カタリーナ・クーニャ(Catarina Cunha)(米)

2021年6月24日掲載 

ワンポイント:ポスドクがボスとの人間関係がこじれた事件。クーニャはポルトガル出身で、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(Stony Brook University)のプロトキン助教授のポスドクだった。ボスを共著者に入れず、自分が責任著者として、ボスに無断で「2019年6月のSci Rep.」論文を出版した。2021年2月(39歳?)、掲載から1年8か月後、所属の改ざん、画像の重複使用、著者在順のため、学術誌・編集部は論文を撤回した。クーニャは無処分。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

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白楽の研究者倫理
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

カタリーナ・クーニャ(Catarina Cunha、ORCID iD:https://orcid.org/0000-0002-1669-0208、Twitter、写真出典)は、ポルトガル出身で、米国のニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(Stony Brook University)のプロトキン助教授のポスドクになった。専門は神経科学である。

事件が発覚した時は、ネイサン・クライン精神医学研究所(The Nathan S. Kline Institute for Psychiatric Research)・研究員になっていた。

2019年6月19日(37歳?)、ストーニーブルック校のプロトキン助教授のポスドクだったクーニャは「2019年6月のSci Rep.」論文を責任著者で出版した。

驚いたことに、プロトキン助教授に論文出版の許可を得ていなかった。そして、プロトキン助教授は共著者になっていない。しかも、実験はストーニーブルック校で行なったにもかかわらず、所属は別組織のネイサン・クライン精神医学研究所にしていた。

クーニャの説明では、週末にボランティアでネイサン・クライン精神医学研究所のジョセフ・ルドゥ教授(Joseph LeDoux)研究室で研究していて、そこでの研究成果がまとまったからとのことだった。

プロトキン助教授は激怒し、ストーニーブルック校に告発した。ストーニーブルック校は調査の結果、クーニャの行動、そして、出版した論文は不適切だったと結論した。

2021年2月23日(39歳?)、掲載から1年8か月後、学術誌は編集部の判断で、論文を撤回した。なお、クーニャは撤回に同意していない。

院生・ポスドクが所属研究室のボスとの人間関係がこじれた事件である。このようなケースはよくあるが、解決の正解はない。

クーニャ事件では、クーニャは研究室の「困ったチャン」だったようだ。

ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(Stony Brook University)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:ポルトガル。Loop | Catarina Cunhaの記事によると、2006年にポルトガルの奨学金で米国に行っている。2004年の最初の論文での所属はポルトガルの病院である。それで、成長国をポルトガルとした
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:米国のニューヨーク州立大学ストーニーブルック校
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1982年1月1日生まれとする。2004年に大学院修士に入学した時を22歳とした
  • 現在の年齢:42 歳?
  • 分野:神経科学
  • 不正論文発表:2019年(37歳?)
  • 発覚年:2019年(37歳?)
  • 発覚時地位:ネイサン・クライン精神医学研究所・研究員
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はボスのジョシュア・プロトキン助教授(Joshua L. Plotkin)で大学に公益通報
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:所属の改ざん、画像の重複使用、著者在順
  • 不正論文数:1報撤回
  • 時期:研究キャリアの初期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Catarina Cunha (0000-0002-1669-0208) – ORCID

  • 生年月日:不明。仮に1982年1月1日生まれとする。2004年に大学院修士に入学した時を22歳とした。Loop | Catarina Cunhaの記事によると、2006年にポルトガルの奨学金で米国に行っている。2004年の最初の論文での所属はポルトガルの病院である。それで、ポルトガル生まれ・育ちとした
  • xxxx年(xx歳):xx大学(xx)で学士号取得
  • 2004年10月1日~2006年3月1日(22~24歳?):ドイツのルール大学ボーフム (Ruhr-Universität Bochum)で修士号取得:神経科学
  • 2008年4月1日~2013年5月1日(26~31歳?):米国のニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(Stony Brook University)で研究博士号(PhD)を取得:神経科学
  • 2016年1月18日~2018年11月30日(34~36歳?):ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(Stony Brook University)・ポスドク
  • 2018年12月3日(36歳?):ネイサン・クライン精神医学研究所(The Nathan S. Kline Institute for Psychiatric Research)・研究員
  • 2019年6月(37歳?):後で問題になる「2019年6月のSci Rep.」論文を出版
  • 2021年2月(39歳?):上記論文が撤回

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★ボス

ポルトガル出身のカタリーナ・クーニャ(Catarina Cunha)が事件を起こした時、クーニャは、米国のニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(Stony Brook University)・ポスドクだった。

ボスは、ジョシュア・プロトキン助教授(Joshua L. Plotkin、写真出典)だった。

なお、プロトキン助教授のサイトhttps://renaissance.stonybrookmedicine.edu/neurobiology/faculty/plotkin は2021年3月にはアクセスできたのに、2021年 5月にアクセスできなかった。クーニャの不正が報道されたのが2021年3月15日なので、理由はわからないが、直後に閉鎖したのだろう。

★端緒

2019年6月19日(37歳?)、プロトキン助教授のポスドクだったカタリーナ・クーニャ(Catarina Cunha)は以下の「2019年6月のSci Rep.」論文を出版した。

そう、パッと見ておわかりのように、ポスドクなのにボスのプロトキン助教授(Joshua L. Plotkin)の名前が著者群に入っていない。

そして、クーニャが論文の責任著者になっていた。

所属は「Emotional Brain Institute, Nathan Kline Institute, Orangeburg, NY, USA.」でニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(Stony Brook University)ではない。

2018年10月にこの論文原稿を投稿した。

クーニャは、2018年11月30日までニューヨーク州立大学ストーニーブルック校・ポスドクだったので、所属を偽っていたことになる。

そして、ボスに無断で論文を投稿していた。

実は、論文を投稿する前からクーニャは、ボスに無断で、ニューヨーク大学(New York University)のジョセフ・ルドゥ教授(Joseph LeDoux、写真出典)の研究室にボランティアで研究していた。

正確にいうと、ルドゥ研究室は、当時はニューヨーク大学にはなく、ネイサン・クライン精神医学研究所(The Nathan S. Kline Institute for Psychiatric Research)にあった。つまり、クーニャが論文に記載した所属機関である。

★発覚

クーニャの異常な論文出版を知ったプロトキン助教授は、当然ながら、激怒した。

白楽が思うに、同じテーマの論文なので、論文が出版されれば、プロトキン助教授は直ぐに論文出版を知る。論文内容と著者を見れば、激怒する。クーニャはそのことを予知していたハズなのに、態度がフテブテシイ。

2021年2月23日、「2019年6月のSci Rep.」論文は撤回された。
 → 撤回公告:RETRACTED

クーニャは、「撤回監視(Retraction Watch)」に次のように答えている。

私は、プロトキン助教授に断らずに、週末はニューヨーク大学とネイサン・クライン精神医学研究所で1年以上、ボランティアで友人たちの研究助成金申請や論文出版を手伝いました。

その見返りに、ルドゥ教授は私のK99グラントを支援してくれることになり、ルドゥ研究室の友人たちは私自身の研究アイデアで実験していました。私のすべての遺伝学実験とqPCR実験はルドゥ研究室で行なわれました。

2021年6月23日(39歳?)現在、クーニャは、ネイサン・クライン精神医学研究所(The Nathan S. Kline Institute for Psychiatric Research)のクリストファー・カイン(Christopher K. Cain、写真出典)研究室の研究員になっている。カインはルドゥ研究室のポスドクだった。

そのカインは「撤回監視(Retraction Watch)」に次のように答えている。

クーニャ博士は、私たちの研究室に入る前にストーニーブルック校でこれらの研究を行なっていました。そして、論文が出版された時は、ネイサン・クライン精神医学研究所に所属していました。

私の理解では、問題はストーニーブルック校での指導教員であるプロトキン助教授が適切な指導をしていなかったことが原因だと、考えています。

「2019年6月のSci Rep.」論文は2019年6月19日に発表された。

その11日後の2019年7月1日、「プロトキン助教授が、公開したばかりのこの論文を撤回するよう学術誌・編集部に要求した」、とカインはクーニャにメールしている。

プロトキン助教授は、クーニャが論文に記載したすべてのデータは、私(プロトキン)の研究室で収集したもので、論文発表は私(プロトキン)の許可を得ていないと激怒した。

ストーニーブルック校で研究を行なっていたので、クーニャの論文は所属の改ざん、そして、プロトキン助教授を著者に入れていないので著者在順違反に相当する。

ストーニーブルック校の研究公正室は、プロトキン助教授の告発を受け、クーニャのネカト調査を始めた。

そして、クーニャの「2019年6月のSci Rep.」論文の方法および実験のいくつかは、NIH助成金申請書・R01-NS104089、NARSAD(National Alliance for Research on Schizophrenia & Depression)助成金申請書・23840に記載の内容、そして、プロトキン助教授の「2011年のNature Neuroscience」論文と重複していると、ストーニーブルック校は結論した。

2021年2月23日(39歳?)、クーニャの「2019年6月のSci Rep.」論文は編集部の判断で撤回された。上記の理由のほか、ノックアウトマウスが異なることや実験方法が間違って記載されていることも指摘した。
 → 撤回公告:RETRACTED

なお、クーニャは撤回を了承しておらず、他の共著者は編集部の撤回問い合わせに回答していない。

★コメント

クーニャとプロトキン助教授との人間関係が悪化していたことがこの事件の原因だと思われる。

で、ボスのプロトキン助教授に問題があったのか?
ポスドクのクーニャに問題があったのか?

いくつかのコメントを見る限り、クーニャはいわゆる研究室の「困ったチャン」で、クーニャの方に問題があったようだ。

「2019年6月のSci Rep.」論文が撤回された翌日の2021年2月24日、プロトキン助教授のポスドクだったエリック・プラーガー(Eric Prager)は「このゴミがついに撤回され、とても嬉しい」とツイートしていた(以下)。

ノースウェスタン大学のプロトキンと同じ部署で研究していたヘブライ大学(Hebrew University of Jerusalem)のジョシュ・ゴールドバーグ(Josh Goldberg)も「正義の輪はゆっくりと回転するが、非常に細かく挽いていく」、と論文撤回に賛同したツイートをした(以下)。

「撤回監視(Retraction Watch)」記事に次のコメントもあった。

ポスドクが上司の知らないうちに週末に他の研究室でボランティアをしていた。うわー、ですね。そりゃ、深刻な問題が起こるわな。

2番目のラボの責任者(ルドゥ教授)がまともな人で、悲惨な研究室からポスドクが逃れるのを助けるつもりなら、ありかもしれないけど、一般的に、ポスドクをボランティアとして受け入れないでしょう。 主宰研究者はお互いを知っているでしょうに。

そう、クーニャもクーニャだが、ジョセフ・ルドゥ教授もそういう人なのだ。類は友を呼ぶ。

【ねつ造・改ざんの具体例】

ほぼ上記したので、省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2021年6月23日現在、パブメド(PubMed)で、カタリーナ・クーニャ(Catarina Cunha)の論文を「Catarina Cunha [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2004~2021年の18年間の25論文がヒットした。

2021年6月23日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、1論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2021年6月23日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでカタリーナ・クーニャ(Catarina Cunha)を「Catarina Cunha」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、本記事で問題にした「2019年6月のSci Rep.」論文・ 1論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2021年6月23日現在、「パブピア(PubPeer)」では、カタリーナ・クーニャ(Catarina Cunha)の論文のコメントを「Catarina Cunha」で検索すると、本記事で問題にした「2019年6月のSci Rep.」論文・1論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》勘違い 

カタリーナ・クーニャ(Catarina Cunha、写真出典)は研究室のルールをなんか勘違いしている。

研究室は、院生・ポスドクに、研究の機器・試薬を用意し、方法を教え、どういう点を解明すると良いか導き、学会発表から論文発表まで教える。

これには、かなり膨大なお金がかかり、教員の経験・能力が貢献する。それを、どうして全部自分1人で行なったと思うのか?

不思議なことに、少数の院生・ポスドクは、自分で考えて自分が実験したデータは自分のもの。自分の好きなように発表してよいと思うようだ。

白楽が現役だった頃、隣の研究室で、実際に、院生が指導教員の知らないうちに論文を投稿した事件が起こった。教授(女性)が激怒し、白楽にグチをこぼしに来た。

その院生は他大学の教授の娘だった。一般的に、教授の娘は扱いにくい。

白楽の研究室でもこういう勘違いをする院生に何度も遭遇した。

どうしてそう思うのか、白楽は未だに理解できていないが、このような院生は「きく耳をもたない」状況になる。強く出ると、アカハラになる。話し合いは不可能である。

白楽の苦い経験だが、ゴタゴタした挙句、親が出てきて、学長室で学長・副学長に囲まれ、示談にさせられたこともあった。

つまり、白楽は人間関係がこじれるのを「防ぐ方法」を思いつけない。

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●9.【主要情報源】

① 2021年3月15日のニコ・マッカーティ(Niko McCarty)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Bad blood at a lab leads to retraction after postdoc publishes study without supervisor’s permission – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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