大学:捕食:「コクハラ」:デレク・パイン(Derek Pyne) 対 トンプソンリバーズ大学(Thompson Rivers University)(カナダ)

2018年12月7日掲載

ワンポイント:パイン準教授(テニュア所持)は、所属するトンプソンリバーズ大学の経済経営学科(ビジネススクール)の3分の2以上(15人以上)の教員が捕食学術誌に論文を発表していたことを、「2017年のJournal of Scholarly Publishing」論文に発表した。2018年、トンプソンリバーズ大学は報復として、パイン準教授を教育禁止、大学キャンパス内に立ち入り禁止、無給の停職処分にした。それに対し、カナダ大学教員協会(Canadian Association of University Teachers)は、トンプソンリバーズ大学がパインを処分したことは学問の自由を侵害していると非難し、調査委員会を設置した。バンクーバー・サン紙(Vancouver Sun)のダグラス・トッド記者(Douglas Todd)が事件を詳細に報道している。事件の決着はついていない。 国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

【追記】
・2018年12月7日記事: パイン準教授は2019年1月に教育に復帰する。Suspended Thompson Rivers University professor to return to teaching | The Province

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】

トンプソンリバーズ大学(Thompson Rivers University)のデレク・パイン(Derek Pyne、写真出典)は、2017年の論文で、同大学の経済経営学科(ビジネススクール)の3分の2以上(15人以上)の教員が捕食学術誌に論文を発表していることを、「2017年のJournal of Scholarly Publishing」論文に発表した。

2018年5月17日、トンプソンリバーズ大学は問題点を指摘したパイン(テニュア所持)に報復として(コクハラ)、教育禁止と大学キャンパス内に立ち入り禁止の処分にした。

2018年7月17日、さらに、トンプソンリバーズ大学はパインを無給の停職処分にした。なお、この停職処分は、バンクーバー・サン紙(Vancouver Sun)の非難を受け、翌月に撤回した。

2018年10月31日、カナダ大学教員協会(Canadian Association of University Teachers)は、トンプソンリバーズ大学がパインを処分したことは学問の自由を侵害していると非難し、調査委員会を設置した。

2018年12月5日現在、調査委員会の結論は出ていない。

なお、バンクーバー・サン紙(Vancouver Sun)のダグラス・トッド記者(Douglas Todd)が事件を詳細に報道している。

トンプソンリバーズ大学のこの事件は、捕食出版を指摘されたことで、大学が報復として、指摘した教員(テニュア所持)の教育権や学内出入りを禁止した事件である。「学問の自由」侵害は勿論だが、問題点を指摘された教員を処分するのではなく、指摘した教員を処分するのは異常である。

トンプソンリバーズ大学(Thompson Rivers University)。写真出典

  • 国:カナダ
  • 集団名:トンプソンリバーズ大学
  • 集団名(英語):Thompson Rivers University
  • ウェブサイト(英語):https://www.tru.ca/
  • 集団の概要:カナダのブリティッシュコロンビア州の南中央部のカムループス(Kamloops)にある中規模の公立大学。
  • 事件の首謀者:経済経営学科の半分以上(27 人の内16人)の教員とアラン・シェイバー学長(Alan Shaver)。
  • 分野:捕食
  • 不正年:2017年
  • 発覚年:2018年
  • ステップ1(発覚):第一次追及者のデレク・パイン(Derek Pyne)・準教授が、同僚の捕食論文を論文で指摘した。それで、大学がコクハラし、教育禁止と大学キャンパス内に立ち入り禁止、また停職処分をした
  • ステップ2(メディア):バンクーバー・サン紙(Vancouver Sun)のダグラス・トッド記者(Douglas Todd)、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①カナダ大学教員協会(Canadian Association of University Teachers)・調査委員会。②。
  • 不正:捕食。コクハラ。学問の自由侵害
  • 不正論文数:
  • 被害(者):デレク・パイン(Derek Pyne)・準教授
  • 国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)
  • 結末:未決着

●2.【日本語の解説】

ない。

●3.【事件の経過と内容】

★トンプソンリバーズ大学(Thompson Rivers University)

トンプソンリバーズ大学(Thompson Rivers University)はカナダのブリティッシュコロンビア州の南中央部のカムループス(Kamloops)にある。2005年創立で、教員650人、学生・院生が1万4000人の教育・研究の公立大学である。

トンプソンリバーズ大学(Thompson Rivers University)は、「Times Higher Education」の大学ランキングのカナダ編のランクに載っていないので、レベルは低いと思われる(World University Rankings 2019: – Times Higher Education)。World University Rankings 2019 | Times Higher Education (THE)

★デレク・パイン(Derek Pyne)

デレク・パイン(Derek Pyne、写真出典)は、トンプソンリバーズ大学(Thompson Rivers University)の経済経営学科(ビジネススクール)の準教授だった。2015年にテニュアを取得した。

2017年4月、パイン(53歳)は以下の論文で自分の所属する経済経営学科の教員の3分の2以上(15人以上)が捕食学術誌に論文を発表していたと発表した。なお、実際は、論文では大学名も学科名も書いてなかったのだが、論文を読んだ人は、所属大学の所属学科だとわかるそうだ。また、後の新聞記事では、「3分の2以上(15人以上)」は「半分以上(27 人の内16人)」と報道されている。

論文閲覧は有料なので白楽は読んでいないが、要旨閲覧は無料である。以下に要点を記す。

従来の伝統的な学術誌に論文発表した場合と捕食学術誌に発表した場合のメリットを比較した。小規模なカナダの経営学大学院で教員の大多数が捕食論文を出版していた。分析してみると、捕食論文の方が非捕食論文よりも金銭的な見返りが大きかった。また、捕食学術誌への出版論文数は、学内研究費の採択額と正比例していた。この知見は、捕食学術誌に論文を発表する動機を理解し、捕食学術誌への対策を検討することに有益だと思う。

★撤回監視のインタビュー

2017年5月9日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事で、デレク・パインは記者の質問に答えている。
→  2017年5月9日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:When most faculty publish in predatory journals, does the school become “complicit?” – Retraction Watch

質問1:あなたの同僚が捕食学術誌に論文を出版しているのを調べた理由は何ですか?
パインの回答

私は、捕食学術誌のことを知っていましたが、同僚が私に知らせてくれるまで、それほど蔓延しているとは思いませんでした。それで、調べたのですが、私の部署の大部分の同僚が捕食論文を出版していることを見つけました。そのことで、私はさらに捕食学術誌への興味が増し、ビールのブログに続き、関連する論文を読み始めました。その後、複数の捕食論文を出版した同僚教員に学部長が研究賞(Dean’s Research Award)を授与したのです。これらの賞は、テニュアおよび昇進のサポートに使われれます。また、大学は、捕食学術誌(ビール・リストに載っている)の編集者になった同僚教員を祝福しました。つまり、現時点では、私の大学では捕食論文を出版することにメリットがあると認識したわけです。

質問2:論文を知った時、同僚はどのように反応しましたか?
パインの回答

私が研究を行なっている間の反応は様々でした。論文が出版された時、私はサバティカルでギリシャのアテネ経済産業大学(Athens University of Economics and Business)に滞在していました。それで、特定の人々から電子メールを受けとりましたが、経済経営学科ではほとんど話題に上がっていないと伝えられました。 しかし、2017年4月5日にオタワシチズン紙(Ottawa Citizen)に私の記事が掲載されました。教員の1人がその記事を学内に配布しました。その後、大学の多くの教員から論文を送ってくれるよう依頼されました。 そして、芸術系教授会と大学評議会の両方で議題になりました(ただ、経済経営学科の教員会議の議題にはなりませんでした)。大学評議会の議事録はまだ公開されていませんが、私の論文を無視していた大学管理者の1人が、突然、捕食学術誌に論文を出版するのに否定的になったと聞いています。

質問3:オタワシチズン紙(Ottawa Citizen)の2017年4月5日の記事に、経済経営学科の管理職者はあなたの研究結果に関心を示さなかったと書いてあります。 このことについて述べることがありますか?
パインの回答: 省略

質問4:大学は捕食学術誌に加担している、と述べています。どう対処できますか?
パインの回答

教員の大多数が捕食論文を出版していたため、大学はこの問題を無視したのですが、大学は捕食学術誌に加担している、と思いました。私はオタワシチズン紙(Ottawa Citizen)で、対処について議論しました。
1つの問題は、すべての大学管理者のバックグランドに研究経験がなかったことです。研究のバックグランドがない大学管理者は研究公正の価値を重視できません。大学管理者は疑わしい出版物を認識できる立場なので、私が推奨する最初の対処は、研究のバックグランドを持つ大学管理者を雇うことです。
もう1つは、オタワシチズン紙(Ottawa Citizen)に私の新聞記事が掲載された後でしか問題が注目されていませんが、正直な教員は研究公正に立ち向かう必要があります。もし、大学内部で改革できない場合、外部に向かってでも前進する必要があります。

質問5:捕食学術誌に論文を出版したことがありますか?
パインの回答

ありません。ただ、私は世界ビジネス協会(World Business Institute)が出版している捕食学術誌の編集委員をしたことがあります。彼らは、編集委員になる申し込み書を送ってきました。編集委員になるには、定評のある学術誌にそれなりの論文を出版していることが必要だと書いてあり、審査はまともに思えました。私は愚かにも申請書を送付し、編集委員に任命されました。しかし、私の部署の他の2人が任命されたことを知ったとき、何かが間違っていると感じました。それで、編集委員を辞任したいと伝えたのですが、編集委員会から私の名前が削除されるのにはかなり長い年月がかかりました。また、世界ビジネス協会は私の名前を使って世界中の研究者に国際会議への参加を募っていました。それで捕食会議の基調講演者に、この国際会議は捕食だと説明する電子メールを私の方から送付しました。というのは、基調講演者は、捕食会議のなんたるかを理解していないかもしれないと思ったからです。そして、ついに、世界ビジネス協会は私の名前を使った国際会議の宣伝をやめました。

デレク・パイン(Derek Pyne)https://www.cfjctoday.com/article/642954/tru-opts-out-investigation-professor-discipline

★コクハラ

2018年5月17日、トンプソンリバーズ大学はパインを教育禁止と大学キャンパス内に立ち入り禁止の処分にした。

2018年7月17日、さらに、トンプソンリバーズ大学はパインを無給の停職処分にした。

カナダ大学教員協会(Canadian Association of University Teachers)は、トンプソンリバーズ大学がパインを処分したことは学問の自由を侵害していると非難した。

【動画1】
カナダのバンクーバー・サン紙(Vancouver Sun)のダグラス・トッド記者(Douglas Todd)がパインにインタビューしている。
「学術界の詐欺を示す研究(Studies show fraud in academia | Douglas Todd | Vancouver Sun) – YouTube」(英語)5分25秒。
Vancouver Sunが2018/10/31 に公開

2018年8月xx日、トンプソンリバーズ大学はバンクーバー・サン紙の報道を受け、パインの停職処分を解除したが、教育禁止と大学キャンパス内に立ち入り禁止の処分は解除しなかった。

★事件の広がり:学問の自由

2018年10月31日、カナダ大学教員協会(Canadian Association of University Teachers)は、ブリティッシュコロンビア大学(University of B.C)のマーク・マクリーン教授(Mark MacLean)を委員長とする調査委員会を発足した。トンプソンリバーズ大学が学問の自由を侵害しているかどうかの調査である。
→ 2018年11月3日、ダグラス・トッド記者(Douglas Todd)の「バンクーバー・サン紙(Vancouver Sun)」記事:B.C. prof who exposed fake journals welcomes new investigation | Vancouver Sun

カナダの有力な学者がトンプソンリバーズ大学のアラン・シェイバー学長(Alan Shaver、写真)にパインの処分について質問に答えるようブリティッシュコロンビア州政府に要請していた。 しかし、州政府のメラニー・マーク(Melanie Mark)は、州政府は、州立大学の運営に関与することが法律で禁止されていると述べている。

トンプソンリバーズ大学の広報官ダーシャン・リンゼイ(Darshan Lindsay)は、2018年10月31日に次のような声明を発表した。「現時点ではカナダ大学教員協会に正式に回答する機会がなく、コメントするのは不適切であると考えている。私たちはまた、雇用者の個人情報を保護することが法的に義務付けられており、コメントできることは限られています」。

「学問の自由と奨学金のカナダ協会(Canada’s national Society for Academic Freedom and Scholarship)」のマーク・マーサー教授(Mark Mercer)は、「トンプソンリバーズ大学はもっとオープンにすべきです。プライバシーはいいけど、秘匿は許されません。大学が秘密としているものの多くは、公開されるべきものです」と発言している。

ハリファックスのセントメアリー大学(St. Mary’s University)の哲学科長でもあるマーサー教授は、大学教員はパインのように頻繁に利益相反の状況に巻き込まれているという。パインの論文は、ある意味、他の教員のキャリアを傷つけたが、大学教員はしばしば、教員対大学ではなく、教員対教員で対立する、とマーサー教授は述べた。

パインは、彼の論文で学科の教員の論文発表行動が改善されることを望んだが、同僚は依然として捕食論文を発表している、と嘆いた。教員は、他の研究者がやっているなら、自分もしようと思うようだ。「止めさせられると思ったが、逆行したかもしれない」と、パインは思うそうだ。

トンプソンリバーズ大学の学問の自由をどう評価すかと記者に質問され、パインは、「トンプソンリバーズ大学は、学問の自由というものを理解してない。トンプソンリバーズ大学の前身は教育だけしてきた大学で、研究の実績がない。大学管理職の人たちは研究のバックグランドがない。だから、本当に、学問の自由というものを理解できていない」と答えている。

アラン・シェイバー学長が退任した後、トンプソンリバーズ大学の暫定的な学長に就任したクリシティン・ボヴァス=ノッスン(Christine Bovis-Cnossen、写真出典)は、「当大学は教員全員の学問の自由に明白に貢献している」と反論している。

●4.【白楽の感想】

《1》腐った大学

マクロにとらえて、捕食出版・捕食学会の世界的な浸透に驚くが、ミクロにとらえても、中規模大学の1つの学科で、教員の3分の2以上が捕食論文を発表しているとなると、なんだか、末期的な気がしてくる。

そういう大学だから、その事実が指摘されると、指摘したデレク・パイン(Derek Pyne)を大学全体がつぶしにかかった。大学が腐ってしまっている。

トンプソンリバーズ大学(Thompson Rivers University)の事件は「Vancouver Sun」紙のダグラス・トッド(Douglas Todd)記者が執拗に報道したから、世間で知られるようになった。しかし、世界のほとんどの大学は、もみつぶしているに違いない。

《2》学問の自由

問題が捕食論文から学問の自由に移行したが、トンプソンリバーズ大学の対応は、この点でも基本的にズレている。

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●5.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Thompson Rivers University – Wikipedia
② 2017年5月9日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:When most faculty publish in predatory journals, does the school become “complicit?” – Retraction Watch
③ 2018年11月21日のダグラス・トッド(Douglas Todd)記者の「Vancouver Sun」記事:Douglas Todd: The bogus-journals plot thickens at a B.C. university | Vancouver Sun
④ 2018年11月14日のエリー・ボスウェル(Ellie Bothwell)記者の「Times Higher Education」記事:Scholar behind predatory journals exposé says study ‘backfired’ | Times Higher Education (THE)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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