ケヴィン・コービット(Kevin Corbit)(米)

ワンポイント:メディアで注目を集めた研究がデータ操作だった

【概略】
quantrell-rosner-1ケヴィン・コービット(Kevin Corbit、写真出典)は、米国・アムジェン社(Amgen inc.)・上級研究員で、医師ではない。専門は代謝疾患(糖尿病)だった。

「2014年のCell Metabolism誌」に冬眠する熊(grizzly bears)のインシュリン感受性の論文を発表した。大きな熊を対象にした糖尿病研究は科学ニュースとしての世間受けがよく、メディアの注目を集めた。企業の広報力が背景にあるだろうが・・・。

2015年9月(43歳?)、アムジェン社は、内部調査の結果、データ操作があったとの理由で、「2014年のCell Metabolism誌」論文を撤回した。

この事件は、「livescience」誌の疑念科学:2015年「論文撤回」ランキングの第3位である(2015年ランキング)。

なお、アムジェン社は、従業員数約2万人を擁する世界最大のバイテク企業である。

1280px-Amgenheadquarters米国・カリフォルニア州サウザンド・オークスにあるアムジェン社(Amgen inc.)本部の建物の1つ。写真(Photographed by user Coolcaesar on July 7, 2012)、出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 研究博士号(PhD)取得:米国・シカゴ大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1972年1月1日とする
  • 現在の年齢:45 歳?
  • 分野:糖尿病
  • 最初の不正論文発表:2014年(42歳?)
  • 発覚年:2015年(43歳?)
  • 発覚時地位:アムジェン社・上級研究員
  • 発覚:内部公益通報?
  • 調査:①アムジェン社・調査委員会?
  • 不正:ねつ造・改ざん?
  • 不正論文数:撤回論文は1報
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 結末:解雇

3297487_Gケヴィン・コービット(Kevin Corbit), 41歳。写真出典:Quincy native studying grizzly bears – WGEM.com: Quincy News, Weather, Sports, and Radio

【経歴と経過】
主たる出典

  • 生年月日:不明。仮に1972年1月1日とする。
  • 1994年(22歳?):米国・イリノイ大学(University of Illinois)を卒業。学士号:哲学と生物学
  • 2001年(29歳?):米国・シカゴ大学(University of Chicago)で研究博士号(PhD)を取得した
  • 2003年(31歳?):スタンフォード大学(Stanford University/Howard Hughes Medical Institute)・ジェラルド・クラブトゥリー(Gerald Crabtree)研究室でポスドク
  • Reiter%20headshot2005年(33歳)?:カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)・ジェレミー・ライター(Jeremy Reiter、写真出典)研究室の研究員(Faculty Fellow)
  • 2009年(37歳?):カリフォルニア大学サンフランシスコ校・助教授に昇進。生化学・生物物理学
  • 2011年(39歳?):米国・アムジェン社(Amgen inc.)・上級研究員。代謝疾患。
  • 2015年(43歳?):不正研究が発覚する
  • 2015年9月(43歳?):米国・アムジェン社を解雇された

【不正発覚の経緯と内容】

Hibernate上図は2型糖尿病発症のモデル図である(英語のままでゴメン)。右下赤字の「type 2 diabetes」が「2型糖尿病」で、インスリン分泌が低下した場合とインスリン感受性低下が原因の糖尿病である。つまり、生活習慣が悪いためにかかる糖尿病である。図の出典。

ケヴィン・コービット(Kevin Corbit)は、米国のバイオテク企業であるアムジェン社の上級研究員である。ヒトの糖尿病を理解し、糖尿病治療に有効な医薬品を開発しようと研究していた。

その目的で選んだ対象はクマ(grizzly bears)の冬眠メカニズムだった。

なぜクマを選んだかというと、秋になるとクマは肥満になるが糖尿病にはならない。寒くなって冬眠し始めた数週だけ糖尿病の状態になり、春に目覚めるときには糖尿病の状態は治っている。

クマは自然界の進化的な自然実験を通して、糖尿病状態に対処するメカニズムを体内に発達させたと考えた。だから、クマの冬眠と肥満・糖尿病の関係を研究することで、ヒトの糖尿病のメカニズムを理解する新発見があるのではないかと考えた。これが、コービットの研究意図だった。

ワシントン州立大学の心臓学者・リン・ネルソン教授(Lynne Nelson)と共同で研究し、その研究成果を、「2014年のCell Metabolism誌」に12人の著者と共に発表した。

BN-KC585_BEARjp_M_20150901163429論文の第一著者であるワシントン州立大学の心臓学者・リン・ネルソン教授(Lynne Nelson)がクマの心電図を計測している。2013年。写真出典。PHOTO: RAJAH BOSE FOR THE WALL STREET JOURNAL

2015年9月、ところが、アムジェン社は、内部調査の結果、アムジェン社所属の著者の1人が「2014年のCell Metabolism誌」論文の図1と図3のデータを操作したと発表した。データ操作があったとの理由で、「2014年のCell Metabolism誌」論文を撤回した(Retraction Notice to: Grizzly Bears Exhibit Augmented Insulin Sensitivity while Obese Prior to a Reversible Insulin Resistance during Hibernation: Cell Metabolism)。

以下はデータ操作されたといわれる図3である。図3だけ見ても、どこが操作されたかわからない。
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論文は、アムジェン社とワシントン州立大学(Washington State University)、アイダホ大学(University of Idaho)との共同研究で、著者にアムジェン社所属の人が6人いた。アムジェン社は、「アムジェン社所属の著者の1人」と述べるだけで、どの人がデータをねつ造したのかを明かしていない。

しかし、「2014年のCell Metabolism誌」論文の著者の1人(最後著者)であったケヴィン・コービット(Kevin Corbit)が同時期に解雇された。コービットが解雇された理由は別のデータねつ造だと述べているが、「2014年のCell Metabolism誌」論文のデータねつ造をした当人とされた。

【論文数と撤回論文】

2016年1月18日現在、パブメド(PubMed)で、ケヴィン・コービット(Kevin Corbit)の論文を「Kevin Corbit [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2015年の14年間の12論文がヒットした。

2016年1月18日現在、1論文が撤回されている。ここで問題視した「2014年のCell Metabolism誌」論文が2015年9月に撤回された。

【白楽の感想】

《1》企業・研究員のネカト

企業がらみのネカトの公式発表は表面的事象だろう。そのまま素直に信用すると事実誤認が起こる気がする。つまり、企業は、真実よりも損得が優先するからだ。こう書くと、学術界でも同じだが、学術界は損得を優先する論理は強くないし、また、その手段・体制が稚拙なので、少し考え、詮索すると、事件の裏に潜む真実が見えてくる。

今回のケヴィン・コービットの場合、どんな損得が裏に潜んでいるのだろうか?

ウ~ン、ウ~ン、・・・・、わかりません。

それにしても、ある日突然、企業がネカトを発表するが、その調査過程や調査報告書の詳細は公表されない(義務ではないし・・・)。他企業での研究ネカト防止策・調査・処分に役立つ情報はオープンにならない。人間社会にノウハウが蓄積されない。残念です。

《2》クマと糖尿病

糖尿病の研究と称して、クマを実験材料に使うなんて、パブリシティとしては、とてもクマイ、いや、ウマイ。

コアラを使って睡眠の実験でもします?

【主要情報源】
① 2015年9月1日のジョナサン・ロックオフ(Jonathan D. Rockoff)の「ウォール・ストリート・ジャーナル」記事:Amgen Finds Data Falsified in Obesity-Diabetes Study Featuring Grizzly Bears – WSJ
②  2015年9月2日のシャノン・パラス(Shannon Palus)の「論文撤回監視(Retraction Watch)」記事: Retraction of grizzly bear-diabetes study follows departure of Amgen scientist for data manipulation – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2015年9月2日のケリー・グレンス(Kerry Grens)の「The Scientist」記事: Kerry Grens | September:Bear Study Breaks Down | The Scientist Magazine®
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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