マーク・スミス(Mark Smyth)(豪)

2022年2月2日掲載

ワンポイント:スミスはクイーンズランド医学研究所(QIMRバーグホーファー医学研究所、QIMR Berghofer Medical Research Institute)・教授で、オーストラリアの免疫学者の中で最も被引用数の高い研究者。日本人の弟子が多い。2021年8月(58歳)、研究不正(ねつ造・改ざん?)で辞職したが、2022年2月1日(58歳)現在、外部委員会が調査中で、不正の内容は公表されていない。国民の損害額(推定)は40億円(大雑把)。

【追記】
・2023年8月21日記事: Cancer study: Peter MacCallum Cancer Centre in sham research melanoma scandal
・2022年4月22日記事:約340万ドル(約3億4千万円)の助成金を放棄:Research scandal costs Queensland institute millions of dollars

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

マーク・スミス(Mark Smyth、Mark J Smyth、ORCID iD:?、写真出典)は、オーストラリアのクイーンズランド医学研究所(QIMRバーグホーファー医学研究所、QIMR Berghofer Medical Research Institute)・教授で、医師免許は所持していない。専門は免疫学である。オーストラリアの免疫学者の中で最も被引用数の高い研究者で、今まで、約38億円の研究助成金を受給していた。日本人の弟子が多い。「QIMR」は「Queensland Institute of Medical Research」の略。

2021年1月(57歳)、研究室員が、スミス教授のネカト疑惑を研究所に告発した。

2021年8月(58歳)、研究不正(ねつ造・改ざん?)でスミス教授はクイーンズランド医学研究所を辞職した。

2021年11月(58歳)、クイーンズランド医学研究所がプレスリリースを発表した。

2022年2月1日(58歳)現在、外部委員会が調査中で、不正の内容は公表されていない。

クイーンズランド医学研究所(QIMRバーグホーファー医学研究所、QIMR Berghofer Medical Research Institute)。写真出典

  • 国:オーストラリア
  • 成長国:オーストラリア
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:メルボルン大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1963年4月4日。オーストラリアのホバートで生まれる
  • 現在の年齢:60 歳
  • 分野:免疫学
  • 不正論文発表:2004~2020年(41~57歳)の17年間
  • 発覚年:2021年(57歳)
  • 発覚時地位:クイーンズランド医学研究所・部長(教授)
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はスミス教授の研究室員(詳細不明)で、研究所に公益通報
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①クイーンズランド医学研究所・調査委員会の予備調査。②ロバート・ゴッターソン(Robert Gotterson)の外部調査委員会。③クイーンズランド州犯罪腐敗委員会(Queensland’s Crime and Corruption Commission (CCC))
  • 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中なので
  • 研究所の透明性:調査中(ー)
  • 不正:ねつ造・改ざん(推定)
  • 不正論文数:少なくとも2報。パブピアでは18報にコメントあり
  • 時期:研究キャリアの中期から(推定)
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:辞職(解雇?)
  • 日本人の弟子・友人:①:中村恭平(クイーンズランド医学研究所・ 主任研究員)、②: 早川芳弘(Hayakawa Yoshihiro、富山大学・教授)

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は40億円(大雑把)。約38億円の助成金を受給しているので。

●2.【経歴と経過】

出典:SMYTH CV

  • 1963年4月4日:オーストラリアのホバートで生まれる
  • 1981~1983年(18~20歳):メルボルン大学(University of Melbourne)で学士号取得:生化学/病理学
  • 1985~1988年(22~25歳):同大学で研究博士号(PhD)を取得:病理学
  • 1987年6月~1987年7月(24~24歳):イタリアのファーミタリア・カルロ・エルバ社(Farmitalia Carlo Erba)・留学
  • 1988年12月~1991年12月(25~28歳):米国の国立がん研究所(NCI)・ポスドク
  • 1991年12月(28歳):オーストラリアのオースティン研究所(Austin Research Institute)・研究員など
  • 1996年~1998年(33~35歳):メルボルン大学(University of Melbourne)・研究員
  • 1998年~2000年(35~36歳):ビクトリア工科大学(Victoria University Of Technology)・準教授
  • 2000年3月~2013年3月(36~49歳):オーストラリアのピーターマッカラムがんセンター(Peter MacCallum Cancer Centre)・癌免疫学(Cancer Immunology Program)・部長(教授)
  • 2013年2月(49歳):クイーンズランド医学研究所(QIMRバーグホーファー医学研究所、QIMR Berghofer Medical Research Institute)・部長(教授)
  • 2017年(54歳):オーストラリア科学アカデミー(Australian Academy of Science)・会員
  • 2021年1月(57歳):不正研究が発覚
  • 2021年8月(58歳):クイーンズランド医学研究所を辞職
  • 2021年11月(58歳):クイーンズランド医学研究所が声明発表
  • 2022年2月1日(58歳)現在:外部委員会が調査中

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
自分の研究紹介動画:「New Fellows 2017: Professor Mark Smyth, QIMR Berghofer Medical Research Institute – YouTube」(英語)1分44秒。
Australian Academy of Scienceが2017/05/21 に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★オーストラリアの有力免疫学者

2017年、マーク・スミス(Mark Smyth)はオーストラリア科学アカデミー(Australian Academy of Science)・会員に選出された。現在の会員数は572人なので、その1人ということだ。

スミス教授は、オーストラリア政府から、計3820万ドル(約38億円)の研究助成金を受給していた。巨額ですね。

★発覚の経緯

2021年1月(57歳)、クイーンズランド医学研究所のスミス研究室の室員が、スミス教授のネカト疑惑を研究所に告発した。

2021年8月(58歳)、クイーンズランド医学研究所のファビエンヌ・マッケイ所長(Fabienne Mackay、写真出典)が、スミス教授は辞職すると、所員に知らせた(以下、出典)。

上記の辞職のお知らせに、スミス教授の辞職理由は書いてなかった。

2021年11月(58歳)、クイーンズランド医学研究所がプレスリリースを発表した。

以下はプレスリリースの冒頭部分(出典:同)。全文は1ページ → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2021/11/20211121_QIMRB-Media-Statement.pdf

その中に、外部調査の結果、スミス教授には「責任ある研究行為に関連する規範に重大な違反があった」、と述べている。

所内の予備調査の結果、本調査が必要と判断し、クイーンズランド州控訴裁判所の元・裁判官(retired Queensland Court of Appeal judge)であるロバート・ゴッターソン(Robert Gotterson、写真出典)に本調査を依頼した。

ゴッターソン委員長は3人の科学者を委員にし、調査を行なった。

調査の結果、「責任ある研究行為に関連する規範に重大な違反があった」が、この事件はクイーンズランド州犯罪腐敗委員会(Queensland’s Crime and Corruption Commission (CCC))で調査すべきと結論した。

第二の独立委員会は、南オーストラリア州の腐敗防止委員会の元委員であるブルース・ランダー(Bruce Lander、写真出典)が取り仕切ることになった。

2022年2月1日現在、第二の独立委員会の調査結果は公表されていない。調査中と思われる。

それで、スミス教授の何がどう不正なのか、公式発表はない。

★過去:多量訂正と撤回

現在調査中のスミス教授の研究不正と関係があるのかどうか不明だが、過去に、スミス教授の論文について「1論文が訂正、1論文が撤回」されている。

「1論文が訂正」は、2015年に「撤回監視(Retraction Watch)」が解説している「2015 年5月のJ Clin Invest」論文である。訂正がとても多い、いわゆるメガコレクション論文で、撤回するのが妥当と思える論文だ。 → 2015年7月13日記事:JCI issues mega-correction for multiple myeloma paper – Retraction Watch

「1論文が撤回」に関しては、「2004年6月のNat Immunol」論文が2006年8月1日に撤回されていた。 → Retraction Note

なお、この撤回された「2004年6月のNat Immunol」論文の第一著者は、当時、スミス教授の研究室に留学していた早川芳弘(Hayakawa Yoshihiro)で、早川芳弘は2022年2月1日現在、富山大学・教授である

★過去:メルボルン大学時代

1996~1998年(33~35歳)、スミス教授はメルボルン大学(University of Melbourne)に所属していた時、研究室の院生にデータねつ造が告発され、メルボルン大学がネカト調査をした。

不正な点は、ノックアウトマウスを作っていないのに、作ったと研究発表したらしい。

スミスは不正を否定した。

結局、不正の証拠らしきものが見つかったが、調査が曖昧な中、スミス教授はメルボルン大学を去った。そして、調査を曖昧なママ終えた。

【ねつ造・改ざんの具体例】

2022年2月1日現在、どの論文の何がどのようにねつ造・改ざんされたのか、公式発表がない。

パブピアでも妥当な指摘がない。

それで省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年2月1日現在、パブメド(PubMed)で、マーク・スミス(Mark Smyth、Mark J Smyth)の論文を「Mark Smyth[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の501論文がヒットした。

2022年2月1日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、「2004年6月のNat Immunol」論文・1論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2022年2月1日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでマーク・スミス(Mark Smyth、Mark J Smyth)を「Mark J Smyth」で検索すると、 1論文が訂正、0論文が懸念表明、1論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2022年2月1日現在、「パブピア(PubPeer)」では、マーク・スミス(Mark Smyth、Mark J Smyth)の論文のコメントを「Mark Smyth」で検索すると、2004~2020年(41~57歳)出版の18論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》決着していない 

2022年2月1日現在、どの論文の何がどのようにねつ造・改ざんされたのか、公式発表がない。

今回、比較的新しい事件を記事にしたが、記事にするのが早すぎて、事件の詳細が出そろっていなかった。

マーク・スミス(Mark Smyth)はオーストラリアの有力な研究者である。そのスミス教授がクイーンズランド医学研究所を辞職したのだから、重大な不正をしたことは事実のようだ。

重大過ぎて、調査に時間がかかっているのだろう。

ただ、このように、不正の確証がつかめたら、とにかく早く辞任させ世間に事件を公表するのは、とても望ましい。そうしないと、ネカト被災者が増える。

しかし、今回は2回目のネカト調査である。

20年以上前の1996~1998年(33~35歳)、メルボルン大学(University of Melbourne)に所属していた時、マーク・スミスはデータねつ造事件を起こした。この時、チャンと処罰を科しておけば、今回の事件はなかっただろう。

そういう意味では、当時の調査を行なったメルボルン大学にも責任がある。

マーク・スミス(Mark Smyth) Photo: Newspix. 出典:https://www.ausdoc.com.au/news/top-cancer-immunologist-referred-corruption-watchdog
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●9.【主要情報源】

① 2021年11月22日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Highly cited cancer immunologist “seriously breached” research conduct code: Australia institute – Retraction Watch
② 2021年11月23日のリアム・マニックス(Liam Mannix)記者の「Sydney Morning Herald」記事:Top scientist referred to corruption watchdog over alleged research misconduct
③ 2021年11月24日のジャネル・マイルス(Janelle Miles)記者の「ABC News」記事:Leading Queensland cancer researcher Mark Smyth faces allegations of misconduct after ‘a number of complaints’ – ABC News
④ 2021年11月26日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Schneider Shorts 26.11.2021 – Shut up, you are not paid to think – For Better Science
⑤ 2022年1月12日のジォシュ・バーヴァス(Josh Bavas)記者の「9 News」記事:Allegedly fabricated Queensland Institute of Medical Research data under independent review
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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