ロバート・トレイシー(Robert B. Tracy)(米)

2019年2月17日掲載

ワンポイント:17年前の2002年5月30日、研究公正局は、南カリフォルニア大学ケック医科大学院(University of Southern California Keck School of Medicine)・ポスドクのトレイシー(32歳?)が、データを改ざんしたと発表した。カリフォルニア大学デイビス校(University of California, Davis)・院生時代にもデータを改ざんしていた。4年間の締め出し処分を科した。国民の損害額(推定)は3億9,900万円。

ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説

5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
ーーーーーーー

●1.【概略】

ロバート・トレイシー(Robert B. Tracy、写真)は、カリフォルニア大学デイビス校(University of California, Davis)で研究博士号(PhD)を取得後、1997年(27歳?)、南カリフォルニア大学ケック医科大学院(University of Southern California Keck School of Medicine)・ポスドクになった。医師ではない。専門は微生物学である。

2002年5月30日(32歳?)、研究公正局は、カリフォルニア大学デイビス校の院生時代、および、南カリフォルニア大学ケック医科大学院のポスドク時代に、トレイシーがデータ改ざんを行なったと発表し、2002年5月1日から4年間の締め出し処分を科した。

南カリフォルニア大学ケック医科大学院(Keck School of Medicine of the University of Southern California)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:カリフォルニア大学デイビス校
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。1997年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • 現在の年齢:49 歳?
  • 分野:微生物学
  • 最初の不正:1996年(26歳?)
  • 発覚年:2000年(30歳?)
  • 発覚時地位:米国の南カリフォルニア大学ケック医科大学院・ポスドク
  • ステップ1(発覚):研究室のボスであるマイケル・リーバー教授(Michael R. Lieber)が見つけた(推定)。
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①南カリフォルニア大学ケック医科大学院・調査委員会。②カリフォルニア大学デイビス校・調査委員会。③研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:改ざん
  • 不正数:3件。2論文撤回
  • 時期:研究キャリアの初期
  • 職:事件後に研究職をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:NIHから4年間の締め出し処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億9,900万円。内訳 ↓

  • ①研究者になるまで5千万円。損害額は5千万円。
  • ②大学・研究機関が研究者にかけた経費(給与・学内研究費・施設費など)は年間4500万円。ポスドク期間を2年間として損害額は9000万円。
  • ③外部研究費。研究成果の改ざんだが、該当するNIHグラントの助成額は約4,644万円+約6,751万円=約1億1千万円だった。損害額は1億1千万円。
  • ④調査経費。第一次追及者の調査費用は100万円。大学・研究機関の調査費用は1件1,200万円が2件なので2,400万円、研究公正局など公的機関は1件200万円、学術出版局は1つの学術誌あたり100万円で2つの学術誌なので200万円。小計で2,900万円
  • ⑤裁判経費は2千万円。裁判はなかったので損害額は0円。
  • ⑥論文撤回は1報当たり1,000万円、共著者がいなければ100万円。共著者がいる撤回論文は2報なので損害額は2,000万円。
  • ⑦アカハラ・セクハラではない。損害額は0円。
  • ⑧研究者の時間の無駄と意欲削減+国民の学術界への不信感の増大は1億円。
  • ⑨健康被害:損害額は0円とした。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。1997年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • xxxx年(xx歳?):カリフォルニア州立大学(California State University)卒業:生物学
  • 1997年(27歳?):米国のカリフォルニア大学デイビス校(University of California, Davis)で研究博士号(PhD)を取得:微生物学。博士論文タイトル「Biochemical investigation of the preferential binding and homologous pairing of GT-rich sequences by the Escherichia coli RecA protein and the Saccharomyces cerevisiae Rad51 protein」
  • 1998年(28歳?):米国の南カリフォルニア大学ケック医科大学院(University of Southern California Keck School of Medicine)・ポスドク
  • 1998年(28歳?):米国微生物学会から優秀博士論文賞を授与された:Nat L. Sternberg Thesis Prize (American Society for icrobiology) http://sternbergaward.hms.harvard.edu/recipients.html
  • 2000年(30歳?):ネカトが発覚
  • 2002年5月30日(32歳?):研究公正局がネカトでクロと発表。締め出し期間は2002年5月1日から4年間

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★優秀な院生・ポスドク

ロバート・トレイシー(Robert B. Tracy)は、カリフォルニア大学デイビス校(University of California, Davis)のスティーブン・コワルチコフスキ教授(Stephen C. Kowalczykowski、上の写真)の研究室で4論文を出版し、1997年(27歳?)に研究博士号(PhD)を取得した。

この博士論文で翌1998年、米国微生物学会から優秀博士論文賞を授与されている:Nat L. Sternberg Thesis Prize (American Society for icrobiology)http://sternbergaward.hms.harvard.edu/recipients.html

1998年(28歳?)、南カリフォルニア大学ケック医科大学院(University of Southern California Keck School of Medicine)・病理学のマイケル・リーバー教授(Michael R. Lieber、写真出典)研究室のポスドクになった。

ポスドクになって2年間、論文出版がなかったが、「2000年のEMBO J」論文と「2000年のScience」論文を続けて出版した。すぐに、この2論文のデータ改ざんが発覚した。

★研究公正局

ロバート・トレイシー(Robert B. Tracy)http://microbiology.ucdavis.edu/kowalczykowski/tracy,.htm

ロバート・トレイシー(Robert B. Tracy)は、院生の時、損傷DNAの酵素による修復するメカニズムを研究していた。ポスドクの時は、Bリンパ球が免疫グロブリンのクラスを切り替えるメカニズムを研究していた。

不正発覚の経緯は不明である。しかし、時系列とネカト内容から判断して、南カリフォルニア大学ケック医科大学院のマイケル・リーバー研究室の同僚またはマイケル・リーバー教授自身が見つけたと思われる。本記事では後者としておく。

南カリフォルニア大学ケック医科大学院は調査し、トレイシーのネカトがはっきりした段階で、トレイシーが院生として過ごしたカリフォルニア大学デイビス校に伝えた、と思われる。カリフォルニア大学デイビス校は研究成果と博士論文を調査した。

その後、調査結果を研究公正局に伝え、研究公正局が独自調査を加えた。

2002年5月30日(32歳?)、研究公正局は、ロバート・トレイシー(Robert B. Tracy)がデータを改ざんしたと発表し、2002年5月1日から4年間の締め出し処分を科した。

★院生時代

(1)1996年と1997年、トレイシーはカリフォルニア大学デイビス校・院生で博士論文に取り組んでいた。その研究は、NIH・国立アレルギー・感染症研究所 (NIAID; National Institute of Allergy and Infectious Diseases)のグラント「R01 AI18987:” Mechanistic studies of genetic recombination (遺伝子組換えのメカニズム)”」の助成を受けていた。1996年と1997年の2年間の助成額は464,418ドル(約4,644万円)だった。

以下の図をクリックすると図は大きくなります。2段階です。本ブログの図表は基本的に全部拡大できます。

そして、トレイシーは彼の博士論文の図6.2を改ざんした。元の実験データではバンドが薄かったのを濃いバンドに改ざんした。改ざんされた画像は論文には出版されていない。

なお、トレイシーの博士号がはく奪されたのかどうか、白楽は情報を得ていない。博士論文がネカトなら、通常、博士号ははく奪される。

★ポスドク時代

(2) 1998年から2000年、トレイシーは南カリフォルニア大学ケック医科大学院(University of Southern California Keck School of Medicine)・ポスドクだった。その研究は、NIHの国立一般医科学研究所 (NIGMS; National Institute of General Medical Sciences)のグラント「1 R01 GM56984:” Mechanism of DNA recombination at class switch sequences(免疫グロブリンのクラスを切り替える時の組換えメカニズム)”」の助成を受けていた。1998年から2000年の3年間の助成額は675,124ドル(約6,751万円)だった。

★改ざんの具体例:「2000年のScience」論文

トレーシーは「2000年のScience」論文の表1の補足データの値を改ざんした。論文はScience誌購読者ならアクセスできるが、そうでなければ有料である(白楽は閲覧していない)。
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/288/5468/1058
http://www.sciencemag.org/features/data/1049221.shl

この論文の表1は、トランスジェニックマウスのリンパ球のリボヌクレアーゼH値を対照マウスと比較した時、有意に低いアイソトープ値だったことを示していた。しかし、実際のデータでは、有意の差がなかった。

図2と図4も改ざんデータだった。閲覧は有料なので図を示さない。

★改ざんの具体例:「2000年のEMBO J」論文

以下の「2000年のEMBO J」論文でも図4と図7が改ざんされた。

この「2000年のEMBO J」論文は無料閲覧できるので図4と図7を以下に示す。

図4

図7

図4と図7の両図とも、トレーシーは、PhotoShopを使って、ゲルのバンドを垂直に動かし、分子サイズを改ざんし、論文に記載した。

2000年5月、さらに、「2000年のEMBO J」論文と「2000年のScience」論文で改ざんしたデータを、NIHグラント「5 R01 56984-03」の経過報告書に記載し提出した。

★14年後の別の事件

当時、ポスドクだったロバート・トレイシー(Robert B. Tracy)は、2002年(32歳?)に研究公正局からクロ判定を受け、4年間の締め出し処分を科された。それで、研究者を続けられなかった。

それから14年後の2016年、同姓同名のロバート・トレイシー(Robert B. Tracy)は(別人かどうか不明だが、同じ人なら46歳?)、米国・司法省を相手に裁判をおこしている。以下に示すが、研究とは無関係である。

以下の文書をクリックすると、PDFファイル(216 KB、21ページ)が別窓で開く。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2019年2月16日現在、パブメド(PubMed)で、ロバート・トレイシー(Robert B. Tracy)の論文を「Robert B. Tracy [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、0論文がヒットした。

「Tracy RB[Author]」で検索すると、1996~2000年の5年間の7論文がヒットした。1論文は、撤回公告である。

2019年2月16日現在、「Tracy RB[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。

  1. Stable RNA/DNA hybrids in the mammalian genome: inducible intermediates in immunoglobulin class switch recombination.
    Tracy RB, Hsieh CL, Lieber MR.
    Science. 2000 May 12;288(5468):1058-61. Retraction in: Tracy RB, Hsieh CL, Lieber MR. Science. 2000 Aug 18;289(5482):1141
  2. Transcription-dependent R-loop formation at mammalian class switch sequences.
    Tracy RB, Lieber MR.
    EMBO J. 2000 Mar 1;19(5):1055-67. Retraction in: Lieber M. EMBO J. 2001 Sep 1;19(17):4855.

Science誌は「2000年のScience」論文の撤回を公告をした。
→ 2000: 年8月18日記事:Retraction | Science

★パブピア(PubPeer)

省略

●7.【白楽の感想】

《1》特徴

トレイシーはどのような状況でネカトをしたのか、わからない。

しかし、画像のねつ造・改ざんでよく使用されるPhotoShopを使った事件である。この手のねつ造・改ざんの初期の事件と思われる。

米国の白人研究者がネカトでクロとなるケースは少数である。米国の研究者というと、白人を想像してしまうかもしれないが、米国のネカト者の大半は白人ではない。割合を調べていないが、2割いるかどうかだろう。

ーーーーーー
日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓

ーーーーーー

●8.【主要情報源】

① 2002年5月30日、研究公正局の発表:Findings of Scientific Misconduct
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

http://lieber.usc.edu/pics.aspx?f=1997-2004

●コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

コメントは承認待ちです。表示されるまでしばらく時間がかかるかもしれません。