2026年2月10日(火)掲載
2人は多数論文撤回者で「撤回論文数」世界ランキング入りした。それで記事にした。2025年、ジャワハルラール・ネルー医科大学の学部生であるプラサドの37論文が撤回され、第25位にランクされた。撤回論文は全部、シュプリンガー・ネイチャー社(Springer Nature)の学術誌「Neurosurg Rev.」論文で、撤回理由は生成AIで作成されたためだ。大学からの処分は不明。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
プラサドと人間関係はないジェヤチャンドランもプラサドと同じ学術誌「Neurosurg Rev.」に掲載の35論文が同じ理由で撤回され、第27位(番号は28番)にランクされた。所属するサヴェータ大学からの処分は不明。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
2人の共著論文はなく、別事件だが、ほぼ同じストーリーなので、一緒の記事にした。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】
ロシャン・プラサド(Roshan Prasad、ORCID iD:http://orcid.org/0000-0002-1958-2026、写真出典)は、インドのジャワハルラール・ネルー医科大学(Jawaharlal Nehru Medical College)・学部生で、専門は医学である。
2022年までの論文出版は0報だったが、2023年に38報、2024年に55報、2025年に41報の論文を出版した。学部生ということもあり、この急激な多量出版は異常である。
2024年8~10月にシュプリンガー・ネイチャー社(Springer Nature)の学術誌「Neurosurg Rev.」に掲載した37論文が、生成AIで作成された論文だったという理由で、2025年1~2月(25歳?)に撤回された。
37撤回論文で、「撤回論文数」世界ランキングの第25位にランクされた。 → 「撤回論文数」世界ランキング | 白楽の研究者倫理
大学から処分されたかどうか不明である。
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シバカマヴァッリ・ジェヤチャンドラン(Sivakamavalli Jeyachandran、写真出典)(インド)は、サヴェータ大学(Saveetha University)・準教授で専門は水圏生物学である。
なお、サヴェータ大学(Saveetha University)はサヴェータ医学技術科学大学(Saveetha Institute of Medical and Technical Sciences (SIMATS))の略称で、9学部がある。各学部はカレッジ(College)名が付いているので、単独で大学扱いになる。例えば、ジェヤチャンドラン・準教授はサヴェータ歯科大学・病院(Saveetha Dental College and Hospital)に所属している。
本記事では、サヴェータ大学とサヴェータ医学技術科学大学の両方を使うが、同じ大学である。
ジェヤチャンドランは、2023年に11報、2024年と2025年に各46報の論文を出版し、それまでの論文数は少ないことから考えて、急激な多量出版だった。
2024年9~10月に学術誌「Neurosurg Rev.」に掲載した35論文が、生成AIで作成された論文だったという理由で、2025年1~2月(39歳?)に撤回された。
35撤回論文で、「撤回論文数」世界ランキングの第27位(番号は28番)にランクされた。 → 「撤回論文数」世界ランキング | 白楽の研究者倫理
大学から処分されたかどうか不明である。
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プラサドとジェヤチャンドランは共著論文がなく、別大学に所属している。しかし、同じ時期、同じ学術誌「Neurosurg Rev.」に掲載の多数の論文が同じ理由で撤回され、両者とも「撤回論文数」世界ランキングにランクされたので、一緒の記事にした。
ジャワハルラール・ネルー医科大学(Jawaharlal Nehru Medical College)。写真出典
サヴェータ大学(Saveetha University)。写真出典
2人に共通の項目。共通ではない項目は打ち消し線を引いた。
- 国:インド
- 成長国:インド
医師免許(MD)取得:研究博士号(PhD)取得:男女:生年月日:現在の年齢: 歳?分野:- 不正論文発表:2023~2025年
ネカト行為時の地位:- 発覚年:2025年
発覚時地位:- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」、「Science」、「Science Chronicle」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌「Neurosurg Rev.」・編集部
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:調査していない、発表なし・メディア取材に非協力・隠蔽(✖)
- 不正:生成AI作成論文
- 不正論文数:2桁数
- 時期:研究キャリアの初期・中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分: なし
- 対処問題:大学怠慢
- 特徴:生成AI作成論文の撤回、「撤回論文数」世界ランク入り
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)両者合わせて2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
★ロシャン・プラサド(Roshan Prasad)
経歴はほとんど不明である。
- 生年月日:不明。仮に2000年1月1日生まれとする。2026年で26歳とした(キリがいいので)
- 20xx年(xx歳):インドのジャワハルラール・ネルー医科大学(Jawaharlal Nehru Medical College)・入学
- 2023~2025年(23~25歳?):この3年間に135論文を出版した
- 2024年8~10月(24歳?):この3か月に5か月後に撤回される37論文を出版した
- 2025年1~2月(25歳?):2024年8~10月出版の37論文が撤回された
★シバカマヴァッリ・ジェヤチャンドラン(Sivakamavalli Jeyachandran)
主な出典:Sivakamavalli Jeyachandran | LinkedIn
- 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2004年に大学・学部に入学した時を18歳とした
- 2004~2007年(18~21歳?):インドのハジー・カルタ・ロウザー大学(Hajee Karutha Rowther College)で学士号取得:生化学
- 2007~2009年(21~23歳?):インドのビショップ・ヒーバー大学(Bishop Heber College)で修士号取得:バイオテクノロジー
- 2009~2014年(23~28歳?):インドのアラガッパ大学(Alagappa University)で研究博士号(PhD)を取得:水圏生物工学
- 2020年7月~2022年12月(34~36歳?):ティルチラーパッリ・ナショナル大学(National College, Tiruchirappalli)・助教授、後に準教授
- 2023年1月(37歳?):サヴェータ大学(Saveetha Dental College)・準教授
- 2023~2025年(37~39歳?):この3年間に103論文を出版した
- 2024年9~10月(38歳?):この2か月に4か月後に撤回される35論文を出版した
- 2025年1~2月(39歳?):2024年9~10月出版の35論文が撤回された
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★ロシャン・プラサド(Roshan Prasad)の研究人生
ロシャン・プラサド(Roshan Prasad、写真出典)は、インドのジャワハルラール・ネルー医科大学(Jawaharlal Nehru Medical College)・学部生で、専門は医学である。 → Cureus
経歴はほとんどわからない。
医学部の学生と思われるが、それまで論文を出版していなかったのに、2023年に38報、2024年に55報、2025年に41報の論文を出版した。つまり、2023~2025年の3年間に135論文も出版した。
★シバカマヴァッリ・ジェヤチャンドラン(Sivakamavalli Jeyachandran)の研究人生
シバカマヴァッリ・ジェヤチャンドラン(Sivakamavalli Jeyachandran、写真出典)は、インドのサヴェータ大学(Saveetha University)・準教授で、専門は水圏生物学である。
経歴はほとんどわからない。
それまで毎年少数の論文を出版していが、2023年に11報、2024年と2025年に各46報の論文を出版した。それまでの論文数は少ないことから考えて、この3年間、急激に多量に出版した。
★学術誌「Neurosurgical Review(Neurosurg Rev.)」
2025年1~2月、不正発覚の経緯はわからないが、シュプリンガー・ネイチャー社(Springer Nature)が出版している学術誌「Neurosurgical Review(略はNeurosurg Rev.)」は掲載した129論文を撤回した。
129撤回論文のうち37論文が、インドのジャワハルラール・ネルー医科大学(Jawaharlal Nehru Medical College)のロシャン・プラサド(Roshan Prasad)の論文だった。
なお、129撤回論文のうち87論文はインドのチェンナイにあるサヴェータ医学技術科学大学(Saveetha Institute of Medical and Technical Sciences:SIMATS)の研究者が出版した論文だった。サヴェータ医学技術科学大学の87撤回論文のうち、35撤回論文はシバカマヴァッリ・ジェヤチャンドラン(Sivakamavalli Jeyachandran)の論文だった。
インド以外の国では、コンゴ民主共和国のベル工科大学キャンパス(Universite Technologique Bel Campus)のタンミ・ジャボ・エリック・アドリアン(Tangmi Djabo Eric Adrien、写真出典)の16論文が撤回された。
撤回公告の内容はどれも同じで、以下のようだ(例:撤回公告)。
出版社による調査の結果、この論文は生成AI(大規模言語モデル:LLM)で作った可能性が高く、当学術誌の編集方針に違反しているので、編集長権限で撤回した。
なお、著者のプラサドは問い合わせに対し、撤回の賛否を表明しなかった。他の著者は問い合わせに対し、返事をしてこなかった。
なお、学術誌「Neurosurgical Review」はインパクトファクタ―2.5で、シュプリンガー・ネイチャー社(Springer Nature)が出版している。

編集長は米国のオハイオ州立大学(The Ohio State University)のダニエル・プレヴェーデロ教授(Daniel M Prevedello、写真出典)である。
★ロシャン・プラサド(Roshan Prasad)
ロシャン・プラサド(Roshan Prasad)の撤回論文は37論文と多く、「撤回論文数」世界ランキングの第25位にランクされた。 → 「撤回論文数」世界ランキング | 白楽の研究者倫理
ジャワハルラール・ネルー医科大学はプラサドの研究不正の調査をしていない(と思う)。従って、プラサドは所属大学の処分を受けていない。
★シバカマヴァッリ・ジェヤチャンドラン(Sivakamavalli Jeyachandran)
シバカマヴァッリ・ジェヤチャンドラン(Sivakamavalli Jeyachandran)の撤回論文も35論文と多く、「撤回論文数」世界ランキングの第27位(番号は28番)にランクされた。 → 「撤回論文数」世界ランキング | 白楽の研究者倫理
サヴェータ大学はジェヤチャンドランの研究不正の調査をしていない(と思う)。従って、ジェヤチャンドランは所属大学からの処分を受けていない。
●【不正の具体例】
不正は、生成AI(大規模言語モデル:LLM)で作った論文だった。詳細は省略。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。
本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。
★パブメド(PubMed)
【ロシャン・プラサド(Roshan Prasad)】
2026年2月9日現在、パブメド(PubMed)で、ロシャン・プラサド(Roshan Prasad)の論文を「Roshan Prasad[Author]」で検索した。すると、2022~2025年の3年間の135論文がヒットした。
2023年に38報、2024年に55報、2025年に41報の論文を出版し、それまでの論文数はゼロだったことから考えて、急に異常なほど多くの論文を出版した。
2026年2月9日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、37論文が撤回されていた。
37撤回論文は全部、学術誌「Neurosurg Rev.」に2024年8~10月に掲載した論文で、2025年1~2月に撤回された。
【シバカマヴァッリ・ジェヤチャンドラン(Sivakamavalli Jeyachandran)】
2026年2月9日現在、パブメド(PubMed)で、シバカマヴァッリ・ジェヤチャンドラン(Sivakamavalli Jeyachandran)の論文を「Sivakamavalli Jeyachandran[Author]」で検索した。すると、2013~2025年の13年間の130論文がヒットした。
2023年に11報、2024年と2025年に各46報の論文を出版し、それまでの論文数は少ないことから考えて、急に異常に多く出版した。
2026年2月9日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、35論文が撤回されていた。
35撤回論文は全部、学術誌「Neurosurg Rev.」に2024年9~10月に掲載した論文で、2025年1~2月に撤回された。
★撤回監視データベース
【ロシャン・プラサド(Roshan Prasad)】
2026年2月9日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでロシャン・プラサド(Roshan Prasad)を「Prasad, Roshan」で検索すると、37論文が撤回されていた。
【シバカマヴァッリ・ジェヤチャンドラン(Sivakamavalli Jeyachandran)】
2026年2月9日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでシバカマヴァッリ・ジェヤチャンドラン(Sivakamavalli Jeyachandran)を「Sivakamavalli Jeyachandran」で検索すると、35論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
【ロシャン・プラサド(Roshan Prasad)】
2026年2月9日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ロシャン・プラサド(Roshan Prasad)の論文のコメントを「authors:”Roshan Prasad “」で検索すると、30論文にコメントがあった。
【シバカマヴァッリ・ジェヤチャンドラン(Sivakamavalli Jeyachandran)】
2026年2月9日現在、「パブピア(PubPeer)」では、シバカマヴァッリ・ジェヤチャンドラン(Sivakamavalli Jeyachandran)の論文のコメントを「authors:”Sivakamavalli Jeyachandran”」で検索すると、35論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》論文撤回は新しい時代に入った
2025年、生成AI(大規模言語モデル:LLM)で作った多量の論文が撤回され、「撤回論文数」の世界ランク入りした。 → 「撤回論文数」世界ランキング | 白楽の研究者倫理
新しい時代の到来である。
ここ20年程の研究不正では、不正加工した電機泳動バンド、顕微鏡写真など、画像データを不正に加工した論文の撤回が多かった。
これからも画像データの不正加工は減らないだろうが、ここ数年、生成AIによる不正論文が学術論文界に浸透し、それに対抗する攻防戦が始まったと言えるだろう。
論文は生成AIで簡単に多量に作れるので、今後、「撤回論文数」世界ランキングの上位30位以内に多数占めるようになるかもしれない。
一方、生成AI製の不正論文も巧妙に作成されるようになると、摘発できず、大部分は撤回できないだろう。この場合、学術論文界は広範に汚染され、学術研究の信頼は失われていく流れになる。
《2》研究不正を防ぐ方法
本事件の研究不正を防ぐには、どうすればよかったか?
ロシャン・プラサド(Roshan Prasad)やシバカマヴァッリ・ジェヤチャンドラン(Sivakamavalli Jeyachandran)の研究不正を防ぐには、どうすればよかったか?
また、今後、同じような研究不正を起こさせないためにはどうすべきか?
研究不正を防ぐ基本は「ネカト許さない文化」の構築で、具体策は、①家庭での道徳教育と小中高大院での(学術)規範教育の徹底、②規範意識の高い人だけを研究者に採用・昇進するシステム作り、③ネカト監視・通報の徹底(通報者保護)、④ネカトを刑事犯化へと法改正、⑤学術システムの改革、であるが、根本的解決の1つは、⑥現行の大学が調査をやめ、麻薬取締部などの捜査権を持つ格上機関がネカト調査すべきだと思う。
プラサドやジェヤチャンドランは生成AI製の論文を投稿してはいけないことを知っていたはずだ。しかし、やってみると簡単に論文出版ができ、面白くかつ得をしたので、続けたのだろう。
本人が不正と知った上で行なう不正の防止策は、厳罰で対処するしかない。それで、「④ネカトを刑事犯化へと法改正」し、厳罰化することだ。
また、現行の学術出版システムでは不正と見抜けない生成AI製の論文が増えていくだろう。そうなると、学術成果の発表方法を変える「⑤学術システムの改革」も必要となる。
例えば、チャバ・サボー(Csaba Szabo)が提唱するように、学術論文の営利出版を廃止し、研究助成機関が学雑誌を出版するなどだ → 7-188 ◎学術論文の営利出版を廃止せよ:サボーのフリブール宣言 | 白楽の研究者倫理
なお、一般社会では、「女性に年齢、男性に給料を聞いてはいけない」というマナーがある。
人種差別的なので、言いたくなかったけど、このジョーク版「女性に年齢、男性に給料、インド人研究者に研究倫理、を聞いてはいけない」を誰かが書いていた(原典はインド人ではなく中国人)。
「日本人研究者に研究倫理、を聞いてはいけない」と、ならないことを願う。

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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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●9.【主要情報源】
① 2024年12月17日のフレデリック・ジョエルヴィング(Frederik Joelving)記者と「撤回監視(Retraction Watch)」の「Science」記事:Shoddy commentaries—a quick and dirty route to higher impact numbers—are on the rise | Science | AAAS
② 2025年2月10日のエイブリー・オラル(Avery Orrall)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:As Springer Nature journal clears AI papers, one university’s retractions rise drastically – Retraction Watch
③ 2025年5月27日のプラサド・ラヴィンドラナート(Prasad Ravindranath)記者の「Science Chronicle」記事:129 papers retracted, and recurrent use of a single sentence in innumerable papers by Indian researchers – Science Chronicle