラでクロとしたが調査報告書を隠蔽した。社会に未公表
  • 2008年7月(40歳):ワイオミング大学(University of Wyoming)・教授
  • 2015年末(47歳):パメラ・ゲイ(Pamela L. Gay)がアリゾナ大学のセクハラ調査報告書をジャーナリストとジャッキー・シュパイアー(Jackie Speier)下院議員にリークした
  • 2016年1月12日(48歳):セクハラ事件が報道された。社会に公表
  • 2016年1月12日(48歳):シュパイアー議員がセクハラ禁止を議会で演説
  • 2016年11月(48歳):パメラ・ゲイとアリゾナ大学に約30億円の損害賠償を求める裁判を起こす
  • [2017年10月5日:本事件とは異なる事件。映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインの性不正を「ニューヨーク・タイムズ」新聞が報道。この報道が切っ掛けで「#MeToo」運動が広まる]
  • 2023年5月24日(55歳)現在:ワイオミング大学(University of Wyoming)・教授職を維持:Timothy Slater | University of Wyoming

●3.【動画】

【動画1】
シュパイアー議員の下院での演説動画:「Congresswoman Speier on Sexism in Science – YouTube」(英語)3分47秒。
Jackie Speier(チャンネル登録者数 9310人)が2016年に公開

【動画2】
セクハラ事件の動画ではない。
講演動画:「Enhancing Learning in the Planetarium – Tim Slater Keynote Talk at GLPA October 30, 2014 – YouTube」(英語)58分04秒。
CAPERTeamTube(チャンネル登録者数 59人) が 2014/11/05に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★ティモシー・スレーター(Timothy Slater)の人生

ティモシー・スレーター(Timothy Slater)は25歳の若さで研究博士号(PhD)を取得した大秀才で、米国のトップクラスの天文学者、世界的に著名な天文学者になった。

スレーターは100報以上の査読論文を発表し、13冊の本を執筆(含・共著)した。

天文学の専門書以外の著書もある。例えば、『忙しい教授(The Busy Professor)』(2018年刊、邦訳なし、表紙出典アマゾン)がある。

研究費も多く獲得し、新聞記事では、約3,000万ドル(約30憶円)の研究費を得ていたとあった。

白楽が、科学庁(NSF)からの獲得グラントを調べると、1995~2013年の19年間に15件のグラントを獲得していた。以下に直近の10件を示す。:Grantome: Timothy Slater

セクハラ事件を起こした2004年頃は、アリゾナ大学(University of Arizona)・準教授で30代前半だった。

スレーターの妻はステファニー・スレーター(Stephanie Slater、写真1人出典、2人出典)で、同じ天文学者である。

セクハラ事件を起こした時、ティモシー・スレーターはステファニーと結婚していた。

ステファニーは夫・スレーターの性不正を擁護し、性不正の共犯と思えるような言動をしている。

なお、スレーター夫妻の子供の情報は見つからなかった。

★ティモシー・スレーター(Timothy Slater)のセクハラ事件概略

2004年7月(36歳)以前、アリゾナ大学の複数の個人(女性院生?)がスレーターのセクハラ被害をアリゾナ大学に訴えた。

2004年8月(36歳)、アリゾナ大学はスレーターのセクハラ行為を調査した。

以下はアリゾナ大学のスレーターのセクハラ調査報告書(2005年3月31日)の冒頭部分(出典:同)。全文(38ページ)は → セクハラ調査報告書(2005年3月31日)

セクハラ調査報告書によると、スレーターは、複数の女性院生にセクハラ行為(女性院生にキュウリ形のバイブレーターを贈る、昼食にストリップクラブに連れて行く、女性の体について公然とコメント)を繰り返していた。

アリゾナ大学が調査し、2005年(37歳)、クロと判定したが、セクハラ「行為」と報告書は隠蔽された。

それをいいことに、スレーターは、セクハラ調査の終了後、4年間もアリゾナ大学に留まっていた。

そして、2008年(40歳)、ワイオミング大学(University of Wyoming)・教授に移籍(栄転)した。

なお、後に、スレーターは新聞記者の取材を受けた時、大学のセクハラ規則に違反したことを認めたが、その後は改心した、とも述べていた。

★10年間封印の情報がリーク

2010年5月(42歳)、シカゴのアドラー・プラネタリウム(Adler Planetarium)の天文学者であるマーク・ハマーグレン(Mark Hammergren、写真出典)が、情報公開法に基づいて、アリゾナ大学にスレーターのセクハラ調査報告書(2005年3月31日)の開示を求めた。

その時、アリゾナ大学は間違ってセクハラ調査報告書をハマーグレンに送ってしまった。

2か月後の2010年7月、アリゾナ大学は間違いに気がついて、「コピーを破棄する」ようハマーグレンに依頼した(以下の手紙出典)。

ハマーグレンは、しかし、コピーを破棄しなかった。

2015年末(47歳)、このスレーターのセクハラ調査報告書(2005年3月31日)を、天文学者でテレビ出演しているパメラ・ゲイ(Pamela L. Gay – Wikipedia、写真出典)が、ジャーナリストや次項で述べるシュパイアー議員にリークした。

パメラ・ゲイのテレビ・ドキュメンタリーは以下のようだ(出典

パメラ・ゲイはセクハラ調査報告書をハマーグレンから入手したと思われる。

ただ、パメラ・ゲイとハマーグレンは情報源や入手経路について説明を拒否している。それで、入手経路は不明である。

なお、パメラ・ゲイは天文学者なので、スレーターとは仲間内である。そして、学術集会で、ティモシー・スレーターに何度もお尻を触られ(叩かれ?)た性不正被害者で、日頃から、スレーターの性不正行為を腹立たしく思っていた。

スレーターの妻のステファニー・スレーターも天文学者で仲間内である。

そして、ステファニー・スレーターがアメリカ天文学会の会議で「ピアスをつけた乳首を強調している」と、パメラ・ゲイは同僚にステファニーのことを話していた。ステファニーの性的服装を過激で不快に思っていた。

つまり、パメラ・ゲイはスレーター夫妻と仲が悪かった。

なお、白楽は「乳首にピアス」が単に新しいファッションなのか、ヒンシュクなのか判断できない。 → 2018年4月28日記事(右の画像も):乳首もオシャレに飾る時代!「ニップルピアス」をしているセレブたち【写真特集】 – フロントロウ -海外セレブ&海外カルチャー情報を発信

★国会で議論

2016年1月12日、ジャッキー・シュパイアー下院議員(Jackie Speier)は、スレーターの性不正事例を取り上げ、科学分野における性不正について下院で詳しく説明した。 → 2016年1月12日のプレスリリース:Congresswoman Speier Speaks about University of Arizona Sexual Harassment Report on the House Floor | Press Releases | Congresswoman Jackie Speier

以下は「3.【動画】」で示した動画の再掲。

【動画】
シュパイアー議員の下院での演説動画:「Congresswoman Speier on Sexism in Science – YouTube」(英語)3分47秒。
Jackie Speier(チャンネル登録者数 9310人)が2016年に公開

シュパイアー議員は、女性院生の1人がスレーターと研究の話すのにストリップ クラブに連れて行かれたことを取り上げ、「院生は、教授の性生活を研究するためではなく、空の星を研究するために天文学の大学院に入ったのです」と批判した。

シュパイアー議員は、研究界で起こっている性不正行為を防止する「ふり」を、米国政府は、止めて、本気で防止すべき時だ、と主張した。そして、懲戒処分の結果を他大学に通知することを大学に義務化する法律の導入を発表した。 → 2016年1月13日記事:Astronomy’s sexual harassment problem gets Congressional attention | Ars Technica

★天文学は性不正まみれ。学会は防止に動いた

スレーター事件、カルテクのオット事件(白楽はまだ解説してない)、カリフォルニア大学バークレー校のジェフリー・マーシー(Geoffrey W. Marcy)事件などで、天文学は性不正まみれである。 → 「セクハラ」:天文学:ジェフリー・マーシー(Geoffrey W. Marcy)(米) | 白楽の研究者倫理

2016年1月初旬にフロリダ州キシミーで開催されたアメリカ天文学会の年会(画像出典)で、年会参加登録をするエリアに性不正防止の大きなポスター「望まないことをすればイヤガラセです(If It’s Unwanted, It’s Harassment)」が貼られた(右画像出典)。

学会では、院生から大学教員、高校教師に至るまで、多くの天文学者が、イヤガラセは専門家同士の交流や多くの若い研究者のキャリアを妨げる大きな長期的な問題だと述べていた。

アメリカ天文学会のメグ・アーリ会長(イェール大学・教授、Meg Urry – Wikipedia、写真出典)は「イヤガラセは天文学に限ったことではない、・・・」とセクハラ行為を軽視するような印象の発言をした。[白楽の感想:そりゃそうだけど、天文学に多発していた(いる)と思うよ]

★ワイオミング大学は知ってて雇用したのか?

ワイオミング大学(University of Wyoming)は2008年にスレーターを教授に迎えたが、雇う前に彼のイヤガラセ事件について知っていた。

ワイオミング大学のスポークスマンであるチャド・ボールドウィン(Chad Baldwin)は、「問題が解決済みだったので、スレーターの採用には何の障害にもならないと判断した」と述べている。

ただ、ワイオミング大学はスレーターのセクハラ調査報告書(2005年3月31日)を見てもいないし、受け取ってもいなかった。

ここは白楽の推察だが、アリゾナ大学はスレーターを追い出したかったので、スレーターのセクハラ事件をかなり軽く、ワイオミング大学に伝えのではないかと思う。

ワイオミング大学のボールドウィン・スポークスマンは、同大学は、教員からの要請で2010年代にワイオミング大学でスレーターの指導下の女性院生数名を調査したことがあったそうだ。

その調査の結果、スレーターに不適切な性的言動は見つからなかった、とボールドウィン・スポークスマンは述べた。

この話も本当かなあ、と白楽は懐疑的である。

ボールドウィンは、自分はチャント仕事をしましたと自己弁護しているように白楽には聞こえた。

★訴訟

2016年11月(48歳)、スレーターはアリゾナ大学とパメラ・ゲイに対して別々の損害賠償の裁判を起こした。要求額は3千万ドル(約30億円)以上の高額だった。 → 2016年6月23日記事では、アリゾナ大学に対して 360万ドル(約3億6千万円)の訴訟を計画している、とあった:Former UA professor to sue university in defamation suit

以下はアリゾナ大学が被告の法廷文書(2016年11月9日提出)の冒頭部分(出典:同)。全文(76ページ)は → 法廷文書

スレーターは、セクハラ調査報告書(2005年3月31日)の秘密保持はアリゾナ州法で守られているので、リークは秘密保持義務違反だと主張した。

ただ、アリゾナ州知事は「最終的な懲戒処分(final disciplinary action)は公開されるべきである」と述べている。

大学が「従業員の懲戒処分について正確な知識を維持するために合理的に必要な」人事記録を開示することをアリゾナ州法は許可しているとも、アリゾナ州知事は述べている。

スレーターは、彼の事件に関する報告書は「最終的」ではなく、処罰については何も述べておらず、立証されていない申し立てが含まれていたため、公的記録法(public records law)でカバーされていないと主張した。

2017年2月の裁判で、スレーター夫妻が具体的に何を虚偽で名誉毀損にあたるのか、また、どの行動や発言が彼らに危害を与えたのかを特定できなかった、とパメラ・ゲイは反論している。

3年経った。

2020年1月23日の記事「Slater v. Ariz. Bd. of Regents, No. 1 CA-CV 19-0030 | Casetext Search + Citator」によると、アリゾナ州上級裁判所は、アリゾナ大学とパメラ・ゲイに対して損害賠償を要求したスレーターの訴訟を棄却した。

つまり、アリゾナ大学はスレーター事件の秘密保持義務を負っていない。それで、秘密保持義務違反はない、と裁決した。

ただ、スレーターの弁護士は上級裁判所の裁決を取消し、訴訟を差し戻させる計画だと述べている。

そして、さらに3年が経った。

2023年5月24日現在、決着はついていると思うが、しかし、結局、どうなったのか、白楽は正確な情報を掴めていない。ゴメン。

多分、訴訟を差し戻すことができず、スレーターの訴えは棄却されたままだと思う。

【セクハラの具体例】

セクハラの具体例は、アリゾナ大学のセクハラ調査報告書(2005年3月31日)が主な出典である。 

ティモシー・スレーター(Timothy Slater)のセクハラ被害者は匿名で、具体例は、以下のようは言動である。

★女性院生A

スレーターは頻繁に性的ジョークを女性院生Aに話した。スレーター家のホットバスに入りにこないかと誘い、「水着を着ても着なくてもいいよ」と言った。

女性院生Aはスレーター夫妻からキュウリ形のバイブレーターを贈られた。

「セックスするのってすごいよね。天文学チームの多くが我が家でセックスしている。君はどうする」とスレーターが女性院生Aに言った。女性院生Aは何も答えなかったけど、スレーターにセックスを強要されたと感じだ。

スレーターは女性院生Aの性生活について何度も聞いてきた。

★女性B(教員?)

女性Bが採用されてすぐに、スレーターは性的な言動をし始めた。

下着を着けないで授業した方がいいと、スレーターは女性Bに何度も言った。

服の上から女性Bの下着をつかみ、下着ない方がいいけど、と言った。

女性Bは来客(女性院生)と一緒に昼食に誘われたが、場所はトップレスバーだった。座っている客に身体を触れて踊るラップダンスのチケットを女性Bに買ってあげるとスレーターは言ったが、女性Bは断った。

★女性院生C

研究旅行でスレーターの自動車に同乗した。スレーターに研究の1部が完成したと言ったら、スレーターは「素晴らしい。では、濃厚なキスを!」とキスを迫った。女性院生Cはゾットした。

学術集会で出張した時、スレーターは各地でセックスする女性を調達していた。そして、自分の記録は、24時間で4人の女性とセックスしたことだと女性院生Cに話した。

スレーターは妻ともう1の女性を加えた3人が同居する関係(manage-a-trois)を時々していると女性院生Cに言った。女性院生Cはそうしないかと誘われたと受け取った。

★その他

その他にも被害者はいるが、省略する。

セクハラ言動としては、以下の記載もある。

女性の体について公然とコメントを繰り返した。

同僚とオーラルセックスのテクニックについて話していた。

女性院生にデートの顛末についてしつこく尋ねた。

男性のクラスメートが彼女のことを考えて自慰行為をしたと女性院生に話した。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

省略

●7.【白楽の感想】

《1》隠蔽

スレーター事件は、セクハラ事件だが、セクハラ事件としてはありふれた内容と程度である。もちろん許されるレベルではない。

ただ、スレーター事件で特記すべきことは、大学が事件を隠蔽したことである。

ティモシー・スレーター(Timothy Slater)は2004年(36歳)、女性院生にセクハラ行為(女性院生にキュウリ形のバイブレーターを贈る、昼食にストリップクラブに連れて行く、女性の体について公然とコメント)を繰り返していたと訴えられた。

アリゾナ大学が調査し、2005年、クロと判定したが、セクハラ「行為」と報告書は隠蔽された。

アリゾナ大学は10年も秘密にしていた。

ということは、スレーター事件のように、大学が隠蔽したままの性不正「行為」が他に米国にどれほどあるのか?

白楽は、米国ではほとんどの性不正「行為」が報道されている、となんとなく思っていたので、かなり愕然とした。

大きく分けて、隠蔽には3段階がある。①性不正「行為」の隠蔽(加害者及び被害者)、②性不正「行為」の申立ての隠蔽(大学)、③調査(結果)の隠蔽。 → 「白楽の卓見・浅見:6.大学の隠蔽体質を変えないと日本の研究者倫理事件は減らない

隠蔽されていれば、(関係者以外)誰も、知ることができない。

隠蔽されている間は、白楽の定義である「事件」にはならない。

隠蔽したままだと、①加害者は再犯しやすい。②研究界も社会も、性不正「行為」の予防策・解決策を十分練れない。

隠蔽された性不正「行為」は知るよしもないので頻度は全く憶測になるが、日本ではネカトと同じで「事件」数より「行為」数が圧倒的に多いだろう。 → 「白楽の卓見・浅見:14.研究不正は昔の方が圧倒的に多かった

《2》国会で審議 

研究者倫理事件を調べていると、米国の議会で国会議員がネカトや性不正を問題視し、改善する活動をしていることがわかる。

スレーター事件でジャッキー・シュパイアー下院議員(Jackie Speier)が議会で、問題解決策を提案した。

米国には研究者倫理事件を国の問題だと認識している議員がいるということだ。

振り返って、日本の政治家の意識や国会での発言は貧困・貧弱である。 → 5C 国会の「研究不正」発言 | 白楽の研究者倫理

嘆いても仕方ないが、なんとかならないかなあ? 日本国民よ。

2023年5月22日の毎日新聞・記事「24色のペン:日本経済をめぐる「不都合な真実」=赤間清広(東京経済部) 」によると、以下のようだ(改訂引用、下線白楽)。

1968年に日本は世界第2位の経済大国になり、2000年当時、1人当たりのGDPで世界第2位だったのが、たった23年で世界第30位に落ちた。

なぜ日本は落ちこぼれたのかとかと問われて、野村総合研究所未来創発センター・戦略企画室長の中島済は、

「確実に日本経済の地盤沈下が進んでいるのに、現状を変えたいという危機感が薄いからです」と答えている。

ネカトや性不正も同じだ。「日本のネカト・性不正はヒドイのに、現状を変えたいという危機感が薄い」。

最近、愕然とし続けているのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と日本社会が研究データのねつ造者を許容していることである。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、研究成果をねつ造した古川聡飛行士(59)を解雇しないばかりか、飛行士として活躍させるという。そして、それを日本社会が許している。 → 2023年5月22日記事:古川氏の飛行、正式決定 研究不正受け、適性再確認―JAXA:時事ドットコム

「危機感が薄い」というより、もう、「危機感がない」。

《3》リーク 

研究者倫理事件を調べていると、米国の研究者が研究者倫理「行為」やその調査報告書をしばしばリークする。ネカトや性不正を問題視し改善するためである。

スレーター事件では天文学者のパメラ・ゲイ(Pamela L. Gay – Wikipedia)がリークした。

振り返って、日本の研究者がリークすることは、「ほぼ」ない。

日本の研究者は研究界の改善を他人任せ、わが身の保身ばかりである。

嘆いても仕方ないが、なんとかならないかなあ? 「危機感が薄い」日本の研究者よ。

《4》神童

ティモシー・スレーター(Timothy Slater)は25歳で研究博士号(PhD)を取得した。

このような神童・天才児が、その後、性不正・アカハラ事件を起こすケースが結構ある気がする。

また、非常に優れた業績を挙げた研究者も性不正・アカハラ事件を起こす。

神童・天才児だった研究者、非常に優れた業績を挙げた研究者は、自分は特別な人間だと思う。社会は自分を特別に扱ってくれてきた。それで、社会ルールを破っても許されると思う(のだろう、多分)。

ティモシー・スレーター(Timothy Slater)。https://archive.ph/wip/C34nN

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●8.【主要情報源】

Timothy Slater – Endowed Professor of Science Education – University of Wyoming | LinkedIn
② 2016年1月12日のセルジオ・ヘルナンデス(Sergio Hernandez)記者の「Mashable」記事:Congresswoman reveals prominent astronomy professor’s history of sexual harassment | Mashable
③ 2016年1月12日のアレクサンドラ・ウィッツェ(Alexandra Witze)記者の「Nature」記事:Astronomy roiled again by sexual-harassment allegations | Nature
④ 2016年1月13日のレイチェル・フェルトマン(Rachel Feltman)記者の「Washington Post」記事:Astronomy’s snowballing sexual harassment scandal picks up even more cases – The Washington Post
⑤ ◎2017年5月24日のタイラー・キングケード(Tyler Kingkade)記者の「BuzzFeed News」記事:A Professor’s Sexual Harassment Case Came Out In Congress, And He’s Fighting Back
Timothy Frederick Slater | Academic Sexual Misconduct Database

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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