2022年1月30日掲載
ワンポイント:タフツ大学・準教授のバーンズは、「2015年1月のNeuroscience」論文を出版した。2016年、共著者だった院生・クリスティ・メドウズ(Kristy Meadows)が、その論文にデータねつ造があると大学に告発した。バーンズ準教授はメドウズに告発の報復をした。その報復に対して1億円の損害賠償を要求する訴訟を、2019年8月(51歳?)、メドウズに起こされた。2021年、調停合意に達したが、合意内容は非公開で不明である。タフツ大学はネカト調査し、バーンズ準教授にネカト行為はなかったとしている。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
エリザベス・バーンズ(Elizabeth Byrnes、Elizabeth M Byrnes、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のタフツ大学・カミングス獣医科大学院(Cummings School of Veterinary Medicine, Tufts University)・準教授で、獣医師免許・医師免許は持っていない。専門は神経科学である。
2016年(48歳?)、指導下の女性院生・クリスティ・メドウズ(Kristy Meadows)に、バーンズ準教授と共著の「2015年1月のNeuroscience」論文にデータねつ造があると大学に告発された。
バーンズ準教授はメドウズに給付金を差し止めるなど、告発の報復をした。
2019年8月(51歳?)、その報復に対して1億円の損害賠償を要求する訴訟を、メドウズに起こされた。
2021年(53歳?)、調停合意に達したが、合意内容は非公開で不明である。
タフツ大学はネカト調査し、バーンズ準教授にネカト行為はなかったとしている。
タフツ大学・カミングス獣医科大学院。写真出典。10/21/2013 – Grafton, Mass. – Aerial photos of the Tufts University Cummings School of Veterinary Medicine on Monday, October 21, 2013. (Alonso Nichols/Tufts University)
- 国:米国
- 成長国:米国
- 獣医師・医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:オハイオ州立大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1968年1月1日生まれとする。1995年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
- 現在の年齢:56 歳?
- 分野:神経科学
- 不正論文発表:2015年(47歳?)
- 発覚年:2015年(47歳?)
- 発覚時地位:タフツ大学・準教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は指導下の女性院生・クリスティ・メドウズ(Kristy Meadows)で、大学と研究公正局へ公益通報
- ステップ2(メディア):「Daily Mail Online」、「撤回監視(Retraction Watch)」など多数
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①タフツ大学・調査委員会。②裁判所
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:隠匿(Ⅹ)
- 不正:ねつ造。大学はシロと判定
- 不正論文数:1報。大学はシロと判定
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1968年1月1日生まれとする。1995年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
- 1995年(27歳?):米国のオハイオ州立大学(Ohio State University)で研究博士号(PhD)を取得
- 2001年10月-2009年10月(33-41歳?):タフツ大学・カミングス獣医科大学院(Cummings School of Veterinary Medicine, Tufts University)・助教授
- 2009年(41歳?):同・準教授
- 2015年(47歳?):翌年問題視される「2015年1月のNeuroscience」論文をメドウズ院生と共著で出版した
- 2016年(48歳?):メドウズ院生からデータねつ造と大学に通報された
- 2019年(51歳?):メドウズ院生から提訴された
- 2021年8月31日(53歳?):訴訟は調停合意に達した。内容不開示
- 2021年(53歳?):タフツ大学・正教授
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★クリスティ・メドウズ(Kristy Meadows)
クリスティ・メドウズ(Kristy Meadows、写真出典)は、24歳の時(記載がないが2013年とする)、獣医師になろうと、タフツ大学・獣医科大学院に入学し、バーンズ準教授の指導下で獣医師免許と研究博士号(PhD)を取得しようとした。
院生として、バーンズ準教授の研究を手伝い、毎月2266ドル(約23万円)の給付金をもらっていた。
★告発
メドウズはバーンズ準教授(写真出典)との共著論文の原稿を執筆していた時、ほぼ最終原稿の時点で、バーンズ準教授からのデータには完了していない実験のデータを含んでいることに気がついた(データねつ造)。
バーンズ準教授に指摘したが、バーンズ準教授は訂正を拒否した。そして、「2015年1月のNeuroscience」論文が出版された。
- Sex- and age-specific differences in relaxin family peptide receptor expression within the hippocampus and amygdala in rats.
Meadows KL, Byrnes EM.
Neuroscience. 2015 Jan 22;284:337-348. doi: 10.1016/j.neuroscience.2014.10.006. Epub 2014 Oct 13.
2016年(50歳?)、それで、メドウズはバーンズ準教授がデータをねつ造したと、タフツ大学と米国・研究公正局に通報した。また、バーンズ準教授実験動物を虐待していたので、ねつ造以外に動物虐待も大学に通報した。
★コクハラ
ところが、告発に対して、メドウズはバーンズ準教授から「深刻で継続的な報復」報復を受けた。
まず、バーンズ準教授から、メドウズへの毎月の給付金を取りやめられた。
また、していないのに、メドウズは窃盗していると告発された。
そして、提出した博士論文の審査が保留された。
メドウズは、最終的には2017年に研究博士号(PhD)を取得し、2018年に獣医師免許を取得できた。しかし、それらの取得はコクハラを受けて遅れた。
また、バーンズ準教授とジョイス・ノール学科長(Joyce Knoll)は「メドウズは研究ができない人で、性格も悪い、非協力的な院生である」と人々に言いふらし、メドウズの評判を落とし、博士号を取得したのだが、関連分野の職に就けなかった。
★裁判
メドウズはバーンズ準教授のコクハラをタフツ大学に訴えたのに、タフツ大学は適切な処置をしなかった。
2019年8月23日(51歳?)、それでメドウズは、バーンズ準教授、タフツ大学、ジョイス・ノール学科長(Joyce Knoll)に対し、100万ドル(約1億円)の損害賠償を求めて訴訟を起こした。
以下は2019年8月23日の法廷文書の冒頭部分(出典:同)。全文は32頁 → https://www.bostonlawyerblog.com/files/2019/08/1-Complaint-Jury-Demand-08-23-19.pdf
2020年、米国地方裁判所のナサニエル・ゴートン裁判官(Nathaniel Gorton)は、事件を調停で解決すべきとした。
2021年7月2日(53歳?)、メドウズとタフツ大学は米国下級判事のジェニファー・ボアル判事(Jennifer C. Boal)の下で調停交渉を開始した。
2021年8月31日(53歳?)、提訴から約2年後、メドウズとタフツ大学は調停合意に達した。ただ、調停合意の内容は開示されなかった。 → 2021年8月31日のマックス・イェーガー(Max Jaeger)記者の「Law360」記事:Tufts Settles Claim It Punished Student For Bogus-Data Report – Law360
法廷文書によると、タフツ大学はネカト調査を行ない、バーンズ準教授に違法行為は見つからなかったと結論していた。
2021年(53歳?)、調停合意が済み、バーンズ準教授は正教授に昇進した。
2021年9月初旬(53歳?)、「撤回監視(Retraction Watch)」の問い合わせに対し、タフツ大学の広報官のパトリック・コリンズ(Patrick Collins、写真出典)は、大学がバーンズ準教授のネカト調査をしたのかどうかを含め、「訴訟に関するコメント」を提供しないと回答した。
●【ねつ造の具体例】
タフツ大学はネカト調査しシロと結論した。
バーンズ準教授は完了していない実験のデータを発表したという「2015年1月のNeuroscience」論文に対して、「パブピア(PubPeer)」を含め、ねつ造・改ざんを具体的に指摘した記事は見つからなかった。
つまり、クリスティ・メドウズ(Kristy Meadows)は、「2015年1月のNeuroscience」論文のどのデータをねつ造データと指摘したのか、記載がない。
それで、省略。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2022年1月29日現在、パブメド(PubMed)で、エリザベス・バーンズ(Elizabeth Byrnes)の論文を「Elizabeth Byrnes [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2022年の21年間の63論文がヒットした。
この63論文の中にクリスティ・メドウズ(Kristy Meadows)との共著論文は1報もない。
「Byrnes EM」で検索すると、61論文がヒットした。
この61論文の中にクリスティ・メドウズ(Kristy Meadows)との共著の「2015年1月のNeuroscience」論文が1報あった。
2022年1月29日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
一方、クリスティ・メドウズ(Kristy Meadows)の論文をパブメド(PubMed)で検索すると、2017年に1報、2018年に2報年の3論文がヒットした。
3論文とも所属はタフツ大学で、最初の1報は共著(バーンズではなく、Silver GM)だが、後の2報はメドウズの単著である。
「Meadows KL」で検索すると、29論文がヒットした。
★撤回監視データベース
2022年1月29日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでエリザベス・バーンズ(Elizabeth Byrnes)を「Byrnes」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。
「2015年1月のNeuroscience」論文に対しても訂正・懸念表明・撤回はない。
★パブピア(PubPeer)
2022年1月29日現在、「パブピア(PubPeer)」では、エリザベス・バーンズ(Elizabeth Byrnes)の論文のコメントを「Elizabeth Byrnes」で検索すると、2論文にコメントがあった。
ただ、「2015年1月のNeuroscience」論文に対してはコメントがなかった。
●7.【白楽の感想】
《1》闇の中
院生のクリスティ・メドウズ(Kristy Meadows)が指導教員であるエリザベス・バーンズ(Elizabeth Byrnes)のデータねつ造を告発した。
メドウズはコクハラされたので損害賠償を求めて裁判を起こした。
この裁判記録に、「タフツ大学はネカト調査し、その結果、シロと結論した」ことが記載されていた。
しかし、タフツ大学はネカト調査報告書を公表していない。「撤回監視(Retraction Watch)」の問い合わせにもノーコメントである。
この場合、タフツ大学がバーンズ準教授に肩入れし、クロをシロと結論した可能性を否定できない(というか、高い)。
なぜなら、シロなら公表した方が明快で、バーンズ準教授もタフツ大学もむしろ利得があると思うからだ。
調停合意で、守秘義務が課されていると思われるので、今後、メドウズが「2015年1月のNeuroscience」論文のデータねつ造箇所はコレコレですと話すことはないだろう。
つまり、真実は闇の中である。
ネカト紛争で裁判所がでてくると日本も米国もロクなことがない。闇の中にすると、ネカト者は得になるので、ネカトは減らないだろう。
エリザベス・バーンズ(Elizabeth Byrnes)。写真出典:01/05/2016 – Grafton, Mass. – Elizabeth Byrnes, Associate Professor of Biomedical Sciences at the Tufts University Cummings School of Veterinary Medicine, poses for a photo in her lab on January 5, 2016. (Alonso Nichols/Tufts University)
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●9.【主要情報源】
① 2019年8月28日のエミリー・クレイン(Emily Crane)記者の「Daily Mail Online」記事:PhD veterinary graduate files $1 million lawsuit against Tufts University | Daily Mail Online
② 2019年8月29日のオリビア・メッサー(Olivia Messer)記者の「Daily Beast」記事:Kristy Meadows, Tufts University Graduate, ‘Punished’ for Reporting Adviser’s Fabricated Research: Lawsuit
③ 2019年9月10日のキャリー・ブラドン(Carrie Bradon)記者の「Legal Newsline」記事:Woman alleges she was retaliated against by Tufts University for reporting fabricated data in article she co-wrote | Legal Newsline
④ 2019年9月13日のレベッカ・バーカー(Rebecca Barker)記者の「Tufts Daily」記事:Cummings school graduate sues Tufts, citing data fabrication, retaliation – The Tufts Daily
⑤ 2021年8月31日のマックス・イェーガー(Max Jaeger)記者の「Law360」記事:Tufts Settles Claim It Punished Student For Bogus-Data Report – Law360
⑥ 2021年9月2日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former Tufts grad student settles lawsuit alleging retaliation for whistleblowing – Retraction Watch
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