デイミエン・ウェーバー(Damien Weber)(スイス)

2025年2月28日掲載 

ワンポイント:パウル・シェラー研究所(Paul Scherrer Institut)・陽子線治療センター(Center for Proton Therapy)・センター長で教授のウェーバーは、センター内の研究者の論文に自分を共著者にするよう強要していた。2023年、指導下の院生であるインド出身のヴィヴェク・マラディア(Vivek Maradia)がこれを研究不正として告発した。ところが、研究所の研究公正オンブズマンはマラディアの訴えを「握りつぶし」た。シュトレーセル副所長は、研究不正ではないと結論した。典型的な「研究所の対処怠慢・隠蔽・不正」事件でもある。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。この事件は、2024年ネカト世界ランキングの「より良い科学のために」の「第4位」である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

デイミエン・ウェーバー(Damien Weber、Damien C. Weber、ORCID iD:?、写真出典)は、スイスのパウル・シェラー研究所(Paul Scherrer Institut)・陽子線治療センター(Center for Proton Therapy)・センター長で教授、医師、専門は放射線腫瘍学である。

動画では「デイミエン・ウェベル」と自己紹介しているが、「Weber」は「ウェーバー」の方が一般的なので、白楽ブログでは「デイミエン・ウェーバー」と表記した。

陽子線治療センター長のウェーバー教授は、センター内の研究者が論文を出版する時、自分を共著者にするよう強要していた。

2023年10月16日(54歳?)、指導下の院生であるインド出身のヴィヴェク・マラディア(Vivek Maradia)がこれを研究不正としてパウル・シェラー研究所・所長と研究公正オンブズマンに告発した。

また、マラディアはスイス連邦工科大学(ETH)チューリッヒ校の院生でもあったので、スイス連邦工科大学(ETH)チューリッヒ校にも告発した。

ところが、パウル・シェラー研究所の研究公正オンブズマンであるローランド・ホリスバーガー名誉教授(Roland Horisberger)は告発を握りつぶした。

さらに、2023年11月22日(54歳?)、パウル・シェラー研究所のティエリー・シュトレーセル副所長(Thierry Strässle)は研究不正ではないと結論した。

確かに「ねつ造・改ざん・盗用」という研究不正ではないと白楽も思う。ウェーバーは共著者になることを強制したので、著者在順違反でアカハラである。

論文指導教授であるスイス連邦工科大学(ETH)チューリッヒ校のアンソニー・ローマックス物理学教授(Anthony Lomax)を含め。関連する教授・研究者はマラディア院生の支援をしなかった。

典型的な「大学のネカト対処怠慢・隠蔽」事件でもある。

この事件は、2024年ネカト世界ランキングの「より良い科学のために」の「第4位」に選ばれた。

パウル・シェラー研究所(Paul Scherrer Institut)。写真出典

  • 国:スイス
  • 成長国:不明
  • 医師免許(MD)取得:xx大学
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1969年1月1日生まれとする。1993年に医師として勤めた時を24歳とした
  • 現在の年齢:56歳?
  • 分野:放射線腫瘍学
  • 不正論文発表:2013~2025年(44~56歳?)の13年間
  • ネカト行為時の地位:パウル・シェラー研究所・陽子線治療センター・センター長・教授
  • 発覚年:2023年(54歳?)
  • 発覚時地位:パウル・シェラー研究所・陽子線治療センター・センター長・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は指導下の博士院生であるヴィヴェク・マラディア(Vivek Maradia)で、研究所、大学に公益通報
  • ステップ2(メディア):「より良い科学のために」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①パウル・シェラー研究所・調査委員会
  • 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:あり。reply-from-director.pdf
  • 研究所の透明性:機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
  • 不正:著者在順。アカハラ?
  • 不正論文数:94報の論文
  • 時期:研究キャリアの中期・後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)。研究所は不正なしと結論
  • 処分:なし。研究所は不正なしと結論
  • 対処問題:研究所怠慢、研究所隠蔽、研究所調査不正
  • 特徴:アカハラ的
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:(1)Damien WEBER | Chair and Medical Director | PD Dr.med. | Paul Scherrer Institut, Villigen | PSI | Center for Proton Therapy (CPT) | Research profile 、(2)Center for Proton Therapy Switzerland: Paul Scherrer Institute

  • 生年月日:不明。仮に1969年1月1日生まれとする。1993年に医師として勤めた時を24歳とした
  • 19xx年(xx歳):xx大学(xx University)で医師免許取得
  • 1993~1997年(24~28歳?):ジュネーヴ大学病院(University Hospital of Geneva)・内科・医師(?)
  • 1997~2000年(28~31歳?):同・放射線腫瘍科・医師(?)
  • 2000~2002年(31~33歳?):米国のマサチューセッツ総合病院(Massachusetts. General Hospital)・医師(?)
  • 2003~2007年(34~38歳?):ジュネーヴ大学病院(University Hospital of Geneva)・放射線腫瘍科・医師(?)
  • 2008~2013年(39~44歳?):ジュネーヴ大学病院(University Hospital of Geneva)・放射線腫瘍科・副部長
  • 2013年(44歳?):パウル・シェラー研究所(Paul Scherrer Institut)・陽子線治療センター(Center for Proton Therapy)・センター長・教授
  • 2023年10月16日(54歳?):研究不正と告発された
  • 2023年11月22日(54歳?):パウル・シェラー研究所は研究不正ではないと結論
  • 2025年2月27日(56歳?):従来職を維持

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
「デイミエン・ウェベル」と自己紹介。
研究説明動画:「Proton therapy is very resource intensive its the future of cancer care : Dr Damien Charles Weber – YouTube」(英語)6分58秒。
ETHealthWorld(チャンネル登録者数 4.16万人) が2018/11/12 に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

スイスのパウル・シェラー研究所(Paul Scherrer Institut)は、独自の粒子加速器を備えた巨大な物理学研究所で、スイス最大の自然科学/工学の研究機関である。

パウル・シェラー研究所の陽子線技術の一部はがん治療に使用されていて、放射線腫瘍医であるデイミエン・ウェーバー教授(Damien Weber)が担当している。

ウェーバー教授はパウル・シェラー研究所の陽子線治療センター(Center for Proton Therapy)・センター長で医師免許を持っているが研究博士号は持っていない。素粒子物理学の研究所だが、素粒子物理学者ではなく、放射線腫瘍学の医師である。

ウェーバー教授はパウル・シェラー研究所の膨大な出版論文数に大きく貢献している。なぜなら、陽子線治療センターに所属する研究者が論文を出版する際、自分を共著者にするよう強制していたから、多数の論文を出版している(2002~2025年の24年間に282論文)。

なお、パウル・シェラー研究所はスイス連邦工科大学(ETH)連合に所属しているが、規則上、研究倫理に関するスイス連邦工科大学(ETH)ガイドラインは適用されない。

★告発:ヴィヴェク・マラディア(Vivek Maradia)

2023年10月16日(54歳?)、インド出身の博士院生であるヴィヴェク・マラディア(Vivek Maradia、https://orcid.org/0000-0003-3205-8111、写真右出典)は、ダミアン・ウェーバー教授と、自身の論文指導教授であるスイス連邦工科大学(ETH)チューリッヒ校のアンソニー・ローマックス物理学教授(Anthony Lomax、写真左出典)の研究不正行為を告発した。

なお、マラディアは2023年2月に大学院を卒業し、研究博士号も得て、米国のスタンフォード大学・ポスドクに行くことが確定していた。 → 2025年2月現在、スタンフォード大学にポスドクとして在籍している:Vivek Maradia’s Profile | Stanford Profiles

告発は、スイス連邦工科大学(ETH)チューリッヒ校のギュンター・ディセルトリ学長(Günther Dissertori)とパウル・シェラー研究所のクリスチャン・リューエッグ所長(Christian Rüegg)(兼ETH理事)に宛てた。

研究不正行為は、ウェーバー教授が陽子線治療センター(Center for Proton Therapy)から出版する論文のすべてに自分を共著者に加えるよう強要しているという著者在順だった。

マラディアは、「ウェーバー教授は研究上なにも貢献していないのに、過去5年間、私が出版した論文に無理やり共著者になっている」と、94報の論文リストを証拠として、提出した。

マラディアは次のように説明した。「2012年までは、著者規定が遵守され、正常に機能していました。ところが、ウェーバー教授が2013年にセンター長に就任して以来、センターの全研究者に対し、彼を共著者として含めることを義務付けました。実質的な貢献は何もしていないにもかかわらず、です。2013年以降のセンターの出版物を調査すれば、そのすべてにウェーバー教授が共著者として記載されていることがわかります」

「陽子線治療センターでは、論文を投稿する際、論文出版申請書に指導教授であるローマックス教授とセンター長であるウェーバー教授の両方の署名を得る必要があります。ウェーバー教授の署名を得るには、彼を共著者として記載することが義務付けられています。その結果、私たちは彼を共著者として含めなければならない状況に陥っています」

「博士号取得を目指した3年半を通して、私は博士課程の研究についてウェーバー教授と一度も話し合ったことがありません。これは、センターのほとんどの博士号取得者に当てはまるります」

なお、ウェーバー教授は、共著者に加えるように書面で指示したことはなく、口頭でのみ指示していた。従って、証拠としての指示文書が残っていない。

★対応

2023年10月18日(54歳?)、さらに戦うマラディアは、今度は、パウル・シェラー研究所の研究公正オンブズマンであるローランド・ホリスバーガー名誉教授(Roland Horisberger、写真出典)に通報した。

ホリスバーガー名誉教授はマラディアに次のように答えた。

  • センター長が共著者になっていないなら、その論文はセンター長が興味がない論文だと、読者は考え、論文は重要ではないと結論します。
  • 「博士号取得を目指している私の娘も、何の貢献もしていない部門長を共著者としています。彼女は習慣に従っているので、あなたも同じようにすることをお勧めします。
  • 私にとっての主な関心事はデータのねつ造・改ざんです。あなたが問題視している行為は、厳密には研究不正行為ではありません。

2023年11月22日(54歳?)、パウル・シェラー研究所のティエリー・シュトレーセル副所長(Thierry Strässle、写真出典)は、「研究公正に違反していない」とした調査結果をマラディアにメールした。

以下は「より良い科学のために」が公表したマラディアへのメール(2023年11月22日)の冒頭部分(出典:同)。全文(3ページ)は → reply-from-director.pdf

なお、シュトレーセル副所長は倫理的に間違っているだけでなく、事実としても間違っているが、それを承知で、結論ありきの決定をした可能性が高い、とレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)は指摘している。

それでも戦うマラディアは、今度は、エルゼビア社に手紙を書き、アドバイスを求めた。「研究成果に貢献していないのに、研究所長を共著者に含めることを義務付ける医療分野の規則はあるのだろうか?」と。

2023年11月27日(54歳?)、エルゼビア社・担当者から手紙を転送されたランセット(エルゼビア社の学術誌)のスチュアート・スペンサー編集長(Stuart Spencer、写真出典)は、国際医学学術誌編集者委員会(ICMJE)ガイドラインへのリンクを添えて、マラディアに次のように返信した。

「絶対にダメです。著者在順に関する国際医学学術誌編集者委員会(ICMJE)ガイドラインへのリンクを添えますが、知的役割を果たさない場合、部門長であっても、論文の著者にすべきではありません。著者は4つの条件のすべてに貢献している必要があります」。

2023年11月26日(54歳?)、スイス連邦工科大学(ETH)・生物学講師のヒューゴ・ストッカー(Hugo Stocker)は、2022年1月発行の「研究公正に関するスイス連邦工科大学チューリッヒ校・ガイドライン(誠実性ガイドライン) 」をマラディアに知らせた。 → ETH Zurich Guidelines on scientific integrity (Integrity Guidelines)

そのガイドラインでは、著者を次のように規定している。

「科学出版物の「著者」は、次の3つの基準をすべて満たす人物です。

  1.  研究活動の計画、実施、管理、評価に関する研究活動に多大な貢献をしている
  2.  原稿の作成に携わっている
  3. 原稿の最終版を承認している

 3つの基準を部分的に満たす人物は、「謝辞」欄に記載されます」

執拗に戦うマラディアは、上記の情報を添付して、再び研究公正オンブズマンであるローランド・ホリスバーガー名誉教授に手紙を書いた。

ところが、ホリスバーガー名誉教授の返事は、「沈黙しろ。パウル・シェラー研究所の決定は確定した。彼らのルールは他のものとは異なる。シュトレーセル副所長の報告は正しい」だった。

くじけず戦うマラディアは、「ウェーバーが論文共著者にするよう強制していた」ことを、トニー・ローマックス教授を含め、関係者全員に伝えた。しかし、誰からも返事を得られなかった。

スイス連邦工科大学(ETH)の正教授と裕福なスイスの研究者は、デイミエン・ウェーバー(Damien Weber)という一人の男を恐れ萎縮していたのだ。

彼らは守るべき院生に対して、守る行為を何もしなかった。彼らの仕事、給料、年金が危険にさらされたわけではないのに。彼らはウェーバーの医学仲間ですらないのに、ウェーバーを恐れ、マラディア院生の味方にならなかった。

ただ、2024年3月12 日(55歳?)、マラディアに、返事が1つ送られてきた。

パウル・シェラー研究所の法務責任者のであるリバー・トロイハルト(Oliver Treuthardt)が次のメールを送ってきた。

「貴殿の告発は、実際の出来事を反映しておらず、事実ではありません。従って、貴殿の告発を却下します。データ保護と労働法により、これ以上の対応をいたしません。今後、不当に告発された人々の個人的権利を尊重して下さるよう、ご理解とご配慮をお願い申し上げます」。

レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)は、「不当に告発された」偉い人々は手厚く保護され、院生はまったく保護されない、と皮肉っている。

【研究不正の具体例】

ねつ造・改ざん・盗用ではなく、著者在順事件である。

パウル・シェラー研究所(Paul Scherrer Institut)・陽子線治療センター(Center for Proton Therapy)・センター長で教授のデイミエン・ウェーバー(Damien Weber)が、センター内の研究者の論文に自分を共著者にするよう強要していた。

告発したヴィヴェク・マラディア(Vivek Maradia)によると、過去5年間に出版した論文で共著者にされた論文が94報あるとのことだ。

マラディアの6論文を以下に示すが、全部、デイミエン・ウェーバー(Damien C. Weber)と論文指導教授のアンソニー・ローマックス(Anthony Lomax)が共著者になっている。マラディアは5論文で第一著者、残りの1論文で第二著者である。

なお、スタッフ科学者のセリーナ・プソロラス(Serena Psoroulas、写真出典)も6論文全部の共著者になっていて、マラディアが第一著者の5論文では最後著者になっている。イタリア出身のプソロラスがマラディア院生の実質的な指導者だったのだろう。

マラディア騒動から少し経った2024年5月、12年間、パウル・シェラー研究所のスタッフ科学者だったプソロラスは、チューリッヒ大学病院・上級科学者に移籍した。移籍がこの時期だったことから、マラディアの告発と関係していると思われる。

  1. Demonstration of momentum cooling to enhance the potential of cancer treatment with proton therapy
    Vivek Maradia, David Meer, Rudolf Dölling, Damien C. WeberAntony J. Lomax & Serena Psoroulas
    Nature Physics volume 19, pages1437–1444 (2023) Published: 03 July 2023
  2. Universal and dynamic ridge filter for pencil beam scanning particle therapy: a novel concept for ultra-fast treatment delivery.
    Maradia V, Colizzi I, Meer D, Weber DC, Lomax AJ, Actis O, Psoroulas S.
    Phys Med Biol. 2022 Nov 7;67(22). doi: 10.1088/1361-6560/ac9d1f.
  3. Ultra-fast pencil beam scanning proton therapy for locally advanced non-small-cell lung cancers: Field delivery within a single breath-hold.
    Maradia V, van de Water S, Meer D, Weber DC, Lomax AJ, Psoroulas S.
    Radiother Oncol. 2022 Sep;174:23-29. doi: 10.1016/j.radonc.2022.06.018. Epub 2022 Jul 3.
  4. Increase of the transmission and emittance acceptance through a cyclotron-based proton therapy gantry.
    Maradia V, Giovannelli AC, Meer D, Weber DC, Lomax AJ, Schippers JM, Psoroulas S.
    Med Phys. 2022 Apr;49(4):2183-2192. doi: 10.1002/mp.15505. Epub 2022 Feb 14.
  5. Beam properties within the momentum acceptance of a clinical gantry beamline for proton therapy.
    Giovannelli AC, Maradia V, Meer D, Safai S, Psoroulas S, Togno M, Bula C, Weber DC, Lomax AJ, Fattori G.
    Med Phys. 2022 Mar;49(3):1417-1431. doi: 10.1002/mp.15449. Epub 2022 Feb 4.
  6. A new emittance selection system to maximize beam transmission for low-energy beams in cyclotron-based proton therapy facilities with gantry.
    Maradia V, Meer D, Weber DC, Lomax AJ, Schippers JM, Psoroulas S.
    Med Phys. 2021 Dec;48(12):7613-7622. doi: 10.1002/mp.15278. Epub 2021 Oct 29.

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2025年2月27日現在、パブメド(PubMed)で、デイミエン・ウェーバー(Damien Weber、Damien C. Weber)の論文を「Damien Weber[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2025年の24年間の282論文がヒットした。

2025年2月27日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2025年2月27日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでデイミエン・ウェーバー(Damien Weber、Damien C. Weber)を「Weber, Damien C」で検索すると、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2025年2月27日現在、「パブピア(PubPeer)」では、デイミエン・ウェーバー(Damien Weber、Damien C. Weber)の論文のコメントを「”Damien C. Weber”」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》著者在順 

著者在順騒動は世界中どの研究室でも起こっている。一言で言えば、研究界の弱肉強食システムの1つである。そして、弱い立場の人が不正だと騒ぐと、研究者としてのキャリアが危険にさらされるので、陰湿な状況が続き、事態は改善されない。

この問題は、今回のヴィヴェク・マラディア院生(Vivek Maradia)のように、被害者である弱者(院生・ポスドクなど)が、時々、反撃して、事態を暴露するが、学術界としては改善する方向にならない。改善する立場の有力教授は加害者側だからだ。

ただ、白楽の経験でいうと、被害者意識が過剰で、事実を誤認する院生もそこそこいるのも事実だと思う。

他の院生の貢献や卒業した先輩の貢献を知らずに、自分の研究成果だけを過大に主張する院生である。

その研究成果は、実は卒業した先輩が出したデータなのだが、ボスとしては少し疑問点がある。データを確証したいので、追試を兼ねた実験をその院生に依頼したとする。

しかし、依頼された院生は、自分が“最初”に出したオリジナルな研究成果だと思い込む。指導教員としては、「データを確証したいので、追試を兼ねた実験」だと事前に伝えると、バイアスがかかる。サラの状態でデータを出してもらいたかったので、事前に説明していない。このようなケースだ。

今回のウェーバー事件では、陽子線治療センター(Center for Proton Therapy)から出版する論文のすべてに自分を共著者に加えるよう強要していたので、上記とは異なるが、博士院生のヴィヴェク・マラディア(Vivek Maradia)の主張が全部正しいかどうか、白楽は少し気になる。

マラディアは、「ウェーバー教授は研究上なにも貢献していないのに、過去5年間、私が出版した論文に無理やり共著者になっている」と告発している。しかし、「研究上なにも貢献していない」という主張は、本当かなあ?

ただ、現在の学術システムでは、院生・ポスドクなどが、著者在順で不当に損をしているのは事実だと思う。何十年も続く悪い慣行なので、学術界は真摯に改善に取り組むべきだと思う。

《2》読む意図

この事件は、2024年ネカト世界ランキングの「より良い科学のために」の「第4位」である。

「より良い科学のために」の読者が、どうして、ウェーバー事件を好んで読んだのか?

研究不正事件としては大きな事件ではない。デイミエン・ウェーバーはスター科学者でもない。

では、どうして?

似たような被害意識を持つ院生・ポスドクなどが多く、共感して読んだのだろうか?

なんか、白楽は、よくわかりませんでした。

《3》防ぐ方法 

デイミエン・ウェーバー(Damien Weber)は研究に貢献していないのに自分を共著者に加えるよう強要した。

この強要をどのように防ぐか?

という問題以外に次の問題がある。

マラディアは、「ウェーバー教授は研究上なにも貢献していないのに、・・・」が本当なら、研究室主宰者なのに、所属院生の研究に貢献しない(できない?)ことも問題である。

通常、研究室主宰者は研究室の全員の研究に貢献し、全論文の共著者になる。

ウェーバーは、マラディア院生の面倒をスタッフ科学者だったセリーナ・プソロラス(Serena Psoroulas)に丸投げしていたのだ、と思う。

というのは、ウェーバーは放射線腫瘍学の医師で、マラディア院生が第一著者の論文の主題である「サイクロトロン陽子線治療(cyclotron-based proton therapy)」の素粒子物理学っぽい部分は、チンプンカンプンだったのではないだろうか。白楽もチンプンカンプンです。

ウェーバーは、だから、マラディア院生の研究に貢献したくても、できなかった(多分)。他の室員の研究には貢献していた(多分)。・・・まあ、推定ですけど。

デイミエン・ウェーバー(Damien Weber、Damien C. Weber)。https://archive.is/wip/5Cmq1

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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●9.【主要情報源】

① 2024年3月25日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「より良い科学のために」記事:The Paul Scherrer Rules – For Better Science