マリアン・ヴァンデルカ(Marián Vanderka)(スロヴァキア)

2018年11月4日掲載

ワンポイント:ヴァンデルカは、元オリンピック選手で、コメンスキー大学(Comenius University)・体育スポーツ学部(Faculty of Physical Education and Sports)・学部長になった。2012年(40歳)、他の3人と共著で、教科書を出版したが、2016年(43歳)、この教科書が盗用であると被盗用者(故人)の妻に訴えられた。裁判でクロ、大学の結論もクロで、書籍は回収となり、補償金として1万ユーロ(約120万円)を被盗用者(故人)の妻に支払った。しかし、大学の処分がなかったどころか、2年後の2018年、アンドレイ・キスカ大統領から教授(スロヴァキアでは爵位のようなもの)の称号を授与された。国民の損害額(推定)は1億3400万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

マリアン・ヴァンデルカ(Marián Vanderka、写真出典)は、スロヴァキアの元オリンピック選手で、コメンスキー大学(Comenius University)・体育スポーツ学部(Faculty of Physical Education and Sports)・学部長、専門は運動生理学だった。

2012年(40歳)、ヴァンデルカ学部長は他の3人と共著で、教科書『The Theory of Sport and the Didactics of Sport Training』(日本語訳:スポーツ理論とスポーツトレーニングの教訓)を出版した。

2016年(43歳)、上記の著書が同僚の故・ロマン・モラヴェッツの2007年の著書からの盗用だと、モラヴェッツ夫人から訴えられた。

2016年2月(43歳)、ブラチスラバ地方裁判所は、盗用と判定した。ヴァンデルカ学部長の著書は回収され、著者たちは補償金として1万ユーロ(約120万円)をモラヴェッツ夫人に支払った。

2017年9月(45歳)、コメンスキー大学・調査委員会も、ヴァンデルカの教科書を盗用だと結論した。

しかし、ヴァンデルカ学部長を含め4人の盗用者はコメンスキー大学から何ら処分を受けなかった。

そして、2018年9月19日(46歳)、アンドレイ・キスカ大統領(Andrej Kiska)は、55人の新しい教授を任命したが、ヴァンデルカ学部長も含まれれていた。なお、スロヴァキアの教授は大統領によって任命され、英国、米国などの教授とは異なり、職位というより称号で、ステータスのシンボルだそうだ。

コメンスキー大学(Comenius University)。写真出典 2006年白楽撮影

コメンスキー大学(Comenius University)の建物内の廊下。写真出典 2006年白楽撮影

  • 国:スロヴァキア
  • 成長国:スロヴァキア
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:あり。xx大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1972年4月18日
  • 現在の年齢:51 歳
  • 分野:運動生理学
  • 最初の不正論文発表:2012年(40歳)
  • 発覚年:2016年(44歳)
  • 発覚時地位:コメンスキー大学・体育スポーツ学部(Faculty of Physical Education and Sports)・学部長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は被盗用者・故・ロマン・モラヴェッツ(Roman Moravec)の妻・ジジナ・モラヴォヴァ(Jiřina Moravcová)で、コメンスキー大学に訴えた
  • ステップ2(メディア):スロヴァキアの新聞「Spectator」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①コメンスキー大学・調査委員会。②裁判所。
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)。
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:著書の一部
  • 盗用ページ率:不明
  • 盗用文字率:不明
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億3400万円。内訳 ↓

  • ④調査経費。第一次追及者の調査費用は100万円。大学・研究機関の調査費用は1件1,200万円、学術出版局は1つの学術誌あたり100万円。小計で1,400万円
  • ⑤裁判経費は2千万円。
  • ⑧研究者の時間の無駄と意欲削減+国民の学術界への不信感の増大は1億円。

●2.【経歴と経過】

  • 1972年4月18日:スロヴァキアで生まれる
  • 2000年(28歳):夏のオリンピックで200メートル走出場
  • 2002年(29歳):冬のオリンピックで男子4人乗りボブスレー出場
  • xxxx年(xx歳):コメンスキー大学(Comenius University)・体育スポーツ学部(Faculty of Physical Education and Sports)・学部長
  • 2016年(44歳):盗用が発覚
  • 2017年(45歳):老人を暴行
  • 2018年(46歳):教授の称号を授与される

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
インタビュー動画:「体育スポーツ学部、マリアン・ヴァンデルカにインタビュー(Rozhovor s Marianom Vanderkom, dekanom FTVŠ o telesnej výchove a telocvikároch) – YouTube」(スロヴァキア語)21分57秒。
telocvikariが2017/02/05 に公開

【動画2】
講演動画:「マリアン・ヴァンデルカ:能力の開発(Marián Vanderka: Rozvoj silových schopností) – YouTube」(スロヴァキア語)54分08秒。
Športujemeが2015/10/13 に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★盗用

2012年(40歳)、マリアン・ヴァンデルカ(Marián Vanderka)はトーマス・カムンプミラー(Tomáš Kampmiller)、エウゲン・ラッツ(Eugen Lacz)、パブロ・ペラセク(Pavlo Peracek)の3人と共著で、教科書『The Theory of Sport and the Didactics of Sport Training』(日本語訳:スポーツ理論とスポーツトレーニングの教訓)を出版した。

被盗用者のロマン・モラヴェッツ(Roman Moravec)は、スロヴァキアの走高跳の選手だったが、2009年11月2日に59歳で亡くなった。亡くなる前の2007年に著書『Theory and Sports Dacticic』(日本語訳:理論とスポーツ)を出版していた。

2016年(43歳)、モラヴェッツの未亡人ジジナ・モラヴォヴァ(Jiřina Moravcová)がコメンスキー大学に訴えたことで、ヴァンデルカらの著書は同僚の故・ロマン・モラヴェッツの2007年の著書から盗用していたことが発覚した。
→ 2017年10月5日記事:Budúcim telocvikárom či olympionikom na UK šéfuje dekan, ktorý odpísal učebnicu – Denník N

コメンスキー大学(Comenius University)のカロール・ミチエタ学長(Karol Mičieta、写真)は、調査委員会を設置した。

2016年2月(43歳)、ブラチスラバ地方裁判所は、コメンスキー大学・体育スポーツ学部の著作権侵害(盗用)事件を扱った。

裁判官は、マリアン・ヴァンデルカ(Marián Vanderka)学部長に証言を求めた。すると、ヴァンデルカは、盗用したのは自分ではなく、同僚の一人だと証言した。

ヴァンデルカは、「大学の倫理規定に沿い、大学の名誉を大幅におとしめた者を雇用し続けることは不可能です」と述べた。ただ、盗用した同僚が解雇された、という記述がない。流れとして解雇されただろうと白楽は思った。しかし、2017年9月26日付けの新聞記事では誰も処分を受けなかったとある。
→ 2017年9月26日記事:Dekana FTVŠ Vanderku usvedčili z plagiátorstva. Teraz ho navrhujú za profesora – domov.sme.sk

2017年9月(45歳)、コメンスキー大学・調査委員会も、ヴァンデルカの教科書を盗用だと結論した。教科書は販売中止となり書籍は回収され、著者たちは未亡人に補償金として1万ユーロ(約120万円)を支払った。

★暴行事件

ヴァンデルカは盗用事件とは別に暴行事件も起こしていた。

2017年11月(45歳)、盗用事件の翌年、マリアン・ヴァンデルカ(Marián Vanderka)は駐車場で車を停めようとしたとき、年金受給者(老人)がどかなかったので、年金受給者を殴り倒した。

「トイレに行きたいと思って駐車しようとしたのですが、老人は、私の車の前に止まっていたのです。どくように声をかけると、老人はステッキで私の車を叩き始めました」とヴァンデルカは説明している。

など、ヴァンデルカは最初、「老人を押しただけです」と言っていた。

しかし、実は、その場面が写真に撮られていた。

新聞記者が写真を示すと、ヴァンデルカは話を変えた。また、老人は11歳の孫と一緒で、孫が一部始終を見ていて、恐怖におののきながら事実を母親(老人の娘)に話したそうだ。ヴァンデルカはオリンピック選手だったので身長が2メートルもある大男で、孫はとても怖かったそうだ。

事実は、ヴァンデルカに非のある暴行事件だった。

警察は事件を軽微な犯罪としたが、もし、ヴァンデルカが有罪となれば罰金は99ユーロ(約1万2千円)になる。

★スロヴァキアの教授

スロヴァキアの教授は大統領によって任命される。英国、米国などの教授とは異なり、職位というよりステータスのシンボルの称号だ。教授の称号は生涯に及び、いわば、爵位のようなものらしい。スロヴァキアの法律は、教授はその分野の研究と教育の責任者であると定めている。

スロバキアの法律は、教授の称号を持つ人の道徳(モラル)について何も規定していない。ただ、最近、教授を任命したアンドレイ・キスカ大統領は、教授の称号を持つ人はそれなりの社会的責任を負うと述べている。

2016年11月(44歳)、学術議員は、ヴァンデルカと彼の同僚が盗用をしたが、ヴァンデルカが主犯だったのではない。また、盗用と証明されたが、ヴァンデルカが辞職する理由は見あたらなかった。それで、ヴァンデルカを教授に選出する検討を始めた。

ヴァンデルカの教授称号の授与はカロール・ミチエタ学長が承認し、続いてマルティナ・ルビョヴァ教育大臣(Martina Lubyová)が承認し、最後にキスカ大統領が2018年9月19日にヴァンデルカを教授に任命したのである。これら大学、教育省、大統領府のすべてが、ヴァンデルカは教授称号を受けるすべての公式要件を満たしているとした。

2018年9月19日(46歳)、アンドレイ・キスカ大統領(Andrej Kiska)は、55人の新しい教授を任命したが、マリアン・ヴァンデルカ(Marián Vanderka)もコメンスキー大学(Comenius University)・体育スポーツ学部(Faculty of Physical Education and Sports)・教授として任命された。

アンドレイ・キスカ大統領(右)が55人の新教授を任命。写真

マリアン・ヴァンデルカ(Marián Vanderka)。https://spectator.sme.sk/c/20922177/rector-minister-president-why-nobody-halted-the-plagiarists-appointment.html

【盗用の具体例】

不明。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2018年11月3日現在、パブメド(PubMed)で、マリアン・ヴァンデルカ(Marián Vanderka)の論文を「Marián Vanderka [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2016~2018年の3年間の3論文がヒットした。

「Marián V[Author]」で検索すると、1986~2018年の33年間の59論文がヒットした。しかし、本記事のマリアン・ヴァンデルカ(Marián Vanderka)以外の論文が多いと思われる。

それで、所属をコメンスキー大学(Comenius University)に絞って「(Marián V[Author]) AND Comenius University[Affiliation]」で検索すると、2016年の1論文がヒットした。

所属をスロヴァキア(Slovakia)に絞った「(Marián V[Author]) AND Slovakia[Affiliation]」で検索すると、上記と同じ2016年の1論文がヒットした。

2018年11月3日現在、「Marián V[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

省略。

●7.【白楽の感想】

《1》人事

ヴァンデルカ事件のポイントは盗用そのものではない。

つい2年前に盗用が発覚し、その後、暴行事件を起こした人物を、どうして教授に任命したのか?

スロヴァキアの新聞「Spectator」も記事でそう糾弾している。

スロヴァキアの教授は職位というより称号だとある。だから無理して授与する必要はない。専門家としてどれだけ優れていても、人物が高潔でなければならないハズだ。

盗用者に教授の称号を与えると、盗用を肯定することに・・・、イヤイヤ、肯定はしていないだろうが、盗用がバレても処罰を受けないと社会や学術界に伝えていることになる。このメッセージは社会や学術界の人心を腐らせる。害悪である。

しかし、日本でも多いですね。明らかに過去に問題のあった人物を重用する人事が。2018年10月2日発足の第4次安倍内閣に伴う自民党役員人事はどうなっているんでしょう。愕然としました。

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コメンスキー大学(Comenius University)を訪問した時、大学食堂がみつからず、ランチは街の市場の食堂で食べた。スープが独特の美味しさでした。写真出典 2006年白楽撮影

●8.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Marián Vanderka – Wikipedia
② 2018年9月19日の「Spectator」記事(閲覧一部無料):A plagiarist was appointed professor – spectator.sme.sk
② 2018年9月25日の「Spectator」記事(閲覧一部無料):Rector, minister, president. Why nobody halted the plagiarists’ appointment? – spectator.sme.sk
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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