コンピューター工学:ジン・チェン、陈进(Jin Chen)(中国)

2019年10月24日掲載 

ワンポイント:2003年(34歳)、チェンは、中国国産のマイクロチップを中国で最初に作った中国のスーパーヒーロー科学者である。その功績で、30代で上海交通大学(Shanghai Jiao Tong University)・学部長になったが、2006年(37歳)、ねつ造が発覚した。モトローラ社製のチップからモトローラの名前を削り取り、「汉芯一号(はんしん、漢新1号、Hanxin Ⅰ)」に置き換えていただけという単純なねつ造だった。大学から解雇され、研究界から永久追放された。この事件で誰も刑事処分を受けていない。ところが、なんと、チェンは、2019年10月現在、大金持ちで再帰しそうだという。国民の損害額(推定)は200億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ジン・チェン、(Jin Chen、陈进、ORCID iD:、写真出典)は、30代で上海交通大学(Shanghai Jiao Tong University)・教授・学部長になった中国のスーパーヒーロー科学者だった。専門はコンピューター工学(マイクロチップ製造)だった。

2003年(34歳)、チェンは、中国国産のマイクロチップ「汉芯一号(はんしん、漢新1号、Hanxin Ⅰ)」を中国で最初に作った。その功績で、30代で上海交通大学(Shanghai Jiao Tong University)・学部長になった中国のスーパーヒーロー科学者である。

2006年(37歳)、不正が発覚した。モトローラ社製のチップからモトローラの名前を削り取り、それを「汉芯一号(はんしん、漢新1号、Hanxin Ⅰ)」に置き換えていただけという単純な不正だった。大学から解雇され、研究界から永久追放された。

この事件は中国では有名で、「漢新(はんしん)事件(Hanxin Incident)(中国語で汉芯事件)」と呼ばれている。

上海交通大学(Shanghai Jiao Tong University)。写真出典

  • 成長国:中国
  • 研究博士号(PhD)取得:米国のテキサス大学オースティン校
  • 男女:男性
  • 生年月日:1968年。仮に1969年1月1日生まれとする。中国の福建省沿岸に双子として生まれた
  • 現在の年齢:55歳?
  • 分野:コンピューター工学
  • 最初の不正製品発表:2003年(34歳)
  • 発覚年:2006年(37歳)
  • 発覚時地位:上海交通大学・教授・学部長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は「内部告発者」でチョウツウ・ファン(方舟子、Zhouzi Fang)。ウェブの掲示板にアップ
  • ステップ2(メディア): 「New York Times」、多くの中国メディア
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①上海交通大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
  • 不正:製品のねつ造
  • 不正数:
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分: 大学から解雇。研究界から永久追放
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は200億円(大雑把)。上海交通大学と大学関係者に約165億円の損害を与えた。それに35億円を足した。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:1968年。仮に1969年1月1日生まれとする。中国の福建省沿岸に双子として生まれた
  • 1991年(22歳):中国の同済大学(Tongji University、どうさいだいがく)で学士号取得:化学
  • 1998年(29歳):米国のテキサス大学オースティン校(University of Texas at Austin)で研究博士号(PhD)を取得。指導教授はジェイコブ・アブラハム(Jacob A. Abraham)
  • 2000年(31歳):中国に帰国
  • 200x年(3x歳):上海交通大学(Shanghai Jiao Tong University)・教授
  • 2003年(34歳):マイクロチップ設計で大発明。上海交通大学・学部長に指名
  • 2006年(37歳):不正が発覚
  • 2006年(37歳):上海交通大学を解雇、犯罪捜査。中国政府による研究界永久追放

●4.【日本語の解説】

★2011年06月20日:EE Times Japan(翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan): 台頭する中国のファブレス企業、今後は選別が始まる

出典 → ココ、(保存版

中国の半導体業界は、かつて不祥事を起こした中国人エンジニアであるチェン・ジン(Chen Jin)氏の時代から、大きな変化を遂げた。上海交通大学の教授でもあった同氏は、中国政府から資金提供を受け、2003年に国内初となるDSP「Hanxin 1」を開発したと発表したが、その後2006年に、それが詐欺だったことが明らかになり、中国内の業界をひどく驚かせた人物だ。同氏の開発チームは、Motorolaの試作チップの商標を剥がしてHanxinのラベルにすり替えただけだったのだ。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★大発明

当時、中国は国産の優れた科学技術を渇望していた。中国では国産のコンピューター・チップの開発製造が何もない真空地帯だった。

米国で研究博士号(PhD)を取得し、中国に帰国したチェンは、中国で恵まれた待遇を受け、上海交通大学(Shanghai Jiao Tong University)・教授に就任していた。

2003年2月26日(33歳)、チェンは、記者会見を開き、中国の最初のデジタル信号処理・マイクロチップ「漢新1号(汉芯一号、Hanxin Ⅰ)」を作ったと発表した。そのマイクロチップは、携帯電話、カメラ、その他の電子デバイスのデジタル化されたデータを処理できる洗練されたマイクロチップだと発表した。

いくつかの点で、性能は類似の外国製品よりも優れていた。チェンは、多数の特許を申請し、1億元(約15億円)を超える高額の研究資金と補助金を獲得した。

チェンは、上海交通大学から長江奨学生として特別に任命され、マイクロエレクトロニクス研究所の学部長に昇進した。さらに、上海シリコン知的財産取引センターのCEOになり、上海のハンシン技術社(Hanxin Technology Co.、Ltd)の社長になった。

写真出典

2004年(34歳)、チェンは、「漢新2号(汉芯二号、Hanxin II)」、さらに、「漢新3号(汉芯三号、Hanxin III)」の作成に成功したと発表した。

このような画期的な発明で、チェンは、科学技術における中国と欧米先進国との巨大なギャップを埋める天才的科学者と思われた。

それで、チェンは、一躍、中国の国民的ヒーローになった。当時、チェンの活躍は欧米ではほとんど報道されず、日本のメディアも報道していなかったので、読者の皆さんもほとんど知らなかったと思う。印象として、韓国のネカト・クローン研究者のウソク・ファン(黄禹錫)レベルの国民的ヒーローだったようだ。

温家宝・首相(おん かほう、Wen Jiabao、ウェン・チアパオ)もチェンの研究室を訪問している。

多数の賞が授与され、膨大な研究費を得て、100人を超える研究員がチェンの研究室で研究していた。

2006年5月12日(37歳)、しかし、上海交通大学と中国政府はチェンのマイクロチップ大発明はウソだったと発表した。

★不正

2006年1月16日(37歳)、内部告発者が清華大学のインターネットの掲示板「水夢清華」に「Hanxin Black Curtain《汉芯黑幕》」(以下画像出典https://m.cnbeta.com/view/820649.htm)を掲載し、チェンのマイクロチップ発明はウソだと暴露した。

2006年1月28日(37歳)、上海交通大学の要請を受け、科学技術省、教育省、上海市政府は専門家の調査チームを立ち上げ、調査を開始した。

チップ1〜4の「Hanxin」シリーズに関するコンテンツの報告、内部告発者、関係者および関係者へのインタビュー、技術文書のオンサイト検査、関連技術資料の分析と比較、チップ・デモンストレーションの検査、関連する視聴覚資料へのアクセスなど 設計プロセスとパフォーマンスを徹底的に調査した。

1か月後の2006年2月18日(37歳)、調査チームは、マイクロチップ・「ハンシン(Hanxin)Ⅰ」は偽造品だったと結論した。(出典:汉芯事件_百度百科

2006年5月12日(37歳)、上海交通大学と中国政府はチェンのマイクロチップ大発明はウソだったと公式に発表した。上海交通大学はチェン教授・学部長を解雇し、すべての特権を剥奪した。

【ねつ造・改ざんの具体例】

2003年2月26日(33歳)、チェンは、記者会見を開き、中国の最初のマイクロチップ「漢新1号(汉芯一号、Hanxin Ⅰ)」を作ったと発表した。ここが事件の発端である。

少し時計を巻き戻そう。

2002年(32歳)、チェンは2年前に滞在していた米国に行き、モトローラの元同僚にモトローラチップのソースコードをダウンロードするよう依頼した。チェンはそのソースコードを使って「漢新1号」を作成した。

しかし、このチップはコアが正しくないため、実際のシステムでは使用できない。記者会見は差し迫っていた。記者会見場では、チップのデモンストレーションが必須である。それで、必死になったチェンは米国の弟にモトローラ社のチップFreescale 56800を10個、買って送ってくれと依頼した。

送ってもらったチップを、チェンは出稼ぎ労働者を使って加工した。つまり、モトローラ社製のチップからモトローラの名前を削り取らせ、それをハンシン(Hanxin)に置き換えさせた。そのようにして、Hanxinのロゴが付いた”素晴らしい”「Hanxin No. 1」が誕生した!

写真出典

「Hanxin Black Curtain《汉芯黑幕》」を投稿した「内部告発者」は「Hanxin 1」開発チームの4人のうちの1人のチョウツウ・ファン(方舟子、Zhouzi Fang)だと言われている。

チョウツウ・ファンはチップが盗用だとどのように気付いたか?

チップの研磨を担当する会社(上海ハンジ装飾エンジニアリング社)は自分たちが「栄光のイベント」に貢献したと会社のウェブサイトに公開していた。チョウツウ・ファンはそれを見て、ヘンだなと思い始めた。

実はこの上海ハンジ装飾エンジニアリング社は、テクノロジー会社ではなく、オフィスを飾る装飾会社だった。

上海ハンジ装飾エンジニアリング社の公式ウェブサイトに、「チェンのチップおよび研究センターの改装を行ないました」と述べていたので、チョウツウ・ファンは、建物の改装だけでなく、チップも改装されたことに思い当たった。

モトローラ社のロゴや単語を削って「ハンシン(Hanxin)」という単語を貼り付けても、チップの表面を滑らかにきれいにする必要がある。その仕事を上海ハンジ装飾エンジニアリング社が行なったのだ。

こんな単純なねつ造(盗用?)を、2003-2005年の3年間、チェンは100人以上の研究員をどのように騙し通せたのか? そして、彼のチームがどのように政府、産業界の専門家を騙し通せたのか? 公表された記事を読む限り、白楽はよくわからなかった。

【事件のその後】

http://www.sohu.com/a/301697182_505837

2019年の記事(【主要情報源】⑦)によると以下のようだ。

チェンは、上海交通大学を解雇され、中国政府によって研究界を永久追放された。

チェンは「漢新1号」に1億元(約15億円)以上の研究開発費を使ったが、この事件で中国のチップ開発計画は計り知れないほどの大きな損失を被った。例えば、上海交通大学と大学関係者はハンシン・プロジェクトで11億元(約165億円)の損失を出した。

ハンシン・プロジェクトの責任を負う海外企業は、チェンが米国に登録した革製バッグ会社だと言われている。上海交通大学が払ったお金は、米国の革製バッグ会社を迂回してチェンのポケットに入った。そのお金でチェンは彼の従業員と一緒に世界中を旅して、人生を楽しんだと言われている。

しかし、チェンを含め誰1人、刑事告発されていない。

「ハンシン事件」が鎮静化した後、2019年現在まで、チェンは公衆の面前に姿を現していない。しかし、いろいろな情報から推察すると、チェンはチップ業界を去っておらず、「うまくやった」状況になっている。

10年以上前の「上海交通大学漢新科技社(上海交大汉芯科技有限公司)」は事件後も業務を停止しなかった。その後、社名を「上海领微科技有限公司」に変更した。2019年現在、チェンはこの会社の10.5%の株式を持ち、536万元(約8千万円)の資本拠出を持つ最大の個人株主である。そして、同社の取締役である。

また、「上海领微」を含め、チェンは依然として多くの企業の主要株主である。これらの会社は有名な上海Sizhiや上海Xinaoなど、チップ技術に関連する会社である。

業界の噂によると、近年のデジタルデバイスと国内の携帯電話の人気により、チェンは再び人々の視野に入ってきたとのことだ。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

論文数など省略

★撤回論文データベース

2019年10月23日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでジン・チェン、(Jin Chen)を「Chen, Jin」で検索すると、60論文がヒットし、58論文が撤回されていた。

所属を「Shanghai Jiao Tong University」と入れると1論文がヒットし、1論文が撤回されていた。但し、生命科学論文である。

つまり、全部、本記事で問題にしている研究者以外の論文だと思われる。

★パブピア(PubPeer)

省略

●7.【白楽の感想】

《1》だましのテクニック 

チェンは、モトローラ社製のチップからモトローラの名前を削り取り、それをハンシン(Hanxin)に置き換えただけ、というから、ねつ造する方もする方だが、騙される方も騙される方だ。

こんな単純なだましで、約15億円の研究費が投入され、上海交通大学と大学関係者は約165億円も損害を被っていた。当時の中国は自国開発にものすごく飢えていたとしても、チェック体制の甘さに誰しも唖然としたと思う。

本文に書いたが、2003-2005年の3年間、チェンは100人以上の研究員をどのように騙し通せたのか? そして、彼のチームがどのように政府、産業界の専門家を騙し通せたのか? 

白楽は、この「だましのテクニック」、それに、「だまされる状況」に興味があるが、解説は見つからなかった。

《2》処罰が甘い 

チェンは、上海交通大学を解雇され、中国政府によって研究界を永久追放された。

チェンは15億円以上の研究開発費を使い、上海交通大学と大学関係者に約165億円の損失をもたらした。

しかし、チェンを含め誰1人、刑事告発されていない。

事件発覚から13年後の2019年現在、チェンはいくつかの会社の株主、大富豪である。

なんかおかしくないか? 

他社製品のラベルを貼り換えた製品で、200億円近くの損害を与え、罰せられない。こんな先例があれば、多くの人々は悪いと承知でも、一攫千金を狙って、ネカトをするでしょう。

中国よ、人権問題では異常なほどキツい処分をするのに、ネカト問題では異常なほどアマい処分をする。方針を変えた方がいいと思うけど。

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●8.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Chen Jin (computer scientist) – Wikipedia
汉芯事件_百度百科
③ 2006年5月12日の「Associated Press」記事:Chinese scientist fired over chip fraud – Technology & science – Innovation | NBC News、(保存版)
④ 2006年5月15日のデビッド・バルボーザ(David Barboza)の「New York Times」記事:In a Scientist’s Fall, China Feels Robbed of Glory – The New York Times、(保存版
⑤  2007年04月25日の記事:我国处理科研不端行为缺乏透明度 造假成本低–科技–人民网
⑥ 2018年4月27日の「雪花新闻」記事:骗国家上亿经费,使中国芯片行业难以起步,最后竟逍遥法外? – 雪花新闻
⑦ 2019年02月22日の記事: 中国芯片黑暗往事 汉芯造假骗亿万经费始末 – cnBeta.COM 移动版
⑧ 2019年03月16日の記事: “汉芯事件”背后的始作俑者陈进,今何在?_芯片

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●9.【コメント】

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