「白楽の感想」集:2015年5-8月

2020年11月9日掲載 

「白楽の研究者倫理」の2015年5-8月記事の「白楽の感想」部分を集めた。

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《1》正面から立ち向かう姿勢に感動

数年前、研究論文の再現性が低いと学術界でも世間でも問題視された。そのことに対して、「現状ではそんなもんだよ」と思う反面、世界的な規模でどこかが何とかしないとマズイと感じていた。「エコノミスト」誌が主張するように「科学はこうして堕落していくのだな」と感じていた。

白楽は、かつて、米国・細胞生物学会の会員だった。年次大会にも何度か参加した。米国・細胞生物学会の実情を知っている。米国でも小さな学会である。ただ、研究ネカトではかなり厳格で進歩的な学会である。

その米国・細胞生物学会が、対策委員会を設けて、正面から改善に立ち向かっている。ウ~ン、エライ! 感動!

《2》研究コミュニティベースの基準

アメリカ科学振興協会(AAAS)の活動は知っていたが、米国の政府系組織や学会組織以外のNGO(NPO)組織(例:Open Science Framework など)が研究システムの改善に取り組んでいることは知らなかった。

「研究コミュニティベースの基準」というやり方は現代では優れていると思う。ネットが普及して、研究者個人がネットで簡単に意見を表明できる。ある程度の議論もできる。研究ネカトでも、各分野の研究コミュニティをベースにした研究規範の基準を構築するのは、とてもいいアイデアだと思われる。

院生や研究者がウェブにアクセスし、どのような行為が研究ネカトに相当し、どうすると予防できるか? などの知識・スキルを提供するサイトを白楽が設置してもいい。イヤイヤ、そもそも、このバイオ政治学のサイトがそういう主旨だ。

研究ネカトに対する公益通報や相談に乗ってもいい。

ただ、日本ではビジネスモデルがない。米国で成功している「論文撤回監視(Retraction Watch)」は、金銭的助成を受けて活動している。同じような活動を展開することは能力・知力的に難しいが、日本では助成してくれる財団を見つけるのはほぼ不可能だろう。

そもそも、政策決定集団である官僚や学会ボスの思考にはないと思われる。彼らは無視するか弾圧してくるに違いない。もちろん、米国、ドイツ、ロシアでもそれらの勢力の弾圧と闘いながら運営している。

公的支援は求めにくいなら、気骨のある民間財団から援助受けるのが1つ。あるいは、気骨のある学者が数人集まって、他からの金銭的援助なしに高度な活動をする。ウ~ム。

もっと重要な点は、日本に多くの支援者がいるかどうかだ。

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《1》心理学分野に研究ネカトが多発

心理学分野の研究ネカト者は多い。どうしてなんだろう? それもオランダと米国に多い。どうしてなんだろう?

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《1》査読偽装は新手の不正

査読偽装は、米国で研究ネカトの議論していた1980~90年代にはなかった。それで、研究ネカトの範囲に入っていない。ここ10年ほどの新手の不正である。しかし、不正の質は、研究ネカトと同等である。

同じ手口の査読詐称は、2012年に発覚した「ヒュンイン・ムン(Hyung-In Moon)(韓国)」の方が古い。ムンは20005年から査読詐称をし、7年間も発覚しなかった。

ムンは35報が撤回され、今回のチェンは60報が撤回された。両人とも特定のジャーナルに投稿している。

ジャーナル編集部は著者や査読者と何度もメールのやり取りをしていれば、査読偽装に気が付く可能性は高まる。

しかし、韓国のムン、そして、今回は台湾のチェンにだまされたことを考えると、地域問題が介在しているだろう。

ジャーナル編集員は欧米人が主体である。編集員は欧米人研究者なら面識や人物情報をつかみやすい。しかし、アジア系の名前や住所になじみがない上、アジア人研究者との面識は十分ではない。面識があってもアジア人の似た顔と名前(例えば、Chen)を区別しにくい。それで、欧米人系のジャーナル編集部が、韓国のムン、台湾のチェンにだまされた。

現代の論文出版プロセスでは、ジャーナルを分散して意図的に査読詐称を計画したら、10回以下なら気が付かないだろう。そして、実際、かなりたくさんの査読詐称が横行しているのではないだろうか?

また、編集員が査読偽装したケースも報告されている。

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《1》イタリアらしい?

イタリアをステレオタイプの偏見で見て悪いけど、ヴァンノーニ事件は、なんか、イタリアらしい事件だ。

  • 経済学部の教授が幹細胞を神経細胞に分化させることで神経疾患を治療するスタミナ療法(stamina therapy)事業を、ベンチャー起業家として創始した。
  • 科学論文を出版せず、テレビ番組で宣伝し、多数の支持者を獲得した。
  • 熱狂的な支持者は数百人デモ集会に参加し、臨床試験希望者は、全国で約9千人が登録した。
  • 医師ではないので、美容サロンで施術した。
  • 治療費ではなく寄付(1人、2万~5万ユーロ:約200万~500万円)をもらった。
  • イタリア政府はスタミナ療法に対して約3億円も研究助成し、医療保険も支払った。

どれも、悪い冗談にしか思えない。
唖然とするが、他国だと、笑い話である。

ただ、振り返って、日本は正常かと問われると、面目ない。

  • 数回の電話で、知らない人に何百万円も簡単にあげてしまう人が後を絶たない(オレオレ詐欺)。警察は防止のための有効な処置をとらない。
  • インチキ美容術(コラーゲン、ヒアルロン酸を飲む。痩せる)はかなり繁盛していて、これも取り締まらない。
  • 複数の患者を連続して死なせた群馬大学病院、神戸国際フロンティアメディカルセンター、千葉県がんセンターの医師達が処罰されない。

イタリアを笑えない。

《2》ダマされるメカニズム

インチキ療法にダマされる人はどこの国にも一定の割合でいる。どうしてなんだろう?

  • テレビ、新聞、警察官などいわゆる権威にダマされる。ここでは、テレビ、新聞、科学、大学教授、医師にダマされた。
  • 一般に、高価な服、持ち物(時計、バッグ)、立派な邸宅・オフィスなど金にもダマされる。

さて、人間はどういう人間を頭から信用してしまうのだろうか?

日本はだまされ易い国民文化である。

《3》イタリアらしい? その2

ヴァンノーニ事件で登場してくる以下も、なんか、イタリアらしい映画事件だ。

  • 裸体の若いママがローマ市内を抗議デモ
  • イケメンの小児科医マリノ・アンドリーナが最後には没落
  • 美人すぎる44歳のベアトリス・ロレンチンが保健大臣
  • 愛らしいオバチャマが実は、幹細胞研究の権威のエレナ・カッターネオ教授でしかも終身上院議員で水戸黄門

メディアは大騒ぎし、車椅子の患者と可愛い子役患者も登場。パパラッチが事件を追う。

あと、必要なのは殺人事件とセックスシーンぐらいだが、マフィアが絡んでいてもいい。そして、以下の写真のように、ヴァンノーニは主演男優というより監督タイプだな。

L'imputato Davide Vannoni durante l'udienza del Processo Stamina in Tribunale, Torino,31 Ottobre 2014 ANSA/ ALESSANDRO DI MARCO
L’imputato Davide Vannoni durante l’udienza del Processo Stamina in Tribunale, Torino,31 Ottobre 2014 ANSA/ ALESSANDRO DI MARCO

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《1》事件は繰り返す

ロバート・ガリス(Robert Gullis)(英)」でも書いたが、約30年前のスラツキー事件は米国の研究者社会が研究倫理への対策を論じている丁度その時代に起こった。

事件からしっかり学び、研究ネカト事件を防ぐことが重要だが、米国ではその後も事件が起こっている。対策を立てなければ、もっと起こっていただろう。

研究倫理事件は飲酒運転と同じで、わかっているけどしてしまう面がある。飲酒運転を減らした要因である「必ず発覚」「厳罰」「監視・非難の文化」をしっかりと続けることだろう。米国は、この3本柱を進めてきた。

一方、日本はこの3本柱を進めるどころか、3本柱が立っていない。日本では、これからも研究ネカト事件は今まで同様(以上?)に起こるだろう。

11986年10月31日の「サイエンス」記事。【主要情報源】④

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【事件の深堀】

★ビッツエガイオの指導教授ハジーアヌウが少しヘン

69_6339124781336600007531112_53_THatziioannouDHoWWangShawBHahn_101509-1研究室主宰者の準教授・セオドラ・ハジーアヌウ(Theodora Hatziioannou、写真出典)はギリシャ系である。英国の大学を卒業後、1999年にフランスで研究博士号(PhD)取得し、米国・コロンビア大学・ロックっフェラー大学でポスドク時代を過ごし、2006年にロックっフェラー大学(Rockefeller University)・助教授、2012年に準教授になった。
Greek Scientist Helps Research for AIDS Cure | USA.GreekReporter.com)。

ポスドクであるビッツエガイオの指導教授なのだが、ビッツエガイオの研究ネカトに対して、以下のように、研究ネカトを軽視する発言をしている。

  • 「操作は本当にごくわずかです(the manipulation was really minor)」
  • 「彼女は見栄えを良くするために変えただけです(She just made cosmetic changes)」

この発言は少し異常だ。こういうユルイ感覚の指導者の研究室では「改ざん」が横行するでしょう。研究室の他の論文は大丈夫なんでしょうか?

ビッツエガイオが第一著者の「Journal of Virologyの2013年論文」の最終著者になっているのだから、ハジーアヌウ準教授は、論文出版前にデータを精査して、ビッツエガイオのデータ操作をチェック・訂正・阻止すべき立場だ。「Journal of Virologyの2013年論文」でチェックしていれば、それ以後に生じた研究費申請書や論文原稿のデータねつ造・改ざんは防げたはずだ。

自分の無為・無能を棚に上げ、指導していたポスドクのねつ造・改ざんを告発した。

【白楽の感想】

《1》予防・診断・発見する知識・スキル

白楽が事件を調べるのは、事件を起こした研究者をウェブ上で非難するためではない。事件を適正に扱わない大学や政府を糾弾するためでもない。研究者が事件を起こさないようにするのにはどうしたらよいのかを探るためである。研究関係者に事件防止の知識・スキルを示し、5年後・10年後の人間社会がさらにより良くなっていることを望むからだ。

事件を調べていると、特に、ポスドク・院生・テクニシャンの研究ネカトの詳細がわからないことが多い。

これでは、ポスドク・院生・テクニシャンの研究ネカトを予防・診断・発見する知識・スキルがほとんど得られない。人間社会がさらにより良くなるための知識を積み重ねていけない。

ポスドク・院生・テクニシャンは、多くの場合、有名人ではないし、重要な研究成果をまだあげていない。従って、研究ネカトが学術界および一般社会に及ぼす影響は小さい。

これが大きな理由だと思うが、マスメディアは事件を調査し報道しない。一方、公式な調査報告書は「こういう不正がありました」という結果報告だけで終わっている。

ポスドク・院生・テクニシャン本人はどうすべきだったのか? 研究指導者にどんな改善点があるのか? 大学院での教育が問題だったのか? もともと、違法行為をする性向の人物だったのか? たまたま、時期的に、結婚・離婚・出産・育児・病気など、本人にストレスが多かったのか?

調査員は立場上、問題点を一番よく知っているのだから、各事件の調査報告書は、どうすれば研究ネカトを防げたかについても記述し公表してほしい。

《2》第一著者論文の2報目で研究ネカト

ビッツエガイオは2006~2014年までの9年間に12論文を出版している。サイエンス誌に1報、ネイチャー誌に1報と超一流雑誌への論文もある。ところが、第一著者は、2010年のPLoS Pathog論文(博士論文にした?)と問題の「Journal of Virologyの2013年論文」しかない。他の10報は共著である。

つまり、研究室の他の人の実験に協力するが、自分の研究を主体的に進めることができないタイプと思われる。従って、自分で論文を執筆する力量と経験はあまりなかった、と思われる。

院生・ポスドク時代に自力で実験し自力でデータをだし、自分で論文執筆する実力をつけないと、そこそこ以上の研究者として自立できない。自立できても、伸びない。

写真を眺めると、ビッツエガイオは可愛いい女性である。

58bdec8d43ドイツのハノーヴァー医科大学(Hannover Medical School)の仲間。ユリア・ビッツエガイオ(Julia Bitzegeio)は前列中央。可愛い女性。ツインコア研究所(Twincore)はハノーヴァー医科大学(Hannover Medical School)と大学院連携をしている。写真出典

csm_Seitenteaser_Mitarbeiter_Experimentelle_Virologie_825_350_03_4844460a5aドイツのツインコア研究所(Twincore)出身者。ユリア・ビッツエガイオ(Julia Bitzegeio)は、ここでも前列中央。写真出典

写真のビッツエガイオは可愛いい女性で、以下、かなりの偏見を加えて推定する。

ビッツエガイオは、周りの受けが良かったのだろう。自力で実験し自力でデータをだすことを訓練されずに、ちやほやされて(共著)論文が増えていったのだろう。それで、いざ、自分が中心で論文を執筆する段になり、困って、あるいは、適当な気持ちでデータねつ造・改ざんをしたのだろう。

その観点でみると、セオドラ・ハジーアヌウ準教授の指導の甘さよりも、大学院生時代のトーマス・ピーチマン教授(Thomas Pietschmann)の躾けの甘さが、研究ネカトの原因かもしれない。

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《1》有名な事件

ジョン・ダーシー(John Darsee)事件は、米国が研究倫理に正面から丁寧に取り組み始めた丁度その時期に起こった。それも、ハーバード大学医学大学院という名門中の名門で起こったのだから、米国の学術界、政府、一般社会で大きな関心を呼んだ。たくさんの記事・論文・書籍が出版されている。

34年前のねつ造事件なのに、比較的多くの資料がある。

とはいえ、いまだにデータねつ造事件は後を絶たない。ダーシー事件をしっかり学び、有効な防止策を立てたとは言い難い事実を物語っている。別の視点で見ると、「完璧な研究ネカト防止策」はないということだ。飲酒運転防止と同じで、厳罰化・監視・社会常識など多方面からジワジワ攻めるのが有効だろう。

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ジョン・ダーシー(John Darsee)、写真出典

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【事件の深堀】

幹細胞研究では、小保方晴子事件やウソク・ファン事件(韓国)だけでなく、2012年の「パウロ・マッキャリーニ(Paolo Macchiarini)(スウェーデン)」、2013年の「ダビデ・ヴァンノーニ(Davide Vannoni) (イタリア)」、2014年の「ピエロ・アンバーサ(Piero Anversa)(米)」など著名研究者の大事件がいくつも発生している。

生命科学系研究者のためのジャーナルガイド」(2015年12月、1巻、15ページ)に日本語の解説がある。修正引用する。

Strauerなぜ、幹細胞研究をめぐってこれほどまでに多くのスキャンダルが起こり、こんなに深刻に受け止められているのでしょうか?

幹細胞研究は極めて利益に導かれやすい(利益駆動型)分野です。 変革をもたらす大いなる可能性を秘めており、これは商業的な影響も莫大であるということを意味します。それにより、研究者側が商業側に「拉致される(“kidnapped” )」可能性が生まれています。 生物医学における新しい分野として、幹細胞研究は医療、特に再生医療における最大の希望の光です。 幹細胞治療により、すばらしい可能性を夢見ることができるのです。この魅力が時に、将来への期待を広げさせ、患者を欺き、論争を引き起こすことがあります。こうした傾向は、学者たちにも重大な影響をもたらし、幹細胞研究を行う企業に利潤追求活動の引き金になっています。

学術論文に対し、高い注目やメディア報道を求めることは、世界的に見てももとには戻せない傾向になっています。幹細胞研究にもそれはあてはまります。ニュースとして取り上げられ、注目を浴びるために、学者たちは、認知度を高めようと信頼性を犠牲にしても論文を発表し、研究結果の捏造といった極端な手段まで選んでいます。

このような動向は、幹細胞研究という極めて競争的な分野に対し長期的な影響をもたらしていますが、幹細胞研究だけでなく、生命科学全般にとって痛ましいことです。幹細胞研究の混乱は、幹細胞の有用性が確立され、幹細胞研究への注目が大幅に減少するまでは、おそらく今後も続くと思われます。(http://www.editage.jp/insights/sites/default/files/Life%20Science%20Jounarl%20Guide%20light.pdf

実は理由は3つ書いてあったが、最初の理由がよくわからなかったので削除した。2つ目の理由「利益駆動型分野」と3つめの理由「認知度を高めたい」は共感する。

ただ、その理由だと、新分野はおおむね該当する。それでも、研究ネカトが少ない新分野もある。ということは、スキャンダル起こるのは幹細胞研究自体の特性も起因しているだろう。例えば、幹細胞がらみだとデータの検証がしにくいので「ごまかし易い」。細胞は生きて変化しているので、全く同一の細胞ということが保障しにくく、「追試しにくい」のも大きな理由だろう。

【白楽の感想】

《1》透明化

デュッセルドルフ大学は、この事件の調査を明確にし、調査報告書を公表すべきである。調査を透明にしないと調査自身に何らかの不備・間違い・不正・無能があるという懸念がぬぐいきれない。報告書を公表しないと同じ懸念がぬぐいきれない。

研究ネカトでは、日本でも世界でも調査を透明にしない大学・研究機関、報告書を公表しない大学・研究機関を処分するルールを制定すべきだろう。

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【防ぐ方法】

《1》犯罪を防ぐ方法

この事件は、研究ネカトを防ぐ方法というより、犯罪を防ぐ一般的な方法を適用するほうが妥当だろう。そして、この事件を防ぐのは刑罰しかないように思える。もっとも、刑罰を科しても、犯罪は依然として起こる。どうするとよいのか?

多くの人の健康を害しても金銭的な得をしようとファタの行為(犯罪)を未然に防ぐには、ファタの場合、どこをどうするとよかったのか?

刑罰を科し、方策を立てても、ファタの自己中心的な思考・強い金銭欲を考えると、人間の業の深さに絶望的な気分になる。

【白楽の感想】

《1》犯罪初期で修正

医療詐欺(Health care fraud)は、「だます」という点では研究ネカトと類似している。研究ネカトもそうだが、医療詐欺も発覚することが目に見えている。同僚の医師・看護師は注意すればわかるだろう。

今回の事件のような医療詐欺は、患者の健康被害は深刻で、多数の死者もでている。となると、刑罰は重い。それなのに、なぜ、ファタは実行したのだろう?

最初は違法ギリギリの軽微な行為から始め、発覚しなかった。もう少ししても大丈夫だった。軽微な行為の成功に味を占め、そして、ファタは、だんだん大胆かつ広範に行なうようになったのだろう。成り行きで、やめられない状態になって、破たんしたということだろう。

この過程は、研究ネカトでも同じである。さらに言えば、一般的に、大きな犯罪を犯す場合も同じだ。

人間心理をさらに拡張すると、犯罪でなく、善行であっても、人間のほとんどの行為は、軽微な行為から始め、成功に味を占めだんだん大胆かつ広範に行なうようになると言える。

善行だと、顕彰制度が初等教育から死ぬ直前まであるのに、犯罪の場合、軽微な初期段階で修正するメカニズム(発覚・処分)があまり発達しているように思えない。社会として、初期段階で発覚・処分するシステムを開発・導入すべきでしょう。
B99260889Z_1_20150610170357_000_GA5H4S8G_1-02012年(47歳)、悪事発覚前、スピーチするファリド・ファタ(Farid Fata)。高級スーツ着ているこんな医師に説得されると、患者・家族はコロッとだまされるだろう。写真出典

《2》日本の患者死亡事件

最近、日本の特定の病院で多数の患者が死んでいる。明らかに医療ミスだと思える。それなのに、日本では、どうして担当医が逮捕・投獄されないのだろう?

日本のファリド・ファタ(Farid Fata)は医師仲間の業界権益に守られ、患者は泣き寝りするしかないのか? なんかおかしい。

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【事件の深堀】

★ねつ造の理由

ウイリアム・ブロードとニコラス・ウェイドの『背信の科学者たち』では、ガリスは研究システム(論文の作成とその評価のあり方)に愛想を尽かしてねつ造論文を出版したかのように記述されている。以下、日本語訳を引用しよう。

「大学というのは教育の場であり、博士課程は適切に研究を行う方法を学ぶ場だからです。もし、そこに適切な指導というものが欠けているとすれば、研究機構全体に何か誤りがあるのです」。ガリスは、論文の作成とその評価のあり方については特に手厳しく語っている。「私は自分の仕事に対して正当な評価を受けたことなど一度としてなかった。彼らは業績が上がればそれだけで満足していたし、業績しか求めなかった。彼らは業績を上げると同時に博士号を得るために必死に働く人間をありがたく思っていた」。(ウイリアム・ブロード、ニコラス・ウェイド(牧野賢治訳): 『背信の科学者たち』、講談社、2006年。文章はウェブ上にない)

しかし、【主要情報源①】などの他の文献ではそういう記述が見当たらない。上記はガリス本人が述べた言葉だろうが、ブロードかウェイドが脚色(ガリスの言葉を選択)したのではないのだろうか?

【主要情報源①】や他の文献からは、ガリスは、問い詰められて、仕方なしに、ねつ造を白状したように思える。

ガリスは、ねつ造した理由を、次のように述べている。

「(論文中の)曲線や数値は単に私が想像したものです。実験結果を記述するというより、私が頭の中で考えた仮説を記述し論文として出版したのです。そのようなことをした理由は、自分の研究アイデアにとても自信があったからで、研究アイデアをそのまま、紙に記述したまでです」。

事実として、ガリスは、23歳の大学院生の最初の論文からねつ造論文を出版している。「論文の作成とその評価のあり方に愛想を尽かして」ねつ造をはじめたとは思えない。研究経験を積んでからというより、研究経験の最初からねつ造している。

そして、27歳で発覚するまで9論文中の8論文がデータねつ造論文である。つまり、ガリスは、ねつ造まみれである。

これは、研究体制の批判とは無関係に、最初から、自分の仮説を記述するのが論文だという研究スタイルを習得してしまったためだと思われる。なお、この研究スタイルは、実験科学では通用しないが、人文科学だったら現在でも通用するだろう。

ガリスは、ねつ造発覚時点で、「この事件の全責任は私にあります。科学界および関係者に陳謝します。大変申しわけありませんでした」と反省と陳謝の言葉を述べている。

【防ぐ方法】

《1》大学院・研究初期

大学院・研究初期で、研究のあり方を習得するときに、研究規範を習得させるべきだ。

ガリスの場合、研究博士号(PhD)を取得した英国・バーミンガム大学の指導教員チャールズ・ロウ上級講師(Charles E. Rowe)が規範をしっかり躾けていれば、「研究上の不正行為」をしない研究人生を過ごしたかもしれない。

【白楽の感想】

《1》頭脳的にとても優秀

20代前半の大学院生がはじめて学ぶ研究分野で、4年間で8論文もねつ造した。

ガリスは、実験作業をそれなりにしたと思われるが、論文の中心的な部分は想像力で書きあげ、その分野の専門家である自分の師(チャールズ・ロウ上級講師)、さらに、世界の先端的研究者である論文読者を4年間もだますことができた。驚異的な頭脳の持ち主だったと思われる。

自分で研究計画を組み立て、妥当な実験値を空想であみ出し、4年間はバレず、8論文に矛盾がない。その研究構築は、頭脳的にとても優秀でなければできないだろう。

方向さえ間違えなければ、大きな仕事をした人かもしれない。

《2》約30年前の研究ネカト

約30年前の研究ネカト事件は、情報量が少なく、実態をつかむのが難しい。しかし、約30年前の研究ネカト事件も、得られる情報で理解する限り、事件の動機・発生状況・内容は現在とほぼ同じようである。

学術界は、約30年前の事件をしっかり学んでおけば、その後の研究ネカト事件をもっと防げただろう。しかし、欧米では、この事件を含め、それ以前の長い年月の間、研究ネカトはとても稀な事件で、極めて特殊で、異常な研究者が起こす異常な事件として処理されていた。学術界は真正面から丁寧に向き合ってこなかった。

ガリスの事件の数年後の1980年代初頭、米国は研究ネカトに正面から対処し始めた。

そして、米国政府は、1989年、政府・健康福祉省に「科学公正局」を発足させ、これが、現在の「研究公正局」(Office of Research Integrity : ORI)になっている。

2005年には、各大学・研究機関に「研究公正官」(RIO:Research Integrity Officer)の配置を義務化した。

2006年にポールマンを刑務所に送って以来、一部の研究ネカトを刑事事件化するようになってきた。

さらに、出版後批判ウェブとして、2010年8月に 「論文撤回監視(Retraction Watch)」、2012年10月に「パブピアー」が稼働している。

試行錯誤しながら、経験・知識・スキルを積み重ね、進化してきたのである。

一方、日本の学術界、政府は、現在も真正面から丁寧に向き合っていない。現在発生している事件からも学ぼうとしていない。ということは、これから30年後も、日本では、同様な研究ネカト事件が頻発するということだ。

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  • 2006年の論文だが、とても優れた論文だ。日本のバイオ研究者、臨床医学者、政府官僚には、特に読んでもらいたい。
  • それにしても、日本は研究倫理問題に関心が低く、このままでいいのだろうか? という、不安を感じる。もっとも、日米ともに大半の科学研究者は社会意識が低い。研究倫理を構っていては重要な研究成果がでない。ノーベル賞は狙えない。まあ、そうですよね。では、5%ルールはどうだろう? 科学研究にさく時間、金、能力の5%をバイオ政治学、イエイエ、社会のためにさく。それを義務化する。
  • 日本は「偉い科学者+官僚」システムという鉄のカーテンが、問題の根本的解決を阻害している。「偉い科学者+官僚」は、悪意はないのかもしれないが、権力に胡坐をかき、結果として、生命科学研究体制の改善を軽視し、国民の目をあざむいている。

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《1》大事件なのに日本での報道なし

いつも思うけど、これほどの大事件で米国では大衆紙を含めたくさんのメディアが報道したのに、日本では大衆紙での報道はない。科学誌にも化学誌にもない(少なくともウェブの検索でヒットしない)。

【追記:2015年8月19日】、日本語記事があることに気が付いた。
2015年2月6日の英語記事「10 Heinous Cases Of Misconduct By Crime Investigators – Listverse」をkonohazukuが日本語に訳し2015年2月18日にアップした(情報改ざん・隠ぺい・ねつ造、冤罪はこうして起きる。杜撰で悪質な10の犯罪調査 : カラパイアの最下段、「1」)。アニー・ドゥーカンをアニー・ドックハンと訳している。

《2》公的分析値の信頼性

研究ネカトの研究をしていると、今回の事件のように犯罪捜査での科学分析値のねつ造・改ざんをどうチェックすることができるのか、とても気になる。

一般的には、監視・批判されない安全圏にいる研究者が研究ネカトをする頻度は高い。つまり、「人間は善悪両方を内在し、監視・批判されなければ悪がでて、監視・称賛されれば善がでる」。

科学捜査研究所の研究員の分析対象は、試料が少なく、分析は1回しかできないこともあるだろう。その場合、他人ばかりか本人でも追試はできない。分析に失敗し数値をねつ造、あるいは、分析に自信がなく、得られた数値を改ざんしたら、どうチェックするのだろう?

日本の鑑定書は大丈夫だろうか? どのようなメカニズムで信頼性が保証されているか?

FILE - In this Jan. 9, 2013 file photo, Annie Dookhan, a former Massachusetts chemist accused of faking test results at a state drug lab, pleads not guilty during her arraignment at Superior Court, in Dedham, Mass. State officials estimate that Dookhan tested samples involving more than 40,000 defendants during her nine years at a state Department of Public Health lab. The Executive Office of Public Safety says more than 330 defendants have been released from prisons. (AP Photo/Steven Senne, Pool, File)
FILE – In this Jan. 9, 2013 file photo, Annie Dookhan, a former Massachusetts chemist accused of faking test results at a state drug lab, pleads not guilty during her arraignment at Superior Court, in Dedham, Mass. State officials estimate that Dookhan tested samples involving more than 40,000 defendants during her nine years at a state Department of Public Health lab. The Executive Office of Public Safety says more than 330 defendants have been released from prisons. (AP Photo/Steven Senne, Pool, File)

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【事件の深堀】

★医学部長ポール・モーガン(Paul Morgan)

ドネフの2002年以降の発表論文は40報で、そのうち15報が医学部長ポール・モーガン(Paul Morgan)と共著で、撤回されている4報はすべてモーガン医学部長と共著である。

カーディフ大学は調査の結果、ドネフをクロ、モーガン医学部長をシロと判定した。

しかし、論文の共著者名、役職の上下関係、英国人対ブルガリア人を考えると、調査委員会がひよった可能性を否定できない。

まず、ドネフはこの時、スウォンジー大学に移籍していて、カーディフ大学に在籍していない。調査はカーディフ大学が行なっている。

ドネフ1人を犯人にすれば、モーガン医学部長を含めカーディフ大学所属の多くの共著者は糾弾されず、カーディフ大学の損傷は軽微になる。ドネフ1人をスケープゴートにしたと考えても邪推ではないように思える。実際、「スケープゴートにした」のではないかという指摘もある(【主要情報源】③)。

もし、ドネフが単独で研究ネカトしたとしても、モーガン医学部長にはそれをチェックする立場上の責任があると思える。さらには、研究ネカト論文とはいえ共著で出版したことで、発覚までは、モーガン医学部長の論文でもあり、そのことでモーガン医学部長も大きな恩恵を得ていたハズだ。

だから、モーガン医学部長にもそれなりの責任(ほぼ同罪の責任?)があり、処分されるべきだろう。

教授と若手の共著論文で研究ネカトが発覚し、大学の調査委員会が調査すると、多くの場合、若手が単独犯とされ、教授はおとがめなし~軽微な処分が多い。一言でいえば、スケープゴートである。ここにバイアスがらみの不正が潜んでいると思える。どーすりゃいいんだか・・・。

【白楽の感想】

《1》あとだしジャンケン?

複数の電気泳動バンドの画像を切り貼りして1枚の画像にまとめるのはねつ造・改ざんであるという規範は、白楽が現役で研究していたころはなかったと思う。

当時は、切り貼りして1枚の画像にまとめても、それを、「1回の実験結果に見せかける」意図はないので、今回のドネフの画像のように、画像を見れば、背景色が異なるので、複数のゲルから切り貼りしているのは明白になる。

切り貼りした画像を1枚の画像にまとめるのはねつ造・改ざんであるという基準は、問題点を感じる。

なお、ドネフのデータ改ざん論文は4報とされた。「切り貼りした画像を1枚の画像にまとめる」のはドネフの研究習慣病で常習化していたと思われる。同じ判定基準なら、ドネフの他の多くの論文はクロではないのだろうか?

《2》なぜ?

情報が少なく、事件の背景はわかりにくい。

ドネフはブルガリアで育ち、ブルガリアで研究博士号(PhD)を取得しているが、ブルガリアの研究文化を白楽は知らない。インドや中国のように「ズルが横行」しているのだろうか?

インド人や中国人がカナダ・アメリカで事件を起こすように、発展途上国出身者が欧州先進国で研究者になった場合、研究ネカトで捕捉される頻度は高いのだろうか?

そういえば、スウェーデンで生命科学研究者になった白楽の弟子が数年前、「スウェーデン人は、土日祝や休暇に研究室に来ません。来るのは外国出身者ばかりです」と言っていた。欧州だけでなく北米も、そして日本も、先進国はどこも発展途上国出身者を同等に扱っていない。

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スウォンジー大学の道路一本向こうは美しいビーチ。写真

SJP_MAI_060614garden7600_01JPGスウォンジー大学の夏の学園祭。美しい女子学生たち。楽しそうですね。写真

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【事件の深堀】

★大学側が解雇を恐れた?

「パブピア(PubPeer)」が研究ネカトではないかと指摘したヴォワネの論文は2004年~2013年の数十報ある。PubPeer – Results for voinnet

その指摘は、具体的で、どう見ても、ヴォワネが「ねつ造・改ざん」したと思える。

白楽の印象では、スイス連邦工科大学チューリヒ校は、ヴォワネの処分に手加減したとしか思えない。どうして手加減したのだろうか?

後述するようにヴォワネの研究室には大学院生が4人とポスドクが17人いる。研究ネカトでヴォワネをすぐ解雇すると、現在在籍している大学院生とポスドクが路頭に迷う。大学院生の研究キャリアを断線しないためには、他の研究室への移籍を含め2~3年必要だ。それで、手加減したのかもしれない。・・・ンナわけない? 理由としてヘン?

【白楽の感想】

《1》ファッション

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ヴォワネの写真を見ていると、スーツ姿がない。受賞の記念写真でもラフは服装である。頭髪は「ひっつめヘア」である。ファッションは個人の自由だが、TPOってものもあるでしょうに。受賞式にドレスコードはないだろうが、公式の場でもラフなファッションで通すのは違和感を感じる。
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こういうファッションに固執するのは、他人がどう感じるかという価値観を尊重しない価値観である。結局、同じ価値観が「研究上の不正行為」に至るのではないだろうか?

《2》優れた対応

今回の事件で、スイス連邦工科大学チューリヒ校は、研究ネカトのもみ消しという重大な過失を犯したと思うが、優れた点もある。3点あげる。

1点目は、「パブピア(PubPeer)」というオーソライズされていない組織の、しかも、匿名の指摘に対して、公式に調査委員会を設け調査したことである。

「優れた点」と書いたが、「パブピア(PubPeer)」の指摘はヴォワネの論文数十報に及ぶので、これを無視し続けるのは、かなり無理があるともいえる。調査開始の裏事情を知らないが、調査に追い込まれたというのが実情かもしれない。

2点目は、調査委員会の報告書をウェブに公開し、委員名も記載した点である。

委員と調査内容は大学によりオーソライズされているが、委員も人間なのでいい加減な人がいる。そして、調査内容はバイアスがかかっていたり、不正・無能な内容ということも珍しくない。だから、常に、委員名を記載した報告書をウェブに公開し透明性を高めるべきだ。監視があれば、バイアス・不正・無能さは減る。

これほど透明性が高いケースは、米国でさえ少ない(日本はまるで不透明である)。研究ネカト論文を掲載した欧米のジャーナル編集部でさえも、論文撤回の理由を聞かれて、「情報を開示しない規則ですので」と、理由を公表しないことが多い。

3点目は、ヴォワネがかつて所属し問題論文を発表したフランス国立科学研究センターと現主務のスイス連邦工科大学チューリヒ校が歩調を合わせて、調査開始や結果を発表した点である。

これは、スマートに感じた。調査も共同で行なったと思われる。

悪く勘ぐると、スイス連邦工科大学チューリヒ校がフランスに圧力をかけ、バラバラの結論にならないように、フランス国立科学研究センターをコントロールしたともとれる。バラバラの結論だと喧嘩・紛糾することもある。

《3》研究室員

ヴォワネ研究室のサイトを見ると、室員28人の写真が並んでいる(People – Voinnet Lab)。

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大学院生が4人、ポスドクが17人、サブグループが3人、サポートスタッフが6人とある(数字が合わないけど、マーいいでしょう)。かなりの人数である。研究室が問題を起こした時、室員(特に大学院生)は大きな被害者だ。いつも思うのだが、彼らの被害は補償されない。

なお、過去の論文を撤回した場合、その論文が主要業績で博士号を取得した卒業生は、後から博士号が撤回される・できるのだろうか? 理屈からすれば、博士号授与の根拠となる中心的な論文が撤回されれば、大学院生の博士号も撤回しなくてはならない。しかし、研究ネカトをしたのはその院生ではない場合、どうするのだろう?

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《1》成功の誘惑

以下は憶測である。

ハンは、韓国に生まれ育ち、韓国の大学で研究生活を送り、40歳を過ぎてから渡米し米国・研究機関の研究者になった。母国の両親・親戚・友人は、世界的に大活躍していると思っていたに違いない。しかし、50代になっても助教授で、学問の成果はさほどない。自分のボスは年下である。徐々に精神が歪んできた。

ねつ造が発覚した時、「最初は、間違えて血清を混ぜてしまった」と述べているが、これは言い訳だろう。最初から、後先考えずに、華々しい研究人生を夢見て、意図的に混ぜたに違いない。

しかし、コトは甘くはなかった。この手のデータねつ造はどう考えてもバレる。エイズワクチンの開発に成功すれば、ワクチンはモノ(物質)なので、モノがなければ不審に思われる。そしてモノがない。代用品はきかない。バレた。

当面バレないように、意図的に抗血清を混入し続けた。ワクチン開発に成功したと嘘をつき通すため、意図的に混入した抗血清を使い続けた。それで、研究成果をねつ造データで塗り固め、負の連鎖泥沼に陥ったのだろう。

このような研究ネカトをどう防げるか?

マイケル・チョー教授は、上司とは言え、ハンは助教授で独立した研究者だ。実験ノートをもってこさせてデータをチェックするのは難しい。もしもってこさせても、この場合、データは既にねつ造実験のデータなので、実験ノートをチェックしても不正を見つけることができない。

今回の件は他の研究室が追試できなかったことから調査が入った。本人がねつ造を自白しているから、ねつ造が明るみに出ているが、一般的に、追試できない研究結果はヤマほどあり、その大半は研究ネカトではない。単なる「間違い」や「思い違い」である。どう考えても研究ネカトしかないと思えるケースでも、多くの場合、本人は自白しない。そうなると、研究ネカトと断定するのはとても困難である。

とはいえ、15年以上、一緒に研究してきたマイケル・チョー教授にも何らかの責任があるだろう。

《2》生きていけるか?

以下も憶測である。

ハンは、健康に問題がある。研究職への復帰はあり得ない。裁判に巨額のお金を使った。そして、判決は、4年9か月の実刑、罰金720万ドル(約8億6千万円)、刑期終了後の3年間の保護観察が科された。

ハンの国選弁護人・ジョー・ヘロルド(Joe Herrold)は、「ハンは法的には米国永住権を持っているが、刑期を終えたのちは、韓国に強制送還され、2度と米国に入国できないだろう」と述べている。

この状態で、58歳のハンが生きていくのは大変だろう。支えてくれる家族・親族・友人と資産の両方が十分であっても、仕事・夢・生きがいを見つけるのは大変である。

資産が不十分で、しっかり支えてくれる家族・親族・友人がいなければ、白楽なら自殺してしまうだろう。

《3》刑事訴訟

白楽の意見は、日本でも研究ネカトを刑事訴訟すべきだと思う。

多くの事件では、何億円もの公金を無駄に使って、意図的に研究ネカトをしている。研究ネカトで増やした論文を業績とし、本来、他の研究者が採用・昇進したはずの地位・名声を不当に奪っている。研究ネカト行為は、自分の利益のためだけに社会を不幸にさせた、まったく自己本位な行為である。

日本は処分が甘すぎる。

デヴィッド・ライトは「研究費の申請が数年間できないペナルティ」で十分だと主張しているが、これは日本ではまったく機能しない。それは、日本の制度を作った人も十分承知しているはずだ。

デヴィッド・ライトは「刑務所に投獄した時、さらに何が得られるのでしょうか?」と疑問視しているが、日本では、刑罰を与えることが最大の抑止力になる。実名で報道する「報道刑」もかなりの脅威を与える。

研究ネカトは多くの場合、故意犯である。故意犯に対して、刑罰を与えなければ、どうやって研究ネカトを防止できるのだろう。さらに言えば、「目には目を」では足りない。「目には目と耳を」の2倍罰にすべきだ。5千万円の研究費不正なら2倍の1億円を返金してもらう。

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《1》医療技術者の研究ネカト

ライアン・アシャリン(Ryan Asherin)(米)に比べると、顔写真があり、ポール・コーナック(Paul H. Kornak)の人物像は幾分わかる。医師でも博士号取得者でもない。論文はないので、研究者というより、行政サイドの医療技術者である。

しかし、この事件は、動機や研究ネカトの実行状況が把握しにくい。

医師でも博士号取得者でもないこういう立場・状況の研究関連業務者・医療技術者は日本にも世界にも大勢いる。こういう人が研究ネカトを犯さないためにも、原因や状況を詳しく報告・分析することは有益だと思う。

コーナックはいわゆる悪徳医療関係者の部類である。ボスの医師・ジェームス・ホランド(James A. Holland)が無能だったことも不運だった。しかし、もう少し打つ手はなかったのだろうか? 悪徳医師・医療関係者は日本にもいるが、米国にもいる(2015年6月18日の記事:Authorities arrest 243 people in $712 million Medicare fraud | Reuters)。事件発生と防止策はイタチゴッコだろうが、それでも、事件を参考に最も有効な事件の防止策を練り・実施することは重要だ。

《2》時系列

事件の時系列が今まで述べた研究ネカトと大きく異なる。

2001年に研究ネカトで患者が死亡する → 2003年にコーナックは解雇 → 2005年に裁判 → 2006年研究公正局が報告 → 2009年連邦政府の「Federal Register」。

通常の研究ネカトの調査は、研究機関 → 研究公正局 → 裁判所であるが、今回は、裁判所が先に調査したので、調査の順番は、研究機関 → 裁判所 → 研究公正局となった。

研究公正局は2006年に報告した。通常、すぐに「Federal Register」が発表されるのに、発表は3年後である。さらに、2006年の研究公正局の報告は2013年11月25日に更新されている。

裁判が終わった事件を、研究公正局が調査する意味がどれほどあるのだろうか? それに、研究公正局の動きも奇妙である。単純な研究ネカト事件ではなかったのだろうか?

《3》申請不可が終身

研究ネカトで患者が死亡したのだから、通常は3年間の申請不可を研究公正局が終身にしたのは納得できる。

終身は今(2015年7月)まで3人しかいない。他の2人は、「エリック・ポールマン(Poehlman)(米) 」と「ヨン・スドベ (Jon Sudbø) (ノルウェー)」である。

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《1》不明点だらけ

この事件は不明点だらけである。ライアン・アシェリン(Ryan Asherin)がどのような人か見えてこない。学歴・職歴がわからない。研究活動は見えてこない。顔写真も見つからない。研究公正局の報告書から判断して、医師でも博士号取得者でもない。第一著者の論文はないし、最終著者の論文もないから、研究者というより、行政サイドの医療技術者なのだろう。

通常は3年間の申請不可も2年間にしたことから、ねつ造・改ざんの悪質度は低いと判断されたようだ。アシェリンは、自分が行なったねつ造・改ざんが「研究上の重大な不正」であるという認識が低かったかもしれない。多分、研究規範(倫理)教育を受けていないと思われる。

実は、こういう立場・状況の研究関連従事者は日本にも世界にも大勢いる。こういう人が研究ネカトを犯さないためにも、原因や経過(できれば防止策も)を詳しく報告することは有益だと思う。

本事件は不明点だらけで、事件を参考にして、ねつ造・改ざんを防ぐ方策を考えようとしても、何も得られない。

《2》研究公正局の仕事は遅すぎる

研究公正局は、通常は3年間の申請不可を、アシェリンに対して2年間にした。ということは軽微な研究ネカトだったということだ。

アシェリンは2011年8月12日には、オレゴン州保健医療局を辞職または解雇されている。ということは、オレゴン州保健医療局の調査はこの時点でほぼ終了していた(又は山場は超えていた)はずだ。

それなのに、研究公正局の発表は2015年6月1日と、その4年後である。どうして、軽微な研究ネカトの調査に4年もかかったのだろう? 研究公正局の仕事は遅すぎる。

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《1》研究上の「間違い」は研究界内で対処せよ

人間は誰でも間違える。研究者も間違える。「サイエンス誌の2010年論文」は著者が13人もいたのに間違えた。著者が多いと、1人1人がしっかり読まない可能性が高くなるので、著者が多ければ間違いが少ないという保証はない。

2010年論文の審査では、「サイエンス誌」の論文審査員もこの間違いを見過ごした。審査員が無能だったことになる。審査段階で間違いを指摘すべきだった。同じことを指摘する人もいる(2011年7月22日のジョー・パルカ(Joe Palca) の記事: Poor Peer Review Cited In Retracted DNA Study : NPR

それでも、審査員も人間だからミスはある。仕方ない。100歩譲って「よし」としよう。

しかし、今回、研究上の「間違い」を、研究界の外に持ち出して、スキャンダルとして騒いだ。これは、「よし」とはできない。論文の間違いは、研究界内で対処できるし、すべきでしょう。

《2》誠実な「間違い」でも処分すべきだ

2006年の文部科学省の研究不正行為の定義に「故意によるものではないことが根拠をもって明らかにされたものは不正行為には当たらない」とある。つまり「間違い」は不正ではないと。

このことは、米国でもそうなのだが、「間違い」だろうが、故意だろうが、不注意だろうが、「ねつ造:改ざん」だろうが、事実と異なる記載があれば、判断・治療・政策などを間違った方向に誘導する「ミス・コンダクト」としては同じである。その記載に基づいて医療が行なわれれば、重大な健康上の問題が発生する。

だから「故意」だろうが、「うっかり」だろうが、「不注意」だろうが、「間違い」は間違いで、厳罰化すべきだろう。

自動車を「うっかり」運転して、人をひいて殺しても、「うっかり」では済まない。 「不注意」で多量の塩を入れてしまったラーメンを、「不注意」でしたが、どうぞ召し上がってくださいってわけにはいかない。

動機がどうであれ、誠実・不誠実とも関係なく、人間社会は結果で判断され、結果に対して責任を取らなくてはならない面がある。

研究ネカトや研究クログレイでも、研究論文での「間違い」について、もっと、厳しい目を向けるべきだろう。研究倫理の大家・ニコラス・ステネックも「間違い」を処分すべきとしているが、この点、白楽はステネックと同意見だ。

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《1》不正は研究習慣病

パウロ・マッキャリーニ(Paolo Macchiarini)は、患者の苦痛を除くのが自分の使命と考えていた。それで、今までは単に死ぬのを待つしかなかった患者に、新しい治療法を次々と開発し、命をすくった。そこでは、多少のルール違反は「大事の前の小事」とみなす医療哲学があったと思われる。パウロ・マッキャリーニにとっては自分の偉業に比べれば取るに足らないほど些末なことだったろう。

そういう研究スタイルが彼の研究習慣病なのだろう。そして、大成功をねたむ人々は多い。ある日、些末なことで非難され、不正と糾弾され、逮捕されたのである。

《2》自分は神

米国の医学コンサルタントのホッホハウザーは、治験審査委員会(IRB)の委員を務めた経験をもとに,臨床医学研究者の不正研究の行動価値観には研究者特殊観があると指摘している。臨床医学研究者は「自己中心」、「全知」、「全能」、「処罰されない」という4つの間違った研究者特殊観を持つ人が多い。つまり、臨床医学の権威となり、有名で高い地位になれば、規則・規範を軽視・無視し、自分に都合のよいように解釈する性向が強くなる。それでも、医師仲間・部下・大学(病院)・世間・家族がこの教授を擁護する。

パウロ・マッキャリーニ(Paolo Macchiarini)は、「外科医のスーパーマン」「セレブ外科医」とあがめられた。世界的権威の外科医なので、自分は万能で、多少のルール違反は許されると思っていたに違いない。

《3》人間は間違える・失敗する

ルーヴェン・カトリック大学のピエール・デレア教授の告発内容も、ウプサラ大学病院のベング・ガーディン名誉教授の告発内容も、あまりに些末で、重箱の隅のさらに隅をつついているように思える。

人間は誰でも間違いや失敗をする。それがいいとは思わないが、研究論文なので、間違いは訂正すればいい。失敗は、次の研究者が塗り替えていけばいい。

デレア教授やガーディン名誉教授の指摘点は、カロリンスカ医科大学の調査委員会で調査するようなレベルの「研究上の不正行為」だろうか?

新聞はカロリンスカ医科大学が調査委員会を設けたから記事にしたのだろうけど、記事にするような「研究上の不正行為」だろうか? 新聞は、パウロ・マッキャリーニが国際的に有名なスーパー外科医だから記事にしたのだろう。

告発内容が、あまりに些末で、なんかおかしい。研究ネカトの純粋な事件とは思えない。経済抗争や政治抗争がらみの事件ではないのだろうか?

si-tracheaH_0Paolo Macchiarini – Wikipedia

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《1》人間ですもの

「知的財産権が専門」、「法学博士」、知財企業の「知識部長」、その人が盗用とは、人間、面白いですね。

要するに、「人間の行為に聖域なし。人間は善悪の両方を持っている。監視・批判されなければ悪がでやすく、称賛されれば善がでやすい」という「白楽の第一法則」に当てはまる。

不正研究の防止では、教育や研修が必要だと叫ばれている。例えば、「文部科学省が今月から実施した。研究者や学生に対する倫理教育の徹底教育を大学など研究機関に求めている。」(2015年4月20日、 研究活力と不正防止の両立を:日本経済新聞)。

この場合、「倫理教育の徹底教育」で何を教えると、不正研究を防止できるのと考えているのだろうか?

「知的財産権が専門」の「法学博士」は盗用を悪いと知っているはずだ。でも、盗用をする。多くの院生・研究者も盗用を悪いと知っていて盗用をする。

「教える」ことの内容にもよるが、必要なのは、「教える」ことよりも、「必ず検出」し「2倍罰」にする体制の整備だろう。

《2》日本は甘すぎ

big_thumb_open-uri20150224-23205-1ccu4mo2013年秋、アンジェラ・エイドリアン(写真出典)は盗用の発覚で、論文を撤回している。

それなのに、2014年1月14日に日本の特許庁委託平成24年度産業財産権研究推進事業(平成24~26年度)で、知的財産研究所が日本への「招へい研究者」としている。

知的財産を専門に研究する「知的財産研究所」が、外国の「盗用」者を日本に招へいするなんて、日本はどうなっているのでしょう。招へい前に、エイドリアンの論文が「盗用」で撤回された記事が公表されている(Retraction Notice)。

知らなかったのなら、無能を恥じるべきだし、知っていたのなら、・・・。

招へいはキャンセルすべきだったでしょう。

さらに追い銭的に悪いことは、知財研紀要 2014年 Vol.23に「商標の稀釈化、パブリシティ権、肖像権-日本、オーストラリア、英国、米国における法律の比較分析-」を執筆させている。

この論文の翻訳前の英語版は盗用ではないのでしょね。知的財産研究所は分析しているのでしょうか?

こういう行為は、結果として、不正研究者を擁護していることになる。どうして、日本はこう甘いのでしょう? 責任者を処分し、システムを改善すべきです。

《3》研究習慣病

根源的な問題として、アンジェラ・エイドリアンは、どうして、盗用したのだろうか? 事件の状況がつかめる情報が不足していて、推察でしかない。それに、白楽には、法学ではどのような研究文化で、どのように論文執筆指導を受けるのか日本・英国・米国での実情にも疎い。

とはいえ、アンジェラ・エイドリアンは多くの論文を盗用し、盗用の常習者である。盗用は彼女の研究習慣病と考えられる。つまり、論文執筆の初期から盗用しながら論文を書くという執筆スタイル・研究習慣を身につけてしまった。それを、指導教授が見抜けなかった。それで、そのまま盗用しながらドンドン論文を書いてきた。ただ、最近になって、盗用検出ソフトの発達で、盗用がバレたのだろう。

また、アンジェラ・エイドリアンは、大学卒業後、実社会で働いてから、アカデミックの世界に入ってきた人である。このような経歴の人の性向として、学問の規範が身についていない人が多い。日本でも、そういう経歴の大学教授が論文盗用の不祥事を起こしている。

angel-lアンジェラ・エイドリアン(Angela Adrian) 写真

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《1》不明点多し、研究習慣病

情報が少なく、事件の背景は見えない。ドン・シャオ(Dong Xiao)が中国で育ったのか米国で育ったのかも不明である。これでは、事件を参考に研究ネカトの改善点を見つけるのは困難だ。

ただ、2014年論文のデータ改ざんは論文のほとんどの図に及んでいる。この広範な改ざんから推察すると、改ざん作業はシステマティックで徹底している。とても初犯とは思えない。改ざんはドン・シャオの研究習慣病で常習化していたと思われる。

ドン・シャオの他の多くの論文はクロではないのか?

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《1》心理学に事件多発

【スターペル自身が語る「どうして?」】に書いたが、心理学という学問自体に問題があるように思われる。

心理学分野のねつ造・改ざん事件は、ディーデリク・スターペル(Diederik Stapel)が最初ではない。 著名なハーバード大学教授のマーク・ハウザー(米)なども、ねつ造・改ざんで辞職した。

そして、統計的に心理学分野に事件は多く、増加傾向にある。早急に、有効な手を打つべきだろう。 Psychology retractions have quadrupled since 1989: study – Retraction Watch at Retraction Watch

《2》心理学の研究ネカトは生命科学のそれと同じ

ウェブの情報を分析する限り、心理学の研究ネカトは生命科学の研究ネカトと同じである。研究分野による特性は、ほとんどない。従って、生命科学分野の基準や対策を心理学分野にも適用できるだろう。逆に、心理学分野の事件から生命科学分野での基準や対策を学ぶこともできるだろう。
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《3》人間は魅力的

スターペルは研究ネカトをした学者だが、写真、動画を眺め、文章を読むと、人間は魅力的である。表現が矛盾しヘンだが、理知的で、心が歪んでいない、と感じる。トークも上手で、さすが世界的学者である。ファンになりそうだ。

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【事件の深堀】

有地建実(Tatsumi Arichi)は、1995年~2000年の6年間に9論文出版している。

9論文のうち、1995年の最初の論文を含めた7論文がNIHのジェイ・ベルゾフソキー(Jay A. Berzofsky)と共著、8論文は香川医科大学の西岡幹夫研究室・助手の白井睦訓(シライ ムツノリ)と共著、4論文が教授の西岡幹夫と共著である。

論文の3報目は、1996年11月号の「J Immunol.」論文だが、第一著者の白井睦訓(シライ ムツノリ)は、NIHの所属になっていた。NIHのベルゾフソキー研究室に短期留学したのだろう。

1994年まで、白井睦訓(シライ ムツノリ)は、香川医科大学・医学部第3内科(西岡幹夫・教授)の助手だった。1995年に山口大学医学部・助教授、2000年同教授になった。

香川医科大学・西岡幹夫研究室の白井睦訓は、大学院生の有地建実(Tatsumi Arichi)をかわいがり、研究のスベテを教えたと思われる。

有地建実の最初の論文は1995年出版で、白井睦訓が第一著者である。2つ目・3つ目・4つ目の論文も白井睦訓が第一著者である。研究はこうすればいい、論文はこう書けばいいと、有地建実は白井睦訓から叩き込まれたに違いない。

有地建実(Tatsumi Arichi)は1995年3月に博士号を取得した。白井睦訓が博士号を取得した有地建実を、NIHのベルゾフソキー研究室に留学させたと思われる。

有地建実(Tatsumi Arichi)としても、研究の全部を助手の白井睦訓から学び、米国ではNIHのベルゾフソキーからかなりの部分を学んだに違いない。教授である西岡幹夫は、助手の白井睦訓に任せていたのだろう。

こう考えると、西岡幹夫は教室員の研究規範教育が足りなかった面はあるだろうが、有地建実(Tatsumi Arichi)のデータ改ざん事件の責任は主に白井睦訓、そして不正論発表時の直接のボスであるNIHのベルゾフソキーに副責任があると思われる。

2011年、そして、白井睦訓の研究費不正が発覚した(山大の不正経理 経産省、教授ら5人処分/山口新聞)。白井睦訓はそういうタイプの研究習慣病を持った人なのだろう。

【白楽の感想】

《1》情報が少ない

日本人の事件なので、日本語が使え、情報が得やすいかと思ったが、いつものことながら、情報は少ない。どうしてなんだろう? 理由①日本の科学メディアが記事にしていない(今回は米国も)。理由②ウェブ情報が徹底的に消された。本人の顔写真が見つからないだけでなく、有地建実の研究人生が見えてこない。

《2》その後、研究はしていない

有地建実は、その後どのような経過をたどったかわからないが、2015年6月現在、徳島県の三野田中(みのたなか)病院で内科医(診療部長)として勤務している。研究はしていないようだ。
http://www.tanakahospital.or.jp/about/doctor.html

研究ネカトで事件を起こし、不正を認めた研究者がその後どういう人生を送るか・送れるのか、白楽は気になる。研究界の外で仕事をし、2度と不正に手を染めず、幸福に暮らしてほしいと思う。有地建実は、医療での能力を生かし、医師として勤め、社会に貢献していて、なんか、ほっとする。

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《1》ウィッテモア・ピーターソン神経免疫病研究所

bildeハーヴェイ・ウィッテモアは自分の娘の病気を治すために、5億円を寄付して研究所を造った。金持ちでなければできないけど、日本にも大金持ちはかなりいる。しかし、自分で研究所を造るなんて、聞いたことがない。どうしてなのだろうか? 日本は、行政依存だからだが、国民が行政に依存されるように行政(いや立法府)も制度を作っているからだ。

米国は社会が変化しやすい。新たな歴史を作る文化がある。日本は社会が変化しにくい。新たな歴史を作りにくい。

《2》追試不能論文

「2009年のサイエンス論文」の追試不能だった原因はなんだったのだろうか? 公式には、原因が追究されていない。

大学院生アビー・スミスが指摘した画像の疑惑もある。

追試不能の原因はXMRVウイルスのコンタミンに気が付かなかったこと、つまり「間違い」で処理している。しかし、コンタミンに気が付かないのはお粗末もいいところだ。本当のところは、「2009年のサイエンス論文」は13人いる共著者の誰かがデータねつ造したのではないだろうか。

それにしても、ジュディ・ミコヴィッツ(Judy Mikovits)は非難されていない。「2009年のサイエンス論文」の追試不能の原因に誠実に対処しているためだろうか? 確かに、論文発表2年後には自分の論文を否定する論文も出している。事実に対して誠実である。それに、白楽はお会いしたことはないが、多分、人柄が良いのだろう。

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【事件の深堀】

★「間違い」と「ねつ造・改ざん」の線引き

「不適切なデータ発表」は、①論文の図表を見ればすぐにわかる場合、②図表を注意深く観察し、解析ソフトで分析して初めてわかる場合、③生データを参照しないとわからない場合がある。

①と②は、論文中にデータが発表されているので、「不適切なデータ発表」があったこと自体は隠しようがない。

その「不適切なデータ発表」が「ねつ造・改ざん」ではなく、「間違い」だと、どうやって証明、あるいは、判定できるのだろうか?

今回の事例でその線引きを理解したい気持ちがあったが、期待は大きく裏切られた。事件の記事や記述から得られる情報からはまったくわからない。

「故意ではない2重使用」(unintentional duplication)とはどういうことだろう。2重使用は故意しかあり得ないのではないだろうか?

平澤みちる本人が、調査委員に「故意ではありません。ウッカリ間違えて2重使用したのです」と弁明したのだろうが、調査委員がそのまま信用したとは思えない。疑惑者の言説をそのまま信用するそんな調査はいらない。

白楽としては、どういう事実や証拠(状況証拠でも)で、「ねつ造・改ざん」ではなく「間違い」と結論したのかを知りたかった。

「ねつ造・改ざん」か「間違い」かが、調査委員会の一存(胸先三寸)で決まるとは思いたくないのだが・・・。

そもそも調査のキッカケは、大学内の同僚あるいは研究室からの内部公益通報に基づいて大学は調査したのだろう。だから、何らかの結果を公表しなければ、公益通報者が不満に思い、新聞記者などに通報するかもしれない。

しかし、平澤みちるを処分すれば、夫の平澤健介(Kensuke Hirasawa)の研究活動にも影響すると、大学は予想しただろう。2人を失いたくない。平澤みちるは初犯だから穏便に済ませ、公益通報者には大学が対処したことを伝えたかったのではないだろうか? と深読みしてしまう。

それにしても、「論文全体の結論に影響しなかった」なら、論文の2か所を訂正をすればよいものを、なぜ、撤回したのだろう?

267911_149379588473159_7960477_n平澤みちるの実験室

【白楽の感想】

《1》不正の体質と改善策

ニューファンドランド・メモリアル大学(Memorial University of Newfoundland) は、2001年に「ランジート・チャンドラ (Ranjit Chandra)」事件をおこしている。チャンドラは著名教授だったので、大事件になったが、この事件も調査の結末やチャンドラの処分が曖昧なままで終わっている。

一般的な疑問として、研究ネカトは同じ大学で発生しやすいのか(同じ研究文化だから)? それとも、発生しにくいのか(事件を起こした大学は対策をたてるので)?

同じことが、もっと大きな単位の国、あるいは研究分野にも当てはまる。また、もっと小さな単位の研究室にも当てはまる。

事件を起こした組織は有効な改善策を実行しないと、同じ組織から高い頻度で再び事件が起こるだろう。

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《1》噂段階で内定を取り消す

出版後論文議論(post publication peer-review)などのサイトで研究ネカトと指摘されると、通常は、所属大学が調査に入る。クロと断定されれば処分される。

一方、研究費の支援を受けていれば研究公正局に報告される。研究公正局は大学の調査を基に調査し、独自の結論を出す。

また、大学だけでなく、論文掲載ジャーナル編集部も独自に調査し、クロと断定すれば論文を撤回する。

今回の場合、大学とジャーナル編集部は調査したかどうか不明である。大学からの処分、ジャーナル編集部の論文撤回も発表されていない。

その段階で、ミシシッピ・メディカル・センター大学が採用取り消した。これはマズイ。何ら公的な判定がされていない段階で、いわば、噂の段階で、噂を信じて一度公的に採用通知した人事を覆した。これは不当で、行き過ぎた行為だ。「サルカール氏の弁護士は、ミシシッピ大学にも訴訟を起こすつもりである」とあるので、サルカールがミシシッピ・メディカル・センター大学を訴える模様だ。

とはいえ、研究者の世界だけでなく、採用過程の途中で疑惑(の噂)が発覚した場合、一般的にはどうするのが適切なのだろうか?

内定者に不正(の噂)があれば、内定を取り消したほうがダメージは少ないのか? 採用したあとに解雇したほうがダメージは少ないのか? 前者のほうが双方のダメージは少ない気がする。婚約中に相手の欠点が発覚した場合、婚約を解消するほうが、結婚・離婚よりダメージは少ないでしょう。

《2》脅迫

サルカールが「パブピア(PubPeer)」を「脅迫」したとの記載があったために「脅迫」に関心を持って調べたが、科学的真実を曲げさせるほどの脅迫ではなかった。この程度の「脅迫」は研究犯罪には該当しないだろう。

それに、裁判に訴えると通知すること、実際に裁判に訴えること、その両方とも「脅迫」ではない。

日本では、憲法第32条に、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」とある。自分の権利・自由の確保・救済を求めるために、誰でも裁判所に訴えることができる。

これは欧米でも同じだろう。

ただ、「裁判に訴える」と伝えられた人が、「脅迫」だと感じたことは、理解できる。

《3》裁判

「誰でも裁判所に訴えることができる」とはいえ、研究ネカトに裁判所が介入するのは好ましく思えない。学術界で処理できないのだろうか? 裁判なら、生命科学の感性・判断ができる裁判官を養成しないと、生命科学が歪む。

Dr_%20Sarkar

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《1》オンライン・アンケート調査

オンライン・アンケート調査である。フィールド調査を経験した666人は、無作為に選んだ集団ではない。アンケートに積極的に答えた集団だ。セクハラあるいは性的暴力の被害者が主として回答を寄せたのではないのだろうか? つまり、最初から、バイアスのかかった母集団ではないのだろうか?

そうだとすると、セクハラを受けた経験が64%あり、性的暴力の犠牲者が20%以上いるのは、フィールド調査研究者の内の特殊な人たちなのか、平均像なのかわからない。

さらに、アンケートで正直に回答するだろうか? セクハラまがいの被害を受けた人は、大げさに伝える傾向が強くはないのか? さらには、被害を受けていない人でも被害を受けたと回答するかもしれない。「研究ネカト」研究者である白楽は、アンケート回答中のねつ造・改ざんをどう検出・排除しているのか、とても気になる。

白楽は、こういうアンケート調査の数値を簡単には信用しない・できない。

《2》米国の学術界には驚くほどセクハラが多い

キャスリン・クランシ―の論文の数値の信頼度は低いが、米国の学術界にはセクハラが多いのは事実のようだ。

2015年4月13日の産経WESTに、韓国と米国の学術界の性的事件の記事がある(ソウル大で「権力型性犯罪」が深刻 ハーバード大は教授と学生の「性的関係」禁止 性乱れる世界の最高学府(1/5ページ) → 左のリンク切れたら、1頁のみ →ココ)。

クラウディオ・ソアレス(Claudio Soares)(カナダ)」の記事で書いたが、米国の大学でのセクハラはかなり悲惨だ。これら防ぐために2014年1月、オバマ大統領は「レイプ・性的暴力の新アクションプラン(Rape and sexual assault: A renewed call to action)」にサインした。(Obama Seeks to Raise Awareness of Rape on Campus – NYTimes.com)。

上記「レイプ・性的暴力の新アクションプラン」は、2007年のクリストファー・クレブス(Christopher P. Krebs)等の「The Campus Sexual Assault (CSA) Study」(https://www.ncjrs.gov/pdffiles1/nij/grants/221153.pdf)報告に啓発されている。

上の記事には驚く数値が並んでいる。なお、通常使われる「女子」学生を意図的に「女性」学生と書いた。

レイプはキャンパスで頻繁に起こっていて、全米で女性学生の5人に1人が性的暴行を受けている。しかし、被害届をだす女性学生は12パーセントしかいない。

性的暴行は主にパーティーで起こる。犠牲者は、薬物や酒で心身が正常ではなく、自由がきかない状況下で性的に暴行される。加害者は、しばしば連続した犯罪者で、男性学生の7パーセントが、レイプした、または、しようとしたと認めている。その約2/3は、何度もレイプをして、平均レイプ数は6回である。( ← 白楽、モタモタしないで初回で逮捕しろ!!)

ほとんどは逮捕されないし告訴されない。被害者は被害届をださないし、出しても、警察官は偏見で事件化しない。

(↑ 白楽、ナント言う数字だ! アメリカの大学に女性を留学させるな!)

★文化人類学の男性教授の研究室に入った女性大学院生の話From the Field: Hazed Tells Her Story of Harassment – Blogs)。

私が所属した研究室には、多くの男性院生と少しの女性院生がいた。研究の場はフィールド調査、つまり、外国に行き、泊まり込みで調査する研究分野である。

私の教授は、「女性はかわいい人しか研究室のメンバーになれないよ」と、しばしば冗談を言う人だった。その言葉は、私の知識・思考法・スキルは研究に重要じゃないのかと思う気にさせた。教授は、男性院生がいる前で、私の非常に個人的な恋愛経験について質問した。私の体形の特徴や性的指向を、教授と男性院生は公然と話していた。私の大きな胸や私の性的経験をあーでもないこーでもないと話題にしていた。現地の国に売春婦として私を売ろうという話も冗談でしていた。

一度、私は、研究室の先輩の女性院生を賞賛したら、私が先輩とレスビアンの性的関係を持つというシナリオを作り始めた。

ポルノ写真は私の研究している場には毎日あった。

研究室の男性院生は、一見無害な冗談やからかいから出発し、段々と、過激な言動になり、コントロール不能な状態になってきた。私は、研究室の主流から取り残され、攻撃対象にされていると感じ、研究もうまくいかなくなった。

《3》研究関連メディアは大騒ぎ

一般論として、セクハラ・性的暴力は、社会のあらゆるセクターで問題になっている。特に教育、医療、スポーツ、芸能、宗教、軍など特殊な世界は問題が根深い。

今回は、学術界での指摘だが、学術界も問題が根深い。

セクハラ・性的暴力が多いという事実を知りつつ対応が遅れているためか、キャスリン・クランシ―の論文に対して、研究関連メディアは大騒ぎをした。目についた記事だけでも、ざっと、以下の通りだ。

記事は次のような記者自身のセクハラ経験から始まっている。

生物学部の女性学生だった私は、ある夏の数週間、コスタリカの森の奥深くで行なわれた研究プロジェクトに参加した。参加者は年上の男性大学院生と私の2人だけだった。研究場所の宿舎に到着すると、男性大学院生が予約した部屋は、ベッドが1つしかないシングルルームだった。
屈辱的に感じたけれど、堅物とか気難しいとかレッテルを貼られるのが嫌だったので、大騒ぎしなかった。翌日、宿舎のオーナーに自分のベッドを入れてもらった。この時、問題はそこで終わった。ボスである年上の男性大学院生は、幸い、私の身体を触るようなことをしなかった。

メディアがキャスリン・クランシ―の論文を大きく取り上げたということは、欧米学術界のセクハラ・性的暴力が、実は結構、深刻な問題になっているためだろう。

《4》著名科学者の不適切なアドバイス

2015年6月1日のリトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事によると、サイエンス誌のキャリアサイトのアドバイスが撤回された(Science pulls advice post suggesting student “put up with” advisor looking down her shirt – Retraction Watch at Retraction Watch)。

相談:
私(女性)は2回目のポスドクとして新しいラボに入りました。実験室は良くできていて、研究テーマも満足です。ボスも良い科学者で、ナイスガイです。ただ、問題が1つあるのです。ボスのオフィスでボスに会っていると、ボスは私のシャツの胸の部分を見つめているのです。なお、ボスは既婚者です。

私はどうしたら良いでしょうか?

回答者は、皆さんのご想像通り、「ボスがそれ以上の行為に至らない限り、我慢した方がよいでしょう。胸を見つめるは歓迎できないけど、あなたの研究へのボスの関心とアドバイスは必要です」などとアドバイスしているのだ。

alice_huang回答者は、カリフォルニア工科大学・管理職で著名なウイルス学者のアリス・ファン(Alice S. Huang) である。20年もハーバード大学・教授を務め、2010-2011年のアメリカ科学振興協会・会長 (AAAS)を勤めた女性がこのテイタラクである。

アドバイスは当然、数時間で撤回されたそうだ。こういう相談に著名科学者がとんでもないアドバイスをし、それがサイエンス誌に載るということが、米国の学術界にセクハラが普及(?)し、解決が困難であることを示している。

論文は米国の状況が中心なので、米国の事情を書いたが、日本は・・・。

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【一般論として、教授の学生・院生へのセクハラ】

★日本

大学教授(男性)が教え子の女子学生にセクハラする。このケースが典型的なセクハラ事件で、学術界の事件では最多である(白楽ロックビル(2011):『科学研究者の事件と倫理』、講談社、東京: ISBN 9784061531413)。

大阪大学は2007年11月20日、医学系研究科の男性教授(47歳)が教え子の女子学生にセクハラ行為をしたとして諭旨解雇処分にしたと発表した。(セクシャルハラスメント – Wikipedia

★米国

日本ではあまり報道されないが、米国の大学でのセクハラはかなり悲惨だ。これら防ぐために2014年1月、オバマ大統領は「レイプ・性的暴力の新アクションプラン(Rape and sexual assault: A renewed call to action)」にサインした。(Obama Seeks to Raise Awareness of Rape on Campus – NYTimes.com)。

上の記事には驚く数値が並んでいる。

レイプはキャンパスで頻繁に起こっていて、全米で女子学生の5人に1人が性的暴行を受けている。しかし、被害届をだす女子学生は12パーセントしかいない。

性的暴行は主にパーティーで起こる。犠牲者は、薬物や酒で心身が正常ではなく、自由がきかない状況下で性的に暴行される。加害者は、しばしば連続した犯罪者で、男性学生の7パーセントが、レイプした、または、しようとしたと認めている。その約2/3は、何度もレイプをして、平均レイプ数は6回である。( ← 白楽、モタモタしないで初回で逮捕しろ!!)

ほとんどは逮捕されないし告訴されない。被害者は被害届をださないし、出しても、警察官は偏見で事件化しない。

(↑ 白楽、ナント言う数字だ! アメリカの大学に孫娘を留学させるな!)

Kathryn "Kate" Clancy - professor of anthropology
Kathryn “Kate” Clancy – professor of anthropology

2014年、イリノイ大学(University of Illinois)の人類学・助教授・キャスリン・クランシ―(Kathryn Clancy、写真出典| Photo by L. Brian Stauffer)が、フィールド調査で若い女子学生・院生へのセクハラが頻繁に起こっていると報告した(Sexual harassment and assault are common on scientific field studies, survey indicates | News Bureau | University of Illinois)。

sn-harassmentHフィールド調査の若い男女院生。Ben Salter/Flickr/Creative Commons

64%の人がセクハラ被害の経験があり、20%以上の人が性的暴力の犠牲者だった。

クランシ―の「学術界で頻繁に起こっているセクハラ事例」は大きな話題になり、2014年、サイエンス誌、ネイチャー誌などの主要科学メディアだけでなく、ニューヨークタイムズ紙なども記事にした。

詳しくは「論文を読んで」に譲るが、要するに、学術研究を阻害するし、人権問題でもあるので、学術界の重要な問題とされたのである。

【一般論として、医師のセクハラ】

★医師の患者へのセクハラ

AMAの医療倫理の指針(AMA Code of Medical Ethics)には、患者との性的接触について独立した項目がある。その一部を引用してみよう。
「患者―医師関係と同時期に起こる性的接触は、不正行為(違法行為)に相当する。 医師と患者間の性的または恋愛的な交流は、医師と患者のあるべき関係を損ない、患者の弱い立場が悪用される可能性があり、 医師の客観的な判断を鈍らせる可能性がある。そのため、最終的に患者にとって有害になり得る」
また、ニューヨーク州の衛生局(Department of health)は、医師と患者の性的接触を禁じている。つまり、互いの同意で始まった付き合いでも、その事実が露見すれば、不正行為として懲戒処分になる可能性があるのだ。(患者からのデートの誘いはOK? 医師の恋愛ルール:日本経済新聞

★韓国

韓国:女性患者に常習セクハラの医師を逮捕 | Joongang Ilbo | 中央日報

★日本

医師が患者に嫌がらせをするドクターハラスメントの1つとしてセクハラがある。

産婦人科などで女性を傷つける
1.乳ガンの触診で「大きいおっぱいして」、「帝王切開だったから、まだ(膣の)しまりがいいな」
2.「遊んでいるからこんな病気になるんだよ」、逆に容姿があまり良くない患者に対し「妊娠するような覚えないでしょ?」など。(ドクターハラスメント – Wikipedia

男性医師が女性医師に

病院の中、実習中、仕事中のオサワリなどである。
カンファレンスのときに手を握ってきたり、腕をずっとさすっていたり、腿を撫でようとしたり。
髪の毛をいじってきたり、顔を撫でたり。
露骨にお尻を教授や学長に撫でられたこともあった。
同じ科ではさすがに遠慮されたものの、他の科の上位の医師たちにちょっとした隙に胸を思い切り揉まれたりした。(セクハラ行為 : ある脳神経外科医の毎日

【事件の深堀】

一般論として、セクハラはほぼすべてのセクターで起こっている。企業でも発生しているが、医師、スポーツ界、芸能界、軍など特殊な世界は、上位者と下位者の支配関係が強く、しかも閉鎖的である。事件は注目を浴び、センセーショナルに大きく報道される。あるいは、意図的に報道されない。

また、学術界、教育界も上位者と下位者の支配関係が強く、しかも閉鎖的である。学術界、教育界は、「セクハラ」を禁じる研究や教育をする場でもあり、一層特殊な世界である。そういう場でのセクハラは、学術・教育そのものへもダメージが大きい。同様に、宗教界、警察なども、似た組織で、ダメージが大きい。

ほぼすべてのセクターで多発しているのに、有効な改善策がない。

日本の宗教界: 創価学会セクハラ事件 – Wikipedia

日本のスポーツ界: スポーツ指導者のセクハラはなくなるか?|WEBRONZA – 朝日新聞社

米国のスポーツ界: Campus-Based Prevention of Sexual Assault

オリンピック: sexual harassment and abuse in sport

カナダの軍: Kenney promises ‘independent body’ for military sex misconduct | Ottawa Citizen

米国の軍は頻度が高い。

「米女性兵士の3割、軍内部でレイプ被害」
カリフォルニア州図書館調査局が2012年9月に発表した実態調査によると、イラクとアフガニスタンに派遣された女性兵士の33.5%が米軍内でレイプされ、63.8%が性的いやがらせを受けたと回答した。国防総省も問題を認めている。軍内での性的暴力は2010年だけで、男性の被害も含め推計1万9000件にのぼる。(毎日新聞 2013年3月19日)

135417022249213127247_PH11_29-1米国の第1騎兵連隊の女性兵士達がバクダッドのアルージハド地区のパトロールに加わっている(2004年3月21日)。写真・文章出典。この女性兵士達がレイプされたかどうかは知りません。

【防ぐ方法】

《1》セクハラ一般論

日本国の人事院の「セクシュアル・ハラスメントの防止策」は、以下のようだ。

  • Q1 加害者とならないためには、どうしたらいいですか?

セクシュアル・ハラスメントかどうかは、基本的には受け手の判断で決まります。相手が嫌がっていることが分かったら、決して繰り返してはいけません。
また、相手がいつも明確に「NO」と意志表示するとは限りません。明確な意思表示がなくとも相手が不快に思えばセクシュアル・ハラスメントになります。特に、上司や先輩に対しては、はっきりと した拒否の態度はとりにくいということに注意してください。

  • Q2 被害者とならないためには、どうしたらいいですか?

セクシュアル・ハラスメントを無視したり、受け流したりしているだけでは状況は改善されません。嫌なことは「嫌」と相手に対してはっきりと伝えることが大切です。口頭で言いにくい場合は、電子メールや手紙という方法もあります。また、独りで我慢せず、身近な人やセクハラ相談員に相談しましょう。

人事院の対応は、読めばおわかりのように、「ゆるゆる」である。効力を期待する方が無理だろう。現実にセクハラが頻発している。

《2》文部科学省の指針

セクシュアル・ハラスメントの防止等のために文部科学省職員が認識すべき事項についての指針

これは具体的である。一部引用する

性的な関心、欲求に基づくもの
・ヌードポスター等を職場に貼ること
・雑誌等の卑猥な写真・記事等をわざと見せたり、読んだりすること
・職場のパソコンのディスプレイに猥褻な画像を表示すること
・身体を執拗に眺め回すこと
・食事やデートにしつこく誘うこと
・性的な内容の電話をかけたり、性的な内容の手紙、Eメールを送りつけること
・身体に不必要に接触すること
・不必要な個人指導を行うこと
・浴室や更衣室等をのぞき見すること

これらは具体的で優れている。効果が期待できる。

しかし、それでもセクハラが頻発していることから、決定的ではない。つまり、現状の対策はどれも決定的ではない。

「セクハラの該当言動を具体的に示し、してはいけない」と説いても、効力がないとは言わないが、決定的ではないのだ。

セクハラは「相手が嫌がると知っていてする」行為で、加害者は「してはいけない」ことを知っていてするのである。「してはいけない」と説いても効果は大きくないだろう。

防止するには、その快感の代償が大きいことを実感させなくてはならない。研究ネカト防止と同じで基本は「監視・批難」である。「必ず見つけ、必ず倍罰(2倍の罰)する」。

《3》実名報道にする

日本の大学教員・研究者のセクハラ事件の加害者は、ほぼ100%が匿名で所属も公表されない。つまり、加害者は特定されない(白楽ロックビル(2011):『科学研究者の事件と倫理』、講談社、東京: ISBN 9784061531413)。

その結果、加害者は、懲戒免職されたとしても、他大学・研究機関に教員・研究員として再就職することが容易である。現在、そいういう性犯罪者の教員・研究員の現職率はデータがない。

性犯罪者は再犯率が高いという調査報告もあるのにかかわらず、匿名報道だから、多数の危険な教員・研究者が、他人に知られずに、大学・研究機関に在職し、野放し状態になっているのが現実だ。

これを防ぐ方策が日本にはない。というか、国も大学・研究機関も防ごうとしていない。匿名報道だからだ。

加害者を匿名報道するのは、被害者を守るためといわれているが、現状では、新たな被害者を増やしている。1つの解決策は、匿名報道を止めることだ。被害者を特定できないように工夫しつつ、加害者の実名を報道することだ。本記事で書いたように、カナダでは加害者・クラウディオ・ソアレス(Claudio Soares)の実名報道をしている。被害者はA患者で匿名だ。

もう1つは、政府に科学公正委員会を設置し、そこでは、たとえ匿名で報道されていても実名を探り、実名でも登録する。大学・研究機関が採用や昇進をするとき、科学公正委員会に身元がクリーンかどうかを問い合わせる。セクハラ加害者だったと連絡があれば、基本的には大学・研究機関では採用や昇進をしない。そういうシステムを作ることだ。

セクハラ常習者を大学のセクハラ防止委員、政府のセクハラ対策委員に任命するような、笑い話のような人選も、現状では防止する方法がない。科学公正委員会に身元がクリーンかどうかを問い合わせるシステムを作ることだ。

【白楽の感想】

《1》セクハラを研究犯罪としない

自分の分析(拙著)ではセクハラは学術界に特有の事件と出た。だから、研究関連犯罪として扱う方が良いと思っていたが、セクハラはほぼすべてのセクターで頻発している。各セクターごとに捜査するのは非効率だ。

大学・研究所は研究関連犯罪として扱い、医師は医師会、軍は軍法会議、スポーツ界はスポーツ界、などと縦割りでセクハラ事件を捜査するのは不適切だろう。

学術界に特有のセクハラ事件でも、学術や研究の知識・経験なしに事件の捜査や裁判は適切に行なえるだろう。

学術界のセクハラを研究犯罪の1つとして扱う必要はないだろう。

《2》セクハラ防止策

セクハラ防止策をいろいろ考えたが、実名報道と科学公正委員会の設置以外に、学術界でのセクハラを改善する名案が思い付かない。

「女性兵士の33.5%が米軍内でレイプ」という米軍の高率にもとても驚いた。規律や統制が最も高いと思われる軍隊で3人に1人がレイプされるとなると、有効な改善策はないのだろう。もし自分の姉妹・娘・孫娘なら、軍人になるなと強く言うだろう。

学術界はもちろん軍とは違う。規律や統制は全セクターの中でもかなりゆるい。

2014年1月、オバマ大統領の「レイプ・性的暴力の新アクションプラン(Rape and sexual assault: A renewed call to action)」の記事によれば、「レイプはキャンパスで頻繁に起こっていて、全米で女子学生の5人に1人が性的暴行を受けている」という。(Obama Seeks to Raise Awareness of Rape on Campus – NYTimes.com)。

大学キャンパスでの高率にとても驚いた。

そして、2014年の論文は、フィールド調査分野で、「64%の人がセクハラ被害の経験があり、20%以上の人が性的暴力の犠牲者だった」。

大学キャンパスやフィールド調査分野は、軍よりましかもしれないが、高率である。

日本の学術界も同様なのか、どうか、わからない。しかし、日本の女性の研究者が米国で研究する時、64%のセクハラ被害者、20%以上の性的暴力犠牲者に入る可能性が充分にあるということだ。

そして、被害者は女性とは限らない。男性も被害者になる。また、ここでは被害者にならないように議論してきたが、高率で加害者にもなるのである。日本の男性の研究者が米国で研究する時、加害者にならないように注意すべきだろう。

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【事件の深堀】

★大学院生の時にデータねつ造していた

ゲッチンゲン大学の大学院生の時の2004年(26歳)の論文にデータねつ造が指摘されている(PubPeer – Modified nucleotides at the 5′ end of human U2 snRNA are required for spliceosomal E-complex formation)。

根っからの研究不正者ということだろう。こういう人を矯正することは不可能である。

【白楽の感想】

《1》中東出身の美女

632923450173デンメズ(写真出典)は中東(トルコ)出身の美女で、北米でチヤホヤされ、教員になってから不正がバレた典型である。

スター大学(マサチューセッツ工科大学/タフツ大学)のスター研究室(レオナルド・ガレンテ教授(Leonard Guarente))出身のスーパースター研究者の事件である。

30代前半でジャーナルの編集委員、アインシュタインと並んで扱われるたスーパースター研究者だった。

米国の小保方事件である。デンマークのペンコーワ事件でもある。レバノン出身でカナダで事件を起こしたマヤ・サレハ事件でもある。

《2》芯が腐っている821891617443

  • デンメズは26歳の大学院生の時、2報目の論文でデータねつ造をしている。
  • 不正と指摘したブルックスに、弁護士を通して法的な「脅迫」をしている。
  • 撤回した論文を翌年別のジャーナルに再掲している。

まるで、反省のカケラがない。芯が腐っている。こういう人は改善の見込みはない。学術界から追放すべきだろう。

《3》脅迫

デンメズからの「脅迫」があったと記載があったために「脅迫」に関心を持って調べたが、科学的真実を曲げさせるほどの脅迫ではなかった。この程度の「脅迫」は研究犯罪には該当しないだろう。
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《1》オリビエリ事件

デフェリプロンを巡るオリビエリの言動については、賛否両論がある。医師の立場、学術的な立場、医薬品業界の立場という発言者が基盤とする場所もあるが、巨額のカネや大きな名声が絡むので、賛否両論はその背景や利害をしっかり調査し勘案しないと、ダマされる可能性が高い。著名学者だからと言って信用できない。厄介である。

この記事では、オリビエリ事件に対する意見を述べるつもりはない。

焦点を、学術的な論争に脅迫文を送るというコレンの卑怯な行為を問題に合わせたい。

この点に関して、コレンは完全にクロである。いわばテロ行為であり、研究ネカトの不正レベルを越え、「真実を追求し公表する」研究の本質を破壊する卑劣な行動である。学術界から追放されるべきだったろう。

また、真実を「脅迫」で捻じ曲げる行為は、臨床研究では患者に害をもたらす可能性が高く、とても危険である。

しかし、現実に「脅迫」は学術界に横行していると思える。研究犯罪の1つとして違法化すべきだろう。
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《2》研究犯罪

学術界・研究現場では、昔から「いじめ」「脅迫」は横行している。人間社会では「いじめ」「脅迫」は珍しくないかもしれないが、ある程度を越えれば犯罪である。学術界・研究現場では、その特殊性から「いじめ」「脅迫」の実態がつかみにくいが、研究者に多大な苦痛を与え、健全な研究の発展を阻害している。

その悪質性は、研究ネカトの不正レベルを越えている。

従来、学術界・研究現場では、「いじめ」「脅迫」を正面からとらえていなかったが、今後、「いじめ」「脅迫」などのハラスメントを研究犯罪として扱うべきだろう。

そして、もっと不透明なのが人事(採用・昇進・昇給・賞罰)である。権力者は人事権を利用して陰湿な「いじめ」を行なっている。このことも含めて「研究犯罪」という概念を明確にし、法律「研究犯罪防止法」も作り、健全な学術界・研究現場を構築すべきだろう。

《3》製薬企業の研究犯罪

製薬企業がカネで研究公正を曲げる事件は、今回の記事はカナダでは大スキャンダルだったが、日本ではなにも報道されなかった。

どうしてなんだろう?

多くの人が指摘するが、外国の科学技術事件を日本の新聞・雑誌記事にできる新聞記者・雑誌記者がいない。そうかもしれない。そういう人材が育っていない。

新聞記者・雑誌記者でなくも、大学の医学研究者・薬学研究者が解説すべきだろう。そうかもしれないが、そういう人材も育っていない。

製薬企業の研究犯罪は、実は広範で根深いと感じている。何かの折にトコトン調べてみようと思う。今回の事件と似たケースとして、カリフォルニア大学のベティ・ドン(Betty Dong)のデータ発表が製薬企業から圧力をかけられた話がある。

人間はカネに弱い。企業にすり寄る大学上層部、個々の研究者はたくさんいる。

《4》ブロンド小娘とユダヤ社会

学術界は男性社会である。しかも、北米ではユダヤ系が強い。

そこに、若い女性が異議を唱えた。その異議は、本来、性別も人種も無関係だが、人間社会はカネ・コネ・メンツと保身・仲間擁護は強力である。それは善悪の問題ではなく、大部分は、動物としての必然、人間社会の必然でもある。

オリビエリを擁護する集団がある。一方、コレンを擁護する集団もある。オリビエリとコレンの両人ともトロント大学・教授を続け、両人とも、その後、多数の賞を受賞した。

また、コレンはユダヤ人なので、ユダヤ系(?)のメディアはコレンが正義で、オリビエリを悪者にしている。(例:①News on Relevant Science: The 10 Biggest Research Scandals in Academic History、②SickKids doctor honoured for work with women | The Canadian Jewish News

MAILMASTER Subject: On 2014-06-24, at 6:17 PM, Bruser, David wrote: Dr. Gideon Koren, director of Motherisk. Gideon Koren.jpg (Hospital for Sick Children photo)
MAILMASTER
Subject: On 2014-06-24, at 6:17 PM, Bruser, David wrote: Dr. Gideon Koren, director of Motherisk. Gideon Koren.jpg (Hospital for Sick Children photo)

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《1》ウェブ情報を必死に削除した?

藤田亮介のデータねつ造疑惑(論文撤回)が最初に公表されたのは、2014年4月10日である。それからまだ(もう?)、約1年2か月しか経過していない。

日本人の事件なので、日本語が使え、情報が得やすいかと思ったが、藤田亮介のウェブ上の情報はとても少ない。徹底的に消されたようだ。本人の顔写真が見つからない。藤田亮介の研究人生が見えてこない。

現代では、研究界と限らず、一度、ネガティブな報道がされると、本人(+協力者)が、ウェブ上の関連情報を徹底的に削除するようだ。

それでも、大学・研究機関が詳細な調査報告書を公表するか、あるいはメディアが事件を調べて詳細な記事を書いてウェブ上に残してくれれば、事件はある程度見えてくる。

今回のように、本人の情報がウェブ上にほとんどなく、大学・研究機関が調査報告書を公表しない、メディアが記事にしないと、情報が少なすぎて、何が問題なのかわからない。院生・研究者個人、高等教育界、学術界、社会はどう対処すべきなのか、学ぶことは、ほぼできない。

事件の資料・詳細は保存し、特定の専門家だけが閲覧し分析できるのでもいいから、資料収集・保存・分析を担当する機関が必要でしょう。米国・研究公正局にはその機能がある。そうしないと事件は生かされず、不正は防止されない・防止できない。

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《1》事件後の人生

2009年2月の記事(【主要情報源③】)で、米国留学時のボスであるヨシ・ヤマダ(2019年12月16日逝去)は、「田仲和宏は熊本県の民間病院に移籍し、研究はもうしない(no longer conducting research)」と述べている。

しかし、田仲和宏の研究費受給の記録を見ると、民間病院に移籍していないし、「研究はもうしない(no longer conducting research)」ことはない。研究している(参考:KAKEN – 田仲 和宏(10274458))。

事件後の人生はどうあると良いのか?

大学教員・医師の場合、欧米では、大学を辞職し、民間機関で医師を勤めることが多い。研究せずに、臨床のみをする。日本もそれが1つの方法だろう。

田仲和宏の場合、正確には、田仲本人が、「民間病院に移籍し、研究はもうしない(no longer conducting research)」と述べているわけではないので虚偽の言い訳をしたわけではない。しかし、米国留学時のボスであるヨシ・ヤマダが述べているのは、田仲本人から今後の身の振り方を聞いたとき、田仲本人がそう答えたと理解するが通常だろう。それは、ヨシ・ヤマダがそうすべきだとアドバイスしたのかもしれない。というのは、その価値観が米国の1つの基準だからである。

2015年(もっと前?)、大分大学は田仲和宏を講師に採用している。不正の過去を知らずに、田仲和宏を講師に採用したのだろうか? 承知で採用したのだろうか?

一般的に、研究者の採用・昇進時に、過去の不正がわからないことが多い。本件は、事件加害者が実名で報告されたが、米国・研究公正局の英文報告書である。日本では同じ分野の研究者でも本件を知らない。

研究者名が匿名で報道されると、日本の新聞記事でも人物を特定できない。

研究者の不正情報を一元的に管理する機関が必要だと思う。研究者の採用・昇進時に、問い合わせることができるようにするのだ。政府委員の任用や国・団体から褒賞する時にも、国内・国外を問わず、過去に不正研究者だったではまずかろう。

例えば、過去にセクハラ実行者だった教授がセクハラ防止委員ではマズイでしょう。日本の現状ではありがちですが・・・。

《2》本人は無罪を主張

田仲和宏は、「私は不正していません」と主張している。

この場合、どうする? どうなる?

この事件は冤罪?

《3》時効

1996-1998年に留学し、論文が2000-2002年に出版した。

それが調査され。約10年後の2007年8月、NIH・調査委員会がクロと報告している。

さらにその1年半後の2009年2月18日、米国・研究公正局がクロと発表した。最初に不正を実行したとされる留学時の約12年後である。

これでは、調査・判定がいかにも遅い。論文発表後5年以内に着手し、1年以内に結論を出す。それを過ぎたら時効などのルールを設けないと、被疑者とその関係者は大変だ。社会システムとして欠陥だと感じる。

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【事件の深堀】

高橋孝夫(Takao Takahashi)の項と同じだが、以下を追加した。

★誰が先導?

鈴木実(Makoto Suzuki)が2001年に留学し、高橋孝夫(Takao Takahashi)が2002年6月に同じ研究室に留学した。日本では別の大学・系列なので先輩後輩関係はなかっただろう。鈴木実は高橋孝夫より約2歳年上である。留学が先で、年齢は上なので、鈴木実の方が立場が上だったと思われる。

データねつ造と認定された最初の論文は2004年5月出版で、高橋孝夫が第一著者で、研究公正局の報告では、不正実行者は高橋孝夫である。鈴木実は不正に関与していない。

鈴木実(Makoto Suzuki)がガズダー研究室で最初に論文発表したのは、その7か月前の2003年10月の以下の論文である。この論文では鈴木実は第三著者だ。高橋孝夫(Takao Takahashi)は共著者に入っていない。

翌月の2003年11月に、鈴木実(Makoto Suzuki)は第一著者の論文を発表している。高橋孝夫(Takao Takahashi)は共著者に入っていない。

そして、2004年5月の高橋孝夫が第一著者の不正論文(不正は高橋孝夫が実行者)は、鈴木実(Makoto Suzuki)が共著者に入っているが、鈴木実にとって、ガズダー研究室での8報目の論文である。

時間軸で見ると、この、2004年5月の不正論文で、高橋孝夫はデータねつ造を始めた。鈴木実は、この高橋孝夫のデータねつ造を見て、米国留学の先輩で年上にもかかわらず、高橋孝夫の不正行為を追従したと受け取れる。

この時、「朱に交わらず」、高橋孝夫に注意や警告を発すればよかったのにと思う。鈴木実は、既に論文を7報も出版していたのだから、論文数を増やす必要性はさほど強くないハズだったろうに。

【防ぐ方法】

高橋孝夫(Takao Takahashi)の項を参照

【白楽の感想】

《1》論文博士の欠陥?

論文博士は外国にはないシステムで、論文さえ出せば博士号が取得できる日本独特のシステムである。だから、学ぶ態度が軽減されている。講義を通して、「研究とは何か?」を学び・考え・議論する時間は少ないと思われる。だから、研究の基本が習得できにくい。もちろん、全員がそうではないが、そういう傾向があるように思う。

日本は論文博士制度を廃止すると言いながら現在もかなりの人が取得している。2014年だと789人が博士号を取得し、内、117人が論文博士である。

論文博士を取得する過程で、研究規範を習得する機会はない。鈴木実は論文博士だが、米国の同じ研究室でデータねつ造を働いた高橋孝夫(Takao Takahashi)も論文博士である。

論文博士だから研究ネカトをしてしまう傾向が強いのだろうか?

以下の米国ポスドクの4人の研究ネカト事件では、論文博士が2人、課程博士が2人で、論文博士が特に研究ネカトをする傾向はない。

鈴木実(Makoto Suzuki):医師、論文博士
高橋孝夫(Takao Takahashi):医師、論文博士
田仲和宏(Kazuhiro Tanaka):医師、課程博士
藤田亮介(Ryousuke Fujita):課程博士(薬学)

より多数の統計的データが必要だろう。

《2》米国留学先の仲間

米国留学先での研究者同士の付き合いは、相手の素性がよくわからないので難しい面がある。

自分の経験でも、とても有益だった人と、悪いこと学んだ人がいた。悪いことは、本人(白楽)が拒否すればよかったのだが、白楽は意志薄弱である。「朱に交わりピンクになった」。

《3》処罰

鈴木実は、2011年(46歳)に熊本大学・教授に就任し、医局が動き出した2012年にテキサス大学がねつ造疑惑を表明し、その2年後の2014年12月19日(49歳)、米国・研究公正局がクロと判定した。

鈴木実(Makoto Suzuki)のダメージは大きいだろう。しかし、これは自分が蒔いた種だから仕方ない面もある。

鈴木実(Makoto Suzuki)の研究不正を知らずに教授として採用した熊本大学、医局に入った医局員、これら両者は、もともと責任がないのに大きなダメージを受けている。

2015年5月8日現在、熊本大学は、鈴木実の処分を発表していない。時間を延ばせば延ばすほど鈴木実と熊本大学のダメージは大きくなる。熊本大学は、何らかの態度表明をすべきだろう。まさか、調査していないのだろうか?

選択1案・・・ほぼ同じ不正をした高橋孝夫・岐阜大学・講師は4論文の不正で停職6か月の懲戒処分を受けた。これを参考にする。鈴木実は6論文の不正なので、処分を少し重くする。

選択2案・・・鈴木実は米国で処分を受けている。熊本大学で不正研究をしたわけではないので処分しないという選択案である。教授採用人事で、虚偽の書類が提出されたわけではないし、採用後に撤回された論文を差し引いても、教授人事の結果に変わりがないとする(推定)。岐阜大学の高橋孝夫の処分とは異なるが、岐阜大学が間違って、「ヤリスギた」と判断した、ということにする。

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【事件の深堀】

★事件化が遅すぎるのは?

dr_03高橋孝夫は、2002年6月‐2004年6月に米国に留学している。その間の研究を基に出版した2004‐2006年の3論文と2010年の1論文が高橋孝夫がねつ造・改ざんをした不正論文だと認定された。

2012年8月、高橋孝夫の帰国から8年2か月も経過して、米国のテキサス大学は、岐阜大学に研究ネカトの調査を依頼した。その4か月後の2012年12月に、最初の論文が撤回されている。そして、その2年後の2014年12月19日に米国・研究公正局の報告書が発表されている。

2004年6月に米国から帰国後、高橋孝夫は、8年2か月、岐阜大学で真面目(推定)に勤務していた。それが、ある日突然、音を立てて崩れていく。8年2か月の間、さらに進めた研究、指導された学生・院生、治療された患者はかなりの数に及ぶだろう。事件化が遅すぎて、社会システムとしておかしくないか?

★誰がどのようにデータねつ造に気が付いたのか?

2012年8月に調査の依頼がきたということは、その半年前くらいに、データねつ造・改ざんの疑念が発生したのだろう。

最新の不正論文は、調査以来の1年8か月前の2010年12月の「Anticancer Res」論文である。日本に帰国した高橋孝夫が米国留学先のボスであるガズダーを共著にした論文だ。

2010年12月に出版された論文を見て、テキサス大学の誰かが画像の不正に気が付いたのだろう。そして、高橋孝夫のテキサス大学・ガズダー研究室の過去の論文を洗い出したのだろう。洗い出した結果、2004‐2006年の3論文に不正画像を見つけた。

この時、他の論文にも不正画像を見つけ、調査を進めた。すると、不正実行者は高橋孝夫だけではなかった。同時期にガズダー研究室に滞在した日本人研究者(マコト・スズキ、鈴木実(Makoto Suzuki))も不正実行者だったのだ。

2014年、研究公正局は、高橋孝夫と鈴木実の両名をクロと報告している。なお、鈴木実は別の記事に書いた。

★ボスのガズダーおよび研究室員はどうしてデータねつ造に気が付かないのか?

世界変動展望」が示した具体例では2005年7月論文の画像が2006年2月論文に再使用されている。両方とも高橋孝夫が第一著者である。画像の再使用は一目瞭然で、隠ぺいする工夫や操作がない。

だから、当時(2006年2月論文の原稿作成時)、11人もいる共著者の誰かが少し真面目に論文を読めば、画像の再使用にすぐ気が付くハズだ。原稿をジャーナルに投稿する前に気が付くだろう。

それがなかったということは、11人もいる共著者の誰もが、ボスのアディ・ガズダー(Adi Gazdar)教授を含め、原稿作成時、自分の論文だというのに真面目にチェックしなかったということだ。

イヤ、そうではないかもしれない。以下は妄想である。

15476_web当時、ボスのアディ・ガズダー(Adi Gazdar、写真出典)教授は知っていたのではないだろうか?

ガズダー研究室では、画像の使い回しが黙認されていたのではないだろうか? 公式に聞けば否定されただろうが、「まあ、適当に使い回していいんじゃない」と、安易に考えていた研究室ではないだろうか。

それが、時代が変わって、研究ネカトが厳密にチェックされるようになった。その変化を察知して、ガズダー教授は自分の身を守るために、2012年、昔の仲間を売ったのではないだろうか? 研究室の誰かに、高橋孝夫の論文に画像の使い回しがあるのと気付かせるのは、簡単だ。

というようなことはないでしょうね。以上は妄想ですよ、妄想ですって。

★なぜ、岐阜大学が8年以上前の米国留学中の調査をしたのか?

ここで挙げた研究ネカトは、高橋孝夫が米国のテキサス大学に在籍中の行為だ。だから、米国のテキサス大学が調査し、米国・研究公正局が調査した。米国・研究公正局の2014年12月19日付けの報告書にもそう書いてあり、岐阜大学の調査など一言も触れていない。

岐阜大学は、「3年前、留学先の研究室から通報があり大学で調査をしていました」と述べている(岐阜大学講師研究不正で停職 – NHK岐阜県のニュース)。

調査の結果、「アメリカに留学して研究していましたがその成果をまとめた医学関係の4本の論文で不正を行っていたと言うことです」は、しかし、岐阜大学の調査結果としておかしくないか?

3年間、何をどう調査していたのだろうか? テキサス大学と米国・研究公正局の「調査結果を待っていた」だけではないのだろうか? 米国留学中の件はテキサス大学と米国・研究公正局に任せ、岐阜大学での研究ネカトを調査するのが本来の調査でしょうに。岐阜大学での論文については一言も述べていない。

なんか、オカシイ。ニュース記事なので省略されているのかもしれないが・・・。

★岐阜大学は、岐阜大学での論文を調査していないのか?

2012年8月に米国から指摘されて、岐阜大学は米国がらみの論文だけを調査したようだが、他の論文に研究ネカトの可能性はないのか?

2004年6月に米国から帰国後、8年2か月も経過して、2012年8月、不正と指摘されるまで不正と知らなければ、8年2か月の間、人間は同じことをするハズだ。不正と知っていても、この程度なら構わない、バレないと、人間は同じ不正をするハズだ。

岐阜大学は、高橋孝夫の米国から帰国後の研究論文を調査したのだろうか? また、米国渡航前の論文も調査したのだろうか? 調査したという記述が見当たらない。

どうもヘンだ。

【防ぐ方法】

《1》 日本でOKでも米国で違反

日本人が米国で起こした事件である。

経験と知識と勘で言うと、欧米で研究する時、「欧米での研究規範・研究スタイル」を知らない危険な日本人研究者たちがいる。

研究規範で言えば、「日本の常識、世界の非常識」という部分がある。一般的に、日本では研究規範教育がされていないし軽く扱われている。医師の場合、研究そのものの訓練が貧弱なケースもある。

だから、予防の第一は、日本の研究規範レベル全体を欧米並みに引き上げておくことだ。

このことはすぐには達成できないので、予防の第二策を考える。

第二策は、ポスドクとして欧米に渡る前に、当面の間、大学・研究機関は、研究規範に関する特別研修(電子版でも良い)を制度として義務づけることだろう。特に医師の場合、必修にすべきだ。研究不正の発覚による本人及び日本の所属大学・研究機関のダメージは、相当大きいことを肝に銘じたほうがよい。

【白楽の感想】

《1》「一事不再理」?

日本の法律では「一事不再理(いちじふさいり)」という決まりがある。

ある刑事事件の裁判について、確定した判決がある場合には、その事件について再度、実体審理をすることは許さないとする刑事訴訟法上の原則。根拠は憲法39条とされ、刑事訴訟法337条、338条、340条に具体例がみられる。(一事不再理 – Wikipedia

米国で研究ネカトをし、米国では処分された事件である。それを、日本で再び処分する権利があるのだろうか?

なお、『刑法』第3条に、国外において日本国民が犯した犯罪について、どういう犯罪を処罰することが出来るかが規定されている。

第三条 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。
三 第百五十九条から第百六十一条まで(私文書偽造等、虚偽診断書等作成、偽造私文書等行使)及び前条第五号に規定する電磁的記録以外の電磁的記録に係る第百六十一条の二の罪
十四 第二百四十六条から第二百五十条まで(詐欺、電子計算機使用詐欺、背任、準詐欺、恐喝、未遂罪)の罪

法律上、日本人が米国で犯した研究ネカトは、日本でも処罰できるようだ。

そもそも、「一事不再理(いちじふさいり)」は、米国での処罰には適用されない。

日本の国内法においては、他国の裁判所で無罪が確定している事件を日本で訴追することは一事不再理の範囲に含まれず、あくまで日本の裁判所において無罪が確定していることが必要である。(一事不再理 – Wikipedia

しかし、日本人が米国で犯した研究ネカトを、日本でも処罰するのは妥当だろうか?

英語で既に「報道刑」が科されている。日本でもそれを受けてブログや記事が作られるので、日本語でも「報道刑」が科される。

日本で「3年間の研究費申請不可」程度が妥当で、岐阜大学が、高橋孝夫を停職6か月の懲戒処分にしたのはヤリスギだと思う。

《2》研究公正局のペナルティは外国人には無力

米国のポスドクとして研究ネカトをした場合、生命科学だと米国・NIHからポスドク経費が支給されていることが多い。この場合、米国・研究公正局が調査に入り、クロの場合、実名報告され、数年間の米国政府関連の業務や研究費申請ができない(「申請不可」:Voluntary Settlement Agreement)。高橋孝夫は、2014年8月26日から3年間の「申請不可」を承諾している。

しかし、この「申請不可」処分は日本に帰国した日本人には、ほとんど効力がない。高橋孝夫にとって、痛くもかゆくもないだろう。日本人が日本から米国・NIHに研究費を申請することはとてもマレである。「申請不可」処分を科されなくても、申請しないだろう。

日本人にとって苦痛なのは、米国で実名で報告された「報道刑」、岐阜大学からの停職6か月の懲戒処分、日本のメディアでの「報道刑」だろう。

研究費申請ができない「申請不可」は、米国人には研究者としてキャリア―を積むのをあきらめさせるほどの効力があるが、日本人を含め外国人にはほとんど効果がない。米国はこのことをもっと良く考えるべきだ。

ただ、米国・研究公正局が科せる処罰には何があるだろうか? 研究公正局は、NIHが研究助成した研究の研究公正をウンヌンする権限しかないので、逮捕・投獄などはできない。訴追もできない。研究助成しないという処罰になってしまう。

800px-Sen_Chuck_Grassley_official[1]コロンビア大学名誉教授のドナルド・コーンフェルド(Donald S.Kornfeld) はに、「チャック・グラスリー(Chuck Grassley)上院議員なら、不正に関連した研究費を研究助成機関に返還するよう大学に要求すべきだ、と言うに違いない」とコメントしている(【主要情報源①】の2014年9月18日)。

グラスリー上院議員は右の写真、ドンピョウ・ハン(Dong-Pyou Han)を参照。

白楽は、「返せばいいんだろう」では不十分だと思う。

研究費支給に際して審査した費用、不正の調査費用などの経費がかかっている。それに、罰金を科す意味を含め、支給額の「倍返し」、つまり、支給総額の2倍の返還を課すことを提案したい。なお、支給総額が10億円などの場合は、「倍返し」はヤリスギなので、支給総額が2千万円以上の場合は、「支給総額+2千万円」とする。つまり、不正と判定されると、1件で最低2千万円の特別支出があるということになる。2千万円が少なければ5千万円でもいい。

そうすれば、研究機関は、研究ネカト対策に本腰を入れるだろう。税金を払っている国民の不満も和らぐ。それに、そもそも、「支給総額+2千万円」または「倍返し」の処置は、社会的に公正と思える。

《3》研究記録の保存期間5年は短かすぎる

米国滞在中の研究記録はどうなっているのか? 日本語で記録していたのか、英語で記録していたのか? それとも記録していなかったのか?

米国のテキサス大学は、岐阜大学に研究ネカトの調査を依頼したのは、テキサス大学に生データや研究記録が残っていなかったからだろう。それでも、論文は出版されているので、論文中の図が不正であることは明白だ。研究室の誰がその図を提供したかもすぐにわかるだろう。しかし、生データや研究記録が残っていなかったのだろう。

一般に、研究記録のあり方を大きな問題としないが、どのような形の記録をつけ、どう保存するのか? 基準がない。基準を決めるべきだろう。

保存期間に関しては、通常の保存期間が5年間だとすると、今回は、保存期間は過ぎている。一生保存に変えるべきだろう。

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《1》捕食出版社を取り締る

研究ネカトを減らすには、従来、研究システムや研究者側を対象に対策をたててきた。白楽も、「①研究ネカトをほぼ100%発見する」「②不正者を厳罰に処分する」の2セットで対応すべきだと主張してきた。なお、日本はどちらも「いい加減」なのが問題だが、本題とズレるのでここでは触れない。

しかし、世の中にねつ造論文・不正論文でも出版する捕食出版社(predatory publisher)がたくさんあるとなると、研究システムや研究者側とは別次元の取り締まりが必要だ。

捕食出版社に原稿を送付するのは研究者である。捕食出版社が増加しているということは、そういう研究者が増加しているということだ。だから、研究者側を対象に対策をたてるのも効果はあるが、出版社側を対象に対策をたてることもしないと、研究ネカトは減らないだろう。

そもそも、捕食出版社の存在だけでも、社会からも学術界からも論文と研究(者)への信頼が大きく損なわれる。

アーサー・キャップラン教授が提案するように、関係者は早急に対策をたてるべきだろう。

例えば、論文出版母体を自由に設置させず、認定制にするのはどうだろう。あるいは、研究助成機関・大学・研究機関は、助成金申請書や人事書類に、指定したジャーナル以外の論文を論文業績リストに記入してはいけないという制度をつくる、などだ。

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《1》60代の著名学者がなぜ?

ブルース・マードック(Bruce Murdoch)のように、既に確立した著名な学者が60代になって、なぜデータねつ造論文を出版したのだろう? 普通に考えると、その意図はわからない。

20代後半の美女・キャロライン・バーウッド(Caroline Barwood)の色香に迷ったのだろうか? 色香に迷って応援したかったとしても、他の方法はいくらでもある。研究ネカトはバッドチョイスで致命的なことぐらいわかりそうなものだ。

別の理由があるのだろうか?

データねつ造が患者数のデッチあげだとすると、クイーンズランド大学は他に不正はないと結論しているが、従来の論文でも同じ不正をしていた可能性は高い。

B1uTebLCAAA2KRxキャロライン・バーウッド(Caroline Barwood)。妊娠しているの? 写真出典

《2》データねつ造と論文結論

論文中の患者数がデッチあげのデータねつ造論文でも、パーキンソン病患者に治療を試みたこと自体はねつ造ではないようだ。

その仮定に立つと、「経頭蓋磁気刺激法がパーキンソン病患者のコミュニケーション(話す)の改善に有効」だという論文の結論は、どう扱えば良いのだろう? 結論は間違っているのか、いないのか?

他の研究者が治療法の有効性を決めていくことになるだろうが、それは問題が幾分異なる。

患者数を正しく記載しても多めに改ざんして記載しても、論文の結論は、多くの場合、変わらない。こういう場合、どうするのが適切なのだろう。

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【防ぐ方法】

《1》 盗用検出ソフト

何度も書くが、盗用は証拠が明白に残る。原典と照らし合わせれば発覚は容易である。さらに、最近は盗用検出ソフトが普及してきたので、機械的に盗用を検出できる。だから、盗用はバレる。盗用は損だ。

盗用する側は、盗用がバレないと甘く見ている。盗用はバレることを、研究者に徹底的に伝えることで、研究者の盗用防止に効果があるだろう。

また、被盗用者にならないためには、盗用がいつ発生するかわからないので、研究者は常日頃、研究記録をつけ、重要なオリジナル資料は廃棄しないで保管しておくスキルを身につけなくてはならない。そうしないと、自分がオリジナルであるという証明が難しくなるかもしれない。

盗用側は、現実的には、「間違い」で盗用することはあり得ない。他人の文章を10行~20行ほど独立で流用した場合、引用符と引用を忘れたと言い訳するのが関の山だ。

盗用文章やデータを、自分の文章に組み込んだ場合や大規模なコピー・ペーストなら、盗用が明白である。言い訳は成り立たない。

だから、大学院生や研究者に、盗用は証拠が残る・バレる・処分が重い、損だとシッカリ伝えることが盗用を防ぐのに有効だろう。

それを承知かどうかわからないが、盗用する人は後を絶たない。だから、常時、研究文書に研究ネカトがないか監視することも必要だ。日本にはそういう組織はないが、海外にはある。

【白楽の感想】

《1》 不明点が多い

マークス・チャベディ(Marks Chabedi)の写真や経歴の情報が見つからない。いつ大学教授の職を得たのかわからない。事件の詳細もわからない。どうして盗用したのかもわからない。この事件からは、盗用を防ぐ方法も見いだせない。

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《1》不明点多し

1458446_10152097597743809_1148432137_nどの論文の何が不正研究だったのか不明である。発覚の経緯も不明である。

米国・研究公正局ニュースレターに掲載されているので、米国・研究公正局で調査されたと思われるが、その内容も不明である。

そもそもイスラエルの大学の人類学教授が、米国・研究公正局で調査された理由さえ不明である。ワイスは、米国・NIHの研究費を受給していたのだろうか? NIH研究費のデータベースで検索してもヒットしなかった(サイト:Query Form – NIH RePORTER – NIH Research Portfolio Online Reporting Tools Expenditures and Results)。

2005年頃の事件は、情報が得にくい。地元メディアが報道しないと、状況がつかみにくい。

《2》情報源の非開示

ある種の業務(報道など)では、ワイスの主張するように情報源の秘匿は重要である。しかし、研究業務ではどうだろう? そして、データねつ造の疑念がある場合、調査委員会に生データの提供をすべきなのか、すべきではないのか?

ワイスのような研究では、情報源がわかっても、情報提供者に大きな犠牲(逮捕、失職、信用喪失など)がないと想定される。この場合、研究不正の調査を優先すべきである。もちろん、研究不正の調査以外に情報を外部に漏えいしませんという取り決めは必要だろう。

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【事件の深堀】

★研究ネカトを裁判に持ち込む

研究ネカトを裁判で争うケースが増えてきた。

しかし、どうなんでしょう?

裁判所は言動が法律に適合しているかどうかを判断をする場所であって、研究規範のあるべき姿を議論する場所ではないと思う。正義の判定を下す場所でもない。そして、研究規範事件では、研究規範に関する法律が米国でもほとんど整備されていない。

研究ジャーナルと研究者がガチンコで抗争する場合、誰がどういう権限で裁定し、交通整理できるのだろう?

研究や科学技術の体制や内容を扱うことに特化した裁判所(の部局)を設け、そこで最終決着をつけるのはどうだろう?

【白楽の感想】

《1》 研究者の処分

http://spressosp.com.br/2013/07/14/mario-saad-aluno-de-universidade-publica-deve-retribuir-o-investimento-a-sociedade/

研究ジャーナルが研究ネカトを犯した研究者に科せるペナルティは、論文撤回と原稿受理の拒否しかない。これは、研究者によっては打撃は少ない。

学会は、学会員の除名処分しかない。これは、研究者には打撃がほとんどない。

研究助成機関は研究費を支給しない。これは、多くの研究者にとっては死活問題だが、特定の研究者には打撃は小さい。もともと支給されていない研究者の方が多いのだから、今さら、支給しないと言っても痛くない。

研究者にとって大きな打撃は、メディアで報道され、報道刑が科されることだ。不正という疑念段階でも、記事で「疑わしい」と書かれるだけで、メンツがつぶれ、信用が失われる。

そして、研究者にとって実質的に大きな打撃は、所属組織(大学・研究機関)からの解雇である。これは、大変である。

出典不明

さらに、医師の場合、医師免許の取り消しをすれば、打撃はさらに有効性である。

最終的には、裁判で実刑判決が出ることだ。これが究極な罰で、実刑なら犯罪者となる。

今回のように、研究ジャーナルがクロと判定し、所属大学がシロと判定すると、大きく混乱する。学術界のルールと秩序は成り立たない。しかも、研究ジャーナルは米国で、所属大学はブラジルと、国をまたぐとさらにヤヤコシイ。

一般に、研究ジャーナルは調査能力が高く、公正性も高い。対して、大学は研究ネカトの調査能力が低く、公正性は低い。

日本にはないのだが、国家的な研究公正組織が必要である。そして、さらに、事件が国をまたぐので、国際的な研究公正組織も必要である。

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https://www.youtube.com/watch?v=4SrXLrAdN9o

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【事件の深堀】

★クレア・フランシス(Clare Francis)の指摘

研究ジャーナル「J Cell Biol.」編集部はノーコメントだが、2013年2月15日、クレア・フランシス(Clare Francis)が研究ジャーナル編集部に2008年論文のねつ造・改ざんを電子メールで指摘していた。

少し長いけどクレア・フランシスの電子メール文を英語のママ、全文引用しよう(出典:【主要情報源】①)。

なお、英文を読み解く必要はありません、全体を眺めてください。クレア・フランシスの指摘の詳細さを伝えるのが主眼です。

———-引用開始———-
From: clare francis
Date: Fri, Feb 15, 2013 at 1:53 AM
Subject: concerns image confusion J Cell Biol. 2008 Jul 14;182(1):103-16.
To: Liz Williams
Cc: redacted@rockefeller.edu

concerns J Cell Biol. 2008 Jul 14;182(1):103-16. doi: 10.1083/jcb.200712078. Epub 2008 Jul 7.
Calreticulin inhibits commitment to adipocyte differentiation.
Szabo E, Qiu Y, Baksh S, Michalak M, Opas M.

Source

Department of Laboratory Medicine and Pathobiology, Institute of Medical Sciences, University of Toronto, Toronto, Ontario M5S 1A8, Canada.

Figure 1.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/core/lw/2.0/html/tileshop_pmc/tileshop_pmc_inline.html?title=Click%20on%20image%20to%20zoom&p=PMC3&id=2447897_jcb1820103f01.jpg

Figure 1C. PPARgamma2 panel. Light, vertical streak between the bands in the middle lanes.

L32 panel. Splicing between the middle lanes.

No splicing in the aP2 panel.

Figure 1E. CRT panel. The band in the left lane looks like it is one its own rectangle of background. 

Figure 3.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/core/lw/2.0/html/tileshop_pmc/tileshop_pmc_inline.html?title=Click%20on%20image%20to%20zoom&p=PMC3&id=2447897_jcb1820103f03.jpg

Figure 3C. Left-most PPARgamma2 panel. Suspect that the band in the right-most lane has been spliced in. The band has a vertical, straight left edge.

I think that the 3rd and 4th GAPDH panels in the left set of indiviual GAPDH panels are vertically compressed versions of the bands in the middle GAPDH panel above and to the right of them.

Left L32 Panel. Splicing between the 1st and 2nd lanes. Vertical dark streak. Possible splicing between 3rd and 4th lanes.

I think that the band in the L7crt-/- lane of the +BAPTA-AM L32 panel is very likely the same as the band in the L7 lane of the Untreated L32 panel. Note the dark area just above the left ends of the bands.

Figure 4.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/core/lw/2.0/html/tileshop_pmc/tileshop_pmc_inline.html?title=Click%20on%20image%20to%20zoom&p=PMC3&id=2447897_jcb1820103f04.jpg

 Figure 7D. I suspect that the bands in the right C/EBPalpha panel are vertically compressed versions of the bands in the right PPARgamma2 panel. I am aware that bands of proteins about the same molecular weight may be similar, but not the same. The distribution of signal with the C/EBPalpha and PPARgamma 2 bands is very similar.

The GAPDH panels that accompany the C/EBPalpha and the PPARgamma2 panels contain quite different bands so it is odd that the bands in the PPARgamma2 and E/CBPalpha panels should be similar even.

Figure 7E. 

The left-most (Untreated) figure 7E L32 panel is highly reminiscent (likely the same) as the left (Untreated) L32 panel in figure 3E, yet the genotypes are different. Note the dark area just above the left ends of in the bands in the left lanes of both panels and the general distribution of light areas with the other bands.

I think that the band in the G45-/- lane of the KN-62 treated figure 7E L32 panel is the same as the band in the L7 lane of the +BAPTA-AM L32 panel in figure 3E. Note the white squiggle, almost like a signature above and just to the right of the middle of the bands.

L7+/- lane 7E is same as L7crt-/- lane 3E.

L7-/- lane 7E is same as WT lane 3E.

Within figure 7E L32 panels.
KN-62 treated L7+/- lane is same as Untreated CGR8+/+ lane.
KN-62 treated CGR8+/+ lane is same as Untreated G45-/- lane.

I think that the images are at the point where they do not make sense.
———-引用終了———-

★クレア・フランシス(Clare Francis)とは、何者?

さて、クレア・フランシス(Clare Francis)とは、何者なのか?

実は、クレア・フランシス(Clare Francis)は、覆面告発者である。人物は特定されていない。

clare%20francis%20full%20body2010年以降、クレア・フランシス(Clare Francis、写真出典:What to Do About “Clare Francis” | The Scientist Magazine)という名前で公益通報をする覆面人物である。男性なのか女性なのか、個人か団体かは不明である。なお、告発サイトのパブピア(PubPeer)も同様に匿名人物によって運営されている。

クレア・フランシス(Clare Francis)は既に数百通の電子メールをいろいろな研究ジャーナルの編集部に送付している。研究ネカトの指摘を間違えたこともあるが、正しいことが多い。彼女の公益通報を元に調査をはじめ、今まで、数百報の論文が撤回・訂正されている。

クレア・フランシスなど匿名の公益通報者の指摘にどう対応するかは、編集部の判断で、無視を決め込む編集部もある。というのは、研究ネカトの調査にはかなりの時間・エネルギーがかかるし、高い調査能力も必要である。

クレア・フランシス(Clare Francis)関連の出典:①What to Do About “Clare Francis” | The Scientist Magazine®、②Clare Francis (science critic) – Wikipedia, the free encyclopedia、③It’s not that Clare Francis is a pseudonym; it’s that the pseudonym is Clare Francis | Elsevier Connect、④Research ethics: 3 ways to blow the whistle : Nature News & Comment

【白楽の感想】

《1》 「J Cell Biol.」は厳格

研究ジャーナルの「J Cell Biol.」は研究ネカトに対して先駆的で模範的なジャーナルである。2004年に、ウェスタンブロットや細胞画像のねつ造・改ざんの基準を具体的に示し、無料公開している(1‐3‐2‐5.「改ざん」の具体例2:画像操作 | 白楽ロックビルのバイオ政治学)。

mike_rossner当時の編集部長だったマイク・ロスナー(Mike Rossner、写真出典)の見識の高さが大きく貢献している。彼が研究ネカトをしっかり取り締まったので、その後、「J Cell Biol.」誌は、図やデータが公正、厳格で優れているという評判がある。

しかし、研究ネカトや研究クログレイへの対処にいい加減な研究ジャーナルはたくさんある。

研究ジャーナルにこの格差があるのは望ましくない。

研究分野・手法・内容など研究哲学・内容に研究ジャーナルの特徴があってもよいが、研究ネカトや研究クログレイに対して、全部の研究ジャーナルは統一的な基準で運営することが望ましい。

そうなると、研究ネカトや研究クログレイへの対処を各研究ジャーナル編集部に任せるのではなく、もっと上位組織、あるいは研究ジャーナル組合などが、統一的な基準を設けるべきだろう。

《2》 クレア・フランシス(Clare Francis)は興味深い

クレア・フランシス(Clare Francis)は、ユニークだ。日本は、「論文捏造&研究不正 (JuuichiJigen)」など、匿名サイトが多く、白楽は匿名での公益通報活動に問題点を感じるているが、現実には匿名も1つの方法であることは認める。

研究ネカトや研究クログレイの公益通報のあり方を、もう一度しっかり考えねばならない。

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《1》 不明点多し

事件の全貌がつかみにくい。

モントリオール心臓研究所は調査委員も調査報告書も公表していない。研究ジャーナル編集部(Journal of Biological Chemistry:JBC)も不正部分を公表していない。

ワンは中国に帰国し、中国での状況がつかみにくい。

科学メディアも大衆メディアも事件の詳細を報道しない。

これでは、事件の全貌がつかみにくい。不正防止や社会改善にならない。情報の不開示を罰する法律が必要だ。

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ジーグオ・ワン、王志国(Zhiguo Wang)、出典:Chinese scientist Wang Zhiguo investigated for misconduct|WantChinaTimes.com

《2》 不正の王国・中国

中国で生まれ育ち、欧米で研究する研究者は膨大な人数に登る。だが、中国は不正の王国と認識されている。渡航先の欧米で不正をする研究者は多い。欧米流な研究規範を尊重することが重要だという価値観・研究文化が、中国には充分に育っていないからである。

ただ、研究規範の改善に取り組んでいる人ももちろんいる。

Fang_Zhouzi有名な人は、サイエンスライターのゾウジ・ファン(方舟子、Fang Zhouzi、写真by 美国之音海涛拍?、出典)である。彼は、2000年からウェブ上で、中国の研究ネカトを記事にし、批判してきたが、ヒドイ攻撃も受けている(China’s Scientific & Academic Integrity Watch)。

なお、ゾウジ・ファン(方舟子、Fang Zhouzi)は、1967年9月28日に中国に生まれ育ち、1990年に中国科学技術大学を卒業した。1995年に米国・ミシガン大学で生化学の研究博士号(PhD)を取得している。(Wikipedia, the free encyclopedia)

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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