マーティン・エヴァンズ(Martin Evans)(英)ノーベル賞受賞者

2022年10月3日掲載 

ワンポイント:日本時間の今夜18:30、ノーベル生理学・医学賞の受賞者が発表される。2007年、エヴァンズ(66歳)は、カーディフ大学(Cardiff University)・教授だった時にノーベル生理学・医学賞を受賞した。その後、大学を退職し、セレクシア社(Celixir)を共同設立した。ところが、受賞9年後の「2016年6月のJ Cardiovasc Transl Res」論文が、データねつ造、法律違反の臨床研究、所属偽装だった。論文出版1か月前の2016 年 5 月、うまくはめられたのか、日本の第一三共はセレクシア社とライセンス契約をしている。リバプール大学(Liverpool University)のパトリシア・マレー教授(Patricia Murray)が不正を追求した。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

【追記】
・2023 年 8 月 17 日、セレクシア社を1億3500万ポンド(約189億円)で売却:Ashington Innovation PLC Heads of Terms Signed – ADVFN

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

マーティン・エヴァンズ(Martin Evans、ORCID iD:?、写真by Cardiff University – http://www.cardiff.ac.uk, CC 表示 3.0, 出典)は、英国のカーディフ大学(Cardiff University)・教授だった2007年(66歳)、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

受賞理由は「胚性幹細胞を使用してマウスに特定の遺伝子改変を導入する原理の発見」で、要するに、ノックアウトマウス、遺伝子ターゲッティグの開発である。専門は発生生物学である。

ノーベル賞受賞者なので、書籍、論文、研究に関する情報、写真、動画はたくさんある。本記事ではネカト問題に焦点を絞って記述する。

エヴァンズは、ノーベル賞を受賞した2007年にカーディフ大学を退職し、2年後の2009年(68歳)、セレクシア社(Celixir)を共同設立し、取締役に就任した。

セレクシア社(Celixir)・取締役の時、「2016年6月のJ Cardiovasc Transl Res」論文を出版したが、この論文は研究公正の点でかなりひどかった。

2019年(78歳)、リバプール大学(Liverpool University)のパトリシア マレー教授(Patricia Murray)が、この論文は、データねつ造、法律違反の臨床研究、所属偽装だと指摘した。

論文に記載したギリシャでの臨床研究は、ギリシャの当局が法律違反だと判定したものだった。

カーディフ大学は調査を始めたが、調査報告書は公表されていない(まだ、調査中?)。

英国の医療研究機構(Health Research Authority:HRA)、欧州医薬品庁(European Medicines Authority EMA)も調査に乗り出した。白楽はこの調査結果を十分把握できていない。

ただ、セレクシア社は、問題点を指摘され、予定していた2018年の大規模な臨床試験を中止した。

そして、2021年4月9日(80歳)、エヴァンズは、セレクシア社(Celixir)・取締役を辞任した。

結局、エヴァンズは何も処罰されていない。しかし、晩節を大きく汚した。

Cardiff_University_main_building英国のカーディフ大学(Cardiff University) 写真出典

  • 国:英国
  • 成長国:英国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン
  • 男女:男性
  • 生年月日:1941年1月1日
  • 現在の年齢:83歳
  • 分野:発生生物学
  • 不正論文発表:2016年(75歳)
  • 発覚年:2019年(78歳)
  • 発覚時地位:セレクシア社(Celixir)・取締役、ノーベル生理学・医学賞の受賞者、カーディフ大学・名誉教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は英国のリバプール大学(Liverpool University)のパトリシア マレー教授(Patricia Murray)で、いくつかの担当機関に公益通報
  • ステップ2(メディア):レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ。「パブピア(PubPeer)」。「Telegraph」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①カーディフ大学・調査委員会。②英国の医療研究機構(Health Research Authority:HRA)。③欧州医薬品庁 (European Medicines Authority EMA) 。④ギリシャの臨床研究規制当局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが大学のウェブ公表なし(△)
  • 不正:違法な臨床試験実施、データねつ造・改ざん、所属偽装
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 1941年1月1日:英国で生まれる
  • 1963年(22歳):ケンブリッジ大学(University of Cambridge)で学士号取得
  • 1969年(28歳):ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London)で研究博士号(PhD)を取得
  • 1978~1999年(37~58歳):ケンブリッジ大学(University of Cambridge)・教員
  • 1999~2007年(58~66歳):カーディフ大学(Cardiff University)・教授、後半は生物学部長
  • 2007年(66歳):ノーベル生理学・医学賞を受賞
  • 2009年(68歳):セレクシア社(Celixir)を共同設立し、取締役
  • 2009年11月23日(68歳):カーディフ大学・学長(president、実質的に大学運営する学長ではない)
  • 2012年(71歳):カーディフ大学・学長(Chancellor、実質的に大学運営する学長ではない)
  • 2012~2015年(71~74歳):ギリシャで許可なく臨床試験
  • 2016年(75歳):後で問題視される「2016年6月のJ Cardiovasc Transl Res」論文を出版
  • 2019年7月(78歳):不正発覚
  • 2021年4月9日(80歳):セレクシア社(Celixir)・取締役を辞任

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
マーティン・エヴァンズ(Martin Evans)の紹介動画:「Nobel prize winner SIr Martin Evans speaks about his work – YouTube」(英語)3分04秒。
The Guardian(チャンネル登録者数 200万人)が公開

【動画2】
エイジャン・レジナルド(Ajan Reginald)が「セレクシア」を紹介する動画:「Celixir – YouTube」(英語)13分17秒。
Alliance for Regenerative Medicine(チャンネル登録者数 5470人)が2018/04/28に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★ノーベル生理学・医学賞を受賞

白楽注:賞の名称は「医学生理学賞」ではなく「生理学・医学賞」である。「医学生理学賞」「医学・生理学賞」などと表記するメディアは翻訳を歪めているいるだけでなく、ノーベル生理学・医学賞の学問の捉え方を歪めている。生理学の重要性がわからない人という印象を受ける。 →  ●白楽の卓見・浅見5【日本語破壊:ノーベル生理学・医学賞? 医学生理学賞?】 2021年10月3日

2007年(66歳)、カーディフ大学・教授のマーティン・エヴァンズ(Martin Evans)はノーベル生理学・医学賞を受賞した。研究業績は、胚性幹細胞の発見、ノックアウトマウス、遺伝子ターゲッティグの開発である。

マーティン・エヴァンズ(Martin Evans)。Copyright © The Nobel Foundation 2007、Photo: Hans Mehlin写真出典

★セレクシア社(Celixir)

2009年(68歳)、胚性幹細胞に関する研究でノーベル賞を受賞した2年後、エヴァンズ教授は、エイジャン・レジナルド(Ajan Reginald)と一緒にビジネスを始めた。

エイジャン・レジナルドは、もともとは歯科医師なのだが、何十人もの患者を虐待し、していない手術の支払いを請求したことで有罪判決を受け、2005年、歯科医師としての活動を禁止されたいわくつきの人物である。

セレクシア社(Celixir)のウェブサイトには次のようにある。 → Regenerative Medicines – Stem Cell Therapy 、(保存版

世界クラスの科学者とバイオテクノロジーのリーダーからなる当社のチームは、患者の医療の標準を変える画期的な医薬品の発見に専念しています。

ノーベル賞受賞者のマーティン・エヴァンズ卿と、ロシュ社の新興技術担当長だったエイジャン・レジナルド(Ajan Reginald)は、2009 年に Cell Therapy Ltd (CTL) という名前の会社を設立しました。CTL は 2016 年にセレクシア社(Celixir)に社名を変更しました。

エイジャン・レジナルド(Ajan Reginald)(左)とマーティン・エヴァンズ(Martin Evans)(右)。写真は合成写真である。出典:https://forbetterscience.com/2019/04/04/sir-martin-and-ajan-the-stem-cell-gold-diggers/

セレクシア社(Celixir)のウェブサイトでは、マーティン・エヴァンズ(Martin Evans)を次のように紹介している。 → Professor Sir Martin Evans

1981年、彼(マーティン・エヴァンズ)は最初の胚性幹細胞を分離しました。

彼はそのキャリアを通じて 120以上の科学論文を発表し、画期的な研究で数々の賞を受賞しています。

2007年のノーベル賞に加えて、マーティン卿は2001年に名誉あるアルバート ラスカー賞を受賞し、2009年には王立医学会(Royal Society of Medicine)のゴールド・メダル、王立協会(Royal Society)のコプリー・メダル、王立内科大学(Royal College of Physicians)のバリー・メダルを受賞しました。 

★第一三共

日本の第一三共がセレクシア社(Celixir)のパートナーだとある → Our Partnerships – Celixir Collaborative Partners

2016 年 5 月(75歳)、セレクシア社が心臓再生医療技術の日本におけるライセンスを第一三共に付与したのだ。

日本の第一三共のウェブサイトにも、同じことが書いてある。 → Cell Therapy社とのHeartcel(TM)に関するライセンス契約締結について – プレスリリース – 報道関係者の皆さま – 第一三共株式会社、(保存版

Cell Therapy社とのHeartcel(TM)に関するライセンス契約締結について
第一三共株式会社(本社:東京都中央区、以下「当社」)は、Cell Therapy Ltd.(所在地:英国ウェールズ州、以下「CTL」)が開発中の虚血性心不全の細胞治療薬HeartcelTMについて、日本における開発および販売の独占的実施権をCTLから許諾するライセンス契約を締結しましたのでお知らせします。

Heartcel*1は、CTLが独自に開発した手法により新規に作成された他家細胞治療薬*2です。Heartcelを心筋に投与することで、虚血性心不全に対する治療効果が期待されます。

日本において、開発及び販売は当社が実施し、治験用および商用生産はCTLが実施します。また、当社はCTLへ契約一時金、各種マイルストン、販売ロイヤルティを支払います。

[白楽の感想:第一三共はダマされて高い買い物をしたと理解した。ちがいます?]

★違法の臨床試験

セレクシア社(Celixir)は、ロンドンのロイヤル・ブロンプトン病院(Royal Brompton Hospital)で画期的な心臓病の臨床試験を計画し、2018年に開始する予定だった。

幹細胞を患者の心臓に注入するこの臨床試験は、何百万人もの心臓病患者の生活の質を改善できるという触れ込みだった。

セレクシア社(Celixir)は、英国の患者の心臓に注入する予定の細胞はギリシャの患者に対して「承認された」臨床試験を行なっていたと主張し、英国の臨床試験・規制当局から承認を得ていた。

「2016年6月のJ Cardiovasc Transl Res」論文によると、ギリシャの試験で 11 人の患者の心臓の瘢痕は治療後12か月で減少し、生活の質が大幅に改善されていた。

セレクシア社(Celixir)は、ギリシャでの臨床試験を引用することで、英国の規制当局と将来の患者の両方を ダマした 誤解させたのだ。

実は、セレクシア社(Celixir)は、2012~2015年にギリシャで行なった臨床試験は無許可の臨床試験で、ギリシャの規制当局から法律違反だとされていた。

エヴァンズ教授は、その臨床試験に関与していた。つまり、エヴァンズ教授が違法な臨床試験を実施したのである。

ロンドンでの臨床試験は、2018年に開始される予定だったが、内部告発者(次項で述べるマレー教授?)がギリシャでの事件を英国の規制当局に警告したので、とりあえず、1年以上は延期された。

カーディフ大学は、エヴァンズ教授が無許可の臨床試験の結果を科学論文に発表したことで、研究上の不正行為を犯したかどうか、調査を始めた(2022年10月2日現在、調査中?)。

★パトリシア・マレー教授(Patricia Murray)

2019年(78歳)、幹細胞生物学と再生医療の専門家で、リバプール大学(Liverpool University)・教授のパトリシア・マレー(Patricia Murray)は、エヴァンズ教授が2012~2015年にギリシャで行なった臨床試験におかしな点があると、英国の医療倫理の監視機関である医療研究機構(Health Research Authority:HRA)に警告した。

「英国の患者に健康被害が及ぶことを心配しました。この種のことは、再生医療の分野全体の評判を落とすことになります」とマレー教授は述べている。

マレー教授は、欧州医薬品庁 (European Medicines Authority EMA) がギリシャの規制当局に宛てた2017年2月2日の手紙を情報公開法で入手し、公開した。

以下はその2017年2月2日の手紙の全文(1ページ)。出典は → https://pubpeer.com/publications/5706B1C85545F8E5C51DE35075B998

2017年2月2日の手紙で、欧州医薬品庁(EMA)は、英国のセレクシア社(Celixir)(=Cell Therapy Ltd)がギリシャで行なった2件の臨床試験に関して重大な不正の申し立てがあるので、調査するよう求めている。

2件の臨床試験の1つは、問題のある「2016年6月のJ Cardiovasc Transl Res」論文で報告されていた。

2017年2月2日の手紙に対するギリシャの規制当局からの回答が次の手紙だが、日付はない。以下は全文(1ページ)。出典は → https://pubpeer.com/publications/5706B1C85545F8E5C51DE35075B998

セレクシア社(Celixir) の「Heartcel」(「iMP」と同じ)および「Tendoncel」療法を使用した臨床試験は違法な状態でギリシャで実施されていたと回答している。

従って、「2016年6月のJ Cardiovasc Transl Res」論文は撤回されるべきなのだ。

★英国の医療研究機構(Health Research Authority:HRA)

2022年3月13日(81歳)の「Telegraph」記事では、記者の問い合わせに、カーディフ大学の広報担当者が、「告発を受けたことは確かです。現在、大学の研究不正規則に基づく予備調査をしています。 現時点でこれ以上コメントすることはありません」と答えている。

[白楽注:その7か月後の2022年10月2日現在、カーディフ大学の調査結果を白楽は把握できていない。調査が終わっていないのかも]

医療研究機構(HRA)のスポークスマンは次のように述べている。

医療研究機構(HRA)は、調査の結果、どのタイプの細胞がギリシャの患者の心臓に注入されたかはわかりませんでした。医療研究機構(HRA)の権限内で行なった調査の結果は研究規範委員会(Research Ethics Committee (REC))に提出しました。研究規範委員会(REC)は、問題点があるかどうかを検討しました。

白楽は研究規範委員会(REC)の検討委結果を把握できていないが、その後、医療研究機構(HRA)は、セレクシア社(Celixir)のパンフレットの過剰宣伝部分に「大幅な」変更を命じ、英国の臨床試験に応募する患者に誤解を与えないよう命じた。

★崩壊

結局、セレクシア社(Celixir)が2018年に開始する予定だったロンドンでの大規模なフェーズ2b臨床試験は中止された。

2021年4月9日(80歳)、エヴァンズ教授そしてエイジャン・レジナルドはセレクシア社(Celixir)の取締役を辞任した。 → CELL THERAPY LIMITED filing history – Find and update company information – GOV.UK

辞任から3か月後の2021年7月26日、エイジャン・レジナルド1人だけ、セレクシア社(Celixir)の社長に戻った。 → CELL THERAPY LIMITED filing history – Find and update company information – GOV.UK

★まとめ

セレクシア社(Celixir)のビジネス・モデルはシンプルだった。

ダマすという魔法だった。

セレクシア社(Celixir)は、心臓発作を治す魔法のiMP 細胞(=Heartcel )を提供していた。

ばかげているように聞こえるかもしれないが、ノーベル賞受賞者のエヴァンズ教授とセレクシア社(Celixir)は、ドナーの骨髄細胞が魔法のようにiMP細胞に変換し、他の梗塞患者を治療できるとするあり得ない説を立てていた。

このあり得ない治療法で、倫理的承認なしにギリシャで臨床試験を行なった。

そして、この大ウソと盗用で特許を取得してしまった。そして、元データを破棄してしまった。

このあり得ない治療法の進め方は、早い話、エヴァンズ教授の「ノーベル賞受賞の紋所が目に入らぬか」によるもので、ノーベル賞受賞がすべてのドアを開け、当局の担当者を信じ込ませ、人々のポケットからお金を出させた。

そして、そのお金のほとんどは、エヴァンズ教授とエイジャン・レジナルドに流れて行ったのである(推定)。

★おまけ

この部分の出典 → https://pubpeer.com/publications/5706B1C85545F8E5C51DE35075B998

学術誌「2016年6月のJ Cardiovasc Transl Res」論文には他の問題も指摘されていた。なお、論文は閲覧有料なので、白楽は原著論文のデータを見ていない。

2019年10月、「#1 Marivita lacus」 (多分、パトリシア マレー教授(Patricia Murray)その人)がパブピア(PubPeer)で所属偽装を指摘した。

マーティン・エヴァンズ(Martin Evans)は、この論文での所属をカーディフ大学(Cardiff University)としていた。

しかし、論文投稿時点では、エヴァンズはセルセラピー社(Cell Therapy Ltd)の取締役だった。

論文投稿の1か月後の 2015年11月13 日、セルセラピー社は欧州特許庁に特許書類を送付しているが、その書類でのエヴァンズの所属はスウォンジー大学(Institute of Life Sciences, University of Swansea)だった。特許はこちら → https://patentscope.wipo.int/search/en/detail.jsf?docId=EP159726460&_cid=P21-K1XD8E-03210-3

また、論文にはねつ造データがあった。

表 1で、「iMP」が骨髄由来MSC とは異なるとしていたが、ねつ造である。セルセラピー社が提出した特許のフローサイトメトリーが同じなので、「iMP」は骨髄由来MSC と同じである。

さらに、表2のデータ、図2のデータはあり得ないデータだと指摘されている。

【不正の具体例】

★「2016年6月のJ Cardiovasc Transl Res」論文

「2016年6月のJ Cardiovasc Transl Res」論文の書誌情報を以下に示す。2021年6月、訂正た懸念表明がされた。

既に述べたので詳細は省くが、不正点は、データねつ造、法律違反の臨床研究などである。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年10月2日現在、パブメド(PubMed)で、マーティン・エヴァンズ(Martin Evans)の論文を「Martin Evans[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2022年の21年間の164論文がヒットした。

2022年10月2日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2022年10月2日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでマーティン・エヴァンズ(Martin Evans)を「Martin Evans」で検索すると、 0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2022年10月2日現在、「パブピア(PubPeer)」では、マーティン・エヴァンズ(Martin Evans)の論文のコメントを「”Martin Evans”」で検索すると、本記事で問題にした「2016年6月のJ Cardiovasc Transl Res」論文・1論文にコメントがあった。他の1論文にもコメントがあったが、エヴァンズは著者ではなかった。

●7.【白楽の感想】

《1》主犯か従犯か不明 

2007年(66歳)、マーティン・エヴァンズ(Martin Evans)はノーベル生理学・医学賞を受賞した。

その後、金銭欲に動かされ(推定)、インド出身のエイジャン・レジナルド(Ajan Reginald)と共にセレクシア社(Celixir)を共同設立し、違法な臨床試験、所属偽装の論文発表など、ロクなことをしなかった。

エヴァンズ自身が悪を主導したのか、エイジャン・レジナルドにダマされて悪に走ったのか不明である。

事実としては、ノーベル賞受賞を利用して、人々を信用させ、悪を働いたと見るのが正しいと思う。

データねつ造、法律違反の臨床研究など、問題が多い「2016年6月のJ Cardiovasc Transl Res」論文に懸念表明が表明される時、エヴァンズ教授は懸念表明に反対した。

つまり、倫理観は低い。

といっても、エヴァンズ教授の倫理観は「特に」低いというレベルではなく、「普通に」低いというレベルである。

一方、エヴァンズ教授の不正を指摘・追及したリバプール大学(Liverpool University)のパトリシア マレー教授(Patricia Murray)は、「特に」エライ!

マーティン・エヴァンズ(Martin Evans)。写真出典

《2》ノーベル賞受賞者の不祥事

以下は、「●白楽の卓見・浅見3【ノーベル賞受賞者の不祥事は多いと思うべし】」より抜粋改変した。

今回を含めると、白楽ブログでノーベル賞受賞者の不祥事を9件記事にした。

  1. 盗博:宗教学:キング牧師(Martin Luther King Jr.)(米)
  2. 「間違い」:ジャック・ショスタク(Jack W. Szostak)(米)
  3. 「性的暴行」:カールトン・ガジュセック(Carleton Gajdusek)(米)
  4. 化学:フランシス・アーノルド(Frances Arnold)(米) 2021年1月19日
  5. グレッグ・セメンザ(Gregg Semenza)(米) 2021年7月18日
  6. マイケル・ロスバッシュ(Michael Rosbash)(米)2021年10月4日掲載
  7. 「性不正」:文学:デレック・ウォルコット(Derek Walcott)(米)2021年10月7日掲載
  8. ルイ・イグナロ(Louis Ignarro)(米)2021年10月10日掲載
  9. マーティン・エヴァンズ(Martin Evans)(英)ノーベル賞受賞者 2022年10月3日掲載

しかし、問題を起こした他のノーベル賞受賞者は以下のようにたくさんいる(含・研究公正以外。網羅していない。順不同)。

データはないが、ノーベル賞受賞者の不祥事率は研究者全員の平均値より高いと思う。

有名人だから不祥事がメディアにのるのは当然と言えば当然だが、単にメディアにのりやすいためなのか、受賞後の特性(驕り、尊大、自分は別格など)なのか、受賞前からの特性(競争社会で他人を蹴落とす生き方、自己顕示欲の強さ、など)なのか、不明である。

博士論文の格好のテーマですね。誰か、研究してくれませんかね? 

  1. ウィリアム・ショックレー – Wikipedia
  2. アレクシス・カレル – Wikipedia
  3. ロバート・ミリカン – Wikipedia
  4. ジェームズ・ワトソン – Wikipedia
  5. リンダ・バック – Wikipedia 
  6. ブルース・ボイトラー – Wikipedia
  7. ダニエル・カーネマン – Wikipedia:間違い
  8. ポール・ナース – Wikipedia
  9. フレイザー・ストッダート – Wikipedia
  10. ジョン・マザー – Wikipedia → 言いがかり?:blackbody.pdf
  11. ハラルド・ツア・ハウゼン – Wikipedia → Nobelist Harald zur Hausen and the Scamferences – For Better Science

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア日本語版:マーティン・エヴァンズ – Wikipedia
② ウィキペディア英語版:Martin Evans – Wikipedia
③ 2019年4月4日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログで、リバプール大学のパトリシア・マレー教授(Patricia Murray)の記事:Sir Martin and Ajan, the stem cell gold-diggers – For Better Science
④ 2019年7月15日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログで、リバプール大学のパトリシア・マレー教授(Patricia Murray)の記事:Questionable activities of UK company Celixir, by Patricia Murray – For Better Science
⑤ ◎2021年6月30日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ:Requiem for Celixir – For Better Science
⑥ 2022年3月13日のカミラ・ターナー(Camilla Turner)記者の「Telegraph」記事:Exclusive: Nobel laureate embroiled in research scandal保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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