ジェラルド・リースマン(Gerald Leisman)、ジェリー・リースマン(Gerry Leisman)(米)

2020年9月18日掲載

ワンポイント:研究公正局が経歴詐称でクロとした珍しい事件。タイトルの2人は同一人物。1994年12月15日(34歳?)、研究公正局は、イスラエル生まれで、ニューヨーク・カイロプラクティック・カレッジ(New York Chiropractic College)・研究部長だったリースマンが、1988年12月29日(28歳?)申請の1件の研究費申請書(T32 AR07564-01A1)で、経歴詐称していたと発表した。①医師免許(M.D.)取得、②ハーバード大学医科大学院・教授、③特許の発明、の3件がウソだった。また、研究公正局のクロ判定とは別に、2報の論文が盗用で撤回された。なお、1994年、クロ判定に伴い、リースマンは名前の「Gerald」 を「Gerry」に変えた。クロ判定後、活発に論文を出版した数少ない研究者の1人でもある。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

【追記】
・2023年12月14日記事:Work of autism researcher questioned again | The Transmitter: Neuroscience News and Perspectives

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ジェラルド・リースマン(Gerald Leisman、ジェリー・リースマン、Gerry Leisman、ORCID iD:、写真出典)は、ニューヨーク・カイロプラクティック・カレッジ(New York Chiropractic College)の研究部長だった。医師ではない。専門は神経科学(小児の神経行動障害)である。

日本語に翻訳されていないが、著書は『小児期の神経行動障害(Neurobehavioral Disorders of Childhood)』(2010年)、『ムーブメント2019:脳、身体、認知(Movement 2019: Brain, Body and Cognition)』(2020年)など4冊もある(本の表紙出典はアマゾン)。

1994年12月15日(34歳?)、研究公正局はリースマンが1988年12月29日(28歳?)申請の1件の研究費申請書(T32 AR07564-01A1)で経歴詐称していたと発表した。①医師免許(M.D.)取得、②ハーバード大学医科大学院・教授、③特許の発明、の3件がウソだった。

1994年11月28日(34歳?)から3年間の締め出し処分を科した。3年間の締め出し処分は普通の処分である。

研究費申請書でのネカト発覚なので、研究費審査員が経歴詐称を見つけたと思われる。

ニューヨーク・カイロプラクティック・カレッジ(New York Chiropractic College)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:英国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:米国のユニオン大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1960年1月1日生まれとする。1968年に大学に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:64 歳?
  • 分野:神経科学
  • 最初の不正:1988年(28歳?)
  • 不正:1988-2003年(28-43歳?)の15年間
  • 発覚年:1989年(29歳?)?
  • 発覚時地位:ニューヨーク・カイロプラクティック・カレッジ・研究部長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
  • ステップ2(メディア):マルコ・ボナフェデ(Marco Bonafede)のブログ
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①研究公正局(経歴詐称)。②学術誌(盗用)
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局がクロ判定(〇)
  • 不正:経歴詐称、盗用
  • 不正数:1件の研究費申請書。2報の盗用論文が撤回
  • 時期:研究キャリアの初期
  • 職:事件後に移籍し研究職を続けた(◒)
  • 処分: NIHから 3年間の締め出し処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

経歴詐称者の経歴は何が正しいのか分からない。以下そのつもりで見てください。
主な出典:①: researchgate: Gerry LEISMAN 、②:revns20120067.inddの最後頁の著者紹介。

  • 生年月日:不明。イスラエルで生まれた。仮に1960年1月1日生まれとする。1968年に大学入学した時を18歳とした
  • 1968 – 1972年(18 – 22歳?):英国のマンチェスター大学(University of Manchester Faculty of Medicine)で学ぶ:神経科学
  • 1973 – 1979年(23 – 29歳?):米国のユニオン大学(Union University)で研究博士号(PhD)を取得:神経科学
  • 19xx年 – xxxx年(xx – xx歳?):ニューヨーク・カイロプラクティック・カレッジ(New York Chiropractic College)・研究部長
  • 1989年(29歳?)?:不正研究が発覚(推定)
  • 1994年12月15日(34歳?):研究公正局がネカトと発表
  • 1995年6月 – 2000年(35  – 40歳?):米国のトウロ・カレッジ(Touro College)・教授(?)
  • 2002年3・4月(42歳?):米国のレンセラー工科大学( Rensselaer Polytechnic Institute)・教授(?)
  • 2005年9月 – 現(45歳? –):イスラエルのハイファ大学(University of Haifa)・教授
  • 2011年1月 – 現(51歳? –):キューバのシエンシアス・メディカス・デ・ハバナ大学(Universidad de Ciencias Médicas de La Habana)・教授

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
2016年11月の講演動画:「Dr Gerry Leisman – YouTube」(英語)1時間26分38秒。
Dental and Oral Health 2014が2015/08/21に公開

【動画2】
「Gerry Leisman」を「ジェリー・リースマン」と紹介している。
インタビュー動画:「Gerry Leisman Young and Old Brains – YouTube」(英語)1時間16分04秒。
Gerry Leismanが2020/07/16に公開

 

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★経歴詐称

ジェラルド・リースマン(Gerald Leisman)は米国のニューヨーク・カイロプラクティック・カレッジ(New York Chiropractic College)・研究部長だった。

1994年12月15日(34歳?)、発覚から6年後(遅いですね)、研究公正局はリースマンが1988年12月29日(28歳?)申請の1件の研究費申請書(T32 AR07564-01A1)で経歴詐称していたと発表した。グラントの種類が「T32」なので、トレーニングの研究費・「Ruth L. Kirschstein Institutional National Research Service Award 」で、「AR」なので「国立関節炎・骨格筋・皮膚疾患研究所(NIAMS; National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseases)」所管のグラントだ。

研究費申請書でのネカト発覚なので、研究費審査員が経歴詐称を見つけたと思われる。不正発見時期は、研究費審査中なら1989年(29歳?)と思われる。研究公正局が不正と発表する少し前なら1994年(34歳?)だろう。ここでは、前者の1989年(29歳?)発覚とした。

1994年11月28日(34歳?)から3年間の締め出し処分を科した。3年間の締め出し処分は普通の処分である。

経歴詐称は以下の3点である。

  1. 1972年に英国のマンチェスター大学で医師免許(M.D.)取得
  2. 1982年6月-1987年1月、ハーバード大学医科大学院(Harvard University Medical School)の神経学・生物医学工学(Neurology and Biomedical Engineering)の教授
  3. 13件の米国特許の発明者または共同発明者

なんか、簡単に発覚しそうな経歴詐称である。

★盗用

研究公正局は指摘していないが、リースマンは2報の論文盗用が発覚し、撤回されている。
 → 2018年2月のマルコ・ボナフェデ(Marco Bonafede、写真出典)のブログ:Cinema e romanzi: Gerry Leisman likes fraud

「1990年9月のInt J Neurosci.」論文が1993年に盗用で、「2003年2月のInt J Neurosci」論文が2009年に盗用で撤回された。

【盗用の具体例】

研究公正局の発表は盗用について触れていないが、「1990年9月のInt J Neurosci.」論文が1993年に盗用で、「2003年2月のInt J Neurosci」論文が2009年に盗用で撤回された。

★「2003年2月のInt J Neurosci」論文

「2003年2月のInt J Neurosci」論文の書誌情報を以下に示す。2009年に盗用で撤回されている。

24ページの論文のほぼ全部、逐語盗用である。以下にページ185を示す。盗用文字を赤字で示した。ほぼ全部、逐語盗用である。出典:http://marcobonafede.blogspot.com/p/copied-article.html

★「1990年9月のInt J Neurosci.」論文

「1990年9月のInt J Neurosci.」論文が1993年に盗用で撤回された。

以下の撤回公告には、ウェルナー・ゴールドスミス (Werner Goldsmith)の1972年の論文を逐語盗用した論文だったとある。 → 1993年の撤回公告:Note from the Editor: International Journal of Neuroscience: Vol 73, No 3-4

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2020年9月17日現在、パブメド(PubMed)で、ジェラルド・リースマン(Gerald Leisman)の論文を「Gerald Leisman [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002年の1論文がヒットした。

単著で、所属は米国のレンセラー工科大学( Rensselaer Polytechnic Institute)で特記するほどのことはない。しかし、著者連絡先が「drgersh@yahoo.com」と「Yahoo!メール」を使っている。これでは信用度が落ちるだろう。

新しい名前の「Gerry Leisman[Author]」でパブメド(PubMed)を検索すると、2002~2020年の19年間の48論文がヒットした。

「Leisman G」で検索すると、1971~2020年の50年間の99論文がヒットした。

2020年9月17日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。

「1990年9月のInt J Neurosci.」論文が1993年に盗用で、「2003年2月のInt J Neurosci」論文が2009年に盗用で撤回されていた。

★撤回監視データベース

2020年9月17日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでジェラルド・リースマン(Gerald Leisman)を「Leisman」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、2論文が撤回されていた。

上記と同じで、「1990年9月のInt J Neurosci.」論文が1993年に盗用で、「2003年2月のInt J Neurosci」論文が2009年に盗用で撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2020年9月17日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジェラルド・リースマン(Gerald Leisman)の論文のコメントを「Leisman」で検索すると、「2015年のJournal of Autism and Developmental Disorders」論文・1論文にコメントがあった。統計値が異常だというコメントである。

●7.【白楽の感想】

《1》不思議な点 

ジェリー・リースマン(Gerry Leisman、写真出典)の事件は、いくつも不思議な点がある。

不思議の1。
1988年12月29日(28歳?)申請の研究費申請書(T32 AR07564-01A1)の経歴詐称がどうして、6年後の1994年12月15日(34歳?)に研究公正局がクロと公表したのか? 

研究費申請書でのネカト発覚なので、研究費審査員が経歴詐称を見つけたと思われる。不正発見時期は、研究費審査中なら1989年(29歳?)と思われるが、研究公正局が不正と発表する少し前なら1994年(34歳?)だろう。前者ならこの研究費申請書は採択されていない、後者なら採択されたと思うが、採否はどうだったのだろうか? いずれにしても、6年間も間があるのは異常である。

不思議の2。
研究公正局は指摘していないが、リースマンは2報の盗用論文が撤回されている。つまり、「1990年9月のInt J Neurosci.」論文が1993年に、「2003年2月のInt J Neurosci」論文が2009年に盗用で撤回されている。

最初の盗用論文は、研究公正局が経歴詐称の調査期間内である。研究公正局のネカト報告書では盗用に触れていないが、盗用を知っていたのだろうか? それなら、どうして盗用を指摘しないのだ。

不思議の3。
2件の論文盗用に関して、所属機関はネカト調査した気配がない。従って、処罰した気配はない。調査すれば、他にも盗用論文が見つかるのだろうか?

不思議の4。
1994年、リースマンは名前の「Gerald」 を「Gerry」に変えた。研究者が名前を変えるのは結婚・離婚の時くらいで、珍しい。白楽が推察するに、研究公正局からクロ判定され、その過去と切り離すためだと思われる。白楽は、同一人物だと認定したが、これで、公式には別人だと主張できるのだろうか? → 2019年11月7日のマルコ・ボナフェデ(Marco Bonafede)のブログ:Cinema e romanzi: Gerry Leisman likes fraud

不思議の5。
研究公正局がクロと公表した後、多くの研究者は研究者として生き残れない。 → 研究ネカト者が研究を続けた | 白楽の研究者倫理

リースマンはクロ判定後、活発に論文を出版した数少ない研究者の1人である。 →2014年8月14日の論文:Andrew M Stern, Arturo Casadevall, R Grant Steen, Ferric C Fang: Research: Financial costs and personal consequences of research misconduct resulting in retracted publications | eLife

どうして、それが可能だったのか、白楽は掴めなかった。

《2》経歴詐称、今は? 

研究公正局が経歴詐称でクロとした事件は珍しい。1994年に3件摘発し、1995年に1件摘発した。それ以前・以降には摘発していない。

研究公正局 は、1995年以降、2020年の現在まで、ネカトの対象から経歴詐称を除外したのだろうか?

除外したとすれば、なぜ除外したのか?

研究者の経歴詐称は、日本も多いと思うが、米国でも多いだろう。調査すれば、たくさんの不正者が摘発されると思う。しかし、それが除外した理由なのだろうか?

研究公正局は多忙すぎて、長い間、現在も(多分)、全ネカトを調査できていない。盗用をほとんど摘発しないのも、ネカトと承知しながら、危険度が低いから調査していないと思われる。つまり、トリアージ方針を採用している。しかし、不正の対処にトリアージ方針はマズい。でも、調査できない。あ~困った。ジレンマ。

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●9.【主要情報源】

①  研究公正局の報告:(1)1994年12月23日:NIH Guide: FINDINGS OF SCIENTIFIC MISCONDUCT。(2)1995年3月の研究公正局ニュースレター、4-5頁:ORI Newsletter Volume 3, No 2, March 1995 。(3)1994年12月15日の連邦官報:Federal Register, Volume 59 Issue 240 (Thursday, December 15, 1994)
② 2018年2月のマルコ・ボナフェデ(Marco Bonafede)のブログ:Cinema e romanzi: Gerry Leisman likes fraud
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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