スティーヴン・マシューズ(Stephen Matthews)(カナダ)

2015年4月29日掲載、2025年5月25日更新

ワンポイント:マシューズ は、トロント大学(University of Toronto)医学部・教授で生理学科長でもあった。2012年10月(47歳?)、学術誌「Neurosci Biobehav Rev」のブラウン編集長は、当時ようやく普及してきた盗用検出ソフトのアイセンティケイト(iThenticate)で、7年前のマシューズの「2005年4月のNeurosci Biobehav Rev」論文 に自己盗用(self-plagiarism)を見つけた。それで、編集長権限で、論文を撤回すると決めた(正式な撤回は2013年3月)。トロント大学、カナダの研究助成機関、カナダ政府の「責任ある研究実施事務局」の3者の権威筋は、この件を研究不正としなかった。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

Matthews3スティーヴン・マシューズ(Stephen Matthews、Stephen G Matthews、写真出典)は、カナダのトロント大学(University of Toronto)医学部・教授で生理学科長でもあった。専門は神経科学だった。

2012年10月(47歳?)、学術誌「Neurosci Biobehav Rev」のベリティー・ブラウン編集長(Verity Brown)は、編集長権限で、7年前のマシューズの「2005年4月のNeurosci Biobehav Rev」論文 に自己盗用(self-plagiarism)を発見し、論文を撤回すると決めた(正式な撤回は2013年3月)。

学術誌「Neurosci Biobehav Rev」編集部が、当時ようやく普及してきた盗用検出ソフトのアイセンティケイト(iThenticate)で学術誌「Neurosci Biobehav Rev」の過去の論文をチェックし、論文の文章の再使用を検出したのだ。

しかし、当時も今も、自己盗用は研究不正かどうか明確ではない。

しかも、「2005年4月のNeurosci Biobehav Rev」論文は“総説(review)”である。

これらを考慮して、トロント大学、カナダの研究助成機関、カナダ政府の「責任ある研究実施事務局」の3者の権威筋は、この件を研究不正としなかった。

マシューズは処分されなかったが、生理学科長を辞任した。

2025年4月24日(60歳?)現在、トロント大学・教授職を維持している。

トロント大学は、事件当時でも2025年現在でも、「Times Higher Education」の大学ランキングでカナダ第1位の大学である(World University Rankings 2025 | Times Higher Education (THE))。

トロント大学・医学部(Temerty Faculty of Medicine, University of Toronto)。写真出典

  • 国:カナダ
  • 成長国:英国
  • 研究博士号(PhD)取得:英国のケンブリッジ大学(University of Cambridge)
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に、1965年1月1日生まれとする
  • 現在の年齢:60 歳?
  • 分野:神経科学
  • 盗用論文発表:2005年(40歳?)
  • 盗用論文発表時の地位:トロント大学・医学部・教授で生理学科長
  • 盗用発覚年:2012年10月(47歳?)
  • 発覚時地位:トロント大学・医学部・教授で生理学科長
  • 最初の不正論文発表:2005年(40歳?)
  • 発覚年:2012年10月(47歳?)
  • 発覚時地位:トロント大学(University of Toronto)医学部・生理学科長・教授
  • ステップ1(発覚):学術誌・編集部の調査
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」、「Toronto Star」、「Plagiarism Blog」、「POSTMEDIA NEWS」など
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌「Neuroscience & Biobehavioral Reviews」・編集部の調査。②トロント大学、カナダの研究助成機関、カナダ政府の「責任ある研究実施事務局」の3者の権威筋は、この件を研究不正としなかった
  • 不正:自己盗用(self-plagiarism)
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:事件後に生理学科長を辞任した(▽)
  • 処分:なし
  • 特徴:行き過ぎた編集長の判断。自己盗用が不正かどうかは不統一
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に、1965年1月1日生まれとする
  • 19xx年(xx歳):英国のノッティンガム大学(University of Nottingham)を卒業。分野は動物生理学(Animal Physiology)
  • 1992年(27歳?):英国のケンブリッジ大学(University of Cambridge)で研究博士号(PhD)取得。分野は分子神経内分泌学(Molecular Neuroendocrinology)
  • 1996年(31歳?):カナダのトロント大学(University of Toronto)医学部・教員
  • 2007~2014年(42~49 歳?):カナダのトロント大学(University of Toronto)医学部・生理学科長、教授
  • 2012年10月(47歳?):不正研究が発覚
  • 2025年4月24日(60歳?)現在:トロント大学・教授職を維持

●5.【不正発覚の経緯と内容】

【研究内容】 マシューズ本人のサイト(Matthews S.G.)を中心に修正引用。

主要な研究テーマは、視床下部-下垂体-副腎系(HPA)の発達メカニズムとその調節メカニズムの解明である。どこまで遺伝的にプログラムされ、どこまで環境の影響を受けるのか?

視床下部-下垂体-副腎系は、ストレス応答や免疫、摂食、睡眠、情動、繁殖性行動、エネルギー代謝などを含む多くの体内活動を制御している神経内分泌系である。HPA軸(HPAじく)ともいう。サーカディアンリズムとも関係する。(出典:視床下部-下垂体-副腎系

Yoshiyamoriguchi_fig_7図は、脳・自律神経・HPA axisと身体疾病の関係(出典:心身症 – 脳科学辞典

多くの成人の疾患〈糖尿病、高血圧症、ウツなど〉は、HPA機能の慢性的な変化と関係がある。

妊婦が未熟児を出産した時、未熟児の肺の発育を促すために糖質コルチコイドを摂取させる。しかし、糖質コルチコイドが未熟児の脳の発育にどのような影響を与えるかというデータがない。

また、一般的に妊婦には妊娠期間中、十分な栄養を与えないことが通例である。しかし、これらのことが胎児の脳および神経内分泌系の発育にどのような影響を与えるかというデータがない。

それで、糖質コルチコイドの投与、母体の栄養供給制限が胎児の神経内分泌の機能の発育にどのような影響を与えるかを研究している。

【不正発覚・調査の経緯】

スティーヴン・マシューズ(Stephen Matthews)。Photo by Dave Chan.出典

★突然

スティーヴン・マシューズ(Stephen Matthews)は、トロント大学(University of Toronto)医学部・教授で生理学科長として、研究論文を多く出版し、巨額の研究費を得て、順調に研究を進めていた。

2012年の年俸は$231,298カナダドル(約2,300万円)と、経済的にも申し分のない状況だった(年俸サイト)。

脇道です。

ナント、13年前、カナダのオンタリオ州の大学教員の年俸が公開されていた。オドロキです。

と思って、試しに探したら、現在も公開されていた。オドロキです。サイトは38万人の姓名・年俸・役職を公開していて、「Stephen Matthews」で検索すると、2024年の年俸は$311,400.48カナダドル(約3,114万円)と出た。

日本も公務員の年俸は全部公開すべき?

VJB

話を戻す。

2012年のある日、学術誌「Neuroscience & Biobehavioral Reviews」編集長のベリティー・ブラウン(Verity Brown、写真出典、英国のセント・アンドルーズ大学(St. Andrews universit)・教授)が、マシューズの7年前の「2005年4月のNeurosci Biobehav Rev」論文に研究ネカトがあると指摘した。

2012年10月、ブラウン編集長は、編集長権限で、マシューズの「2005年4月のNeurosci Biobehav Rev」論文を撤回すると決めた(正式な撤回は2013年3月)。

以下は「撤回済(RETRACTED)」と赤く刻印されたスティーヴン・マシューズ(Stephen Matthews)の「2005年4月のNeurosci Biobehav Rev」 論文(出典)。

? doi:10.1016/j.neubiorev.2004.10.004

撤回理由は、マシューズの「2005年4月のNeurosci Biobehav Rev」論文には、同じ著者によるそれ以前の5論文からの文章が流用されていた。つまり、自己盗用(self-plagiarism)という理由だ。

「Neurosci Biobehav Rev」編集部が、当時ようやく普及してきた盗用検出ソフトのアイセンティケイト(iThenticate)で学術誌「Neurosci Biobehav Rev」の過去の論文をチェックしていたのだ。

マシューズが流用した以前の5論文は以下の通りである(出典:Retraction notice to “Maternal adversity, glucocorticoids and programming of neuroendocrine function and behaviour” [Neurosci. Biobehav. Rev. 29 (2) (2005) 209-226])。

  1. Endocrine Research 30 (4), 2004, pp. 827?836, http://dx.doi.org/10.1081/ERC-200044091.
  2. Trends in Endocrinology and Metabolism 13 (9), 2002, pp. 373?380, http://dx.doi.org/10.1016/S1043-2760(02)00690-2.
  3. Stress 7 (1), 2004, pp. 15?27, http://dx.doi.org/10.1080/10253890310001650277.
  4. Fetal and Maternal Medicine Review 14 (4), 2003, pp. 329?354, http://dx.doi.org/10.1017/S0965539503001141.
  5. Endocrine Research 28 (4), 2002, pp. 709?718, http://dx.doi.org/10.1081/ERC-120016991

「Neurosci Biobehav Rev」誌は、論文投稿の条件の1つに、「研究成果はオリジナルで他のどこにも印刷発表されていないこと。論文内容に再使用がある場合、適切に引用し、引用句で示すこと」と投稿規定に記載していた。

それに違反したマシューズ論文を、「科学出版システムの重大な誤用である(severe abuse of the scientific publishing system)」と、ブラウン編集長は判定したのだ。

★トロント大学の見解・対処

マシューズはメディアの質問に対して、公式には何もコメントしていない。

31b28aaトロント大学のロイド・ラング(Lloyd Rang)広報部長(写真出典、2015年4月29日記事時点)がコメントしている。

「厳密な著作権の定義では科学出版物はすべてオリジナルであるべきだろうが、この論文は“総説(review)”である。自分の文章の再利用に、著作権をウンヌンするのはささいな言いがかりだ。編集部が盗用検出ソフトを導入したので、自己盗用が見つかり、機械的に処理したのだろう」と述べている。

ラングによると、「トロント大学は、この件を研究ネカト(research misconduct)として扱わない」そうだ。

ただ、2014年(49 歳?)、マシューズは生理学科長を辞任した

★カナダ助成機関と政府の見解・対処

マシューズは、カナダの大きな研究プロジェクト「胎児の発育にアルコールや薬物が与える影響」のメンバーだった。 その研究で、カナダ政府の研究助成機関であるカナダ健康研究所(Canadian Institutes of Health Research)(CIHR) やカナダ自然科学・工学研究機構(Natural Sciences and Engineering Research Council of Canada)(NSERC)から、1千万カナダドル(約10億円)という巨額の研究費を得ていた。

しかし、これらの研究助成機関は無言を保っている。

このような研究倫理事件を扱うカナダ政府の「責任ある研究実施事務局」(Secretariat on Responsible Conduct of Research)も公式には無言を保っている。

susan_zimmerman「責任ある研究実施事務局」長のスーザン・ツィンマーマン(Susan Zimmerman、写真出典同)は、記者の質問に応え、「私たちは、事態を検討中であるなどとコメントは致しません。もし検討中でもコメント致しません。但し、関心を持ってはいます」と述べている。

なお、カナダ政府の規則は、「自己盗用(self-plagiarism)は盗用で、政府の研究助成違反である」ということになっている。

「自己盗用(self-plagiarism)は、適切な原典引用や何らかの正当性なしに自分の過去の研究発表を同じ言語あるいは別の言語で使用して発表する行為である。ねつ造・改ざんほど深刻な研究不正ではないが、自己盗用(self-plagiarism)は、研究費獲得のためだけに科学論文の数を増し、論文の無用なインフレ化を招くので、研究不正である」(Tri-Agency Framework: Responsible Conduct of Research : The Interagency Advisory Panel on Responsible Conduct of Research (PRCR))。

【事件の深堀】

★自己盗用(self-plagiarism)は研究不正か?

ここでの根本的問題は、「自己盗用(self-plagiarism)は研究不正なのか?」ということだ。

日本では、この問題を検討し適切な基準を設けて十分に説明している組織(政府・大学・学会)がない。従って、文部科学省の規則にも言及がない。

文部科学省の規則(10ページ目)は、研究不正の盗用を「他の研究者のアイディア、・・・適切な表示なく流用すること。」と定義しているので、「自分の」を適切な表示なく流用しても、研究不正の盗用に当たらない。

ーー白楽の意見ーー

白楽は、状況によるが、自己盗用(self-plagiarism)はおおむね研究不正の盗用ではないと考える。この際、文部科学省の規則は異常な点がいくつもあるので、改正し、自己盗用についても、ちゃんと線引きすべきだと思う。

特に、“総説(review)”の場合は、過去の出版物のまとめなので、データはほぼすべて既出だ。となれば、学術上の文章はどう書いても酷似する。頻度にもよるが、再使用文章を何度も何度も引用符で囲うと読みにくい。全体の2割以下なら(数値は要精査)、文献を引用するだけで良い。

原著論文でも、論文の本質的な部分でなければ、文章を再使用しても問題ない。他人の論文の文章でも、文献を引用し、「材料・方法」「文献」をそのまま使用しても良いと思う。「序論」もかなり使用しても良いだろう。

自分の文章の再使用(自己盗用)がいけない学術的な理由を思いつかない。 自己盗用が規範違反という理由は、著作権違反ということになるが、これは、出版社の収入が減るという出版社の利権問題であって、研究公正とは次元が異なる。

自分で書いた文章を一定の範囲内で本人が再使用し、自己盗用しても、研究内容に間違いや誤解が生じることは一切ないので、学術システムが崩壊する危険はない。

いずれにせよ、学術界は議論し、ルールを決め、研究者や大学院生に周知させるべきである。 米国・研究公正局は、著者本人の過去の学術出版、論文、書籍に使ったアイデア・文章・図表・結果を著者本人が引用しないで自己盗用しても、「盗用」扱いにしていない。著者以外の人が引用しないで発表した時だけを盗用としている(Alan R. Price (2006). “Cases of Plagiarism Handled by the United States Office of Research Integrity 1992-2005”. Ann Arbor, MI: MPublishing, University of Michigan Library 1)。

米国の研究倫理学者のデイビッド・レスニック(David Resnik)は、「自己盗用は不誠実な行為だが、盗みではないと述べている(Resnik, David B. (1998). The Ethics of Science: an introduction, London: Routledge. p.177, notes to chapter six, note 3. Online via Google Books)。

白楽は、自己盗用を「不誠実な行為」とも思わない。新たな文章やデータを無駄に作る方がバカバカしいと思う。

何度も言うが、研究論文は、小説などの文芸作品とは異なり、重要なのは発表する研究結果の中身である。文章はそれを適切に伝えるための道具であって、オリジルかどうかはどうでもいい。芸術的な美しさはあっても良いが必須ではない。

ーー白楽の意見、ここまでーー

facultyPhoto2

米国・カリフォルニア大学のパメラ・サムエルソン(Pamela Samuelson、写真出典)教授は、知的財産を専門とし、盗用や自己盗用に関する法的、倫理的規制の権威である。

彼女は、1994年に、文書(論文など)が自己盗用されても許容される4条件を書いている(Samuelson, Pamela (August 1994). “Self-plagiarism or fair use?“. Communications of the ACM 37 (8): 21?5. doi:10.1145/179606.179731)。

  1. 新しい文書(論文など)の新しい成果は、先行文書(論文など)を土台にしていること。
  2. 新しい文書(論文など)の新しい証拠や議論のために先行文書(論文など)を再記述しなければならない場合。
  3. 新たな読者・聴衆は、以前、先行文書(論文など)で研究成果を伝えた読者・聴衆とは大きく異なり、同じ内容の研究成果を伝えても、重複しないこと。新たな読者・聴衆に伝えるためには、同じ内容の文書を別の場(学術誌など)で発表をしなければならない場合。
  4. 最初の文章がとても良く書けていて、次回の文書で、文章を大きく変える意味がない場合。

【ネカトの具体例】

★「2005年4月のNeurosci Biobehav Rev」論文

「2005年4月のNeurosci Biobehav Rev」論文の書誌情報を以下に示す。2013年3月に撤回された。。

撤回理由は自己盗用で、前節でその詳細を述べたので、ここに再掲しない。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2025年5月24日現在、パブメド(PubMed)で、スティーヴン・マシューズ(Stephen Matthews、Stephen G Matthews)の論文を「Stephen G Matthews[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2025年の24年間の164論文がヒットした。

2025年5月24日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題視した以下の「2005年4月のNeurosci Biobehav Rev」・1論文が2013年3月に撤回されていた。

★撤回監視データベース

2025年5月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでスティーヴン・マシューズ(Stephen Matthews、Stephen G Matthews)を「Stephen G Matthews」で検索すると「2005年4月のNeurosci Biobehav Rev」・1論文がヒットし、2013 年3月1日に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2025年5月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、スティーヴン・マシューズ(Stephen Matthews、Stephen G Matthews)の論文のコメントを「”Stephen G Matthews”」で検索すると、「2005年4月のNeurosci Biobehav Rev」・1論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》論文撤回で大学院生が被害者  Michigan Creative, Roger Hart

撤回された「2005年4月のNeurosci Biobehav Rev」論文の第一著者は、当時、院生だったドーソン・オーウェン(Dawn Owen、写真出典)である。第二著者のマーカス・アンドリュー(Marcus Andrews)はポスドクだった。 論文発表後7年経過して論文が撤回された。

この場合、彼女の博士号取得要件と何らかの関係が生じただろう。

第一著者のドーソン・オーウェン(Dawn Owen)の博士号は取り消されたのだろうか?

ーーー2015年4月29日掲載の記事では以下のようだ。ーーー

調べると、オーウェンは、2005年の第一著者の論文を発表後、2007年に大学院(combined MD/PhD programme)を終了し、医師免許と博士号を取得していた。

2015年4月18日現在、米国・ミシガン大学・助教授(Assistant Professor, Radiation Oncology, University of Michigan)である。博士号が取り消されたのかどうかハッキリわからないが、多分、取り消されていないだろう。実害は受けなかったようだ。

そもそも、トロント大学は、マシューズのこの件を研究ネカト(research misconduct)とみなしていなかった。

ーーーここまでーーー

2025年5月24日現在、オーウェンはメイヨー・クリニック(Mayo Clinic)に放射線腫瘍医師として勤務している。博士号は保持していて、実害はなかった(or 少なかった)ようだ。 → 【Dawn Owen, M.D., Ph.D. – Doctors and Medical Staff – Mayo Clinic

《2》優れた見識

スティーヴン・マシューズ(Stephen Matthews、Stephen G Matthews、写真出典は研究者だが、研究者に限らずすべての人は、理不尽と思える扱いを受けることが時々ある。

ベリティー・ブラウン編集長が、マシューズの「2005年4月のNeurosci Biobehav Rev」論文を、論文出版の7年後に、自己盗用(self-plagiarism)という理由で、撤回したのは理不尽に思える。

ただ、マシューズ事件で救われるのは、トロント大学、カナダの研究助成機関、カナダ政府の「責任ある研究実施事務局」の対応である。3者ともに、研究不正としなかった。

優れた見識を持つ人がいてよかったと思えるケースだ。

一方、振り返って、日本内科学会の学術誌「Internal Medicine」・編集室が盗用論文を撤回しないのも、理不尽に思える。理不尽どころか、オドロキかつガッカリしている。

学術誌「Internal Medicine」編集室(日本内科学会)

盗用と指摘したのに、盗用論文を取り下げず、逐語盗用(verbal plagiarism)を言い換え盗用(paraphrase plagiarism)に変えた盗用論文を掲載し続けている。

学術誌・編集室に抗議しても、学術誌は盗用論文を掲載したままで対処しない。日本の学術界、大丈夫なのだろうか?

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】

① 2012年10月23日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Duplication forces retraction of paper on effects of prenatal environment on behavior – Retraction Watch at Retraction Watch
② ◎2012年10月25日、アレックス・ベリンガル(Alex Ballingall)の「Toronto Star」記事:University of Toronto professor accused of ‘self-plagiarism’ in seven-year-old research paper | Toronto Star
③ 2012年10月31日のジョナサン・ベイリー(Jonathan Bailey)の「Plagiarism Blog」記事:The Question of Self-Plagiarism in Research
④ ◎2012年10月23日のマーガレット・マンロ(Margaret Munro)の「POSTMEDIA NEWS」記事:University of Toronto researcher censured for ‘self-plagiarism’ | Margaret Munro