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ワンポイント:日欧米で頻発している幹細胞治療不正のイタリア版
【追記】
・2018年5月22日記事:Conte was lawyer for Stamina girl (2) – English – ANSA.it
●【概略】
ダビデ・ヴァンノーニ(Davide Vannoni、写真出典)は、イタリアのウーディネ大学(University of Udine)・教授で、専門は心理学だった。大学・大学院の専攻は経済学で、生命科学の経験はなく、医師ではない。
2007年、幹細胞をレチノイン酸に短時間浸すことで神経細胞に分化させ、難病神経疾患の患者(約半数は子供)の体内に移植・治療するスタミナ療法(stamina therapy)を医療起業家として開始した。科学論文を出版せず、テレビ番組で宣伝し、多数の熱心な支持者を獲得した。
医師ではないので、美容サロンで実施し、治療費ではなく寄付という名目で、1人、2万~5万ユーロ(約200万~500万円)をもらった。その後、小児科医の協力を得て、スタミナ療法は公的にも認められた。イタリア政府はスタミナ療法に対して臨床試験助成をし、医療保険も支払った。
しかし、スタミナ療法の実態を知る幹細胞の専門家はスタミナ療法はインチキだと主張してきた。
2014年10月2日、イタリア政府はスタミナ療法には科学的根拠がなく、認めないと結論した。
2013年3月23日、イタリア・ローマに数百人のスタミナ療法支持者が集まり、規制反対のデモを行なった。若い母親は裸体にヴァンノーニ支持と書き、病気の子供の写真を掲げて規制に反対した。写真出典(【主要情報源】③) Benvegnù/Guaitoli/Cimaglia/Jpeg FOTOSERVIZI
【動画】
「スタミナ療法についてヴァンノーニにインタビュー(Intervista a Davide Vannoni – Metodo Stamina -) YouTube」(イタリア語)3分44秒。
Lidia Manciniが2013/09/10 に公開
- 国:イタリア
- 成長国:イタリア、英国
- 研究博士号(PhD)取得:イタリアのトリノ大学。経済学
- 男女:男性
- 生年月日:1970年7月15日
- 現在の年齢:54 歳
- 分野:幹細胞
- 最初の不正:2007年(37歳)
- 発覚年:2009年(39歳)
- 発覚時地位:イタリアのウーディネ大学・教授
- 発覚:幹細胞の専門家
- 調査:①イタリア医薬品庁(Italian Medicines Agency:AIFA)。②イタリア政府の第一次諮問委員会。③イタリア政府の第二次諮問委員会。④ネイチャー編集部
- 不正:錯誤、詐欺、ねつ造
- 不正論文数:なし。論文発表なしでインチキ療法を実施
- 時期:研究キャリアの中期から
- 結末:辞職なし
●【経歴と経過】
- 1970年7月15日:イタリアのトリノで生まれる。1967年生まれという記述もある
- 1993年(23歳):イタリアのトリノ大学(University of Turin、イタリア語でUniversità degli Studi di Torino)を卒業。専攻は経済学
- 1997年(27歳):英国のイースト・アングリア大学(University of East Anglia)で修士号取得。専攻は経済学
- 1999年3月5日(28歳):イタリアのトリノ大学で研究博士号(PhD)取得。経済学。博士論文タイトル“Diversification Strategies: theoretical perspectives and empirical analysis”
- 1999年4月~1999年10月(28~29歳):トリノ大学の研究助手。経済学
- 1999年11月1日~2001年9月30日(29~31歳):パビア大学の研究員。政治経済学
- 2001年10月1日(31歳):トリノ大学の研究員
- 20xx年(xx歳):イタリアのウーディネ大学(University of Udine)・教授。心理学
- 2007年(37歳):幹細胞を神経細胞に分化させ移植し神経疾患を治療するスタミナ療法(stamina therapy)を開始。
- 2009年(39歳):スタミナ療法(stamina therapy)を行なうスタミナ財団(Stamina Foundation)を設立。このころから、療法が科学的にインチキだと指摘され、イタリア社会で紛糾し始める
- 2011年10月1日(41歳):トリノ大学・教授。経済社会科学
●【日本語の紹介記事】
★「生命科学系研究者のためのジャーナルガイド」(2015年12月、.1巻、15ページ)。修正引用する。
ビタミンA酸に2時間浸し培養すれば骨髄細胞を神経細胞に変えることができると主張したイタリアのStamina財団が進めた幹細胞治療です。さらに、これらの細胞を、患者の体内に注入すると、神経の損傷を治すことができるということでした。
けれども、イタリアの保健省(Ministry of Health)は、Stamina財団による幹細胞治療は十分な論理的・実用的基盤に欠け、根拠がないと判断しました。
(http://www.editage.jp/insights/sites/default/files/Life%20Science%20Jounarl%20Guide%20light.pdf)
★食品安全情報blog その1
「食品安全情報blog」にも日本語の解説がある。修正引用する。(幹細胞:疑似科学に反対する立場に立つ(食品安全情報blog) | うさりーぬめも)。2014年6月16日にElena Cattaneo& Gilberto Corbelliniが「Nature」に発表した記事「Stem cells: Taking a stand against pseudoscience」の翻訳のようだ。
2009年にイタリアの民間組織Stamina財団が設立され、骨髄から採取した幹細胞をレチノイン酸で処理すると神経細胞になると主張した。創始者Davide Vannoniは科学者でも医師でもないがこの細胞を注射するとパーキンソン病や筋ジストロフィーなどが治療できると主張した。彼は論文を発表したこともなく、国外の規制の緩いところに実験室を移した。
多くの科学者がStaminaのプロトコールには欠陥があり効果があるという根拠はないと指摘したがイタリアの医療保険はこの方法にお金を払い議会は300万ユーロの臨床試験費用を払うことに合意した。私たち幹細胞の専門家の多くはこの治療法に反対することに時間を費やしてきた。5月28日に欧州人権裁判所が患者には科学的根拠のない治療を受ける権利はないと判断したのが最近の勝利ではあるが安堵してはいられない。
Stamina財団の副社長が公立病院の理事代理に任命され、そこでStamina療法を子どもに行うことを裁判所が認めた。
★食品安全情報blog その2
2014年10月3日の「Nature」の記事「End of the road for rogue stem-cell therapy in Italy」がベースらしい。(http://blogs.nature.com/news/2014/10/end-of-the-road-for-rogue-stem-cell-therapy-in-italy.html)
イタリアの保健大臣Beatrice Lorenzinが[2014年]10月2日に、政府は昨年約束した議論の多い幹細胞療法を支持しないと宣言した。
専門家委員会の結論に基づくこの宣言は、この治療の開発者であるDavide Vannoniとイタリアの科学者と健康担当部門との2年にわたる苦闘にけじめをつけるものである。
この間、たくさんの患者や家族がDavide Vannoniを支持してローマの街をデモしニュースが多く報道された。
昨年[2013年]10月に専門家委員会がこの治療法はインチキだと結論していたが[2013年]12月に裁判所がこの委員会の法的根拠が違法だと判断し、大臣が今年初めに再度委員会を作って同じ結論に至った。Davide Vannoniの財団は2007年以降80人以上の重症患者、主に子どもを治療したと推定される。
(専門家が見たら明らかにインチキであっても、信じたい患者がいて政治家が政治力を行使すると大きな問題になりうる。他人事ではない) (食品安全情報blog)
●【不正発覚の経緯と内容】
★発端
ヴァンノーニは、トリノ大学の経済学の教員で、商売っ気があり、自分で市場調査会社を経営していた。
2007年(37歳)、ヴァンノーニは顔面神経麻痺に陥り、ウクライナの病院で幹細胞を用いた治療をしてもらった。その治療法をいたく気に入ったヴァンノーニは、イタリアにも同じような治療所を設け、はやりのベンチャー起業家として事業を起こそうと考えた。なお、「2007年にウクライナ」ではなく「2004年にロシア」でという記述もある。
それで、イタリアに幹細胞治療のウクライナ人専門家を2人(Vyacheslav KlimenkoとOlena Shchegelska、1人はロシア人?)呼び寄せ、トリノの自分の会社に同じ治療法を施す美容サロンを開設した。
2007年、欧州共同体は、幹細胞治療に安全性と有効性の基準を設けた。この規制から逃れるため、ヴァンノーニはイタリアより規制の緩い別の国・サンマリノ(周囲をイタリアに囲まれた小さな国:サンマリノ共和国)に美容サロンを移設した。
2007年~2009年、美容サロンという名目で、医療許可を受けずに行なっていた。
「1,000人以上の患者さんをこの方法で治療しました。20人の患者さんの回復率は70~100%でした」と書いたパンフレットを複数の病院で配って宣伝した。また、幹細胞で得られたとする不思議な癒しビデオを作って宣伝もした。68人に処置し、14人が、1人4,000~55,000ユーロ(約40~550万円)を支払っていた。
2009年、トリノ検察官のラファエラ・グアリニエロ(Raffaele Guariniello)が、幹細胞を規則以外の用途に用いているヴァンノーニを問題視した。
2009年末、多くの新聞がヴァンノーニの行為を問題だと非難した。
2人のウクライナ人の専門家はヴァンノーニの美容サロンを辞めて、ウクライナに帰国した。
この間、ヴァンノーニは、グアリニエロ検察官の追求を逃れるように、美容サロン(のちに移植センター)を、サンマリノ、トリエステ、カルマニョーラ、コモ、そしてブレシアへと転々と移転させた。
一方、ブレシアの美容センターには強力な助っ人が現れた。左の写真の、ロバート・デニーロ、いやいや、ダスティン・ホフマン・・・ではありません、小児科医のマリノ・アンドリーナ(Marino Andolina、写真出典)である。アンドリーナは、後に、名実ともにヴァンノーニの相棒になる。
ダビデ・ヴァンノーニ(Davide Vannoni)(左)と小児科医のマリノ・アンドリーナ(Marino Andolina)(右)
★攻防戦
2012年初頭、粗悪品反対団体(Anti-Adulteration Group)とイタリア医薬品協会(Italian Pharmaceutical Agency)が調査を始めた。
イタリアの大きな病院であるブレシア市民病院(Civilian Hospitals of Brescia)で、スタミナ療法は、例外的使用(expanded access、compassionate use、未承認医薬品を例外的に使用許可すること)が得られた。イタリアでは例外的使用は、他に適当な治療法がない場合、未承認療法でも終末期の患者に適用することが許されている。ただし、保健大臣の承認は必要である。なお、承認の基準が曖昧だそうだ。
2012年5月、イタリア医薬品庁(Italian Medicines Agency:AIFA)のルカ・パニ(Luca Pani)長官は、ブレシアの美容サロンの査察結果に基づき、美容サロンを営業停止処分にした。
査察によると、実験室は汚く、幹細胞が清潔な状態で取り扱われていなかった。また、スタミナ療法の施術や手順がいい加減だった。
「Le Iene」をはじめとするイタリアのいくつものテレビ番組が、スタミナ療法は絶望的な神経疾患の希望の星、夢の療法と取り上げた。患者と患者の家族は、スタミナ療法を熱狂的に応援するようになった。
そして、研究を続けなければスタミナ療法の施術や手順は改善されない。パーキンソン病(Parkinson’s disease)から運動神経病(motor neuron disease)を罹患している100人以上の患者がスタミナ療法の臨床試験の治験者に登録し、治療を待ち望んでいた。
2013年3月21日、イタリア保健大臣は、終末期の32人の患者(多くは子供)へのスタミナ療法の例外的使用を認めた。
しかし、この決定に幹細胞の専門家は驚き呆れた。スタミナ療法は医学的に厳正な試験を経ていないばかりか、その状況での医療は、患者にとって危険でもあるのだ。ミラノ大学の著名な幹細胞研究者であるエレナ・カッターネオ教授(Elena Cattaneo)は、「まるで錬金術だ」と吐き捨てた。
「いまだかつて、骨髄細胞(つまり幹細胞)を神経細胞に的確に分化させることに成功した研究者はいません」。「もし120人の患者に有効なら、世界中の患者を治すために、スタミナ療法の施術と手順を公表しなさい」。
ミラノ大学のエレナ・カッターネオ教授(Elena Cattaneo)、写真出典
イタリア政府(レンツィ内閣)のベアトリーチェ・ロレンツィン(Beatrice Lorenzin)保健大臣(2013年4月就任)。現在53 歳
2013年5月、イタリア政府はスタミナ療法を熱狂的に支援する患者団体の圧力に屈して、3百万ユーロ(約3億円)の臨床試験助成を約束してしまった。要するに、どのような治療方法を望むかは患者の自由であり、政府はその希望を尊重するという方針をとったのだった。ROARS – Italian Parliament Orders €3 Million Trial of Disputed Therapy
2013年5月15日、ダビデ・ヴァンノーニ(Davide Vannoni)のスタミナ療法を熱狂的な支持者のデモ。写真出典(【主要情報源】②)
2013年7月1日、イタリア政府の助成を受けたスタミナ療法の臨床試験がこの日に開始する予定だった。しかし、ヴァンノーニは政府の第一次諮問委員会にスタミナ療法の詳細な施術や手順を提出していなかった。それで臨床試験は遅れていたのだが、今回が3回目の遅れである。
政府の第一次諮問委員会は、保健大臣、イタリア医薬品庁(Italian Medicines Agency:AIFA)、それに各分野の専門家から構成されていて、イタリアの生命医学研究機構の「Superior Health Institute」が仕切っていた。この生命医学研究機構はイタリア版NIHで、所長のファブリジオ・オレアリ(Fabrizio Oleari、写真出典)に、ネイチャー誌がスタミナ療法に対するの第一次諮問委員会の方針を質問した。オレアリ所長は「ノーコメント」と答えた。
この前後数年間は、スタミナ療法を熱狂的に支援する患者団体と、逆に強硬に反対する科学者集団が対決していた。
2013年9月、政府の第一次諮問委員会はスタミナ療法に科学的根拠はないと結論した。イタリア政府がすでに3百万ユーロ(約3億円)も助成した臨床試験研究ではあったが、その研究に対しても研究する意義はなかったと結論した。(Stamina treatment a bust, Nature journal reports – ANSA English – ANSA.it)
【動画】
ヴァンノーニが支持者に囲まれ演説をしている(Intervento di Davide Vannoni alla manifestazione pro metodo Stamina 10-09-2013) YouTube」(イタリア語)3分34秒。
Lidia Manciniが2013/09/10 に公開
2013年12月、上記の結論にスタミナ療法サポーターはローマ市内でデモをした。脊髄性筋萎縮症 (spinal muscular atrophy)などの致命的神経疾患患者にとって、スタミナ療法が唯一の治療法だったので、政府が支援すべきだと訴えた。車椅子の患者が、善処しないなら呼吸機のスイッチをオフにすると脅かしたので、ロレンツィン保健大臣は第二次諮問員会を設けると約束した。
スタミナ療法サポーターのローマ市内デモ(Pro ‘Stamina’ stem cell treatment protest in Rome)。写真出典 by Simona Granati
2014年1月、政府の第二次諮問委員会は、しかし、というか当然だが、第一次諮問委員会の結論と同じだった。スタミナ療法に科学的根拠はないと発表した。
幹細胞の専門家は、「スタミナ療法の施術や手順には重大な不備や欠陥がある。幹細胞生物学の基本を理解していないか無視している」と述べている。「スタミナ療法の手順はウィキペディアから一部盗用したものだった」とも述べている。
【動画】
イタリア政府のベアトリーチェ・ロレンツィン(Beatrice Lorenzin)保健大臣が議会でスタミナ財団に関する答弁をしている。(イタリア語)6分34秒。
Canale25が2013/10/31 に公開
Stamina Foundation Davide Vannoni – Ministro Salute Lorenzin Video in Parlamento – YouTube
★戦後処理
2014年2月、ヴァンノーニは、ピエモンテ地域役所に対する詐欺未遂で告発された。幹細胞研究所を開設するとして50万ユーロ(約5,000万円)を借用したが、開設していないという詐欺未遂である。
2014年4月、ヴァンノーニと20人の関係者は、犯罪の共謀、詐欺、危険な医薬品の貿易と管理で告発された。ヴァンノーニはまた、医療専門性の乱用、中傷、身代わりなどの嫌疑で調査されることになった。
2014年8月、トリノの法廷は、スタミナ療法の停止だけでなくそれらの機器・設備を没収すると裁決した。この裁決は、幹細胞研究の権威というだけでなく、今や終身上院議員にも選ばれたエレナ・カッターネオが要求したものである。カッターネオは、ある程度の決定を要求できる上院議員の権限を行使したのである。
2014年10月、トリエステ医師会はヴァンノーニの右腕であった小児科医・マリノ・アンドリーナ(Marino Andolina)の医療行為を一時停止処分に科した(Stamina, altro giallo: Andolina sospeso dall’ordine dei medici – Corriere.it)。
★特許
2010年12月10日、ヴァンノーニはスタミナ療法の米国特許を出願した。http://www.google.com/patents/US20120149099
特許申請書で使用している画像は、2013年のNature誌の独自の調査によると、他人の論文から盗用したものだった(【主要情報源】②)。
特許の図を見てみよう。
以下は特許の図3だが、上記の幹細胞を処理すると、細胞が形態的に神経細胞に分化したことを示している。その下の図4はネスチン(nestin、実線矢印) とビメンチン(vimentin、点線矢印)抗体で染色した像だが、これら神経細胞特有のタンパク質が発現している。
この図3は、ロシア人とウクライナ人の2003年論文から盗用したものだと指摘された。もちろん、まったく同じ条件で幹細胞を神経細胞に分化させたなら同じ写真を使用する理屈は成り立つ(それでも盗用)。
しかし、実際は、かなり条件が異なる。ヴァンノーニはエタノールに溶かした18μMレチノイン酸で幹細胞を2時間処理した(写真右上)。
一方、ロシア人とウクライナ人の2003年論文では、10倍薄い1.8μMレチノイン酸で幹細胞を数日間処理しているのである(写真右下)。
条件が異なるのに、全く同じ写真が使われている。従って、2010年の米国特許はデータねつ造ということになる。(写真出典:【主要情報源】②)
2012年、米国特許庁はヴァンノーニの特許を、科学的証拠が不十分という理由で、予備却下した。予備却下の場合、指摘に対して対応した書類を再提出すれば、考慮されるので、最終的な却下ではない。しかし、ヴァンノーニは再提出しなかったので、米国特許は成立していない。
●【論文数と撤回論文】
2015年8月7日、パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ダビデ・ヴァンノーニ(Davide Vannoni)の論文を「Davide Vannoni[Author]」で検索した。この検索方法だと、もしあれば、2002年以降の論文がヒットするが、論文は1つもヒットしなかった。
経済学の教授なので、パブメド論文がヒットしないのは不思議ではない。とはいえ、幹細胞を神経細胞に分化させるスタミナ療法(stamina therapy)を実施しているとなると、論文(共著でも)が1つもないのは、いかにもインチキ療法だという強い傍証になる。
「Google Scholar」で検索すると、466件がヒットした。(Davide Vannoni – Google Scholar)
最近の論文をみると、2015年に、「The cost of corruption in the Italian solid waste industry(邦訳 イタリアの固形廃棄物産業の腐敗のコスト)」という経済学そのものの論文を書いている。
●【白楽の感想】
《1》イタリアらしい?
イタリアをステレオタイプの偏見で見て悪いけど、ヴァンノーニ事件は、なんか、イタリアらしい事件だ。
- 経済学部の教授が幹細胞を神経細胞に分化させることで神経疾患を治療するスタミナ療法(stamina therapy)事業を、ベンチャー起業家として創始した。
- 科学論文を出版せず、テレビ番組で宣伝し、多数の支持者を獲得した。
- 熱狂的な支持者は数百人デモ集会に参加し、臨床試験希望者は、全国で約9千人が登録した。
- 医師ではないので、美容サロンで施術した。
- 治療費ではなく寄付(1人、2万~5万ユーロ:約200万~500万円)をもらった。
- イタリア政府はスタミナ療法に対して約3億円も研究助成し、医療保険も支払った。
どれも、悪い冗談にしか思えない。
唖然とするが、他国だと、笑い話である。
ただ、振り返って、日本は正常かと問われると、面目ない。
- 数回の電話で、知らない人に何百万円も簡単にあげてしまう人が後を絶たない(オレオレ詐欺)。警察は防止のための有効な処置をとらない。
- インチキ美容術(コラーゲン、ヒアルロン酸を飲む。痩せる)はかなり繁盛していて、これも取り締まらない。
- 複数の患者を連続して死なせた群馬大学病院、神戸国際フロンティアメディカルセンター、千葉県がんセンターの医師達が処罰されない。
イタリアを笑えない。
《2》ダマされるメカニズム
インチキ療法にダマされる人はどこの国にも一定の割合でいる。どうしてなんだろう?
- テレビ、新聞、警察官などいわゆる権威にダマされる。ここでは、テレビ、新聞、科学、大学教授、医師にダマされた。
- 一般に、高価な服、持ち物(時計、バッグ)、立派な邸宅・オフィスなど金にもダマされる。
さて、人間はどういう人間を頭から信用してしまうのだろうか?
日本はだまされ易い国民文化である。
《3》イタリアらしい? その2
ヴァンノーニ事件で登場してくる以下も、なんか、イタリアらしい映画事件だ。
- 裸体の若いママがローマ市内を抗議デモ
- イケメンの小児科医マリノ・アンドリーナが最後には没落
- 美人すぎる44歳のベアトリス・ロレンチンが保健大臣
- 愛らしいオバチャマが実は、幹細胞研究の権威のエレナ・カッターネオ教授でしかも終身上院議員で水戸黄門
メディアは大騒ぎし、車椅子の患者と可愛い子役患者も登場。パパラッチが事件を追う。
あと、必要なのは殺人事件とセックスシーンぐらいだが、マフィアが絡んでいてもいい。そして、以下の写真のように、ヴァンノーニは主演男優というより監督タイプだな。
●【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Stamina therapy – Wikipedia, the free encyclopedia
② 2013年7月2日、アリソン・アボット(Alison Abbott)の「ネイチャー」記事:Italian stem-cell trial based on flawed data : Nature News & Comment
③ 2013年3月26日、アリソン・アボット(Alison Abbott)の「ネイチャー」記事:Stem-cell ruling riles researchers : Nature News & Comment
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。